\ 「じゃあ改めてこれからどうするか考えようか」 スケさんと姫乃は最初に出会った地点より少し離れた潅木の茂みに移動していた。 あの場所は見晴らしが良すぎて、どこに殺し合いに乗った人間がいるかわからないこの状況では危険だと判断したためである。 近くまで来られればすぐわかるとはいえ、少しでも自分達の身を隠せる場所でゆっくりと話したかったのだ。 隠れるのはあまりにも心もとない場所だが、何もないよりはマシだ。 これでもスケさんの支給品だったロープで周りの枝を縛って集めているので、ある程度の偽装は出来ている。 「まず、最優先することは信頼できる仲間との合流だね。 そのためにこの拡声器をどう使うのが一番いいか考えなくちゃいけない」 「あ、その前にスケさんに聞いていい? スケさんは名簿に知り合いとか載ってなかったの?」 スケさんの言葉をさえぎるように身を乗り出して姫乃が尋ねる。 少し落ち着いたことで、目の前の透明人間自身のことが気になってきたらしい。 「そうだね。俺も姫乃さんの友達のことは名前しか聞いてないし、まずは情報交換をしようか。 親しい友人はいなかったけれど、知り合いならいたよ。この孫悟空とヤムチャとは前に闘ったことがある」 「闘った!? この二人危ない人なの!?」 「違う違う。試合として闘った事があるのさ。残念ながら負けちゃったけどね。 なかなか信頼できる相手だと思うよ。2人ともこの殺し合いには間違っても乗らないだろう。 むしろどこかで人助けとかしてそうだね」 透明だからよくわからないがスケさんは肩をすくめたのだろう。浮いてるように見える首輪が上下する。 姫乃は笑顔でこの同じ殺し合いの場にいる知り合いに思いを馳せるスケさんが見えた気がした。 ただ一度闘った――それだけの相手でほとんど面識もないのだが、スケさんはどこか自信ありげだ。 「そうなんだ・・・・・・よかった。いい人達なんだね。」 「ただ……最初に見せしめで殺された背の低い男を覚えているかい? あいつはクリリンといってこの2人の仲間なんだよ」 この3人と会い、そしてヤムチャと闘ったときのことを思い出す。 3人――特に悟空とクリリンは本当に仲が良かった。親友を失った悲しみはいかばかりなことか。 「あの人の友達だったんだ……。じゃああのとき叫んでた人が悟空さんかヤムチャさん?」 「あれが悟空だよ。ツンツン頭のやつな。ヤムチャは逆に長髪で――」 ◆ ◆ ◆ 「あはは……なんか話が盛り上がっちゃったね」 「うーん。姫乃さんの世界の死人は頭の上の輪がないんだな。そこで幽霊だっていうガクくんを見分けるのは無理か。 でも聞いた限りじゃかなり個性的なやつみたいだし、見ればわかるかな」 最初はお互いの知り合いの情報交換だけのはずだったのだが、2人で話しているうちに生活について盛り上がってしまった。 姫乃はうたかた荘での生活を語り、スケさんは占いババに共に仕えるドラキュラマンやミイラくん、アックマンなどとの生活を語る。 おかげで、透明人間という見たこともない人種になかなか慣れなかった姫乃もスケさんに馴染んだので結果オーライかもしれない。 そして――、この話でわかった重要なこと。それはスケさんと姫乃がいた世界は違う世界である可能性が高いということだ。 そもそも姫乃の世界に透明人間なんてものはいないし、世界情勢、有名人の話、死んだ人間がどうなるか。なにもかもが一致しない。 そう、ただ違う国からつれてこられたとかそういうレベルではないほどに――。 だから、2人は納得した。主催者は他の世界から人を集めてこられるような力を持っていることを。 「よし! じゃあこれくらいでお互いの話は置いとこう。最初の話に戻ろうか。さて、これからどうするか」 しかし、それでも前向きなままだ。前向きなままで先のことを考えようとしている。 それは芯が強く、ここぞというときは譲らない強情さをもつ姫乃と、慎重で物事をしっかりと考えるスケさんの2人だからなのかもしれない。 「まず、向こうに見える塔と海の位置からして、俺たちがいるのはたぶんこのあたりだね。ちょうどC-8の位置」 真ん中に地図を広げ、周りに光が漏れないようガードしながら懐中電灯で照らして作戦会議をする。 自分が苦労した地図をあっさりと読むスケさんに感心しながらも、姫乃も周囲の地形について考えた。 「近くにあるのは神社と塔かぁ。塔の周りは市街地なのかな。 でも市街地には他にも建物あるみたいなのに、なんで塔と廃ビルだけ書いてあるんだろう」 「それは確かにそうだね。塔は目印になるものだからわかるとして、廃ビルだけ名前が書いてあるのはなにか意味があるんだろうか? この名前が書いてないビルもよくわからないね。しかし、縮尺も書いてないとはなんて地図だ。コンパスを見ると上が北のようだけどそれすら書いてない」 「スケさん凄いね……私」