<p>委員会活動が最盛期だった文化祭が終り、やれやれと言った様に私が周りを見渡すと、新しいお友達に周りを囲まれていました。<br /> 稜桜学園に入学して早半年。<br /> 文化祭のふとした出来事をきっかけでつかささんと縁を持つようになりました。<br /> そして実はつかかさんのお姉さんである、私と同じくお隣のクラスの委員長を勤めているかがみさんともお話するようになりました。<br /> 更に二人の親友である泉さんとも親交を深め、あれよあれよと言う間に私には三人のお友達が出来ていたのです。</p> <p>「ねえゆきちゃん、ゆきちゃんの好きな色って何?」</p> <p>そうたずねて来たのは、おっとりとした性格のつかささんでした。</p> <p>「そうですね。私はオレンジ、と言ったところでしょうか」<br /> 「そっかー。私は白色が好きだなぁ」<br /> 「それは清潔感があっていいですね」</p> <p> まだ少し会話がぎこちないかも知れませんが、こうして皆さんとおしゃべりする様になってまだ数週間しか経っていないことを考えれば、随分と進歩した方だと思います。<br /> 隣ではかがみさんと泉さんが、なにやらいがみ合っているようです。</p> <p>「B of Mの準備はどう?ちゃんと出来てるの?言いだしっぺなんだからしっかりやりなさいよね」<br /> 「今のところは問題ないかな。ていうかかがみ、本当は一番やりたいのは自分なんじゃない?」<br /> 「うるさいなっ、茶化すんじゃないわよ!」<br /> 「むふふ~、ツンデレかがみん萌え~(=ω=.)」</p> <p>モエ?二人の会話は残念ながら半分程度しか理解できません。<br /> 泉さんと、つかささんかがみさんとが私よりもずっと前から、こうして集まって愉快そうに話していました。<br /> 委員会活動でよく顔を見るかがみさんが、自分とは違う教室にこうして頻繁に来るので、前から気にはしていたのです。</p> <p>それにしても泉さんとかがみさんは楽しそうですね。<br /> すでに確立されたグループの中に私のような人が紛れ込んだせいで、グループのバランスを崩してしまっているようでなりません。<br /> これも時間と共に慣れれば解決出来るのでしょうけれど、少々不安でもあります。</p> <p>「ねえみゆきさん。桃色わかめって知ってる?」</p> <p>泉さんから突然の質問をうけました。</p> <p>「え?桃色わかめですか。」<br /> 「いやあ、なにかと最近ネットで話題になっててさ。本当にそんなものがあるのかなって」<br /> 「そうですね、確かにワカメは湯通しする前は褐色ですが、桃色となるとわかりませんね」<br /> 「うんうんそうだよね。普通はないよね」</p> <p>これはおそらく、泉さん流のスキンシップの方法なのでしょう。<br /> 特に意味のない事柄を聞いてみて、話のきっかけを作るのです。</p> <p><br /> こんな感じで、今日一日が過ぎようとしていました。<br /> 昇降口で靴を履き替えていると、今日一日が終わったんだなと思えて、今日もがんばった、と少し気持ちが楽になります。<br /> 秋になって日が沈むのがずっと早くなり、空を見るともう太陽が傾きかけているのがわかります。<br /> 帰宅する方向が私とつかささんたちとは正反対であるため、校門を出れば、直ぐにお別れです。<br /> さて、今日は宿題が多めでしたので、帰ったら直ぐにやってしまいましょう、……と今後の予定を考えていると。</p> <p>「ねえ。今日、ゆきちゃんの家に遊びにいってもいい?」</p> <p>と、つかささんが上目遣いで私を見つめて来ます。<br /> 近くにかがみさんと泉さんはいないようです。つかささん一人、私を追いかけてきたのでしょうか。</p> <p>「それは大歓迎ですよ。かがみさんと泉さんはどうされたんですか?」<br /> 「アニメイトっていうお店にいくんだって。最近いっつも私一人なの」<br /> 「そうなんですか?」<br /> 「うん、だから寂しくて、ゆきちゃんの所に行きたいなあって思って。ありがとう、ゆきちゃん」<br /><br /><br /><br /> 三人の中で、初めて会話らしい会話をしたのがつかささんでした。<br /> つかささんとの接点があったからこそ、かがみさんとこなたさんとも会話をするようになったのですから。<br /> そういった事があってなのか、それとも単に性格の問題なのか、とにかくつかささんが相手だと気楽にお話する事が出来るのです。<br /> いえ、これはかがみさんや泉さんでは気が許せないと言う事ではありませんひょ?</p> <p>「こなちゃんとお姉ちゃん、仲良すぎだよぉ」<br /> 「そうですね。うらやましいくらいです」<br /> 「うん、こなちゃんにお姉ちゃんを獲られちゃったみたい」</p> <p>つかささんが><なんて目をするので、思わず笑みがこぼれました。<br /> そんな訳で、つかささんも私に心を許してくれているように感じます。</p> <p>電車を乗り継ぎ私の家に着くと、お母さんが私たちを出迎えてくれました。<br /> 私は着替えるために一旦部屋に行き、つかささんには少しだけお母さんと一緒に待ってもらうことになりました。<br /> つかささんが私の家に来るのは、今日が初めてのことです。<br /> お母さんに振り回されていないか心配です。出来るだけ早く着替えなくては!<br /> 私が着替え終わって、ダイニングへ戻ると、あれ?つかささん?<br /> 私とつかさんの目が合った瞬間、私はたじろぎました。<br /> つかささんが赤い顔をしながらこちらへ飛んできます!</p> <p>「ゆきちゃあん、抱っこしてぇえ」<br /> 「つかささん!?こ、これは一体?」<br /> 「ごめんね、私、間違えてお酒飲ませちゃったみたいなのよ」</p> <p>お母さんが悪びれるわけでもなく、つぶやきます。<br /> そんなお母さん!ちょっとは心配してくださいよ。<br /> つかささんは尚も私に抱きつきます。くるくる回っています。<br /> あ、つかささん!そこはダメです!</p> <p>「ゆきちゃん、大好きだよぉ……。これからもずっといっしょだよぉ……?」<br /> 「え?」<br /> 「お姉ちゃんなんかより、ずっとやさしいもんね」<br /> 「いえ、あの、その」<br /><br /><br /><br /> 時間がたち、つかささんも落ち着いて来たようで、今ではソファーの上で寝息をたてて眠っています。<br /> テーブルの上にはつかささんが飲んでしまったと言うウイスキーが、今なお、威風堂々と立っています。<br /> アルコール45%。これは流石にきついでしょうね。<br /> それにしてもつかささん、このなんとも無垢な顔をして、ぐっすりと……。<br /> さてどうしたものでしょう、柊さん宅が何処にあるのかよく分かりません。</p> <p>「鷲宮神社でしょ?ふふ、知ってるわよ?お母さんにまかせなさいな」</p> <p>意外です。なんでも鷲宮神社は聖地なんだそうで、一部ではとてもよく知られているそうです。</p> <p>お母さんの自動車につかささんを乗せると、さあ出発です。<br /> 後部座席で眠りこけるつかささん、なんとも幸せそうな顔をしています。<br /> ところでお母さん、そもそもお母さんがこの事態を招いたと言う事を理解しているのでしょうか?</p> <p>鷲宮神社の鳥居は月光に照らされて、とても強い存在感を感じさせます。</p> <p>「ごめんください。つかさちゃんをお届けに参りました」</p> <p>お母さんが威勢よく、夜の神社に大事な事を伝えます。<br /> すでにかがみさんの携帯に連絡してあるので、家の人もこの事態は理解されています。<br /> 神社の奥にある母屋から、お姉さんらしき人と、お姉さんらしき人と、お姉さんらしき人と、そしてかがみさんが姿を現しました。<br /> これは驚きました。まさかの五人姉妹でいらしたとは……。<br /> 一番ご年配であろう、髪の長いお姉さんが(後にお母様であったと知る事になります)私のお母さんに頭をめいいっぱい下げていらっしゃいます。<br /> ああ、本当ならきっと私のお母さんが謝らなくてはいけないのに。</p> <p><br /><br /> さて一方つかささんは、他の三人のお姉さんたちに、すばやく回収されていきます。</p> <p>「すみません、私の不注意でこんな事に……」<br /> 「大丈夫よ。今回は事故みたいなものだし、直ぐに酔いは覚めるはずだから」<br /> 「はい、そうあって欲しいものです」<br /> 「いや、まさかこんな事になるとは、私も想定外だったわ。つかさ、ちゃんとやったのかしら」</p> <p> </p> <p><br /> 次の日、教室の自分の机についてカバンの中の教科書を机の中に移し変えようとすると、すでに中には何かがあります。<br /> 見るとハート型に切られた折り紙が、三枚ほど置かれているのです。<br /> ハート型。これはいったい何を意味するのでしょうか。<br /> 考えていると、急に顔が熱くなってくるのがわかります。<br /> なにせハート型です。横から見ても表から見ても、この心臓を模した丸っこい形のハートの意味なんて。<br /> 裏から見ても……、あ、文字が書かれています。</p> <p>「B of M」</p> <p>BとM……。直ぐには何の頭文字か分かりません。<br /> いえ、きっと何かの間違いでしょう。冷静に見ればとても不自然なものです。<br /> 特にメッセージが書かれているわけではなく、なんの脈絡のないただの折り紙です。<br /> 意味のない物を考えていても、余計に深みにはまるだけ。ここで一度冷静になりましょうか。<br /> すう、はあ、すう、はあ、酢う、ヴぁあ<br /> 何か口走った気がしましたが、きっと気のせいです。<br /> 少し気分転換に周りを見渡すと、つかささんはまだ二日酔いが残っているらしく、机に突っ伏したままです。<br /> 大丈夫でしょうか?<br /> 一方かがみさんとこなたさんは、またなにやら話しています。</p> <p>「かがみん萌え~」<br /> 「やめんか」</p> <p><br /><br /> 本当にこの二人は仲が良さそうですね。<br /> ところで昨日、つかささんを送った後で「萌え」と言う言葉の意味を、インターネット上のフリー百貨事典にて調べました。<br /> この「萌え」とは恋愛感情や性的欲求に近い感情を表現していると言う事なのですが、こなたさんはかがみさんに対して一体何を。<br /> こなたさんは前々から、かわいい女の子の絵を見ては、萌え、と口にいていたのを思い出します。<br /> こなたさんにとっての恋愛対象と言うのは、男性ではないのでしょうか?<br /> そう言えば、かがみさんの家族の事を思い出しました。<br /> 女系家族といいますか、とにかく女性の比率が高くなっています。<br /> 男と言う概念が乏しい生活の中で育ったかがみさんは、こんなこなたさんを見てどう思うのでしょうか。<br /> かがみさんは隣のクラスの生徒なのに、どうして毎日こちらのクラスにきているのでしょか。</p> <p>いけません、またあらぬ雑念が頭をいっぱいにしています。</p> <p>はっ、昨日、つかささんは酔っていながらも、私に「好きだよ」と確かに言いました。<br /> 確かにかがみさんの妹がつかささんです。考えられなくはありません。<br /> 思い出せば「こなちゃんにお姉ちゃんを獲られちゃったみたい」という発言をしていました。<br /> そうです。お姉ちゃんを盗られてしまったんです。<br /> 一人ぼっちになってしまったつかささん。そしてそこに私が……。<br /> いえ、そんなはずはありません!<br /> でも、もしかしてこのハート型の折り紙は、つかささんが?<br /> でもでも、つかささんは昨日から今日の朝まで、昨日のウイスキーのせいでとてもこんな物を作る事は出来ないはず。</p> <p>謎は深まるばかり。<br /><br /><br /><br /> その日の授業はほとんど身に付かぬまま、昇降口に足を向ける事になりました。<br /> かがみさんとこなたさんはまたアニメイトと言うお店へ行くということで、先に帰られてしまいました。<br /> つかささんは、頭がくらくらすると言って保健室へ。<br /> どうしてかがみさんは、つかささんの看病をしないのでしょか。<br /> 靴を履けば、今日と言う日は終わりです。<br /> 私は静かに、ロッカーを開きました。</p> <p>ひらりと、オレンジ色の便箋がロッカーから落ちました。<br /> 女の子らしい、かわいい手書きのイラストが描かれている便箋は、私のロッカーの中で私を待ち続けたのでしょか。<br /> 周りに誰もいない事を確認すると、私はその便箋を破りました。イラストに傷が付かないように、丁寧に。</p> <p>「午後5時にB組の教室に来てください」</p> <p>A4用紙に書かれた内容は、たったそれだけでした。<br /> しかし、たったそれだけの文章で、私はパニックにおちいりました。<br /> 誰からのものかは書かれていません。<br /> しかし分かります。丸っこい文字、このイラスト。<br /> そして便箋の色をオレンジにしたのは、私の好きな色を知っている人だからこそ出来る事。</p> <p>少しの間忘れていた事が、フラッシュバックしだします。<br /> 間違いなくこの便箋の送り主はつかささんです!</p> <p>誰もいないであろう夕方の教室で、何をしようというのでしょうか。<br /> このシチュエーションでは、もう、告白しかないのでは……。</p> <p>ああ、どうしましょう。<br /> つかささんとお友達でいる事は、大いに賛成です。<br /> でも女の子同士のお付き合いなんて、本当によろしいのでしょうか。<br /> 本当に、私は、つかささんとずっと……</p> <p>気が付けば、すでに午後5時を5分ほど過ぎていました。<br /> すでに心の準備は出来ていました。結論は、出ています。<br /> 緊張しますが、いざ、教室の扉を開きます。</p> <p>「あ、あの!わ、私でよろしければ、ぜひ、お付き合いさせてください!お願いいたします!」<br /><br /><br /> あれ?</p> <p>どうしたのでしょうか?</p> <p>目を開いてもいいのでしょか?</p> <p>「ゆ、ゆきちゃん?どうしたの?」<br /> 「へ?」<br /> 「えーい!なんでもいいわ、はじめるわよ!」<br /> 「みゆき」「みゆきさん」「ゆきちゃん」</p> <p>「誕生日、おめでとう!!」</p> <p>あ、あれ?<br /> 私の頭上からはハート型の折り紙が、何十枚も降り注ぎました。</p> <p><br /> 実は今日、10月25日は、私の誕生日だったのです。<br /> こなたさんが数週間前から企画をしていた「B of M 計画(Birthday of Miyuki)」により、今日のビックリパーティーは開かれました。<br /> 私だけが通学路が反対だと言う事を利用して、私が帰った後はよくパーティーの準備をしていたのだとか。<br /> つかささんは小道具担当で、早く帰って家で作業をしていたと言います。<br /> 昨日つかささんが私の家にやって来たのは、実は私のお母さんに、<br /> 今日が私の誕生日だと言う事を思い出させないで欲しいと、頼みに来ていたのだそうです。</p> <p>結論から言えば、つかささんの告白というものは、こなたさんもつかささんも、頭の中をかすりもしていなかったと言う事です。<br /> 結局、私一人の暴走が招いた悲劇、ならぬ喜劇、を通りこして奇跡になってしまいました。<br /> うん、つかささんとこなたさんの作ったケーキは格別です?<br /> あ、つかささんはダウンしていて、ほとんどこなたさん作ですか?</p> <p>なんにせよ、私はこなたさんやかがみさんに対する、何か心の壁の様なものは一切感じる事はなくなりました<br /> え?ちょっとこなたさん?</p> <p>みんな、私の友達です。自分が邪魔だなんて、考える事もありません。<br /> そう、私は……、ああ?</p> <p>「みゆきさん、もふもふしてやわらかいね~」<br /> 「やめんか!」</p> <p>今日から皆さんの親友です。</p> <p>「ゆきちゃん、大好きだよぉ」</p> <p>!?</p> <p> </p>