~第18話 接近



 白神大地は、ゆったりと歩いていた。
 周りは青々と木々に囲まれており、時折差し込む木漏れ日には意も介さない。
 彼の荷物はデイバッグひとつで、手には何も握られていない。

 午前11時か……。
 歩きながら、腕時計を確認する。
 プログラム開始から丁度3時間が経った。
 あと1時間すれば正午になり、最初の放送が流れる筈だ。

 しかし、らしくない事をしたものだ……。
 思わず、自殺志願者に差し伸べた僕の手。
 乱堂、毅か。

「少しセンチメンタルな気分になっているみたいだな、僕は」 

 自分の甘さに少し憂鬱になる。

 僕の当座の目的は、生き残る事……。
 そして、生きて”氷室玲人”と合流する事だ。
 彼は、高い戦闘技能を身に着けている。
 そう簡単に負けるような事はないと思うが、油断は出来ない。
 物事に絶対はないのだ。
 ただひたすら確率を上げる為、練磨していかねばならない。

 彼の目的が僕の護衛という名目があるように、僕にもやるべき事がある。
 彼に会うのはそれからという事になるな。


 何事もなく先を急ごうとした白神だったが、突然立ち止まる。


 風の木の葉を揺らす音に混じり、土を踏み締める音がした。
 近いな……。
 僕は、足音を立てないよう素早く木の陰へ身を隠した。

 ……女の子?

 それは、僕の存在には、気付かずに風のように駆け抜けていった女の子だった。
 背中に大きなデイバッグを担いだ、浅黒く日に焼けた、凄い速さ、一目見て分かるのはそのくらいか。

 表情は見れなかったが、何者なんだろうか。
 少し気になるが、余り関わりたくないのが本音だ。

 ……兎に角、様子を見るか。


【白神大地】《所持品》??? 《場所》森の中
最終更新:2015年01月30日 15:51