*ミックス☆ジュース リメイク版 第八話 **私市 朔耶 「――――今作れるのは、僕か、朔耶か、玲か、彩さんになるんだけど。 誰か指名する人、いる?」 「さく、や・・・? もしかして、そこにいますの、さっちゃん?」 体を傾け、カウンターに立っている香の後ろをのぞき見る。 懐かしい響きに、ふっと振り返る朔耶。 頭で考えたと言うよりも、体が自然に反応したようだった。 次の瞬間、目が、合った。 「・・・・・・春歌ちゃん!?」 語尾が裏返っている。 「うそ、どうして? さっちゃんもリリアンでしたの?」 「まぁ、私らしくないと言えばらしくないですけど・・・(^^; いやー驚きました、何で今まで会わなかったんでしょうね?」 再会の雑談に花が咲きそうだったが、真ん中に位置する香が、それを止めた。 「ごめんね、朔耶、これってなにごと?」 「あ、いえ、この子、私の親戚なんですよ」 「ごきげんよう、白鳥春歌と申します」 香と改めて向き合うと、深々と一礼をする。 少々慌てていた香も、同じようにお辞儀をしてしまった。 今日はクラス単位では特に用事がなかったのか、彼女にとっての私服姿である和服で登場した珍客に、朔耶は顔に出す以上に驚いていた。 時を同じくして、もう一人。 「ごきげんよう、玲様」 「やぁ、春菜さん、来てくれたんだ」 「ええ、ちょっと、誘われたもので(^^)」 玲の元を訪れたのは、図書委員一の腕利き、中司春菜だ。 本人が、自分は怠け者だ、と言っているのをよく耳にする。 だが、それは本当にただの自称であり、体育祭実行委員も先陣を切って勤め上げるなど、その手腕に対する評価は思いのほかに大きい。 「じゃ、少し張り切ろうか。 リクエスト、何かあるかい?」 「そうですね、それでは――――」 ざこっ。 「あっ」 下駄を何かに引っ掛けて転びそうになる春歌。 人より少なめの平衡感覚を駆使して、なんとか姿勢を戻すと、自分の足元に目を向け、何に引っかかったのかを確かめる。 そこには、つま先を押さえて悶絶する少女が一人。 どうやら、彼女の足にぶつけてしまったらしいのを見て取って、あわてて謝罪をする春歌。 「あぁぁ、すみません、大丈夫ですか!?」 「~~~~~~っ、はいっ・・・」 目の端に涙を浮かべてなんとか返事をする春菜。 なんとか、痛みをこらえて顔をあげると、蹴った本人が泣きそうな顔で心配しているのが目に入った。 「いや、あの、ホントに大丈夫ですから・・・」 「いえ、でも・・・ ごめんなさい、不注意でしたわ」 懐からハンカチを取り出すと、そっと春菜の目元を拭った。 春菜の顔に見覚えがあったのか、春歌の動きが少し鈍る。 「あの、どこかでお会いしたこと、ありますよね?」 「えっと・・・もしかしたら図書室で?」 「あっ! そうですわ、中司春菜さん、でしたわね。 ・・・となると、一方的に私が存じ上げているだけですのね?」 「えっと、白鳥、春歌さま、ですよね?」 「はえっ?」 「よく利用してくれる人の顔は、覚えてしまうんです(^^; 図書館の利用カードを見れば、名前もわかってしまいますし」 「びっくりしました、超能力の持ち主かと・・・」 そんなこんなで、雑談が弾んでいく。 学園の日常のお話、文化祭の準備、今日の出し物のお話、図書室のお話ときて、薔薇の館のお話へやってきた。 「――――春歌さまは、ロサ・キネンシスをご存知?」 「ええ、そう深い間柄ではないですけれど。 でも、彼女よりあなたの方が働いている、と、一部で囁かれていますけれど、それって事実なんですの?」 「う~ん、それは体育祭の時の話でしょうか? 私はただの実行委員で、会議へは出ませんから、わかりませんわ。 芽衣子さんから聞いた話だと、用事がないと中々薔薇の館へ現れないと言うか・・・」 と、そこへ。 「あれ? 春菜ちゃんじゃない。 あなたも、ジュースを飲みに来たの?」 息を切らせたロサ・キネンシス―――二宮央が現れた。 噂をすれば影、と言うが、なんとも因果なものである。 しかし、なぜ息が切れているのだろう?と、春菜は感じた。 「央さん、ごきげんよう^^ 今日は楽しんでらして?」 にっこりと微笑んで、春歌から疑問が出た。 疑問は出たが、肩で息をする人間にする疑問が向かう先はそこなのか?と耳を疑いたくなる。 こういう場合、まず真っ先に聞くものがあると思うのだが・・・。 「春歌さまって、ほんとにマイペースですよね・・・ 央さま、その、何かから逃げてきたような状態は、なんですか?」 「決まってますわ、芽衣子さんと京さまよ。 あの二人を巻くのにどれだけ苦労したか・・・」 「おや、央さん、また来てくれたんですか^^」 マイペース人間、さらに一人追加。 朔耶が、手に4本のジュースを持って、やってきた。 と、先ほど央が二人から逃げ出した事実を思い出す。 つと眉根を寄せ、困ったような表情になると、一言つぶやいた。 「あ、しまったなぁ、ついさっき飲んじゃいましたよ」 他の3人は何を飲んだのか知らないので、意味がよくわからないでいる。 「猫に鰹節、朔耶にリンゴ、だな」 手に盆を、その上にカップを乗せて、玲がやってきた。 「お待たせしました、ポリネシアンダンサーになります」 「わぁ、ありがとうございます」 満面の笑みで、春菜はジュースを受け取った。 その隣で、春歌と朔耶が驚いている。 「えっ、同じもの?」 「は? なにがだ?」 胡乱げに聞き返す玲。 何がなにやら良くわからない央は、一歩下がって成り行きを見ている。 「私が注文したのも、同じものだったんです」 おずおずと、玲の質問に答える春歌。 と言うか、それを朔耶に注文したのなら・・・ 「あの、春歌さま、その本数は・・・?」 「え? 4つ・・・ですけど、それがどうかしましたか?」 何か、おかしいのだろうか? 彼女の顔には、疑いようもなくそう書いてある。 春歌の胃における性質を知っていた、親族(?)の朔耶以外は、一様に声を失った。 まぁ、確かに驚きますよねぇ、と朔耶は一人で勝手に納得していたのだが、あ、そうだとぽつりと漏らす。 「ねぇ春歌ちゃん、この内の一本、私がもらっていいですか?」 「え? さっちゃんも好きなんですの?ポリネシアンダンサー」 「いえ、嫌いではないですけど・・・。 はい、央さん」 「・・・はい?」 目の前ににゅいっと伸びてきた腕に、少なからず戸惑う央。 「おっかけっこして、疲れてますよね? 栄養補給に、持って行ってください」 「・・・お気遣い、痛み入ります」 ぺこ、と央は軽く頭を下げた。 少々察しの悪い春歌は、ここまできて、状況にやっと追いついた。 「あ、そう言うことでしたの。 でも、それってさっちゃんのオゴリですのよね?」 「え? ・・・えぇ、まぁ」 生返事で返すと、横から玲がしっかりと釘を刺す。 「朔耶、備品の着服は禁止だから、それはちゃんとわかってるよね?」 「わ、わかってますよ、もちろん」 「じゃ、さっきのりんごジュースのも含めて、し~~っかり働いてもらわないと」 「ふえ~ん・・・」 情けない声を残して、りんご大王はテントの奥へ消えていった。 取り残された三人は、顔を見合わせると、ぷっと吹き出し、そのまま楽しそうな笑いへ変わっていった。 「ふふふ、さっちゃん、お間抜けなのはいつまでも変わらないんですのね」 「剣の腕前ならリリアン4剣士でも最強だと言われながら、朔耶さまはあの性格ですからねぇ」 「やっぱり、私このジュース代、払ってきた方がいいと思うんですけど?」 央の提案に、春歌は首を横に振る。 「いーえ、ここは部員の方に絞って頂いたほうが、さっちゃんのためですわ」 そう言ってはいるが、その実ところどころに「ぷぷぷ」と笑いが混じっている。 ひとしきり笑った後、春菜が提案した。 「ところで、ジュースを飲みませんか?」 「そうですね、せっかく奢って頂いたのですし」 「では、いただきましょう^^」 『いただきまーす』 ぱくり、ちゅるちゅるちゅる~~~・・・。 「・・・は~、南国系フルーツのミックスジュースでしたか」 「そうですよ、央さまはご存じなかったんですか?」 「ええ、でもすっきりした甘さで、とても美味しいですわ」 「さっちゃん、意外と上手に作るんですのね」 「玲さまの作ってくださったジュースも、そこらのものより格段に美味しいです^^」 「さっき、私も玲さまに作っていただいたけど、あれも美味しかったわ・・・」 「そうですわ央さん、美味しいと言えば――」 女三人寄ればなんとやら。 その楽しげな雑談は、いつ終わるともなく続いていた。 **あとがき これを書き始めた時点では、まだ央さんが逃げ切れるか、芽衣子さん&京さんに捕まるか、 決まっていなかったんですよね。 もしかしたら、捕まるエピソードを「if」として作るかもしれないですが、それはまた別のお話。 ポリネシアンダンサーと言うのは、春歌ちゃんからのリクエストだったんですけど、 どこをどう調べても作り方が出てこなくて苦労した覚えがあります(^^; [[目次へ戻る>「ミックス☆ジュース」リメイク版]]