38話
「幸子ちゃんが助けに来てくれるよね」
女子11番 二階堂 澪(にかいどう みお)は先程見つけたチョコレートにかぶりつき自分に言い聞かせるように呟いた。
手元には、ドロップ缶、缶詰や小型ラジオ、懐中電灯、麦わら帽子など、海の家の中で発見した物がずらりと並んでいた。
彼女はいわゆる普通の女の子である。
勉強は中の上、学校のテストは大体平均点で、国語が得意なくらいだ。
スポーツはそんなに得意じゃなく、所属は文芸部。
そんな彼女にとって、幼稚園の頃から一緒だった唐沢 幸子は憧れの存在であった。
小学校時代に男子にからかわれた時も幸子が助けてくれたし、おっかない野良犬に追っかけられた時も彼女が追っ払ってくれた。
『ガタッ』
海の家のドアが開く。
「誰・・・? さちこちゃん・・・・?」
彼女の頭は親友の幸子でいっぱいだった。
それに今まで隠れ潜んでいたので、誰に襲われることもなく死体を見かける事もなかった。
お腹も膨れ、人恋しい気持ちでいっぱい。
つまり、あまりにも警戒心が薄れていたのだ。
「残念・・・俺だよ」
海の家の入口に立っていたのは男子19番 螺川 旋(らがわ せん)だった。
螺川はにやりと笑いながら、薄暗い家の中に向かって右手に持っていたナタを投げようと振りかぶる。
「ひぃぃ!」
彼女ががむしゃらに手元から選んだのは懐中電灯だった。
懐中電灯の光を螺川に向けて当てた。
それは余りにも幸運な事だった。
暗がりの中、夜目に慣れきった螺川の視界が奪われる。
『ダンッッ!!』
投げたナタは壁に刺さった。
それは、彼女のすぐ横であったが、彼女は無傷だった。
「クソ・・・目・・目が!!」
目を抑えて刀を抜く螺川。
「ラ・・・ラッキー・・・」
彼女は涙目になりながらも空元気だったが、軽口をこぼしながら海の家の裏口から逃げた。
クラスメイトの螺川がゲームに乗った事にショックを受けながら。
最終更新:2012年01月04日 17:00