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<p>☆7月26日(木)の日記<br /><br /> 本日も藍ミリでイミソを打つべく、チャイムと同時に職場を飛び出す。<br /><br /> 最近早苗さんに裏道を教えてもらったんだが、この道を通れば、<br /> 鴨島まで一つも信号に捕まることなく、一気にバイパスまで出れる。<br /> 何で今までこの道使わなかったんだろ?<br /> もっと早くに教えてもらってれば、鴨スタ行くのとか、どれだけ時間短縮できてたことか・・・。<br /> という訳で、今日もその道を爆走しつつ、とりあえず鴨島を目指す。<br /><br /> さてこの裏道、非常に快適なんだけど、最後大きな道に突き当たる手前に、<br /> とても道幅が狭くなってる箇所がある。<br /> 普通乗用車2台がギリギリ対向できる程度の幅。<br /> 左側が田んぼに面しており、踏み外そうものなら1m下まで落下という、<br /> 非常にデンジャラスなゾーンである。<br /><br /> この道を使うのは今日が2回目で、初めて通った時は対向車も無かったから容易に通れたんだけど、<br /> 今日はやたら対向車が多く、ちょっと進むのにも かなり困難を極めた。<br /> ぬぅぅ・・・一刻も早くイミソを打ちたいのに。<br /> 仕方なく、まだ道幅がマシな部分に停車し、対向車をやり過ごす。<br /><br /> それにしても、何でどいつもコイツも突っ込んでくるかな。<br /> ちょっと先には広い場所があって、そこで待っててくれれば簡単に対向できるのに。<br /> ホント徳島のドライバーには譲り合いの精神が皆無だな・・・イライラ。<br /><br /> 何台か車をやり過ごしたあと、俺は目を疑った。<br /> えぇえ!? なんか大型のトラックまで突っ込んできてるぞ!?<br /> 対向できんのかコレ!?(汗)<br /> ハラハラドキドキする中、トラックは俺の横を、無理矢理対向しようとする。<br /><br /> くっそ~、愛車擦られでもしたらスロットどころじゃねーぞ(汗)<br /> うぅむ、仕方ない。 左に目一杯寄せてるけど、あと まだちょっとなら寄せれるかもしれん。<br /> 更にハンドルを左に切り、恐る恐るアクセルを踏んでみる。 次の瞬間だった。<br /><br /> 「ガコンッ!」<br /><br /><br /> ひぃぃぃぃっ!<br /> だ、脱輪してもーた!!!(汗)<br /><br /> い、いや、うろたえるなッ!(汗)<br /> 鴨島町民は決してうろたえないィィィッ!!!(滝汗)</p> <p> </p> <p>落ち着け・・・素数を・・・素数を数えるのだッ!<br /> 素数は私と同じく、孤独な数字・・・素数を数えて、気を静めるのだッ!<br /><br /> 2・・3・・・5・・・7・・・<br /><br /><br /> 精神を落ち着け、ハンドルを切り直す。<br /> ギアをバックに入れると、慎重にアクセルを踏んでみる。<br /><br /><br /> 「ギュゥゥン、ギャルギャル、キュキュキュ・・・」<br /><br /><br /> あ゙ぁぁっ! ダメだ! タイヤが空回りしとる!!(汗)<br /><br /><br /> そそそ素数、素数を数えて落ち着くのだッ!<br /><br /> 11・・13・・・17・・18・・・いや、18は素数じゃないッ!<br /> おおお落ち着け、私はパニックを知らない生き物なのだッ!<br /><br /><br /> もう一度心を静めて、ゆっくりとアクセルを踏む。<br /><br /><br /> 「キュルキュルキュル・・・」<br /><br /><br /> しかし聞こえてきたのは、タイヤが虚しく空回りする音であった。 もうだめぽ ○| ̄|_<br /><br /> 諦めて車を降り、JAFに電話してみる。<br /><br /><br /> 俺「あのぅ、脱輪してしまいまして・・・場所は鴨島町の○×付近です。」<br /><br /> 係「それでしたら 現場までどのぐらい掛かるか確認して、もう一度ご連絡致します。」<br /><br /> 俺「とても狭い道なんです。 他の方に迷惑なので、できるだけ早くお願いします。」<br /><br /><br /> 電話を切ると、改めて愛車の惨状を確認する。<br /> 左前のタイヤは おもっくそ踏み外し、田んぼ側に落下。<br /> 方や右側後方のタイヤは、哀れにも宙に浮いている。<br /> 愛車の変わり果てた姿に、ただただ呆然と立ち尽くす。</p> <p>そうこうしている間にも、続々と対向車や後続車がやってきて、<br /> 俺の愛車の横をすり抜けてゆく。<br /><br /> 皆一様に、車の中からこの俺を、奇異の目で見つめる。<br /><br /> (あらあら可哀想に・・・)<br /><br /> (きっとギリギリまで車を寄せようとしたんだろうねぇ)<br /><br /> (プッ、こんなトコで脱輪してんじゃねーよw)<br /><br /> (オイオイ迷惑だろうよ。カスが!)<br /><br /><br /> 哀れみ、同情、嘲笑、侮蔑・・・<br /> そんな彼等の心の声が聞こえてくるようで、俺はその場に立っているのがやっとであった。<br /> 対向車の冷たい視線に晒される中、ようやくJAFから電話が掛かってくる。<br /><br /> 俺「もしもし!? あとどれぐらいで到着します!?」<br /><br /> 係「えぇと・・・石井町からの出動になりますので、早くてあと30分ですね。」<br /><br /> 俺「さ、30分!?(汗) もうちょっと早くなりませんか!?」<br /><br /> 係「無理ですねぇ。 急いで参りましても、30分以上は掛かるかと。」<br /><br /> 俺「そ、そうですか・・・よ、よろしくお願いします。」<br /><br /><br /> ガックリと肩を落とすと、途方に暮れる。<br /><br /> ちくしょう、JAFめ・・・! ここ数年、事故ったこともないけど、<br /> それでも有事に備えて、毎年高い会員料払ってるのに・・・<br /> こんな大変な時に、今からまだ30分以上掛かるって!? 金返せドロボー!!(涙)<br /><br /><br /> 脱輪した者の せめてもの罪滅ぼしとして、愛車の横に立ち、交通整理をする。<br /><br /> 俺「はい、ハンドルをもうちょっと左です。 あ、そのまま真っ直ぐで! OKです!」<br /><br /> ちくしょう、何だってこんな目に・・・今日は厄日だ・・・。<br /> 今までにこんな屈辱的な経験があったろうか?<br /> もう嫌だ。 こんな状況、もう耐えられないっ・・・!(涙)<br /><br /> その時だった。<br /> 近所の民家から息子を引き連れ、ジャッキを片手に オジサンが飛び出してきた。</p> <p>オジサンは迷うことなく1m下の田んぼに飛び降りると、ジャッキをタイヤにあてがい、回し始める。<br /><br /><br /> オ「うぅ~む、やっぱ高さが足りんか。 オイ息子、ブロックと板、あるだけ取ってこい!」<br /><br /><br /> 息子に的確な指示を飛ばしつつ、クルクルとジャッキを回す。<br /><br /> 我に返ると、俺は言った。<br /><br /> 俺「あのぅ、もう結構です。 JAFも呼んでありますし、もうすぐ来てくれると思いますので。」<br /><br /> オ「うぅむ、ジャッキがうまくはまれば、持ち上がると思うんだけどねぇ。」<br /><br /> 俺「いやいや、車が落ちてきたら危険ですし、赤の他人に こんな事させられません。」<br /><br /> オ「まぁまぁ。 困った時はお互い様!」<br /><br /><br /> オジサンは俺の制止を聞かずに、息子と あれやこれやとブロックを積んでいる。<br /><br /> ふと気が付くと、田んぼの中は蚊だらけ。<br /> 視認できるだけでも20匹以上の蚊が、周りをウヨウヨと飛び回っている。<br /> オジサンも息子も半袖半ズボンだから、あっという間に蚊が集り、既に何ヶ所も刺されている。<br /><br /><br /> 俺「ちょ、蚊が居ますよ! もうホントお気持ちだけで良いですから!」<br /><br /> オ「いや、農家だから蚊は慣れてるよ^^ それにしてもジャッキがはまらんなぁ・・・。」<br /><br /><br /> うぅっ・・・。<br /><br /><br /> 俺は2年前の ある日のことを思い出していた。<br /> ある日の夕方頃、突然 友達から電話が掛かってきた。<br /><br /><br /> 友「むっし~、石井の農道で脱輪してもーた。 助けに来てくれん!?」<br /><br /> 切羽詰まった友達に、俺は こう返事した。<br /><br /><br /> 俺「いやぁ~スマン、今仕事で県外なんだよ。 だから無理!」<br /><br /> 俺は電話を切ると、そのまま部屋でオナニーをした・・・。<br /><br /><br /> 何なんだよ俺は。 最低最悪のクズ野郎じゃねぇか。<br /> それに引き替え、この親子は何だ?<br /> 赤の他人の俺のために、危険を顧みず、蚊に刺され、滝のような汗を流しながら、<br /> 必死に車を持ち上げてくれようとしている。<br /> 俺は今までこんなに感動した事がない。<br /> 泣きそうになるのを、ただ必死で堪えるだけだった。</p> <p>作業から10分ぐらいが経過した。<br /> やはり1mの高さが邪魔をして、うまくジャッキが収まらない。<br /><br /> オ「う~ん、やっぱ無理だねぇ。 男手が4~5人あれば、持ち上がるとは思うんだけど・・・。」<br /><br /> 俺「いやいや、ここまでやってくれただけで もう十分です。 あとはJAFの到着を待ちます。」<br /><br /><br /> しかしその時、奇跡が起こった。<br /> 対向車の1台が車を停め、中から運転手が降りてきた。<br /><br /><br /> 男「俺も手伝いますよ。」<br /><br /> 犬の散歩中のオッサンも、田んぼに飛び降りてきた。<br /><br /><br /> オ「ワシも手伝うよ。」<br /><br /><br /> すると それまで素通りしていた対向車や後続車から 次々と人が降りてきて、<br /> みんなワラワラ田んぼに飛び降りてきた。<br /><br /> 皆「これだけ居れば持ち上がるよ! みんなで持ち上げよう!!」<br /><br /> 俺「み、皆さんっ・・・!!(涙)」<br /><br /><br /> 男7~8人が車を取り囲み、かけ声を上げる。<br /><br /><br /> 皆「それ行くぞーっ! オーエス! オーエス!」<br /><br /> 徐々に持ち上がる車。<br /><br /><br /> 皆「オーエス! オーエス!」<br /><br /> 徐々に左前方が持ち上がり、そして宙に浮いてた右後方のタイヤが、ついに地面に接地した。<br /> それは今までの人生で、俺が最も感動した瞬間だった。<br /><br /><br /> 皆「兄ちゃん、良かったね!」<br /><br /> 俺「皆さん、ありがとうございます! 本当にありがとうございます!!」<br /><br /><br /> 俺は深々と頭を下げると、一人一人にお礼を言った。<br /> みんな手を振り、その場を立ち去って行った。</p> <p>俺は車を広い場所まで動かすと、JAFに電話して、先程の民家にお礼に行った。<br /> 庭で先程の親子を見つけると、頭を下げて礼をする。<br /><br /><br /> 俺「本当にありがとうございました。 見ず知らずの僕のために、あんな親切にして頂いて・・・。」<br /><br /> オ「良いってことよ。 困った時はお互い様^^」<br /><br /> 俺「あの、これ少ないんですけど、感謝の印です。」<br /><br /><br /> 財布から1万円札を抜くと、オジサンに差し出す。<br /><br /> オ「あっはっは、要らないよw」<br /><br /> 俺「いえ、どうしても受け取って下さい。 僕あんなに感動したの初めてで・・・」<br /><br /> オ「いいからいいから。 また困ってる人が居たら、助けてあげてね。」<br /><br /> 俺「オジサン・・・!(涙) 分かりました! いつか僕も必ず、人のために努力します!」<br /><br /> オ「ははは、それじゃあね。」<br /><br /> 俺「はい! 本当にありがとうございました!!」<br /><br /><br /> 俺は車に戻ると、エンジンをふかした。<br /><br /> とても眩しい親子だった。<br /> あの絶望的状況下で、二人が神に見えた。<br /> 何て親切な親子だったろう。<br /><br /> そして俺は、いつからこんなクズ人間に成り下がったのだろう?<br /> 人と関わるのが苦手で、なるべく他人とは喋ろうともせず、<br /> 目線も会わせない様な、卑屈で矮小な人間になってしまった。<br /> 面倒事に首を突っ込むのが嫌いで、困っている人が居ても、それが友達だったとしても、<br /> 平気で見て見ぬフリをしてしまう、そんな性根の腐った人間。<br /> いつから俺は、こんな最低なヤツになってしまったんだろう。<br /><br /> でも目が覚めたよ。 本当に改心した。<br /> あの親子の温かさに触れ、俺は生まれ変わる事ができた。<br /> 今の俺ならあの親子のように、他人のために、迷うことなく田んぼに飛び込めるだろう。<br /><br /> ありがとう名も知らぬ親子よ。 そして手伝ってくれた運転手達よ。<br /> 俺は頑張る。 これからは他人のために生きる。<br /> 今日をもって生まれ変わる。 俺は成長したんだ・・・!!<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> その後藍ミリに行き、イミソで-17K。<br /><br /> 全然成長できてない俺であった _| ̄|     ○</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p>
<p><font color="#FFFFFF">☆7月26日(木)の日記<br /><br /> 本日も藍ミリでイミソを打つべく、チャイムと同時に職場を飛び出す。<br /><br /> 最近早苗さんに裏道を教えてもらったんだが、この道を通れば、<br /> 鴨島まで一つも信号に捕まることなく、一気にバイパスまで出れる。<br /> 何で今までこの道使わなかったんだろ?<br /> もっと早くに教えてもらってれば、鴨スタ行くのとか、どれだけ時間短縮できてたことか・・・。<br /> という訳で、今日もその道を爆走しつつ、とりあえず鴨島を目指す。<br /><br /> さてこの裏道、非常に快適なんだけど、最後大きな道に突き当たる手前に、<br /> とても道幅が狭くなってる箇所がある。<br /> 普通乗用車2台がギリギリ対向できる程度の幅。<br /> 左側が田んぼに面しており、踏み外そうものなら1m下まで落下という、<br /> 非常にデンジャラスなゾーンである。<br /><br /> この道を使うのは今日が2回目で、初めて通った時は対向車も無かったから容易に通れたんだけど、<br /> 今日はやたら対向車が多く、ちょっと進むのにも かなり困難を極めた。<br /> ぬぅぅ・・・一刻も早くイミソを打ちたいのに。<br /> 仕方なく、まだ道幅がマシな部分に停車し、対向車をやり過ごす。<br /><br /> それにしても、何でどいつもコイツも突っ込んでくるかな。<br /> ちょっと先には広い場所があって、そこで待っててくれれば簡単に対向できるのに。<br /> ホント徳島のドライバーには譲り合いの精神が皆無だな・・・イライラ。<br /><br /> 何台か車をやり過ごしたあと、俺は目を疑った。<br /> えぇえ!? なんか大型のトラックまで突っ込んできてるぞ!?<br /> 対向できんのかコレ!?(汗)<br /> ハラハラドキドキする中、トラックは俺の横を、無理矢理対向しようとする。<br /><br /> くっそ~、愛車擦られでもしたらスロットどころじゃねーぞ(汗)<br /> うぅむ、仕方ない。 左に目一杯寄せてるけど、あと まだちょっとなら寄せれるかもしれん。<br /> 更にハンドルを左に切り、恐る恐るアクセルを踏んでみる。 次の瞬間だった。<br /><br /> 「ガコンッ!」<br /><br /><br /> ひぃぃぃぃっ!<br /> だ、脱輪してもーた!!!(汗)<br /><br /> い、いや、うろたえるなッ!(汗)<br /> 鴨島町民は決してうろたえないィィィッ!!!(滝汗)</font></p> <p><font color="#FFFFFF"> </font></p> <p><font color="#FFFFFF">落ち着け・・・素数を・・・素数を数えるのだッ!<br /> 素数は私と同じく、孤独な数字・・・素数を数えて、気を静めるのだッ!<br /><br /> 2・・3・・・5・・・7・・・<br /><br /><br /> 精神を落ち着け、ハンドルを切り直す。<br /> ギアをバックに入れると、慎重にアクセルを踏んでみる。<br /><br /><br /> 「ギュゥゥン、ギャルギャル、キュキュキュ・・・」<br /><br /><br /> あ゙ぁぁっ! ダメだ! タイヤが空回りしとる!!(汗)<br /><br /><br /> そそそ素数、素数を数えて落ち着くのだッ!<br /><br /> 11・・13・・・17・・18・・・いや、18は素数じゃないッ!<br /> おおお落ち着け、私はパニックを知らない生き物なのだッ!<br /><br /><br /> もう一度心を静めて、ゆっくりとアクセルを踏む。<br /><br /><br /> 「キュルキュルキュル・・・」<br /><br /><br /> しかし聞こえてきたのは、タイヤが虚しく空回りする音であった。 もうだめぽ ○| ̄|_<br /><br /> 諦めて車を降り、JAFに電話してみる。<br /><br /><br /> 俺「あのぅ、脱輪してしまいまして・・・場所は鴨島町の○×付近です。」<br /><br /> 係「それでしたら 現場までどのぐらい掛かるか確認して、もう一度ご連絡致します。」<br /><br /> 俺「とても狭い道なんです。 他の方に迷惑なので、できるだけ早くお願いします。」<br /><br /><br /> 電話を切ると、改めて愛車の惨状を確認する。<br /> 左前のタイヤは おもっくそ踏み外し、田んぼ側に落下。<br /> 方や右側後方のタイヤは、哀れにも宙に浮いている。<br /> 愛車の変わり果てた姿に、ただただ呆然と立ち尽くす。</font></p> <p><font color="#FFFFFF">そうこうしている間にも、続々と対向車や後続車がやってきて、<br /> 俺の愛車の横をすり抜けてゆく。<br /><br /> 皆一様に、車の中からこの俺を、奇異の目で見つめる。<br /><br /> (あらあら可哀想に・・・)<br /><br /> (きっとギリギリまで車を寄せようとしたんだろうねぇ)<br /><br /> (プッ、こんなトコで脱輪してんじゃねーよw)<br /><br /> (オイオイ迷惑だろうよ。カスが!)<br /><br /><br /> 哀れみ、同情、嘲笑、侮蔑・・・<br /> そんな彼等の心の声が聞こえてくるようで、俺はその場に立っているのがやっとであった。<br /> 対向車の冷たい視線に晒される中、ようやくJAFから電話が掛かってくる。<br /><br /> 俺「もしもし!? あとどれぐらいで到着します!?」<br /><br /> 係「えぇと・・・石井町からの出動になりますので、早くてあと30分ですね。」<br /><br /> 俺「さ、30分!?(汗) もうちょっと早くなりませんか!?」<br /><br /> 係「無理ですねぇ。 急いで参りましても、30分以上は掛かるかと。」<br /><br /> 俺「そ、そうですか・・・よ、よろしくお願いします。」<br /><br /><br /> ガックリと肩を落とすと、途方に暮れる。<br /><br /> ちくしょう、JAFめ・・・! ここ数年、事故ったこともないけど、<br /> それでも有事に備えて、毎年高い会員料払ってるのに・・・<br /> こんな大変な時に、今からまだ30分以上掛かるって!? 金返せドロボー!!(涙)<br /><br /><br /> 脱輪した者の せめてもの罪滅ぼしとして、愛車の横に立ち、交通整理をする。<br /><br /> 俺「はい、ハンドルをもうちょっと左です。 あ、そのまま真っ直ぐで! OKです!」<br /><br /> ちくしょう、何だってこんな目に・・・今日は厄日だ・・・。<br /> 今までにこんな屈辱的な経験があったろうか?<br /> もう嫌だ。 こんな状況、もう耐えられないっ・・・!(涙)<br /><br /> その時だった。<br /> 近所の民家から息子を引き連れ、ジャッキを片手に オジサンが飛び出してきた。</font></p> <p><font color="#FFFFFF">オジサンは迷うことなく1m下の田んぼに飛び降りると、ジャッキをタイヤにあてがい、回し始める。<br /><br /><br /> オ「うぅ~む、やっぱ高さが足りんか。 オイ息子、ブロックと板、あるだけ取ってこい!」<br /><br /><br /> 息子に的確な指示を飛ばしつつ、クルクルとジャッキを回す。<br /><br /> 我に返ると、俺は言った。<br /><br /> 俺「あのぅ、もう結構です。 JAFも呼んでありますし、もうすぐ来てくれると思いますので。」<br /><br /> オ「うぅむ、ジャッキがうまくはまれば、持ち上がると思うんだけどねぇ。」<br /><br /> 俺「いやいや、車が落ちてきたら危険ですし、赤の他人に こんな事させられません。」<br /><br /> オ「まぁまぁ。 困った時はお互い様!」<br /><br /><br /> オジサンは俺の制止を聞かずに、息子と あれやこれやとブロックを積んでいる。<br /><br /> ふと気が付くと、田んぼの中は蚊だらけ。<br /> 視認できるだけでも20匹以上の蚊が、周りをウヨウヨと飛び回っている。<br /> オジサンも息子も半袖半ズボンだから、あっという間に蚊が集り、既に何ヶ所も刺されている。<br /><br /><br /> 俺「ちょ、蚊が居ますよ! もうホントお気持ちだけで良いですから!」<br /><br /> オ「いや、農家だから蚊は慣れてるよ^^ それにしてもジャッキがはまらんなぁ・・・。」<br /><br /><br /> うぅっ・・・。<br /><br /><br /> 俺は2年前の ある日のことを思い出していた。<br /> ある日の夕方頃、突然 友達から電話が掛かってきた。<br /><br /><br /> 友「むっし~、石井の農道で脱輪してもーた。 助けに来てくれん!?」<br /><br /> 切羽詰まった友達に、俺は こう返事した。<br /><br /><br /> 俺「いやぁ~スマン、今仕事で県外なんだよ。 だから無理!」<br /><br /> 俺は電話を切ると、そのまま部屋でオナニーをした・・・。<br /><br /><br /> 何なんだよ俺は。 最低最悪のクズ野郎じゃねぇか。<br /> それに引き替え、この親子は何だ?<br /> 赤の他人の俺のために、危険を顧みず、蚊に刺され、滝のような汗を流しながら、<br /> 必死に車を持ち上げてくれようとしている。<br /> 俺は今までこんなに感動した事がない。<br /> 泣きそうになるのを、ただ必死で堪えるだけだった。</font></p> <p><font color="#FFFFFF">作業から10分ぐらいが経過した。<br /> やはり1mの高さが邪魔をして、うまくジャッキが収まらない。<br /><br /> オ「う~ん、やっぱ無理だねぇ。 男手が4~5人あれば、持ち上がるとは思うんだけど・・・。」<br /><br /> 俺「いやいや、ここまでやってくれただけで もう十分です。 あとはJAFの到着を待ちます。」<br /><br /><br /> しかしその時、奇跡が起こった。<br /> 対向車の1台が車を停め、中から運転手が降りてきた。<br /><br /><br /> 男「俺も手伝いますよ。」<br /><br /> 犬の散歩中のオッサンも、田んぼに飛び降りてきた。<br /><br /><br /> オ「ワシも手伝うよ。」<br /><br /><br /> すると それまで素通りしていた対向車や後続車から 次々と人が降りてきて、<br /> みんなワラワラ田んぼに飛び降りてきた。<br /><br /> 皆「これだけ居れば持ち上がるよ! みんなで持ち上げよう!!」<br /><br /> 俺「み、皆さんっ・・・!!(涙)」<br /><br /><br /> 男7~8人が車を取り囲み、かけ声を上げる。<br /><br /><br /> 皆「それ行くぞーっ! オーエス! オーエス!」<br /><br /> 徐々に持ち上がる車。<br /><br /><br /> 皆「オーエス! オーエス!」<br /><br /> 徐々に左前方が持ち上がり、そして宙に浮いてた右後方のタイヤが、ついに地面に接地した。<br /> それは今までの人生で、俺が最も感動した瞬間だった。<br /><br /><br /> 皆「兄ちゃん、良かったね!」<br /><br /> 俺「皆さん、ありがとうございます! 本当にありがとうございます!!」<br /><br /><br /> 俺は深々と頭を下げると、一人一人にお礼を言った。<br /> みんな手を振り、その場を立ち去って行った。</font></p> <p><font color="#FFFFFF">俺は車を広い場所まで動かすと、JAFに電話して、先程の民家にお礼に行った。<br /> 庭で先程の親子を見つけると、頭を下げて礼をする。<br /><br /><br /> 俺「本当にありがとうございました。 見ず知らずの僕のために、あんな親切にして頂いて・・・。」<br /><br /> オ「良いってことよ。 困った時はお互い様^^」<br /><br /> 俺「あの、これ少ないんですけど、感謝の印です。」<br /><br /><br /> 財布から1万円札を抜くと、オジサンに差し出す。<br /><br /> オ「あっはっは、要らないよw」<br /><br /> 俺「いえ、どうしても受け取って下さい。 僕あんなに感動したの初めてで・・・」<br /><br /> オ「いいからいいから。 また困ってる人が居たら、助けてあげてね。」<br /><br /> 俺「オジサン・・・!(涙) 分かりました! いつか僕も必ず、人のために努力します!」<br /><br /> オ「ははは、それじゃあね。」<br /><br /> 俺「はい! 本当にありがとうございました!!」<br /><br /><br /> 俺は車に戻ると、エンジンをふかした。<br /><br /> とても眩しい親子だった。<br /> あの絶望的状況下で、二人が神に見えた。<br /> 何て親切な親子だったろう。<br /><br /> そして俺は、いつからこんなクズ人間に成り下がったのだろう?<br /> 人と関わるのが苦手で、なるべく他人とは喋ろうともせず、<br /> 目線も会わせない様な、卑屈で矮小な人間になってしまった。<br /> 面倒事に首を突っ込むのが嫌いで、困っている人が居ても、それが友達だったとしても、<br /> 平気で見て見ぬフリをしてしまう、そんな性根の腐った人間。<br /> いつから俺は、こんな最低なヤツになってしまったんだろう。<br /><br /> でも目が覚めたよ。 本当に改心した。<br /> あの親子の温かさに触れ、俺は生まれ変わる事ができた。<br /> 今の俺ならあの親子のように、他人のために、迷うことなく田んぼに飛び込めるだろう。<br /><br /> ありがとう名も知らぬ親子よ。 そして手伝ってくれた運転手達よ。<br /> 俺は頑張る。 これからは他人のために生きる。<br /> 今日をもって生まれ変わる。 俺は成長したんだ・・・!!<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> その後藍ミリに行き、イミソで-17K。<br /><br /> 全然成長できてない俺であった _| ̄|     ○</font></p> <p><font color="#FFFFFF"> </font></p> <p><font color="#FFFFFF"> </font></p> <p><font color="#FFFFFF"> </font></p> <p><font color="#FFFFFF"> </font></p> <p><font color="#FFFFFF"> </font></p> <p><font color="#FFFFFF"> </font></p> <p><font color="#FFFFFF"> </font></p>

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