35話


「きゅ、きゅうす・・・ど、どヶ・・・ぉもぃ・・・」
急須の下敷きになったため、我ながら今にも死にそうな声を出す。
「俺がデブだから、邪魔だとぉ!」
「いや・・・そこまで、ひどくは、言ってない・・・たっ、たのむから、どいてくれえ・・・」
請うような口調で訴えかけると、急須は慌てて退いた。

「すまねえ、潤。腹が減ってて、ちょっと短気になってたようだぜ」
そう言い、急須は俺を助け起こした。
「いや、もう慣れちまってるからなあ・・・ぷっ、くっ、くくっ!」
こんな血生臭い場所で、さっきまで人を殺そうとしてたにも関わらず、思わず笑いがこみ上げてきた。
いつもの急須、ガキの頃からずっと、コイツとつるんで来た。

「織川、見えなくなっちまったな・・・」
不思議と、織川のヤツを追うのも馬鹿らしくなってきてしまった。
「すまん、俺が手間取っちまったばっかりに・・・」
身体はデカイ癖に、しゅんとする急須の丸まった背中を"バアン!"と叩く。
「おめえは、腹が減ったら、できる戦もできねえからな! 飯でも食うか!」
「おう!」
俺は目一杯笑うと、ザックからパンを取り出し、かぶりつこうとするが。
「・・・・どうした?」
食おうにも、急須が鬼のような形相で俺を凝視しているので、それ以上動けなかった。
        • 何だ、このプレッシャーは・・・・。

「すまない、潤。自分の分は、もう食ってしまったんだ」
俺は、あきれた顔をする。
「すまない、潤。自分の分は、もう食ってしまったんだ」
「・・・・」
「すまない、潤。自分の分は、もう食ってしまったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「スマナイ、ジュン。ジブンノブンハ――――――」
「だあああああああ!うるせえ!!わかった、俺の分はやるよ!」
「ラッキー」
「その代わり俺はこっちを貰うからな!」
俺は、にやりと笑うと、さっきから目に付いていたパンを手に取る。
先ほど織川が足止め代わりにぶちまけた荷物の残骸だった。
「あっ、てめえ、そっちのがデカイじゃねえかよ!」
急須は、俺の手にあるパンを指差し、非難の声をあげた。
「まだまだ修行が足りんわ!」

そして―――パンに―――かぶりついた。

気が付けば、体中が熱く、骨が軋むような感覚に襲われていた。
心無しか、口の中がどろっとして、何故か寒い。
熱いか、寒いかどっちだよ・・・うぜえ。
ナンだこれ・・・。
身体もガクガクと揺れる。
「・・・・!!・・・・・!!」
重いまぶたを開けると、急須が何か言いながら、俺を揺さぶっていた。
おめえは手加減ってものを知らねえからな・・・。
        • 泣いてるのか?
バカだな・・・飯とられたくらいで泣くなよ・・・・またおごってやるからよ。
最終更新:2012年01月04日 16:59