19話


「う、うわあ!!」
民家に隠れていた男子1番 秋下 徹(あきもと とおる)は、物音を聞き、飛び起きる。
「にゃあ?」
「あ・・ね、猫か・・・」
ホっと胸を撫で下ろし、徹は、支給品のパンを細かく千切って、猫にやる。

徹は、いわゆるオタクで、クラスでもあまりパッとしない人間だった。
友達も多くなく、こういう状況では、頼る人間も居なくて、こうやって隠れていたのであった。

「キミも一人ぼっちなのかい?」
「にゃあ~」
「飼い猫だったんだ。この島に取り残されたんだね」
猫の首輪に気付き、ふと、自分の首にはめられた首輪を指先でなぞる。
「ふふ、僕らも政府の飼い猫って訳で、さしずめ、玩具ってところか・・・」
そう考えると、笑いがこみ上げてくる。
「ああ・・・死にたくない。死にたくないよう・・・」
徹は、うずくまり、呪文のように「死にたくない」と繰り返す。
「にゃあ~」
徹は、擦り寄って来た猫を抱え上げた。
「はは、そうだな。お前だって、さっきまで一人ぼっちで頑張ってきたんだもんな」
「にゃふ」
猫は、床に下ろされると、徹の膝元にのっかり、丸まってしまった。

『YOー! 僕の可愛い生徒たちー! げんきに殺し合ってますかー?』
「ッ!?」


放送を聴き終わった徹は、愕然とした。
「まだ始まって、たいした時間も経ってないのに・・・」
すでに、9人のクラスメイトが死んでいたことよりも、その殺した相手が同じクラスメイト。
しかも昨日まで、一緒に机を並べていたクラスメイト。
それなのに、自分を殺しにやってくるクラスメイト。
そんな普段では、考えられないクラスメイトが、ぐるぐると回っていた。

徹は、握り締めた地図を確認する。
「ちっ、次は、ここが禁止区か。ついてないな・・・」
地図を折りたたむと、荷物をまとめに掛かる。
支給武器のS&W(スミス アンド ウェッジ)に銃弾を込め、家を出ようとする。
「にゃあ~」
後ろから、猫が着いて来た。
「んー、困ったなぁ・・・」
どうやら、懐いてしまったようだ。
「着いて来るのは、構わないけど、無闇に声を上げたりしないでくれよ?」
そう言い、デイバッグを両肩に回して背負い、猫を左手に抱える。
猫は、それを理解したのか、目を閉じ、すやすやと静かに寝息を立て始めた。
最終更新:2012年01月04日 16:50