24話


「待ってくれよぉー」
男子7番 梢 俊夫(こずえ としお)が情けない声を上げながら、女の子二人の尻を追い回していた。

「悪いけど、余所に逝ってくれないかしら。アタシら、アンタのこと信用できないの。さようなら」
気の強さげな女子20番 弓場崎 ハナ(ゆばざき はな)が、もう一方の女の子の手を引き、立ち去ろうとする。
「・・・・ごめんね」
大人しげな女子19番 門田 成美(もんでん なるみ)が手を引かれ、申し訳なさそうに俊夫を見ていた。
俊夫がスタート地点から、やや離れたところをうろついていると、この二人が通りかかったのだった。


「いいじゃんかよー? ほら、俺の武器だぜ? これで、お前ら守ってやれるしさあ」
俊夫が支給武器である自動小銃ウージーを軽く持ち上げた。

「そういう問題じゃないの。いい? アタシは、アンタの人間性が信用できないって言ってるのよ!」
振り向きざまに、睨む様に、俊夫に向かって言い放った。
「えー? 一人じゃ、怖いんだよー、なぁ、門田サンさぁー」
ハナに言っても無理だと思ったのだろう。矛先を成美に向ける。

「・・えっと・・・あの」
「いいじゃんかよー、なあ? 門田サンからも弓場崎に言ってやってくれよー」
「ちょっと、俊夫くん! アンタ、気の弱い成美に言わないでよ!」
ハナは、俊夫の考えを読んだかのように、成美と俊夫の間に入った。

「っくしょー、弓場崎てめー・・・って、アレ?」
「今度は、話を逸らす気かしら?」
「いや、あそこに誰か居んだよ」
「・・・?」
「おーい! おーい! こっちだ、こっち!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
「いーから、いーからー」
ハナは、誰かを見つけたと言う俊夫を止めようとするも、彼は、その呼びかけを聞かず人影に近づいて行った。

――――刹那、"ぱらららららららららら"という断続的な音が響く。「ぎゃっ」という俊夫のくぐもった叫び声と共に、彼の身体が小刻みに揺れ、そのまま仰向けに倒れた。

「え?」
ハナは、何が起きたかわからずに一瞬ボケっとする。
「ハナちゃん伏せて」
成美の声で我に返ったハナは、身を屈める。
直後、再び、あの"ぱらららららら"の音が響く。
「ちょ、俊夫くん、だ、大丈夫?!」
血まみれの俊夫を見て、大丈夫も何も無い。
「あ・・・・ゆばさきぃ・・・おれのじゅう・・・やるからさ・・・おっぱらってくれよ」
あの憎たらしい俊夫の顔が力無くニヤついていた。
「守ってくれるんじゃ・・・無かったの・・・かし・・ら」
ハナの言葉が涙で、途切れてしまう。
「わりー・・・なんかもう・・たちあがれ・・ないんだ・・・・」
「と・・・」
俊夫は、そのまま物言わぬ屍となった。



「撃ってきたの、悪堂さんだよ」
「・・・・・・」
「ねえ、ハナちゃん聞いてるの!」
「・・・・・・」
「ッ! しっかりしなよ!」
"パァァァン"と乾いた音が響き、ハナが赤くなった頬を押さえる。
「・・・痛・・・・悪堂・・・響子!」
ハナは、俊夫からウージーサブマシンガンを抜き取り、銃を女子2番 悪堂 響子(あくどう きょうこ)に向け構えた。
「・・・・許せない」
涙と共に悪堂に対する怒りが沸く。
そして、力強く引き金を引き絞った。


男子7番 梢 俊夫(こずえ としお) 死亡 残り25人
最終更新:2012年01月04日 16:53