リゾナントブルーAnother Versからストーリーを想像するスレ 第46話『正義と悪、天使と魔女』



初めに――

エリソン・P・カーメイです。
歴史と聞いただけで「退屈そう」なんて、言わないで。
リゾナン史は、ごく身近な設問から深めていく事が出来るんです。

何回かに渡って行う講義のテーマは「RESONANT」共鳴、胸の高鳴りについてです。
毎回リゾスレを一話ずつ振り返りながら、共鳴とは何か、胸の高鳴る方とは一体どこの事なのか?
幾つかの作品を通して、リゾナンター達の生き様について考えてみたいと思います。



リゾナントブルーAnother Versからストーリーを想像するスレ 第46話『正義と悪、天使と魔女』


この講義は「共鳴」についてです。
まずこの話>>77-78『Remember the Time』から始めよう。
ジュンジュンはリゾナンターの一員として戦ってきたが、自分だけが変わっていないのではないかと不安に駆られる。
リゾナンターは正義のために戦っている筈なのに、自分は復讐心に突き動かされているだけではないか、
ジュンジュンはその事に気付いて苦悩するが、答えは見つからない。そして恐怖する。
復讐すべき最後の敵に出会ってしまったら?自分の弱さを見透かされてしまったら?正義とは何か答えられるのだろうか?
ジュンジュンは己がここにいる意味が分からない。が、その時、リーダーの高橋愛がこう彼女に言う。

そういう事は自然に分かっていくものだから、焦っても仕方がない。
自分が出来る事をやった結果、見えてくるものだと。
そしてこうも言う。変わらないでいるという事も大切であると。
自分をしっかり持って、一歩ずつ進んでいけばいつかは正しい道に辿り着く。とね。

ここで質問だ。
高橋愛のこの言葉は、ジュンジュンの苦悩についての解答になり得るのだろうか?
多数決を採ってみよう。なり得ると思う人、手を挙げて。

(多数の手が挙がる)

では、高橋愛の言葉は、ジュンジュンの苦悩についての解答にはなり得ないと思う人、手を。

(少数の手が挙がる)

成程、なり得ると思う人の方が多いみたいだね。
では何故高橋愛の言葉がジュンジュンの苦悩に解答を与えるのか、理由を聞きたい。多数派から始めよう、誰か説明できる人は……君。

―私は、この高橋愛の言葉はとても正しい事を言ってると思います。正義とか、自分がここにいる事の意味とかって、言葉にするのすごく難しいと思いますから。
だから高橋愛が言うように、自然に見出していくしかないと?
―はい。ジュンジュンは自分が復讐心のみで動いてるかもしれないと思ってますが、でも心の違う部分ではそうじゃないとも思ってるはずです。
成程。つまり高橋愛は、ジュンジュンの心の内には正義に対する解答の萌芽となり得るものが既にあると言ってるんだね。
―はい。あとは時間をかけて、進んでいけばいいと思います。
ありがとう。名前は?
―アイーシャ。

では少数派の中に、今のアイーシャの意見に反論のある人はいるかな?
いたら手を挙げて……よし、君。

名前は?
―ジュリーです。
ジュリー。今のアイーシャの意見に対して、君の考えを聞かせてくれないかい?
―僕は、高橋愛のこの言葉は、問題を先送りしているだけにすぎないと思います。
問題の先送り。
―ジュンジュンが自然に正義の意味を見出す前に、復讐すべき敵に出会ってしまう可能性だってあるわけですから。
成程、つまりこの時のジュンジュンにはもっと直接的な言葉が必要だったと言うんだね。
―ええ。それが何か…は僕にもよく分かりませんけど。
それが何かはこの先の講義で考えていく事にしよう。……これも問題の先送りかな?(一同笑い)

高橋愛の言葉はジュンジュンの葛藤に対して有効な解答を与えたか否かという問題に、肯定派と否定派から意見を貰ったわけだけど、
別の視点からの意見がある人はいるかな……よし、君。

―僕は、ジュンジュンの目の前の霧は晴れたと思います。
それは何故かな?
―ジュンジュンが直面している問題は、結局は本人次第だと思うんで。愛ちゃんにこう言ってもらったのならジュンジュンの迷いも吹っ切れます。
愛ちゃんとは、高橋愛の事かい?
―ええ、そうです。愛ちゃんに励ましてもらえれば勇気百倍です。
成程、言葉の内容以上に、それを高橋愛が言ったという事が重要だと考えているんだね。
―はい。
それは何故かな。何故高橋愛が言ったという事が重要なんだい?
―それは…愛ちゃんは天使だからです。
天使?愛ちゃ…高橋愛が天使だから、天使がそう言ったんだから、ジュンジュンは勇気百倍間違いなしだと、そういう事かい?
―ええ、そうです。違いますか?
いや、今君は非常に興味深い意見を言ってくれた。名前は?
―アイケルです。
アイケル、ありがとう。

ここまでの議論で、私たちはこのような意見を得た。
一つは、正義という概念は非常に言語化が困難であるという事。
そしてもう一つは、何を言ったか?よりも誰が言ったか?が重要になるケースもあり得るという事。それが天使ならば尚更だね。

(一同笑い)

では次に、この二つの意見。つまり正義と天使に対する強烈な反論を見てみよう。
 >>103-116『Regina Ice Age』
悪と、魔女に関する著作だ。

舞台はゲティスバーグ。
そこで、大統領暗殺事件の公開裁判が行われる。いや、裁判の名を借りた処刑と言うべきかもしれないね。
裁かれるのは、氷の魔女ミティ。
ミティは裁判の中で、正義言う名の欺瞞、民主主義の矛盾、そして人間の脆弱さといった物を次々と暴き立て、
そして遂には…驚くべき事にアメリカそのものを飲み込んでしまう。
恐るべき著作だ。我々アメリカ人にとっては特に。(カーメイ氏苦笑い)

さてミティは、この著作の中で幾つか非常に興味深い主張をしている。
発言を幾つか紹介してみよう。

「お前は馬鹿だ。あたしの言葉の本質を捉えることが出来ないでいる。言葉の表面しか捉えることの出来ない救いようのない馬鹿だ」
「その希望だ、光だなんのっていう甘ったるい言葉を聞くたびに、あたしの背中はむず痒くなってくる」
「自由、平等、博愛主義。この国の掲げる理念の全部がまやかしだ」
「感情の赴くままに行動する。それこそが本当の自由って奴さ」
「人は背反する行動原理を、己の中に共存させられる不思議な生き物だ」

君たちの意見が聞きたい。このミティの発言に同意するという人は、手を挙げて。

(僅かに手が挙がる)

では、同意できないという人。

(多数の手が挙がる)

同意できないという人が多いようだね。理由を聞いてみよう。誰か説明してくれる人はいるかな?……君。
どうして、魔女ミティの主張には同意できないんだい?

―だって、ミティの言ってる事は滅茶苦茶です。同意できるわけありません。
君の名前は?
―リーナ。
リーナ。何故ミティの言ってる事が滅茶苦茶だと思うんだい?
―私は自由や平等といった理念は、決してまやかしではないと思います。
でも現に、この著作の中での合衆国には明るい未来といったものは期待できなかった。行き詰っていたんだ。
―行き詰っていたからといって、理念がまやかしだとはならないと思います。
たまたま上手く行ってないだけで、理念そのものに誤りがあるわけではないと言いたいんだね?
―はい。そうです。
ありがとう。

では、今の意見に反論がある人は…お、勢いがあるね。君。

―リーナは個人的にミティが嫌いなだけなんじゃないでしょうか。
リーナはミティが嫌い?嫌いなのかい?(リーナ苦笑い)
―ミティは真実を暴き立てています。人間が直視しようとはしない真実を。
君の名前を聞いてもいいかい?
―フジモーティ。
フジモーティ。君はミティが好き?
―ええ、好きです。
ミティに踏まれたい?
―勿論。(一同笑い)
失礼。私は学生のそういった嗜好に関してまではどうこう言うつもりはないよ。
フジモーティ、君はミティは真実を暴き立てていると言ったが、自由や平等という理念についてのミティの主張についてはどうだい?
―ミティの言う通りだと思います。自由や平等はまやかしです。現に合衆国は瓦解した。
それは事実だ。少なくともこの著作の中ではね。しかし、事実であるという事と、真実であるという事には、ある種の違いがあるんじゃないだろうか?
―それは…あるかもしれませんが。
ではミティは真実を暴いたというよりは、事実を指摘したとする方が適切だとは思わないかい?
―そういう考え方もあるかもしれませんが、ミティがそう言ったのであればそれが真実だと思います。
それはつまり、「愛ちゃんは天使だから」という事と同じ気持ちだね。
―ええ。そういう事になります。
フジモーティ。勇気ある意見だった。どうもありがとう。

さてここで、一つの疑問が湧いてくる。つまり、ミティは人間の真実を暴き立てたのではなく、
甘ったるい「博愛主義の自由」の代わりに、辛辣な「感情の赴くままの自由」を提供したにすぎないのではないか。という疑問だ。
愚かな民衆に、チョコレートの代わりにピリ辛のタコスを食べさせてやっただけなんじゃないか?とね。
先程のジュンジュンの話に戻れば、高橋愛の言葉もこの疑問に行きつく。
優しい言葉と、直接的な助言。これらは言いかえればコインの表と裏なのかもしれない。

この疑問について考えるには、次の著作を読みこんでみる必要がある。
 >>764-774『“未来”への反逆者たち ―闇と光(1)―』
この著作は、言語化するのが困難な「正義」という概念に対し、ある一つの解答を示している。

が、しかしこの著作は多くの紙数を費やして書かれているので、残念ながらこの講義の中では全てを紹介する事は出来ない。
ここでは一部を抜粋するだけにしよう。

愛が言ってくれた―――れいなが自分の側にいてくれて本当によかったと。
里沙が示してくれた―――強い意志を持てば進むべき道は踏み変えられるのだということを。
絵里が教えてくれた―――隣り合わせの死をただ怖れるだけでは何もできないのだということを。
さゆみが微笑んでくれた―――れいなのお父さんとお母さん、すごく優しそうだねと。
小春が受け取ってくれた―――自分たちが託した未来への希望と“責任”を。
愛佳が見せてくれた―――未来と真正面から向き合い、進んでいくことの大切さを。
ジュンジュンが分からせてくれた―――本当の平和というもののあるべき姿を。
リンリンが照らしてくれた―――今このとき……自分たちが進むべき未来への道を。

これは、リゾナンター田中れいなが己の信じる道を見出した様子の記述だ。
田中れいなを支えるものは次の八つだ。

存在の肯定。
強固な意志。
勇気。
優しさ。
責任感。
誠実さ。
平和。
そして、未来。

これらは先程のジュンジュンの葛藤にある種の解答を与え得る物なのではないだろうか?
魔女ミティの嘲笑を跳ね返すだけの精神の高貴さがあるのではないだろうか?
……結論を急ぐ前に、我々には一つ考えなければならない事がある。

それは、このような強い心の力、言うなれば黄金の精神を果たして人間が持ち得るのかという問題だ。
現に田中れいなはそれを可能にしたが、それは何故か?
それこそがつまり共鳴の力「resonant」なのではないだろうか?

次回の講義では、この疑問を突き詰め、そして更に「共鳴」について深く議論してみよう。
ではまた、胸の高鳴る頃に。

(カーメイ氏退場)





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最終更新:2010年07月17日 19:46