あやしい。
いや、光司さんが私以外の女の子と遊んでるのはわかってるし、
本人も「目の前では他の女の子とイチャイチャしない」って約束を守ってるだけで
隠す気無さそうだから、今更なんだけど。
何かいつもと違う気がする。
私が一日で九州に戻る事を決めたのは半ば勢いと、唯の勘。
そして、九州の某駅。
予想通り、それも希望的観測の方ではなく、現実的な読み通り。
彼は一人ではなく、隣に女の人を連れていた。・・・やっぱり。
遠くから何となく見ても綺麗な人なのがわかる。・・・むかつく。
それだけなら良かった。
だって、予想通りだから。
さあ、新幹線の中で溜めてた文句を言ってやろう、って思ってた。
でも。
「あ、みゆきー。お疲れ、大変だったろー? 一日でまた九州なんてさ」
満面の笑みで心底嬉しそうに手を振って駆け寄ってくる彼に、完全に出鼻をくじかれた。
喉元まで怒りがこみ上げてたのに、どこかに行ってしまった。
そして分かった、思い出した。
ああ、そうだ。
こういう人だった、光司さんって。
何だか自分が馬鹿みたいで思わず笑った。
いや、馬鹿なのは、疑いようもなく、間違いなく、絶ーーーっ対、光司さんなんだけど。
でも。
すっかり忘れてた自分が馬鹿らしかった。
初めて会った時も一目見て好きだとか言ってホントに命まで賭けて助けてくれてその後もこうして落ち着くまで傍にいてくれて。
女の子の中で、私だけが特別じゃないんだろうけど、本気でそういうことしちゃう。
こんな馬鹿だから好きになったんだった。
「・・・ん? なんで笑ってんの? みゆき」
「いや、なんでもないよ」
と言って挨拶代わりに、彼の腹に軽くパンチする。
「?」
光司さんはきょとん、としてる。
時々びっくりするくらい勘が良くて、心を見透かしたようにドキドキさせる事を言う癖に、こういうところホント鈍感。
「いーの。・・・それより、そちらの方は?」
「・・・ああ、美智って言うんだけど、昨日知り合ってさ」
「どーせその人も彼女だ、って言うんでしょ?」
「勿論。好きな子じゃなきゃ、一緒に居ないし。約束通り、みゆきの前ではイチャイチャしてないよ」
「はいはい。わかってるってば。」
美智さん、っていう女の人に顔を向ける。
クールビューティ、って言葉は彼女のためにあるような、綺麗な人。
ちょっと光司さんに失礼だけど、ホントに光司さんの事好きなのかなって疑いたくなるくらい、しっかりしてそうな人。
「こんにちは、はじめまして。篠原み・・」
「光司から色々と聞かされたからいいわ。・・・あなたは『この状況』で納得してるの?」
単刀直入。
被せるように言ったけど、怒りとか嫉妬みたいな嫌な感情を含まない真っ直ぐな視線。
それと、すべてを取っ払って核心だけを突いた一言で、充分すぎるほどこの人の性格がわかった気がした。
だったら、私も恥ずかしがる必要はない。
「ええ。
正直、此処に来るまでは彼が『ここまで』だってこと、ちょっと忘れてましたけど。
こういう人だから好きになったんだと思います。
・・・それは、多分じゃなくて、絶対。」
その女の人はちょっと驚いたように目を見開いて、そして、微笑んだ。
まずいなぁ。
この人、さっきまでの澄ました顔も綺麗だけど、笑った時の方がずっと可愛い。
「そう、それなら長い付き合いになりそう。
よろしく。不知火美智です。
・・・光司から聞いてたし、遠くから見た時も思ったけど・・・それ以上に手強い相手ね。」
そう言いながらも美智さんは笑って。
つられて私も思わず笑ってしまった。
友達とは違うけど、深いつながりをもった人が急に出来たような気がして。
「・・・ふたりとも何話してるのかよくわかんねーんだけど?」
「「光司(さん)はわからなくていいよ」」
「えー! なんだそれ、気になるなぁー。ま、二人が仲良くて良かったー!」
「なんで? 私達が仲良くなくってもお構いなしな気がしてたけど?」
「だって、三人で遊び行けると楽しいし・・・こんなこともできるし」
言いつつ、いきなり左右の手で私と美智さんの胸を触る。
「するな」
隙だらけの顎の下めがけてパンチ。
当然、さっきみたいな手加減したものじゃなくて。
はずみで後ろの壁に後頭部を打ったらしく、悶絶してる。・・・いい気味だ。
「・・・ったく、ね? 美智さん?」
「こんな場所じゃ・・・・・・」
俯いて赤面してる・・・けどちょっと嬉しそう。
うーん、前言撤回。
私が言えたことじゃないけど、惚れすぎでしょ。
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