第14話 天才達の宴
「全く……無粋なものです」
三国志の雄、天才軍師、諸葛亮孔明は、やれやれと溜息を吐いた。
「私は頭脳労働者なのですよ? そんな私に戦え? 殺し合いをしろ?
まったくもって、度し難い事を言いますねぇ……あの高田とかいう男は」
愚痴をこぼしつつ、デイバッグを開けて、支給品を確認する。
出てきたのは、小さな薬瓶だった。
瓶のラベルには”ジキルハイド長時間仕様”と書かれている。
この薬を飲むと、二重人格で真逆の性格を持っていたジキル博士のごとく、性格が真逆に反転してしまう。
だが、西暦200年前後の中国の英雄である孔明に、そんな事を知る術は無かった。
(……何かの薬だろうか?)
当然の疑問を浮かべる孔明。
彼は小瓶を手で弄びながら、これからの事を考えようとする。
「おい、おっさん!」
そんな孔明に声をかけたのは、長身のスポーツマン風の少年――乱堂毅だった。
彼は、多少間の抜けている性格ではあるが、学業優秀、スポーツ万能でバンドまでこなす天才中学生である。
「おっさんとは失礼な……私は諸葛亮孔明。少年よ、貴方は誰です」
(下品な……これだから、育ちの悪い餓鬼は嫌いなのですよ……)
言葉では丁寧に、だが心の中では、反対の事を考えながら孔明は乱堂に微笑みかける。
「コーメー? 三国志に出てくる知力100あるチートキャラみたいな名前だな。
まあいいや。俺は乱堂毅、普通の中学生だ。
俺はやらなくちゃいけない事があるから、元の世界に戻る方法を探している。
知っていたら、教えてくれ」
余りにもストレートに聞いてくる乱堂に孔明は、心の中で苦笑いする。
(こんな馬鹿は初めて見た。いや、馬鹿だからこそ扱いやすい……か)
そして、心の中で悪辣な笑みを浮かべる。
「帰る方法なら、ありますよ」
「何だって!? どうやったら帰れるんだ!!」
乱堂は、孔明の胸ぐらを掴み上げると、顔を近づけて声を荒げた。
孔明は、その行為を鬱陶しく思いながらも、笑顔で対応する。
「落ち着きなさい。ランドー君。まあ、これも飲んで一先ず落ち着くのです」
と言いながらも孔明は、後ろ手で”ジキルハイド”をひとたらし程ペットボトルに入れていた。
そして、友好的な笑顔で飲料水を勧めると、乱堂はペットボトルを受け取った。
「ああ、すまないな、孔明さん」
乱堂はそれを一気飲みした。
カラになったペットボトルの容器が乱堂の手からこぼれ落ち、彼は震えだす。
白目を剥き、ヨダレを垂らし、ぶるぶると震える姿は、彼の飲んだ薬が身体に有害なものなのだろうと、孔明が判断を下すには充分だったのだろう。
(……毒、でしたか。可愛そうですが、これも尊い犠牲だと思いましょう……)
そして、彼は豹変したのだった。
「オレは天才だッッ!!」
はっちゃけたテンションで高笑いを上げる乱堂に流石の孔明も驚く。
双方ともがその豹変の原因がジキルハイドにあるのだろうと憶測はつくが、その薬の効能までは分からないといったところか。
「ど、毒じゃなかったのか!?」
思わず、言ってはならぬ事を口ばしってしまう孔明。
その言葉に乱堂の高笑いがピタリと止む。
そして、しまった、といった風に自らの失言に口を覆う孔明だったが、彼も戦に生きた男である。
戦う覚悟を決めて、構えを取る。
英雄戦争で孔明の得た能力は”風のモード”――風を操る能力である。
「その構え、孔明、オレと戦う気かぁ?」
「ええ、貴方が私と戦う気でいるのなら……」
「天才たるオレを毒殺しようとしたクズがエラそうな事を言う……キッヒッヒッヒ」
「……風よ、巻き起これ」
孔明は風を起こす。
突風で乱堂を吹き飛ばす為だ。
乱堂の正面から人間を軽々と吹き飛ばせるほどの風が叩きつけられる。
圧倒的な風力で、乱堂は岸壁へと叩きつけられた。
よろよろと、めり込んだ岸壁から抜け出す乱堂。
「……なかなかの技だ。お前の起こすその風、試しにその技を極めてみるとしよう」
身体中についた岩の破片を払いながら、不敵に笑う乱堂。
彼は、猿真似のように孔明と同じ構えを取る。
「何を言っているか理解出来かねますが……終わりです。風よ――圧潰なさい!!」
「キッヒッヒ、風よ!」
孔明が上空に巨大な竜巻を発生させ、ソレを圧縮してく。
そして、乱堂に向かいその巨大な風圧を叩きようとした。
だが、その寸前、乱堂の指先から放たれた一筋の真空波が孔明の首を切断していた。
孔明は何が起こったのかも理解できない内に絶命したのだった。
孔明の敗因はひとつ。
乱堂を侮っていた事であった。
乱堂は、間違いなく天才であったのだから……。
諸葛亮孔明@英雄戦争 死亡 残り34人
最終更新:2015年01月26日 23:08