『ドラなの』第2章「第97管理外世界」
「もしも、魔法が使える世界になったら!」
もしもボックスは要請に沿った世界を瞬時に探し当てると、任意の空間(もしもボックスから半径1メートル程度)をその世界の時空連続体から強制分離。目標の次元宇宙へとワープする。
この間連続体から分離したことによって空間内の時間は静止しており、分子1つ原子1つに至るまでまったく影響を受けない。
そしてその世界に到着すると、次元の壁をこじ開けるようにして無理やりその場所に収まった。
(*)
ジリリリリリッ
もしもボックスが転移完了を知らせるベルを鳴らす。
のび太は期待たっぷりの表情でボックスを出て、床に敷かれた布団に座り込む。ドラえもんもそれに続く。
そしてお互いに目配せした二人は同時に唱えた。
「「リリカル・マジカル、布団よ浮かべ!」」
布団を握って身を固くする二人。しかし何の変化も起こらない。
「・・・・・・呪文が違うのかな?」
のび太の発言によってそれぞれ様々な試行が始まった。
「どら焼き降ってこい!」
「教科書よマンガの本になれ!」
「アブラカタブラ出でよどら焼!」
「僕の頭よ良くなれ!」
「マミマミルルンパクルリンパ!」
「チンカラホイ!」
「ウィンガーディアム レビオーサ!」
二人はその後5分以上あれやこれやと唱え続けたが、やはり何も起こらなかった。
そのうち肩で息をするようになった二人は顔を見合わせるとため息を着き合った。
「バカバカしい・・・・・・」
「もう寝よう・・・・・・」
意気消沈した二人は倒れるようにお互いの寝床についた。
(*)
翌朝 7時
目を覚ましたドラえもんはカーテン開きのために起き上がる。
これはいつかのテレビで『お日様に当たることで体内時計が再調整される』ということを聞き、のび太のお寝坊を矯正するため日々の日課となっていた。
カーテンレールが『シャーッ』と派手な音を立て、同時に明るい日光が部屋を照らした。
「のび太くん、朝だよ」
自らの呼び掛けにのび太が動き出す。しかしその動きはいつにも増して緩慢だ。
気持ちはわかる。
♪ああ、空はこんなに青いのに、風はこんなに暖かいのに、太陽はこんなに明るいのに─────♪
「・・・眠い」
そう、どうしてと言うまでもなく眠く、睡眠不足なのだ。
そこでドラえもんの視界にその睡眠不足の元凶が入った。
というより大きいので常に見えていたのだが、意識からは追い出していたのだ。
「もしもボックスが故障してたのかな?」
ドラえもんは呟くように言うとポケットから小さな札を出し、何か書き始めた。
「・・・・・・なにしてるの?」
「未来デパートに送り返して修理してもらうんだ」
ドラえもんは『空飛ぶ荷札(超空間用)』に未来デパートと書き込むと、もしもボックスに張り付ける。するとそれは体裁を保つためかもしもボックスとともに一瞬浮くと、超空間へ転移していった。
「さぁ、朝ごはんだよ。早く起きないと」
「わかったよ・・・・・・」
のび太は小さく文句を言いながらも立ち上がった。
(*)
次元空間
そこでは荷札を付けられたもしもボックスが、時空間移動(時間移動)しようとしていた。しかしその前にどこからともなく飛来した一条の光によって撃墜。次元宇宙に浮かぶ塵と化した。
(*)
普段より早く起きる事に成功したのび太は通学路に姿があった。しかしその顔は浮かない。
「やっぱりもしもボックスの故障だったのかなぁ・・・」
のび太は呟くと、空を見渡す。
そこには彼の想像したような空飛ぶジュータンやホウキに乗った人などおらず、高高度を飛行して飛行機雲を引くジェット旅客機。低空では1機のセスナ(民間用のプロペラ機の一種)が『ブゥーーーン』と静かに飛んでいた。
地上に目を移せば、勤勉なポストマンがバイクから降りて郵便受けに手紙を投函していた。
「はぁ・・・」
本日数えて5回目のため息をついたそんな時、登校中の二人の女子集団が視界に入った。
一人は後ろ姿でもわかる。クラスメートの源静香だ。
のび太は彼女を認めると、水を得た魚のように瞬時に全ての懸案事項は吹き飛び
「おーい!」
などと大声呼び掛けながら追いつく。
「あ、のび太さんおはよう」
静香が振り返ると笑顔と共に挨拶する。
ここまではいつも通りだった。しかし、彼は直後聞こえてきた声に驚く事になった。
「おはようさん。でものび太くんが早いなんて、雪でも降るんとちゃうやろか?」
その冗談に静香がのび太を庇う。
「もう、せっかく頑張ったのび太さんが可哀想よ」
だがのび太にはそんなことはどうでもよかった。
冗談を言った声の主は肩より短いショートカットの茶髪に赤と黄色の二種の髪止めを着けている。彼女が静香と共に登校していること自体はクラスメートであるし、何ら不思議ではない。
しかし驚くべきことは、目線が自分達とほぼ同じ場所にあることだった。
「はやてちゃん、足治ったの!?」
「・・・・・・え?」
のび太のセリフに怪訝な顔になる静香。そして自らの足で地面にしっかり立った八神はやても顔に『?』マークを浮かべながら答える。
「なに言うとるんや?わたしの病気なんて、もう2年も前に治ったやん。なぁ?」
はやてに同意を求めるように聞かれた静香は
「そうよ。ふふ、変なのび太さん」
と笑った。
「まぁ、お寝坊さんが久しぶりに早く起きたんや。まだ寝ぼけとるんやろ」
はやては目をパチパチして固まるのび太をそう片付けると、
「それじゃ行こか」
と2人に促した。
(*)
「お~い!はやてちゃん、しずかちゃ~ん」
少し歩いた所でそのような声がかかった。
振り返るとよほど仲がいいのかお揃いの制服のような服に栗色の髪をした子と、金髪をした子の2人組だった。
はやてと静香は追いついてきた2人へと口々に
「おはよ~なのはちゃん、フェイトちゃん」
と挨拶する。
どうやら彼女らはなのはとフェイトというらしい。しかし女子同士の交友関係にまで頭を突っ込む気はなかったので無難な笑みを浮かべながらそれを見守る。
「(それにしてもこんな目立つような子ってうちの学校にいたっけ?服はともかく、髪の色がバリバリ校則違反なような・・・・・・)」
そうして
「(フェイトって言うんだから外人さんか。なら金髪が普通なのかな・・・・・・)」
といったことを考えていると、初対面であるはずのなのはという少女に突然
「あれ?のび太くん?」
と名を呼ばれ、少なからず驚いた。
「あ!やっぱりのび太くんだ!朝会うのは初めてだね。おはよ~」
「お、おはよう・・・・・・」
「・・・・・・元気ないみたいだけど、大丈夫かな?」
フェイトと呼ばれていた少女が心配そうにこちらをのぞき込んでくる。そこにはやてと静香のフォローが入った。
「ん~どうもな、お寝坊さんが珍しく早く起きたせいか、だいたいここ1~2年の記憶がちょこちょこっと飛んどるみたいなんよ」
「さっきも『はやてちゃんの足が治ってる!』って大騒ぎしてて・・・」
それを聞いたフェイトは
「ああ、それはちょっと重症だね・・・・・・」
と苦い顔をし、なのはは
「じゃあ私達の事も覚えてない?」
と問うてきた。
「・・・・・・うん、ごめん。思い出せない・・・・・・」
というか全く訳が分からない!これがよくテレビで聞く記憶喪失だとすると、僕が持ってるこれまでの記憶はなんなんだ!?
「そっか・・・・・・じゃあ今ののび太くんにとって私達は初対面なんだね」
なのはがまとめるように確認すると、こちらの前に歩み出て姿勢を正した。
「・・・・・・と、なれば自己紹介しなきゃね。はじめまして。高町なのはです。"なのは"って呼んでね」
なのはが『ニコッ』と極めて友好的な笑みを含んだ挨拶をすると躊躇いなく半歩退く。続いてなのはを見ていないのに絶妙なタイミングで前に進み出たフェイトがその場に収まった。
2人の挙動はまるで相手の考え、反応速度それら全てを知り合っているような連携だった。
例えこの場に世界征服を目指す「キーッ」などと奇声をあげる、骨格の描かれた黒タイツ集団が奇襲して来ても軽くあしらう事ができるだろう。
あえて言うなれば幾多の戦場を戦い抜いてきた戦友同士とでも言おうか。
まぁ残念ながらのび太はそれに気づけない。得てしてプロの技は一般人には気づけないほど洗練されたものだからだ。
さて、フェイトは少し気恥ずかしそうな表情を見せて
「なんか変な感じだけど、私もはじめましてだね」
と口に出すと、ペコリとお辞儀する。
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。みんなからは"フェイト"って呼ばれています。よろしく」
「う、うん。こちらこそ・・・・・・」
なんだが今一つ納得いかなかったが、その場はそう返すしかなかった。
(*)
その後2人がのび太の記憶にまったくない私立『清祥大付属小学校』に通っている事や、到着した自らの母校が『海鳴小学校』となっている事に愕然としたあたりで、ようやくこの事態の原因に気づいた。
「(『もしもボックス』のせいか・・・・・・)」
確かにそれならばこの異常事態にも説明がつく。しかしメインテーマであるはずの魔法がない。
それがのび太をまた悩ませる事になった。
(*)
終礼直後
普段とほぼ変わらない授業風景と、何かと心配してくれるはやてや静香などの間で悶々としていたのび太だが、ようやく来た下校時刻に安堵する。
「やっと終わった・・・・・・」
そう小さく呟いてランドセルを背負った彼の視界に一冊の書が出現した。
本の向こうには自分と同じようにランドセルを背負ったはやての姿があった。
「返すの忘れとったから返しといてな。"図書委員さん"」
「え!?ぼ、僕が図書委員ん~!?」
「なんや、そないなことまで忘れてまったんか・・・・・・のび太くんが"どうしても"って言うから譲ってあげたのに・・・・・・ヒドイ!あんまりだわ!」
はやてはそうヒステリックに叫ぶように言うと、顔を伏せて両手で覆ってしまった。
「え、え!?ご、ごめん!そんなつもりじゃ─────!」
女の子を泣かしたということに素直に焦りまくってしまう。
しかしはやてはパッと両手を払うと、そこには満面の笑みがあった。
「冗談やて♪」
悪びれもせずそう言ってのけるはやて。
のび太は彼女のトレンディ・ドラマの俳優顔負けの演技にただ驚くことしかできなかった。しかしジャイアン達と違って『やられた!』という感じがせず、『仕方ないなぁ~』と思えてしまう所がはやての魅力の1つなのだろう。
完全にこちらを術中に治めたはやては『してやったり』笑って見せると、話を続ける。
「まぁとりあえずのび太くんが図書委員なのは本当やで。・・・・・・さぁ、早く行かんと"相方"が待っとるで!」
「相方って?」
「行けばどうして図書委員になったかわかるかも。じゃ"今夜"のこと、相方とドラちゃんにもよろしく伝えといてな。3人とも待っとるで!」
はやては捨て台詞のように告げると、のび太に再び発生した『今夜のことって何の話?』という問いを口に出す前に教室から消えていった。
(*)
のび太は仕方なく、彼女から渡された本と共に最上階の5階へと歩を進めていた。
「(それにしてもはやてちゃんってこんな本読むんだ・・・・・・)」
本の表紙には『カラオケ、上達の秘訣!その音質がオレを変えた!』という題がつけられている。著者は・・・・・・えっと・・・・・・"ウガ"って読むのかな?
「(まぁ、女の子だし、やっぱり練習するのかな)」
彼女がマイク片手に歌の練習をする様はそれなりに似合って思えた。
そんなことを想像しながら図書室に足を踏み入れると、確かに疑問は一瞬にして解凍された。
そこのカウンターに座る見知った1人の少女は笑顔でこちらを迎えると、隣の席へと招いた。
・・・・・・別に何をするわけでもない。この世界でも図書室は人気がなく、図書委員はヒマだ。はっきり言って誰でもできる。
しかしその時間は使い方次第で至福の時となる。
のび太は彼女と本を読んだり、少し嫌だったが宿題を一緒にやったりしてそれを過ごした。
そんな時、もう1つの疑問がのび太の頭にもたげた。
「そういえばさっきはやてちゃんが『今夜のことよろしく』って言ってたんだけど、何かあったっけ?」
のび太の問いに算数の宿題に目を落としていた静香が答える。
「ええ。今日は6月4日だから、はやてちゃんの誕生会をするのよ」
「ああ、そういうことか!」
(*)
6月4日
今日は八神はやて11回目の誕生日であった。
(*)
当のはやては学校から家に帰る途上にあった。しかし突然彼女の上着のポケットが振動した。
はやてはバイブレーションするその機器を取り出すと展開。液晶画面に表示される名前を確認してから通話ボタンを押し込んだ。
「はい、はやてです」
『あ、はやてちゃん?今どこにいる?』
「今帰っとるとこや。なのはちゃん達は?」
『私達も今学校が終わったところ。支度してからフェイトちゃんとアースラに行くつもりなんだけど、はやてちゃんも来る?』
「うん。わたしが"呼んだ"んだから絶対行かなならん」
その言葉に電話の向こう側にいるなのはの声が暗くなる。
『・・・・・・やっぱり"病気"、ひどいの?』
「うん・・・・・・今朝シャマルがわたしのリンカーコアを調べたら、やっぱり日に日に縮んどるって」
"半年前"から進行するこの謎の病気のせいで5カ月前より魔力消費の多い魔法の使用を自主規制しており、管理局の業務をお休みしていた。
『そっか・・・・・・でも大丈夫だよ。きっとクロノくん達が何か手を考えてくれるはずだから』
「うん。ありがとうな」
そうしてすぐ行く旨を伝えて携帯を畳んだはやては、ほどなくして家に到着した。
「ただいまぁ」
自らの声に家がガタガタ音をたてる。
2年前よりこの家に増えた住人が自分を迎えんと階段を駆け降りているのだ。
「はやてぇ~!」
そう叫ぶようにして彼女を迎えたのは赤い髪を2つに分けた、はやてよりも幼そうな少女だった。
「あれ?ヴィータやないか。どないしたん?まだ管理局の任務やなかったか?」
涙を流さんとまでにギュッと抱きついてくるヴィータに多少困惑しながらも彼女の頭を撫でる。
ヴィータは現在ミッドチルダの地上部隊でシグナムが分隊長を務める部隊の隊員として課業に就いており、帰還はまだ2ヶ月近く先のはずだった。
そこへ毎日の留守を頼むシャマルが、リビング直通の扉から現れた。
「ごめんなさい。昨日私が『はやてちゃんの病気でアースラが来てくれる』って話したらすぐ帰るって・・・・・・」
「それでアースラに便乗して来てまったってことか・・・・・・」
そこでヴィータが
「だって、はやてに何かあったら・・・・・・」
と涙でぐずりながら見上げてくる。
「ん~、わたしを心配してくれるのは嬉しいんやけどな、せっかく戴いた仕事をほっぽり出しちゃいかんよ。『ヴィータをここの隊員に』って推薦したシグナムにだって体面があるし─────」
しかしそう言い聞かせていた所に、もう1人、長いピンク色の髪を後ろに紐で束ねた主要人物が現れた。
「その話なんですが・・・・・・」
「へ?シグナム?」
「はい、実は私も居ても立ってもいられなくなってしまいまして・・・・・・」
聞くと二人の臨時休暇については部隊長の許可は取ったとの事だった。
「ようこんな忙しい時に許可下ろしてもらえたなぁ・・・・・・」
管理局では4年に一度行われる『公開意見陳述会』の警護のため、この時期クラナガンの地上部隊はもっとも忙しくなるはずだったからだ。
「はい。部隊長に事情を話したら『身内の病気じゃ仕方ねぇな。早く行ってやんな』と1週間ほどの有休をいただけました」
「もう、部隊長さんにはお世話になりっぱなしや。この前も無理聞いてもらえたし・・・・・・その部隊長さんはなんていゆん?」
「陸士108部隊のゲンヤ・ナカジマ三佐です。」
「よし、ナカジマさんに今度菓子詰めでも送っておかなならんな。・・・・・・そうだ、戻る時に持ってってあげてや」
「はい。きっと喜ばれると思います」
そんな感じに8カ月ぶりに全員集合して家族団欒をしていた5人(ザフィーラは発言しないだけでちゃんと居ます。忘れていたわけじゃないですよ。・・・・・・ほ、本当ですって!)だが、ここがまだ玄関である事に遅まきながら気づいたシャマルがみんなに呼び掛ける。
「ほら、はやてちゃんは学校から帰ったばっかりなんだからそんなに集(たか)らない」
「そうやで。病人は大切にせなあかんよ~」
リンカーコアはともかく心身共に全快のはやてはその助け船に乗ると、ようやく靴を脱いで家に上がった。
(*)
1時間後
八神家一同は時空管理局艦船、次元航行船『アースラ』にあった。
その中でもはやては次元航行部隊の基地局である本局にも劣らぬ最高レベルの設備を誇る医療室に居り、精密検査の真っ最中だった。
「はやてちゃん大丈夫かな・・・」
先ほど来た高町なのはが『検査中』と表示されたドアを前に呟く。
彼女ははやて達とは20分ほど遅れて来たため、まだはやてとは顔も合わせてなかった。
そんななのはの呟きに、ベンチに座るシャマルが応える。
「たぶん命に関わるような事はないと思うけど、魔力資質がどうなるか・・・・・・」
「はやてのリンカーコアってそんなに縮んでしまったんですか?」
フェイトの問いに、彼女の隣に立つシグナムが
「ああ」
と頷く。
「シャマルの検査によれば毎日少しずつ縮んでいるようだ。生成状況を見る限りすでにクラスSのリンカーコアであるはずだが、未だ出力がAA止まりだからな」
成長と共に完成へと近づいていくリンカーコアは通常11~12歳で完成し、ようやく魔力の安定供給が可能となる。
しかしクラスSとAAのリンカーコアといっても一般人から見ると間に"AAA"を入れて2ランクしか違わないように見える。しかしその差はマグニチュードの差ぐらいに違う。
主に地震の規模を示すマグニチュードは1つ上がる毎に約32倍される。つまり2違うと1000倍近くもの差が出るのだ。
このランクはこれほどではないが1つ上がる毎に10倍となっており、2ランクで100倍もの差が出ているのだ。
しかもS以降は、現代ではまだ越えている事がわかるだけの測定不能域であり、大袈裟に言えば1000倍近い違いがあるかもしれなかった。
「AAって言ったら、魔法が使えるようになったばっかりの私と同じ数値ってこと?」
「ううん。なのはちゃんのリンカーコアはクラスSだけど、あの時は使用魔法からの逆算値だったから小さい値が出たの。でもはやてちゃんの場合はリンカーコアの作りその物はクラスS。それなのに測定される魔力量が100分の1以下しかない。ここが問題なんだよねぇ・・・・・・」
エイミィが頭を捻る。
「じゃあ、はやてちゃんの魔力が誰かに盗電されてるって事ですか?」
「それも違うみたいだね。シャマルさんのカルテを見たけど、リンカーコアは正常に動いてるし出力系には干渉もなさそう。やっぱりリンカーコアそれ自体が縮んで結果的に魔力量が減ってるみたい」
「ええ。私の知っている全ての原因を当たったのですが、はやてちゃんの内部に原因は見つかりませんでした。でも、だからって空間の隔たりを無視して外部からそんな芸当ができるのは・・・・・・」
シャマルは口をつぐむ。
全員の頭に浮かぶはある一冊の書。
数多くの人生をねじ曲げたその連鎖は2年前、自分達の手で断ち切ったはずだった。
しかし『夜天の魔導書』、別名『闇の書』は完全消滅させたわけではない。
自動防御プログラムは確かにアースラの魔導砲『アルカンシェル』で葬り去られ、管制人格『リィンフォース』も削除された。だが闇の書自体の転生プログラムは生きており、蒸発させようものならページも全て埋まった状態でどこかへ転移してしまう。
そのため現在完全ストレージ化した『夜天の魔導書』は管理局によってある凍結世界に封印されていた。
しかしその気さえ起こせば闇の書の力を行使できるはやてはもちろんのこと、なのは達やアースラに乗るような人員は下士官であれそれがどこかは知らされていなかった。
なのは達はそうしたことを思い出して暗い表情をしていたが、突然扉が開いたことでかき消された。
「はやてち─────」
なのはがその名を呼ぼうとするが、そこに立っていたのは期待に反してアースラのドクターだった。
「ごめんなさいね。はやてちゃんじゃなくて」
そして彼女は
「いえ、そんな・・・・・・」
と取り繕うなのはと、心配そうな視線を寄せる一同を見渡すと告げる。
「はやてちゃんはまだ薬で眠っています。ですが検査の結果が出たので、先にご報告申し上げます。どうぞお入りください」
そう言って廊下に集まった人々を医療室に招き入れた。
(*)
結果は残念なものだった。
- リンカーコアの物理的な体積が予想正常値の1割程度にまで縮小し、それに伴い出力量が減少を続けていること。
- 原因は体内には認められず、夜天の魔導書に代表される外部要因である可能性が極めて高いこと。
- 厚さ10センチのHR(ハイパー・リィンフォース。超強化)チタニウム合金による外部との物理的遮断(つまりアースラの艦体による遮断)。ディストーション・シールド、全方位魔力バリアなどのエネルギー・物理シールド系統による遮断。これら全てを併用、駆使しても縮小を抑えられないこと。
- 現状のまま縮小が続けばあと1カ月以内にリンカーコアが耐えきれず形状崩壊。再生不能になるであろうこと。
「─────以上。結論になりますが、早急に何らかの対応策を取らない限り、最低でもはやてちゃんは魔力資質を喪失することになります」
「・・・・・・ってオイ!なんとかならないのかよ!?」
ドクターの説明を真剣に聞いていたヴィータだが、1つも良い報告がなかったことからどうしても聞かなければ気がすまない。例えそれが最期通蝶だとしても。
「・・・・・・現代の技術力では、断ち切る事も、進行を食い止める事も残念ながらできません」
「そんな・・・・・・」
と閉口してしまう守護騎士一同。なのはも唖然としながら、ガラスで隔てられた集中治療室でこんこんと眠り続ける友人に視線を投げた。
「はやてちゃん・・・・・・」
するとこちらの呟きが聞こえたかのように彼女の意識が戻り、状況を知ろうと周囲を見回し始めた。
「あれ?ビバリー先生・・・・・・?どこいってしまったんやろ?」
どうやらこのガラスはハーフミラー(片側からしか反対側が見られないガラス)らしい。こちらには気づいていないようだ。
それに実際には遥かに小さな声だろうが、高感度マイクが捉え、スピーカーで拡大された彼女の声はこちらの主観も相まってかとても淋しそうに聞こえた。
「結果を伝えます。そのほうがいいと思いますから」
ドクターであるビバリー・クラッシャー女史は治療室に入ろうと扉の開閉パスワードを入力しようとする。しかしそれをなのはの一声が止めた。
「待ってください!」
彼女は感情も露に続ける。
「今日ははやてちゃんの誕生日なんです!これから友達みんなを集めて誕生会もやる予定ですし・・・・・・だから、だからせめて今日だけは、いつもの元気なはやてちゃんでいさせてあげてください!」
お願いします!と頭を下げるなのは。
フェイトもそれに続き、いつの間にかそれはそこに集っていた全員に伝染していた。
「・・・・・・わかりました。結果は明日に出ると伝えましょう」
そしてビバリーは
「ありがとうございます!」
と再度頭を下げたなのは達に暖かい微笑みを返すと、何食わぬ顔で
「お疲れ様、はやてちゃん」
と入室していった。
最終更新:2011年01月20日 19:31