暴力的照れ隠し

名古屋大学 文芸サークル 作品データベース内検索 / 「暴力的照れ隠し」で検索した結果

検索 :
  • 暴力的照れ隠し
    2013年03月15日(金) 22 09-安住 小乃都 愛しているよ、と囁かれて目が覚めた。 白いカーテンから差し込む光が眩しくて目を細める。 枕に頬を寄せながら左手をかざすと、爪の毒々しい紅色がキラリと光った。 背中からの圧力が増して、首筋に柔らかい物が触れる。 もっとはっきりと、愛しているよと聞こえた。 温かい息が首筋から胸元へ抜けていって、くすぐったくて軽く鳥肌が立つ。 愛を囁かれて起きるなんて、大層ロマンチックな朝だ。気分的には全くロマンチックではない。 むしろ逆。うっとおしくて仕方がない。 体に巻きついている腕をほどきながら上半身を起こす。 髪をかき上げ、目だけを窓の外へ向ける。雪の気配がした。 軽くため息。外に出なくても許される言い訳を20ほど思いつく。 それらを追い出すように乱暴に頭を振る。 ベッドから降りようと体の向きを変えた途端、後ろから抱き締められた。 思わず喉が鳴り、...
  • 三代目アップ板作品2.
    ...09 安住 小乃都 暴力的照れ隠し 6 2013年03月24日(日) 23 07 竹之内大 お題「記念日」 7 2013年03月24日(日) 23 09 竹之内大 お題「在校生」 8 2013年03月31日(日) 21 49 竹之内大 お題「写真」 9 2013年04月07日(日) 15 14 鈴生れい お題「くしゃみ」 10 2013年04月07日(日) 15 58 鈴生れい ねじれのくしゃみ(お題「くしゃみ」) 11 2013年04月07日(日) 16 40 鈴生れい くしゃみ昔話(お題「くしゃみ」) 12 2013年04月24日(水) 01 21 三水 夏葵 逆らえぬ運命 13 2013年04月25日(木) 15 36 鈴生れい 自分の本心に素直になれないのなら、 14 2013年05月20日(月) 21 57 エンディミオン 備忘録 15 2013年05月24日(金) 16 ...
  • 甘いだけの小説は書けるのか (るり)
    2011年07月02日 (土) 22時46分 - るり    運命や一目惚れなんて、あたしは信じてなかったけれど。  ぴちょん。  でもそういうものって、確かにあるみたい。  大学の食堂で友人二人とクレープを食べていた。たっぷりのキャラメルソースがとろりと一筋零れそうになって、それを空いた右の人差し指ですくっていた時だった。 「きみさ、文学部の同じクラスの子だよね。えぇっと、村瀬さん?」  えっ、と顔を上げると、背の高い男の人がいた。知らない人。あたしが慌てて手元のハンカチで指先をぬぐっているうちにも、その人は「俺は辰巳っていいます」、「クラスの顔合わせの時、美術史に興味あるって言ってたから、気になって」と話を進めていく。あたしはぼーっと鈍った頭を必死で働かせて「うん、うん」とうなずいた。最後に赤外線通信でアドレスを交換して、辰巳くんは席を外した。携帯電話を寄せ合った時に触れた小指は今でも...
  • 甘いだけの小説は書けるのか (苗之 季雨)
    2011年06月27日(月)22時32分 - 苗之 季雨    まだ十月だというのに、今日はやたら寒いらしい。ひんやりとした灰色の壁に背を預けながら、治季(はるき)は出がけに確認した天気予報を思い出していた。  らしい、というのはあくまであのキャスターが言っていたことを反復しただけだからだ。治季自身は全くそんな感覚はない。むしろ、身体が火照って暑いくらいだ。それが予備に一枚着込んだ上着のせいなのか、それともまだ見ぬ待ち人を想っての緊張なのかは分からないが。  手帳を開き、蛍光ペンでしっかりマークしてある今日の予定欄を見る。午前十時、間中駅西改札前。治季の記憶そっくりそのままの字が並んでいる。間違いない。 「黒川君!」  優しいソプラノの声が耳朶に届き、治季は一つ呼吸を整えてからそちらに顔を向けた。思ったとおり、可愛らしいハンドバッグを手にした少女がこちらに駆けてくる。足元を見るとややヒー...
  • 最初から選択の余地など無かった、そんな話(お題「ハロウィン」)
    2013年10月31日(木) 23 30-三水夏葵 お題「ハロウィン」 タイトル: 『最初から選択の余地など無かった、そんな話』 俺は急いでいた。 だが行く手を阻む者がいた。 コンビニの前の曲がり道を通ろうとした俺を止めたのは一人の小柄の少女だった。少女はオレンジのラインが入った黒のとんがり帽子と黒マントに身を包まれ、大の字になって道路の真ん中に通せんぼをしていた。 一瞬何者かと思って戸惑っていたが、顔を良く見たらすぐ誰であるか分かった。 「何のまねだ、メル」 メルは珍しく化粧をしていた。ふっくらとした頬にほんわかな薄紅色のチークを入れていた。なんだか見ている側もつられて顔が赤くなる。 「トリック、オア、トリート!」 精一杯可愛げに微笑み、首を傾げるメル。なんだ、そんなに可愛い子ぶるのはらしくないぞと思った。 そういえば今日はハロウィンだったなと思い出す。さっき慌てて寮を出るときに寮母さん...
  • 適当作品案内
    2009年01月05日(月) 18時05分-K なんとなく作品ガイドを作ってみる。 何の役にも立たないこと保障つき。 方針は「表現」だと思うものは、小説だろうが漫画だろうが映画だろうがゲームだろうが音楽だろうがCMだろうがTV番組だろうがウェブサイトだろうが事件だろうがお構いなし。要は僕が「いいな」と思ったものを書く。 書き方はテーマを設けてそこに作品を分類する。一言コメントを付ける。別のテーマに同じ作品が出てきてもOK。 後は適当、データは書きたいときは書く。 そもそもこういうことを考えることはすきなのだが、いざ書くとなるとしっかりしたものを書こうとしてかけなくなっていたので、無理やり適当に書いてみる。 血みどろ臓物  ・死霊のはらわた(映画)  死霊に取り付かれた女が口から白濁液を吐いたり、コマ撮り撮影で肉体がグチョグチョ崩壊するのがなにしろスカトロチックで気持ち悪い。気持ち悪すぎて...
  • What I'm Wating For...2nd
    2006年11月08日(水)16時13分-川口翔輔   イントロ  「ああ、ひどい」  「本当にひどい」  彼は言った。  「僕が神なら、どうしても救えないな」  「たしかに、あれじゃ、救えない」  そう言いながら彼は、しかし歩み寄る。本気の手を差し伸べる。  神なら、救えない。幸か不幸か。しかし、僕らは人だ。  ああ、そうだ。僕らは、人だった。 21.  「おい、もう月が出ているぜ。早いな」 「ああ、ほんとうだ」 「きれいだ」 「きれいだ」  僕はこのことをとにかく誰かに言いたくて仕方なかった。というのはたてまえで、やっぱり特定の誰かでないと、だめだった。  でも、たったこれだけのことを、どう言っていいかさえ、僕は知らない。たったこれだけのこと、それさえ僕は知らない。  「見上げた美しさだ」  そう彼は言った。  ふと、月が足元にあったらどうなのだろうと、僕は思った。  でも月はきれい...
  • 星になる(後編)
    2012年11月19日(月) 21 36-鈴生れい 夕方になって、わたしは萌と大地、陽子を引き連れて街へと繰り出した。車を運転したのは久しぶりだが、数回エンストしただけで済んだのは僥倖。 適当なところで車をとめて、わたしたちは歩いて神社へと向かった。普段は寂れたといえるほど活気のない街だけど、今日はそこかしこで人の姿が見える。 どうやらちょうど神輿が街の中を周っているようで、神社へ向かう人は少ない。そこそこ立派な神輿だが、わたしと大地は見飽きてるし、陽子も萌もそんなに見たそうでもなかったので神社に帰ってきた神輿を見るだけにしたのだ。 至る所で飾り付けが見える。それを追いかけて眺めていると、ふと視線がある看板にぶつかった。 『桐生酒店』 心臓がどきんと跳ねた。そういえばここにあったと今更ながらに思い出す。もっと早く気付けばよかった。 「空、星さんの家ってここなの?」 目敏くわたしの異変に気...
  • 御戸代草紙・恋華 ネコはだれだ
    2005年12月03日(土) 00時05分-鴉羽黒    自分の性格要素を十個挙げろと言われて、真っ先に思いつくのは、ドライであるということだ。どういうことかって、要するに全米が泣いたとか一億三千万人が泣いたとか泣きながら一気に読んだとか、そういうモノで泣いたことがないというか、なんにしろ感動して涙を流したことがない、ということだ。別に感情がないというわけではないけれど、その触れ幅が小さいというか、基本的に何に対しても淡白であるということなのだろう。  そんな人間であるから、人生十六年目にして急に彼女が出来たことには驚いた。おまけに、その彼女との関係について、こうも悩んでしまう自分というのにも、ひどく驚かされる。  どのくらい悩んでいるのかって、まあ具体的には、信号無視の暴走車に気づかないくらいには、周囲が見えなくなっていた。そのせいで結局、ようやくたどり着いた結論を実行に移せないま...
  • 探偵殺し 推理地獄
    2007年01月23日(火) 01時54分-一角天馬  アイディアだけ考えて後は書かない物語 探偵殺し 推理地獄 キャラクター 九大探偵 カミンスキー 人呼んで脳髄探偵 その姿はガラスケースの中の培養液に肥大した脳髄が三つ浮かんでいるというもの 推理法 三重考察 三つの脳髄による並列処理により真相を探り当てる マイケル 人呼んでサイボーグ探偵 昔の大事件によって体の99%が機械になっている鋼の探偵 推理法 サテライト推理 ネットの海から真実を探る エレクトリカルQ 人読んで電気椅子探偵 卵形の巨漢 電気椅子推理 電気ショックを受けることによって脳を活性化させて犯人を当てる 恐山幽子 人読んで霊能探偵 腰の曲がったの老女、いつも水晶を持っている 推理法 霊媒推理 口からエクトプラズムを出してソイツに推理させる 得手幸之助 人呼んで動物探偵 人語を操る猿にして史上初の動物探偵 推理法 野生推理...
  • (お題「夏祭り」)
    2013年08月11日(日) 13 21-弥田 昼過ぎだというのに薄暗かった。部屋に篭もってKと二人、ぬるい発泡酒を飲んでいた。熟れた夏の暑気はべとついて、汗ばんだ肌へ執拗に纏わりつく。ときおり吹き抜ける風は生臭く、雨の気配が重く漂っていた。 「しかしこのヤブ蚊にはまいったね」 飛びまわる羽虫をハエタタキで打ちながら、独りごちるようにKが愚痴る。先ほどから首もとを加減無く掻きむしっているので、薄皮が破れて、うっすら血が滲んで痛々しい。なおいじろうとするのを注意したが、痒いものは痒いのだ、と聞く耳をもたなかった。 「キミはいいよな。さっきから蚊が寄りつかない。よっぽど不味そうに見えるんだろうね」 「もともとそういう性質なんだよ。そうでもなきゃ、こんなところ引っ越してこないさ」 「というと、はじめから蚊の湧くことを承知していたのかい」 Kは僕の顔をまじまじと見ながら、正気を疑うね、とちいさく...
  • 甘いだけの小説は書けるのか (エンディミオン)
    2011年06月28日(火)01時21分 - エンディミオン    美紀。君は覚えているかな。僕達がまだ小学生だった頃の事。十年前、密かに、ただひたすらに君を想っていた僕に、君は優しく微笑んでくれた。久々の席替えで君の隣になり、緊張で石の様になった僕の手に、真っ白な指を重ねてくれた。あの柔らかで、まるで木漏れ日の様に温かな感触を、僕はきっと忘れない。誰も知らない、二人だけのメモリー。  昼休み、君は一人机に向かって、いつも難しそうな本を読んでいた。校庭から聞こえる友達の声。しかし僕の視線は、決して君から離れる事は無くて。時々君と目が合うと、たまらない程面映ゆかった。幼い僕は、大人びた君を見るだけで、胸を高鳴らせていた。  掃除の時の事を思い出すと、懐かしさと共に、それ以上に照れくさい。あの頃。僕は君に一歩でも近づこうと必死だった。距離、考えそして、気持ちを君に。君に手を伸ばそうとして、欠...
  • あなたの自殺請け負います『自殺請負人修正版』
    2008年03月29日(土) 01時26分-さっちん  私は薄暗い映画館の中にいた。目の前いっぱいに広がるスクリーンには映像が映し出されている。スピーカーから大きな音がながれ、私の鼓膜を刺激する。客の入りはそれほど多くなく、どちらかといったら街中にたたずむ寂れた映画館といったところだろうか。  私はさっきまで一緒にいた男の子の顔を思い出して、自然と涙が溢れた。目の前のスクリーンが涙でぼやけて、手の甲に涙が落ち黒いシミを作る。  感動の映画を見ているわけでもない……。二人で笑いたいと思った。あの子はどんな顔で笑うのかな……。  二人で見るはずだった映画……二人で見るはずだった映画を私は一人で見ている。ただ、それだけなのに、なんでこんなに悲しくなっちゃうんだろ……涙が止まらないよ。 (ねぇ、何で泣いてるの……そんな悲しい顔しないでよ……僕は楽しかったよ、生きてて初めて、楽しいっていうこと知...
  • For the New World
    2012年08月28日 (火) 07時47分-すばる  渋山警察署に事件の第一報が届いたのは、一月十三日午前三時十五分のことであった。 「昼ヶ丘公園に、死体を捨てたよ」  それは機械を通した声であり、不審に思った警察官が実際に昼ヶ丘公園のゴミ箱の中から若い女性の頭部とおもわれるものを発見したのはそのおよそ一時間後、午前四時十九分であった。これが、かつてない『災害』の始まりとなることを、その時はまだ誰も知らない。  府藤由里には秘密がある。それは二人だけの秘密で、それ以外には誰も知らない。少なくとも由里は、そのようにふるまっていた。すなわち、誰にもその秘密を暴かれまいと、細心の注意を払っていた。親、兄、クラスメイト達、誰にもそのことを悟られまいとしてきた。 ところで、秘密を抱えるからといって、それが彼女の社会生活には何ら影響を及ぼしはしない。なぜならば、秘密の一つや二つ、あるいは十や二十は...
  • モータル
    2011年10月15日(土)12時28分 - 御伽アリス      【目覚めと救いの章】    僕はそこにあったナイフを手に取った。ナイフは気が付いたらそこにあった。元々僕が持っていたのかもしれないし、誰かが落として行った物なのかもしれないし、たった今、急にどこかから出現したのかもしれない。でもナイフは当たり前のようにそこに存在していた。ナイフには誰かの血液が付いている、などということはなかった、おそらく。どうしてそんなことを思ったのか、僕はそのナイフの曇りのないきらめきが嬉しかった。そしてナイフの感触は僕にそれが現実の物であるということを伝えていた。これは夢ではない。僕は眠ってはいないのだ。    いつの間にか、僕はどこか別の場所にいた。辺りは明るく、静かだった。みんな眠っているのだ。ナイフを握る僕の手は震えていた。僕の中に恐怖があった。死ぬのは怖い。僕は震える自分の手を見てフウ、と息...
  • キノコ勇者 改訂版~4~
    2008年04月10日(木) 08時53分-R 第7章  角のある修道女  ムーランの町は、快晴。太陽も上がり始め、人が往来を慌しく行き交っている。  そんな眼下の光景を見るのも飽き、ルスラは窓から目を離した。その視線の先で、ベッドの上で寝息も立てずに横たわっているシャンプの姿があった。  悪夢が付け入る隙が無いほど、彼は眠りこけていた。知らぬ人間が見たならば、覚めぬ眠りの呪いにかかっていると思うことだろう。だが、もちろんそうではないことを、ルスラは知っている。 「今日ぐらいは、好きなだけ寝かせといてやれ」  彼女のお供、もとい連れのうちの一人、トリュフォーが部屋を出る前に彼女にそう言った。シャンプも疲れてるんだろ、と彼は言ったが、確かにその通りだろうとルスラは思っている。骨と肉片しか残っていなかったが、話と推測から察するに、あそこには本当に竜がいて、それをシャンプがたった一人で退治した...
  • 文芸サークルベスト版選集・収録作案
    2006年06月11日(日)22時27分-穂永秋琴   名大文芸サークル・ベスト版選集『シャボン(仮題)』案 1 歴代サークル賞受賞作品 草三井「スカイアンダーグラウンド」(泡2) 成田「片割れ」(泡2) 成田「セント」(泡未収録、第三回サークル賞) 伊吹はるな「混沌 -機械仕掛けの輪舞曲-」(泡3) 無学「アグア・マラ」(泡4) (第六回サークル賞作品)(泡5) 2 ジャンル別秀作選 A 活劇 鏡双司「クリメイター」(泡1) 木塚百川「幽霊たちの八月」(泡1) 鴉羽黒「御戸代草紙・黄昏」(泡未収録、第一回サークル賞) 穂永秋琴「三人娘略奪婚始末」(泡3) B 夢 Ta_t「夢語り」(泡1) Κ「夢」(泡3) 皆既日食「騎士道なり」(泡4) C ラブコメ 白翁「腕時計と星の空」(泡1) 鴉羽黒「御戸代草紙・メイメツ」(泡3) 逢風「チーズケーキとホットコーヒーを」(泡5) D 薄命 皓月「...
  • トイレの落書き(お題『嘘』)
    2012年09月06日 (木) 11時42分-御伽アリス  木で作った家は狼の息で吹き飛ばされちゃった。 「嘘つき」  僕の兄さんたちは狼に食べられた。 「嘘つき?」  昨日、家の近所にヘリコプターが墜落したんだ。 「どうして君は嘘ばかりつくの」  道でお婆さんが苦しそうにしていて、助けていたので遅刻しました。 「みんなが本当の事ばかり言うから」  コウジくんの靴を隠したのは僕じゃない。 「意味分かんないんだよ、おまえ」  トイレの落書きの事なんて今日まで知りませんでした。 「意味なんて初めからないよ」  給食のフォークを僕が隠して持っていた、っていうのも誰かの勘違いだ。 「いいから早く本当のことを言うんだ」  でも、殺したのは確かに僕です。 「本当のことの本当さって、そんなに安っぽいものじゃないんだ」  僕は嘘なんてついていない。 「……このまま君を帰すわけにはいかない」  あの時僕は誰...
  • わきあがる飢餓だけが踊り狂う夜(お題「鏡」)
    2012年07月12日 (木) 01時46分-弥田 ※しもねた注意です  女の肌をまさぐっていると、ふいに、ぬめり、と指が滑った。 「あれ?」 「どうしたの?」 「いや、いま、なんだか変な感触が」  指先を見れば、緑色の粘液にまみれている。粘液は蛍光灯の光を反射し、抑鬱性の暗い輝きが視界をべとりと汚した。 「なに、それ」 「わからない。虫でも潰しちゃったのかな」 「やだ、なにしてんの。もう。取ってよ」  そう言ってうつぶせになった女の背の一面びっしりに、鱗がはえていた。複雑な光沢をもって、硬く皮膚を覆っていた。隙間からじくじくと緑の粘液が漏れていて、それがぬめりの正体なのだとすぐに知れた。いったいどういう目的のもと分泌される物質なのか、それはよく分からなかった。  隆起する鱗は、は虫類のものというよりは、むしろ魚類のそれに似ている。 「鱗だ」 「うろこ? うろこ虫? なにそれ。はじめて聞...
  • タップシューズに画鋲
    2009年05月06日(水)17時23分-17+1   1  タップシューズに画鋲。  わたしがスタジオをやめようと固く決心したのは、このときです。誰もいない更衣室、自分のロッカーの前でしばらくの間、わたしはじっとその金色の尖ったものを眺めていました。  子どもじみたやり口でした。におい取りのクッションの下に巧妙に隠されていたことが、事故ではないことを証明していました。昔の少女漫画のようなことが、本当にあるのだなと思いました。  正直、いつかこうなるだろうなと自覚していただけに、さして衝撃を受けることはありませんでした。兆候はそこかしこに現れていました。犯人も、おおかた予想がついています。  城ヒナミさん。  志尾アヅサさん。  真際リョウコさん。  この三人が、嫌がらせの主たるメンバーでした。  ヒナミさんもアヅサさんもリョウコさんも、阿知波先生と深い親交があった所為か、とうとう嫌がら...
  • 赤ずきんの裏事情
    2012年10月01日(月) 22 56-竹之内 大 そもそも、おばあさんのことなんて好きじゃなかった。いっつもむっつりと不機嫌そうにこっちをにらんでくるし。お小遣いをくれるんでなければ、いくらお母さんが言ったって行きたくもない。だってそう思わない? あなただって日曜日に森の奥にあるおばあさんの家にまでわざわざ行って、いかにも不愉快だという様子で鼻を鳴らしたり舌打ちしたりしてくるおばあさんと過ごすより、きれいに着飾って街へ出て、素敵な男の子たちと遊びたいって。私ってわがままなのかしら? ああ、でももちろんそんなのは無理なのよ。わかってる。だってお金がないんだもの。いまどき私だって好き好んでこんなダサい頭巾をかぶってるわけじゃない。お金がほしい。そう、あの指輪さえ手に入れば… あれを見つけたのは全くの偶然だった。何にもすることがないものだから、考えなしに箪笥の上に置かれていた小箱を開いて...
  • 断片小説1
    2011年11月07日(月)00時44分 - K    指先から世界が漏れだす女の子の話  彼女は指先から世界が漏れだして困っていたのだが、誰も彼女を救えなかった。誰もが世界を嫌っていたから。漏れた世界が点々と床に垂れているのを皆見て見ぬふりして避けて歩いた。彼女は孤独だった。しかし彼女だけが知っていた。この世界は素晴らしいこと。料理の隠し味は一匙の宇宙であり、コーヒーに入れるべき物は一滴の永遠であること。  あれよあれよという間に世界が出来た話  まだ何もなかったころ、神は何かあるべきだと思ったので、それがあるようにしようと思いましたが、いまいちあるべき物の名を思い出せなかったので、「あれよ、在れよ」と言ってしまい、この世界が出来た。この世界が神があるべきと思った物なのかは神が沈黙を続けているので不明。  地平線が攻めてきた話  地平線が攻めてくるまで地平線に包囲されていることに気が付い...
  • 『ホラー小説』涼夏を作る(すばる)
    2011年07月31日(日)23時55分 - すばる   「大丈夫だよ、すぐ終わるからね。」 そういって僕は斧をふるった。 床に転がる二人分の体と、二人分の首。 そこから果てしなく流れ出ては、鉄の臭いで部屋を満たす血。 自身の手に張り付いた感触。 背筋を蟲が這いずり回るような気持ち悪い感覚。 腹の底から這いあがってくる吐き気。 それらすべての事象が、僕を責めたてる。 でも、本当にやるべきことはここから、これはまだ、下準備に過ぎないのだ。  しばらくぶりに来た同級生からの手紙。 そこには、先日亡くなった彼の父が、なぜか私に形見を残したと書いてあった。 たしかに私は、彼や彼の家族とも親しくしていたけれど、それはもう十年近く前の話で、卒業してからというもの、ほとんど会ってもいない。そんな彼から突然そんな手紙を受け取ったときにはひどく驚いたけれど、断るのも失礼だと思い久しぶりに彼の家を訪れた。  ...
  • 食いモンの恨みは恐ろしい 「陽介の奇妙な日記外伝」
    2006年02月01日(水)17時25分-藤枝りあん    真木陽介。Q大学2年生。独り暮らし・・・表向きは。現実は全く違う。得体の知れない生命体達と共に暮らす、大変そうだが実は彼自身ある意味で悟りの境地に至っているので一般人と同じように生活しているフリをしているという、そんな複雑な大学生活を送っている。  ともあれ、そんな彼も晩御飯を食べる時間である。 「へへ・・・今日は得したなぁ~」  手もみをしながら、今日のおかずに目をやる。白いご飯、野菜スープ、そして――鮭のムニエル、と、付け合せのこふきイモ。いくら周囲に妙な連中がいたとしても、食事はいたって普通だ。期待した人はいないだろうが、念のため。  彼がにんまりしているのは、近所のスーパーで魚の切り身(消費期限スレスレ)が大安売りをしていたことである。肉は豚バラ肉か挽き肉、魚はツナ缶かアラ、といったタンパク質が偏りがちな彼にとって、「消...
  • こじかひめとまじょ 2
    2012年09月23日(日) 17 41-古夢 ~むかし、ある国に美しいお姫様と王子様が幸せに暮らしていました。ところが、ある日、二人のお母さんがとても重い病気にかかって死んでしまいます。~ 森を挟んで北の王国は、賢君と名高い国王によって治められていた。優婉な美女と名高い王妃と王の仲は大層睦まじく、二人の間には姫君と王子が生まれた。両親と王国の愛情と期待を存分に浴び、姫君と王子は健やかに成長した。しかし、ある年の冬、王妃は突然病に倒れ、まもなく息を引き取った。 「母上…母上ぇ!」 まだ十歳にも満たない王子は王妃に亡きがらに縋りつき、大泣きした。姫君はもう十四歳になっていたが、愛され守られてきた分精神的に幼く、弟と一緒に泣くだけであった。国をあげての葬儀が済んでも、姫君と王子の悲しみは全く癒えるようには思えない。心配した王は、二人の為にも早く次の王妃を見つける事に決めたのであった。 ~王...
  • ミネラル
    2012年05月15日 (火) 23時45分-K  夜のバー。俺が絶望に打ちひしがれて、ちびちび飲んでいると、  「やっぱあんた、ミネラル足りてないんじゃない?」  と女が言ってくる。意味が分からないので、  「そうかなあ」  と適当に受け答えていると、  「あたしがあんたのミネラルになってあげよか?」  とくる。ますます意味が分からないので、  「そうなのかなあ」  と答えた。次の朝目覚めると、もう五月だと言うのにやけに寒い。しかも、万年床のせんべい布団が浮き上がって、体との間に大きな隙間が出来ている。  一体何だと思って起きあがると、俺の横で布団が大きく膨らんでいる。人が入っているというより、なんだかちょっとした仏像でも布団で隠しているような塩梅だ。  その布団をめくって中身を検めると、それは人一人サイズの岩だった。  俺は昨日のことを思い出しはじめた。女は俺に負けず劣らず酒に酔ってい...
  • Deus Otiosus
    2014月02月02日(日) 23 34-K ある日、この世を見そなわしていたレティクル座の神様は、暇つぶしに世界を滅ぼすことに決めた。できるだけ理不尽で意味不明なやり方で。 ハオマのカクテルに酔いしれ、天使達が口元まで運ぶアムブロシアーをだらし無く咀嚼し、こぼして口の周りが汚れても天使達の透明な指が清めてくれるまで知らんぷり。むしろ彼女たちの甘美な指先をねぶって邪魔しようとばかりしている。そんな永遠の昼下がり、霧箱に現れては消える一閃の宇宙線の軌跡のように繊細な天使たちの透き通った髪に鼻をくすぐられてくすくす笑っていたとき、神は久方ぶりに地上の存在に思いを致した。視界の縁を汚すかつての手遊びの跡に気分を害した神は、ふと悪戯心を起こして、その琥珀の指をふっとある形に降った。それは神がかつて光あれと言った時、アインからアイン・ソフ、アイン・ソフからアイン・ソフ・オウルを生じさせた時に使った言...
  • 今週のお題「記録」(水無原)
    2012年04月28日 (土) 22時55分-水無原 その記録を彼が見つけたことが、巡り合わせとか運命とかだったなら。私は神を呪おう。 彼はその記事を読んで苦悩し、悲嘆し、さらに絶望した。私は彼の考えを知らなかったが、その記録が忌むべきものらしいと悟った。その知識を捨てたら何が起こるのか、私には判らなかったが、彼の憂鬱を軽減するために何かできることを探した。結論として、全てをなかったことにするのが一番良いらしいと考え、彼がそれについてまとめたノートを私の引き出しの奥の奥に隠した。 彼はノートが失せたことにすぐ気付いた。しかし私にありかを尋ねることはなかった。彼にとって、私が記録を目にした時の感情が恐ろしいのだろう。それは彼にとって良くないもので、彼に血縁のごとき情を抱いている私にとっても良くないものだと思ったのだろう。 彼は私の友人の忘れ形見だ。友人はすでにこの世になく、父親の方は誰...
  • フィクションe(言い訳とポケットティッシュ)
    2005年11月24日(木) 13時07分-鴉羽黒    *  駅に降りたときにちらりと時計を見た感じでは、待ち合わせの時間までにまだ少しのゆとりがあった。あの子が待ち合わせより早く来るということはまずないだろうし、もう少しこの辺りで時間をつぶしておいたほうがいいかな、そんなことを考えていると、 「おねがいしまーす」  目の前にポケットティッシュが差し出された。ティッシュ配りのバイトらしい、こんな寒い夜に大変だなぁと言う思いがあって、いつもなら割と無視するのだけれど、このときは素直にそれを受け取った。 「ありがとうございまーす」 (英会話教室か…。無縁だな)  他意はなかったのだけれど、受け取ったティッシュから外した視線がちらりとそのバイトの女性に向いた。  それは一瞬のことだったけれど、それでも僕の頭が古い引き出しを開けるには十分な時間だった。 「千原…?」  探し当てた名を呟き、立ち止...
  • 男の子の勲章
    2006年12月24日(日) 04時34分-川口翔輔   少年の心は傷付きやすい。  食堂で昼食を済ませた僕と斎藤は、シューズを置きにロッカーに寄ってから、三限・英語リーディングの教室に向かう。ロッカールームのある文学部棟の自動ドアをくぐる直前で、二人ぴったり同時に足を止める。学部棟に入ってすぐの窓口に院生らしき二人が立っていて、なにやら手続きを待っているようだ。ドア越しにそれと確認し、僕と斎藤はそこで、いつものように全力でじゃんけんをする。まず、僕が負けた。  腹を決めて自動ドアをくぐる。次の瞬間、僕は出来得る限り朗らかな声で言う。  「ロッカーに寄ろっかー」  誰も笑わない。  文学部の窓口を足早に通り過ぎ、一度、屋根付きの渡り廊下に出る。そこを道なりに進み、再び屋内に入ると、ロッカールームの面する廊下に出る。 その廊下に入るドアをくぐる直前で二人同時に足を止める。ドアの向こうに目的の...
  • ほらあのときの
    2006年12月13日(水) 23時32分-川口翔輔   英語の授業中、僕は居眠りをして夢を見ていた。  その夢の中に、ずかずかと無遠慮に古川が入ってきた。古川は僕と同じクラスで英語の授業を受けている。その古川に僕は言ってやった。  「おい、入って来るときには『お邪魔します』くらい言えよ。礼儀を知らんのか」  古川はそう言われても面白そうに笑っている。僕だって本気でそう言ったわけではない。本当はうれしい。ただ、初めはその感情を押し隠して、あくまでドライにこう言うのが僕らの挨拶なのだ。  「おうおう、そう言うなよ鈴木、まあいいじゃん。だっておれもこの英語の授業つまんなくってさあ、つい来ちゃった」  そう言って古川は僕の隣に腰掛けた。僕らは二人して放り出してきた英語の授業の批判を始めた。  やがて古川がふらふらと立ち上がった。  「おれもう起きるわ」  古川は夢から出て行った。僕は「おう」と...
  • アリアドネーの幸福
    2011年03月20日 (日) 01時53分 - K    見事ミノタウロスを倒したテセウスは、アリアドネ―に手渡されて迷宮の入り口扉に結び付けておいた糸玉を手繰って、今再び日の光を浴びんと脱出を図った。そこには共にクレータ島を出て、故郷に帰った暁には妻にすると約束した彼女が待っている筈であった。  しかし、そこには罠があった。罠を仕掛けたのはアリアドネ―だった。彼女は神話において散見される不思議な予見能力から、自分はクレータを逃れて一時的に訪れた島で愛する男とどうしようもなく分かれ、そしてこの男が厚顔無恥にも自分の妹と結婚することになるのを知っていたのである。だから彼女は一計を案じ、神話の無限にある、今では知られていない別の筋道に、この愛しい男を迷い込ませることにした。まずは扉に結び付けられた糸をはずすと、少し巻きとって、小さな糸玉とした。そして自らの服の中に隠して、へその前のところで...
  • 記録者(お題『記録』)
    2012年05月06日 (日) 18時57分-すばる  記録者の仕事は、文字通り、記録することである。職場で交わされる、あらゆる会話を逐一記録する。その中には、罵詈雑言や、つまらない冗談ですら、もちろん含まれる。飛び交う言をすべて文字にするのは、非常に難しい作業であるが、だれも彼らの仕事のために口を噤もうなどとはしない。なぜならば、たとえ隣の席に座っていようとも、それは彼らの同僚ではないからだ。彼らの同僚は、それぞれの自宅で記録の整理に追われているはずである。というのも、彼らは記録を取るに当たり速記術という特殊な技能を用いる。これはより速く書くことを追及して開発された筆記方法で、読みやすさなどは度外視している。素人目には、蚯蚓の這った跡にしか見えない。そのような文字一日分を、丸二日掛けて清書する。そうやって、三日サイクルで遍く毎日記録が取られ、膨大な量の記録が蓄積されている。  彼らは、...
  • のりこごっこ
    2006年12月13日(水) 23時32分-川口翔輔   英語の授業中、僕は居眠りをして夢を見ていた。  その夢の中に、ずかずかと無遠慮に古川が入ってきた。古川は僕と同じクラスで英語の授業を受けている。その古川に僕は言ってやった。  「おい、入って来るときには『お邪魔します』くらい言えよ。礼儀を知らんのか」  古川はそう言われても面白そうに笑っている。僕だって本気でそう言ったわけではない。本当はうれしい。ただ、初めはその感情を押し隠して、あくまでドライにこう言うのが僕らの挨拶なのだ。  「おうおう、そう言うなよ鈴木、まあいいじゃん。だっておれもこの英語の授業つまんなくってさあ、つい来ちゃった」  そう言って古川は僕の隣に腰掛けた。僕らは二人して放り出してきた英語の授業の批判を始めた。  やがて古川がふらふらと立ち上がった。  「おれもう起きるわ」  古川は夢から出て行った。僕は「おう」と言...
  • 月の夜に ~ Far away ~
    2006年06月17日(土)17時23分-彩希晶    ふぅ…  ちょっと休憩するか。  両腕を上に伸ばし、俺はそのまま後ろにひっくり返った。右の手首に何か硬いものがぶつかって痛かった。見ると、ベッドから転げ落ちた目覚まし時計が転がっていた。寝返りを打って時計を掴み、時間を見た。今日だった日が昨日になってすでに30分ほどが経っていて、針がほぼ180度に開いている。  時計を戻し、起き上がって目の前を見た。小さな折りたたみ机にパソコンと大量の資料がごちゃごちゃに載っている。書きかけのレポートがディスプレイに表示され、カーソルが文章の最後で点滅していた。マウスを操作し、とりあえず上書き保存しておいた。  不意に、開けられた窓から涼しい風がすぅっと入ってきた。もやっとこもった空気が奥へ去り、代わりに爽やかな空気が部屋を包む。風に揺れた電気の紐が顔に触ってくすぐったい。風と共に窓から光が入り、薄...
  • ヘッケル博士! わたくしがそのありがたい証明の
    2008年02月14日(木) 23時02分-K  落ち着かない気持ちで、病院の廊下の硬いソファに腰かけ、あまりいい思い出のない臭いに鼻腔の奥をくすぐられていると、閉ざされたドアの向こう側から妻の叫び声が聞こえた。それは期待していたものとは違った。心の表面をざわざわとなでる毛羽立った沈黙を破って聞こえてくるはずだったのは、わたしたちの最初の赤ん坊の泣き声だったからだ。わたしは分娩室の戸を拳でどんどん叩いて、なにがどうした入れろ入れろと喚いていた。するとドアが勢いよくこちら側に開いたので、吹き飛ばされ廊下の壁に叩きつけられた。そしてその目の前を、気絶した妻がキャスターつきのベッドに乗せられて、どこかに運ばれて行ったのだった。呆然としてそれを見送っていると、「大丈夫ですか?」という声がして、手がさしのばされた。それは「確かにわたしは次亜塩素酸ナトリウムで歯を磨いていますがそれが何か?」というよう...
  • 追憶(お題『陽射し』『実際』)(苗之季雨)
    2012年03月10日 (土) 22時35分-苗之季雨  晴れた日は外に飛び出して、思いっきり駆け回りたくなる。九歳の幼い少年にとってはごく当然であるはずのそんな欲求も、周囲の者に言わせれば必ずしも歓迎されるものではないらしい。最近になって、ようやくそのことに気づき始めた。 「よい、しょっと!」  貞明(さだあきら)は高欄によじ登ると、そのまま庭先に飛び降りた。素直に階を使わないのは、人目を憚るためというよりは単にまだるっこしいからだ。それに、なんと言ってもこちらの方が断然わくわくする。  東宮様は、と遠くで女房の声が上がった。もういなくなったのがバレたらしい。貞明は顔をしかめ、急いで植え込みの陰に隠れる。見つかったら最後、またしても邸の中に連れ込まれてしまうから。  あなたは東宮――皇太子なのですから、下賤の者のような振る舞いをなさっては困ります。室内で大人しくしていて下さいませ。...
  • 白女剣(仮) ~『仙侠五花剣』より
    2005年11月13日(日) 02時06分-穂永秋琴   白女剣 ~『仙侠五花剣』より ※中国と日本では寸尺法が異なります。日本では一里は4キロメートルですが、中国の一里はわずか500メートルです。また一尺は33センチではなく23センチほどとなります。 (ここまでのあらすじ:時は宋代、高宗皇帝の御世。五人の剣仙が弟子を取り侠事を伝えるため山を下りる。その一人・紅線は――)  さてかの紅線は、金遁に乗じて黄衫客と別れた後、東南へ向かって行き、やはり混元湖を通過した。ただ、ここはかつて共工氏とセンギョクが争った場所であり、共工の頭が不周山に触れ、天は西北に傾き、地は東南に落ち込んでいた。のちにジョカが石を焼いて天を繕ったとはいえ、この土地はまだ修復されておらず、そのため混元湖の東南は西北に比べ十数倍もの大きさがあった。  紅線は岸辺に立って眺め渡したが、茫洋として果てが見えず、水遁の法を使お...
  • 無題
    2005年03月06日(日) 20時08分-伊吹   カラン、と音を立てて床の上にボールペンが転がった。 「あ。ごめん」 通りすがりに制服の袖を引っかけて落としたそれを、祐二はあわてて拾い上げる。小さな羽根のかたちの飾りが付いた、ピンク色の可愛らしいボールペンだ。持ち主である隣の席の女生徒は読んでいた本から顔を上げて、いいえと笑った。 「拾ってくれてありがとう」 「あ……うん。なんか、変わったペンだね」 祐二がそう言ったのには、他意はない。ボールペンといったら黒いのかせいぜい青しかつかわない彼にとって、女の子の持つピンクのボールペンが物珍しく見えただけのことだ。 けれど、隣の席の少女は嬉しそうに答えた。 「あら、分かるのね」 「えっ?」 「それね、ちょっと特別なボールペンなの」 大切な秘密を打ち明けるように、小声でささやいて少女は笑った。綺麗な、ひどく魅力的な笑顔だった。こんなに可愛い子こ...
  • ある秘書の覚書
    2006年10月17日(火) 22時15分-渋沢庚    先生は、代議士です。若くて熱血漢な人でしたが、先生の念願の法案が通ってすぐに、病に倒れてしまいました。肺ガンだそうです。気づいたときには手遅れでした。すでに腫瘍が、肺のほとんどを蝕んでおり取り除くのは不可能、仮にとれても転移の可能性が高いそうなのです。  私は先生の秘書をやっていましたが、さすがにその話を聞いたときにはショックを隠しきれませんでした。だって、私にとっては、初めて秘書を勤めさせていただいた方だし、先生の政治理念も私の心を打ちました。その上、未熟な私を逆に励ましてくれたりして・・・。ですから、本当にショックだったんです。  でも、先生は検査を受ける前から、うすうす病気に気づいていたようなのです。だから、無理して、自分が国会に提出した法案をなるべく早く通したのだと、思います。文字通り自分の最後の政治生命をかけて。  ...
  • ギャルゲー企画原案!? 『清く正しいダンジョン交際!?』
    2005年10月08日(土) 01時07分-K    ストーリー  主人公は、一人で旅行するために新幹線に乗っていたのだが、ちょうど長いトンネルの真ん中あたりで、大きな地震が起きる。そして崩落がおきて主人公たちは閉じ込められてしまう。何とか生き残った主人公。辺りはまったくの暗闇で、何にも見えないが、周りに何人かに生き残りの気配が! 話してみると、主人公以外は(なぜか)全員若い女の子! 主人公たちは、完璧に視界を奪われてしまった中、風の音だけを頼りに、出口を目指して冒険の旅を始めるのだった。    ゲーム目的  画面は基本的に真っ黒! 音声と、主人公の内的独白でわかる触覚、さらに女の子たちがくれるヒントを頼りに、選択肢を選んでいく。目的は生き残ることと、女の子と仲良くすること。君をさまざまなイヴェントが待っているぞ!    エンディングの一例   多くのシナリオで、生き残ることができるの...
  • 20110915対名工大合評会会話ログ抜粋カオスフルその一(全年齢版)
    2011年09月18日(日)22時37分 - うつろいし   2011/9/15 名工大との合評会中会話ログ抜粋改変 その一、 タイトル:L histoire de la Marche 作成者 :エンディミオン ・これは、とある作品をリスペクトした作品ですね。 Q読んでて思ったけど、作中で主人公についてほとんど語られないから、こいつ何者なのって Aそれは割りと狙いであったりします ・主人公は誰でも感情移入できるように敢えて個は消して、絵でいうと前髪が掛かっていて顔の様相が伺えない、そんな感じだね。 ・主人公は悪くないと思うけど、もっと魅力的なキャラがいいと思う気がする。 →男々してるキャラっていうことならば、僕は男々してるキャラって嫌いなんですよね。 ・主人公が語らな過ぎて、性急なように感じた。主人公の性格を現すシーンをもう少し入れてもいいと思う。 →(先程の話題であったように)やるんだっ...
  • 吉原秘帳 参
    2011年10月02日(日)18時35分 - 雪緒    一つ、二つ、三つ。  万寿は歩きながら数える。前と後ろを囲むように揺れる殺気の塊は自分達の様子をうかがっている。ゆらゆらと揺れる提灯は行く先を頼りなく照らしていた。月光もない道はわずか先までしか見通すことができない。けれどそれがいい、万寿はあえてこの道に誘い込んだ。人通りもなく、更に視界の悪いこの路地裏に。  結局尻拭いか、と万寿は手元の文を眺める。  狸爺、もとい紅楼から渡されたものであるが、情報の出どころは恐らく他の六花衆であろう。 まったくたかが一つの街を回すためだけに、幕府よりも複雑かつ念入りな仕組みを維持しているとは呆れてしまう。しかももとは単なる遊女であった万寿自身が実行部隊を担っている。随分と、奇妙なものである。  立ち止まり、顎に軽く手を添えて考え込むような仕草をした。  さて、どうしたものか。  頷いて緩やかに笑っ...
  • 哀惜の城
    2011年04月20日 (水) 22時45分 - すばる   「ねぇ、本当に行くの?」 佐藤春花が、物怖じしたように問い掛けるのはもう何度目か、うるさい、帰りたければ一人で帰れ、などということはもう誰も言わない。すでに山の中腹あたりにまで差し掛かっており、彼女に夜の山道を一人で歩くだけの度胸はない。風で木が蠢くようにざわめき、そこらのお化け屋敷よりもよっぽど怖い。これから向かう場所がそうだったとしても、みんなと一緒にいた方がまだましだ。でも、できることなら行きたくないので、こうして何度も、引き返そうと言っている。でも見栄っ張りな彼らは、帰りたかったとしてもそうとは絶対に言わない。結果、この中の全員が帰りたがっていても、このまま引き返すことはできないだろう。ざくざくという山を登る足取りには迷いの色も交じってはいるが、それを揉み消すように、その足音はよけいに強くなる。  そうやって、どれくらい...
  • 御戸代草紙・恋華 フユオト1~6
    2006年01月02日(月) 23時16分-鴉羽黒    人は変わるものだ。けれど、僕自身はなんら変わっていないように思える。一年前と。  変わらないものの存在なんて信じているわけではないが、変わろうとしない限り変わらないものはあるのだろうと思う。  だから、僕は変わらないだろうと思っていた。 変われないのだろうとも思っていた。  けれど。  少しずつ、気づかぬうちに変わるもの。一瞬で劇的に変わるもの。  自覚のないままに、変化のトキは訪れていた。  もうすぐ春が来る。そのとき、僕は――僕たちは、どうなっているのだろう。  ◆1(始まりは二月の頃に Side.R)  二月という季節は、新しい何かを始めるには少し淋しすぎるのかもしれない。 灰色の空を乾いた風が駆け抜けて、開け放した窓から冷気が舞い込んでくる。閑散とした部屋に冷風とはあまりに似合いすぎているように思うが、そこがこれから自分の...
  • 御戸代草紙・恋華 フユオト1~6(2)
    2006年01月02日(月) 23時22分-鴉羽黒    人は変わるものだ。けれど、僕自身はなんら変わっていないように思える。一年前と。  変わらないものの存在なんて信じているわけではないが、変わろうとしない限り変わらないものはあるのだろうと思う。  だから、僕は変わらないだろうと思っていた。 変われないのだろうとも思っていた。  けれど。  少しずつ、気づかぬうちに変わるもの。一瞬で劇的に変わるもの。  自覚のないままに、変化のトキは訪れていた。  もうすぐ春が来る。そのとき、僕は――僕たちは、どうなっているのだろう。  ◆1(始まりは二月の頃に Side.R)  二月という季節は、新しい何かを始めるには少し淋しすぎるのかもしれない。 灰色の空を乾いた風が駆け抜けて、開け放した窓から冷気が舞い込んでくる。閑散とした部屋に冷風とはあまりに似合いすぎているように思うが、そこがこれから自分の...
  • 緊迫
    2005年04月10日(日) 23時11分-K    前回までのあらすじ  親の仇を倒すために、剣術修行の諸国放浪をしていた稀近(まれちか)は、行く先々でなぞの組織の刺客たちと遭遇していた。しかし、彼らを倒しながら、確実に剣士として稀近は成長していくのであった。そんな折、伊賀に立ち寄った稀近は、なぞの忍術使いにより絶体絶命の窮地に立たされたのであった。  「はーはっはっはっは。我が奥義、『分け身の術』が貴様にやぶれるかな?」  「く、くそ、いったいどれが本物なんだ」  正眼の構えで立つ稀近の周りには、幾つもの忍者の姿が見える。それが同時に動くと、森の中で視界も悪いため、幾つの像が見えているのかすらもわからない。もちろん、そのほとんどすべては残像にすぎないのだ。どうにかしてこの技を見破らなければ。  「そーら。ぼけっとしてるんじゃないぞ」  スッと、背筋に悪寒が走る感覚がした。後ろに気配す...
  • お題「宇宙」30分競作
    2014月02月19日(水) 11 20-鈴松アリス 飛翔(お題「宇宙」)   あの人は、この大空の中へと飛び立っていった。見果てぬ世界の先を目指して、燦然と煌めく太陽の下へ。 その姿を見失ってもなお、あの人のいる大空から目を離すことは出来なかった。やがて朽ちる定めの翼でも、あの人は飛び立つことを選んだ。嘘偽りで固められた翼は、必ずその身を焼かれて爛れ、栄華と盛衰、その輪廻のごとく落ち行くのは誰しもが分かっていたことだった。自らの胸に刃を突き刺す、その行為に等しいことを誰もが知っていた。それでもあの人は諦めなかった。 あの人の胸中を察することなど、私にはもって不可能である。私もあの人を揶揄し、侮蔑し、罵倒する彼らと同じだからだ。虚飾の翼を真実で覆い隠してしまうことなどできなかった。だがあの人の翼を手折ることもできなかった。それが如何に無謀なことであるのかを知りながら、あの人を地に括り...
  • Uー1(Ultimet―One)
    2006年05月02日(火)22時57分-一角天馬    青い蒼天の空を雲が流れていった。  そんな平和な地方都市に突如として悲鳴が響き渡ったのだった。  「あーれー、助けてー。」  「ぐへへへ。」  見るからに粗野そうに見える男はここらで有名な魔術師崩れの男が白昼から道ばたで村娘にちょっかいを出していた。  有名な看板娘で、輝く金の髪に蒼天のような青い瞳を持つ看板娘は男から逃れようとするがだめだった。  道行く人々が心配そうな表情で見守るが誰一人として助ける物はいない。  怖いのだ。  しかしそんな彼らとは全く違う男女がいた。  ユキナ「どうしよう、シキ早く助けないと。」  シキ「お待ちくださいユキナ姫様、今目立つようなことはおやめください。」  ユキナ「もうだめ我慢できない。」  ユキナが駆け出そうとしたそのとき  ユーイチ「そこまでにしてもらおうか!」  りんとした声が鳴り響いた。...
  • 見つめ返してくる深淵
    2007年04月13日(金) 16時20分-K   どうして私が、ここ鳥取砂丘でひたすら、穴を掘ってはそれを埋め、穴を掘ってはそれを埋め、を繰り返しているかを知りたければ、続きを読んでくれればいい。知りたくなければ、読まないことだ。あらかじめ断っておくが、この話に意味とか意図とかそういった類のものを求められても困る。なぜ、みなにこんな話をするのか自分でもわからない。理由なんかないのだろう。つまり、この話にはほとんど意味はない。ほとんどない、と言い切っていいはずだ。もしこの話に何か意味に似たものが含まれているとしたら、それは残りかすに過ぎない。    小学生のころ、私は今よりさらに野生の猿に近かった。人間的な上下関係よりも、動物的な力関係に敏感であり、自分より強いものには、服従はしなくとも敬して遠ざけ、自分より弱いものには、進んでやるというわけではなくとも機会さえ与えられればいたぶり楽し...
  • @wiki全体から「暴力的照れ隠し」で調べる

更新順にページ一覧表示 | 作成順にページ一覧表示 | ページ名順にページ一覧表示 | wiki内検索