33話


頼りない――彼――斉藤 浩介(男子8番)への私の第一印象は、それだった。
失神した工藤 無頼(男子6番)を縛り上げるのも無駄に手間取っているので、自分が代わる。
「ふーん、手際いいな」
彼が感心した声を上げる。
『あなたがとろいのよ』と心の中で愚痴る。

このゲームが始まったとき、馬鹿だなと思った。
何とも言えないダルさが私を襲った。
気を失っている目の前の大男も馬鹿だ。
いち早くゲームに乗れば、きっと強くなれるだろう。
殺す気のある人間とお人好しな人間が会えば、前者が勝つに決まっている。
だが、それが仇となって連鎖となり、新たな殺人が起こる。
生き残る戦いから、敵を憎む戦いとなる。
馬鹿らしいとしか思えない。
きっと私は、このゲームに乗れないだろう。
そこの頼りない男、斉藤くんを助けた、実際に自分は甘いから。

両手首、両足首を其々後ろ手にロープでぐるぐる巻きにした。
ちょっとやそっとでは外れないだろう。
「あのさ、松本、一緒に行動しないか?」
私は隣に立っていた斉藤くんの目を見据えた。
そう来るとは思っていたけど。
「生き残れるのは、一人なのよ・・・。一緒に行動して、どうしようというの?」
正直、一人は怖い。一緒に行動してくれるなら、是非居て欲しい。
だけど、一緒に行動するには、これだけだけは聞いておきたかった。
「借りを返させてくれ。助けてくれた。・・・俺は頼りないけど、でも、人を集めてみんなで脱出したい」
「わかった」
私は即答した。斉藤くんも驚いているようだった。
脱出しようという訴えは、とても魅力的な言葉である。
だけど、無理だと思う。出来るなら、みんなやってる。
けど、みんなでここを生きて出るという。
夢のような話だろう。とても難しいはずだ。
「だけど、約束して。絶対に何があろうと、ゲームに乗らないと」
「乗らないよ」
彼は、こくりと頷く。
約束か・・・この島で、『約束』というものが意味をもつかとも思うが、それを言ってしまったら、どうしようもない。

そして、先のことを話し合い、出立しようとしたときのことだった。

「おい!てめえ!ほどけコラ!!」
先ほどまで眠っていた工藤無頼が目を覚ましたようだ。
開口一番に、抗議してきた。
馬鹿な人・・・。
「私は、明らかに『ゲームに乗った人間』を見逃すほど甘くないの。
とはいえ自分で殺すには手が引ける。ここもやがて禁止区域になる。
運がよければ、誰か来るでしょう。どんな人が来るかは知らないけど。
もしこのまま死んでも、それは、あなたの運が足りなかっただけ。
私たちの知るところではないわ」
この男も、此処まで言われるとは思ってなかったのだろう。口をあんぐりとあけている。
ザックを背負い、工藤無頼に背を向ける。
「さようなら」
そして、斉藤くんとその場をあとにした。

すでに日が暮れ、人気の無い民家の庭で芋虫のように縛られた無頼は、遠くを見つめ呆けていた。
最終更新:2012年01月04日 16:58