「4人に3つずつ、キャンデーを配りました。全部でいくつ?」 といった問題に答を出そうとするときに、脳内でどのように「問題を理解して式を作る」プロセスが働くかを考察しました。
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以下、ざっと上図の説明をします。
この図は「問題文」から「計算の手がかり」を得て「式」を作るプロセスの典型的なものをいくつか類型化したものです。
「計算の手がかり」は大まかに4種類あります。
A「単純数字認知」は文字通り、問題文の中の数字だけしか見ていない場合。この場合、たとえば「サンタさんがくれた箱には2種類のキャンデーがたくさん入っていました。4人に配ったら、みんな3つずつもらえました。キャンデーは全部でいくつあったでしょうか?」のようにダミーの数字があるだけでわからなくなります。
B「文脈テキスト認知」は、数字に加えて「ずつ」といった関連するテキストまで読めている場合です。ダミーの数字にはひっかかりにくくなります。ただし、これはテキストパターンを認知しているだけで、状況認知ができているわけではありません。状況認知が出来ている場合はDです。
文脈テキスト認知では「1つぶん・いくつ分」が1通りに確定しやすいです(少なくとも算数の先生はそう思っているでしょう)。
C「状況認知」というのは、問題文が示す状況を理解できているかどうかです。ただしこれはあくまでも本人の脳内で理解できているかどうかなので、外からは測定しずらいです。これを測定するとしたら、絵を描かせるといった方法になりますが、手間がかかりますね。
その「状況認知」を踏まえて、そこから「計算の手がかり」情報を読み取るのがE「状況翻訳認知」です。ここでも「1つ分・いくつ分」という形で計算の手がかりを読み取りますが、たとえばトランプ配りのように「見方」が違えば「1つ分・いくつ分」は逆転します。
最後のF「視覚的構造認知」は、「状況認知」をさらに長方形おはじきのような形に構造化・抽象化して行う認知です。この認知モデルでは「1つ分・いくつ分」という考え方は意味を持たないので、どうでもいいと思うことでしょう。
以上、この4種類の「計算の手がかり」認知を元にして「式」を作る作業がG~Jです。ごらんの通り、IとJについては「1つ分×いくつ分」のローカルルールを適用してもなお、「4×3」と「3×4」の両方の式が十分合理的な根拠のもとに立てられます。
さて、では、「単純数字認知」から「視覚的構造認知」までの4種類の中で、「算数・数学の力を伸ばす」ためにもっとも望ましいのはどれでしょうか?
それは明らかに、Eの「視覚的構造認知」です。これができると「掛け算」という操作によって「数」がどのように変化するかを体感できます。逆に、視覚的構造認知以外の3種類だと、数を単なる記号として扱っているだけでもできてしまうため、それが実世界の「量」として実感されません。
一方で、「掛け算順序固定」派の皆様は、
A「単純数字認知」をやっている子を発見できる
ことを理由に「順序固定指導法」を擁護しています。まあそれは一理あるとしましょう。
もしデメリットがなければその一点で許容してもいいのですが、現実には「順序固定」指導法には多大な弊害があります。
デメリット1:AとBは区別できても、AとE、Fを区別できない。
デメリット2:文脈テキスト認知のBとDを区別できない。Bは「状況認知」のないテキストパターンマッチングで、実際には理解してない状態なのにこれをDと区別できないわけです。
デメリット3:本来必要な、Fの力を伸ばす指導が行われない。本当に必要なのは、Fのような「視覚的構造認知」をさせることです。したがって、長方形におはじきをならべさせるようなワークをうんざりするぐらいさせるべきなのですが、このようなワークをさせるように作られている算数ドリルは見かけません。「問題文」からいきなり「式」を立てさせて、「式」だけでAとBの判別を図るものばかりです。結果、Fのトレーニングが行われず、それが小数や分数の掛け算、わり算で苦労する結果を招いていると思われます。
以上はあくまでも私の個人的な机上の考察であってフィールドワークの裏付けはありませんのであしからず。
最終更新:2015年11月22日 12:23