XXXX年X月X日、ただ穏やかな夕方だった。
その日はたしか――私の誕生日。
もうすぐ使わなくなるランドセルを背負い、にやにやと笑いながら下校。
友達と別れ、軽い足取りで自宅に向かっていく。
「ただいまー」
きょろきょろとあたりを見回しながら家に入る。靴をそろえ、部屋にランドセルを置く。
あまりにも穏やかで、あまりにも静かだった。
「兄ちゃん?」
テーブルの上には、半分開きかけたケーキの箱と、慎ましいながら美味しそうな料理の数々。普段ならまず食べないようなものまである。
「……?」
部屋の電気はついたままで、空調も作動したまま。
家じゅうを探し回っても、兄の姿は無かった。
ただ兄だけがぽっかりと抜け落ちたような家。
不安が胸に押し寄せる。へたりと床に座り込んで、ドキドキと鳴っている胸を押さえつける。
そして床に、兄が大事にしていたペンダントを見つけた。
「…………」
どこへ行ったのだろう。何をしに、誰かに会いに……いや、
ドアが開く音。大人が駆け込んでくる音。大丈夫かと何度も問われて、全然大丈夫じゃないのに首を縦に動かした。
――生存者一名、
遠くで聞こえた声は冷静に告げる。
――行方不明者――1名。
そう、あの日兄は姿を消した。
最終更新:2010年03月23日 02:03