~第1話 日常の終焉 (遠山 圭介視点)
…んっ。
何だここは…ゴツゴツしてる。
俺は、ゆっくりと目を開けた。
机の上で突っ伏すように寝ていた。
ここは見慣れない薄暗く寂れた教室。
俺は、ふと首に違和感を感じた。
そっと自分の首の違和感の正体をなぞる。
冷たい金属の首輪みたいなものが巻かれていた。
「なんだこれ…」
俺は、この異様さに混乱した。
まず目に入ったのが周りにも俺と同様に寝ているクラスメイト…と見知らぬ男女達がそれぞれに起き出してきている。
みんなの首にはやはり鈍く光る金属製の首輪がはめられていた。
夢、と思いたかったが、こんな所で寝ていた所為か身体の節々が痛み、それが現実感を呼び起こす。
どのくらい寝ていたのだろうか。
閉鎖的で、ほこり臭くじめじめした空気が漂っている。
そんな嫌な雰囲気に呑まれたのか、何だか嫌な予感がした。
俺達は修学旅行の最中だったはず…大阪行きのバスに乗って…車内にガスのようなものが沸いて…急に眠気に…くそ…何でこんな場所に…。
「圭介…」
名を呼ばれ、俺の思考が中断される。
後ろの席を振り向くと、声の主、御巫 貴史(みかなぎ・たかし)がまぶたを擦りながら、こちらを見ていた。
真面目で大人しい、色々社会…というか社会の裏の雑学に詳しい、所謂そっち側のオタクってやつだ。
普段大人しいやつだが、話してみると意外にお喋り好きな男だった。
話の面白いやつで、何度かアンダーグラウンドな話を聞かされた事もあるが。
「ここは一体…拉致…られたのか?」
そう小声で話し掛けてきた貴史の声は震えていた。
「拉「ちっ、何だコリャ!」
俺の声を遮るように毒づいたのは、前の席に座っていた鷹嶋龍光だった。
野球部のエース…うちの野球部は全国大会出場など成績はよいが、反面素行が悪いやつも中には居る。
龍光は、クラス内ではそこそこ大人しくしてるが、極度の面倒臭がり屋であまりいい印象を受けない。
外ではケンカもよくやるという噂も耐えないし、実際生傷が多い。
あまり話した事はないが…。
そんな事を考えていると、龍光は不機嫌に笑う。
「ハッ、俺は犬っころかよ」
そう言って、いじくりまわしていた首輪から手を放し、仰け反るように椅子に座った。
犬…か、たちの悪い冗談だが、全く笑えない。
その時ガチャリと扉の千錠が外された。
俺はドキリとし、教室内が静寂に包まれ、皆が扉に注目する。
ガラガラと扉が開いた。
そして、ぎょろりとした大きな目の眼鏡の中年の男と大東亜国防軍の軍服に身を包んだ兵士達が5人ほどぞろぞろと教室へ入ってきた。
兵士達は、迷彩服に迷彩ヘルメット、機関銃を肩にぶら下げ拳銃なども携帯しているようだった。
その中の中心人物であろう眼鏡の男は、教卓にファイルを置くと目を大きく見開き、口をニイッと歪ませ言う。
「こんにちは、皆さん。今日は君らにちょっと殺し合いをしてもらいます」
「ハイ、君らのクラスは栄光あるプログラムに選ばれたんやでぇ。拍手拍手~!」
「………………………………………」
関西弁の中年男の言葉に対するクラスの反応は沈黙だった。
実際、俺も中年男の言葉を理解するのに幾分かの間が必要だった。
「なんや…えらいノリの悪いクラスやな。ま、ええわ」
そう言って、静まりかえった教室内をぐるりと見回すと、中年男がやれやれといったオーバーアクションを取った。
「僕が君らのクラスを受け持つ事になった担当教官の西川ぎよしや。よろしゅうね」
「おい!」
怒気を帯びた声と共に立ち上がったのは、乱堂 毅(らんどう つよし)だった。
「おまえ! 殺し合いだと! ふざけやがって!!」
その目は理不尽な仕打ちに対する怒りだろうか。
今まさに飛び掛らんとする勢い、物凄い形相で西川を睨み付けている。
毅の隣で、彼の従妹である乱堂 玲花(らんどう れいか)が心配そうな視線を向けていた。
何が彼をそうさせるのだろう、熱血漢で正義感の強いやつだった。
そう、あいつの怒りは当然の怒りだ。
殺し合えだって? ふざけんじゃねえ!!
俺もそう思う。乱堂は余り虫の好かないやつだが、その意見は全同意だ!
だが、西川は冷徹な目で毅を見下し、周りの兵士達が機関銃を構える。
「…君は…ランドーくんやったね。君はどうやら自分の立場がわかっとらんようや」
そして、ジャケットのポケットからリモコンのようなものを出し、毅に向けた。
何をする気だ?
「わかっとらん子には教育が必要やなあ」
西川の口元が邪悪に歪む。
俺の心臓が早鐘のように高鳴る。
誰も動けない、だが何か嫌な事が起こる…教室内の空気が数℃ほど下がったような気がした。
最終更新:2015年01月30日 11:04