第7話 正義の戦士
「……ここはどこかしらね」
豪華な魔術師風の着物を来た美女が辺りを見回して溜息をつく。
彼女の名前は、蘇 妲己(そ だっき)。
天津市聖杯戦争において、今は亡き八神恭二のサーヴァントとして召喚されたキャスター(魔術師)の英霊であった。
「ここは、単なる草原地帯。
東に行けば、街道があり、街道沿いに北に行けば町があるようだ……」
音も気配もなく、妲己の背後を取っていたのは、剣を背負い、中年顔の男。
年季の入った革の鎧の上にボロボロのマントを羽織った筋骨隆々の大柄な戦士アドレイ・スティーブンソンだった。
彼は眺めていた地図を折りたたむと、妲己に微笑みかける。
「――ッ!?
この私の背後を取るとは、あなた、できるわね……」
背後を振り向き、アドレイの姿を確認すると冷や汗をかきながら、妲己は後ずさりする。
「……ああ、俺はレベル35の男だからな……多少は腕が立つのかもしれない。
俺の名はアドレイ・スティーブンソン。……正義の戦士さ」
クールかつ、ニヒルに、だが、少しシャイに微笑むアドレイ。
「……私は……――私は、キャスターの蘇 妲己。クラスの通り、一応は、魔術師らしいわね」
妲己は、キャスターと名乗るか、蘇 妲己か一瞬迷った。
真名である蘇 妲己と名乗れば、自分の能力や、はたまたどんな人間かも知られてしまうかもしれないからだ。
蘇 妲己というのは、”封神演義”において、余りに有名なのだから。
だが、彼女は面倒なので、両方を名乗ることにした。
「ほう、ダッキか……キミに合う美しい名前だな」
「……え?」
一瞬、頬を紅く染めて、ときめく妲己。
「では、はじめようか」
だが、次の瞬間、アドレイは一瞬にして剣を抜き、妲己に斬りかかる。
「……ッ!? いきなり斬りかかってくるなんて……正義の戦士の風上にもおけないわね……アドレイさん!?」
間一髪で、アドレイの神速の太刀を回避した妲己は、冷や汗を流した。
”始めようか”
その言葉がなければ、彼女は避ける事は出来なかった。
それ程の力量の持ち主なのだ。アドレイは。
「俺は他人優先主義……高田が殺し合いを望むのならば、俺はヤツの意を汲み殺し合いをするまでだ」
「……意味が分からないわね」
後ろに下がりながら、アドレイ目掛けて光弾の雨を降らす妲己。
だが、その魔術攻撃を避け、時には剣ではじき、アドレイは確実に妲己への距離を詰める。
彼の手に握られた”聖剣フルゴール”がきらめく。
「――何やってんだ!!」
男の怒号。
そして、次の瞬間には男の手に握られたハンドキャノンから砲弾が放たれる。
「ほう……」
アドレイは、振り向きざまに刀を一閃する。
ほぼ同時に彼は砲弾を真正面から両断した。
否、両断一歩手前で、弾頭に刃が叩き込まれたと同時に砲弾が光を放つ。
刹那、巻き起こる爆炎がアドレイを包み込んだのだった。
炎に包まれるアドレイを見て、網井はゆっくりと溜息をついた。
そして、戦士風の男に襲われている魔術師風の女を見て、眉を吊り上げた。
「……何だか、前にもこんな事があったような……まぁいいや。
それよりも、あんた、だいじょう」
「坊や! 後ろ!!」
網井の背後を指差し、叫ぶ妲己。
網井は、炎に包まれたアドレイから目を離していた。
もう既にアドレイを倒したと思い込んでいたのであった。
その一瞬の隙をついて、炎に包まれた歴戦の戦士であるアドレイが剣を上段に構えて網井に斬りかかる。
「……ちっ、ハンドキャノンをクッション代わりに俺の衝撃吸収(インパクトイレイズ)で受け――」
だが、アドレイの聖剣フルゴールは、豆腐でも斬るかのようにハンドキャノンを真っ二つにし、網井の身体を両断していた。
「……う、ウソ……だろ、う?」
肩から腰に掛けて両断された網井の肉片が地面を転がる。
誰が見ても、致命傷なのは一目瞭然である。
アドレイは網井の遺体を蹴飛ばし、もう動かないことを確認すると周囲を見回す。
網井だけでなく、妲己をも仕留めるつもりでいるのだ。
「さて、次は……おや? ダッキは逃げたか……まあいい。
俺は他人優先主義……相手が逃げたいというならば、見逃がしてやるのが俺の正義(ジャスティス)」
身体中に軽い火傷を負いながらも一向に気にすることもなく、剣に付着した血のりを払い、アドレイは歩みを進めた。
高田の望んだ殺し合いを行うために。
網井 海斗@C2ロワイアル 死亡 残り42人
最終更新:2015年01月26日 23:01