<?xml version="1.0" encoding="UTF-8" ?><rdf:RDF 
  xmlns="http://purl.org/rss/1.0/"
  xmlns:rdf="http://www.w3.org/1999/02/22-rdf-syntax-ns#"
  xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"
  xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/"
  xml:lang="ja">
  <channel rdf:about="http://w.atwiki.jp/necrorevive/">
    <title>ネクロリバイブ公式wiki</title>
    <link>http://w.atwiki.jp/necrorevive/</link>
    <atom:link href="https://w.atwiki.jp/necrorevive/rss10.xml" rel="self" type="application/rss+xml" />
    <atom:link rel="hub" href="https://pubsubhubbub.appspot.com" />
    <description>ネクロリバイブ公式wiki</description>

    <dc:language>ja</dc:language>
    <dc:date>2026-06-22T23:48:07+09:00</dc:date>
    <utime>1782139687</utime>

    <items>
      <rdf:Seq>
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/93.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/92.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/50.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/49.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/91.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/90.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/89.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/87.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/88.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/13.html" />
              </rdf:Seq>
    </items>
	
		
    
  </channel>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/93.html">
    <title>アイアンブラッド⑥　鋼の大蛇</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/93.html</link>
    <description>
      [[アイアンブラッド⑤　一歌の帰宅]]の続き

　選択肢は二つあった。一つは山を「登る」選択。もう一つは、山を「降りる」という選択。
　一歌には知る由もないが、予測する材料はあったのだ。一歌が自身の踏切と夕焼けの領域をさまよったように、本来領域に果てはない。果てのないはずの領域が閉じられていないということは、逃走が可能であるということ。
　領域の中心から離れ、山を降りれば、領域が負わせた傷も傷口を保ってはいられない。万全の状態で再度、挑むこともできた。
　だが、そうはならなかった。一歌は血を流すことになる。凄絶な痛みとともに。

　一歌は追い詰められていた。神社は山の上、まだ見えない距離にあり、周囲は蛇に包囲されている。
　片足も潰され、歩行すら不可能な状況である。

「ッだああああッ！」

　近づいてくる蛇を手当り次第に叩き散らす。幸い、蛇自体は通常のものと違いはない。ただその牙が幽霊に致命的な影響を与えるというだけ。振り払えば、麻縄のように軽く飛んでいく。
　兎にも角にも数が多すぎた。音も立てずに、磁力に引き寄せられるスクラップじみて忍び寄る蛇の大群は恐怖の光景である。
　必死の形相で周囲を警戒し、蛇に対処し続けなければならない。その歩みは遅い。
　片足が既に死んでいるために、這って進むような形になる。

「クソッ！　キリがねえ！　一斉に襲いかかってこないのは不幸中の幸いってやつか……でもこのままじゃラチがあかねえぞ」

　滂沱と流れる汗が雫となり苔むした石段に暗い斑点を作った。

　その様子を、山頂で見ているものがいる。領域の主である、幽霊の少女である。
　名前を、[[秋雛古詠]]といった。

「詰み、じゃな」

　その声に熱はなく、氷のように冷ややかだった。
　傲りでなく、虚勢でなく、事実として。秋雛の“目”には、もはや一歌に打つ手はないように思えた。どのような手札があろうとも、この状況から脱出する手段は、ない。
　いつまでも蛇を退けられるわけでもない。どこかで必ず、一歌の迎撃をすり抜ける牙がある。噛まれればさらに防御は脆くなり、転がり落ちるように、瞬く間に死ぬだろう。

　しかし、まだその時は来ない。

「！　こやつ……」

　蛇の視界の先、一歌はまた上り始めていた。一歩一歩、遮断桿を杖にして。
　立ち上がっている。その周囲には線路が結界のように円を描いていた。一歌を囲む線路の上をぐるりと電車が埋め、走り、回転し続けている。
　一歌は領域を作っていない。踏切の領域に閉じこもることは神社への道を自ら閉ざすことを意味する。領域の中の物体だけを作り出していた。

　地を這う蛇はその断絶によって一歌に近づくことができない。その結界に侵入しようとすれば、車輪に巻き込まれ、あるいは速度で弾かれ、撥ねられる。接近を試みた蛇はことごとく弾かれていた。

「はっ、成功！　バーが出せんならよぉ、線路だって出せるよな、領域ん中なんだからよォ！　んで……」

　円の端まで進むと、その先にもう一つ線路の円を作る。その中に踏み出せば、一歌は守られたまま、進むことができた。

「よし！　攻略したッ！　このままてっぺんまで登ってやんよ！」

　激痛と神経の混濁により顔から脂汗が滴っているが、一歌は快哉を叫んだ。もう憂いはない。一歩は遅くとも、活路は開けた。
　しかし全身に毒が回りきるのとどちらが早いかはわからない。こればかりは一歌には知りえないことであり、急がなければ、間違いなく死ぬ。

　だから、もう一咬みたりとも蛇の毒牙を受けるわけにはいかない。
　そう思った一歌の肩に冷たい重みが落ちた。

「……？」

　反射的にそちらを見遣る。振り返る。そこには、至近距離で一歌を見つめる黒曜の眼球があった。肩から背に、冷たい鱗が蠕動している。

「何……ッ！？　蛇……どこか…………ら……」

　答えはすぐに出た。問いながら目線を動かした頭上に、枝が伸びていた。
　蛇は木を登ることができた。見れば、枝先に成るように、行く手の頭上に点々と蛇の双眸が待ち構えている。

「クソッ……甘かったってことかよ」
『その通り。甘いんじゃよお主は』
「……あ！？」

　少女の声がどこからともなく響いた。その出処は判然としなかったが、頭上にある蛇の喉から発せられているように思われた。
　一歌の肩を這う蛇が、長い胴を一歌の首に回していく。

「テメェがこの領域の幽霊か」
『それもまた、その通り、じゃな。やれやれじゃ。期待はずれもいいところよ。あの[[藍島銀一]]の弟子とは思えぬな』
「ハッ、そうかよ。ずいぶんあのオッサンは……有名人なんだな」
『然り。幽霊の数など生者に比べるべくもないが、それでも噂が広がるほどに、強く、古い幽霊じゃ。じゃからその弟子と聞いての、さぞ面白い奴だと思うたのじゃが……弱すぎるの』
「うるせえな……まだ、ここから……だっつーんだよ……」

　一歌はまた一歩を踏み出した。震える手で、首にまとわりつく蛇を掴み、引き剥がして投げ捨てる。

『左様か。じゃがの、終わりじゃ』

　影が差した。雨よりもまだらに一歌に降り注いでくる。
　ぼとぼと、と蛇が群れを成して一歌を覆った。頭上から、避けようもなく。今度は一歌の体を這い回る間もなく、一斉に牙を突き立てる。首に、胸に、肩に、腕、腹、足。
　鋭利に湾曲した先端が皮膚を刺し破り、全身を激痛が貫いた。注射器のように牙を通って毒液が流し込まれた。ぴんと張った糸が切れるような、不可逆的で致命的な感覚が溶解する細胞の中を駆け巡る。

「うっ、あっ、ああああっ！」

　魂を破壊する痛みが今度は全身を貫き、本能が悟った。これが、領域の死者がかつて経験した死の痛み。致死の記憶。

　“致命攻撃”。

　電撃じみた痛みに、一歌は後ろにのけぞった。しかし片足が死んでいる。のけぞって、止まることはできない。
　落ちる。一歌はその勢いのまま、背後に身を投げ出した。一歌の全身が墜落の激突を待たずに解け、血を迸らせながら泥のように流れ出そうとしている。
　蛇の瞬膜が冷たく眇められ、静かに見ていた。

（……落ちてゆけ。浮世ならぬ朧の夢に、迷い込んだ娘よ。……哀れではないか。ただ虫のように殺し合わされ、虫のように無為に死んでいく。あるいは儂のように、蘇りも消えもできずに漂う存在になるか……まあ、慈悲ではないがの……）

　もはや一歌は死んだものと、秋雛は確信していた。
　石段から落下するにせよ、蛇の毒に蝕まれるにせよ、もうまもなく死はやってくる。二度目の死が。
　しかし転落の刹那、一歌の双眸が大きく開いた。

「……ひゅっ、がはっ！　っの、ぉ！」

　極度の痛みに息が詰まっていた。毒牙を中心に溶け広がっていく無数の穴を穿たれながらも、一歌はようやく呼吸を取り戻した。
　急角度の石段を落下する一歌は、しかし、激痛の中、滞空の最中に遮断桿を呼び出し、掴んだ。それは長く伸びて石段を突き、支えの形になる。
　しなる棒を全身で押せば、一歌の体はバネに弾かれたように押し上げられた。

『！　何を』
「来いぃっ！　電車あっ！」

　石段を駆け上がるように線路が伸びた。直後、鳴り響く警報に呼ばれるように、高速の鋼鉄立方体がけたたましく麓から駆け上ってくる。

『なにっ！』

　轟と蛇を蹴散らしながら、木々と木々の間を、本来の電車にありえない急斜面を高射砲弾のように走る。落ちる影も溶けて線になった。

「だっ」

　血の轍を引いて跳ねながら、一歌は電車の上を転がった。もはや全身を朱に染めながらも、噛み付いた蛇も剥がれて落ちる。
　正面衝突すれば即死となる、“致命攻撃”の電車。それが一歌を救った。

「ご、ごほっ……咄嗟に……思い、ついて、助かった……でも馬鹿、だな。最初っから、こうしてりゃ……早かったのによ…………」

　血を吐きながら、一歌は仰向けに転がった。水飴のように後方へ流れていく景色も相まって、一歌は半ば夢遊の気分だった。
　ただ線路を生み出し、上へ上へと電車を走らせる。混濁する意識の中、考えるのはそれだけ。

『ぐっ…………』

　鉄の大蛇が、樹上の蛇の視界を瞬く間に流れていく。葉を散らし、降り注ぐ蛇を風圧に巻き込んで吹き飛ばし、視野から小さく消えていく。
　すなわち、蛇の本体、領域の主、秋雛のもとへ。

『まずい！　視界をあちらに戻さねば……すぐにでも！　奴が来る！』

　毒で一歌が完全に絶命するのと、どちらが早いかわからない。それほどの速度だった。
　視界を蛇から引き戻すと朱塗りの門が映る。見下ろす下に、がたん、ごとん、と激しく鉄道の鳴る音。それはもうすぐそばに、風すら感じるほど…………。
　瞬間、木々の合間から、金属質の鈍い塊が見えた。

「───っ！」

　ぞわりと粟立った皮膚の悪寒に、秋雛は背後へ跳んだ。一瞬の後、凄まじい重量と運動エネルギーに射出された先頭車両が大鳥居を真っ二つに引き裂いて破壊しながら秋雛の眼前に飛び出した。
　破壊音が響き、無数の木片が散乱した。破城槌のようなそれが、そびえるように、高く影を落とす。

「よ、う。着いた、ぞ。蛇野郎……ッ！」
「……っ！　なめるでないぞ、小娘ェッ！　甕！」

　飛びすさりながら秋雛が吠えると同時、中空より陶器の大きな甕が、逆さに降って秋雛をすっぽりと隠した。
　さらにほとんど同時に、本殿を破壊しながら巨大な白蛇が現出した。その大きさは電車と同等、どころか、一回り大きい。

「！」
「呑め！」

　くぐもった声が甕の中から響くと、声に応じて大蛇がうねり、一歌に向かって矢のように迫る。

「まずっ……！　くそ……っ！」
（やべえ……動けねえ！　電車走らせてなんとか……！）

「待て待て、ストップだ。古詠、やめろ」

　男の声が聞こえた。途端、一歌に噛み付く直前で白蛇が動きを止める。
　一歌は目だけをなんとか動かして、声の主を見た。

「……おい、クソ師匠……。満足か？」
「んー、まあ、ギリギリ赤点回避、ってとこだな。なんとか日暮れ前に神社にたどり着けた。及第点をやろう」

　黒いコートの男。藍島銀一である。藍島はごくゆったりと境内を歩いて一歌のほうへやってきた。
　動きを止めていた白蛇が黒く淀み、霞のように消える。一歌がそちらを見れば、甕も消え、そこに神官服の少女が立っていた。

「なんじゃ、儂の負けか？」
「神社まで来れたらクリアって言わなかったか？　くっくっく。おい、今にも死にそうで面白いから領域解いてやれ」
「おおう、そうじゃ。毒が入っとったな。ほれ」

　ぱん、と手を叩くと同時に、周囲の木々から青葉が消えた。赤黄の&amp;ruby(くれは){紅葉} が舞い散り、風は乾いて軽く速くなった。
　そして、一歌の全身を蝕んでいた激痛も消える。

「ひゅっ…………がはっ、げほっ！　う、ぐ……ああーっ、しんどかったぜマジ……」

　一歌は気だるげに起き上がり、電車と線路、呼び出した領域の一部を消して飛び降りた。

「まあとことんやってもよかったけどな、あたしは」
「たわけ。お主はもう死ぬところじゃったろうが」

　けろりと言い放つ一歌へ秋雛は呆れ顔で視線を返した。敵意は感じられず、もう周囲には蛇もいない。一歌は、もう秋雛は攻撃を仕掛けてこないと思い警戒を解いた。
　代わりに、じろりと眉根を寄せて恨めしそうに見る。

「お前が蛇女だな。このオッサンとどういう関係なんだ？」
「小娘、儂の名前は秋雛古詠じゃ。この神社の主で……銀一とはまあ、腐れ縁じゃな」
「コイツは情報屋だ。俺と違ってヒマだからな、幽霊の居場所なんかを探らせてる」
「なんちゅー言い草じゃ。儂の厚意で教えてやっとるちゅうに」

　確かに二人は気安い仲のようだった。それを見ながら、一歌は藍島の前まですたすたと歩いてくる。
　言わなければならないことがある。
　一歌の脳裏には、父と友の姿があった。
　ずいぶん背の高い男を見上げるような形になった。

「あたしを弟子にしてくれ」
「あ？　もう弟子だろうが。クーリングオフは効かねえぞ。泣いても喚いても、死んでもな」
「おう、師匠。ま、癪だけどさ。あたしもぜってー生き返んなきゃならなくなってよ。こういうのは、弟子から頼むもんだろ。鍛えてくれよな」

　まっすぐに言い放つ一歌を奇妙なものを見る目で見ていた藍島だが、すぐに愉快そうな笑みを浮かべた。

「くっくっく！　おい、毒が効いたみたいだぞ、古詠。おもしれーや」
「あんだよ」
「なんじゃろなあ……ま、よかったの、銀一。稽古つけてやれ」

　秋雛はどうでもよさげにひらひらと手を振った。

「まずは素振り1000回、いや、10000回だな。やれ！」
「おい、テキトーに言ってるだろ」
「いいからやるんだよ。基礎は裏切らねえらしいから」
「もう用はないか？　儂は寝るぞ」

　怪訝な目で藍島を見ながらも、遮断桿を地面から引きずり出してぎこちなく構える一歌。剣の構えなど習ったこともない。
　藍島もなかった。

「そうだ振れ振れ。斬って殺すことを考えて振るんだぞ」
「合ってんのかコレで！？　なんか、やり方教えてくれよ！」
「それはあれだ、自分で考えなきゃ意味がねーってやつだ」

　藍島を見る一歌の目からみるみるうちに信頼が失われていく。

（……しかし、あの状態からここまでたどり着くとはの。銀一が弟子にしたがるだけはあるわ。最後の最後まで諦めない。幽霊の資質、か）
「これからどうなるかはわからぬがな。気張れよ若人」

　二人をよそに、秋雛は本殿に帰っていった。
　たびたび藍島が適当に口を挟んで中断させることもあり、素振りは夜中まで続いた。    </description>
    <dc:date>2026-06-22T23:48:07+09:00</dc:date>
    <utime>1782139687</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/92.html">
    <title>アイアンブラッド⑤　一歌の帰宅</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/92.html</link>
    <description>
      [[アイアンブラッド④　あたしの仇はあたしがとる]]の続き

『とーちゃ、まってえ』

　舌足らずな娘の声が下から呼びかけた。妻譲りの艶やかな黒髪はまだ一本一本が細く、軽く柔らかく、猫の毛のように跳ねている。
　伸ばされた手を握ると手のひらはぺとぺとと湿っていて、細く小さな指が握り返す。自分の人差し指と中指を掴んで、周り切らないほどに小さい。

『……六年生が、グラウンドぜんぜん貸さないから、ケンカになった。勝った』

　一歌は小学校に上がると時折、怪我をして帰ってくることがあった。短気で血の気の多い性分も、妻に似た。言葉が下手で先に体が動くのは、きっと、自分に似たのだ。
　鉄条整司はそう思った。
　娘が他人を殴るのを、叱ったことはなかった。殴られなければわからない馬鹿はいる。悪に対して見て見ぬふりをするような人間になるよりは、よほどいい。

『だからさ、親父、あたしみたいなのが大学行ったってなんにもなんねーって。今の高校だってたまたま入れただけで、バカなんだよ』

　一歌は頭がいい。自分ではそう思っていないようだが、受験前に少し勉強しただけで地元でも進学校の部類に入る高校に合格した。
　きっと、何にでもなれる。自分と違って要領がいい娘だ。大学に行かせてやりたい。
　工場の経営が芳しくないのは事実だが、金の問題くらいなんとかしてやるのが親の本分だろう。
　そう思った。

　次の日、一歌は死んだ。

　◆

　羽城との戦いの後、一歌は自宅へと足を向けた。父親の様子を見に行くためである。まだ日も高い。吹き抜けるような青空から注ぐ日光は一歌の影を作らず、足元の落ち葉を踏んでも音は鳴らない。遠くの山は赤と黄色で、青空の青は薄かった。
　一歌の家は住宅街の並ぶ坂の上にあった。車道に面した砂利敷きの、古びた四角い建物がある。四角い建物は印刷工場である。
　一歌の家は印刷工場の隣にあった。一歌の父はこの小さな印刷工場の社長である。

「なーんでついてくんだよ」

　一歌は首だけ振り返りながら不満を漏らした。

「あたしの用事にあんた関係ないだろ」
「あ〜？　お前がどうしてもパパのコトが気になりまちゅ〜って言うからトクベツに許可してやったんだろ？」

　藍島はにたにたした根性の悪い笑みを浮かべた。元々悪人面なのだが表情が人相をより悪化させている。歩き方も不安定で、ふらふらと不安定に歩く。遠くから見れば酔っ払いか、それこそ幽霊らしく見える。

「んな言い方してねえよ。……気になるだろ、普通」
「くっくっく、ファザコンの軟弱者めが。本当は今すぐ修行を始めるとこだがな。俺の優しさに感謝しろ。そして一分一秒でも早く強くなって俺のライバルキャラになれ。ベジータになれ」

　藍島の声を聞き流す。
　家が近づいてくると、戸口から人が出てくるところだった。2人である。見覚えのある顔だった。

「ん。八百屋じゃねーか。えへへへ、お悔やみ言いに来てやんの」

　知り合いの神妙な顔が滑稽に思えた。故人が自分であると思うとなおさら遠慮なく笑える。
　もう1人が一歌の父親だった。鉄条整司。表情は暗いが、いつも通りである。いつも仏頂面で、無口で、感情の読めない男だった。

「あ！　親父だ。おい師匠、あれあれ。あのオッサンがあたしの親父」
「ほーん。うーん、似てねえな。つまんねえツラだ」
「てめえ人の親を……」

　信じられない物言いである。
　一歌は腹が立つどころか呆れてものも言えなかったのであまり殴る気分ではなかったが、とりあえず裏拳を藍島に叩き込む。受け止められて左のカウンターが飛んできた。
　玄関口の生者には、どれだけ幽霊が暴れても見えはしない。

「それじゃ、またな。……気に病むな、とは言えねえけどよ。飯はしっかり食えよ」
「……しっかり食ってる。気にするな。それじゃ、また」

　整司は八百屋から何やら慰めらしき言葉をかけられているようだったが、やがて話が終わって家に引っ込んだ。
　一歌はいつも通りの父親の姿に少しだけ安堵した。

「ま……大丈夫そう、かな。そう落ち込むタマじゃねえとは思ってたけど……せっかくだしもう少し見ていこうかな。そういやさ、やっぱ幽霊って壁抜けとかできんの？」
「できるぞ。どこでも入りたい放題だし覗きたい放題だ」
「うわ」

　聞かなきゃよかった、と吐き捨てながら、一歌と藍島は閉じられた玄関ドアを突き抜けてくぐる。
　手を伸ばせば、何の抵抗もなく扉の向こうへ消える。まるで立体映像だが、実体を持たないのは一歌のほうだ。

「ん、おお。……ホント簡単に通り抜けられんだな」

　家の中は妙に静かに感じられた。父は、リビングに戻ったようだ。そちらから微かな物音がした。
　壁がけのデジタル時計の日付を見れば、四十九日ももう終わる。季節は冬になろうとしていた。

「……え！？　こんな経ってんのか！？　まだ九月じゃ……」
「幽霊は時間感覚がテキトーだかんな。特に初めて幽霊になって目覚めんのは個人差あるらしいぞ、まあ会った奴はほぼ全員殺したから詳しくは知らんが……ボーッとしてただけで数百年経ってた海賊とかいたな。殺したけど」
「マジかよ……なんか違和感はあったんだよな、そのへんの木もハゲまくってたし」

　ショックを受けながら和室に入る。床の間に小さな仏壇があり、その中に二葉の写真が立ててあった。母と、一歌の遺影だった。
　母の写真は若い。一歌によく似た顔立ちで、目元だけが違った。木の実のように丸く、優しげな目をしている。
　一歌は辟易したような仏頂面である。注文の多い写真屋で、これ以上撮り直すなら殴ろうと思った時の顔である。幸い、この写真屋は殴られることはなかった。

「うお、入学ん時に撮ったやつか。なんか……母ちゃんの隣に置くなよ、死んだみたいだろ」
「死んでんだよ。……なんか飽きてきたな。お前んちってこんなもんか。帰るわ」
「てめえ人の家を……」

　あまりにも勝手な言い分に絶句する一歌をよそに、藍島はきびすを返した。

「あとで裏の紫山神社に来い。そこで修行をやる。日暮れまでに来なかったら破門な」
「別に破門でいいけどなあたしは……ま、わかった」

　言いたいことはないでもないが、引き止める理由もない。一歌は玄関ドアに吸い込まれるように通過していく藍島の背を見送った。
　二階への階段を上がると、一歌の部屋がある。ドアに四角く白い、糊と紙の痕がある。幼少期、ここにネームプレートがかかっていた。中学生になって、妙に子供っぽく見えて外した。ドアに粘着するフックを上手く剥がせずに、痕が残っている。
　その扉を通り部屋の中を見る。片付いていない。一歌がこの部屋を後にしたときの、散らかった状態そのままである。
　部屋は静かだった。当然のことであるが。何もかもが静止して、時が止まったように沈黙していた。薄く積もった埃だけが、時の経過を示している。

　一歌は部屋を見渡すと、おもむろにベッドの下を確認して安堵のため息をついた。

「あぶねー、遺品整理が始まる前に生き返らねえとやべえ」

　乙女らしからぬ秘蔵の品を確認したあと、改めて部屋に目を向ける。
　マンガ、バット、木刀、ガチャガチャの景品などが雑然と散らばった部屋である。自分がこの場にいるのに、今この部屋には主がいないように思われた。
　もう、ここには誰も帰ってこないのだと、誰もがそう思っているからだろうか。刻むべき時を途中でぶつりと断たれたようだった。

「……行くか、オッサンのとこに」

　一歌は自室をあとにした。これ以上の用はない。
　一階に降りると、父が手際よく昼食を作り終えるところだった。
　昼食は父が自分で作るが、朝食は一歌が作り、夕食は父が作った。朝に弱い父は、もしかすると朝食を食べなくなったかもしれない。
　親子ともに味の濃い献立を好んだ。あるいは一歌は、単に幼少期から父の味付けに慣れていたからとも言える。

　実にてきぱきと動く。機械整備を得意とするこの男は、彼自身がゼンマイ仕掛けなのではないかと、娘である一歌でさえ時折思うことがある。
　事実を事実として受け止めることのできる人物である。一歌が子供の頃から、父はずっとそうだった。母が死んだときですら、うろたえるようなことはなく堂々としていた。

「安心したような複雑なような……ま、心配はいらねえってこったな」

　おおむね、予想通りである。いつも通り、何も変わらない。父が心配で、というのは正確ではなかったかもしれない、と一歌は思った。
　むしろ、一歌こそが父の顔を見て安心したかったではないか。
　なんとはなしに見つめる父の背が、ぱた、と振り向いた。

「！」
「………………」

　前触れなく一歌のほうを向いた父に驚いたが、しかし目は合わない。整司には一歌が見えていない。
　きっとその目には廊下の壁しか映っていないはずだが、整司は視線の先の虚空をじっと見つめた。

「な、なんだ？　何見てんだ……？」
「…………馬鹿馬鹿しい」

　自嘲が多分に混じった暗い独り言が漏れた。珍しく、感情の乗った声だった。
　自嘲と、落胆だった。
　いかめしい表情ばかりの顔に、苦々しげな笑みが浮かんだ。

「……馬鹿馬鹿しい…………」

　咀嚼するように繰り返す。固く眉根を寄せて、整司は視線をそらし、うつむいた。
　一歌は立ち尽くした。こうまで感情をあらわにした姿は、初めて見た。
　まるで殻を失ったように、父は急激に弱って見えた。

「なんだよ……」

　困惑した。あの父が、こんな顔をするとは。
　幽霊である一歌は整司には視認できない。
　しかしまるで、その気配を感じて振り返ったように見えた。
　しばし立ち尽くしていると、父の肩が震えていることに気づいた。

「……なぜだっ………………！」

　声も、震えていた。今度はさらにはっきりと感情が乗った声。怒りの感情が震えるほどに。

「なんでっ……！　なんでっ一歌をっ……！　ぐっ、ふぅう…………！！」

　手に持っていた箸を投げて床に叩きつけた。顔を覆った指の間から、濁流のように、制御できない情動が溢れ出していた。整司は涙を流していた。

「いやだっ……！　う、ううあっ、あああああああ……ぁあ、あ…………！」

　整司は力なく膝から崩れ落ち、蓋を外したように、慟哭した。応える者はいない。一歌は肉体を持たず、触れることもできない。
　妻も娘も亡くした。もう誰も帰って来ない。どれだけ待っても、この家には整司ひとりだけなのだ。
　嘆く声は行き場をなくして家の中で空虚に響いた。

「…………死んじゃって、ごめん」

　触れることはできない。それでも一歌は父に寄り添った。肩に触れようとした手がすり抜ける。しかし、触れられずとも触れるべきだと思った。
　震える父の背を、何も出来ずに見つめた。

「すぐ、戻ってくるから」

　父から離れ、その場を後にする。それ以上の言葉は不要だった。自分にしか聞こえない言葉である。決意以外は何もいらない。
　藍島は藍島自身の道楽のために一歌を強くしようとしている。しかし、今となっては一歌にとっても藍島に師事することが必要だった。
　何としても強くならなくてはならない。強くなり、ネクロリバイブを勝ち抜かなければならない。蘇り、この家に帰ってくるために。

「ひっさしぶりだな、紫山神社」

　一歌は斑に差す&amp;ruby(くれは){紅葉} の影の下、長くうねる石段を登っていた。
　紫山は一歌の家から裏手に下った先にある。古い石の階段はすり減り歪んでいて、いささか、登りづらい。

　さわさわと木の葉が揺れる音を聞きながら、一歌の心中に浮かんでくるのは先ほど見た父の姿だった。

「…………あんな親父、初めて見たな」

　母が死んだ時もそうだったのだろうか。一歌の見えないところで涙を流していたのか。
　あるいは、彼にとって一歌は殊更、大切な存在だったということなのか。一歌にはわからない。思いを巡らせても、心の内は。
　一歌は知らない。妻の遺した、幼い娘が整司にとってどんな存在だったのか。
　ただ、思うことしかできない。答えのない思索は頂上の見えない石段と重なった。

「……ん？」

　そうして、ぼんやりと段の上へと足を運んでいたとき、その足首に違和感を覚えた。
　見れば、蛇が足首に噛み付いていた。茶色の斑を背負った小さな蛇である。

「うえー、噛まれちった。んなろっ、どっか行け！」

　一歌はこの程度の痛みで動じることはない。嫌そうに表情を歪めると、その胴をひっつかんで無理やりひっぺがし、恨みを込めて投げた。噛まれた傷口は赤い穴となり、血が流れ出ている。
　一歌は傷を大して気にした様子もなく、また歩き始めようとした。負傷は日常茶飯事である。
　だが、踏み出した足に体重を乗せた瞬間、足首は脆くも溶け崩れた。

「……あっ！？」

　ぐじゅり、と熟れすぎた果実のように肉と骨と血管がちぎれて裂ける。傷口を中心にして、腐敗したように肉が液状に溶けていた。一歌はそのまま前のめりに転倒する。

「がっ！」

　咄嗟に身をひねったが石段の段差に身をしたたかに打った。見れば、足首はもうほとんど繋がっていない。グズグズに溶けた肉が揮発している。

「なんっだ、こりゃ……！？　普通の蛇じゃねーのか！？」

　そこで、一歌は気づいた。何かがおかしい。
　なぜ、『石段に体を叩きつけて痛むのか？』
　藍島の言葉が頭の中で想起される。

『幽霊は領域の外じゃ傷一つつかない』

　先ほど、一歌は初めて領域から出た時五メートルの高さから落ちて全くの無傷だった。理屈が合わない。
　つまり、それが意味することは。

「……まさか、もう領域の中ってことか！？　この山が！　神社までの道が！？」

　いつ領域に入ったのか、一歌にもわからない。周囲の景色は一歌の知る紫山そのもので、空の色も時間帯に則している。現実としか思えない。
　だが、改めて周囲を見れば奇妙な点がある。黄や赤の葉に混じって、青々とした緑の葉をつけている木がある。それは、上の神社の方向に向かって数を増やし、見上げた先は真夏のように青く茂る木で葉の色が塗り換えられている。さらによく見れば、石段も上に行くにつれて新しく、摩耗の具合が減っていくように見える。
　現実に薄く被せるような領域。それは確かに混じりあっていた。幽霊にしか視認できぬ混沌。

「はっ！」

　一歌は息を飲んだ。気がつけば、周囲を囲まれていた。蛇である。
　大小無数の蛇が、地から、下段から、樹上から……一歌を睨みつけていた。舌を覗かせて、様子を伺っている。

「……それじゃ、こいつらも領域の一部、ってことか……！」

　霊体を破壊する溶解毒。それは傷口を溶かし、血流に乗って激痛を全身に伝播させる。一歌の全身から脂汗が滲んだ。
　そして、それのみではない。

「！　指が……」

　一歌は右手指の痺れを認めた。痙攣し、思ったように動かない。筋肉が引き攣る麻痺毒である。倦怠感と筋肉が痺れる感覚がはっきりと伝わってくる。その果てに、確かな死があったことが、わかる。呼吸が難しい。横隔膜の運動にまで毒が及んでいる。

「…………はっ！　いいぜ、かかって、こいよ！　上等、毒も上等だ。やってやるよクソ師匠！」

　これが偶然ここに来た幽霊との遭遇戦でなければ、あの男もここを通ったはずである。であれば、これは、藍島の仕組んだものである可能性が高い。
　逃げ帰るわけにはいかない。それは一歌の性格上ありえないことだったし、なによりネクロリバイブについて何も知らない一歌には、経験者である藍島は必要な存在だった。
　生き返らなければならない。生きて帰らなければ。

　震える手で空を掴めば、そこに武器が現れた。遮断桿という、踏切を遮断する、黄と黒の警告色で塗られた棒である。踏切には武器にできるものが少ないが、中でもこれが一歌の手に馴染んだ。
　それを杖にして、立ち上がる。無数の蛇に囲まれていた。おそらくはその全てが、足首を破壊した毒牙を持っている。見据える先は石段の先、紫山神社である。

　石段の先、紫山神社は青々とした木々の中にあり、爽やかな薫風が吹き抜けていく。

「ようやっと気づきおったか。勘の悪い娘じゃのう。普通の蛇が幽霊を咬むわけなかろうて」

　境内に女が立っていた。黒髪を緩く束ね、白く古めかしく、神聖そうな装束に身を包んだ少女だった。切れ長の瞳には呆れの感情があった。
　扇を広げて視線を脇に向ける。その先には黒いコートの不吉な男、藍島がいた。朱塗りの鳥居に背を預けている。

「それで、殺してしもうてよいのじゃな？」
「ああ。この程度で死ぬようなら黄泉帰りなんて到底無理だ」
「この程度、のう。お主、儂の領域を舐めすぎではないか」

　自尊心を傷つけるような物言いに、少女は眉を顰める。視線の遥か先には一歌がいる。蛇の目を通して、少女には姿も見えていた。

「まあよいわ。儂の領域はこの神社を中心にした一帯、致命攻撃は『毒牙』。おびただしい数の蛇の牙をひとつも受けずに、この神社までたどり着けるか。お手並み拝見といこうか、藍島の弟子よ」

[[アイアンブラッド⑥　鋼の大蛇]]に続く    </description>
    <dc:date>2026-06-21T20:09:42+09:00</dc:date>
    <utime>1782040182</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/50.html">
    <title>アイアンブラッド④　あたしの仇はあたしがとる</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/50.html</link>
    <description>
      [[アイアンブラッド③　鉄条一歌と領域侵蝕]]の続き

「なあっ！？」
「ぼ、ぼ、ぼぐぅの、死因は、落下死だがらさぁ！　落としだら、勝゛ぢ、なばっ、なんだよねえ！」

　屋上の下に下層階はなかった。下は空洞で、日の差す奈落には暗闇が重い水面を晒している。
　踏み出した本人である羽城は落ちない。足から伸びたフェンスが残った床の断面まで足場を形成していた。

「おおおおっ！　んのっ、野郎！」

　羽城に向かって、一歌は刺すように遮断桿を突き出した。羽城を支える足元のフェンスに絡みついた。
　同時。咄嗟に、足場を求めた。すると空洞の校舎の内壁から線路が伸び一歌の落下を防ぐ。間一髪、一歌は虚空に伸びたレールの上に留まった。
　落下していく瓦礫に底の暗闇に飲み込まれて消えていく。

「空洞！？　屋上の下には何もねえ！　高さは3〜4階建てだってのに、空っぽだ！」
「ぐぅ〜ふふふ、しょ、象徴的だぁよねぇべへへぇ。ま、実際はざぁ〜、ぼぐの死んだ屋上ォオには中は関係ないっでごどなんだろうけどぉさぁあ〜、僕にとっでもそうだよぉ。ぐぷっ。学校は空っぽぉ！　虚無の、ぐらやみっ！」

　羽城は声に怨嗟を滲ませ、一歌に拳を振るう。

「ふんっ！」

　一歌は、遮断桿を思い切り押し下げ、その反動に合わせて跳んだ。フェンスに鎧われた拳が空を切る。幽霊の体は高く跳び、羽城の頭上まで飛び上がる。
　後ろに下がっていた藍島が声を掛けた。

「一歌！　下まで落ちるなよ！　死ぬぞ！」
「わかってるよんなこた！　っ！？」

　叫び返すも羽城は動いている。空中にいる一歌を金属の拳が捉えて殴り飛ばした。

「がはっ！」

　腕でガードしても感じる重さ。骨が軋むほどに、固く、重い。
　殴り飛ばされた一歌は、先ほど自ら生み出した遮断機に当たって屋上ぎりぎりで止まった。肺の中の空気が絞り出された。
　かろうじて着地すると、新しい遮断桿を作り出して、握る。

「落ちてよぉ、ぼく、みだいにぃいい」

　周囲に張られていたフェンスが消えていた。一歌の領域に由来する線路と遮断機、そして背の低い鉄柵だけが屋上を囲っている。
　一歌が屋上の外に放り出されずに済んだのは幸運の結果と言えた。
　屋上の傾斜がひどくなっていく。羽城芯吾の精神の不均衡に比例するように。

「っくしょぉ〜…………痛ってぇな」
「教えてやる。レッスン1だ。いいか、相手の死因と同じダメージを受けちゃダメなんだ。それが魂を最も深く傷つける攻撃だからだ！　魂は死の痛みを一番強く覚えてるわけだからな。どうすりゃ魂に響くかっつー理解度は段違いだ。死因に由来する攻撃を『致命攻撃』という。ちなみにお前の電車も同じな」
「けほっ、死因？　……落下死か」
「それがルール。いいか、まず一番重要なこと、『致命攻撃』を受けるな！　そして、お前の致命攻撃を奴に当てろ！」

　一歌は羽城に向き直り、遮断桿を担いだ。
　致命攻撃。羽城は地面に自らを叩きつけ、潰れて死んだ。一歌は電車に轢かれて死んだ。死の直前のイメージが一歌の脳裏に蘇る。
　目を焼く夕日。迫る圧力。轟音。認識する間もほとんどない衝撃。

「あたしの場合は電車、ね」
「落ぢでぇよぉ〜死んんでぇよぉ〜」

　うわ言のように殺意を漏らす、白い巨人。その巨躯の奥の視線が一歌を見据えると、踏み込みながら腕を振り上げた。

「ねぇえええええ！！」

　奇声と共に、振り上げた右腕が芋虫のようにうごめいた。しかし、距離が遠い。一歌は対処に迷った。明らかに、一歌まで届く距離ではない。

「……来い線路！」
「ぜんぶっ、うっ、壊しぢゃうがぁらねぇええっ！！」

　逡巡の結果、一歌は線路を呼んだ。鉄と枕木で構成された線路が屋上の地面から鎌首をもたげるように伸びて壁になった。
　しかし、結果的には無意味。羽城の右腕は一歌ではなく、屋上の床そのものに叩きつけられる。ばしり、と入った亀裂が一瞬で全体に走った。端から端までが崩壊の予兆に震える。

「！？　てめぇ！」
「ごぉぉお〜〜〜ん、落ぢぃいいいいえええ！」

　亀裂が音を立てて決壊していく。
　沈みゆく船上のような、もはや支えを感じられない死にゆく足場。
　一歌は瞬間的に、壁になっている線路を蹴飛ばし真っ直ぐに伸ばした。
　羽城の鎧を突き刺す勢いで伸びた線路の先端が、肥大した右腕によって払われ、叩き落とされる。

「マジかよ」

　一歌の顔が青ざめた。咄嗟に背後に飛び、屋上のへりに伸びている警報機に取り付いた。同時に、一歌の立っていた足場が完全に崩落して奈落に消えていく。
　もう屋上には床と呼べる場所は残っていなかった。蓋を取り除いた箱のように、下では奈落の深淵が待ち遠しそうに口を開けている。
　羽城が喜色満面の声色ではしゃいだ。グリッド線じみた自分だけの足場を伸ばしながら、一歌に向かって歩いてくる。

「詰みぃ、だよ、一歌ぢゃん！　そごを崩せばぁあ、きみは、おぢるっ！　ころぉおお、ごろぉおおおす！　一歌、ちゃんん、ごろし、でっ！　ぎらいだがらぁあ、依子どがいうのも、ご、ろすっ！」
「………………あ？　なんつった、おい！」

　一歌の目が刃のように鋭く、羽城を射抜いた。窮地も忘れて殺意を迸らせる。看過できない一言だった。

「殺すぞ」
「………………。……んふっ、ぐぶっ、げっ。いい、ね。ぼぐに、あつい、気持ち、うれじい。もっど、見で！」

　羽城が一歩近づくたびに、校舎が一歌の後方へ傾いていく。屋上の縁にヒビが走った。

「一歌。レッスン2だ」

　藍島が頭上から呼びかけた。藍島は、乾いた土の板のような、不思議な足場を形成して立っていた。

「魂を意識しろ。さっきの現場検証と同じで、自分の形をちゃんと意識しろ。そうすりゃお前の存在はそうそう崩されねえ。領域ももっと色濃く出せる。てめえのことを誰にも自由にさせねえってことだ。得意分野だろ？」
「…………ああ！　得意中の得意だぜ」

　指先まで、髪の毛の先まで一歌は、誰にも自由にさせるつもりはない。一歌の何もかもは一歌だけのものであって、自分が持つ権利を害する何者も許してはおかない。殴らなければ気が済まない。
　そうした、意思を浸透させていく。自分の姿を思う。血の流れを自覚するように、神経の先まで意思で制御するように。

（…………なんだ？　さっきまでと、違う。体の全部、あたしの思い通りに動くような……変な感じが、する）

　肉体であって肉体でない、幽霊だけの知覚。
　それを自覚するだけで全能感に似た感覚が静かに湧き上がった。
　そして、一歌は跳んだ。警報機がしなるほどの強さで蹴り、羽城に向かって、暗闇に続く虚空を貫いて跳んだ。距離は10m以上あったが、届くという確信があった。

「お？」
「らあっ！」

　攻城弩弓のような飛び蹴りだった。フェンスの破片が花びらのように粉砕して舞った。一歌のスニーカーの靴底が直接、羽城の鼻面を潰した。蹴り抜くしなやかな脚が不動だった羽城の巨躯を仰け反らせていた。

「ごぎゃばあっ！？」
「……来い、踏切！」

　奈落へ落ちていくその足元に、アスファルトの地面が現れた。地面の消えた空中を上書きするような、一歌の領域そのもの。
　一歌と羽城の立つその場だけは、ジオラマのように切り取られた踏切が現出していた。

「なんとなく、わかった！　あたしの場所はあたしで作れってこったな。スッキリしたぜ、お前の顔面にブチ込めてよぉ」
「うーっ、ううーっ、いたい、ごわいぃ。いじめ、ないでぇ！　やめでよぉお！」

　狼狽える羽城の前で、一歌は遮断桿を担いだ。

「あたしのものはあたしのもの。ブッ殺されたらそん時ぁ、あたしの仇はあたしがとる」
「や、だあああああああーっああああああ！！」

　羽城の振りかぶった巨拳を避けるスペースはない。一歌は眉ひとつ動かさず、避けるそぶりすらなかった。振り下ろされる拳をそのまま額で受ける。今度は押し込まれることすらなく、受け止めた。

「えっ！？」
「ぜんっぜん、効かねーな！　お前の拳なんかよォ！」

　額から血が噴き出る。赤く染まる顔面。血よりも激しく噴き上がるのは闘志だった。怯むことも、動じることもない。一歌本来の喧嘩のやり方。攻撃する側の闘志を折ってしまうような。

「くっくっく。名前通り、鉄みたいな奴だな」
「歯ァ食いしばって、噛み締めやがれェ！」

　バットのように振り抜く遮断桿が羽城の横腹を打った。フェンスがひしゃげて内部まで衝撃を伝える。

「ううっ！」
「もう一発！」

　今度は剥き出しの頭に振り下ろし、全力で殴りつけた。こめかみが割れて血が飛び散った。

「ぎいいいーーーーーっ！！」
「とどめェ！」

　間髪入れずに振りかぶる。青筋が浮くほど満身の力を込めて振り下ろす、その直前。
　羽城の全身からフェンスが溢れ出した。

「っ！？」
「もっどぉ、もっどぉ、んもっど守るんなっぎゃあ！　ご、ご、ごここ、こわいぃよぉーーーっ」
「無駄だよ！」

　振り下ろす一歌の攻撃を、渦巻いて羽城を被っていく濁流のようなフェンスが防いで絡めとった。
　フェンスが覆う。さらに、その上から室外機や、ドアや、コンクリートのタイルがめちゃくちゃに覆いかぶさって奇怪な塊になっていく。

「ちっ、往生際の悪い……」
「一歌、ちゃんん……これで、あんじん。もう、ごわれない！　ぞれに、きづいでる？　ごぽぽっ。いぢがぢゃんには、逃げ場、も、ないよ！　じぶんで、足場もない、屋上ぉの真ん中に来でぇ、ごんな、狭いどごろで、僕に勝でるとおもうのぉ？　落とずだけで、ぼくの勝ちなのにぃ！」
「逃げ場なんていらねーよ……」

　羽城の領域がさらに崩れていく。屋上の縁に展開されていた一歌の踏切もろとも、崩れて落ちていく。
　しかし、一歌は踏切の大部分を占領しそうな大きさの羽城を前にして、むしろ遮断機を下ろした。長い遮断桿が警報と共に降りていく。

「電車でてめーを轢き殺す」
「自分ごとぉ？　む、り、むり！　いくらいぢがぢゃんでぇも、致命攻撃には耐゛えられない！　逃げられもじない！」
「は！　そりゃどうかな！」
「ぞれにね、残念だげど僕ぅはここから出られるわげぇ。空中に足ぃ場ぁ、出せるから……」

　語尾を待たずに遮断桿が増えた。前後左右を完全に塞ぐように、リングロープのように、しかし頭上まで幾本も同じ遮断機を生やしていく。

「あえっ」
「出さねーよ馬鹿が。お前のその鎧と同じように、とにかく大量に出しゃ突き破るにも時間かかるだろ。焦ってきたか？」
「ば、ば、馬鹿ぁはぎみだろぉおおおおおお！？　な、な、なんっ、本゛気゛ぃ！？　死ぬっ死ぬ気でぇ……！？」

　警報が音量を増す。もはや遮断桿の襖に遮られているが、その向こうからいつ電車が突っ込んでくるかわからない。

「う、う、うぁああああああ！！」

　狂乱した羽城が拳を一歌に叩きつけた。だが、一歌は魂の輪郭を強く保って耐えた。譲らない。意思と意地だけは誰にも負ける気がしない。
　故に一歩も、こゆるぎもしない。

「レール」

　T字に似た断面を持つ鋼材が蛇のように羽城に巻きついた。屋上の景色を丸めて人型に成形したような異形に線路が這い上がって拘束する。

「うわぁ゛ああああ゛あ！！　やぁだあ！　一歌ちゃんん、本当にごれでいいの！？　心中ぅなんてぇ、がばぼっ、いいのぉ！？」
「するわけねーだろ、ダボ！　心中なんてよぉ！　ようは、電車をてめーにぶち込んでやりゃいいわけだ」
「…………！」

　体を捻り、腰だめに拳を構える。拳を作っている一歌の右前腕に、武士の腕甲のように、小さな踏切があった。そこからレールが後ろに伸びて、一歌の身長を追い越した。レールにはやはり小さな、そして長い電車が乗っていた。長く、拳から、レールの端まで。

「あれ……？」

　羽城はそこで気づいた。自分たちを囲む遮断機の、警報機が点灯していない。

　警報が鳴っているだけだ。

　その音源も、周囲を囲む遮断機ではない。一歌の腕の踏切から鳴っている。

「てめーにぶち込むなら！　あたしの手でだろ！」
「あれぇえええ！？」

　羽城が鎧の中で目を見開いた。こいつは、この女がしようとしているのは、もろとも電車で轢かせての心中などではない。

「くっくっく。一歌、レッスン3だ。死を想え。お前の死を深く理解しろ。自分の死を深く理解して領域の解像度を高めていけ。お前の死因は電車事故。だが……その根底にはまだお前の知らない真実があった」

　藍島の声が上から降った。一歌は構う様子もなく、真っ直ぐに羽城を睨みつけている。

「お前の死因に付け加えるなら……霊障。霊障による電車事故、だ。幽霊のお前が電車で轢いてやるなら、くくく、ピッタリ同じシチュエーションだ。ただ棒でブン殴るのとは、理解度は段違いだな」
「サンキュー、師匠」

　一段と圧力が増す。怒りも何もかも拳に乗せて、鉄槌のようにねじり込む。

「成仏しろよ！！」

　一歌の拳が羽城の鳩尾に突き刺さると同時、火薬が爆ぜたように電車が加速して火花を散らしながら多層装甲を突き破った。線路から槍の如く飛び出して、何もかもを破砕する。
　大口径の大砲のようだった。爆裂音を響かせて、一瞬のうちにフェンスもコンクリートも、肉も骨も貫いて大穴を開けた。

「が、ばあ…………っ！」

　鎧がばらばらに砕けていく。遮断桿の束もまたへし折れて、開かれた虚空に羽城は落ちていった。

「……ふうっ、敵討ち完了」

　領域がグズグズに溶けてほどけていく。空から暗闇が降りてきて、足元から暗闇が溢れ出した。

「うわっ、なんだ」
「勝ったってこった。おめでとう、初めてのポイントだぜ、くっくっく」

　暗闇に閉じていく視界の向こうから藍島の声が聞こえた。一瞬の暗転の後、視界が開ける。
　何事もなかったかのように、元の踏切にふたりは立っていた。

「…………うお、元の場所だ」
「全部領域の中のことだからな。傷も治ってるだろ」
「え？　……マジだ」

　額に手をやると、濡れた感触も痛みもない。血すら嘘のように消えていた。
　視線だけ上げると、藍島がやはりにやにやとしたいやらしい表情で一歌を見下ろしていた。

「しかしアレだな。思ったより領域の使い方がヘタクソだなお前は」
「いや勝っただろ！　つーか初心者なんだよこっちは」
「まずまともな足場を出せるようになるところからだな。くっくっく、なんだよあの最後の攻撃は。外にもうちょびっと足場出せりゃ拘束した時点で勝ててたぜ。遮断機もお前のサイズならくぐって出れるしな。アホの攻撃だな」
「ぐぬ…………」

　反論に慣れていない一歌は歯噛みして黙った。こういう場合は殴りかかるのだが、この男にそれは通じない。閉口しつつも何も言えない。

「だが、勝った。まずは1ポイント。どうだ？　まだ99ポイント稼がなきゃならんが」
「どうだって言われてもな。やるしかねーだろ」
「くっくっく。いいね。じゃ、死ぬ気で強くなってもらうぜ」
「……もう死んでるけどな」

　空を見た。青い、雲ひとつない青空だった。一歌の魂に焼き付いた夕暮れとは対照的な色だった。

（絶対、生き返ってやる。このまま死んでたまるか）

　一歌は決意を固めた。残された親友を孤独にするわけにはいかないという思いがあった。
　鉄の心を携えて、少女が1人、黄泉の修羅道に踏み入った。

　鉄条一歌。死因、電車事故。
　現在の所持ポイントは1。

[[アイアンブラッド⑤　一歌の帰宅]]に続く    </description>
    <dc:date>2026-06-21T20:06:24+09:00</dc:date>
    <utime>1782039984</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/49.html">
    <title>アイアンブラッド③　鉄条一歌と領域侵蝕</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/49.html</link>
    <description>
      [[アイアンブラッド②　踏切の幽霊]]の続き

　暗闇が晴れる。
　一歌の足元が崩れ、宙に放り出される。
　地上5m。青空が体の周囲で回った。一歌は頭から落ちた

「だああっ！？　がむっ」
「死なねえから気にすんな。幽霊は領域の外じゃ傷一つつかない。覚えとけ」
「びびった……」

　失敗した前転のような奇妙な姿勢だったが一歌は脱力した。
　身を起こすと、踏切の中だった。周囲を見ても、一歌が命を落とした踏切で間違いない。しかし、一歌の凄惨な死体もなければ警察が来ているわけでもない。いつも通りの光景だった。

「アレ？　……もしかして、幽霊になった人間は最初からいなかったことになる、とかあるか」
「ないない。単純に死んでからもう何日か経ってて、片付けはすっかり終わってるってだけだろ。幽霊は時間の感覚も距離の感覚もテキトーだからな」
「あ、そういうことか……良かった、自分の死体なんざ見たかねーからなァ」

　自嘲気味に笑う。自分はそれを見ずに済んだ。
　しかし、あの時、無我夢中だったが依子を突き飛ばすことには成功したはずである。ということはつまり依子にかなりショッキングな、一歌が電車に轢かれる光景を至近距離で見せてしまったことになる。
　そればかりは申し訳なく思った。人間が肉片になる光景などトラウマになりかねない。

「……依子、どうしてっかな」
「誰だ？　いや待て、興味ないから言うな。さっそく藍島式領域講座を始めるぞ」
「あたし親父の様子とか見に行きたいんだけど」
「知るか。別の日にしろ。まずお前がすべきことは現場検証だ」

　藍島は一歌には一瞥もくれずに踏切のレールを検分し始めた。
　一歌も立ち上がる。

「現場検証？」
「自分が死んだ場所をよ〜く見て理解を深めておく、のとそうでないのでは領域の強度に明確な違いが出る。幽霊ってのァ曖昧だからな。記憶が曖昧なら領域の形も簡単に変わったりするわけだ。そういう領域は脆い」
「ふうん」

　一歌は気の抜けた返事を返した。きょろきょろと辺りを見回すが、自身の領域であるらしい踏切と、特に異なる箇所はないように思われた。記憶しろと言われてもかえって苦労するような日常の風景。
　よく見ろと言われて、とりあえず藍島に倣ってレールを観察してみる。摩擦に削れた鉄の色が、空を鈍く照り返して青銀に見える。
　踏み板の質感やささくれであったり、踏み板のある部分だけ短いレールが2本あったり、なるほど見てみればこれまで気づかなかった点はあった。しかしこれが何かに繋がるかと言えば、一歌にはどうにも疑問なのだった。

「…………お？」

　砂利の茶色いのとそうでないのとをじろじろ眺めていた一歌の耳に、藍島の不思議そうな声が聞こえた。
　振り返ると、腰をかがめて遮断機を眺めている。

「どした、藍島のオッサン」
「……くっくっく。こりゃレアケースだなァオイ。一歌、お前おもしれーよ」
「あァ？　なんだよ……？」
「見てみろ」

　藍島の指さす場所を見て、一歌はぎょっと目を見開いた。
　異常な痕跡が残っていた。遮断機の機関部、踏切を閉鎖する遮断桿の根元が握りつぶされたようにひしゃげて痕がついている。黒く焼け焦げたような、指紋のような奇妙な痕。
　人の手の形をしていた。

「なんだこりゃ……？」
「くっくっく。『領域侵蝕』だ。いきなり上級編だぜ一歌。他人の領域に干渉する技術……しかもその外法、バカの使い方だな。現実そのものを巨大な領域と解釈して侵蝕を掛けてやがる」
「他人の領域に干渉……って」

　遮断機を見上げる。それそのものか異質な存在に見えた。遮断機を握り潰す『手』。嫌な連想が脳裏を走る。

「まさか、それで遮断機を壊した、ってのか」
「だろうな。機械の方はもう修理されてるみたいだが……こっちは見逃されたか。たぶん遮断機が壊れてたせいで轢かれたんだろお前。異常なことだぜ、領域侵蝕ってのはメリットに釣り合わないリスクがある。魂の輪郭を自分で崩すってことだからな、どんだけ上手くやっても歪みが残る」

　藍島は心底愉快そうに遮断機に残る痕をなぞった。

「しかも現実ってのは亡霊どもの妄想じみた領域とは強度が違う。まるで別物なんだよ。100パーセント負けるし、逆に侵蝕を掛けた側が致命的で不可逆な侵蝕を受ける。……これをやった奴はまず無事じゃねえ。それをわかってそれでもお前を殺したかったってんなら……お前、相当の恨み買ってるぜ」
「………………」

　一歌を思わず喉を鳴らした。遮断機に残る痕の意味を知ると、ひどくいびつでおぞましい妄執の具現に見える。
　心当たりがないわけではない。数え切れないほどの相手を殴り飛ばしてきた。恨みは買っている。しかし、これは次元の違う恨みの強さに思えた。

　自身の死の思わぬ事実に戦慄を覚え、眉をひそめた。
　いつの間にか、踏切には人通りがあった。いずれも2人には気づいた様子もなく、ただ通り過ぎていく。

　その中で、1人、一歌をまっすぐ見つめるものがいた。
　踏切に続く坂の下、眼鏡を掛けた学生服の男子である。整えていない短髪で、立ち姿もどこか不安定な印象を受ける。年齢は一歌と同じくらいだった。

「…………一歌、ちゃん……」

　一歌を見て、呟いた。

「なん……。…………！？　お前、あたしが見えてんのか」
「へえ」

　死んだはずの一歌を視認する。つまりそれは、この男子も幽霊であることに他ならない。
　一歌が応えると少年は目を見開き、爛々と輝かせた。

「お、おおおっ……！　探したんだよ、もしかして、消えちゃったのかな、って……。うふふふ、やったぞ、賭けに勝ったぞぉ！ 」
「何言ってんだ、お前……誰だよ」

　少年は喜色満面の笑みを浮かべて、嬉しそうに跳ねた。幼児じみて見えるほどに全身で喜びを表現すると、たまらないといったふうに早足で一歌に駆け寄る。

「ちゃんと幽霊になってくれたんだね！　ぼ、僕の思いが通じたんだ……！」
「なんだよ！？」

　ぎょっと仰け反る一歌に詰め寄り、その瞳を覗き込んでくる。

「最高だ……！　本物の一歌ちゃんが本当に僕を、見てる！　もう2人は幽霊だってことだよ！」

　一通りまくしたててなお興奮冷めやらぬ様子の少年に、一歌は苛立ちを覚えてきた。このまま喋り続けるなら殴って一旦黙らせるか、などと思い始めたとき、少年の右腕に目がいった。
　その異変に気がついた。学生服の袖に隠れる右腕は、だらりと力なく垂れたままだ。その袖口から墨汁のような黒い雫が点々と落ちている。血の色ではない。

「あの女が邪魔でさあ、君を独り占めして、ブッ殺したくて仕方なかったんだけど、でも、そうだよね！　君は優しいから、助けちゃうんだよなあ！　誤算だったけど、良かった！　ずっと2人で暮らそう！　もう誰もォ゛っ」

　言葉は濁って途切れた。少年の喉の奥から口腔内までが膨らんで気道を閉塞していた。顔に立つ青筋、白目までも、黒く血走っている。垂れ下がった右腕がホースのように暴れて急激に膨張した。

「なんっ、なんだ！？　急に……」
「もォ誰ぼぉほっ、ぼぐぅらの邪魔、じなぁい！　ふだりで、ふだりで、ぐららっ、ごぶぅううっ」
「決まりだな。……現実に領域侵蝕をやったのは、こいつだ」

　藍島が一歌に囁いた。そうしている間にも少年の様子は異常の一途を辿り、がくがくと震えながら黒い液体をほとばしらせ、撒き散らしている。

「よく見ておけよ。これが、現実に触れた奴の末路だ」
「……こいつが……？　ってことは、こいつが、あたしを……いや、依子を……？」
「よりぃごっ！？　やだぁ！　そん、の、女のなんまえ、出ずなぉ！　いぢがぢゃんばぁ、ぼぐだけっ、僕ぅだけ見てでよォ！」

　金切り声を上げて、少年はサッカーボールのように膨らんだ顔をあげた。

「一歌、ぢゃんん！　いっじょにいようねえ！　だがらぁ、だがらぁ、……ずっどぉ、いっ、ごろっ、ごろっ、いぃ！　ごろしだいっ！！　殺しだいっ！　ずっとぉん、殺したがっだん！！　んんぅ！！」

　少年は喉ごと引き裂くような声を上げると、異常膨張した右腕を振り上げた。右腕の肉は学生服を内側から引き裂いており、真っ黒な表皮を日光に晒していた。
　まともな音ではない絶叫を全身から放ちながら、少年は右腕を叩きつけた。アスファルトに触れるよりも前に、虚空に叩きつけられる。世界が割れる。
　暗闇が噴き出して何もかもを覆い隠した。

「うっ、くそっ！　今度はなんだ！」
「ぼぐの、ポインド、に、なっでよぉ」 

　闇が晴れる。
　見渡す360度、青空が水平線のようにあった。一歌は高所、傾いた学校校舎の屋上に立っていた。背後には藍島もいる。

「へえ、これがあいつの領域か。見晴らしが良くてケッコーだな、くっくっく」
「領域……ってことは、あたしの踏切と同じってことか。学校……？」

　校舎の周囲はごく普通の街並みが広がっているように思われたが、その地面の色だけは、揮発する海のような朧気な暗黒だった。

「う、ふふっ、ぶふふっ！　飛び降り、たんだばっ！　僕ぁば、いじめ、られででっ、づらぐで、辛く、で、死んだんだ！」

　同じ場所に少年もいた。黒い泡を口から飛ばしながら、夢想するように喘ぎ続ける。
　一歌は険しい目でそれを見た。遮断機を壊した下手人、いわば、一歌を殺害した張本人である。

「でもざぁ、幽霊になっでざあ、君をみづげだっ。ぼぐをいじめたようなやづらを、殴って、殴っでえ、いじめ、られでだ、子を、助けでだ！　か、が、かっごよぐってざぁあ！！　ひとめ、ぼれ、だったんだよぉ！」

　引きずるように足を出す。一歌に向かいながら、少年の全身に蔦のような白色の何かが這い上がる。格子の形をしていた。
　屋上を囲うフェンスだった。実際よりも小さなそれが、幾重にも少年の体を被って、鎧のような人ならぬ姿に変えていく。

「ぎみを、殺す。僕のなまえは、羽城芯吾」

　羽城と名乗った少年の図体はフェンスに隙間なく覆われ、今や3mにも届かんばかりだった。特にその肥大した右腕はさらに重厚に覆われて、シルエットはさらにいびつになっていた。

「フェンスで、体を守る。そういうこともできんのか」

　一歌は羽城の姿に対して怯むこともなく、スカジャンのポケットに両手を突っ込んで堂々と立っていた。

「急にバケモンになりやがって……なるほどな。これが、幽霊か。こいつを倒しゃああたしに1ポイント。そういうこったな」
「そうだ。名乗れ、一歌」

　振り返る。藍島は一歌を見ることもなく、羽城の姿を眺めていた。

「相対したらまず名乗れ。この領域で、お前の存在を主張すんだ。お前の領域で身を守れ。そして殺せ」
「…………わかった。芯吾っつったか。よく聞け。あたしの名前は[[鉄条一歌]]！　今からてめーをぶっ殺す。恨むなよ」

　名乗りを上げる。同時に、一歌の背後に、屋上フェンスよりさらに外の外縁に、地面に、線路と遮断機が現れた。警報が鳴り始める。
　青空の果てから西日が差して、橙と青が混じった。
　一歌の手の中に遮断桿が生まれた。

「ぶん殴る！　さっきオッサンを殴れなかった鬱憤含めてなァ！」
「性格悪いなコイツ……やれー！　いけ一歌！」

　殴りかかる。顔面と思しき場所に向かって唐竹割りに振り下ろした一歌の遮断桿はしかし、フェンスの鎧を破ることなく受け止められた。フェンスのたわむ音が羽音のように響く。

「硬ぇな！」
「ジェイルマン。ぼ、僕を閉じごめだ、檻。がっごう、は、檻だよ、いぢが、ぢゃん。わがるだろっ！　ぎみも、学校ぉ、ぎらいだろぉおお！」

　くぐもった声が中から響く。羽城は身をひねると、重厚そうな外見に見合わぬ速さで下から右腕を振り抜いた。
　一歩下がり、スウェーで躱す。大きいだけで動きはまるで素人。一歌は羽城が晒した隙に、同じ場所に遮断桿を叩きつける。

「っらァ！　脳みそ揺れるまで殴ってやんよ！」
「ぐ！　んぐ、う！　甘いよ゛ォ！　ぼぐはぁ、そのていどじゃ、割れないぃ！」

　白鉄の帷子に大きなダメージはない。少々ひしゃげたところで中の羽城までは届かないのだ。
　さらに反撃で振るう拳を遮断桿で受け止めた。しかし、一歌を想像以上の力が襲う。

「！？」

　完全に受け止めたにもかかわらず一歌は急ブレーキに滑る自動車じみて押し飛ばされた。ブレーキ痕すら残りかねないと思うほどに強烈なパワー。

「っ、……は！　けっこうパワーあんじゃねえか！」
「げばっ。フェンスはぁ！　ぼくが、動か、せる、んだよォ！　ちからぁが、集まればぁ！　僕の筋力でもぉ！　にんげん、ひとりぐらい、ペチャンコにでぎる！」

　一歌が一直線に跳んだ。飛び蹴りが羽城の顔面に入る。さらに振り下ろす遮断桿の一撃。反撃より早く、ニ撃、三撃を連続して振り下ろす。木製バットにて手に覚えのある殺人的な連打である。
　それでも壊れない。かといって、一歌の体躯では関節技を掛けることすら難しい。

「ふんっ！」

　遮断桿を手放す。腰を捻り、素手の右拳を腹に打ち込んだ。人間に打てば体をくの字に折り悶絶させる一歌の拳だが、表層のいくつかをへし曲げただけでやはり内部にダメージはない。

「……マジか」

　まるで要塞。金属の繭は羽城を完全に守っている。
　異常なほどの耐久力。
　羽城は効いた様子もなく拳を振るう。一歌は今度は受けることなく、姿勢を低め、羽城の巨大な拳を受け流した。しかし、羽城の足が床を踏みしめると、そこからびしりとヒビが入った。

「！？　足元がっ」

　ヒビは一気に広がり、一歌の足元までも追い越して後方まで砕く。一拍遅れて、ヒビが入った床面全体が瓦礫と化して崩落した。
　一歌の体が宙に浮く。

「は！？」

　校舎は空洞で、底まで吹き抜けていた。全身の皮膚が粟立つ。
　本能的な死の予感が脊髄を走った。
　落下死。遺伝子に刻まれた、重力に約束された死の形。

「ぐぐぷっ、落ちてよ、一歌ちゃん」

[[アイアンブラッド④　あたしの仇はあたしがとる]]に続く    </description>
    <dc:date>2026-06-21T20:05:50+09:00</dc:date>
    <utime>1782039950</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/91.html">
    <title>アーサー</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/91.html</link>
    <description>
      **プロフィール
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){名前}　|&amp;bold(){アーサー・キングスリー} |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){享年}|31 |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){死因}　|&amp;bold(){圧死} |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){生年月日}|1894年5月5日 |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){身長}|175cm |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){出身}|イギリス |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){一人称}|私|
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){好きな食べ物}|サンドイッチ、ハチミツ |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){嫌いな食べ物}|フィッシュ＆チップス |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){趣味・特技}|読書、どんな場所でも寝られる |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){最近の悩み}|[[質疑応答の時間制限&gt;シオン]] |
|BGCOLOR(#ff8c00):&amp;bold(){使用許可}|不要 |

**概要
&amp;bold(){20世紀初頭、イギリスはケンブリッジ大学で考古学者、兼、&amp;ruby(きこうぼん){稀覯本}の司書を務めていた男性}。[[ベルフリート&gt;ベルフリート・フォン・アーデシュミット]]の邸宅で暮らす死者の一人。&amp;bold(){非戦闘員}。

蔵書家だった父親の影響で、幼い頃から好奇心旺盛で本の虫だった。特に歴史に興味を示し、ケンブリッジ大学に入学、考古学を学ぶ。
31歳のころ、中近東の発掘・調査隊に同行し砂漠に埋もれた未発見の地下図書室に辿り着くも、遺跡の崩落によりあえなく死亡した。

意外なことに、&amp;bold(){死してなお彼の研究の時間は続いた}。時間を超えて人間が集う死後の世界は、変わらず彼の好奇心を刺激してくれた。書物や記録を紐解くだけでは知り得ない、歴史の真実の「&amp;bold(){死に証人}」たちが、死後の世界には無数にいたのだ。

&amp;bold(){好奇心に終わりはなく、探求もまた終わらない}。無数の歴史を書き記し、自ら記憶するため、アーサーは常にペンを走らせている。

**領域
&amp;bold(){砂漠に埋もれた未発見の地下図書室}。空気は乾燥しており、古びた紙と埃、そしてわずかな&amp;ruby(じんこう){沈香}の香りが漂う閉鎖空間。息絶える直前まで、彼は手にした文書の解読を続けていた。

***致命攻撃
死因は「&amp;bold(){圧死}」。天井の崩落で圧死させる。
崩落は一回しか起こらず、空間の狭さからアーサー自身も巻き込まれる可能性が高いため、戦闘には向いていない。

彼は&amp;bold(){知識の消失}＝完全な死を極力嫌い、&amp;bold(){敵であってもあまり戦わない}(元より戦える技能もないが)。どうしてもという時だけ、領域だけ使う一撃離脱をする。

**登場作品
***「デッドマンズ」シリーズ
-@Wiki内リンク
&amp;bold(){[[デッドマンズ：エンカウント]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ネームド]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：セットアップ]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：リブート]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ハロー・ワールド]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ティーパーティー]]}
-Writeningリンク
&amp;bold(){[[デッドマンズ：エンカウント&gt;https://writening.net/page?ZWGtXz]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ネームド&gt;https://writening.net/page?cJFhCw]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：セットアップ&gt;https://writening.net/page?gUpzWU]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：リブート&gt;https://writening.net/page?2M4MLi]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ハロー・ワールド&gt;https://writening.net/page?EySaZe]]}    </description>
    <dc:date>2026-06-21T14:36:51+09:00</dc:date>
    <utime>1782020211</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/90.html">
    <title>ミーナ</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/90.html</link>
    <description>
      **プロフィール
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){名前}}　|&amp;bold(){ミーナ・チェルニー} |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){享年}}　|15 |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){死因}}　|&amp;bold(){病死} |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){生年月日}}　|1814年4月15日 |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){身長}}|146cm |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){出身}}|北欧 |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){一人称}}|私|
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){好きな食べ物}}|ジャガイモ、チーズ |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){嫌いな食べ物}}|特になし |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){趣味・特技}}|縫製、家事雑事 |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){最近の悩み}}|&amp;bold(){[[友達&gt;シオン]]の朝が弱い} |
|BGCOLOR(#ffb6c1):&amp;color(#008000){&amp;bold(){使用許可}}|不要 |

**概要
&amp;bold(){19世紀、北欧の農村で7人家族の長女だった少女}。[[ベルフリート&gt;ベルフリート・フォン・アーデシュミット]]の邸宅で暮らす死者の一人。&amp;bold(){完全な非戦闘員}。

5人兄妹の長女として生を受ける。弟妹の世話をし、親の仕事を手伝い、村の全ての人と仲良く暮らしてきた、活気にあふれた少女。大人たちのケンカの間に割って入るなど、相手が誰でも物怖じしない。

生命力にあふれた少女だったが病は容赦なく、流行り病にかかってしまう。家族に病気をうつさないよう、自ら隔離を望んだ。玉のような汗が絶え間なく浮かび、真っ赤な肌に、血のにじむあかぎれが混じる。そうして命を落とした。
&amp;bold(){最期の時まで運命を呪うこともなく、家族や村の人々を気遣う、苦しんでいるとは思えないような最期だった}。

戦うことはできない。しかし&amp;bold(){彼女は本当の強さを無自覚に備えている}。それはどれだけ腕っぷしが優れているかではない。他人と手を取り合おうとする姿勢であり、他人に心を砕く態度であり、日々に感謝を捧げる純粋さ──&amp;bold(){優しさと愛情}だ。

**領域
&amp;bold(){自宅の屋根裏部屋}。小さな窓から見えるのは、色づき始めた秋の山々と、放牧されている羊たちの群れ。家族が代わる代わる手を握り、枕元で祈りを捧げ続けていた。悲しくも、優しく、幸福な最期。

ミーナは自分にも領域があることは知っているが、この光景、家族が注いでくれた無償の愛と祈り、そして他者を傷付けることを知らず、運命を呪わなかった彼女の在り方が関連し、&amp;bold(){他人を害する能力が一切ない}。

***致命攻撃
死因は「&amp;bold(){病死}」。使われることはない。

**登場作品
***「デッドマンズ」シリーズ
-@Wiki内リンク
&amp;bold(){[[デッドマンズ：エンカウント]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ネームド]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：セットアップ]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：リブート]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ハロー・ワールド]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ティーパーティー]]}
-Writeningリンク
&amp;bold(){[[デッドマンズ：エンカウント&gt;https://writening.net/page?ZWGtXz]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ネームド&gt;https://writening.net/page?cJFhCw]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：セットアップ&gt;https://writening.net/page?gUpzWU]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：リブート&gt;https://writening.net/page?2M4MLi]]}
&amp;bold(){[[デッドマンズ：ハロー・ワールド&gt;https://writening.net/page?EySaZe]]}    </description>
    <dc:date>2026-06-21T14:35:02+09:00</dc:date>
    <utime>1782020102</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/89.html">
    <title>デッドマンズ：ティーパーティー</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/89.html</link>
    <description>
      &amp;bold(){Previous→[[デッドマンズ：ハロー・ワールド]]}
----

　スクラップ再生場に迷い込んだのかと思うほど、金属同士を打ち付け合う音が強く響いていた。よくよく聞き分けると音は二つ。澄んだ高い音と、くぐもった低い音が交互に響いている。その違いには聞き覚えがあった。
　「そこ」はごつごつとした岩肌が剥き出しになった谷間の道の中途だ。戦術学的に言えば「&amp;ruby(あいろ){隘路}」。周囲は薄暗く、漂う霧のせいで余計に視界が悪い。わずかな光が東の方角から差し込んでいるため、夜明け前の朝霧なのだろう。しかし音の発生源だけは凄まじい勢いで大気が&amp;ruby(かくはん){撹拌}されるため、少し近付けばその正体を知ることができた。

　二本の剣を振るう[[ベルフリート&gt;ベルフリート・フォン・アーデシュミット]]と、大楯と重たいハンマーを軽々と使いこなすガリアス。

　真剣な表情の二人が、互いの矛を本気で交え合っている、今までに一度も見たことのない光景。


「……夢、か」

　そのすべてを観る前に、[[シオン]]は目覚めた。窓の外に目を向けると、ちょうど夢で見たのと同じように、未だ昇り切っていない太陽のかすかな光が、東の空から差し込んでいる。
　夢。記憶・情報の処理が作り出した脳内の幻想。定義上はそういうものだ。今しがた観ていた夢は、あくまで日常的な訓練からシオンの脳がシミュレートしたものなのだろう。
　しかし、それで片付けるには夢はあまりに鮮明だった。未だ他者と本気で殺し合う様を見せたことのない二人が、互いの実力をぶつけ合う際の様子や表情など、二人との訓練だけを基に出力できるはずがない。何より、シオンは死後も含めての生涯で一度たりとも夢に観た光景──霧深い隘路になど行ったことがない。情報処理の産物なのだとすれば、まず土台自体が存在しないのだ。

(私が見たものは……夢、なのか？)

　知りたい。この世界に慣れることを優先して後回しにしてきた、仲間たちのことを。ベルフリートの事、ガリアスの事、アーサーの事、ミーナの事を。
　皆の目が覚めるまではまだ時間がある。珍しく一番早く目覚めることになったシオンは、日が昇るまでの時間を、仲間たちを想いながら一人静かに待ち続けた。

----

「ほう。そんな『夢』を見たのか。ほうほう」

　弟子の話を聞いたベルフリートは愉快そうに自分の顎を撫でた。
　昼下がりの穏やかな時間が流れる食堂。全員が集う場で、今日もシオンの発言に皆が注目している。

「事実か？」
「うん？　私が語っても面白くはあるまい。そこの堅物に聞くのはどうだ」

　普段の威厳ある佇まいから仲間をからかう&amp;ruby(こうこうや){好々爺}へ、ベルフリートは珍しく表情を緩ませている。彼はどうやら最古参の友人に自分から喋らせるのが好きでたまらないようだ。

「おい、ベル」
「いいじゃないですか、昔話など減るものでもありませんし。私は既に知った話ですが、ガリアスさんから聞くのも面白そうだ」
「ならお前も語れ。日頃シオンから話を聞いてばかりだろうが」
「別に構いませんよぉ。まっ、大したことないのですけど！」
「そう言えば私たち、シオンに昔話をしてあげたことも無かったのね。何でもお話ししていたような気分だったわ」
「ははは、仲良きことは美しきかな。折角だ、今日の茶会は我々の昔話を『新入り』に語り聞かせてやるとしよう」

　ベルフリートは渋面のガリアスを楽しそうに眺め、机を二度打った。

----

　今日はベルフリートが紅茶を振る舞い、穏やかな茶会が始まった。

「さて。お二人のお話の前に、私から済ませてしまいましょうか。何せ大して面白みもない話なので。お茶が冷める前に話し終えてしまいたい」

　口火を切ったアーサーは、使い込まれた革の&amp;ruby(そうてい){装丁}の手帳を取り出し、ぺらりと表紙をめくった。恐らくはこの世界で最初に使い切ったものなのだろう。面白みがないと自虐しつつも、筆記の内容を目が追う様子は確かな愛着を感じさせる。

「私は19世紀末のイギリスに生まれました──」

----

　&amp;bold(){[[アーサー。本名アーサー・キングスリー。&gt;アーサー]]}

　19世紀末、イギリスで生を受ける。蔵書家の父を持ち、幼い頃から本に触れて育った。本を収集する父の影響を受け、「知の収集」自体と、知識を連綿と受け継いできた歴史や考古学に強い興味を示す。2大キャンパスの内ケンブリッジ大学へと進み、そこで考古学に打ち込んだ。

　31歳、1920年代に中近東の発掘・調査隊に同行。イギリスで書物や&amp;ruby(しゅうしゅうひん){蒐集品}に触れているだけでは感じ取れない「本当の空気」を知るための参加だった。

　歴史を紐解き、過去と現在を照らし合わせてひたすらに砂を掘る。それすら古代との繋がりを感じさせ、アーサーは全く苦にすることが無かった。調査隊のメンバーとの学術的談義も、常に彼の心に好奇心の薪をくべ続けてくれた。

　やがて隊は遺跡の発掘に成功する。これを「諦めなかった者たちに天が授けたご褒美」などと&amp;ruby(びじれいく){美辞麗句}で飾る歴史作家もいるだろうが、彼にとってそれは情報の継承と正確な計算の賜物であり、天の采配などは一つとしてない。人間の知性が紡いだ素晴らしき歴史の一部としての成果が、彼にとってどれほど喜ばしいことかを言葉で表現するのは難しい。敢えて書き記すとすれば、遺跡の出土の翌日、彼は初めて二日酔いで現場に現れた。

　出土から数日、ついに地下空間への入り口が見つかる。内部へと進入した調査隊の前にあったのは、古代の粘土板文書を収めた広大な「図書館」。外交、法律、宗教儀礼、神話など、当時の生活にまつわる事物が事細かに収蔵された空間は、アーサーにとってはどんな黄金にも勝る「宝の山」だった。彼はすっかり魅了され、古文書の読解に時間を費やすようになった。

　しかし夢のような日々も長くは続かなかった。盗賊に襲われ……だとか、遺跡を守る秘められた一族がいて……だとか、そのようなスペクタクルがあったわけではない。もっと単純であっけなく、ある日突然遺跡が崩落し、アーサーは瓦礫の下敷きになって死んだのである。それも逃げ遅れたのではなく、自ら古文書に覆い被さったために、だ。

　後悔はしていない。数日後か、数週間後か、はたまた数年後かは不明だが、紀元前の遺跡に近代人の死体が遺っているというのも、それはそれで歴史の繋がりを感じて面白いことになるだろう。できればその発見の場に居合わせてみたかった、というのが後悔かもしれない。

----

「……すごいな。よくそこまで、自分の死をポジティブに語れる」
「ハハハ。人の生きた時間は全てが歴史の一部となるのですから、それこそ私にとっては面白い話です。特に、死んでから客観的に振り返ることができたものですから、私にとっては『私』すら調査の対象だったわけですねぇ」
「死後の状態に興味を持って調査するのはいいが、法則も知らない内に死ぬところだったろう、お前。自分の領地に殺される前に、たまたま俺が通り掛かってなければどうなっていたことか」
「感謝してます、感謝してますよガリアスさん。お陰でこうして知識の収集を継続できている。本当にありがとうございます。以上、私の話はここで終わりです。ね、大して面白みもなかったでしょう」

　喋り切ったアーサーは紅茶で喉を潤し、『お次をどうぞ』と小首を傾げてミーナに目配せした。

----

　彼女が目を覚ますのは、いつも太陽が顔を覗き込むよりも早くのことでした。

「お父さん、お母さん、おはよう」
「おおミーナ、おはよう。今日も早いな。もう少し寝てていいんだぞ」
「ううん、大丈夫よ。何かお手伝いできることはない？」
「ありがとうねぇ。そうしたら、朝ごはんのふかし芋を潰してもらえる？」
「うん！」

　家族の手伝いを通じて、&amp;bold(){[[ミーナ・チェルニー&gt;ミーナ]]}の一日は始まります。

「ほらみんな、朝よ！　起きてちょうだい！」

　5人きょうだいの長女であるミーナは、妹や弟を起こすのが日課でした。朝から元気いっぱいなミーナと違って、下の子たちはまだまだ眠たそうに目をこすっています。

「ん～……おはよう、おねえちゃん……」
「おはよう、ジョイ！　一番に起きられた子には、朝ごはんおまけしてくれるわ」
「うん……ふわぁ」
「ふふ。さあ、顔を洗ってきちゃって！ 美味しい朝ごはんが待ってるんだから」

　末っ子の頭を撫でて両親の待つ居間へと送り出すと、彼女に抱き着く影が一つ。

「ちょっとフラウ！　まだ夢の中かしら？」
「ううん……ミーナぁ、髪の毛とかして……」
「もう10歳でしょう！　しゃんとなさい！」

　甘えたがりなきょうだいの面倒をいっぺんに見るのは大変です。けれどミーナはそんなところも含めて家族を愛していました。だって彼女は「お姉ちゃん」なのですから。

「父よ、あなたの慈しみに感謝して、この食事をいただきます。ここに用意されたものを祝福し、私たちの心と体を支える糧としてください。私たちの主イエス・キリストによって。アーメン」
「アーメン」

　食前のお祈りを済ませて、家族みんな揃っての朝食の時間になりました。ライ麦のパン、ジャガイモのミルク粥風スープ、&amp;ruby(ヤギ乳の){シェーブル}チーズ、ハーブティーが並び、食卓を彩っています。

「クリス、ジョイに渡して」
「あーっママずるい！　ジョイのスープ、僕より多いよ！」
「最初に起きてきた子にご褒美よ。欲しかったらあなたもしっかりなさい」
「そうだぞクリス。お前も8つだ、そろそろお寝坊さんじゃあ困るな」
「むぅー」
「パパの言う通り。クリスってば本当にお子さまなんだから」
「なんだよー。アイラだってジョイより遅かったじゃん」
「でも文句言ってないでしょ。だからいいの」
「アイラ？　お姉さんぶりたいならもう少しミーナを見習いなさい」
「あはははは！　ママの言う通りだぞ、アイラ」

　家族の暖かい&amp;ruby(だんらん){団欒}の時間は、いつだってミーナを幸せな気持ちにしてくれました。


　青空に太陽がまぶしく輝いています。村の皆が働き出すのと同じころに、ミーナも洗濯物かごを抱えて村の外にある川を目指します。洗濯物はきっとよく乾くでしょう。
　その前に、村のみんなの顔を見るため、広場に寄っていくのがミーナの決まりでした。

「ようミーナ。おはようさん。今日は洗濯かい、精が出るねえ」
「ケーニヒさん、おはようございます。これから木を切りに行くのかしら？」
「んにゃ、今日は薪割りだな。冬の前にたっぷり準備しとかないと」
「責任重大じゃない！　頑張ってね」

　木こりのケーニヒおじさんに別れを告げると、今度は羊の鳴き声が聞こえてきました。声の方を見ればこちらに向かってくる一頭の子羊と、その後を追ってくる女性が一人。羊飼いのマルティナおばさんです。

「あーっミーナ！　すまない、その子をなだめてくれるかい！」
「任せて！」

　ミーナはすぐにしゃがみこんで、子羊と目線の高さを合わせ、両腕を広げました。するとどうでしょう。不思議なことに、一生懸命に走っていた羊は速度を落とし、彼女の腕の中に飛び込んだのです。

「きゃっ」
「ミーナ！　大丈夫かい！？」

　後ろへ倒れ込んでしまったミーナを心配してマルティナが駆け寄ると、彼女は子羊に鼻の頭をこすりつけられている所でした。くすぐったそうに微笑むミーナは子羊の額と自分の額をくっつけ、優しく語り掛けます。

「よしよし、元気な子ね。だけどもう柵の中に戻る時間よ」

　頭を撫でてやって子羊が安心したところで、マルティナににこりと微笑みかけます。今度は彼女がその腕の中に子羊を抱える番でした。

「ほら、大人しくするんだよ。……ありがとう、助かったよミーナ。あんたは本当に動物に懐かれるねぇ」
「お役に立ててよかったわ！　ね、また今度、様子を見に行ってもいいかしら？」
「ハハッ。うちには羊と犬しかいないけど、それで良けりゃあいつでもおいで」

　腕の中の子羊に悪戦苦闘しながら来た道を戻るマルティナおばさんを見送って、ミーナも本来の自分の仕事に戻ります。
　川へ向かう道すがら、年下の子供も、大きな大人たちも、彼女に挨拶と暖かい言葉をかけてくれました。この小さな村ではみんなが家族なのです。ミーナは14歳、大人と子供の境界線上の女の子ですが、既に村のみんなの間では「頼りになるしっかり者」として評判でした。


　川では洗濯をしている女性が何人かいました。

「みなさんこんにちは！　今日はいいお洗濯日和ね！」
「ハァイミーナ、遅かったのね。もうアイラが来てるわよ」

　妹の姿を探すと、少し離れた野原で綺麗な花々を摘んでいるところでした。

「あら、背中が汚れてるわ。なにかあったの？」
「マルティナおばさんのとこから子羊が逃げ出しちゃったの。そのお手伝い」
「まあ……、本当に働き者ねぇ。うちの子はそろそろ4つになるけど、ミーナみたいな子に育つかしら？」
「うーん、それは分からないけど……うんと大事にしてあげて。私は毎日パパが抱き締めて、ママがおやすみのキスをしてくれたもの」
「そうそう。心を離しさえしなければ、子供はまっすぐ大きくなるわよ。それに何かあれば私たちがいるじゃない。村の皆が見守ってるわ」

　ミーナはうんうんと頷きました。彼女は何もひとりでにしっかり者になったわけではありません。パパとママがいて、頼りになる大人の姿をたくさん目にして、それからきょうだいが生まれてきて。たくさんの人のお陰で、ミーナは大きくなったのです。
　それからみんなで歌を歌いながら洗濯をしました。それからまた世間話に戻った時に、一人が少し真剣な表情でみんなに言いました。

「子供と言えば、病気には気をつけなさいよ。都の方で流行り病が広まってるって、商人が教えてくれたわ」
「本当？　きょうだいたちにも手洗いをしっかりさせないといけないわね」

　怖いものが近付いてくるように、風が、草原をざわりと揺らしました。


　お昼を過ぎて空が少しずつ赤らみ始める頃、洗濯物を吊るし終えたミーナは両親を迎えに村の外れに向かいました。その道中にある小高い丘に登って、村を眺めながらお祈りをするのがミーナの日課です。神様に聞こえるよう、少しでも高いところで。

「今日はジョイが一番早く起きられました。昨日と同じように見えても、少しずつ成長しているんですね。末っ子のあの子が成長するのを見守れて、私は幸せです」

「クリスはまだ甘えたがりだけど、パパやママと一緒に畑で働いています。あの子が長男として、家族の代表に相応しく立派になれますように」

「フラウの髪は今日もとっても綺麗でした。お家でジョイの面倒を見てくれるようになって、とっても助かってるの。あの子がとっても素敵な女性になれますように」

「アイラは意地っ張りなだけなんです。今日だってちゃんとお洗濯を手伝ってくれて、本当は家族が大好きで、いいお姉ちゃんになろうと頑張っています。だから神様も、見守ってあげてください」

「パパとママはこれからも元気でしょうか？　二人が元気なら、私はそれ以上何も必要ありません。どうか二人が長生きできますように」

「どうか、私の家族と、村の皆に、これからも、たくさんの幸せがありますように」


　夜の空は冴え渡り、月と星の灯りが空にきらきらと物語を描き出しています。屋根裏部屋の小窓から眺める小さな夜空には、雄大な物語が広がっていました。
　ミーナはジョイのまだ小さな手を取って、星々を指先でなぞらせます。

「あれがアンドロメダ座。アンドロメダはとても美しいお姫様なの。だけどお父さんとお母さんのせいで海の怪物に食べられちゃいそうになるのよ」
「ええっ、そんなのひどいよ！」
「だけどね、そこに英雄ペルセウスが現れたの。ペルセウスはメドゥーサの首を掲げて、海の怪物を石に変えてしまったわ。そうしてアンドロメダはペルセウスに助け出されて、二人は結婚して幸せに暮らしました」

　ぽんぽんと頭を撫でられたジョイは大きなあくびをしました。もうすぐ寝る時間です。

「お姉ちゃん、明日もお話聞かせてくれる……？」
「もちろん。だからベッドに入ったら神様にお祈りするのよ、明日も晴れますようにって」
「うん……」
「いい子ね。さ、寝る時間よ」

　かつてはミーナがママにしてもらったように、アイラに、フラウに、クリスに、そしてジョイに。屋根裏部屋は寝物語を通じて家族を繋ぐ、大切な場所でした。狭い部屋だけれど、その分家族の愛情がいっぱいに詰まった、大事な聖域でした。



　そんな大事な場所を独り占めしてしまうのは心苦しいけれど、この家からみんなの温もりがなくなってしまう方がもっと苦しいから。だからミーナは屋根裏部屋に独りでいることを選びました。

　15歳の春。ミーナは流行り病にかかり、床に臥せるようになってしまいました。

「パパ、ママ、自分を責めないで。私ならきっと大丈夫だから……」

　最初は風邪のような症状が出ました。何日経っても熱が引かず、次第に肌があかぎれ、血が滲むようになりました。ミーナの小柄な体は、あっという間に包帯だらけになってしまいました。
　家族はみなミーナの回復を祈りました。村の皆も祈ってくれました。お医者さんを呼んで、薬草を煎じて、薬を飲んで──けれど、症状は一向に良くなりませんでした。元気だったミーナは、日に日に弱っていきます。

　それでも、彼女が自分の運命を呪ったことはありませんでした。

「この頃ね、クリスが一人で起きられるようになったの。あなたに甘えてたのね。フラウも自分で身だしなみを整えるようにし出したけど、やっぱりあなたが髪を整えてくれるのが一番だ、って……」
「なあんだ、みんな、しっかりしてるじゃない……。すぐに、自分でできるようになるわ」
「そうよ。みんな大きくなって手がかからなくなったら、今度はミーナの番。素敵な人と出会って、幸せな家族を……」

　ママの瞳から願いと悲しみの混じった涙が一粒零れ落ちました。

「大丈夫よ……。みんなのお祈りは、きっと神様に届くわ……」
「……そうよね、ごめんなさい。ママにしてあげられることがあれば、何でも言って」
「ありがとう……。だったらそうね──みんなは、体調を崩したら駄目よ。元気でいてね……？」

　きっと病気になんか負けない。みんなのお祈りはきっと届く。きっと良くなる。みんなが自分を大切に想ってくれているから、ミーナの心に絶望はありませんでした。それどころか、彼女はいつも変わらず、大切な人たちのことを想い続けていました。

　それがたとえ、最期の時でも。

「……んな、ありがと……。あとで、ちゃんと、てあらい、うがい……忘れないで、ね」

　両親が、きょうだいたちが、村のみんなが、代わる代わるミーナの手を握り、天に念じました。誰もがこの少女に奇跡が降り注ぐことを願いました。それが神様にはひっきりなしに届くものだと分かっていても、聞き届けられることを願わずにはいられませんでした。
　彼女が独り占めするようになってしまった屋根裏部屋に、たくさんの人の愛情が戻ってきました。それだけでミーナの心はいっぱいでした。

「パパ、ママ、どうかいつまでも元気でいてね。すぐに会いに来たら追い返しちゃうわ」

「アイラ。あなたならもう大丈夫。みんなのお姉ちゃんとして、家族を大事にしてね」

「フラウ。アイラを助けてあげて。大丈夫、私が教えたことを思い出して」

「クリス。いつまでも泣いてちゃだめよ。あなたは強い子、みんなを頼んだわ」

「ジョイ。たくさん食べて、遊んで、寝て、大きくなってね。いつも見守ってるから」

「村のみんなにも、たくさん、たくさん、幸せがありますように」

「私は、この村で、みんなの家族でいられて、幸せだったわ──」


　ミーナは、夕暮れと共に、眠るように、息を引き取りました。
　最期まで何かを呪うこともなく、たくさんの愛を抱きしめて、旅立ちました。

----


「これが、私がここに来る前のお話。聞いてくれてありがとう、シオン」

　その笑顔は、少しだけ&amp;ruby(きょうしゅう){郷愁}を帯びていた。

　初めて知る友の死に、シオンは自然と涙を流していた。感情の偽装機能などではない心からの涙が、彼女の能面のような頬を伝う。
　ミーナの死に感じていることを言葉にするのはシオンにはまだ難しい。だから表情だっていつも通りで変わらない。だが、その内心を疑うものなど、ここにはいなかった。

「君は……」

　演算を介さない無垢な言葉が口をついて出る。比較と相対化で物事を観がちなシオンでも、ミーナの口ぶりや仕草、表情から感じ取れるものはあった。

「幸せに、生きたんだな」

　少し間の抜けた言葉に、ミーナは黙って頷いた。

　この幸せが、暖かさが、何も持たない殺人者の手を取り、シオンという人間にしてくれたことを思い知って、また涙がこみ上げてくる。

「素敵な人たちと出会って。シオン、あなたと友達になれて。私、今も幸せよ」

　しばらくの間、シオンの小さな嗚咽だけが、昼下がりの穏やかな空気と溶け合っていた。    </description>
    <dc:date>2026-06-21T01:30:17+09:00</dc:date>
    <utime>1781973017</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/87.html">
    <title>ル・ソルダ・アンコニュ</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/87.html</link>
    <description>
      **プロフィール
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;年齢&#039;&#039;　|中心人物は外見から推察するに13から15程|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;生年月日&#039;&#039;　|知らない |
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;身長&#039;&#039;　|162cm|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;出身&#039;&#039;　|戦場 |
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;一人称&#039;&#039;　|私、素だと僕|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;好きな食べ物&#039;&#039;　|煙草|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;嫌いな食べ物&#039;&#039;　|泥|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;趣味・特技&#039;&#039;　|銃と戦場の取り扱い|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;最近の悩み&#039;&#039;　|仲間に煙草を吸っている所を見られるとキャンディと取り替えられる|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;使用許可&#039;&#039;　|不要 |
**概要
憤怒の嵐の残響。名無しの戦死者。
[[ル・シュプリシエ・アンコニュ]]に嵐としては殺された後、残響となる。
彼らはとある未来の世界線において世界に支配を拡げる独裁者の軍に最後に抵抗した者達であり、「彼」は戦争の才能が有り余った、「ギフテッド」だったために最年少で将校となった「少年将校」。
あまりにも余裕がなく、圧倒的な戦力差があったにも関わらず、自ら前線に立ち、最良の司令を下し続ける事で覆し続けた。
子供の司令に従うのは自殺行為である、と判断した兵から死んでゆき、いつしか彼は忠実な軍と「最後にして最高の司令」という称号を手に入れた。

しかし、彼が有能だった、いや、有能すぎた故に、戦場は血で血を洗う「憤怒」へと染まり、辞めどきを見失い、そうして「世界大戦」と見紛う程の大量の戦死者を出すこととなるのだが。

学校での担当教科は軍事・防衛学。基本は生徒として立ち振る舞っている。
**領域・致命攻撃
領域は戦場。世界を舞台にした抗争だったために、ジャングルから砂漠、或いは村から大都市まで様々な戦場を用意できる。
致命攻撃は「銃」「グレネード」「ドローン」「戦車」「ミサイル」「爆撃」「餓死」「病死」etc…
戦場にある大抵の死因は使用できる。また、数を単純に増やすことも可能であり、言わば「一人師団」のような様相を持っている。
「憤怒の嵐」としての能力は、普段は致命傷を受けても動ける程度だが、下げたルビーの勲章を破壊した後は、あの戦場の戦死者全員が残機となる…つまり実質的には不死となる。

**使用されたSS
[[憤怒の嵐vs強欲の嵐]]    </description>
    <dc:date>2026-06-18T08:37:40+09:00</dc:date>
    <utime>1781739460</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/88.html">
    <title>ラ・マリエ・アンコニュ</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/88.html</link>
    <description>
      |BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;年齢&#039;&#039;　|中心人物は18|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;生年月日&#039;&#039;　|必要がないから教えてもらえなかった⭐︎ |
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;身長&#039;&#039;　|162cm|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;出身&#039;&#039;　|「中央都市」|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;一人称&#039;&#039;　|私|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;好きな食べ物&#039;&#039;　|ライチ|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;嫌いな食べ物&#039;&#039;　|特にはない…今はカロリーとか気にしなくていいしね⭐︎|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;趣味・特技&#039;&#039;　|誘惑　教育（生物　政治・経済）　料理（特にデザート）|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;最近の悩み&#039;&#039;　|校長が一切靡かないんだけど…アピールに気付け⭐︎|
|BGCOLOR(#F8B400):&#039;&#039;使用許可&#039;&#039;　|不要 |
**概要
とある未来の世界線において、完全に支配を確立し倫理と法律の圏外へとたどり着いた独裁者が生み出し、殺した通称「娼婦人形」達。限界まで極められたクローン技術などにより歴史を彩った美女達を蘇らせ、仕えさせようという醜悪な計画。達成後、一夜にして飽きられ、殺された者からクローンとしての短い生涯を演じ続けた者まで、様々。
色欲の嵐の残響。名無しの花嫁。
[[ル・シュプリシエ・アンコニュ]]により嵐としては死を迎え、残響となった。
中心人物は「楊貴妃」のクローンであり、反抗する力を削ぐために「無知」である事を強制され続けた彼女たちの中で、数少ない「反抗者」。
監視の目を気合いで掻い潜り、様々な本に触れ、人と話した。
独裁者の「お気に入り」であったにも関わらず、彼女は自由と理性を求め、針に刺され、動けなくなった標本としての羽を動かしたのだ。
**領域・致命攻撃
領域は「生物工房」。
致命攻撃は「歪められた寿命死」「銃による粛清」「毒による死」
「舞踏死」など様々。
とはいえ中心となるのは「クローンを始めとした生命技術」。
彼女達を生み出し、そして殺したそれは、今彼女達の手の中にへと渡った。
メインとして使うのは植物やキノコ、そしてウィルスなどの明確な意識のない生物。
改造されきった毒などにより相手を死にへと至らしめる。
「色欲の嵐」としての能力は通常時では魅了された相手の思考速度を軽く下げる程度。しかし、両耳に下げた宝石のイヤリングを破壊する事で少しでも好意を抱いてしまった相手の思考を停止寸前まで追い込むことができる。

**使用されたSS    </description>
    <dc:date>2026-06-18T01:41:53+09:00</dc:date>
    <utime>1781714513</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/13.html">
    <title>人物名鑑</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/13.html</link>
    <description>
      &amp;bold(){ここは人間・サンクチュアリ}
無数に蠢く死者どもを考えたら、ここにリンクを貼ることができます。
五十音順になってて探しやすいを超えた探しやすい

&amp;bold(){これが幽玄のキャラクタープロフィールページの原型}
犬は新規作成→ すでにあるページをコピーして作成を使って自分のキャラクターのページを作ってみろよ
[[キャラクタープロフィールの原型]]

----

#contents_line(fromhere=true,level=3,sep= ＿)
#right(){&amp;link_up(▲)}
----
*&amp;bgcolor(#ff9900){あ行} 
#areaedit()
----
この辺に貼る↓
-[[藍島銀一]]
-[[芥生篝]]
-[[秋雛古詠]]
-[[天國苦逆]]
-[[アルトリウス・オーランド]]
-[[一条銘]]
-[[伊上煉我]]
-[[狗井定]]
-[[イヴ・マーブル]]
-[[猪子栄作]]
-[[魚富祐介]]
-[[蛆虫ども]]
-[[海老村陣五郎]]
-[[エメラナ]]
-[[大鐘秀斗]]

#right(){&amp;link_up(▲)}
#areaedit(end)
----
*&amp;bgcolor(#ff9900){か行}
#areaedit()
----
この辺に貼る↓
-[[九条蓮]]
-[[久留美幸]]
-[[黒谷浩太郎]]
-[[倉凪宇良]]
#right(){&amp;link_up(▲)}
#areaedit(end)
----
*&amp;bgcolor(#ff9900){さ行}
#areaedit()
----
この辺に貼る↓

-[[栄尖美灯橙]]
-[[シオン / S-10N&gt;シオン]]
-[[蘇蓮華]]
#right(){&amp;link_up(▲)}
#areaedit(end)
----
*&amp;bgcolor(#ff9900){た行}
#areaedit()
----
この辺に貼る↓
-[[鉄条一歌]]
-[[ドゥーヴァ]]
#right(){&amp;link_up(▲)}
#areaedit(end)
----
*&amp;bgcolor(#ff9900){な行}
#areaedit()
----
この辺に貼る↓
-[[中野幾月]]
-[[新戸あかい]]
-[[貫田康]]

#right(){&amp;link_up(▲)}
#areaedit(end)
----
*&amp;bgcolor(#ff9900){は行}
#areaedit()
----
この辺に貼る↓ 
-[[灰谷傳]]
-[[捗目良平]]
-[[伯爵と名乗る男]]
-[[&quot;ハングマン&quot;]]
-[[ベルフリート・フォン・アーデシュミット]]
-[[宝条愛]]
-[[蛇飼 修奈&gt;https://w.atwiki.jp/necrorevive/pages/63.html]]
#right(){&amp;link_up(▲)}
#areaedit(end)
----

*&amp;bgcolor(#ff9900){ま行}
#areaedit()
----
この辺に貼る↓
-[[マルコ・ヴァレンティ]]
-[[水鏡舞李]]
-[[ミハイル・イェーガー]]
-[[森中心満]]
-[[百日祝]]

#right(){&amp;link_up(▲)}
#areaedit(end)
----
*&amp;bgcolor(#ff9900){や行}
#areaedit()
----
この辺に貼る↓

-[[ユーリカ・アンブロシア]]

#right(){&amp;link_up(▲)}
#areaedit(end)
----
*&amp;bgcolor(#ff9900){ら行}
#areaedit()
----
この辺に貼る
-[[ラ・ソルシエール・アンコニュ]]
-[[李 飛虎&gt;李飛虎]]
-[[ル・シュプリシエ・アンコニュ]]
#right(){&amp;link_up(▲)}
#areaedit(end)
----
*&amp;bgcolor(#ff9900){わ行}
#areaedit()
----
-[[ウェイザス・A・クロフト]]    </description>
    <dc:date>2026-06-13T00:08:32+09:00</dc:date>
    <utime>1781276912</utime>
  </item>
  </rdf:RDF>
