第21話 「第3の女」


 町はずれを早々と歩く二つの男の影。
 それは魔術医の東雲漸次。
 そして、大天使ルシフェルの二人だった。

「ルシフェルさん、よく考えたんだが……」

「どうした」

「俺はこの島は、聖杯の中だと最初思ったんだ……。
 だけど、よく考えたら、この支給品というもの……。
 俺に与えられたのは、この鉄の斧なんだが……。
 聖杯戦争ってこういうものなのか……疑問なんだ。
 これは、聖杯とはまるで何か違う――得体のしれない何かの事件に俺達巻き込まれてるんじゃないかと思うんだよ」

「そうだな。あの高田とかいう男……どういうつもりだ?
 一体私たちが今どういう状況に置かれているのか……調べればわかるだろうが、すまない、私には興味がないんでね。
 詳しいことはまたアークエンジェル達にでも聞いてみるんだな、誰か知ってるんじゃないか?」

「アークエンジェルとは……?」

 ルシフェルの謎めいた言葉に疑問符を投げかける漸次。

「イーノック。神を裏切った堕天使達を天界へ連れ戻せ、それがお前の使命。
 心配するな、私も彼らのそばにいる」

「堕天使……が何だって?」

 更に意味不明な事を呟くルシフェルに対し、更に疑問を投げかける漸次。
 だが、そんな二人の会話を遮るように乱入者が現れるのだった。

「た、助けて下さい!」

 それは若い女の悲痛な声。
 身体中に擦り傷を作りながら、雑木林の中から姿を現した学生服の女。
 彼女の名は、大宮利美。普通の女子高生である。

「フッフフフ……見ろ、また奇妙なやつが出てきたぞ」

 ルシフェルは性分のせいか、どこかとぼけた様子でそう言う。

「助けてとはどういう事か。誰かに追われているのか?」

 だが、魔術師である漸次は冷静に今の状況を分析するために利美から情報を得ようと行動した。

「は、はい……」

「相手は何人だ?」

「ふ、ふたりのおじさん達です」

「どんな武器でどんな攻撃を仕掛けてきたんだ?」

「えっと……刀、を持った人と……銃を持ってるひとでした……何だか親しげな様子でした」

 漸次の質問に対し、利美は思考を走らす事で、少しずつ冷静さを取り戻していく。

「ふたりとも中年ってくらいの風貌で……片方は関西弁を喋ってました!
 もう一人は、何かにつけて”バカチンがー!”って叫んでいて……それが口癖だと思います!」

 二人の特徴を細かく説明していく頃には、利美は既に冷静さを取り戻しており、逆にその襲撃者ふたりに怒りさえ覚えているかの様子であった。

「そうか。よく頑張ったな。俺は東雲漸次。医者だ。
 そして、彼は俺の友人のルシフェル」

「やあ」

 気さくに挨拶をするルシフェル。

「ルシフェル……それは本名、なんですよね? どういう方なんですか?」

「それは……」

 漸次は、利美がただの人間である事を見破っていた。
 魔術師ではない。英霊でもない。そういった裏の世界の匂いを全く感じなかったからだ。
 だから、ルシフェルという存在を説明できなかった。
 故に、言葉に詰まってしまう。

「エンジェルさ」

 だが、ルシフェルはあっけらかんと自分の正体を明かした。

 普通の世界で暮らしていた利美であったが、不思議のダンジョン内での人々との出会いもあり、ルシフェルという存在をゆっくりだが、受け入れる事が出来た。

「そう……エンジェルのルシフェルさん、ね。私は大宮利美。高校生。よろしく」

「ルシフェルさん、利美ちゃんは疲れている。
 俺がしんがりを引き受けるので、申し訳ないが、どこか身を隠せそうな所まで先導してくれないか?」

「いや、君の頼みは断れないよ。神は絶対だからね……さあ、行こう」

 そう言ってルシフェルは、先頭を。
 利美が真ん中で、漸次が後尾を行く事になったのだった。
最終更新:2015年01月26日 23:12