43話


「9人か・・・」
「美沙ぁ・・・かの子ぉ・・・・」
「泣なくなよな・・・・こっちだって泣きたいのに・・・・」
女子7番 佐藤 正美(さとう まさみ)、女子10番 成瀬 頭子(なるせ ずんこ)、女子17番 村上 きなこ(むらかみ きなこ)の3人は、漁業用の小屋の中に潜んでいた。
ゲーム開始後、たまたま合流できた3人は取り敢えずどこか隠れる場所を探そうと決めた。
そして、偶然発見した小屋の中に息をひそめて隠れる事にしたのだ。
正美の支給品は、果物ナイフ。
頭子は、デリンジャー。
きなこに限っては何の冗談か、トランプセットだった。
そして、小屋の中で発見した唯一武器になるかもしれない漁業用のモリが壁に立てかけられていた。
更に、来栖谷の死者の発表を聞いた3人はとても暗いムードに包まれていた。
「さっきから、銃声が鳴りやまない・・・まるで戦争みたいだな・・・」
正美が呟くが、それに反応する者はいない。
それ程まで精神的に弱っているのだ。

「おい、誰かいるのか?」
突然の訪問者だった。
小屋の外から聞こえた男の声。
それは、幼馴染の愛沢を探す男子13番 永井 等(ながい ひとし)である。
小屋の中の3人は身構える。
「俺は永井だ! 殺し合いをするつもりはない! 人を探してる! ドアを開けなくていいから、教えてくれないか!?」
3人は、顔を見合わせた。
どうする?
という合図だ。
「・・・ドアを壊されても困るんじゃない? 返事した方がよくない?」
「いやでも、答えたら、私達がいる事ばれるんじゃないか?」
「でもさぁ・・・話だけってのもおかしくない?」
「何がおかしいの? きなこ」
「いや・・・何となく・・・」
「・・何となくって何よ!」
「だって、怪しいじゃん!」
きなこと頭子は小声で口論を始める。
そんな中、正美は二人の口に人差し指を当てて黙るように促す。
「永井に答えるわ・・・多分、あいつはそんな悪い男じゃないと思う。大丈夫、こっちは3人いるんだ。武器はショボいけど、一応銃もあるし、バレなきゃ大丈夫だって!」
正美の言葉に、ふたりは静かに顔をうつむけた。
「永井!? こっちは3人いる! あたし、佐藤と成瀬! あと、村上の3人だ! 悪いが、中に入れてやる事は出来ない!」
「構わん! 早速だが、教えてくれ! 愛沢を見なかったか!?」
(愛沢って・・・由希の事よね?)
「悪いけど見てないわ! あたし達は今いる3人でスタートからずっと過ごしてきた! 他には誰にも会ってないわ!」
「・・・そうか」
永井の落胆したような声。
「不安がらせて悪かったな・・・俺が言うのもなんだが・・・・もしも愛沢に会ったら、保護してやってくれ! あいつはゲームに乗るようなやつじゃない!」
「由希が良い子だってのは知ってるわ・・・・もちろん会えばそうするつもりよ!!」
「そうか・・・・ありがとう! じゃあな!」
永井は立ち去ろうとする。
「ねぇ・・・永井っていいヤツなんじゃない?」
頭子が言う。
「由希と永井は幼馴染なのよ・・・由希は永井の事片思いしてたみたいだけど・・・両想いだったみたいね」
事情を知っている正美が答える。
「そいつは妬けますなぁ~」
きなこが笑った。
それにつられるように、他の二人も笑った。
そして、思い立ったように正美は口を開く。
「おい! 永井!」
「・・・・何だ?」
先程より少し遠い場所からの返事だが、永井がいる事に正美は安心した。
「永井は武器は持っているのか!?」
「・・・いや、残念ながら、俺の支給品は大量のタイツだ」
冗談らしきことを至極真面目に応える永井に、3人は笑いを吹き出す。
「そっか・・・いいよな?」
漁業用のモリを手に取り、頭子ときなこを見る正美。
頭子ときなこは、笑いながら、頷いた。
『ガラガラッ』
正美はドアを開けて、顔を見せた。
そこには、いつも通り、堅物そうな永井の姿があった。
永井は突然、正美が姿を現した事に戸惑っていた。
「持って行けよ!」
そして、モリを永井に向かって投げ渡した。
「・・・佐藤」
「タイツを履いた王子様ってのはダサいってもんじゃねーぞ。やるから、早く見つけてやれよ」
正美は笑顔で答えた。
「すまん・・・恩に着る・・・お礼に、この大量のタイツを――」
「いらねーよ。馬鹿!」
『ガシャン』
正美はドアを閉めて再びカギをかける。
「早く行け!」
「頑張ってね! 永井君!」
「由希が羨ましいぜこんちくしょ~~い!」
3人の声を聞いた永井は、笑った。
「すまん・・・!」
(こんないいヤツらと殺し合いなんて・・・できるものか! この国は腐ってやがる・・・ それに俺は何て無力なんだ・・・愛沢――いや、由希・・・・必ず見つけてやるからな・・・!)
永井は後ろを振り向く事無く、海岸線を駆けて行った。
最終更新:2012年01月04日 22:11