【風のある風景】
LHUy/g8S
(解;アインス・【風のある風景】“メンテ"後
主の自室を整理していると、思わぬものを見つけた。私は、思わず手にとっていた
“アルバム・独白"
ぱら、ぱら、ぱら。一枚一枚をゆっくりと捲っていく。そこには、ユーノ・スクライアの記憶が在った。
高町なのはと笑っている姿。フェイト・テスタロッサに助力する強い顔。
海鳴に住む同い年の少女らと遊ぶ年相応の顔。
クロノ・ハラウオンと争う怒り顔。
はやてやすずかと好きな本について語り合う楽しそうな顔といった友人達との記憶。
また、それ以外にも様々な、誰かの家族といる姿があった。
高町家、月村家、ハラウオン家、バニングス家。そして……八神家。
だが、ユーノ自身の家族……スクライア家と呼べるようなものは、一枚も写っていなかった。
主の家族は、どのような人だったのだろうか?それを知っているのは………
嘗て主のデバイスだったもの、レイジングハート、か。
……いや、よそう。今、最も主の側にいるのは、私なのだから
だが……本当にそうだろうか?
「主、貴方の家族は誰ですか?その中に、私は含まれていますか?」
“家族・お話"
「これは、誰ですか?」
写真に写っている一組の双子を見て、リインフォースが問いかける
「ああ、それはカレルとリエラ。クロノとエイミィの子どもだよ」
はたきをかけていたユーノが、振り向いて答えた。
「……そうですか。あの小さな子が、もう父親に成るのですね」
クロノ、クライドとリンディの息子。我が闇に飲み込まれた……我々の、私の被害者の一人。
時は移ろいゆく、悲しみに慣れ、命はまた結ばれる。
そして、新たな温もりが生まれる。だが、罪は消えない。
無限書庫の中、特に多くの本が飛び交う場所がある。
その中心の一つは無限書庫司書長。そしてもう一つは、一冊の本。
そこに、とある人物からの通信が入る。
クロノ・ハラウオン提督から資料の追加請求だ。
そして、用が済んだ通信は切れる。
「また、か。あの黒尽くめ。シスコン、ムッツリ、かっこつけいじめっこ……!」
『ハラウオン提督のこと、随分お詳しいですね。ユーノ』
此処にいないものに怒りをぶつけるユーノに、アインスがからかうような声をかける。
「……まあ、付き合いだけは長いからね。嫌でも色々と知ることになる」
『そうですか、とても仲がいいのですね』
「ちがうよ、敵のことは良く知っておかないといけないからね。それだけ」
『ええ、わかっていますよ』
ユーノの否定する声にも、アインスは楽しそうに笑っていた。
「おい、そこの眼鏡男」
「なんですか、提督様」
お昼時、黒色が翠色に声をかける。
「四の五の言わず、家にこい。待ってるからな」「はい!?」
「いらっしゃい、ユーノくん」「いらっしゃーい」「一応歓迎してやる」
「ほいよ、よくきたさね。ユーノ、お前さんも」
ハラウオン家に来たユーノを、4人の声が迎える。そして、アルフらが2人を
「それで、なんのようさ。いきなり呼びだして」
「……まあ、すぐにわかるさ」
どうゆうことか、ユーノが問いただしそうとする前に、足音がし、小さな重みがユーノに二つかかった
「よくきた、おじさーん!」「ユーノさん、いらしゃーい!」
こういうこと?そういうことだ。ユーノとクロノがアイコンタクトを交わす
「おはなし、おはなしー!」「ユーノさん、またお話しして!」
「そうだね……じゃあ、今日は…」
ユーノが手持ちの本を選んでるとき、双子の声が割り込む。
「これがいい!」「です」
二人が指さしていたのは……黎明の書、リインフォースだった。
リインフォースは困った。闇の書で在ったとしても、収集されてない時は白紙だ。
闇の書ですらない今は、ページすらない。
子どもに聞かせられる話など、そこには無かった。そう思っているときユーノが語り始めた。
「わかった、わかった。……昔々、一冊の本が有りました」
それは、とある昔話
「その本は、持ち主の願いを叶える魔法の本でした」
「なんでも?」「ですか?」
誰かの願いが、始めたお話―
「そう、なんでも。本の出来ることなら、なんだって本は叶えようとしました」
「ほえー」「健気です」
ずっとずっと戦ってきた―
「本は持ち主に尽くしました。ですが、本がどんなに頑張っても、持ち主は亡くなってしまうのです」
「かわいそう」「本はどうなっちゃったのです?」
旅をしてきた、彼らの話―
「本は別の人の所に行きました。自分を必要とする人の下に。
ずっとずっと、長い旅をしてきました。4人の騎士と共に」
「ずっと……」「いつまで続くです?」
果てのない、空を駆け行く騎士達の話―
「ですが、その旅に変化が訪れます。一人の死に行く持ち主が、その本に呪いを掛けたのです。
次の持ち主に嫉妬して」
「ひでー」「どうなっちゃったの?」
それは、夜空が闇に染まるとき―
「その本は、持ち主を苦しめるようになりました。
そして、壊すことでしか、願いを叶えられなくなったのです」
「それは……」「やだ、」
悲しみが空を覆い、絶望が心を包む―
「長い長い旅の中。お供の騎士達は呪いのことを忘れてしまいます。
そして、知らずに持ち主の命を奪ってしまいます」
「バットエンド……」「良かったのかな?」
永い夜が、心を蝕む―
「そして、旅の果てに、一人の少女の下に辿り着きます。
そこで騎士達は幸せな時間を過ごします。少女の家族として」
「幸せはいいもんだー」「でも、呪いが……」
とても幸せな時間。でも、それは破滅へのプレリュード―
「そう、やがて呪いは少女を蝕み始めました。
少女を助けるため、騎士達は戦いました。いままでどうりに」
「やっぱバットエンド」「救いはそこにありまーすかー……ルールルー」
救いは何処にもなく、また全てが滅んで終わるはず。でも―
「それでも救う術など無く、いつものように少女は死ぬはずでした。でも、そうはなりませんでいた」
「フラグぶれいかー」「みゃっ?」
そう、長い悪夢の終わるとき。闇が解き放たれる―
「とてもかわいらしい光の天使が、騎士達に力を貸してくれたのです。みんなで、呪いの力を打ち破り、
こんどこそ、誰もが幸せになりましたとさ。めでたし、めでたし」
『ハッピー、エンド!』
それから、子ども達との体力勝負をやり、夕飯を食べ、皆が寝静まった頃ユーノに声がかかる。
「なあ、さっきの話し。僕の知ってる結末と違ったんだが?
最後の少女にとって、手放しで喜べる終わりじゃなかったはずだ」
「おはなしってのはそういうもんだよ。
時を経るごとに変質し、誰が誰に、いつ何処で話すかによっても変わってくる」
「なるほど、なら何も不思議なことなど無いな」
「そうゆうこと、だよ」
ほんの数秒の沈黙を置いて、クロノ纏う雰囲気が変わる。冷たい、氷の刃のような目へと―
「だが、敢えて聞くぞ。お前はあれを、ハッピーエンドだと思うのか?」
少女から、家族が一人奪われた。そうならなくてもよかったはずなのに、それでも?
そう、目が言っていた。
「思ってないよ。だから、これから変える。ハッピーにしてみせる、よ」
それを聞いてクロノは何かを懐かしみ、また慈しむような、親の顔をした。
「……そうか、ならこれだけ聞いていけ。僕は幸せだと。
大切なはずの人を失い、恨んだり、憎んだりしたこともあったがもう、違う。
愛し、愛されてるうちに、それて気付かぬまま忘れていたさ。
全て失わなかったから、なのかもしれんがな……例え、そうじゃない奴がいたとしても、
それは君のせいじゃない。だから、君も……幸せに成るべきなんだ」
それだけいって、クロノは眠ってしまった。
『主も、そう思われますか?』
不安そうに、声が尋ねる。
「当たり前。言ったはずだよ?今の主の権限として、必ず君を幸せにする」
みたいなことをね。そう、ユーノは返した。
『なら、一つお願いがあります』「なにかな?」
『私をユーノの家族にして、もらえませんか?』
それを聞いて、ユーノは笑う。おかしそうに、楽しそうに―
「もう、家族だと思ってたのは僕だけだったのかな?……歓迎だよ、アインス」
はい。そう呟いたアインスは、涙と幸せで、いっぱいで。
ユーノの笑顔が、よく見えなくて。そのことを、少し残念に思った FIN
最終更新:2023年08月13日 18:06