魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ-まとめ-

第四話 『かりかりベーコン』

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第四話 『かりかりベーコン』




 どこまでも広がる水平線、熱い日差しを照り返す白い砂浜。
 飛びそうになった麦わら帽子を深くかぶり直しても、風はまるで誘うように私の長い髪を引いている。

 自然とこぼれた笑みにあわせて振り向くと、遠くまで続く足跡の先では、オレンジ色の髪をした小さな少女が手を振っていた。

「リコー」

 その声はろここちゃん。不思議な魔女のろここちゃん。
 彼女の狂った鳩みたいな瞳には、きっと可憐な私が映っていることでしょう。

「ろここちゃーん」

 波の音が、風の音が、ろここちゃんを走らせる。
 嬉しそうな顔が息をはずませながら、ぱたぱたと。

「ろここね、ご飯つくったんだよ」
「すごいなあ、お料理もできるのね」
「ほら、見て!」

 小さなポケットをまさぐると、現れたのはロケット型のウインナー。

「おいしそうー」
「まってまって」

 ろここちゃんは恥ずかしそうにうつむいて、すっと私に向き直る。

「はい、あーんして」

 なんだかちょっぴり照れるけど、ろここちゃんなら大丈夫。

「あーん」

 閉じるまぶたの向こうには、ぼんやり笑顔とウインナー。
 全てがスローモーションで、それはまるで夢みた――

「あっづううっ!」

 その時、額に生じた鋭い痛みで身体が跳ねた。続けて強い衝撃が体中を襲う。
 詰まった呼吸を落ち着かせてから辺りを見回すと、そこは私の部屋だった。

「起きた?」
「え」

 声に目を上げると、ろここちゃんのしましまパンツが覗いていた。
 私の額には、かりかりに揚がったベーコンが張り付いていた。


☆ ☆ ☆


「だってせっかく作ってあげたのに、リコったら全然起きてくれないんだもん」
「ごめんごめん。じゃあこれ、ろここちゃんが作ってくれたの?」

 口をとがらせるろここちゃんの前、白い小皿の上では焦げた肉片が噴煙を上げている。
 ふと鏡に目をやると、おでこにはベーコン型の焼印が押されており、手で触れてみるとひりひりと痛みが走る。ダメージは意外と深刻なようだ。

「これを見ながらね、作ってみたの」
「どれどれ」

 指差された場所には見覚えのある本が置いてあり、これはかつて一人暮らしを始める際に購入して一度も使われなかった「男の朝飯!」というレシピ本である。

「あちゃー、これ読んで作ったのか」
「うん、だめだった?」

 このレシピ本はそのタイトルが示すように大変大雑把にできており、手順などは巨大な極太明朝体で2、3行書いてあるだけなのだ。これではいくら魔女でもまともな料理を作れるはずもない。
 真っ黒なベーコンを口へと放り込んでから折り目のついたページを開き、そこに書かれた記事に目を通してみる。

「でもさ、料理なんて魔法でぽーんと出せるものなんじゃないの?」
「昨日も言ったと思うけど、ろここはそういうのできないんだよ」

《かりかりのベーコンは、普通に調理するよりもカロリーが控えめです!》

「控えめなんだ」
「まだ見習いだからね」
「じゃあ、大きくなったら色々なことができるようになるの?」
「そう、お空を飛んだりね。料理も出せるようになるかも!」

《かりかりのベーコンは、塩分たっぷりでミネラルもいっぱいです!》

「夢いっぱいね」
「そうだねー、早く大人になりたいな」
「大人かあ……そういや、ろここちゃんって歳いくつなの?」
「えーと、100と8つ」

《かりかりのベーコンは、保存も効くので大変長持ちします!》

「ふーん、すごいなあ」
「ねえリコ、食べ終わったら自転車取りに行かないと」

 何度も噛んで少しだけ柔らかくなったベーコンから、ほんのりと塩気が広がった。
 飲み込んでみると後味はあっさりしているようで、もう一つつまんで口へと運ぶ。なんだかクセになりそうだ。

「じゃ、顔洗ったら着替えて行こうか」
「うん」

 窓を開けると、夏の優しい風が子供たちの笑い声を運んでくる。
 魔女と生活することになって迎えた、初めての朝。
 ろここちゃんとかりかりベーコンには意外な共通点が数多くあることを、私は知った。




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