響く剣戟の音は未だに続き。 この命は未だに鼓動を続ける。 それを、奇跡のようだ、と御鷹は思った。 背後では皇帝がクーリンガンと戦闘を。 前方ではLCとGTが無数のゾンビ相手に格闘戦を。 未だに続けている。 既に余裕は無く、皇帝も圧され、LCとGTは満身創痍だ。 そんな中、自分は祈る事しか出来ない。一刻も早く、救援が来るように、と。 キィィ―――ン、と言う一切甲高い音。 皇帝の剣が弾き飛ばされる。 無慈悲に、クーリンガンの短剣が皇帝の首を狙う。 「皇帝ッッ!!!」 御鷹のその声に応じてか、LCが咄嗟に一本のククリを投擲する。 投擲されたククリは円を描きながら、正確にクーリンガンの首を背後から狙う。 取るに足らぬ一撃だったろう。クーリンガンなら避けるにすら値しない。 しかし、皇帝の取った行動がクーリンガンの予測を覆す。 無慈悲に首を狙う短剣の切っ先を掠めるように、投擲されたククリに飛びつく。 一撃目を交わされたクーリンガンが返す刀で心臓を狙う。 ギィィィン――…… しかし、その一撃を皇帝は手に取ったククリで防いだ。 「中々の業物だ、使わせてもらう」 そうして、再びクーリンガンと皇帝は対峙する。 一方、ククリをかなり無理な体勢で投げたLCはその身をゾンビの群れに投げ出していた。 GTとの距離も遠い。 見えるゾンビをもう一本のククリで撫で斬りにし、何とか身を起こそうとするも、ゾンビの数は減らない。 両足を掴まれ、残る左腕で思いっきりゾンビの頭を打ち、それでも抵抗を続け――…… 「―――ッッ!?」 眼の前にゾンビの顎。 咄嗟に庇おうとする腕も上がらず――…… パンッと、ゾンビの頭が破裂した。 「ISSだッ!!」 タタンタタタンタン!!! 軽い音と共にサブマシンガンが火を噴く。 一斉に雪崩れ込んでくる人影。 次々にゾンビを撃ち殺していく。 その間にLCとGT、御鷹は集まる。 「全員無事か」 「何とか……」 「私は……戦ってすら居ませんし……」 そうしてISSがゾンビと戦っている最中、御鷹の元へ一人の青年が駆け寄ってくる。 「星鋼京より警察官1万、消防士1万、計2万、到着しました」 ビシっと敬礼する青年、やや緊張しているようだ。 「あ、……解りました。では警察官は民間人の保護を最優先に。 消防士は二班に別れ、一斑はISSと共同でホースを使っての制圧、もう一斑は火災の起きた地域、あるいは起きた際に備えて下さい」 御鷹は即座に指示を飛ばす。 青年はサー、イエッサー、と返事をすると駆け出していった。 その後も御鷹は次々と指示を的確に飛ばしていく。 鎮圧用か窓を割ってダックスが突入し、ゾンビを踏み潰していく姿も見える。 「となると、ゾンビの方は任せて良いな」 「問題は此方、ですね」 LCとGTが皇帝とクーリンガンの戦闘を見やる。 「物量作戦、でも勝てはするんだろうが、な」 「嫌ですか」 「皇帝に貸しを作りたい、それに嫌がるだろう、そういうの」 「まぁ確かにいい気はしませんが……何か策が?」 口元を綻ばせる。 「今、猫野和錆って凄ェ医者が着てるらしい」 「………嫌な予感がします」 「大丈夫だ、死ななければ何とかしてくれる、それに皇帝に貸しは魅力的だ」 「あ”あ”あ”……やっぱりぃ……」 LCとGTはゆっくりと皇帝とクーリンガンの戦闘圏内へと入っていく。 皇帝とクーリンガンの戦闘は一進一退を極めていた。 推しては退く、退いては推す。 圧倒的な実力差を、埋めているものは…… ギィン……!!! 既に皇帝の手の中には自分の剣とLCのククリがあった。 異なる武器の二刀流。 相手のリーチに入ってはククリで捌き、退いては己の剣で攻撃。 皇帝が皇帝たるスキル/威厳だった。 しかし、それを以ってしてもクーリンガンを討つには一手、後一手足りない。 「ォォォォオオオオオオ!!!!!!」 其処に、咆哮を上げてGTが真横から走りこんでくる。 素手、しかし首と心臓を両手を交差させて護っている。 相手の武器は短剣、ならば自然と狙う箇所は限定される。 曰く、首、心臓、そして急所。 前のめりになった特攻状態では急所は極端に狙い辛い。ならば、首と心臓を護れば――…… ザク――、と。 クーリンガンが無造作に短剣をGTの腕に突き刺す。 そして、そのまま真横に振りぬく。 どれだけ力を込めた所で、所詮は凡人の足?き。取るに足らぬ。そう思った筈――…… 伏せる獅子。 その名を冠したLCがGTとは逆の方向から走りこむ。 「―――ッッ!?」 しかも此方は同じ体勢で突っ込んでいるが、口にククリを咥えている。 咄嗟にGTの腕に突き刺さったナイフを手放し、逆の手で腰から短剣を引き抜き、LCの腕に突き刺す。 そのまま、地面に縫い付ける、その心算だった――しかし。 「―――………ッッッッ!!!!」 GTがその体をクーリンガンにぶつける。 僅かに揺れるクーリンガンの体。 其処に、咥えたククリの切っ先を、LCがクーリンガンの心臓目掛けて突き刺す――…… 「――――ク」 それは誰の言葉だったか。 それぞれ片腕で弾き飛ばされるLCとGT。 万全を期した奇襲さえ一蹴。 「――――賦ッッ!!!!」 ・・ だが、この瞬間のみ、雑魚にクーリンガンは両手を使った。 一閃されるのは皇帝の剣。 そう、この場に置いて、最も何より警戒すべきは皇帝。 斬ッッ!!! 袈裟に体を両断されるクーリンガン。 フリーになった皇帝は、その断罪の剣をクーリンガンに振り下ろした。 「――――……クッ」 血煙と共に倒れこむクーリンガン。白いサマーセーターが真っ赤に染まる。 決着は今、此処に。 「―――……ご苦労」 ピッと、血を払い、己の剣を鞘に収めながら、皇帝が口を開く。 LCもGTもそれぞれ結構な重症ではあるが、致命傷では無い。 GTは慌てて、LCはやや面倒そうに、皇帝の前に畏まる。 「中々良い、意気であった」 一瞬GTはこの場で首討ちもありうるな、と思っていたが、少し安堵した。 何しろ皇帝の一騎打ちの邪魔をしたのだ。 「そして、この短剣は面白い形をしている。中々興味深い」 ククリを始めて見るのか、LCのククリを撫でる。 「皇帝に使って頂ければ、これ以上の幸福はありません」 あんまりそうは思って成さそうな――どちらかと言うとそれ結構高いんですけど的なオーラを出しつつ――答えるLC。 「では記念に頂いて置こう」 えーと抗議の声を上げるかと思いきやLCは微笑んだ。 内心、貸し2ゲットォォォォォッッと叫んでるんだろうとGTは思ったが口にしなかった。 「では、医者に見て貰うと良い。その腕の傷は浅く無い。それに私が診る限り、肋骨も折れているぞ ――――ふ、それにしても、フシミは部下に恵まれているようで何よりだ」 皇帝は既にクーリンガンに興味を無くしたのか、悠然とその場を去っていく。 何処から来たのか、ISSの連中がそれを護衛しようとしてうっとうしがられてるのが見える。 「ふーやれやれ、ようやく一段落か」 「いや、LCさん、肋骨折れてるらしいですし、そもそも未だISSとかメッチャ戦ってますけど」 とっとっと、と軽い音と共に、御鷹がやって来る。 「二人とも無事でしたか――って、血塗れ!?」 一通りあたふとした後、来た時より5割増しで医者を呼びに行く、御鷹。 「俺等の仕事はこれで終わりさ、後は他の連中が頑張るだろ」 「良いンでスか、それで」 「ククリと弾丸代だって安くぁねぇんだぜ」 「いや、出してくれますよ、国が」 「まぁとりあえず、だ」 「はい」 「医者に診て貰おう」 「はい……」 血塗れの二人はばったりとその場に倒れ伏した。 次の日、新聞にはこう記事が飾られる事になる。 『皇帝、クーリンガンを撃退』 其処に割と深く携わった、星鋼京の三人の記事は書かれていなかった。