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「散る―――(中編)」(2010/08/07 (土) 14:54:33) の最新版変更点
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*散る―――(中編) ◆Vj6e1anjAc
◆
「あの時の雷の男か……!」
嫌な予感の正体はこいつらか。
こちらを覗く2人の姿を見た瞬間、始は即座に理解していた。
突如、ホテルに空いた大穴の外に立っていたのは、数時間前に戦った自称神――エネル。
「気付かれたか」
ち、と舌打ちしながら呟く金居の声が聞こえる。
目の前の男は、避雷針を破壊するほどの雷を操り、小細工なしでスピニングダンスを破り、自分を倒したほどの強敵だ。
あの時ギンガに助けられていなければ、確実に蒸し焼きになって死んでいただろう。
おまけにその身に纏う電力は、あの時とは桁外れなまでに膨れ上がっている。
スバルと対峙した時に感じた、禍々しい気配の正体としては、十分過ぎるほどの脅威だった。
「驚いたぞ、青海人よ。ただの人間風情が、あの雷地獄から生き延びていたとはな」
「俺はただの人間じゃない。もっとも、それでも危ないところだったがな」
言いながら、身を起こす。
今のやりとりの間に、立ちあがれるほどには回復していた。
一瞬状況が好転したかと思ったが、すぐにそれが間違いであったことを理解する。
何が好転したというのだ。
目の前に立っている雷神は、ギラファアンデッドよりも遥かに危険な相手ではないか。
「ここまでだな、ジョーカー。決着がつけられないのは残念だが、俺はここで失礼させてもらう」
そしてそのギラファが口にしたのは、そんな言葉。
「何だと?」
「あいつらは俺の手に負える奴らじゃないんでね。まぁ、せいぜい戦って死んでくるがいい」
そんな捨て台詞を残して、黄金の背中が遠ざかっていく。
ダイヤのアンデッド種の中でも、最強を誇る金居の撤退――それが意味するところが分からないほど、相川始は間抜けではない。
むしろエネルの実力を考えれば、あの理屈屋が逃げ出すというのも、自然な反応だと思えた。
だが、奴は何と言った?
奴“ら”? 金居の手に負えない相手は、あのエネルだけではないというのか?
半裸の自称神と対峙する者――あの金髪と黒衣の女もまた、エネルと同等の脅威であるとでもいうのか?
「あれは、まさか……ヴィヴィオ!?」
「知っているのか?」
不意に声を上げたスバルに、問いかける。
「はい。あたしの上官が、娘として引き取った子です。本当はもっと小さい子なんですけど……」
「うあああぁぁぁぁぁっ!!」
説明に割って入る、怒号。
反射的に声の方を向き、反射的に身をかわした。
一瞬前まで自分がいた場所を襲ったのは、激烈な虹色の衝撃波だ。
その手に構えた巨大な鎌に纏ったエネルギーを、スイングの勢いで放ったのだろう。
理屈は簡単だ。
だが、それがもたらした被害の何としたこと。
ただエネルギーを放出しただけの一撃の跡が、煌々と赤い光を放っているではないか。
七色の刃が抉った床が、燻った音を立てどろどろに赤熱していた。
「どうやらここから出る方が先らしいな」
正面玄関を視界に収めながら、呟く。
ただでさえここにはエネルもいるというのに、あんなものをバカスカと連発されてはまずい。
広範囲攻撃を可能とする雷撃に、砲撃じみた勢いの斬撃――この閉鎖空間でそんなものを相手にしていては、今度こそ蒸し焼きにされてしまう。
「脱出するぞ!」
「あ、はい!」
スバルに声をかけると同時に、出入り口を目指して、疾駆。
背後を通過する電撃や射撃には目もくれず、ひたすら目的地目掛けて走る。
自動ドアが開かない。開くのを待っている暇はない。
カリスアローを振りかぶり、ガラスをかち割って脱出。
いつしかホテル・アグスタの外は、あの時と同じ火の海になっていた。
自分達が戦いに没頭していたうちに、これほどの破壊活動が行われていたというのか。
カリスの鎧を茜色に光らせながら、己が不注意を恥じた。
「あの子は聖王っていう特別な生まれの子で、前にもああいう風になって暴走したことがあるらしいんです」
後ろから追いかけてくるスバルが、先ほど中断された説明を続ける。
「暴走か」
「その時と同じことになってるのなら、適切な処置を施せば落ち着くはず……とにかく、急いで無力化させないと!」
「なら話は早い。さっさと無力化させて、ここから逃げるぞ」
方針は決まった。
まずはそのヴィヴィオとやらから戦闘能力を奪い、その上で戦線を離脱する。
エネルがあの時よりも強力になっており、おまけにヴィヴィオがそれと同等の実力者だと言うのなら、現状での勝算は毛ほどにもない。
しかし彼らを2人とも野放しにすれば、取り返しのつかなくなるほどの犠牲が出ることは容易に想像できる。
幸いにもヴィヴィオには、無理に殺さずとも黙らせることのできる裏技があるらしい。ならば狙うのはそちらだ。
彼女を無力化させることができれば、それで脅威は半減するはずだ。
「分かりました! 援護頼みます、始さん!」
言うや否や、スバルが駆けた。
ジェットエッジのエンジンを噴かせ、炎熱の焼け野原を一直線。
考えなしの突撃ではない。
考える余裕がなかったのなら、エネルを野放しにするという選択に異を唱えていただろう。
彼我の戦力差を見極め、現時点ではあの雷神に勝てないと判断する冷静さを持ちながら、あえて腕の負傷を度外視し、ヴィヴィオの懐へと飛び込んだのだ。
ならば、そこにはそうしなければならない理由があるに違いない。
たとえばその適切な処置とやらが、スバルにしかできないものである、といったところか。
「いいだろう」
それならば話は早い。
もとよりこちらもAPに余裕はないのだ。今回は援護に徹させてもらうとしよう。
カリスアローを油断なく構え、金髪を揺らめかせる少女を狙う。
問題はない。スバルは絶対に死なせない。
自分に大切なことを教えてくれた、あのギンガの忘れ形見を死なせはしない。
そう固く胸に誓い、エネルギーの矢を醒弓につがえた。
◆
「うおおおおおおっ!」
気合いと共に、歩を進める。
ジェットエッジの最大加速をもって、ヴィヴィオへと一直線に突っ込んでいく。
全く恐怖がないわけではない。
直接戦ったことも、目の当たりにしたこともなかった聖王モードだが、その戦闘力の高さは聞かされている。
AMFによる制限下にあったとはいえ、あのなのはのブラスターモードと、互角以上に渡り合ったというのだ。
この手に培った力が、本当に通用するかどうかは分からない。
おまけに左腕を封じられた今、望みは更に薄くなっていることだろう。
最悪、手も足も出ないままに、一撃で抹殺されてしまうかもしれない。
それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
この場でヴィヴィオを止められるのは、自分1人しかいないのだから。
(防御を抜いて、魔力ダメージでノックダウン……!)
それが攻略法だった。
相手がゆりかご攻防戦の時と同じ状態に陥っているというのなら、あの魔力の源泉となっているのは、体内に組み込まれたレリックのはずだ。
最大威力のディバインバスターをぶつけ、レリックを破壊することで、彼女の聖王モードを強制解除させる。
それこそがスバルの狙いだった。
腰を据える。
構えを取る。
いきなり必殺技を当てられるとは思えない。牽制や体力削りを駆使して、当てられる状況を作らなければ。
「てぇりゃっ!」
ジェットエッジのスピナーを回転。
左足を軸にして、豪快な右回し蹴りを叩き込む。
脳天目掛けて放たれた一撃が、轟然と唸りを上げて肉迫。
「このっ!」
されど、通じず。
この程度の一撃が、聖王に通るはずもない。
龍鱗のごとき漆黒の籠手が、放たれたキックを難なく防御。
火花散らす渾身の蹴りを、身じろぎ1つすることなく受け止める。
ある程度覚悟していたとはいえ、何という圧倒的なパワーか。
年相応の少女の細腕の守りが、鋼鉄の壁のように硬く、思い。
「何で、なのはママを守ってくれなかったの……何でなのはママを見殺しにしたの……!」
ぼそり、と膠着の奥から響く声。
怨嗟と憤怒に彩られた、低く鋭いヴィヴィオの声。
「ッ!」
胸が痛んだ。
どうしようもなかったこととはいえ、どうしてもちくりと刺さるものがあった。
会うことさえもできなかったのだから、見殺しにすらもしようがなかったのは確かだ。
それでも、それはただの言い訳に過ぎない。結局なのはのうちの片方を、助けることができなかったのには変わりない。
「なのはママが死んじゃったのに……何でスバルさんなんかが生き残ってるのぉぉっ!!」
怒りと悲しみの込められた、悲鳴のような絶叫だった。
鉄壁の防御から、怒濤の反撃へと。
力任せに振り払われたヴィヴィオの腕が、スバルをあっさりと吹き飛ばす。
彼女自身がそうされた時は、飛行魔法でブレーキをかけ、即座に態勢を立て直した。
しかしスバルをそうした時には、制御の隙など与えなかった。
「!」
瞬きの刹那。
直前まで視認していた聖王が消える。
一瞬後に現れたのは、目前にまで迫った聖王の威光。
「がッ! う……っ!」
一撃、そして一撃。
食らったのはアッパーカットと、それからボディーブローだろうか。
拳の軌道は見えなかった。だがそれでも、顎と腹から響く痛覚が、攻撃を受けたことを理解させた。
目にも留まらぬとはまさにこのことか。
吹っ飛ばされた態勢では、知覚すら不可能な速度での連撃を叩き込まれた。
初撃のアッパーによる減速感から、二撃目のブローで再び加速。
燃え盛る炎の風景が流れていく。
やがて身体が地に落ちて、もんどりうって転がっていく。
背後に熱風の揺らめきを感じた。
ようやく止まったその場所は、火種の目と鼻の先だった。
もう少しだけ運が悪ければ、炎の中に突っ込んでいたということか。いよいよ背筋がぶるりと震えた。
そしてそれだけには留まらない。
怒号と共に迫る第三撃。
土煙を撒き散らして迫るのは、死神の大鎌を構えしヴィヴィオの姿。
<死の恐怖>の名を冠する憑神鎌が、黒金と彫金に彩られたその身を、炎の紅蓮に煌めかせる。
真紅の光が線となり、軌跡を成してスバルへと襲来。
「っ!」
カリスからの援護攻撃が放たれたのは、ちょうどこの瞬間だった。
きんきん、きん、と響く音。
カリスアローから連続発射されたアローショットが、次々とヴィヴィオに着弾する。
されど、それでも凄まじき戦士は止まらない。
黒より暗き究極の闇は、光の矢ごときでは晴らせない。
飛来し着弾する光弾の全てが、堅牢な聖王の鎧を前に、虚しく弾き返されるのみ。
「死んじゃえェッ!」
鼓膜を打つ裂空の音。
虚空を引き裂く死神の鎌。
振りかざされた黄金の輝きが、脳天目掛けて叩き込まれる。
「くっ!」
そんなものに当たるわけにはいかない。
痛む身体に鞭打って、ごろりと身を転がして回避する。
豪快に空振った憑神鎌の切っ先が、がつんと音を立てて地に突き刺さった。
油断はできない。すぐに追撃が来る。
普通に起き上がっていては遅い。迎撃より先に追撃が飛んでくる。
故にジェットエッジのエンジンを噴かせ、強制的に足を振り上げさせる。
轟、と響く唸りと共に、右足が上空へと押し出された。
結果、命中。強引に繰り出されたハイキックが、ヴィヴィオの顎へと直撃した。
そのまま左足のエンジンをも起動。くるりと空中で身を縦に一回転させ、着地。
「ウィングロードッ!」
叫びと共に、地を殴る。
今の一撃分で怯んだ隙に、魔力で固めた空色のロードを顕現。
そのままウィングロードに飛び乗ると、急速にヴィヴィオとの間合いを開けていく。
まともに打ち合うことはしなかった。敵の戦闘能力を考えれば、真っ向勝負を挑むのは危険だ。
故に、ヒット・アンド・アウェイ。
極力相手との接触を避け、一撃に懸ける戦法を取るしかなかった。
そして。
その、刹那。
「!?」
ごろごろ――と。
突如として、世界が白光に満ちた。
耳朶を打つは猛烈な音。
視界を覆うは蒼白の闇。
戦場全域に落雷が放たれたのだ。真昼のごとき煌めきと共に、周囲の全風景が雷光で埋め尽くされた。
「神の存在を忘れて戦えるとは、随分と余裕なことだなぁ」
余裕綽々といった様子で呟くのは、半裸と異様な福耳が目を引く男だ。
そういえばヴィヴィオだけでなく、この男もまたこの場にいたことを思い出す。
であれば今の無数の雷撃は、この男が放ったということか。
自然の摂理をこうまで意のままに操るとは――そこまで考えたところで、それもまた納得がいくかと思い直す。
そもそもこの雷男は、つい先ほどまでこのヴィヴィオと対峙し、そして生き残った男だ。
そんな奴が、只人のしゃくし定規で計れるような、凡庸な男であるはずがなかった。
「まとめて消し炭となるがいい!」
そうこうしているうちに、追撃が迫る。
雷鳴が鳴り、雷光が光り、暴力的殺傷力を持った死の稲妻が、軍勢を率いて襲いかかる。
悠長に止まっている暇はない。足を止めれば、そこを突かれて一巻の終わりだ。
ウィングロードから飛び降り、燃え盛る大地へと着地。
予めこちらの進路を知らせることになるあの魔法を、この状況で使い続けるのはまずい。
エンジン、再始動。
加速、カット、そしてカット。
天空より迫る稲妻を、稲妻の軌跡をもって回避していく。
光速の雷を直接回避しているわけではない。ランダムな軌道を取ることで、相手の照準精度を狂わせているのだ。
ちら、とカリスの方を見やる。どうやらあちらもちゃんと回避できているらしい。
そしてヴィヴィオの方を向く。こちらはかわすまでもなく、シールドをもって防御していた。
やはり魔力総量の桁が違う。稲妻を真っ向から受け止めるなど、並の人間には決して出来たものではない。
本当にあの聖王には、首輪による制御が課せられているのだろうか? それすらも疑わしく思えてきた。
「邪、魔……だああぁぁぁぁッ!!」
そのヴィヴィオの咆哮と共に、莫大な魔力が込み上げる。
聖王の怒りと共に顕現したのは、七色に煌めく巨大な龍。
スバルにとっては知るよしもないが、あの時エネルの技をコピーし編み出された攻撃魔法――帝龍(カイゼルドラッヘ)だ。
荒ぶる龍神へと化生した極大の魔力が、轟音と共に虚空を泳ぐ。
地に落ちた無数の雷を、貪り食うかのように蛇行。
そして円の軌道を描く龍が、方向を転じ牙を剥き、スバル目掛けて一直線に飛来。
あれは雷よりも危険だ――目に見えて明らかな分析結果だった。
エネルの雷すらも噛み砕き、呑み込んだ龍の攻撃をまともに受けては、恐らく死体すらも残るまい。
「っ!」
ほとんどでんぐり返しのような動作で、スレスレのところを緊急回避。
かわしきれなかった前髪の先端が、巨龍の光輝に掠められる。
文字通り眼前で直視させられた光彩は、幾多の色が複雑怪奇に絡み合い交わり合う、気が狂いそうになるほどの虹色だった。
じゅっ、と音がしたかと思えば、前髪から焼け焦げた臭いが漂ってきた。
たっぷり3秒ほどかけて、帝龍(カイゼルドラッヘ)がスバルの頭上を通過する。
轟然と飛翔する龍神は、しかしそれ以上深追いをせず、次なる目標へと意識をシフトしたようだ。
ぎゅおん、と大気をぶち砕き。
がりがり、と大地を削り取り。
土埃と岩石を巻き上げて駆ける先には、落雷を起こした張本人たる神(ゴッド)・エネル。
「神の裁き(エル・トール)――MAX2億ボルト!」
異様な風体の雷男が取った行動は、回避でもなければ防御でもなかった。
命中すれば即死確定の一撃を前に、しかし避けるでも防ぐでもなく、悠然と両手を突き出すのみ。
瞬間。
雷神と帝龍の影が重なる。
カイゼル・ファルベの化身たる龍神が、エネルの体躯を噛み砕く。
その、はずだった。
「!?」
されど。
次なる瞬間目にしたのは、龍の放つ七曜光ではなく。
その内側より迸る、蒼白色の雷光だった。
ぱっ、ぱっ、ぱっ、と。
頭から、下顎から、首から、胴から。
さながら強靭な龍鱗を、体内からかち割り突き出す槍のごとく。
帝龍(カイゼルドラッヘ)の全身から、次々と漏れ出す線上の光条。
刹那。
どう――と音を立て、爆散。
ぼこぼこと泡立つように巨体が膨らんだかと思えば、次の瞬間には爆裂四散し、世界が白光に満たされる。
光輝の中心より現れたのは、煌めく双剣を携えし雷神。
舞い踊る虹色の火花の中に立つのは、不敵な笑みを浮かべるエネル。
否、それは双剣ではなかった。
さながら巨大な剣のごとく、長大に膨張した両腕であった。
雷化した両手が光の剣を成し、中心から龍を左右に引き裂いたのだ。
あれだけのエネルギーの集合体を、いともたやすく消失させるとは。
やはりこの男も、ヴィヴィオと対峙するだけはあるということか。
自分達人間や戦闘機人とは、根本的に次元の違う存在を、まざまざと五感で痛感させられた。
「こぉんのぉぉぉぉぉーッ!」
怒れる凄まじき戦士の瞳には、もはやエネルしか映っていないらしい。
完全に頭に血を上らせたヴィヴィオが、地に憑神鎌を刺し固定させ、両の手に魔力球を形成。
投擲、そして投擲と、息つく暇もなく二連発。
刹那、光の弾が爆ぜた。
それもエネルによって迎撃されたのではない。直撃の寸前で、自ら弾丸が炸裂したのだ。
1は10へ。2は20へ。
四散した2つの弾丸は、瞬時に数十の散弾へと変貌。
あれは確かセイクリッドクラスター――ミッド式の魔導師が使用する、散弾タイプの射撃魔法だったはずだ。
球体から雨へと転じた魔力弾が、一斉にエネルへと襲いかかる。
ずどどん、どどんと小気味よく響く、弾丸の奏でる爆裂音。
されど七色の花火が弾けるのは、エネルの表皮の上ではない。
ランダムな角度から迫り来る弾丸は、しかしそれら全てが回避される。
ステップを踏むエネルが身軽にかわし、散弾は虚しく地へと落ちる。
「ヤハハハハッ! どうした、こんなもので終わりか!」
「何で……何で当たらないのっ!?」
声高に嘲笑するエネル。
焦燥に顔を歪めるヴィヴィオ。
焦りは苛立ちへと変遷し、弾丸を生むペースを加速させる。
続々と次弾を装填し、続々とターゲットへと投げ込んでいく。
しかし、平静さを欠いた射撃が、そう簡単に当たるはずもない。
「なっ……!?」
そしてその隙を見逃すほど――仮面ライダーカリスは甘くなかった。
「ハァァァッ!」
斬、斬、続けて斬。
ぎん、ぎん、がきんと響く。
立て続けに掻き鳴らされる、醒弓の放つ金属音。
漆黒の聖王の鎧を叩くのは、白銀に輝くカリスアローの刃。
エネルに意識を集中させていたヴィヴィオの隙を突き、始が一気呵成に斬りかかったのだ。
完全に不意を打たれる形になったヴィヴィオは、反撃も防御もすることができない。
そのままいいように攻撃されるうちに、いつのまにか背後に回り込まれ、羽交い絞めの姿勢を取らされる。
「今だ、スバル!」
両腕で動きを封じたカリスが、スバルへと叫んだ。
処置とやらを施すのなら、今のうちにさっさとやれと。
自分が抑えているうちに、この聖王との戦いにケリをつけろ、と。
「………分かりました!」
返事をしてからの反応は素早かった。
言葉を返すや否や、再びジェットエッジを起動。
ロケットエンジンのバーニア炎が光る。車輪が大地を掴んで唸る。
さながら一発の砲弾のように、スバルの身体が撃ち出された。
駆ける、駆ける、疾駆する。
速く、速く、もっと疾く。
瞬間ごとに加速度を上昇させ、マックススピードへと一直線。
「このっ……離せ、離せェッ!」
「離、さんっ!」
目の前ではじたばたと暴れるヴィヴィオを、カリスが必死に抑えつけている。
あれほどの怪力を持つ身体だ。恐らく仮面ライダーといえど、そうそう長くは保たせられまい。
なればこそ、あの拘束が解ける前に、とどめの一撃を叩き込まなければ。
デイパックからレヴァンティンを取り出し、セットアップ。
最後に残されたカートリッジのロードと同時に、腰に出現した鞘へと納刀。
剣は振るうためのものではない。あくまで魔力制御のためのものだ。
足元にベルカの三角陣が浮かぶ。
合わせて両の腕を回転させる。
みしみしと左腕が軋むのをこらえ、虚空に空色の魔力スフィアを形成。
狙うはゼロ距離で発射する、最大出力のディバインバスター。
「ディバイィィィーンッ―――」
未だこの身に刻んだ力が、彼女に通用するかは分からない。
未熟な自分の砲撃が、レリックを砕くことができるかどうかは分からない。
それでも。
だとしても、やるしかないんだ。
今の自分達に取れる手段は、これ1つっきりしかないんだ。
やれるやれないの話ではない。やらなければならないんだ。
必ず成功させてみせる。
この手でヴィヴィオを止めてみせる。
かつて憧れの人がそうしたように、少女を縛る狂気の鎖の、この一撃で打ち砕いてみせる――!
「―――バスタアアアァァァァァ――――――ッッッ!!!」
右の拳が、スフィアを打った。
空色の弾丸が、砲撃へと転じた。
始がヴィヴィオに払いのけられたのは、ちょうどこの瞬間だった。
「ぐううぅぅぅぅっ!!?」
もはや今さら逃れても遅い。
超至近距離まで接近したスバルの攻撃から、逃れられる者など存在しない。
全力全開で放たれたディバインバスターが、過たずして腹部へと命中。
轟、と唸る音と共に、魔力が激流となって放出される。
一筋の空色の光線が、必殺の破壊力をもってヴィヴィオを飲み込む。
オリジナルには劣るとはいえ、前線フォワードきってのパワーファイターたるスバル・ナカジマの、正真正銘最強最後の切り札だ。
それを喰らう者にとっては、暴風雨の直撃にすら匹敵する衝撃だった。
倒せなくともいい。
これが通りさえすればいい。
この一撃がレリックを破壊し、聖王モードの解除に繋がりさえすればいい。
この全力全開の砲撃で、ヴィヴィオを止めることさえできれば――
「こん、な、も……のおおぉぉぉぉぉォォォォッ!!」
しかし。
無情にもヴィヴィオの放った声は、未だ憎悪に濁った怒号。
膨大な魔力の奔流を掻き分け、魔獣の金の爪が迫る。
空色の光から伸びた龍鱗の腕が、スバルの頭をむんずと掴む。
エネルギーの流れに逆らいながら、強引に砲手の身体を、投擲。
「うわああぁぁぁぁっ!」
浮遊感は一瞬だった。
超高速で投げ出されたスバルは、あっという間に地に叩きつけられる。
髪についた土を払いながら、途切れかけた意識を取り戻した。
痛む身体を突き動かして、うつ伏せになった上体を起こした。
「もういい……もうたくさんだ……みんなまとめて、吹き飛ばしてやる……!」
僅かに靄のかかった瞳が捉えたのは、大鎌を引き抜くヴィヴィオの姿。
極大の憤怒と憎悪に身を震わせる、怖ろしくもおぞましき地獄大帝の姿。
天に突き上げた右腕へと、更なる魔力が集束される。
天の満月を模したかのような、虹色の魔力スフィアが形成される。
それはスバルの発射法と同じもの。奇しくも母の教え子を通じて、たった今その身に記憶した、最愛の母の信頼する必殺奥義。
しかしそこに宿された破壊力は、スバルはおろかなのはのものですら比較にならない。
2倍、3倍と膨れ上がったスフィアの直径は、スバルのそれの5倍以上。
もはや砲撃魔法どころか、集束魔法にすら匹敵するエネルギー量だ。
あれがひとたび発射されれば、自分どころかここら一帯の万象一切が、例外なく消し炭と成り果てるであろう。
「食らえ! ディバイイィィィィーン―――……ッッ!!」
やはり、駄目なのか。
ありったけの砲撃をぶつけても、ヴィヴィオを止めることはできなかった。
自分ごときの力では、彼女を救うことはできなかったのか。
「バス――――――」
掌が振り下ろされる。
七曜の恒星が叩き落とされる。
もはやこれまでと理解し。
諦めと共に固く瞳を閉じ。
その、刹那。
極限までエネルギーを込められたディバインバスターが、今まさに放たれようとした瞬間。
「……―――――――――ッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?」
異変が、起こった。
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