「おーい、大臣っ」 「ねぇ、大臣~~~」 「総理大臣ってばぁ────」 「(--')」 「つ・か・さぁ~~~。小学校の時の文集とか誰にでも見せるのやめない? あの頃のは地雷だろ」 「ご、ごめんなさい」 「そういえば、ちびっ子が言ってた"大臣"って何なん?」 「小学校の時の学年文集を妹が見せたらしくてさ。それの将来の夢んトコ」 「ほぉ。いやいやぁー。あの頃は誰でも夢いっぱいですな~~~。柊がねぇ」( ̄ー ̄)ニヤニヤ (はっ。しまった────。コイツもそっち系だった────) 「あっ、何だよ。ひでーなっ。そーゆー目で見んなよっ。どーゆー意味だっ」 ・ ・ ・ ・ ・ 「まさか、ホントになるなんてね……」 柊かがみ首相は、首相官邸の執務室で、お茶を飲みながら、一人つぶやいた。 小学生のころの夢がかなった……というよりは、「かなちまった」といった方が適切だろう。 かがみ自身、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったし、小学生のときの文集に書いたことなんて、こなたに指摘されてから思い出したぐらいだ。 高校生のときから将来の目標としていた弁護士にはなれた。 弁護士としての仕事は、順調そのものだった。 やがて、敏腕弁護士としてマスコミにも取り上げられるようになった。 そのあたりからだ、軌道がずれ始めたのは。 某党から衆議院議員選挙に立候補してほしいと頼まれ、最初は断ってたものの、拝み倒されて最終的には了承してしまった。情に流されやすいかがみの性格をつかれたのだ。 結果は、あっさり当選。 もともと有能なかがみであるから、その後も、某党内での地位があれよあれよという間に上昇し、気づいてみれば、党首になっていた。 そして、内閣総理大臣に就任というわけである。 かがみとしては、今期限りで辞めて本業の弁護士業に戻りたいのだが、周りがそれを許してくれるかどうか。 お茶を飲みほし、書類の続きを読もうとしたとき、携帯電話のバイブ音が響き渡った。 震えているのはかがみの私物の携帯電話。これの電話番号を知っている者は少ない。 携帯のディスプレイ画面をみると、相手の電話番号とともに「みゆき」の表示が点滅していた。 「もしもし、みゆき。久しぶりね」 『お久しぶりでございます、首相閣下』 「そんな他人行儀なの、やめてよ」 『フフフ、冗談ですよ。今お時間は大丈夫ですか?』 「大丈夫よ。急ぎの仕事はないから」 『ありがとうございます。こんなことでお電話するのも恐縮ですが、医療制度改革についてさぐりを入れるというのが、この電話の趣旨になります』 みゆきは、あっさり意図をばらしてきた。これも長年の友人ゆえだろう。 「ああ、なるほどね」 現行の医療制度は、税金をつぎこむだけでは解決しえない構造上の問題で限界に達していた。 抜本的な改革が必要だが、改革案は複数あり、どれが法案として国会に提出されるかは首相の決断次第というのが、マスコミが伝える現状だった。 そして、みゆきの今の立場は、日本医師会の重鎮である。 医者になりたいという夢をかなえたみゆきであったが、彼女ほどの有能な人物が放っておかれるわけもなく、東京都医師会をへて、日本医師会へ。日本医師会での地位も、周りの後押しでとんとん拍子にかけあがってきたというわけである。 頼まれたら断れないタイプというのは、かがみと似ている部分があった。 今では、医師会での仕事が忙しくて、経営している病院の仕事は後輩のみなみにまかせてるという、本末転倒な状態。 夢がかなっても必ずしも思い通りにはいかないという典型例だった。 「迷ってるっていうのが正直なところね。どの案もメリット・デメリットはあるからさ。医師会の要望に近い案がどれかは分かってるつもりだけど、それが国民にとっても良案かどうかはまた別の話だし」 『そうですね。医師会のみなさんには、首相はまだ検討中だとお伝えしておきます』 「それで納得するのかしらね?」 『納得しないのであれば、また何らかのアクションを起こすことになるでしょう』 「お手柔らかに願いたいわね」 『こればかりは組織の意思決定ですから、私の一存ではなんともいいかねます』 「まあ、それはお互い様よ」 二人とも、その社会的立場のゆえにそうせざるをえなかったことで、その人を嫌ったり恨んだりするようなことはない。長年の友人が相手となればなおのことだ。 『話は変わりますが、泉さんのブログはごらんになりましたか?』 「最近忙しくて見てないわ」 『泉さんから、友人だけで同窓会をやりたいとのご提案がされてますよ。私は既に出席の旨をお伝えしておきました』 「そんなことなら直接電話すればいいのに」 『泉さんなりに気を使っていらっしゃるのでしょう。首相ともなれば何かと忙しいですからね』 ブログを見る暇さえないぐらいに忙しいなら今回はお流れにしようか?というのが、こなたの意向なのだろう。 「そんな余計な気使う必要なんてないのに」 『では、近いうちにお会いできることを楽しみにしております』 「私も楽しみにしてるわ」 電話を切り、開いてるパソコンでブラウザを立ち上げる。 こなたのブログは「TOI団団長ブログ」と題されている。 TOI団とは、「ツンデレ宰相かがみんをおおいに盛り上げる泉こなたの団」の略称だ。「宰相」の部分は、かがみの経歴に応じて、「国会議員」→「大臣」→「宰相」と変化している。 かがみが政治家であることを考慮すればこれは「勝手後援会」に分類すべきなんだろうが、実態からすれば「勝手ファンクラブ」というのが正確なところだった。 高校時代の進路調書にネタで「団長」なんて書いてたこなただが、それがかなったのだ。 いや、これもまた「かなちまった」といった方が適切だろう。 少なくても、かがみは、この状況に「夢がかなった」なんて麗しい形容を用いたくはなかった。 それはともかく、父親と同じく文筆業についたこなたが書くブログは大変な人気で、毎日豪快にカウンターを回し続けている。 かがみの高校時代のエピソードがネタにされることも多い。団員の一人である漫画家のひよりがそれを元ネタにして描いた漫画がアップされることもあった。 敏腕首相も昔は普通の女子高生だったというエピソードの数々が公開されており、かがみの人気を支える一つの要因となっている。「かがみんをおおいに盛り上げる」という団の趣旨は充分に果たしているのだ。 そのブログをみると、確かにさっきみゆきがいっていたことが書かれていた。 携帯電話の電話帳でこなたの番号を呼び出し、通話ボタンを押す。 『お電話いただき光栄でございます、ツンデレ宰相閣下』 しょっぱなからふざけた挨拶。相変わらずのこなただった。 「ツンデレいうな」 かがみもすかさずツッコミを返す。 『ツッコミのキレは鈍ってないね、かがみん』 「おかげさまでね」 相手の論理の穴を見逃さず即座にツッコミを入れるのが、かがみの論戦スタイルだ。そのため、国会の論戦で負けたことは一度もない。 「ブログ読んだわよ。同窓会の日程組んだら教えて」 『了解です、ツンデレ宰相閣下』 「だから、それはやめい!」 『日程組んだら真っ先に教えるよ。絶対来てよ、かがみ。つかさもみゆきさんも、あやのさんもみさきちも、みんな楽しみにしてるからね』 素朴かつ真っ当な「お嫁さん」という夢がかなったつかさやあやの、宝くじを当てたいという夢がいまだかなわぬみさお。 みんな、ここ最近は電話で話すことすらほとんどなかった。 「分かってるわよ。何とかスケジュールにねじ込むから」 『絶対だよ』 「分かってるって。じゃあ」 電話を切り、再び目の前の書類を読み始める。 同窓会の日程を何とかねじ込むためにも、片付けられる仕事はさっさと終わらせなければならない。 かがみの仕事のペースは心なしか早まっていった。 ・ ・ ・ ・ ・ すやすやm(ー_ー)m 「うふふ…、あはは…m( ̄ー ̄)m」 m(゚ロ゚)mカッ! 「あ──もうっ。絶対今の面白かったのにっ。どーして、夢ってすぐ忘れるかナっっ!? 何だっけな、もぉ──っ!!」 先輩たちの夢だったような気がするのだが、全く思い出せない。 ひよりは、頭を抱え、悶え続けていた。 忘れてしまった夢の内容が正夢になるとはまだ知らぬ高校1年生のある日の出来事。 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 本当になってしまったらとても面白いですよね。私なんて &br()小学生の頃の夢は 「ドイツの大手銃器メーカー Heckler & Koch社」 &br()にはいりたい、したからねぇ。...本当に叶わなくてよかったです...。 -- Gewehr3A3 (2009-09-16 22:45:48) - とても読みやすくオチも良かったです。GJ -- CHESS D7 (2009-09-16 21:36:05)