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No,960 奥羽りんくさんからの依頼 - (2012/09/17 (月) 22:31:54) の編集履歴(バックアップ)


恭兵はシャンパンをあけている。
香りの豊かさに満足する。
今日のために奮発した、いいシャンパン。
妻のために用意したとっておき。

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「あ、恭兵さん。お手伝いしますよ」

向こうから駆けるようにやってくるのは本日の主役。
白を基調としたAラインドレスがよく似合う。
生地は陰影により、水色にみえる。
そして彼女を飾るのは生花。白くて小ぶりな薔薇がたくさん。彼女は白がよく似合う。
まるで花嫁だな、と思った瞬間、感慨深いものを感じた。

「座っているか、挨拶してきてくれ」
「お前さんが今日の主役だ」

自分が手をとって見せびらかしたい気もしたが、やめておく。
代わりにりんくの頬にキスを落とす。


「わ…ありがとうございます。えと、じゃあ、ちょっとご挨拶してきますね」
「ドレス、似合ってる」

率直な褒め言葉にりんくは頬をますます赤くして、「あ、ありがとうございます」と言いながら恭兵に抱きついた。
その様子は変わらず初々しくてかわいい。
なんだかこのまま時間が過ぎても悪くない、なんて恭兵が思った瞬間呼び鈴が鳴る。


訪ねてきたのは本日の招待客、蒼の夫妻。

「こんばんは」
「本日はお招きいただきありがとうございます。これ、よかったらどうぞ」

忠孝の横のあおひとが、綺麗にラッピングされた箱を渡す。
中身はお手製のケーキ。

「ありがとう、あおちゃん! とっても嬉しいです」
「えへへー、お誕生日おめでとうございます、りんくさん」

りんくとあおひとが、ハグしている。
りんくの嬉しそうな顔に恭兵も満足する。

「改めまして本日はお越しくださいましてありがとうございます」
「こんなところで立ち話もなんですし、どうぞ中へ入ってください」

りんくの言葉に、みな部屋のほうに向かう。

「失礼します。お綺麗ですよ」
「ありがとうございます」
「本当に。ドレス、お似合いですねー」

蒼の夫妻の言葉に顔を赤らめながら、嬉しそうに微笑むりんく。確かに可愛いというより綺麗という言葉が似合うようになった。
出会った頃のりんくを思い出す恭兵。

あのときは、まさか自分が結婚するなんて思いもよらなかった。その相手がりんくだとも。
硝煙の臭いのしみついた自分と、幸せの象徴である家庭がイコールで結ばれる日がくるなんて、あの頃の自分が聞いたら鼻で笑いそうだ。
女は一時のやすらぎであればいい。
しばられるのは御免だ。
なにより彼女は、若すぎるではないか。一時の関係をもつには悲しすぎる。
それでもりんくはあきらめなくて、気づいたら自分もりんくを手放せなくなるほど愛していた。
長い年月をかけて、りんくは自分を変えてくれた。
束縛と感じていたものは、実はよりどころで、自分のすべてが受け入れられるということの安心感がこれほど自分を安らかにさせるなんて思わなかった。
一人でいたときには感じることのできなかった、想い。
誰かのために生きる、幸せ。
隣で笑うりんくという女性がすべて教えてくれた。

今日はそのりんくの生まれた日なのだ。

若宮、蒼の夫妻、岩手、小助。
多くの人々が彼女の生誕を祝ってくれる。

小助はしばらく無言の後、食えと言って猫を持ってきた。
目を丸くするあおひと。
苦笑いするりんく。

「あはは。ありがとうございます。でも、私は猫さんが食べられないので一緒に暮らしてもいいですか?」

小助は猫に「生き延びたな」と言った。
りんくは「今日から一緒に暮らそうね」と雉トラの猫に言い、猫はないた。
あおひとが「あぁ、やっぱり猫さんは可愛いですねー」とほわほわーんとなっている。
それにしても・・。恭兵は思った。

「こいつはまた、男ばっかりだな。嬉しくてなによりだ」

りんくが喜ぶならそれでもいいと思っていたら、「外に数名の女性がおられましたが」と若宮が言った。

その言葉に慌てるりんく。

「え! この季節にお外ですか!? それは風邪を引いちゃいますよー」

りんくが迎えにいき、連れてきたのは宰相だった。
髭のおじいちゃん宰相。不思議に思ったが、ちらりと外をみると女官長たちがいて、納得した。
そして恭兵はそのまま集団から離れ、見守る。

蒼の夫妻や、宰相、そして多くの招待客にかこまれて嬉しそうなりんくを見るのは気分がいい。
妻は多くの人に愛されているなと感じる。
宰相が何かを言い、りんくがグラスを持つ。胸にはあおひとから貰った雪をかたどったブローチが光る。

「はい、では乾杯しましょう! みなさん、お手元にグラスはありますか~?」

りんくの言葉に皆がそれぞれ乾杯をはじめた。
猫がにゃーと鳴いたのを見てりんくが楽しそうに笑う。

「あはは。なんて素敵な誕生日なんでしょう! みなさん今日はありがとうございます、乾杯!」
「ハッピーバースデー。今年もりんくさんにとっていい一年でありますようにー」
「かんぱーい!」

微笑ましいな、と思いながら恭兵もグラスをとる。
シャンパンを一口飲み、こんなにいいシャンパン買ったっけ?と考える。
恭兵のところにりんくが戻ってきて、横に並ぶ。

「恭兵さん、お祝いしてくれてありがとうございます…って、どうかしましたか?」
「いや、なんか。滅茶苦茶よくなってないか。このシャンパン」
「え? あー……もしかして…」

りんくの視線の先では宰相が微笑むと知らん顔をしていた。
恭兵はそれに気づかず不思議顔。

「?? 奮発したつもりだったが、こいつはすごいな」
「ふふ。おいしいシャンパンが飲めて、私とっても嬉しいです」

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その頃。
宰相の横にいたあおひとが笑顔で宰相に話しかける。

「粋なことをなさいますね」
「何、酒蔵からいくつか選ばせただけさ」

言った後でしまったという顔をする宰相。

「おとーさまは娘思いですね」
「なに、手間の掛からない娘でよろこんでいるよ」

自分のことのように嬉しそうなあおひとに宰相が答える。
宰相にとって、あおひとも可愛い娘である。

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りんくと恭兵はパーティーを二人で眺める。
パーティははやくも盛り上がり始めている。

「うわー。なんかみなさん盛り上がってきてますね、恭兵さん」
「猫が人気だな」

猫を交代で抱き上げたりしている様子をみながら、恭兵は笑った。

「名前はなんにする?」
「どうしましょうか。本当は、あの子に自分の名前が聞ければ一番いいんですけどね」
「うーん…そういえば、あの子は雄なのかな、雌なのかな…」

恭兵は猫を抱き上げて確認し、ひっかかれた。

「オスだな。立派なトムキャットだ」
「でかくなりそうだな」
「あら。だいじょうぶですか、恭兵さん」

りんくが猫を受け取る。綺麗な緑色の目をした猫。脚の先が大きい。確かに大きくなりそうだった。まだ4、5ヶ月くらいか。

「いい猫ですね」

やってきた忠孝の言葉にりんくが「ええ、とっても可愛いですよね」と微笑む。
あおひとが「子供が生まれたら、うちも飼いましょうか?猫」と猫好きの忠孝を思いやると「そうですね」と忠孝があおひとの額にキスした。そして微笑む。
猫はわきまえたようにおとなしくしている。

「あ、ありがとうございます…」

額をおさえ、真っ赤になるあおひと。

「うーん、お名前、なんにしようか。ねえ?」
猫と目を合わせながら話しかけるように言うりんく。
猫は丸い目でじーと見ている。
小さい舌を見せてる。
なんとも愛嬌のある顔。あくびした。
かわいさにりんくとあおひとは、猫をなでたりきゅんとなったりしている。

「女好きで物怖じがないか」
「他人とは思えんな」

恭兵は笑った。

「なるほど。じゃあ、このこの名前は『きょうへい』にします?」
「せめてきょうへい2にしよう」
「俺のほうが先だ」
「はい。じゃあそうしましょう。よろしくね、『きょうへい2』」

りんくがきょうへい2を抱き上げ、鼻先にちゅっとすると猫は目を細めた。
恭兵は笑っている。
その様子をみていた宰相がやってきた。

「中々円満そうで何よりだ」
「はい、恭兵さんがそばにいてくれるので、私、とっても幸せです。おとーさま」
:「本当に幸せそうですねー。もっと私に恭兵さんとの惚気話聞かせてくださいね」
「冴えないじいちゃんだな」

恭兵が毒づくと、宰相はわはははと豪快に笑い、冴えないが娘は立派だ。それで十分、と言った。
毒気をぬかれる恭兵。ここは素直に受け取ることにする。

「なるほど。ありがとうございます」
「おとーさまの誇れる娘でいられるようにがんばります」
「…わ、私もおとーさまに立派って言われるように頑張ろう、うん」

宰相は笑うと、杯を掲げた。



Fin