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文書資料8 - (2009/10/24 (土) 12:46:00) の編集履歴(バックアップ)


早○田の食客 ◆3zWaseda2A氏による文藝春秋2009年10月号書き起こし
「成長戦略」などなくても良い 
経済回復のカギは農業振興 「バラマキ」「財源論批判」はナンセンスだ。
榊原英資(早稲田大学教授)

この九月に発足する民主党政権には数多くの期待が寄せられています。
なかでも、昨年秋以降の「百年に一度」といわれる未曾有の大不況にどう対応するのか、いかにして日本経済を再生させるのか、という点が最大の関心事といえるでしょう。

しかし私は、民主党政権は、この課題に答えられる政策を打ち出したと思っています。
以下に述べるような経済政策を中心とした政権運営を行えば、日本経済は復活できるのではないでしょうか。
反面教師になるのが、麻生政権下での経済対策です。リーマンショック以降、麻生政権でも、定額給付金や、エコカー減税、家電のエコポイント還元など、四度にわたる緊急経済対策を打ち出しました。
事業規模にして総額132兆円という大掛かりなものだったにもかかわらず、結論からいえば“焼け石に水”でした。

財政支出による施策によって、一部で消費回復の兆しは見られたものの、消費は再び冷え込むだろうし、定額給付金も消費に使われるどころか、その多くは貯蓄に回ったのが現実です。
日経平均株価こそ一万円台を回復しましたが、これも実態から乖離した「不況下でのバブル」という不健全な状態にすぎません。
依然として景気回復の実感が得られないばかりか、雇用や賃金への不安も残る。今年の暮れから来年にかけて景気は二番底を打つだろう、と私は見ています。

では、緊急経済対策が効かなかったのは何故だったのか? それは、日本経済の構造に切り込むという、本質的な視点に欠けていたためです。
いうなれば、老朽化した旧来の経済構造を前提にした「バラマキ政策」にすぎなかったのです。

サブプライム問題に端を発する金融危機に加えて、世界最大の自動車メーカーだったGMの経営破綻が意味するものは、二十世紀型資本主義経済の崩壊に他なりません。
その結果、モノ作りの製造業を中心にした経済構造から、新たに環境や安全、健康、文化をキーワードとする経済構造へと、パラダイムチェンジが世界規模で起きているのです。
自動車産業においても、化石燃料を燃やす大型車から、ハイブリッド車や電気自動車といった環境対応車へと、シフトしていくことは明らかです。その変化の波は当然、日本にも及んでいます。

だからこそ、日本にいま求められるのは、時代の変化に対応した経済政策に他なりません。その政策の根底にある最大の理念とは、

「地方経済の活性化」であり、そのための、

「製造業オンリーの産業構造から、農業やサービス産業も中核とする産業構造への転換」
「外需依存型から脱却した、内需拡大の促進」

という三点に集約されるのではないでしょうか
農業振興が日本経済を救う
これらを実行することは、まさに戦後日本の国のあり方の大転換です。まして人口減少に突入した日本においては、これまでのような3%~4%の経済成長を望むのは難しい。日本は「成長社会」から「成熟社会」へと変わっていくのです。
その観点から自民党と民主党の政策を比べたとき、グランドデザインを書き換える意欲と実現性が垣間見えるのは、民主党の方だったのです。

右の三点の理念を実行する上で、民主党は注目すべき政策を掲げています。
第一が、「農家の戸別所得補償制度」です。これまでの自民党政権下での農業振興策は、農協などの団体を通じた経済支援と、減反政策を維持した上での高い米価をサポートするものでしたが、戸別農家にとってみればいずれも間接的な支援策に過ぎません。
その点、「戸別補所得補償制度」では、販売価格と生産費用の差額を基本として、一軒一軒の農家に直接的な経済支援を行うのですから、その効果は絶大でしょう。

こうした農業振興策は、必然的に農村部を抱える地方経済の活性化につながります。
グローバル化の流れの中で、製造業においては安い労働力を求めて工場が海外に移転し、国内の産業空洞化が進んだ結果、地方経済は疲弊しました。
中央との格差が拡大する一方の地方経済を再興させるには、工場を海外から再び誘致するという製造業依存型の発想ではなく、農業の再興こそが不可欠なのです。

そして農業振興は“地産地消”の流れに加えて、食の安全の観点から国内生産品への信頼度が高まったことと相俟って、内需の拡大をもたらします。
まさに有効な農業振興策こそが、日本経済を抜本的に再建させるカギだと言っても過言ではありません。

第二の重要政策が、「暫定税率の廃止」と「高速道路の無料化」です。ガソリンの値段なら約20%下がるし、高速道路料金もタダになる。これは景気刺激策として極めて有効です。
まず交通インフラを自動車に頼らざるを得ない地方にとって、経済効率が飛躍的に上がります。また、個々の自動車ユーザーにとっては、家計費負担の軽減効果ももたらされる。

だがそれ以上に経済効果が大きいのは、物流コストを大幅に削減できる企業です。
世界同時不況の中で大打撃を受けた企業にとって、この間接コストの削減は、企業の体力を回復させる刺激剤になるのですから。

日本経済の抜本的な構造改革を行うためにも、直面している景気悪化からは一刻も早く脱する必要があるのは、言うまでもないことでしょう。
他にも、中学修了まで一人当たり年約31万円を支給する、少子化対策かつ若年世帯層への家計支援策ともなる「子ども手当」など、国のグランドデザインに関わる政策がいくつもある。
こうした政策を断行すれば、日本の経済再生の道筋は、おのずと見えてくるのです。
財源論はナンセンス
しかし、一連の民主党の政権公約に対して、自民党からは「バラマキ政策だ」という批判が上がりました。
選挙前の党首討論でも、麻生首相自ら、「財源なきバラマキは無責任だ」と、四年間の消費税率の引き上げ凍結を明言した鳩山さんに噛みついたものです。

確かにマニフェストに掲げた政策を実施するには、四年後の二〇一三年度時点で総額16兆8000億円の財源が必要になる。
ですが、この財源論こそ、実は全くナンセンスです。財源は短期的に見れば、国債発行で充分賄えます。
日本の国家財政は決して破綻の危機などではありません。

国債と地方債を合わせた発行残高は約800兆円、つまり国は800兆円の借金を抱えている、とよく言われますが、これは間違い。
日本の国民の貯蓄残高は、じつは約1500兆円もある。

つまり、二つの数字をネットで考えれば、日本は赤字どころか、約700兆円の黒字という世界最大の債権国なのです。
このように当面の財源の問題は、国債発行で完全にクリアされるわけです。

私は財務省出身だからよく分かりますが、「国の借金800兆円」という議論は所詮、税収増を計ろうとする財務省主計局の中長期的スタンスに過ぎません。
国の代表として、日本のあり方を考え、大所高所から政策を論ずるべき国会議員が、まるで財務省主計局の主査みたいなことを言っていてはしょうがないですね。

財政の健全化を心配するのも結構ですが、それよりも今まさに進行している未曾有の景気悪化への対応や、経済構造の大転換に対処することの方が、優先順位として上なのではないでしょうか。
まして国債発行自体を悪だというのなら、これまでの予算は成り立ちません。
約80兆円もの一般会計の財源だって、約四割の30数兆円が国債発行分です。
20兆足らずの国債発行に目くじらを立てるのならば、では予算総額をこれまでの六割にまで減らせるのか、という話になってしまう(笑)。そんなことはムリに決まっています。
無論国債を発行する一方で、予算を効率化して無駄な歳出カットも行うと、民主党はマニフェストで謳いました。
公共事業や人件費、補助金などを徹底的に見直すことで、約9兆円を削減するとしていますが、これには時間がかかります。
もしそのムダが人間だとしたら、生首を斬らなきゃならない。企業のリストラでも人の部分に手をつけるのは一番最後になるわけで、十のものを一気にゼロにするわけには行きません。
こういった歳出削減の見直しは、政府として予算を編成し、次年度のその予算の効果を検証して新たな予算を組むという地道なプロセスを重ねながら、徐々に進めるしかないのです。

総選挙前に鳩山さんに会った際に、私はこう助言したものです。
「総理として実行すべきことを考えるとき、その時間軸は1クール=四年間と考えた方がいい。半年や一年で、あれもこれも行おうとすることは難しい」

アメリカ大統領だって、四年間の任期の中で、優先順位をつけて政策を実行していますね。日本の総理大臣も、そうあるべき。
まして、一年ごとに総理が代わるなど言語道断。「民主党の代表選挙も、しょっちゅうやらない方がいいですよ」とも言ったんですがね(笑)。

だから、民主党としては、まずは四年間を“第一期政権”と位置づけた上で、当面は国債発行を財源にして、景気対策と経済構造改革に着手する。
一方の予算編成では、二〇一〇予算は、すでに八月末に確証からの概算要求によって大枠が決まるので、本予算の大きな変更は難しいかもしれませんが、暫定税率撤廃や高速道路無料化、農家の戸別補償制度などは補正予算に盛り込むことで対処すればよい。

そして、民主党の改革色を前面に出した予算編成を二〇一一年度予算から、一二年度、一三年度と三回行うなかで、徹底的に「税金のムダ」を見直すことができるはずです。

もし財源論が出るとすれば、それは四年後の総選挙で勝利した後の“第二期民主党政権”での話です。
その時点ではじめて、年金や社会保障制度の抜本的改革をする上で、将来的な消費税増税も含めた、本格的な財政議論に取り組めばよいのですから。
日本版グリーン・ニューディール
こうして民主党が政策を断行する上で大切なことは、政策の目標とその成果を、国内だけでなく海外に向けて発信することです。
グローバル経済の時代、国際社会のでのプレゼンスや信用を得ることは不可欠ですし、また市場はそれらにシビアに反応するものです。

小泉改革に関しては私は評価はしませんが、海外からの注目度が高かったのも事実です。
それは、「改革を行う」という総理自らのメッセージの強さがあったからです。

だから鳩山さんも、オバマ大統領さながらに「チェンジ」を旗印に、日本経済の大構造転換を、国際社会にアピールするべきです。
その中身を見ても、環境対策やエネルギー問題、そして農政など、まさに「日本版グリーン・ニューディール」と呼んでも遜色ない内容です。
日本が国際社会でのプレゼンスを高めるだけでなく、鳩山政権による日本経済への期待値そのものを、高めるきっかけにもなるのですから。

それには、企業が株主を広く募るためのIR活動と一緒で、積極性が不可欠です。
鳩山さんはスタンフォード大学で大学院を修了するほどの英語遣いです。
首相に就任早々、国際会議の場で行われるであろう首脳会談でも、一国を代表する総理として言うべきことはしっかり言う覚悟が大事です。
オバマとも、考えが一致する部分は多いと思います。

鳩山さんに限らず、党を挙げて、欧米などでの国際会議でアピールしていけば、ニューヨークやロンドン、フランクフルトといった海外市場の関心が集まるに違いありません。

この鳩山民主党政権の誕生は、日本経済を大きく飛躍させる絶好の機会です。
そのために、私も民主党の方々としばしば意見交換をしてきました。

えっ、私が閣僚になるかですか? いえいえ、それはまっぴらです(笑)。
日本の大臣は年に百日以上も国会対応に追われて、本来大臣とすべき仕事が出来ません。
こんな悪しき慣行がある国は、日本ぐらいです。
大臣の役割を変えていくのも政権交代後の大きな課題でしょう。
そして、何より重要なのは、この国のグランドデザインを早く固めることです(終わり)