31話


野村 仁(男子14番)は、ぎくりとした。
ススキが風に揺れざわつく音に紛れて、かすかな足音が後方から聞こえたからだ。
「・・・・誰?」
仁は、思わず声を出してしまっていた。

クラスメイトの中から既に死人が出た以上、無論やる気の者もうろついてるのは分かる。
だが、この名も知らぬ場所に一人でいる孤独には耐えられなかったし、仲間を信じることを止めてしまったら、どうしようもない気がした。

「武器は無いから。出ていってもいいか?こ、攻撃しないでくれよ?」
声の主は男、口調から察するに多少動揺しているようだ。
程なくして、ススキの海から、その男は顔を出した。
「・・・須崎くん!?」
その男は、須崎 史々(男子9番)だった。
須崎は仁の顔を見ると、胸を撫で下ろす。
安心出来る相手だと判断したのだろう。
そして、仁の方はというと、須崎の顔を見るなり、ギョッとしたような声を上げる。
「その顔は・・・どうしたの・・・?」
須崎の頬は大きく腫れ上がり、青紫色の痣になっていた。
薄暗くて気付かなかったが、よく見ると体中泥だらけだった。
「お、襲われたんだ!」
ハッとして、須崎が声を上げる。
「て、天道の野郎がいきなり襲ってきたんだ!俺は逃げるのに必死で・・・何とか振り切ってきて・・・」
「天道くんが・・・それ本当?」
必死になって説明する須崎を尻目に、仁は、妙な違和感を感じていた。


――まあ、実際は女の子(由希)を襲おうとした須崎が横槍を入れた天道に返り討ちにあったわけだが。
最終更新:2012年01月04日 16:57