シトシトと雨が降る。なんとも嫌な天気だ。 いっそ派手に大降りになってくれでもしたら、あの日に重なることも無いだろうに。 とある喫茶店の窓際の席で、一人の青年がそんな事を考えながら、目の前のアイスティーをストローでかき混ぜた。 「…待った?」 不意に横から声をかけられる。青年はゆっくりとそちらに顔を向けた。 「いや、あんまり…」 青年は声をかけてきた女性、柊かがみに少し億劫そうに答えた。 「雨…っていうか、この降り方はなんかイヤよね」 かがみはそう言いながら、青年の対面の席に座り、注文をとりにきたウェイトレスにコーヒーを頼んだ。 「あんたは相変わらずアイスティーね」 「…まあな」 やはり億劫そうに答える青年に、かがみは呆れ気味にため息をついた。 「こなたも、いつもアイスティーだったものね…最初に頼んだのがそれだったからって」 「変なところでめんどくさがるのが、アイツらしいな」 青年は苦笑すると、ストローに口をつけてアイスティーを一口だけ飲んだ。 「やっぱり、やめとく?」 かがみがポツリとそう呟く。 「どうして?」 青年は窓の外を見ながら、そう答えた。 「なんか、忘れられないみたいだから…こなたの事が」 「…別に忘れるために、結婚するわけじゃないだろ」 かがみの言葉に、青年は窓からかがみへと視線を移し、少し怒ったような口調でそう言った。 「そうね、ごめんなさい。今のはわたしが悪かったわ」 かがみが苦笑しながらそう謝ると、青年はまた窓の外に視線を戻した。 「それじゃ、ちょっとだけ真面目な話を…ね」 ウェイトレスが持ってきたコーヒーにミルクを入れながら、かがみは少し声を落としてそう言った。 「せいたろう、せい君、ダーリン…どれがいいかしらね?」 「…なんだそりゃ」 「呼び方。今までみたいにせいたろうがいいのか…それとも、こなたみたいにせい君とかダーリンって呼んだ方がいいのか」 そう言ってかがみはコーヒーを一口飲んで、青年…せいたろうの横顔を見つめた。 「…好きにしてくれ」 そして、興味なさ気に答えるせいたろうに、呆れたようなため息をついた。 「味気ないわねえ…これまでの関係を変えようっていう、乙女の一大決心に対する答えじゃないわよ」 「乙女って柄じゃないし、そんな大袈裟な問題でもないだろ」 「…そういうのはきっちり突っ込むのね」 そう不満そうに答えながらも…かがみは微笑んでいた。 ― そして、つながりつづく命の輪 ― 「…またか」 目を覚ましたせいたろうは、そう呟きながら上半身を起こした。 「またかって…またあの夢?」 隣で寝ていたこなたも、同じように上半身を起こす。 「悪い、起こしたか?」 「ううん、あなたが起きるちょっと前に起きてたよ」 こなたはそう言いながらベッドから降り、寝室のドアへと向かった。 「喉、乾いてるよね?何か持ってくるよ」 「…悪いな」 少しばつが悪そうに答えるせいたろうに微笑みかけ、こなたはドアを開けた。 「わたしが死んじゃう夢…か」 持って来たお茶を飲みながら、こなたがそう呟く。 「しかも、後妻がかがみって…やっぱりあの時のお願いかな?」 「…だろうな」 せいたろうもお茶を飲み、そして大きなため息をついた。 こなたの命を賭けた出産。その中でこなたはせいたろうに、自分がもし死んだらかがみを娘の母親として迎えて欲しいとお願いをしていた。 「あの時はかがみにマジ切れされちゃったよね…」 どこか懐かしそうにこなたが呟く。そして、右手を口にあて、首をかしげた。 「でも、なんで急にそんな夢見るようになったんだろ…ここんところしょっちゅうでしょ?」 こなたがそう聞くと、せいたろうは腕を組んで考え込んだ。 「多分…怖くなったんだろうな」 そして、そうポツリと呟いた。 「怖く?」 「ああ、なんて言うんだろ…無くなるっていうか無してしまうっていうか…うまく言えないな」 せいたろうは頭をかいて首を振った。 「悪い。忘れてくれ」 そして、お茶を飲み干してベッドの方に向かったが、こなたが動かずなにか考えるような仕草をしてるのに気がついた。 「どうかしたか?」 せいたろうがそう声をかけると、こなたは顔を上げた。 「人はね、いつか必ず死ぬんだよ」 そして、さほど大きくはないが、はっきりとした声でこなたはそう言った。 「なんだ急に…」 せいたろうは呆れたようにそう言いながらも、ベッドに腰掛けてこなたの話を聞く体勢をとった。 「それは絶対に避けられないものだし、怖いものだと思う…わたしもそういうこと考えて、怖くなることあるよ」 こなたはそう言ってから、ため息を一つついて、せいたろうの方を見た。 「でもね、そう言うことを考えすぎて、生きることそのものが怖くなる…そんなのは嫌だよ…あなたがそんな風に考えちゃうのって、わたしは嫌だよ」 こなたはせいたろうの横に座り、その小さな身体を大きな身体に預けた。 「…嫌、か…じゃあ、考えないようにしないとな。俺もお前が嫌な思いをするのは、嫌だからな」 そう言いながら、せいたろうはこなたの髪を撫で始めた。 「…うん」 こなたが気持ち良さそうに目を閉じる。 「あなたのそういう素直なところ、好きよ」 「子供か、俺は」 こなたの言葉に、せいたろうは少し憮然とした表情をした後、呆れたようにため息をついた。 「…まったく。なんだかんだ言っても、お前には敵わないな」 そして、そう呟いた。それを聞いたこなたがプッと軽く吹き出し、目を開けて夫の顔を見上げた。 「変な人。こういうのは勝ち負けじゃないでしょ?」 「…まあな」 なんとなく煮え切らないせいたろうの返事に、こなたはクスクスと笑いベッドから立ち上がった。 「それに、勝ち負けで言ったらわたしはずっとあなたに負けっぱなしだよ」 そう言いながら数歩前に歩き、芝居がかった仕草で振り返る。 「よく言うでしょ?先に惚れた方が負けだって」 そして、柔らかく微笑んだ。 「そんなもんかねえ…」 「そんなもんだよ」 少し呆れがちなせいたろうに軽い感じで答え、こなたはベッドに寝転んだ。 「さ、納得したところで寝よっか。明日かがみ達来るから、早めに起きないとね」 「納得とかそう言う話だったかなあ…ってかホントに呼んだのか」 「そりゃそうだよ。折角の愛娘の晴れ姿だもの…あ、電気消してね」 そう言いながら布団に潜り込むこなた。せいたろうは苦笑して照明のスイッチに手を伸ばした。 良く晴れた空。少し涼しげな風。その心地よい日差しの中を歩くかがみが、気持ち良さそうに大きく伸びをした。 かがみの両隣を歩くつかさとみゆきがそれを見てクスリと微笑む。 「いい季節になったわねー」 「そうですね」 欠伸交じりのかがみの言葉に、みゆきが頷きながら答える。 「それにしても、娘の高校の制服が届いたからって、みんな呼びつけてお披露目するようなものなのかしらね」 かがみが呆れたようにそう言うと、みゆきは少し考え込むように顎に人差し指を当てた。 「わたしは良く分かりませんが…それだけこなたさんが、娘さんを大事に思ってると言うことですよ」 そして、そう言いながら微笑むみゆきに、かがみは苦笑を返した。 「それはそうなんだけど、こっちを巻き込まなくてもねって思うわ」 「でも、何だかんだ言っても、お姉ちゃんこういう時はちゃんとくるよね」 逆方向から口を挟んできたつかさに、かがみの表情が憮然としたものに変わる。 「…暇なのよ…仕事辞めたら、こんなに時間が余るとは思わなかったわ。こんなことなら、もうちょっとなんか趣味を持っとけば良かったわね」 そこまで話してから、かがみは大きくため息をついた。 「で、暇なわりには時間が経つの早いのよね…あんな小さかった子がもう高校生だし。歳取ると時間が早く過ぎるってホントだったのね」 しみじみとそう言うかがみの横で、つかさもため息をつく。 「わたし達も、だいぶ変わっちゃったしね…」 そして、つかさは自分のお腹を手でさすった。 「そういえば、体調の方は大丈夫なのですか?」 それを見たみゆきが、少し心配そうにそう言った。 「うん、もう安定期に入ったから」 二人の会話を聞きながら、かがみは空を見上げた。 「つかさも、もう四人目なのね…」 かがみの呟きを聞いたみゆきが首を傾げる。 「四人目だと、なにかあるのでしょうか?」 「ほら、わたし達四人姉妹じゃない」 「ああ、なるほど…そうですね」 「…お母さんに追いついちゃったね」 かがみとみゆきの会話に、つかさが照れくさそうに頬をかきながらうつむいた。 「今度のも女の子だったら、つかさの家も四人姉妹ね。お母さんと違うのは、一番最初に双子を産んだってところかしら…っていうか、お母さんがわたし達産んだのってもうちょい歳いってからだったらしいから、追いついたっていうより追い抜かしたって感じよね」 なにか懐かしいものを語るようなかがみを見ながら、みゆきは人差し指を頬に当て首をかしげた。 「かがみさんは、今後のご予定は無いのですか?」 「子供?…無理無理。あの悪ガキ一人でも手一杯なのに、これ以上増えたらわたしが持たないわよ」 パタパタと手を振りながら答えるかがみを、つかさが訝しげな顔で見た。 「お姉ちゃん。暇してるって…」 「それとこれとは別よ…四人も育ててるあんたやお母さんを本気で尊敬するわ…っていうかさ」 妙にいい笑顔で自分の方を向くかがみを見て、つかさは少し身を引いた。 「つかさのところはみんないい子に育ってるわねえ…一人、うちのと交換しない」 「お、お姉ちゃん…それはちょっと…」 「じゃあ、お婿さんに貰ってあげて」 「気が早いよお姉ちゃん…」 「まあ、冗談だけどね」 本気で困った顔をするつかさにかがみは軽くそう言って、大きなため息をついた。 「ってかね…わたしはもっと器用に生きれると思ってたのよね」 そして、かがみはそう言いながら二人より少し前に出て、手を頭の後ろで組んだ。 「でも、実際はみゆきみたいに仕事を続けてるわけじゃないし、つかさみたいに家庭をうまくやれてるわけでもない…器用と言うより器用貧乏だったって感じね」 どことなく諦めたような口調でそう言うかがみの後ろで、つかさとみゆきは顔を見合わせた。 「わたしもつかささんも、何もかも上手くいっている訳ではありませんよ」 そして、かがみのほうを向きそう言うみゆきに、つかさが頷いてみせる。それを聞いたかがみが肩越しにチラッと後ろを向いた。 「そう?そんな風には見えないけど」 「お隣の芝は青く見えてしまうものですよ、かがみさん」 にこやかにそう言うみゆきに、かがみは苦笑して見せた。そして、少し立ち止まって、また二人と並んで歩きだした。 「そういうものかしらね」 「そういうものですよ…わたしも、自分がダメだなって思うこと沢山ありますし」 みゆきは人差し指を顎に当てて、少し考えるような仕草をした。 「そうですね…たとえば、夜の方が淡白なのではと思ったりとか…」 「…ああ、なるほど」 かがみは、みゆきが四人の中で未だに一人、子供の出来ないことを悩んでるのを思い出した。 「っていうかそれは旦那の方が種無し…」 「あります!ちゃんと検査しました!」 かがみの言葉に思わず大きな声を上げるみゆき。つかさは困った顔でみゆきの方を向き、かがみはそっぽを向いて笑いをこらえるように肩を振るわせた。 「…か、かがみさん!」 恥ずかしさから顔を真っ赤にしたみゆきが、かがみに向かい怒ったように声を上げる。 「まあまあ…っていうか検査したって事は、みゆきも疑ってたって事じゃないの?」 「そ、それは…もう、知りません!」 頬を少し膨らませてそっぽを向くみゆき。かがみはこらえきれずに、声を上げて笑った。 「二人とも、その辺にしといてよ。往来でするような話じゃないでしょ?」 二人の会話を聞いていたつかさが、怒ったような口調でそう言うと、かがみとみゆきはばつが悪そうに顔を見合わせた。 「…ごめん」 「…すいませんでした」 謝る二人にたいし、つかさがため息をつく。 「お姉ちゃんに色々言われてた、高校時代が懐かしくなってきたよ…」 「いいじゃない、成長できてるって事なんだから」 かがみはそう言ってから、どこか遠くを見るように顔を上げた。 「…でも、ほんと懐かしいわね」 「そうですね…制服、変わってないそうですよ」 みゆきがかがみの隣に並び、これから向かう泉家の方を向いた。 「そうじろうさんは…見たかったでしょうね」 みゆきの言葉に、かがみとつかさが頷いた。 「ほら、おじいちゃん。制服だよ。お母さんと同じ、陵桜だよ」 仏壇の前で、一人の少女がそう言いながらくるっと身を翻した。そして、その少女…こなたとせいたろうの娘であるなゆたは、二つ並んだ遺影に微笑みかけた。 「聞いてよ、おじいちゃん。お母さんったらさ、まだ高校の制服持ってたんだよ」 遺影の一つ、祖父であるそうじろうに、なゆたが楽しそうに話しかける。 「それでね、わたし着てみたんだけどすごく小さくてさ、おへそは見えるしパンツも見えそうだし、すごい事になってたよ」 なゆたはそこまで言ってから、人差し指を顎に当てて考えるような仕草をした。 「あー、でもおじいちゃんはそっちの方が嬉しかったかな?…なんて言ったら、おばあちゃんに怒られるかな」 そしてそう言いながら、もう一つの遺影、祖母であるかなたに笑いかける。 なゆたはしばらく遺影を見つめた後、ため息を一つついて仏壇の前に正座をした。 「…わたし、高校生になったよ」 呟くようにそう言いながら微笑む。 「大変だったよ、陵桜合格するの。お母さんもお父さんもさ、勉強じゃちっとも役に立たないんだよね…おじいちゃんがいたらなって何回か思っちゃったよ」 話しながら、なゆたの顔が徐々にうつむいていく。自分が床を見ているのに気がついたなゆたは、首を横に振って顔を上げた。 「おじいちゃんはさ、そっちでちゃんとやれてる?おばあちゃんと喧嘩とかしてない?…わたしとお母さんみたいにさ」 なゆたは目を細め、二つの遺影を眺めた。まだそれほど時間は経ってないのに、ひどく懐かしく思えた。 「あの時、おじいちゃんは何も言わなかったよね…きっとわたし達は大丈夫だって、思ってくれてたのかな」 目の前が少し滲んでくる。なゆたは慌てて服の袖で目をこすると、勢い良く立ち上がり、自分の頬を軽く叩いた。 「大丈夫。わたしは…わたし達は大丈夫だよ、おじいちゃん」 リビングに入ってきたせいたろうが、テーブルの上の料理を見て少し眉をひそめた。 「また、随分たくさん作ったな…なゆたは?」 両手に皿を持ってキッチンの方から来たこなたにそう聞くと、こなたは皿をテーブルに置いてから、仏間の方を指差した。 「おじいちゃんにご報告。制服見せてあげるんだって」 「そうか…って、おい。こなた」 「ん、なに?」 「なんだ、その格好…」 テーブルに皿を並べているこなたの格好は、自身が高校時代に着ていたセーラー服だった。 「ふふ、なんか懐かしくなって着てみちゃった…どう?まだまだ現役で通るんじゃない?」 せいたろうに見せ付けるように、笑顔で身を翻すこなた。せいたろうは額に手を当てて首を横に振ると、ソファーに座って大きくため息をついた。 「こなた…無理するな」 「うわー、なにそれひどい反応」 こなたは不満気な顔で自分の身体を見回した。 「見た目はまだイケてると思うんだけど…」 せいたろうはもう一度ため息をついて、仏間のあるほうを見た。 「なゆたに張り合うなよ…」 「あ、ばれた?…いやー、若いって良いわよねー。あの姿見たら、お母さんも頑張らなきゃって思うわよ」 「何を頑張るんだかな」 仏間の方を見たまま呟くせいたろうの隣に、こなたが腰掛ける。 「…何考えてるの?」 そして、そう優しく囁きかけた。 「いや…養父さんにも見せたかったなって」 「そうだね…お父さんなら泣いて喜びそう」 こなたはそう答えて、せいたろうと同じように仏間の方を向いた。 「せい君は、お父さんのこと良く気にかけてくれるよね」 「そりゃそうだ。恩人だからな…あの人には、返しきれないくらいの恩があるんだよ」 「お父さんから恩?なんだろ…」 訝しげな表情で考え込むこなた。せいたろうは、そのこなたの頭にポンッと手をのせた。 「お前を託してくれた…これ以上の恩はないだろ」 その言葉を聞いて、こなたはしばらく固まった後、せいたろうに抱きついて身もだえを始めた。 「…久しぶりに見たな、それ」 そんなこなたに呆れながら、せいたろうは軽くこなたの髪を撫でた。 「やっぱり、養父さんは早すぎたよ…もっと生きてても良かったはずだ」 髪を撫でながら漏らしたせいたろうの呟きに、こなたの身もだえがピタッと止まった。そして、抱きついたままでせいたろうを見上げる。せいたろうも手を止めて、こなたを見下ろした。 「そうだね…でも、お父さんは天寿を全うしたって思ってるよ」 「そうなのか?」 「うん…お父さん、言ってた。もう、自分は全部やり遂げたって。わたしが結婚して、子供産んで、ちゃんと育てられるようになったから、自分の役割はもう終わったんだって…だから、何時どんな死に方をしても、それが自分の寿命だって…そう、言ってた」 「そうか…ホントに、強い人だったんだな」 「…うん」 せいたろうはため息をついて、天井を見上げた。 「その言葉を、ちゃんと受け入れられるお前もな」 そして、そう言いながら、こなたの髪を再び撫で始めた。 「わたし?…わたしが強いのは当たり前だよ」 「…えらい自信だな」 「わたしは、泉そうじろうの娘で、泉せいたろうの嫁で、泉なゆたの母なんだよ?弱くなる要素がどこにあるっていうのよ」 得意気な顔でそう言うこなたに、せいたろうは思わず苦笑してしまった。 「…せい君、ちょっと馬鹿にしてるでしょ」 そのせいたろうの態度に、こなたが不満そうな顔をする。そのこなたに、せいたろうは自分お顔の前で手を振って見せた。 「んなことないよ…つーか、時間良いのか?準備の最中だったろ」 「あ、そうだった…って、うわっ」 こなたは時計を見て慌てて立ち上がろうとしたが、慣れない服のせいかバランスを崩して床に倒れそうになった。そして、それを助けようとせいてろうが腕を掴んだが、支えきれずに一緒に倒れてしまった。 「…いたた…せい君、ちゃんと支えてよ…」 「悪い。ちょっと油断した」 せいたろうは自分の下敷きになっているこなたに謝り、身体をどけようとしたところで、部屋のドアが開く音を聞いた。 「…え、なにこれ。どこのイメクラ?」 そして聞こえてきた娘の声に、なんとなく頭を抱えたくなった。 「違うぞ、なゆた…ってかなんでイメクラだ」 「そういうプレイでしょ?お母さんのカッコがそんなだし」 せいたろうは未だに自分の下に居るこなたを見た。確かに制服姿の妻を押し倒してるようにしか見えない。 「…いやん」 夫と娘に見つめられて、こなたは思わず身体を隠すように両手で抱きしめた。 「こんな時間からお盛んね…仲がよろしいことで」 呆れたようにそう言いながら、なゆたは手近なソファーに座った。 「なんだったら、なゆたも混ざる?」 そのなゆたに、立ち上がったこなたがそう言うと、なゆたは目をつぶって頭をかいた。 「お、お父さんが良いって言うなら…」 「うん、のってくれたところで悪いけど、せい君いないし」 こなたの言葉に、なゆたは目を開けて部屋を見回した。 「…ここで逃げますか…ってか、お母さん。そのカッコでかがみさんたちに会う気なの?」 「そうよ。まだまだお母さんもイケてるでしょ?」 「見た目はね…ってか娘としては普通に恥ずかしいんだけど」 呆れ顔で答えるなゆたに、こなたは微笑んでみせた。 「こういうお母さんは嫌い?」 そう聞いてきたこなたに、なゆたも微笑んでみせる。 「…まさか」 なゆたはソファーから立ち上がって、こなたの身体を軽く抱きしめた。 そして、囁く。 「大好きだよ」 これから先もつながりつづいていく母という存在に、精一杯の愛おしさを込めて。 ― おしまい ― **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - おしまい- &br()そっそんな~~ &br()作者様はきっと、プロかセミプロですよね~ &br()こなかが、ほののぼ、シリアス、感動、そして鬱までも・・ &br()このシリーズには、すべてが詰まっていて &br()全作品何回も読ませていただきました。 &br()今後もしみじみと、何回も読み直すことでしょう。 &br()本当に超長期ありがとうございました。 &br()おつかれさまでした。 -- 名無しさん (2011-06-08 02:36:03)