第一話「Get Wild」


「選挙も落ちちゃったし、最近芸能界の仕事も減ってきたし、ここらで一発ガツンと目立っとかないなー!」

 元衆院議員の杉村太蔵は支給品の拳銃ベレッタを手に、意気揚々と島を探索していた。
 彼が配置されていたのは、島の南東にある岬だった。
 こんな所に居たら、誰かと遭遇すると逃げ道がない。
 そう考えた彼は地図を見て逃げ場の多い、ジャングル地区に向かうために北上する事にした。

「ショーコスギやケインコスギは結構強そうだったなー……ガタイもいいし。
 だけどまあ、銃があれば何とかなるだろ」

 そんなお気楽気分だった彼が道を進んでいると、見た事のある顔を見つけた。
 ノースリーブのGジャンを着た七三分けの男だった。
 男ははにかみながらも太蔵に近づいていく。

「スギちゃん、殺し合いの中でも手ぶらだぜぇ……ワイルドだろォ?」

 パァン!
 それは、銃撃の音。
 太蔵のベレッタから放たれた弾丸はスギちゃんを撃っていた。
 ドタァン!
 地面の上に倒れるスギちゃん。

「最近売れてるからって調子に乗ってンじゃねぇぞ!」

 鼻で笑い、立ち去ろうとする太蔵。
 しかし次の瞬間、彼は後頭部に衝撃を受け倒れた。

「……なんだぁ?」

 太蔵には、自分に何が起こったのか分からない。
 ただ頭が痛い、そして、何故か立ち上がれない。

「スギちゃん、殺し合いに乗ったヤツには容赦しないぜェ……ワイルドだろォ!?」

 太蔵の傍らには、血のりのついた人の頭ほどの石を振り上げたスギちゃんが立っていた。

「ヤメ――」

 ガッ!!
 そんな鈍い音と共に渾身の一撃が太蔵の後頭部を叩き潰した。

 スギちゃんは、荒々しく息を整えながら尻餅をついた。

「防弾チョッキ着ててよかったぜぇ…………」

 そして、彼は胸元を開けて、Gジャンの下に着ていた支給品の”防弾チョッキ”を見て大きく息を吐いた。
 スギちゃんはワイルドキャラで通っていたが、実は結構、小心者なのだ。



出席番号 10 番  杉村太蔵          ――死亡  残り16人
最終更新:2015年01月27日 17:18