25話
「くくくく・・・・」
古びた小屋の中で明かりも灯さず、男子2番 伊藤 麗司(いとう れいじ)は暗闇に息を潜めていた。
スタート地点から、やや離れた古家に隣接したところにその小屋はあった。
外は既に暗くなっており、昼間ほどの銃声や悲鳴は聞こえない。
麗司は、スタート直後に高原裕子を殺すと、潜伏場所を探した。
目的の場所は、程なくして見つかった。
「そろそろか・・・」
埃だらけの床から立ち上がると、"ぱんぱん!"と、麗司は自分の尻をはたく。
麗司は、窓から漏れる月明かりのせいで、キラキラと舞い散る埃を見ていた。
麗司は、ふと、これから殺しに向かうクラスメイトの姿を思い浮かべた。
クラスメイト、仲間? ヤツらに最後に会ったのは、今年の4月の始業式の日だった。
暖かい春の日差し、以前までとは違う感じ。そして、新しいクラスメイト。
気分は、高ぶった。
始業式が終わり、ホームルームで自己紹介をした。
男子出席番号2番、戸惑う間もなく、麗司の番は回ってきた。
「伊藤麗司、です、趣味は、ゲーム・・です。・・よ、よろしく・・・」
緊張で何を言ったか、覚えていない。
周りは、自分を見て笑ってないか、馬鹿にしてないか。
麗司は、そんなことを考え、不安になってしまう。
自己紹介が一通り終わると、軽い自由時間になった。
「ねぇねぇ、僕、秋下徹。よろしくねっ! 伊藤くん、ゲーム好きなんだよね?」
突然、前席の男子が声を掛けてきた。
思いもよらなかったので、えっ! と、声を上げてしまった。
「う、うん・・・」
徹も趣味がゲームで気が合い、徹と麗司は、仲良くなった。
とても、楽しかった。
麗司が楽しそうに話すと、徹は、「すげー!」とか「うんうん!」と頷いてくれる。
だが・・・
「おまえ、伊藤じゃねーかよ、何ガッコ来てんだよ?」
麗司は、その声で泣きそうな顔になる。
「キミ、伊藤と仲よさそうだね? コイツさ、1年の時苛められてて、そのまま登校拒否ってたんだぜ」
川井潤と矢島急須・・・以前、麗司と同じクラスで、麗司を苛めていた生徒だった。
「クラス変わって、随分と張り切っちゃてるなー、伊藤?」
急須は、ずけずけと声を張り上げるように言う。
麗司の顔は、サァ―――っと、顔が青くなり、ぶるぶると震えだした。
麗司の頭の中は、いっぱいだった。
(クラスが変わっても、俺は、苛められるのか・・・)
次の日から、麗司は、また学校に来なくなった。
麗司は、薄暗い部屋の中、眼鏡を外し、高原から奪った彼女の支給品、暗視ゴーグルを装着した。
「ほぉ・・・・」
麗司の口元から思わず溜息がこぼれる。
暗視スコープから覗いた世界は先程までと違い、青と白の世界で部屋に何があるのか、くっきりとわかった。
「これならイケル!」
自分に支給された武器、グロッグ23を右手に持ち、荷物をまとめたデイバッグを背負う。
「とにかく、今、この夜が俺の天下だ! こんなクラス、俺がぶっつぶしてやる! ・・・くふふふ」
込み上げて来る笑い声をかみ殺しながら、麗司は外に飛び出す。
小屋に残されたのは、空っぽになった高原のデイバッグだった。
最終更新:2012年01月04日 16:54