逆らえぬ運命

名古屋大学 文芸サークル 作品データベース内検索 / 「逆らえぬ運命」で検索した結果

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  • 逆らえぬ運命
    2013年04月24日(水) 01 21-三水 夏葵 神様はある人間にこう伝えた。 「近い将来、貴方は非常に珍しい不治の病に侵されるでしょう。それは今までの間誰も治せることが出来なかった不治の病です。」 そして神様はその不治の病の名を挙げた。それは当時では非常に恐ろしい病であった。 「そ、そんな…」その人間は顔を真っ青にした。「な、何とかなりませんか?」 「それは貴方しだいですよ。」 神様は只そう言い残し、消えてしまったのであった。   一人残された人間は考えた。 (そう簡単に死んで堪るものか。自分の人生はもっと有意義であるべきだ。私は生きていく、必ず生き抜いていく。運命なんぞ変えてやる。打開策を施さなければ。) 故に人間は医学を勉学し始めた。人並みならぬ努力をした。来る日も来る日も人間は医学書をむさぼるように読み続け、食事や仮眠を忘れる程頑張った。神様が予言した不治の病についても必...
  • 三代目アップ板作品2.
    ... 21 三水 夏葵 逆らえぬ運命 13 2013年04月25日(木) 15 36 鈴生れい 自分の本心に素直になれないのなら、 14 2013年05月20日(月) 21 57 エンディミオン 備忘録 15 2013年05月24日(金) 16 22 K 蛹の日 16 2013年05月25日(土) 23 16 御伽アリス コワシテ、万華鏡(アップ板ver.) 17 2013年06月05日(水) 00 07 エンディミオン 堕天 18 2013年06月07日(金) 23 00 鈴生れい もう一人の彼女の真実(前編) 19 2013年06月07日(金) 23 02 鈴生れい もう一人の彼女の真実(後編) 20 2013年06月18日(火) 23 36 ふっしい アカくんとアオくん(お題「磁石」「友人」) 21 2013年06月25日(火) 00 09 花庭京史郎 とある会話(お題「磁石」「友...
  • とある会話(お題「磁石」「友人」)
    2013年06月25日(火) 00 09-花庭京史郎 「はあ……」 『どうしたの? ため息なんかついちゃって。君にしては珍しいね』 「……実は昨日、彼と別れたの」 『彼? 誰のこと? 代名詞で言われても意味不明なんだけど』 「それ、ジョークのつもり?」 『真面目のつもり』 「……付き合ってた人と別れたのよ」 『そんなに深刻な顔をしてるってことは、もしかして死別?』 「……あのさ、殴っていい?」 『は?』 「私のこと、からかってるよね?」 『単に確認してるだけだよ。可能性の低いものから』 「アホか! 普通、可能性の高いものから考えるだろ!」 『昨晩読んだ本格ミステリーの影響かも』 「やっぱり、私のことからかってる!」 『そんなつもりは、毛頭ございません』 「うそつき! 髪の毛あるじゃん!」 『それ、面白くないよ』 「うっ……」 『それに、自分で言うのもなんだけど、僕は滅多に嘘をつかない人間...
  • Door(お題「運命」)
    2012年10月03日(水) 23 42-御伽アリス ・・・― ・・・― ドアの前で、そいつが来るのを待っていた。そしたら本当にそいつはやってきた。おそるおそる、尋ねる。 「はい、どちら様ですか」 沈黙。小さな覗き穴をのぞき込んでみるが、どうしたわけか何も見えない。 「どちら様ですか」と、もう少し大きな声を出す。すると。 ・・・― ・・・― それはノックの音だった。誰かがこのドアを叩く音だ。 「はい、どちら様ですかっ」と言うと、向こう側から何かの声が聞こえてきた。 「私は、『運命』ですってね」と、そいつは言った。 「はい? もう一度言ってください……」 「私は、『運命』ですってね」と、確かにそいつは言った。ということは、今、長い間待ち望んでいた運命というやつが、僕の元にやってきたということか。そうか、そうか。 ドアの前でじっと耳をすませて待っていたから、僕はふと気が付いた。足音がしなかった...
  • 今週のお題「運命」
    2012年10月02日(火) 15 26-水無原 これが運命だったのだ、と私は自分に言い聞かせた。 ○○大学付属幼稚園入試結果、と記された紙が私の脇に張り出されている。 周囲は阿鼻叫喚の、とまではいかずとも、それなりに混沌としていた。泣く親、笑う親、叫ぶ遊ぶ笑う子供。たった一つの結果に何をと笑うかもしれないが、各自の努力と天分の結果だったのだ。高校時代の恩師の言葉が蘇る。 『本当に全力を尽くしたのなら、悔しくて泣くことはない』 けれど先生。スポーツ漫画では負けたら泣くのはお約束です。受験でも、わあわあ泣くのはよくあることです。とてもとても簡単な、それは心に有り余った感情の処理手段。 仕方ないね、と笑って、じゃあ次頑張ろうか、とあっさり笑って去っていく親子のほうが、どうしてうちの子が落ちるんですかと声をありあげて事務室に電話してくる母親や、よかったわね受かったわよと戦敗者の目前で喜ぶ家族より...
  • 終電の後発列車 33~
    2006年02月20日(月)16時58分-月組     ◆33(穂永)   <羽鳥希沙から伯爵への書簡>  前略。長らく連絡しなかったことをお詫びします。健康にお過ごしでしょうか。  さてこのたびの通信の用向きですが、私の旅の良き友であった賈玉鳴さんについて、教えていただきたいことがあるのです。本来なら彼自身か、ないしは彼の恋人である馮珊珊さんに尋ねるべきではありますが、どうしても連絡が取れないものですから。そこで彼の旅の原因を深く知る、あなたの教えを請いたいと思うのです。ご多忙のこととは思いますが、私の記録にとって欠くことができないあの人物について、そして私が知ることができなかった時の廃墟について、どうか詳しくご教授くださいますよう。草々。   <伯爵から羽鳥希沙への書簡>  手紙を受け取りました。他ならぬ君の頼みです。喜んで承りましょう。  ただ私も、彼が時の廃墟で何を見たのか、実際に...
  • ダメな人々(擬似短歌第1形態十首)
    2012年08月04日 (土) 00時11分-エンディミオン 「教育」 警察官ケーキ屋花屋お金持ち。なるほどそうかい。で、将来の夢は? 口々に「才能/部活/金銭が」持てずは見えて持つは見えぬか 「色恋」 掠め過ぐ白き感触恋しくてとっさに腕を引き戻し、悔ゆ 分かりません。二つの鎖・非効率・無限の責任……分かりません。 「酒」 酔いたいの放っておいてとうそぶいてミズじゃ酔えない知ってるくせに メランコリー飲み干したいから飲み干すの。帰って一言「ラーメンコリゴリ」 「日常」 ご褒美の右下によって夜中知り起きて右上、葉月知る 「きっかけは?」あぁまたしても。ダメ質問。もうちょい人生考えて生きたら? 「法学部」 持ちこむはテストの用意か意気込みかそれとも単に狂気の文字か 悪しき法喜劇と伏すにかたぶくも浮かぶ遺産へ強かにアハトアハトを
  • こじかひめとまじょ
    2012年09月23日(日) 17 38-古夢 参照文献:名作アニメ絵本シリーズ 「こじかひめ」     ~序章~ 数百年前、森には聖女がいた。女は己を頼って来る者を決して見捨てることなく、飢えた者には一日の糧を、病の者には心からの手当てを与えた。隠者のように街から離れた森のふもとに棲む女は精霊のように美しく、その美貌は冷徹で聞こえた時の王をして森へと足を運ばせるほどであった。 後に、女は王に見初められて妃となり、森から去った。         ~本章~ 昔々のことである。 二つの国が、森を挟んで接していた。その森の奥深くには、光が届かない場所があり、そこには魔女が住んでいると言われていた。 ある時、身なりの良い少年がその森に迷い込んできた。狩りに夢中になって、おつきの者たちとはぐれてしまったらしい。気丈なたちなのか、怖がることも怯える事もなく、物珍しげに薄暗い森を進んでいる。どんどん...
  • 真実の証人~チョコレィトが世界を争いに導くまで~
    2013年02月10日(日) 21 48-鈴生れい これはまだ私が若かりし頃の話だ。 自分で言うのも恥ずかしいものだが、かつてあったヴァレンタインデーという風習にのっとり、私は16歳の2月14日、多くのチョコレィトをもらっていた。 ああ、多くは義理だったよ。交友関係が広かったものでね。当時は『友チョコ』と呼んだものさ。いや、そんなことはどうでもよいか。 しかしヴァレンタインデーと言えば、貰えば勝ち組、貰えねば負け組と言う風潮でね。いくら義理とはいえ嬉しいものだったとも。私は甘いものが大好きだからね。 だが、世の中そんな人ばかりではないのだよ。たとえばヴァレンタインデーにチョコレィトを貰えない男共もいた。彼らは貰える者を羨み、時には声にならぬ慟哭を上げ、時には失墜のあまり膝から崩れ落ちた。 彼らは、チョコレィトというよりはヴァレンタインデーに女の子からプレゼントをもらうということに執着して...
  • みどり
    2006年06月09日(金)14時42分-川口翔輔    彼と初めて出会ったのはいつだったろうか。ぼくには思い出せない。しかし思い出せないからといって、それがそれほど遠い過去の出来事だったようには思わない。その証拠といっていいかわからないが、ぼくは今でもその時のことを鮮明に記憶している。もちろん、時間という要素を除いてだが。  「手を上げてもいいし、嫌なら上げなくてもいい」彼はそう言った。ぼくのこめかみには、これ以上ないほどまったく自然に・冷ややかな銃口が突きつけられていた。ぼくはその冷たさに心地よさと形容すべきものさえ感じていた。  手を上げてもいいし、嫌なら上げなくてもいい。言うまでもないことかもしれないが、ぼくに君の選択の自由を侵す権利はないし、そんなつもりもない。これは、仕事なんだ。  仕事?  そう。ぼくは愉快だからといって君に銃を向けたりはしない。好きでこんなことしているわけ...
  • 人々を導く光の神
    2007年05月17日(木) 17時17分-魔法司法     余は支配者    余は超越者    余は絶対者    いや、神と称する方が正しかろう    人間どもに導きの光を授けることが余のつとめ    余は人間どもに進むべき道を示す    人間どもは皆、余に指し示された道を行く    人間どもにまた別の道を示す    皆、余の威光に従う    逆らうものは誰一人としていない    人間どもは愚直に余の天啓に従う    人間どもは誰もが他の人間との衝突を怖れる    摩擦を嫌う    闘争を厭う    されど愚かなことに人間どもは衝突を避けず    摩擦を甘受し    闘争を巻き起こす    故に我が導きの光を授ける    余の名の下に人間どもは共に歩み    自らを律し    秩序を学ぶ    人間どもよ、その平穏に感謝せよ    余あってこその平穏とゆめゆめ忘るるな    余は上位者 ...
  • 餅(お題、餅)
    2014月01月09日(木) 23 49-夕坂貞史 刈られ、剝かれて、蒸かされて。 こうして考えてみると、随分目にあっているもののように思う。少し同情の念が湧いた。 まあ、人のことは言えないなあと思いつつ、庭を見まわす。 女性陣が目に映ったところで、別の善からぬことが微かに考えた自分が恨めしい。 何を考えたかは聞かないでほしい。僕とて、健全な男子なので。 もちろん、縁に腰かけた妹相手だけは絶対にないが。 そこでちらり、幼馴染と目が合って、僕は誤魔化すように口へ放り込んだ。 ついて、つかれて、丸められて。 字面だけを追うと、なんだかそれはわたしのようじゃのう。いや、皆きっとそうかもしれんな。 揉みくちゃにされながらも、何も言えぬまま、棘を抜かれてしまっておる。 縁に腰かけて庭を眺めると、彼女も考え事をしておるように見えた。 アホ兄貴はこの際どうでもよいので、視線を手元に戻す。 白くて、とて...
  • 雨が降ったら(お題『雨』)
    2012年07月07日 (土) 21時54分-御伽アリス 「ちょっと待って、梅村大春くん」 「……」 「待ちなさいよ」 「……」 「あれ、命惜しくないの?」 「いやいや、何物騒なこと言ってるのこの人」 「この人、じゃないでしょ」 「なんですか、長戸水季さん」 「何でフルネームなの、棒読みだし」 「自分だって俺のことフルネームで呼んだだろ」 「そんな昔のことをとやかく言ってるとモテないわよ」 「悪いけど俺は急いでる」 「ホントは急いでなんかないくせに」 「じゃあな、俺帰るから」 「ちょっと、ほら、外を見てみてよ」 「なんだよ、うるさいな、外がどうした」 「ほら、何か重大な事件が起きているでしょ」 「……いや別に何も」 「はあ? お前の脳は薄汚れたゴムボールか!」 「どんな脳だよ」 「ばっかじゃないの、誰が見たって雨が降ってる、って言うとこでしょ」 「それのどこが重大な事件だ」 「だってすご...
  • 三代目アップ板作品1.
    (ページ内通し番号・投稿日時・作者名・タイトル) 1 2012年09月08日(土) 18 22 17+1 お蕎麦です 2 2012年09月23日(日) 17 38 古夢 こじかひめとまじょ 3 2012年09月23日(日) 17 41 古夢 こじかひめとまじょ 2 4 2012年09月23日(日) 17 43 古夢 こじかひめとまじょ 3 5 2012年09月23日(日) 17 44 古夢 こじかひめとまじょ 4 6 2012年09月23日(日) 17 46 古夢 こじかひめとまじょ 5 7 2012年09月23日(日) 17 50 古夢 こじかひめとまじょ 6 8 2012年09月23日(日) 17 58 古夢 こじかひめとまじょ 7 9 2012年10月01日(月) 22 56 竹之内 大 赤ずきんの裏事情 10 2012年10月02日(火) 15 26 水無原 今週のお題「運...
  • 今週のお題「セリフから始まる」(竹之内大)
    2012年10月21日(日) 23 18-竹之内 大 「赤い糸が見えるようになった。」 突拍子のない発言に思わず読んでいた雑誌から顔を上げ、彼に視線を向ける。 「ついに俺の秘められた力が解放されたに違いない。」 自信満々に言ってのける目の前の男。前からちょっと変わったやつだとは思っていたが。そうか、ずっと彼女がいないことは知っていたがついにおかしくなってしまったのか。かわいそうに…。 「よし。さっそく街に繰り出すぞ。未来の嫁が俺を待ってる。」 「ちょっと、なんで私まで…。」 彼に強引に手を引かれ、こうして私は赤い糸でつながれた彼の運命の女性探しに付き合う羽目になったのであった。 さて、やってきたのはわが町の生き字引、今年米寿を迎えられてもいまだかくしゃくとした老婆が店主を務める古本屋。 「お前が年上好きなのは知ってたが、さすがに…。」 「そんなわけないだろ!」 「いや、確かにこれが運命な...
  • アウェイ
    2006年11月08日(水)16時19分-川口翔輔      ほら  サ―フ  それなら、  思ったより速く  希んだより疾く  とおのいてゆく感覚と  とおのいてゆく感覚。  問題、束縛、無聊、愛情、自由、神仏、信仰、疑念、他人、運命、罪業、羞恥、価値、道徳、満足、個性、定理、不安、勇気、中庸、程度、真理、世界、所以、安定、破壊、堕落、怠慢、再生、誕生、善悪、後悔、友情、血縁、信念、勝敗、諦観、平等、感動、本能、慈悲、未来、希望、絶望、矛盾、正義、打算、悦楽、美徳、輪廻、才能、結果、過程、仮説、証明、反省、余韻、達観、意地、欲望、記憶、観念、審美、翠煙、想像力、とか、  思い出。  なにがあっても  どうせついてこれやしないよ  いいから、  おきざりにいこう  ほら  サ―フ  どこにいても  どうせとどまれやしないよ  いいから、  おきざりにいこう  わすれなくていい  ここから...
  • 我らが最新鋭潜水艦キングフィッシャー号の余裕
    2006年07月19日(水)12時38分-一影   「4時の方向、ハッチ開放音、魚雷来ます」  ソナー士の声には焦燥が見られる。おそらく彼は実戦任務について間もないのだろう。潜水艦という密閉された空間。目に見えぬ敵、近づく魚雷という名の死。水圧は体を蝕まずとも、素人では精神をやられて発狂してもおかしくない。潜水艦が棺桶と呼ばれる所以である。 「心配することはない、このまま潜行しつつ1番、2番ハッチより魚雷発射、200メートルで起爆させろ」 「潜行しつつ一番、二番ハッチより魚雷発射、200メートルで起爆」  艦長は落ち着いて命令を発した。  副官は落ち着いて復唱した。  敵魚雷のうちふたつは迎撃され、残るひとつも我らがキングフィッシャー号にはあたらず、海底を爆破するに終わった。  そう、心配することはないのだ。なんといっても我らがキングフィッシャー号は新型動力を搭載した最新鋭艦なのである。も...
  • 三人娘略奪婚始末 ~『楊家将演義』より(2)
    2005年05月22日(日) 05時29分-穂永秋琴   (ここまでのあらすじ:南蛮の儂智高の叛乱を鎮圧して都へ凱旋した楊宗保・文広親子。戦勝祈願のため東岳へ進物を持っていった使者が焦山の山賊に襲われ、宝物が奪われてしまったことを知る。楊文広は部将の魏化とともに、山賊を討って宝物を取り返し、改めて東岳へ納めるため、軍勢を連れて焦山へ向かった)     文広、兵を率いて宝を取る  さて仁宗皇帝は楊文広に、まず焦山へ行って宝を取り返し、さらに東岳へ行ってこれを納めてくるよう命じた。文広は詔を得て、「奉敕取宝進香」と書かれた旗を作らせた。旗が出来上がると、無佞府へ戻って父と別れ、ついに三千の鉄騎兵を率いて出発した。  出発にあたって、文広が魏化に、 「焦山へはどの道を通って行けば良いのだろう」  と尋ねると、 「二つの道があるそうです。一つは広い道で、焦山の正面へ通じています。もう一つは隘路...
  • お題「日の出」
    2012年06月10日 (日) 23時48分-竹之内 大  人魚姫は剣を両手で握りしめながら、幸せそうに眠る王子と姫を見下ろした。  王子がほかの女性と結婚してしまったら、日の出とともに彼女は泡となり消えてしまう。私が足を得るために、魔女と交わした契約。私が生きるためには、仲間たちが持ってきてくれたこの剣で二人を殺すしかない。これでも人魚の中では一、二を争う魔法と剣の使い手だった。寝ている二人を殺すことなど造作もない。…でも、そんなことはできなかった。  一目見た瞬間から胸が締め付けられるように苦しかった。本当なら岩陰からこっそりのぞくことしかできなかったはずなのに。こうして王子の側にいることができるなんて。やさしいあなたは足の代償に声を失った、どこの誰ともわからない私のことを、心底かわいがってくれた。まるで夢のような日々だった。でも、夢はいつか覚めるものなのだ。タイムリミットは迫って...
  • 三人娘略奪婚始末 ~『楊家将演義』より
    2005年03月07日(月) 00時21分-穂永秋琴   (ここまでのあらすじ:南蛮の依智高の叛乱を鎮圧して都へ凱旋した楊宗保・文広親子。戦勝祈願のため東岳へ進物を持っていった使者が焦山の山賊に襲われ、宝物が奪われてしまったことを知る。楊文広は部将の魏化とともに、山賊を討って宝物を取り返し、改めて東岳へ納めるため、軍勢を連れて焦山へ向かった)  さて仁宗皇帝は楊文広に、まず焦山へ行って宝を取り返し、さらに東岳へ行ってこれを納めてくるよう命じた。文広は詔を得て、「奉敕取宝進香」と書かれた旗を作らせた。旗が出来上がると、無佞府へ戻って父と別れ、ついに三千の鉄騎兵を率いて出発した。  出発にあたって、文広が魏化に、 「焦山へはどの道を通って行けば良いのだろう」  と尋ねると、 「二つの道があるそうです。一つは広い道で、焦山の正面へ通じています。もう一つは悪路で、焦山の後ろ側に出るのですが、こち...
  • 極短編小説3
    2011年11月16日(水)19時52分 - すばる とうとうここまできた  とうとうここまできた。 ここまでに、何日かかり、どれほどの時間を費やしたことだろうか。 こんなことしてなんになるのかと、そんな疑問を抱くときもあった。 すべては無駄、何の意味もないことだと、心のどこかで思っていた。 だけどそのたびに言い聞かせた。人生なんて、所詮はすべて無駄なもの、死んでしまえばすべてなくなってしまうのだと。 そうやって、苦心に苦心を重ね、そしていよいよ、運命の瞬間。 あっ、ピース足りない……  恐怖写真  そこには、ありえない映像が写されていた。彼のすぐ脇に写っているのは、髪の長い女。 その長い髪に隠れて顔はよく見えないが、病的なほど白く、透けるような肌を白装束で包んでいる。 袖から覗くのは、細く、長い指。 その弱々しげな風体とは打って変わり、その目だけは異様なほど強く輝き、まるで写真を通して睨...
  • とこしえに(短歌もどき六首)
    2012年07月21日 (土) 15時17分-エンディミオン とこしえに 「とこしえに誓う二人がとこしえに」途切れた言葉をしつらえ描き 「とこしえに誓う二人がとこしえに」問わず答えずしかして笑んで 「とこしえに誓う二人がとこしえに」時のことわり知らされ得ずに とこしえに誓う二人よとこしえに時のことわり知らされ得ずに おまけ 道すがら睨む視線にしたり顔我が胸中に走る血しぶき 判例はなるほどしかし学説はうるさい黙れさあ息を吸え  * * *  短歌に挑戦してみました。別段造詣が深いわけではありませんので、技巧的な事は分かりませんし、もしかしたらマズイ事をしているかもです。
  • 今週のお題「記録」(水無原)
    2012年04月28日 (土) 22時55分-水無原 その記録を彼が見つけたことが、巡り合わせとか運命とかだったなら。私は神を呪おう。 彼はその記事を読んで苦悩し、悲嘆し、さらに絶望した。私は彼の考えを知らなかったが、その記録が忌むべきものらしいと悟った。その知識を捨てたら何が起こるのか、私には判らなかったが、彼の憂鬱を軽減するために何かできることを探した。結論として、全てをなかったことにするのが一番良いらしいと考え、彼がそれについてまとめたノートを私の引き出しの奥の奥に隠した。 彼はノートが失せたことにすぐ気付いた。しかし私にありかを尋ねることはなかった。彼にとって、私が記録を目にした時の感情が恐ろしいのだろう。それは彼にとって良くないもので、彼に血縁のごとき情を抱いている私にとっても良くないものだと思ったのだろう。 彼は私の友人の忘れ形見だ。友人はすでにこの世になく、父親の方は誰...
  • 逃げる
    2007年02月27日(火) 17時04分-Κ  だからぼくは逃げ出してひたすらひたすら走っていって後ろも振り返らずどこまでもどこまでもたとえ火の中水の中山を越え谷を越え次第に毛は抜け皮は剥がれ姿形も変わっていって人間ですらなくなくなっても絶対お前を逃がさないどこまでもどこまでもお前を追って幾多の脱皮を繰り返し自分の名前を忘れても自分が自分じゃなくなってもその後姿絶対捕らえて離さずにぼくは必ず逃げ切ってやるうねうね曲がる小道を抜けて幾千幾万の分かれ道出口のない迷路を飛び越えたとえ世界が尽きてもたとえすべてが過ぎ去っても絶対に捕まえてやる絶対に逃げ切ってやる絶対にやってやる絶対に もう詩だか小説だかどうでもいいね
  • キノコ勇者:第二部について
    2007年01月31日(水) 10時27分-藤枝りあん  本来なら感想欄でやるべきところをここでやっちまいます。長くなりそうなので。 作品、まさに見事としか言いようがありません。 やりたくても単位地獄に陥った私にはショートもどきを作るのが精一杯です。2月後半からようやく、といった感じでございまする。 さて、簡単に粗あらすじを述べますと、 ・プル    王様殺害容疑で牢にぶち込まれるも、シャンプ・ルスラとともに混乱に乗じて脱出。    これからも旅を続けようとしたが、シャンプに「足手まとい宣言」をされ、気落ちしたままルスラに村へ強制送還される。    しかし、ルスラが消したはずの記憶が徐々によみがえり、辺鄙な田舎まで伝わってくる世界の混乱を知り、再び旅立ちを決意。    家族の手助けや、見知らぬすごい人々(賢人二人)の言葉によって何とかムーランまでたどり着く。    そこでトリュフォーの兄と...
  • 晴れた日は柄の長い傘を持って・あらすじ
    2005年02月10日(木) 00時25分-木組   雨宮水知は、この春中学を卒業したばかりの、ごく普通の高校一年生だ――雨男である、という点を除けば。 「晴れた日は嫌いなんだ。雨が降り出すのは、決まって晴れた日だからさ」  そんな水知だったが、家から近いからなんて理由で高校を決めてしまったときから、彼の運命は決まってしまった。親がやけに熱心にすすめていたのを不審に思わなかったのも、彼のミスだった。 「へえ、凄いなぁ雨男」  入学二日目にして遅刻し、それが縁で知り合った光原ハル。彼女とともに、職員室に向かうが、そこで謎の巨漢に突然襲われてしまう。 「知れたこと――我が名は雷電豪介! 今年で16になる、貴様のクラスメートよ!」  実はそいつはクラスメートだったりして脱力する水知らだったが、悲劇(喜劇?)はそこで終わらなかった。教室に向かう水知らの前に、一人の黒合羽女が立ちはだかる。 「は...
  • アリアドネーの幸福
    2011年03月20日 (日) 01時53分 - K    見事ミノタウロスを倒したテセウスは、アリアドネ―に手渡されて迷宮の入り口扉に結び付けておいた糸玉を手繰って、今再び日の光を浴びんと脱出を図った。そこには共にクレータ島を出て、故郷に帰った暁には妻にすると約束した彼女が待っている筈であった。  しかし、そこには罠があった。罠を仕掛けたのはアリアドネ―だった。彼女は神話において散見される不思議な予見能力から、自分はクレータを逃れて一時的に訪れた島で愛する男とどうしようもなく分かれ、そしてこの男が厚顔無恥にも自分の妹と結婚することになるのを知っていたのである。だから彼女は一計を案じ、神話の無限にある、今では知られていない別の筋道に、この愛しい男を迷い込ませることにした。まずは扉に結び付けられた糸をはずすと、少し巻きとって、小さな糸玉とした。そして自らの服の中に隠して、へその前のところで...
  • ムダに困難に立ち向かうサワーズ社の人たち(リレー)
    2013年09月28日(土) 14 26-御伽アリス ルールを決めよう、と彼は言った。 勝手にすれば、と私はそっぽを向いた。大学一年生の夏休みが終わろうとしている九月の下旬、セミの鳴き声はもう完全に絶え、肌寒い秋風が吹き始めていた頃だった。 「自分の隣の人に対する悪口を必ず会話に盛り込まなければならない。これがルールだ」 彼はドヤ顔で言った。 「ルールを破ったら、温玉入りコーラを一気飲みだ。じゃあ、はじめ」 周りの意見を一切聞かずに彼はゲームを開始した。シーザーサラダの上に盛られた玉子をもうジュースにぶち込んでいる。 誰も文句を言う人はいない。それはそうだ。なぜなら、彼は社長だから。大学生だけで起業した《サワーズ》のボスだ。 「で、では私から……」向こう正面の田中が言う。「我が社の業績はぐんぐん伸びていますが、鈴木は一向にモテる気配がありません」 「何だと!!」次は鈴木のターンだ。「A社...
  • 暗殺者と時計の村
    2011年03月14日 (月) 07時42分 - ikakas.rights    生い茂る木々の間を縫いながら、細い獣道は森の奥へと続いている。  先ほどから歩いても歩いても景色が変わらない。目指す村はこの道の先にあるはずなのだが、立て看板ひとつ見かけない。  俺は立ち止まって梢を見上げ、太陽の位置を確認した。ふむ。……進む方角は合っているらしい。  と。 「ちょ、ちょっとー……。待って、待ってよ、あの……うわっ」  か細く頼りなさげで、ふわふわした少女の声が背後から──かなり後ろのほうから聞こえた。ついさっきまでは隣にいると思っていたのだが、いつの間にか随分と引き離してしまったらしい。 「悪い。早く歩きすぎたか」 「い、やぁ……ん、ちょっと、かなぁ?……まぁ……」  林木の向こうから、どっちつかずな返事が返ってくる。声色はのんびりしているが、繁みをかき分けるのに苦労しているらしい。待っ...
  • 甘いだけの小説は書けるのか (るり)
    2011年07月02日 (土) 22時46分 - るり    運命や一目惚れなんて、あたしは信じてなかったけれど。  ぴちょん。  でもそういうものって、確かにあるみたい。  大学の食堂で友人二人とクレープを食べていた。たっぷりのキャラメルソースがとろりと一筋零れそうになって、それを空いた右の人差し指ですくっていた時だった。 「きみさ、文学部の同じクラスの子だよね。えぇっと、村瀬さん?」  えっ、と顔を上げると、背の高い男の人がいた。知らない人。あたしが慌てて手元のハンカチで指先をぬぐっているうちにも、その人は「俺は辰巳っていいます」、「クラスの顔合わせの時、美術史に興味あるって言ってたから、気になって」と話を進めていく。あたしはぼーっと鈍った頭を必死で働かせて「うん、うん」とうなずいた。最後に赤外線通信でアドレスを交換して、辰巳くんは席を外した。携帯電話を寄せ合った時に触れた小指は今でも...
  • まっぷたつの子爵令嬢 他一篇
    2007年02月15日(木) 01時52分-穂永秋琴       プロット  軽日野子爵の令嬢・軽日野芽衣子が髪型をツインテールにしている理由は、激しい情動を押さえるため――。  ときは太平洋戦争末期。父の子爵がフィリピンを視察するのについて行った芽衣子は、アメリカ空軍の爆撃に巻き込まれ、大怪我を負ってしまう。奇跡的に命は取り留めたものの、二週間生死の境を彷徨った結果、芽衣子の中の善と悪が手がつけられないほどに成長してしまった。子爵おかかえの呪術師にして、東西無双の博識家・雲部映子は、芽衣子の髪を二箇所で結ぶことによって、善と悪の激しい葛藤を鎮めることを提案した。芽衣子の右の髪を結んで善を封じ、左の髪を結んで悪を封じ――以来、芽衣子はずっと髪型をツインテールにしているのである。  ところが、なにかが起きて芽衣子の髪の片側がほどけてしまうと、さあ一大事。芽衣子が悪の性格に支配されれば、凶残...
  • 恋せじと
    2012年04月24日 (火) 22時25分-古夢 女は、哀しんでいた。朔に近い夜の微かな月明かりの中で、女は独り、涙を流した。    恋せじとみたらし川にせしみそぎ神はうけずぞなりにけらしも 今から半世紀も昔の話。この国が激動の中で訳のわからぬ活気にあふれていた頃。その喧騒とはかけ離れたところに、一つの恋が、生まれて消えた。 *** 日中もまだ肌寒さの残る早春。小さいながらも古くから霊験あらたかで名高い神社の境内には、一人の男の姿があった。二十歳を越えたばかりほどの年頃だが、ワイシャツの上に藍染めの着物と袴、下駄という明治の書生のような出で立ちで、どうにも時代遅れの感がある。もっとも、朝日が昇り始めて間もないこの時間帯に会う人もいなかったので、男は一切気にする様子も見せなかった。彼は、神殿前に立つと鐘を鳴らすための綱へ静かに触れた。そして背筋を伸ばしたまま礼をし、音高く二度手を打ち鳴らし...
  • 大銭湯(反逆編)
    2005年05月10日(火) 22時12分-一角天馬     続き!!  「我々の目的は長月草太郎、湯草ゆず子、両名だけである、無駄な抵抗をやめおとなしく降伏したまえ」  暗黒(略)大帝の声は当然、湯屋の5階、そこに集結した紫苑たち湯屋勢の生き残りの耳にも届いていた。  明らかに裏切りを誘った放送によって湯屋スタッフ達に動揺が広がっていく。  「おい、どうする?」  湯屋の警備員の一人が同僚に話しかける。  「どうするって何がだよ」  「だから今の放送だよ、社長を差し出せば俺たちは助かるんだぜ」  「た、確かに」  「馬鹿、山田、鈴木、お前らなんてことを話しているんだ、社長に今の話を聞かれてでもみろ」  「あらあら、何の話をしているのかしら、かしら?」  「「「しゃ、社長」」」       いつの間にか離反の話をしていた三人男達の後ろに湯屋社長の湯草ゆず子が立っていた。  「ひぃぃぃぃぃ...
  • 雨音
    2011年06月26日(日)08時47分 - すばる    ざあざあと、雨の降る音が聞こえる。雨は嫌いだ。雨の日は洗濯物が乾かないし、部屋干ししているから家の中もかび臭い。傘を差さなくては外に出られず、自転車の傘差し運転をしようものならどうやったって濡れてしまう。 そうでなくても雨は嫌いだ。あの時以来。  あれはいつのことだっただろうか、もうずいぶん昔のことに思われる。ただあの日も雨が降っていた、そのはずである。でもそれは、とても不思議な光景だった。バラバラと庇をたたく雨音が、家の中に響き、だけど外を見るに、とても雨が降っているようには見えない。まあそれはよくあることだ。かなり強い雨でも、場合によっては降っているとわからないことすらある。だけどそのうちに日も照ってきて、それだのに雨音が止む気配は一切ない。どうして、と聞いてくる息子に、天気雨というんだよ、と教えてやる。だけどしまいには、家...
  • 泡沫奇譚(二)
    2011年02月08日 (火) 23時55分 - K    私が授業を始めようとしていると、奥村が教室に入ってきた。大方、便所にでも行ってきたのであろうと考え、気にせず板書を始めようとしたが、看過しえぬことに、コークの瓶を勢いよく振り回している。一体なんのつもりであろうか、と思って見ていると、それを机の上に置いて、栓を抜き、慌てて教室から走り出ていった。当然、瓶からは勢いよく黒ずんだ泡が吹きだし、机を濡らしはじめる。悪戯のつもりであろうか。しかし、私の記憶にある限り、奥村はこういうことをする生徒ではなかったはずだ。どのような心境の変化があったのかのであろうか。魔が差したというやつであろうか。  さっさと拭き取ってしまわねば、とも考えたが、不思議なことに、こんな時に限って信じられないほど、授業が順調に進む。何をどこまで説明すれば生徒が理解できるのかが、自然に身についている感覚がする。板書は...
  • 即興演奏
    2006年06月09日(金)16時42分-Κ    1.    わたしは、医者の後について病院の廊下を歩いていた。  「ここです」  医者はそういうと、病室のひとつにわたしを招じ入れた。中に入ると、細身の女性がベッドに横たわっていた。窓から外の景色を見ていた彼女は、わたしに気がつくとよわよわしく笑いかけてきた。  「兄さん、来てくれたんだ」  はて、わたしに妹なんていたのだろうか。どうも思い出せないが、いたのかどうかは思い出せなくとも、いるのかどうかならわかる。ここにいる。  「体のほうはどうだい」  わたしは訊く。  「最近はかなり楽になったけど、ただ単に鎮痛剤が効いてるだけかもしれない。先生は快方に向かってるとは言ってるんだけど」  「そうか」  わたしは窓の外の景色を見る振りをして目をそらす。本人はどう思っているのかはわからないのだが、正直妹の変わりように耐えられないのだ。あのふっく...
  • 世界の車窓から
    2009年03月24日(火)21時42分-K 架空世界の車窓から  今日は架空世界の旅、シャンバラ駅からシャングリラ駅までの車内の様子をお伝えします。 (BGM Talking Heads “Road To Nowhere” http //www.youtube.com/watch?v=JChU_gVnLYk)  シャンバラ駅を出ますと、すぐに町からはなれ、列車は限りなく続くように見える、大空に架けられた長い一本道の橋の上を走ります。前後に伸びる線路以外は見渡す限りの青い空と白い雲の世界。  そもそもこの架空世界は始発駅のエルドラードとの終着駅のザナドゥとの間に架けられた巨大な橋の両側にへばりつくことによって存続している世界です。エルドラードの人々は、この世界はザナドゥ側で支えられていると信じ、ザナドゥの人々は、エルドラード側で世界を支えていると信じていて、そして真ん中に住んでいる人々は両...
  • 銀帽子のメイズ 33~
    2005年10月17日(月) 15時11分-月組     33(バーネット)  銀帽子のクロウが飲み込まれてもサフィアはあくまで冷静だった。一国の副相たるものがこの程度のアクシデントで慌てふためくことなどあってはならない。予想外の出来事が起こったとき正確な判断を下せなければ被害はさらに拡大する。こんなときだからこそ冷静に対応しなければならないことを経歴上サフィアは良く知っていた。  銀帽子のクロウを飲み込んだ巨大地這い竜はそれで満足することなく――あの怪物にとっては銀帽子も他の人間も同じに違いない――その巨体で醜悪かつ不恰好なダンスを踊りながら死と破壊を量産し続けていた。恐らくは秒単位でいくつもの命の灯が押し潰されているのだろう。  その様子を無表情で観察し、現在の彼我の戦力差は絶望的というほどまでは行かないものの明らかに不利であるとサフィアは判断した。  リビングテイルの守備隊の数は...
  • 愛の形(3)
    2014月01月06日(月) 23 28-K 愛と嘘        頭の打ち所が悪くて、彼女は自分のことを世界だと思い込んでしまった。 私は、大学の実践形而上学科で詩を、つまり言葉から不純物を取り除いていって最終的には自らも消えていく手法を研究することをあきらめて、工場で働き始めた。 毎朝六時に起きると、あおなみ線に乗って工場に行き、薄汚れた町の空色の作業服に着替え、ベルトコンベアーの上に乗って次々と流れてくる対称性にすっと刃を差し込んで破っては、ボゾンとフェルミオンを分けていく。 そして、三原色に塗り分けられ香り付けられたマーク大将のための鳴声三唱を二色の糊でつないでは、光速とプランク定数を最適に調節し、重力質量と慣性質量を正確に一致させる仕事に、毎日くたくたになって部屋に帰った。部屋では、今日も自分が世界で、自分の中に何千億の銀河があり、銀河の中にはまた何十億もの星が輝き、その星の周り...
  • それは全体は赤くて白くてそれでいて一部はどちらかというと黒く青く丸みをおびた三角形であり立方体の突起物があり水玉模様のストライプで・・・
    2006年05月09日(火)21時30分-一角天馬    ある朝目覚めると枕元に『よくわからないもの』がいた。  『よくわからないもの』は何とも例えようのない声で鳴き、どのようにも名状しがたい匂いをして、どうにもよくわからない姿をしていた。  「おはよう」  とりあえず私は挨拶をしてみた。  すると『よくわからないもの』は半透明の体を震わせて硝子の覗き穴から見える水晶のような球を真紅に発光させた。  どうやらその光には催眠作用があるらしくしばらく意識が飛んでいたようだ。気がつくと一時間もたっていた。  私が調理をしている間、『よくわからないもの』はおとなしくテレビを見ていてくれた。  どうやら砂嵐が気に入ったらしく、ザザーザーという音に合わせて突起物の数を変化させていた。  朝ご飯はワカメと油揚げのみそ汁に焼いた鮭とお漬け物。  お漬け物はお隣の笹原さんが漬けた物だ、なかなかおいしくて気に...
  • 極短小説
    2011年10月30日(日)10時40分 - 御伽アリス    ハロウィーン  トリックオアトリートなオータムがケイムトゥザタウン。チルドレンはインコスチュームでアフタースクールのストリートをパレード。ワンスアイヤーのフェスティバルにエキサイトするボーイゼンガールズ。 「おかしちょーだい」 「どうぞ」 「あたしにもちょーだい」 「はいよ」 「おれまだもらってないよ」 「……たくさんあるからちゃんとあげるわ」 「かたじけないー」  ……さっきからあの子、何回もらえば気が済むのかしら。  体育祭 「優勝、赤組」 「イイイエエエェェェイイ!!!」 「優勝、白組」 「ッしゃあキタアーーーー!!!」 「あーどっちもだめですね、もっと喜んでください。僕が手本を示しますのでよく見ててください」 「……」 「天国で見てる母さん、どうだい、俺、ついにやったよ!これであの娘と結婚できるよ!ああ、大自然よありが...
  • 真昼のこと
    2013年07月26日(金) 01 34-弥田 部屋の底にまひるが沈殿する まひるはこがね色に輝いて 私の部屋の底に 泥のように沈殿する 見た目こそきれいでも その強い匂いにはむせこんでしまう 飛び込んでしまえば あまく くるしく 溺れて息も吸うことができない こっそり部屋を横切っていた ありたちの死骸が こがね色の海をぷかぷかとたゆたっている ほしくずのように ※ まひるは夏の熱気にあてられてしまったようだ 発酵して もしくは 熟れて じゅくじゅくと汁を垂れ流しはじめた 匂いはますます濃くなって かげばくらくら視界が揺れる 腐れたリンゴジュースを想像してくれると すこしだけ理解してもらえるかも 発酵する日光からは 生命が次から次へと湧いてでる またたくまもなく 部屋はちみもうりょうで埋め尽くされた なれしたしんだものからよくわからないものまで おびただしい生命の氾濫 あかいきんぎょがまひ...
  • Once upon a time
    2005年02月04日(金) 14時04分-K   むかしむかし、そのまたむかし、またまたむかし…………あんまりむかしなので忘れてしまいました。    むかしむかしあるところに、とても親切な人がいました。どのくらい親切だったかといいますと東に病気のこどもあれば、行って看病してやり、西につかれた母あれば、行ってその稲の束を負ひ、南に死にさうな人あれば、行ってこはがらなくてもいいといひ、北に喧嘩や訴訟があれば、つまらないからやめろといひ、日照のときは涙を流し、寒さの夏はおろおろ歩き、みんなにでくのぼーとよばれるぐらい親切であったそうな。その人は死んでしまった。みんなその人は天国へ行ったと思っていた。そして永遠に平穏な暮らしをするだろうと。  でもこの世には天国も地獄も無いので、その人はたんなる土くれになったんだそうな。  めでたし、めでたし。    むかしむかしあるところに、泣き虫な角砂糖が...
  • L'histoire de la Marche
    2011年09月03日(土)03時21分 - エンディミオン    マルシェ。  それが僕とセレーネ、しがない剣術指南役と一国の姫君が、互いの心を認め合うための合図だった。剣を交えれば、彼女がどんな気持ちで僕に向かっているのか、なぜだか伝わってくるような気がして。きっと同じ様に僕の想いも、切っ先から痛い程伝わっていた事だろう。少なくとも僕はそう信じていたい。だから、だからこそ僕には、自分の心の内をそのまま押し留めておく事なんて、到底出来なかった。 「その様な申し出、聞き届けるわけにはいきません。私はこの国の王位継承者。貴公はその私に剣術を指南する身。その意味を、貴公はお分かりか」 「しかしセレーネ様の剣からは、私を本気で切ろうとする意志が感じられません」 「なっ……愚かな事を」  率直に「愛しています」と伝えると、面を外し少し上気したその表情は、堂々と構えようとしながらも、しかし動揺の色を...
  • お題「シナリオ」
    2012年06月24日 (日) 23時30分-竹之内 大  あるところに一人の映画監督がいた。彼は特に才能があるわけでもないのに非常に自信家であった。そんな彼はあることで有名だった。それはシナリオの変更を絶対に許さないということ。カメラの角度から、ちょっとしたセリフの言い回しまで、すべてがシナリオの通りになっていなくては気が済まない。役者達は当然自分の演技をすることなど許してもらえず、自分たちはまるで機械仕掛けの人形のようだと感じるのであった。もちろん役者たちの素材を殺すような撮り方をしていたのではいい映画が撮れるわけはない。思い余って監督に進言する者もいたのだが、彼は聞かなかった。 『シナリオというものは、ライターが推敲に推敲を重ねて作り上げた完全無欠の犯すべからざる神聖なものであって、役者や現場のスタッフが思い付きで勝手に変えていいわけがない。現場がすべきこととは、ライターの意図をす...
  • 腕時計ファッションに関する最新情報
    2007年09月30日(日) 04時18分-穂永秋琴    ペーター・ハントケの戯曲『私たちがたがいをなにも知らなかった時』に、両腕に肘までぎっしり腕時計をつけた男が登場する。  この作品を読んでいて、この男が登場してくるところまで進んだとき、私はその奇天烈なファッションに思わず吹き出したのだが、今日、思わぬところで、似たような格好が目に飛び込んできたのである。  地下鉄名古屋駅のホームに貼られていた、ブランド腕時計のセールに関する宣伝ポスター。その図案は、サングラスをかけた黒人の男性が、四つの腕時計をはめた左腕を見せ、にかっと笑っているというものだった。なお、その四つの時計が指している時刻はばらばらであった。  このポスターを見たときの私の驚きを想像してもらえるだろうか。だが驚きから醒めて冷静に見てみると――あ、案外違和感はないかもしれない、と感じたのである。まあ両腕に肘まで腕時計をつ...
  • 吉原秘帳 参
    2011年10月02日(日)18時35分 - 雪緒    一つ、二つ、三つ。  万寿は歩きながら数える。前と後ろを囲むように揺れる殺気の塊は自分達の様子をうかがっている。ゆらゆらと揺れる提灯は行く先を頼りなく照らしていた。月光もない道はわずか先までしか見通すことができない。けれどそれがいい、万寿はあえてこの道に誘い込んだ。人通りもなく、更に視界の悪いこの路地裏に。  結局尻拭いか、と万寿は手元の文を眺める。  狸爺、もとい紅楼から渡されたものであるが、情報の出どころは恐らく他の六花衆であろう。 まったくたかが一つの街を回すためだけに、幕府よりも複雑かつ念入りな仕組みを維持しているとは呆れてしまう。しかももとは単なる遊女であった万寿自身が実行部隊を担っている。随分と、奇妙なものである。  立ち止まり、顎に軽く手を添えて考え込むような仕草をした。  さて、どうしたものか。  頷いて緩やかに笑っ...
  • 生死肉骨
    2008年03月09日(日) 17時20分-R  この世に神など無い。  少なくとも、私を救おうという稀有な存在などありはしない。  ならば。  ならば、私は、そんなもの――要らない。 序章  宣告  エステイラ族は、脆弱だった。それ故に、争えば破れ、蹂躙され、滅亡の途を辿っているのは誰の目にも明らかであった。  しかし、彼らはその道理を捻じ曲げた。  エステイラの神話にこう記述がある。  『彼らはそれを神と崇め、望むもの全てを貢物として捧ぐことを誓った。   そして神は、彼らに死を恐れぬ戦士を遣わした。   戦士達はどこまでも敵を追い、滅し尽くした。   神は契りが守られる限り、戦士達は彼らに勝利をもたらすだろうと告げた』と。  エステイラの信じる神は、その名を口にすることを許さず、よってただ「神」とだけ記されている。  しかし、その後のエステイラの残忍極まりない侵略――エステイラの民...
  • 今週のお題「きじ」
    2012年04月15日 (日) 19時58分-すばる  鍋に水とバターを加え、沸騰させる。そこに薄力粉を一気に入れ、よくかき混ぜたのち、弱火で温め、さらにとき卵を少しずつ、様子を見ながら加えて混ぜる。クッキングシートに並べ、190℃のオーブンで三十分焼けば完成。  大事なのは生地。クリームはそこまで難しくないし、市販の生クリームを入れてもいい。鍋で卵、薄力粉、砂糖、牛乳をかき混ぜながら加熱すればできる。だけど生地ができなかったら、どうしようもない。潰れた生地にはクリームを入れる隙間もなく、中身のない最中みたいな感じだ。練習として二週間前に作ったとき、リベンジとして先週作ったとき、生地と一緒に気持ちまでぺちゃんこになった。しかも今日は、ラストチャンス。今日は十日、日曜日。十四日までにもう休みはない。 それで、朝の九時から作り始めて、失敗した。今は、二回目の挑戦。オレンジの光の下、生地の塊...
  • 循環型社会
    2010年05月21日(土)21時36分 - すばる    男は視界を覆う青い天井と、そこにぽっかりとあいた、黒い穴を見上げた。エレベーターは、その穴に吸い寄せられるようにまっすぐ昇っていく。男は防寒具がしっかりと閉まっているかどうかもう一度確認し、身震いした。たとえ何度目であろうと、この場所に来ると恐怖を覚えずにはいられない。高さにはなれてしまったけれど、この先に待ち構えているものへの恐怖心はどうしても拭いきれない。 やがて男は穴の中を通り抜ける。どくんどくんという心臓の音が、数瞬ごとに強くなっていくのを感じる。もう、引き返せない。 ごうごうと強烈に吹く風が、ただでさえ恐ろしく寒い外気をより一層強め、針のような寒波が全身に刺さる。気をゆるせば吹き飛ばされてしまいそうだ。だけどここから解放されるためには仕事を終わらせるしかない。男は前かがみになりながら、ゆっくりと歩を進める。視界に見える...
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