ID:c1MEsGkX氏:しゃっくり

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 とある日の朝。登校してきた泉こなたは、前を歩く友人の双子、柊かがみとつかさを見つけ声をかけた。 
「かがみとつかさー、おはよー」 
「あ、おはよう、こなちゃん」 
「…ひっく…こなた、おはひっくよう」 
 振り返りながら返事をした二人。そのかがみの方に、こなたは眉間にしわを寄せて、首をかしげた。 
「どしたのかがみ…しゃっくり?」 
「そうなんだよ。なんだか、朝から止まらないらしくて…」 
 つかさがこなたに答える間も、かがみは定期的にしゃっくりを繰り返していた。 
「なんか、かがみのしゃっくりって上半身が大きく動くね。見てておもしろい」 
「大変なんだからひっく。笑い事じゃないわひっく」 
 しゃっくり交じりの言葉が恥ずかしいのか、かがみは不機嫌そうな顔をしてこなたとつかさより前を歩き出した。 
 定期的に揺れるその背中を見ながら、こなたは今日一日どうすべきかを思い、ニヤリと唇の端を吊り上げる。 
「…こなちゃん。悪い顔になってるよ…」 
 それを見たつかさが、不安そうにつぶやいた。 


- しゃっくり - 


「と、言うわけでだね。かがみのしゃっくりを止めるためにも、みんなで驚かそうと思うわけだよ」 
 ホールルーム前の朝の教室。こなたは一緒に入ってきたつかさと、すでに教室にいた高良みゆきの二人にそう提案した。 
「しゃっくりですか。確かに止まらないとなると、大変ですね」 
 みゆきはこなたの言葉に頷くが、すぐに少し困った顔をして首をかしげた。 
「でも、脅かすというのはどうでしょうか?しゃっくりと止める方法としては、あまり効果が望めないと聞きますが…」 
「みゆきさん」 
「はい?」 
「効果があるかどうかじゃない。わたしが楽しめるかどうかだよ」 
「そ、そうですか…」 
 ビシッと親指を立てて言い切るこなたに、みゆきは思わず冷や汗をたらしていた。 
「わ、わたしは見てるだけでいいかな?驚かすとか、自信ないし…」 
 つかさが遠慮がちに手を振りながらそう言うと、こなたはひどく不満げな顔をした。 
「なにいってるんだよ。つかさはトップバッターなんだからね」 
「あ、もうこなちゃんの中では参加決定してるんだ…っていうか、順番も決まってるんだ…」 
 つかさがどこか諦めたように呟くと、みゆきがその隣でため息を吐いた。 
「多分、二番手はわたしかと…」 
「そうだね。こなちゃんは、真打ちとかやりたがりそうだもんね…」 
 そして、二人そろってため息を吐いた。 


 一時間目の授業が終わった休み時間。つかさは廊下の角に身を潜めていた。てっとり早く普通に驚かせようとしているのだ。 
 教室移動があるため、かがみは必ずここを通るはずだ。つかさは角から顔を出し、廊下の先を見た。そして、かがみがこちらに向かってきてるのを見つけ、再び角に身を隠す。 
 つかさは近づいてくる足音に耳を澄ませた。急いでいるのか、足音の間隔が短い。十分に近づいてくるころを見計らい、つかさは角を飛び出した。 
「わっ!!」 
「ひゃあっ!?」 
 かがみにしては、可愛らしい悲鳴とガシャンッと何かが床に落ちる音。 
「あ、あれ…?」 
 目の前にあるはずの、かがみの顔がない。いや、視線の少し下に髪を左右でふたくくりにした頭が見えた。しかし、それは屈んでいるわけでなく、普通にそういう背の高さであったわけで、しかもかがみとは全然違う見知った顔だった。 
「つ、つつつかさ先輩…い、一体なにを…?」 
 その少女、小早川ゆたかが怯えた目でつかさを見上げる。 
「え、えーっと…」 
 つかさは言い訳を考えるより、先ほどの音が気になって床を見た。そこに落ちていたのは、見事に上下がさかさまになっている弁当箱。 
「こ、こなたお姉ちゃんがお弁当忘れてたから、も、もってきたんですけど…その…えと…」 
 ゆたかが見る見る涙目になっていく。 
「…ごめんなさい」 
 つかさは思わず土下座で謝っていた。そして、二人に気がつかなかったのか、その横をかがみがしゃっくりをしながら通り過ぎていった。 


「つかさは、失敗っと」 
「いたたたっ!痛い!痛いよこなちゃん!ごめんなさーい!」 
 つかさのこめかみを拳でグリグリしながら、こなたはみゆきの方を見た。 
「期待してるよ、みゆきさん」 
「あ、あまり期待しないでください…あと、つかささんをそろそろ解放してあげた方が…」 
 自信なさ気にそう言うみゆきは、自分の成否よりもつかさの安否のほうが心配になっていた。 


 二時間目が終了した後の休み時間、みゆきは先程のつかさと同じ場所に待機していた。 
 移動先の教室から、かがみが戻ってきたのを確認すると、みゆきはつかさと違いかがみの前に姿を見せた。 
「かがみさん。少し、よろしいでしょうか?」 
「ん?ひっくみゆき?どうしたの?ひっく」 
 かがみが目の前に立つみゆきに、しゃっくり交じりにそう聞くと、みゆきは目をつぶり呼吸を整えてから、後ろ手に隠していたものをかがみに差し出した。 
「すみませんが、この風船を持っていただけますか?」 
「え?あ、うん…ひっく」 
 かがみは思わず受け取ってしまった風船を眺めた。かなり膨らんでおり、自分の頭より大きい。かがみはなんでこんなものをと、当然の疑問に思い至り、それを聞こうとみゆきの方を見た。 
「あれ?た、たしかここに…」 
 当のみゆきはあせった様子で、スカートのポケットを探っていた。 
「どうしたの?ひっく」 
「え、えっとシャープペンシルを確かポケットに入れたはずなんですが…落としたのでしょうか」 
 体のあちこちを、困りきった顔でまさぐるみゆきを見て、かがみはため息としゃっくりを同時に出した。 
「シャーペンならひっく、わたしの出すわよ。ひっく、ちょっと持ってて」 
「あ、はい、すいません。お手数かけます」 
 かがみはみゆきに風船を渡すと、持っていた筆箱からシャープペンシルを取り出し、みゆきの持つ風船に突き立てた。 
「っっっっっっっ!?」 
 派手な音を立てて風船が割れ、みゆきは声にならない悲鳴を上げて尻餅をついた。 
「なななななにするんですか、かがみさん!」 
 抗議するみゆきに、かがみは眉間にしわを寄せた。 
「なにって、ひっく割りたいんじゃないの?風船にひっく、シャーペンだし」 
「そ、そうなんですけど…こうじゃないんです…」 
 完全に涙目になっているみゆきに、かがみはよくわからないといった風に、首を傾げて見せた。 
「えーっと、ひっく。用事終わったんなら、わたしひっく教室に戻るわよ」 
 そう言い残して歩き出すかがみ。その手をみゆきが掴んだ。 
「あ、あの…教室まで連れて行ってください…腰が…抜けてしまいまして…」 


「みゆきさんも、失敗っと」 
「…まだ、心臓がドキドキいってます…」 
「さすがはかがみ。なかなか手ごわいね」 
 こなたはしばらく、腕を組み目を瞑って考えていたが、ゆっくりと目を開けグッと拳を握った。 
「よし、ここはいよいよ真打の登場だよ。かがみに、目にものを見せてやろうではないか」 
 不敵な笑みを浮かべるこなたに、つかさとみゆきは不安げな視線を向けていた。 
「大丈夫…なのかな?」 
「泉さんのことですから、無体な真似はしないとは思いますが…」 


 三時間目が終了した後の休み時間。 
「へろー。かがみいるかーい?」 
 軽い調子で挨拶しながら教室に入ってきたこなたを見て、かがみが怪訝そうな顔をした。 
「何かひっく…用なの?」 
「うん、ちょっとかがみに言いたいことあってね」 
 こなたはかがみのそばまで来ると、その手を自分の両手で包み込むように握った。 
「な、なに?ひっく…どうしたの?」 
「聞いて。とっても大切な話なんだよ」 
 滅多に見ないこなたの真剣な表情に、かがみは息を呑んで表情を引き締めた。 
「わたし…わたしね…かがみの事、愛してるの!」 
 教室の中が一瞬で静まり返る。その静寂の中で、かがみがしゃっくりをしながらニコッと微笑んだ。 
「ありがとうひっく…わたしもよ、こなた…ひっく」 
 さらに深い静寂が教室を支配する。かがみのしゃっくりだけが響く中で、こなたはあんぐりと口をあけたまま、錆び付いた機械人形のような動作で教室から出て行った。 
「…ひっく…冗談よ」 
 こなたが出て行ってしばらく後に、かがみが呟いたその一言で、教室は元のざわめきを取り戻した。 


 昼休み。ひっくり返って中身がぐちゃぐちゃになった弁当を、こなたは沈んだ表情で突いていた。 
「…予想外だった…まさがかがみがわたしを…」 
 ぶつぶつと呟くこなたを、つかさとみゆきが心配そうに見ている。 
「こなちゃん、なにやったんだろ?」 
「さあ…その事は分かりかねますが、とりあえず失敗したと見ていいのでは…」 
 みゆきの言った失敗という言葉に、こなたがピクリと反応した。 
「そう…失敗だったよ。今日のかがみは非常に手ごわい。悔しいけど、それは認めよう」 
 そして、こなたは勢いよく立ち上がり、拳を握り締めた。 
「ここはアレしかない!マッシュ!オルテガ!ジェットストリームアタックだ!」 
 こなたの叫びに、教室が静まり返る。その中で、つかさとみゆきが同時に首をかしげた。 
「えーっと…誰さん?」 
「ジェット…えっと…何でしょうか?」 
「もー、二人ともノリ悪いなー」 
 不満そうに口を尖らせながら、こなたは腕を組んで椅子に座った。 
「わ、分からないのに、乗れないよこなちゃん…」 
「ま、ようするに三人で力合わせてやろうってことだよ」 
 こなたの言葉に、つかさがホッと息をついた。 
「なんだー、そういうことかー…で、具体的にどうするの?」 
「はっはっは。お任せあれ、玄徳殿。この孔明、すでに策を用意しております」 
 大仰な身振りを交えてそう言うこなたに、つかさはもう一度首を傾げて見せた。 
「えっと…誰さん?」 
 そのつかさの隣で、みゆきがなんとも言えない表情をしていた。 


「さて…ひっく…帰るかなっと」 
 放課後。教科書やらノートやらを鞄に詰め込んだかがみは、こなた達を誘って帰宅するために席を立った。 
「かがみさん!大変です!」 
 そこへ血相を変えたみゆきが、教室に飛び込んできた。 
「みゆき?…ひっく。今度はなに?」 
「た、大変なんです!こんなところでのんびりしてる場合じゃありません!」 
 まくし立ててくるみゆきに、かがみは苦笑いを返した。 
「だ、だからなに?ひっくて…大変ってだけじゃ分からないって…ひっく」 
「つ、つかささんが…つかささんが複数の男子に体育倉庫に連れ込まれて…!」 
 そうみゆきが言った瞬間、かがみは残像を残すほどの勢いで教室を飛び出していた。 


「つかさーっ!!」 
 妹の名を叫びながら、かがみは体育倉庫に飛び込んだ。 
「…お、お姉ちゃん…うぅ…」 
 そこにいたのは、乱れた服装で涙目のつかさ。 
「誰!?誰がこんなことを!?」 
 かがみはつかさに駆け寄り、その服装を整えてあげた。 
「…こなちゃんが…むりやり…」 
 つかさの言葉に、かgまいの手が止まった。 
「…こなたが?」 
 どういうことだろう。確かみゆきは複数の男子生徒だと言った。必死で頭を働かせ、かがみは一つの結論に至った。 
「こなたが、男子に頼んでつかさを?…そんな…」 
「あ、あの…お姉ちゃん…?」 
 かがみの様子がおかしい事に気がついたつかさが、恐る恐る声をかけた。 
「…こなたが…こなたがこんなことを…こなたが…」 
 つかさは、かがみの背後に憤怒の表情の仁王像が見えた気がした。 
「お。お姉ちゃん!ドッキリ!これドッキリだから!」 
 姉のただならぬ気配を察して、つかさが慌ててネタばらしをする。 
「…ドッキリ?」 
 つかさの言葉に、かがみがキョトンとした顔になる。 
「そ、そう、ドッキリ…お姉ちゃんのしゃっくり治そうって、みんなで驚かそうって…」 
「…で、当のこなたは?」 
「え、うん…こなちゃん、バラしちゃったからもう出てきていいよ」 
 つかさが体育倉庫の奥にそう呼びかける。 
「………あれ?」 
 が、奥からは誰も出てこなかった。 
「泉さんなら、先ほどのかがみさんの仁王像を見て、凄い勢いで逃げていきました…」 
 代わりに、入り口のほうからみゆきが困ったふうにそう言いながら倉庫内に入ってきた。 
「えー、こなちゃんひどいよ…ってか、こなちゃんもゆきちゃんもアレ見えたんだ…」 
 二人の会話を聞きながら、かがみは大きくため息をついた。 
「ってことは、今日のあんたらの変な行動は、全部わたしのしゃっくりを止めるためだったってこと?」 
「はい、そうなりますね」 
 みゆきの答えに、かがみはもう一度ため息をついた。 
「そうならそうと最初から言えば…あー、それだと意味ないか…」 
「だ、だからね、善意からやったことだし、こなちゃんもあまり責めてあげないで欲しいかなって…」 
 そこまで言って、つかさはこなたが『わたしが楽しめるかどうかだよ』とか言っていたのを思い出したが、話がややこしくなりそうなので黙っていることにした。 
「こなたのことだから、自分が楽しむの優先してたんじゃないの?」 
「…う、それは…」 
 しかし、かがみには分かりきっていた事らしく、つかさは絶句するほかなかった。 
「ま、結果的にしゃっくりは止まったみたいだから、いいけどね」 
「あ、そう言えば止まってますね…こういうやり方でも止まるものなんですね…」 
「偶然かもしれないけどね」 
 感心したように何度も頷くみゆきに、かがみは苦笑して見せた。 
「それで、お姉ちゃん…こなちゃんは…」 
「あー、うん、責めないわよ…その代わり、愛してあげるわ」 
「…は?」 
「…へ?」 
 かがみの言葉が理解できず、つかさとみゆきは顔を見合わせた。 




 次の日の朝。学校に向かって歩くこなたは、自分のへばりついているかがみを見てうんざりとした表情をを見せた。 
「あのー…かがみ?」 
「なに、こなた?」 
「少し、離れてくれないかな?」 
「やだ」 
 一蹴されて、こなたは深いため息をついた。こなたの方が背が低いため、非常に不自然な格好になっているが、かがみは気にも留めていないようだった。 
「っていうか、なんでまた急にこんな事を?」 
「何でって、告白してきたのあんたのほうじゃない…あんなに直接的なの初めてで、わたしもつい本音がでちゃったわ…」 
「い、いや…あれはその…」 
「だから、もう隠さずにいきましょう…わたし達の愛を遮るものは何もないのよ」 
「えー…違う、違うよかがみ…こんなのかがみのキャラじゃない…」 
 傍から見てるといちゃついてる様にしか見えない二人の少し後ろで、つかさとみゆきが心配そうに見守っていた。 
「なんだか凄い事になってる…」 
「そうですね…なんだか、かがみさん楽しそうです」 
 学校に近づくにつれ、周りの生徒の数がかなり増えてきた。そしてその大半が、こなた達を奇妙なものを見る目で見ている。 
「かがみ…人増えてきたし…その…」 
「なに、こなた?見せたくない人でもいるの?いいじゃない。見せ付けてあげましょうよ…わたし達の愛を」 
「違うよー…違うんだよかがみー…」 
 結局、こなたが恥ずかしさに耐え切れなくなるまで、かがみの愛は続いたとさ。 



- おしまい - 


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