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*寸善尺魔 ◆X8NDX.mgrA  夜道を三人の男が歩いている。  先頭は蟇郡苛、その少し後ろに衛宮切嗣と折原臨也。  各々デザインは違えども黒を基調とした服装をしており、傍目から見るとかなり怪しい。  それどころか、黒ずくめの服装と独特な風貌が合わさって、非常に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。    先頭を往く蟇郡苛。彼の眼光は鋭く、しっかりと前を見据えている。  本人にしてみれば進行方向を見ているだけなのだろうが、その視線は一般人を委縮させるのには十分なものだ。  二メートルはあろうかという大男なのも、誤解を生む原因足り得るだろう。  次に衛宮切嗣。一見すると普通の男性だが、その眼は明らかに死んでいる。  虚無を感じさせる黒々とした双眸から、感情の類を読み取ることは難しい。  これが正義の味方を目指した男だと、誰が想像するだろうか。  最後に折原臨也。彼は一見すると整った顔立ちの青年だ。  威圧感も虚無感も持ち合わせておらず、ただその内心では、人間への貪婪な好奇心が膨らみ続けている。  一見すると危険性に気付かない、という意味では一番危険な男である。  そんな三人が、行動を共にしている。  目的地はゲームセンター。殺人事件の現場に向かい、現場を調査するのが主な目的だ。  もっとも、三人のうち二人は密かに別の目的を持って動いているのだが。 「ねえ蟇郡君、腕輪探知機の反応はどう?」  ラビットハウスを出てから会話らしい会話をしていなかった三人の間に、きっかけを作ったのは臨也だった。  といっても、腕輪発見器の人数を確認するだけのこと。  形式的と言えばそれまでだが、どうやら蟇郡は忘れていたらしく、探知機を取り出して操作した。 「む?これは……」  立ち止まり、怪訝な声を出した蟇郡に、臨也と切嗣は近づいていく。  蟇郡は振り返ると、二人に人数の表示を見せた。  しかめっ面の蟇郡に対して、臨也は興味深そうな声を漏らし、切嗣は眉を僅かにひそめた。  ラビットハウスで確認した際には「7」だった数字が、「9」に増えていたのだ。 「参加者が増えたか……平和島静雄と遭遇していなければいいが」 「このエリアに来たってことは、当然目指すのはゲームセンターかラビットハウスだろうし、もしかしたら承太郎君たちの方に行ったかもね」 「なんにせよ、危険人物でないことを願いたいな」  名も知らない参加者の身を心配する蟇郡。  不安を煽るような言葉を吐く臨也。  嘆息と共に結論付ける切嗣。  三者三様の反応を示して、三人は再び歩き出した。 ■  蟇郡たちが腕輪発見機を操作する十数分前。 「あれがゲームセンターか……結構大きいんだな」 「エリアは……G-7だ。間違いないな」  ゲームセンターの外観を見上げながら、二人の参加者が小声で会話していた。  風見雄二と天々座理世。  学生服とメイド服という奇妙な組み合わせの二人だ。  二人は幸か不幸か、他の参加者とは遭遇せずに、このゲームセンターまで辿り着いていた。  支給品の確認をして以降、石橋を叩いて渡りながら来たため、時刻はすでに黎明になって、三十分以上が過ぎている。  そのことにリゼは少なからず焦りを感じているようで、雄二へと早口で話しかけた。 「風見さん、早く入ろう。誰かがいるかもしれない」 「ああ、だが少し待て。……見ろ、あれを」  雄二が指し示す方向を見たリゼは、その惨状に唖然とした。  剥がれた路面に、変な方向に曲がったガードレール。果ては倒れた自動販売機。  交通事故のニュースで流れているような映像が、そのまま雄二たちの目の前にあった。 「恐らくは戦闘があったのだろう。遠目からでは詳しくは分からないが、銃火器が使われた可能性が高いな」 「……じ、じゃあ、まだ近くに……!?」  口を開けたままだったリゼは、雄二のその言葉で現実に引き戻された。  銃火器を持って、しかも戦闘を行うような参加者がこの近くにいる。  リゼも武器は保持しているが、戦闘目的で使用した経験がない以上は素人も同然だ。  危険人物に恐怖が湧いてくるのは必然だった。 (まさか、この近くで待ち伏せをしているんじゃ?)  戦争で警戒するべきなのは、待ち伏せと急襲。その程度の知識はリゼにもあった。  それ以上の恐ろしい想像までしたようで、リゼは恐怖を振り払うように頭をぶんぶんと振る。 (弱気になるな、いざというときには、私がチノやシャロたちを守るんだからな!)  そう自分に言い聞かせるリゼをよそに、雄二は惨状に近づいていった。  地面に落ちた破片を拾ったり、ガードレールの曲がり具合を見たり、抉れた地面をなぞったりしている。  躊躇なく惨状に近づいて行った雄二の後を、リゼは恐る恐るついていった。 「ちょ、ちょっと」 「しっ。……静かに。周囲で何か聞こえるか?」  唇に人差し指を当てた雄二の言葉に、リゼは目を閉じて耳をすませた。  そして十数秒後、ゆっくりと目を開ける。 「……いや、聞こえない」 「そうだな……この近くにはいない、と見るべきか」  こればかりは二人にとって幸いなことに、平和島静雄はこの場にはいなかった。  確かに、越谷小鞠の死体を発見して激昂した静雄は、ゲームセンター周辺にその怒りをぶつけた。  だが、少なくともこの時には、破壊衝動を器物損壊という形で表現することを一旦終えて、宿敵折原臨也を探し回ることに集中していたのだ。  結果として、ニアミスした雄二たちは噴火の余波を受けることはなかった。  それでも、姿なき破壊者の存在は、雄二たちに危険だという意識を植え付けた。  とりわけリゼには、その意識が強く植え付けられた。 「その人物がここに戻ってくる可能性もある。それまでにゲームセンターの中を調べよう」 「ちょっと待ってくれ、その危険人物に知り合いが襲われているかもしれない。  私の知り合いは……襲われたらまず助からない!」  破壊の痕跡を見たためか、リゼは焦りを隠せないでいた。  チノやシャロたちを守ると誓ったリゼにしてみれば、その心配は当然のものだ。  そんなリゼと対照的に、雄二は全く焦った様子はなく、コンクリートの破片が落ちている辺りに屈んで付近の地面を探っていた。  そしてリゼの言葉に、その体勢のまま返事をした。 「落ち着け。よく考えるんだ、居場所も分からない相手をどうやって探す。  それにこんな破壊をやってのける奴に、焦って挑んだところで勝ち目はない」  その雄二の言葉には、説得力が感じられた。  圧倒的な武力の前に、何の対策も講じずに立ち向かうのは、勇気ではなく無謀である。  もしこの惨状が銃火器やそれに類するもので行われたのだとすれば、現在の手持ちの装備では対応しきれない。  このような説明を受けたリゼは、いくらか冷静になって、周囲の破壊の痕跡を確認した。  改めて見ると、破壊の爪痕はただの拳銃程度では再現できそうもないほどに大きい。 「確かに、こんな破壊をするには、バズーカ砲でもないと……」 「いや、もしかすると銃火器は使用していないのかもしれない」 「え?」  前言撤回した雄二の言葉に、リゼは疑わしげに首を傾げた。  リゼにしてみれば、この破壊跡はどう考えても激しい戦闘が行われた結果である。  そのことを反論しようと口を開きかけるリゼだったが、雄二の真剣な眼差しに口をつぐんだ。  雄二は立ち上がって辺りを見渡すと、確信を持った口調でリゼに向けて話し始める。 「この辺りには破壊された跡はあるが、弾痕も無ければ薬莢も無い。  硝煙の臭いが全くしないのも不自然だ。  それにあの倒れた自販機だ。ぶっ倒れて配線は引き千切れているのに、倒れたときにできた傷以外には凹み一つ見当たらない」  銃撃や爆発で倒されたにしては綺麗すぎるのだ、と。  雄二に促され、リゼは二人で倒れた自動販売機を見下ろした。  リゼの目から見ても、弾丸が撃ち込まれたり、刃物で傷つけられたりといった傷は無かった。  そして、その事実がリゼを更に困惑させる。   「でも、それってつまり、素手で自動販売機を倒したり、電信柱を砕いたりしたってことだよな……。  そんなのありえるのか!?」 「俺は実際に目の前にある事象は、何であれ信じることにしている。  ……詳しいことは、あの破壊された壁のあるフロアに行けば分かるかもしれないな」  「破壊された壁」と言いながら雄二が指し示した方を見て、リゼは再び驚愕した。  ゲームセンターの壁に、爆弾で破壊されたような大穴が開いていたのだ。  あの破壊も生身の人間によるものなのだろうかと考えて、リゼは背筋が凍るような感触を覚えた。  ありえない。そう考えたかったが、雄二の意見も否定することはできない。 「もしかすると、『魔術』とやらが関係しているのかもしれないが……」  リゼが混乱の極みにいる中で、雄二はぽつりと呟いた。  アゾット剣の説明にあった魔術という単語が、雄二の心に引っかかっているのだろうとリゼは察した。  とはいえ、雄二にもリゼにも魔術に関する知識が無い以上、それが現実においてどう作用するのかは想像の域を出ない。  雄二もそれ以上は考えを保留にしたようで、リゼに向けて顔を上げた。 「思わぬ時間を食ってしまったな。さっさと探索を済ませよう」 「ああ。……だが、一つ謝らせてくれ。  すまない、風見さん。私はまた動揺してしまったらしい……」  顔を伏せて落ち込む様子を見せるリゼ。  大切な友人たちを心配するあまり、焦って冷静さを欠いていたのはリゼ自身も理解していた。  そして、それを責めずに窘めた雄二に、リゼは申し訳なさを感じていた。  余計な時間を取らせてしまったことは明白だったからだ。  だが、雄二は特に気にした様子もなく、こんな言葉を返してきた。 「ネガティブなイメージが沸くのは、危機管理が出来ている証拠だ」 「え?」 「危機管理が出来ている方が、俺としても守りやすい。そのままでいてくれ」  返ってきた発言の意味を噛み砕いて、それがある種の慰めの言葉であるらしいと気付いたリゼは、雄二に対する認識を改めた。  冷静なのは確かだが、その一言で言い表せる人ではない。 「……ありがとう」 「よし、行くぞ」  照れながら発した言葉には反応せず、雄二は早足でゲームセンターの入口へと向かう。  リゼは急いで、雄二の背中を追いかけた。 ■ 「そういえば、蟇郡君とは情報交換してなかったよね?」  ラビットハウスからゲームセンターへの道中。  数分間続いた無言を破ったのは、またしても折原臨也であった。  先頭の蟇郡に対して情報交換を持ちかけるその顔は、臨也を詳しく知る人物からすれば胡散臭さを感じるものだったろう。  しかし、顔を合わせて一時間と経っていない蟇郡に臨也を警戒するという発想はない。 「む、そういえばそうだな」 「衛宮さんとはもう済ませたんだ。君も知り合いとか、もし危険人物がいたら教えてよ」 「了解した。ではまず……」  鬼龍院皐月、纏流子、そして満艦飾マコ。  蟇郡は名簿にある知り合いの三人を、簡単な特徴と共に告げていく。  皐月を紹介するときには些か誇らしげに、マコを紹介するときには些か複雑な面持ちで。  臨也はそこから、蟇郡の心情の機微を少なからず感じ取った。  もちろん、それを口に出すことはしない。 「俺も含めた四人は、本能字学園の生徒だ」 「本能字学園?確かこの島にもそんな名前の施設があったよね?」 「ああ、全く同じ名前だ。実際に見ていないからなんとも言えんがな」  それから、と蟇郡は危険人物についての話をし始めた。  前置きとして鬼龍院財閥について説明が始まり、その内のREVOCSコーポレーションについて特に詳細を語った。  ようやく針目縫の名前を出したところで、臨也が一旦蟇郡を遮った。 「ちょっといいかな?  俺、その鬼龍院財閥とか、REVOCS社?っていうの、初耳なんだよね。  君の話だと、世界に誇るレベルで相当に有名な会社みたいだけど」  その言葉に、蟇郡は振り向いて臨也に詰め寄った。  巨体が覆いかぶさるようにして、臨也にプレッシャーを与える。 「なんだと?REVOCS社は世界各国に進出している大企業だ、知らぬということはあるまい。  鬼龍院財閥とて同様、遍く世界に名の轟いている財閥だぞ」 「いや、僕もそんな会社は聞いたことがないな」 「なっ!?」  臨也のみならず切嗣にも否定され、蟇郡はひどく動揺した様子を見せた。  蟇郡からしてみれば、世界の常識を否定された気分なのだから当然だろう。  そしてこの反応は、臨也にある推測をさせるのに充分だった。 「どう思う?衛宮さん」 「……文字通り、住む世界が違うということなのかな」 「そう思うよねぇ、やっぱり」 「どういうことだ?」  臨也と切嗣が頷き合うのを見て、蟇郡は首を傾げる。  それを見た臨也は、口元に笑みを作り、得意げに推論を話し始める。 「蟇郡君にとっての常識と、俺や衛宮さんにとっての常識が違ってる。  これってつまり、“世界が違う”か“時代が違う”って考えるしかないんじゃない?」 「……?」  意味が分からないという顔をする蟇郡を尻目に、臨也は再び歩き出した。  それを見た蟇郡は、思い出したように臨也の後を追ってくる。 「君と俺の住んでいる世界は、異なる世界ってこと。  平行世界(パラレルワールド)とか、そういうのを想像すると理解しやすいかな」 「馬鹿な……?タイムマシンでも使ったというのか?」  蟇郡はにわかには信じがたいようで、臨也に不審そうな目を向けている。  そんな視線を受け流し、臨也は蟇郡に向けて単語を列挙し始めた。  ひとつひとつ、ゆっくりと、蟇郡の反応を横目に見ながら口にする。 「『平和島幽』『聖辺ルリ』『殺人鬼ハリウッド』……」 「ん?なんだ突然」 「今挙げた単語で聞いたことのあるものは?」  臨也が並べ立てた単語は、全国民が知る、とまでは言えないが、それなりにメディアに触れていれば記憶に残る程度の知名度がある。  『首無しライダー』も池袋界隈を沸かせたが、そのような都市伝説とはわけが違う。 「どれも知らないな。殺人鬼など聞いたことも――」 「あれー、おっかしいなぁ。どれも俺の世界ではテレビで話題になった、常識みたいなものなんだけど」  臨也の言葉に、蟇郡は言葉を詰まらせた。  蟇郡の世界での常識を臨也が知らないだけならば、蟇郡にとって臨也は単なる世間知らずな人間である。  だが、臨也の世界の常識を蟇郡が知らないということになれば、双方向に未知の事実が存在していることになり、臨也の平行世界説を補強する。  蟇郡の反応は、そういう意味で臨也の思惑通りであった。 「……納得はできんが理解はできた。  つまり、あの少女には異なる世界を移動する手段があるということだな」  だが、直後の蟇郡の適応の速さは、臨也にとって少し予想外だった。  もともと蟇郡は、風紀委員長を務めるだけあって堅物なのは間違いないが、だからといって柔軟な思考ができないわけではない。  極制服や生命繊維など、一般的な感性からすれば超常の存在を知識として持っている。  パラレルワールドという超常現象も、理解しようとすればできるのだ。 「ま、タイムマシンっていうのも可能性としてはありだよね。  となると俺からしてみれば、蟇郡君は未来の人ってことになるんだけど。  ……衛宮さん、時間や空間を移動する、魔法めいた方法に心当たりはない?」  臨也は軽い調子で、ほとんど喋っていない男性に問いかける。  臨也にとって、この質問自体に大した意味はない。  むしろ“切嗣がどう返答するか”を期待するところが大きい。  切嗣が臨也の性質を見極めようとしているように、臨也も切嗣を観察し分析しようと試みていた。  この島に来てから、既に空条承太郎という面白い『人間』を見つけていたが、それはそれ。  飽くなき探求心にも似た貪欲さを発揮して、臨也は切嗣が『人間』なのか否かを観察して判断する。  その手段として、映画館で承太郎にしたように、カマをかけた。  とはいえ、まだ切嗣は底が知れない相手であったから、先刻のようにナイフを向けたりはせず、言葉の上での問答を用いたのだ。 「……どうかな。ただ、僕としては折原君の意見を尊重したいと思うよ」  そんな意味を含んだ問いかけに、目を伏せて答える切嗣。  第三者からすれば肯定とも否定ともつかない曖昧な返答であったが、臨也は言外に切嗣の意志を感じ取った。  それは“尊重”という一つの単語だ。  この単語、出会って間もない相手に使うには非常に違和感があるし、かといって、いい大人が誤用をしてしまうような難単語ではない。  つまり、臨也に対してプラスの感情を抱いていることを、切嗣が婉曲的に表現した、と臨也は考えた。  好意的で楽観的な解釈ではあるが、臨也は半ば確信していた。 (シズちゃんを嵌めたのは間違いなくこの人だろうし、出来ることなら、二人だけで話したいね……)  ただ、切嗣をより深く理解するには、二人きりでの対話が必要だと臨也は判断する。  返答が曖昧であったのも、一対一の状況ではなかったことが原因であると推測できる。  臨也としては、初対面であろう平和島静雄を嵌めた理由などは、是非とも尋ねてみたかった。  ゲームセンターで対話の場が設けられれば万々歳、臨也はそう考えた。 「それより、そろそろゲームセンターが見える。ほら、あれだ――」  その声に、臨也は思考を切り替えて、切嗣の指さす方を見た。  歩く速度はラビットハウスを出た直後に比べれば落ちていたが、それでも歩みを進めていた以上、目的地には辿り着く。  三人の目には、周りの建物よりひときわ高い、ゲームセンターが見えていた。 ■  ゲームセンターの探索を始めてからしばらく経った雄二は、些か拍子抜けしていた。  三階までくまなく探索したが、期待した成果は何も得られていない。  プライズゲームが主な一階では、リゼがゲームの景品に目を奪われてしまい多少時間を喰ったが、肝心の探索は緊張感を持ちつつ淡々と進んだ。  それなのに、参加者はいない。目立った箇所もない。  時計を見ると、既に三十分以上を費やしている。  ここの探索が無駄足で終わるのではないかという不安が、雄二の頭にはよぎり始めていた。 「意外と何もないな。普通のゲームセンターって感じだ」  近くにいたリゼも、緊張感を失ったのか、だいぶ表情が柔らかくなっている。  無駄に緊張しすぎるのもよくないため、これはむしろ良い傾向だと雄二は考えた。 「そうだな。例の壁に開いた大穴は、おそらく次のフロアだろう。  なにかしら手がかりが残されていればいいんだが」  言いながら階段を上って行き、新たなフロアへと足を踏み入れる。  紹介文によれば『ビデオゲーム・対戦ゲーム』が中心のフロアで、今までと同様に騒がしかったが、それとは別のことを雄二は感じ取った。  風が入り込んでいるのは、開けられた大穴からだろうと推測できる。  その風に乗って、何かが雄二の鼻腔を鈍く刺激する。 (これは――血の臭い!?)  戦場で何度も嗅いだ臭いに、雄二は足を止め、緊張を募らせた。  しかし、リゼは今までのフロアで緊張してきた反動か、さして警戒した様子もなく、機械的に探索を進める。  その理由は、リゼが血の臭いをかぎ分けるだけの経験がなかったこともあるだろう。  また、探索することに慣れてしまったこともある。  どちらにしても、リゼ自身が気づいて抑制することはできなかった。 「リゼ、不用意に進むな!」 「でも壁を壊した犯人は外にいるんだろ?  だったら平気で…………っ、いやああああっ!!?」 「くっ!」  悲鳴と同時に、きれいに腰を抜かすリゼ。  雄二は急いで駆け寄ると、リゼが見ている方向へと視線を向けた。  そこにあったのは、頭がゲーム筐体の下敷きになっている人間の姿だった。 「しっ、死んでるっ……!」 「……」  それがもはや動き出さないことは、誰が見ても明らかであった。  全く動けない様子のリゼは落ち着くまで放置することにして、雄二は遺体の元へと歩み寄る。  顔は見えなくても、体型から遺体が少女だということは簡単に判別できた。  雄二は慎重な手つきで、メイド服の下も含めて身体を検分する。  それはたった数分で終わった。目立った外傷も、内出血も、暴行された形跡もなかった。  メイド服も汚れたり破れたりはしている箇所はない。  しかし、何故か下着を“はいてない”ことには流石の雄二も困惑した。 (いや、落ち着け。こういう趣味ということも考えられる)  雄二は冷静に状況を調べることを続けた。  まず、頭部以外の肉体には傷らしき傷がないと分かったが、肝心の頭部を潰している凶器は、百キロはあるだろうゲームの筐体だ。  これで頭部を潰すのは、そうとうな力がなければできないと予想できる。  それこそ外の破壊を行えるような馬鹿力が必要だ。 「な、なあ……ちょっといいか……?」 「ん?……あぁ、気を付けて行ってくれ」  声に振り返ると、そこでは顔色の悪いリゼが口元を押さえていた。  死体を見たことで嘔吐感に襲われたが、かろうじてその場で吐くことを留まったのだろう。  雄二はそう判断して、すぐにリゼをお手洗いのマークがある方へと促した。  リゼは矢も盾もたまらずといった様子で駆け出した。  そしてその瞬間に、雄二は電流が走ったような感覚に襲われた。 (まさか、この少女が下着を付けていない理由は――!)  雄二はフロアの中をくまなく探索した。  そして、雄二の仮説を裏付けるものが、このフロアには存在した。  サイズからして少女の物と思われる、下着を含めた脱ぎたての衣服である。  雄二は僅かに湿ったそれをまじまじと見つめながら、これがこのフロアにある意味について考えた。  そして考えをまとめると、上階への階段へと急いで向かった。 ■  ゲームセンター内のトイレにて。  リゼの脳内では、先程見た死体がフラッシュバックしていた。  力なく床に横たわった小さな身体と、周囲に飛び散った赤黒い血液。  ゲームセンターという日常に近い場所で、殺人が行われたという事実は、平凡な日常を過ごしてきたリゼに強い衝撃を与えた。 (チマメたちと同い年くらいの女の子が、頭を、潰されて――!!!) 「うぶっ……」  あまつさえ、リゼ自身や知り合いが物言わぬ死体となった瞬間を想像してしまい、リゼは堪え切れず嘔吐した。  そうして胃液まで出し切って落ち着くのには、数分間を要した。 「はぁーっ……はぁ……」  洗面台を汚した吐瀉物を水で流して、リゼは鏡を見た。  その顔は自分の目から見ても酷いもので、リゼは両手で顔をぴしゃりと張った。 「チノやココアたちを、あんな風に死なせちゃいけない……!」  自分への戒めの言葉を呟いて、リゼはトイレを出た。  一番近いトイレは二階にあったため、雄二のいる四階に戻るには階段を登らなければならない。  そのことに多少の疲れを感じながら、階段に足をかけようとしたその瞬間。 「そこの女子!貴様も参加者か!?」  質量を持ったような声が、リゼを背後から襲ってきた。 「ひっ!?」  いくら自分を戒めようが、背後から突如大声で呼びかけられたら、緊張に身体を震わせてしまうのは当然だろう。  リゼは後ろをゆっくりと振り返る。  そこにはリゼよりも、同行者の雄二よりも更に大きい男が立っていた。 (まさか、この人が……?)  蟇郡の巨体を見て、ゲームセンター前の破壊活動を行ったのはこの人物ではないか、とリゼが考えるのもまた、道理であろう。  なにせ蟇郡は、自動販売機よりも大きい身の丈をしているのだから。  しかし、リゼが抱いたその不安は、良い意味で裏切られた。 「あのさぁ……どうして怖がらせるようなことするの?」 「え……」  黒服の巨体の背後から、別の人間が現れたことで、リゼは叫んで雄二を呼ぶことを思い止まった。  未だに警戒は解かないものの、相手の話を聞くことに集中する。 「いやぁ、ごめんね怖がらせちゃって。この人いつもこんな感じなんだ。  俺は折原臨也。こっちは蟇郡苛。あともう一人いるんだけど、その人は周囲を捜索してから来るみたい。  俺たちは目的があってここに来たんだけど……。  って、いきなりすぎたかな。よかったら名前を訊かせてくれるかな?」 「……私は天々座理世だ」  両掌をリゼに向けながら、笑顔を見せて警戒を解こうとする臨也。  実際のところ、臨也の整った容姿と丁寧な対応、優しい声音によって、リゼはこの時点で半ば信頼しかけていた。  同時に、相手の状況を把握したことから冷静さが生まれて、普段の調子で返答が出来るまでに回復していた。 「そっか、リゼちゃんっていうんだね。  随分顔色が悪いけど、どうしたのかな?  ……もしかして、女の子が死んでいるのを見ちゃった、とか?」 「っ!?」  このとき、リゼは緩めていた警戒を再び引き締めようとした。  具体的には、距離を取って拳銃に手を伸ばそうとしたのだ。  だが、こと言葉の上での駆け引きにかけて、情報屋はあまりに有利であった。 「ああ、警戒させちゃったみたいだね。  実は俺たちがここに来た理由の一つが、その女の子の遺体を調べることなんだ。  あまり大声じゃ言えないんだけど、俺の知り合いが殺したかもしれなくってさ」  拳銃に伸ばしかけた手を硬直させ、リゼは臨也の語る内容に耳を傾けた。  臨也はリゼに気付かれないように薄い笑みを浮かべ、すらすらと淀みなく話し続ける。  “立て板に水”とはこのことである。 「リゼちゃんも見ただろう?ここの近くが、めちゃめちゃになっていたのを。  自販機が倒されていたり、このゲーセンの壁に大穴が開いていたり。  あれをやったのも、そいつの仕業なんだよ。  だから俺たちは、その女の子の遺体を調べて、確固たる証拠を見つけたいんだ」  確かに理屈は通っていると、リゼは思った。  女の子の頭部を潰していたのはゲームの筐体で、かなりの重さがありそうだった。  あれを持ち上げて落としたのだとしたら、それこそ巨体の蟇郡でもないと不可能な芸当だ。 「どうかな、信頼して貰えたかい?」 「えーっと……」 「なるほど。あの女の子が誰に殺されたかは、俺も興味がある。是非とも聞かせて貰えないか」  リゼの背後から、階段を下りてきた雄二が臨也に声をかけた。  片手には支給品のキャリコを油断なく構えている。  戻ってこないリゼを心配してか、それとも蟇郡の声が聞こえたからか、様子を見に来たらしい。 「それじゃ、情報交換といこうか」  そう呟いた臨也の声を、リゼはとても愉快そうだと感じた。 ■  ゲームセンターの五階。  五人の参加者の情報交換は、切嗣が予想したより遙かに早く終了した。  というのも、風見雄二と天々座理世の二人は他の参加者と遭遇していないらしく、情報らしい情報は知り合いの名前しかなかったのだ。  一方の切嗣たちが持つ情報は、主に臨也が伝えた。  空条承太郎、一条蛍、そして香風智乃。ラビットハウスで待っている三人の名前。 「本当か!?ラビットハウスにチノが!?」 「間違いない。俺は香風にコーヒーを振る舞われた」 「そうか……よかった……生きてて……」  そんなやりとりをしてから、次に臨也と蟇郡の知人の名前が伝わった。  臨也から園原杏里と平和島静雄の、蟇郡から針目縫の危険性について強く語られたリゼは、安堵した表情を一転して引きつらせていた。  その後は、遺体となっていた少女の名前が越谷小鞠であること、支給品は盗難を懸念して預かっておいたことを切嗣が説明した。  さらにそれが終わると、臨也が再び平和島静雄を貶すことに終始した。 「じゃあ、その静雄って人がゲームの筐体を投げて……」 「ああ。そうに違いないよ。  外の暴風が通ったみたいな破壊の跡は、間違いなくシズちゃんだ。  監視カメラでもあればよかったんだけどね……生憎ここのはダミーみたいだし」  臨也は静雄の危険性をオーバーに話しながら、ときおり切嗣と視線を合わせてくる。  なにもこの瞬間だけでなく、ゲームセンターについてから、臨也はまるで切嗣に協力するかのような行動を取っていた。  例を挙げると、蟇郡が筐体を持ち上げたときがそうだ。  切嗣は筐体の下から灰皿の破片が発見されないか焦ったが、臨也の過剰な反応のお陰で、全員の視線が頭部に集中して事なきを得た。  遺体に適当な毛布がかけられて、砕けた灰皿が再び筐体の下に隠れてから、臨也がこちらを見てきたのは偶然ではない、と切嗣は考える。  臨也は切嗣の所業を理解しており、自分に協力する意思があると切嗣は確信していた。 「生身の人間なのに、あれだけの破壊を行えるのか?」 「ああ、池袋でもことあるごとに大暴れしてるよ。  その強さたるや、見た人からは“最強”って呼ばれてるくらいだ。  この殺し合いの場で放っておいたら、どんな被害を出すか分からない」  ラビットハウスを出てから、折原臨也の動向を観察していた切嗣は、一つの結論を出していた。  それは臨也が「同盟関係を組むのに相応しい相手である」ということ。  至極冷静な人物で、並行世界の可能性を考え付く程度には頭の回転も速い。  リゼの信頼をそれなりに得ている辺り、コミュニケーション能力も申し分ない、そして口がよく回る。  切嗣が交渉材料を持ち出すより早く、切嗣の犯罪を擁護するという形でフォローを入れる駆け引きの上手さもある。  協力できれば心強い人間だ――裏を返せば、引き留めておかなければ利用されかねない。 (そうなると、折原臨也と対話したいところだ)  目下のところ、切嗣が欲しいのは臨也と二人きりで対話をする機会だった。  とはいえ都合よく事態は進まないもので、情報交換が終わり、臨也は雄二と行動方針について熱心に話し合っている。  無理に二人きりになろうとすれば、怪しまれる可能性がある。  そして、全員でラビットハウスへ向かうことで話が固まりつつあったとき。 「あの、なんか変な声が聞こえるような……?」  この場でただ一人の女性であり、萎縮したのか知り合いの情報を話すとき以外は黙っていたリゼが、ここで口を開いた。  切嗣が耳をすますと、確かにそれまではしなかった音がBGMに混じって聞こえる。 「声?……ああ、確かに。上のフロアかな?」 「ならば俺が見て来よう」  臨也が天井を仰ぎながら言うと、それに対して蟇郡が腰を上げた。  流石は風紀委員長といった堂々とした様子で、声のする上階への階段へと向かう。 「いや、全員で行った方がいい。……何があるか分からないからな」  結果的に雄二の提案通り、五人は蟇郡を先頭に階段を上がった。  当然のことながら、広さや奥行きはそれまでのフロアと変わらないが、それまでと違い、ゲームのBGMなどが響く中で、耳に残る声がする。  雄二たちも未踏だった『ギャンブルゲーム』のフロアの壁に、本来ならばゲームに使用されているのであろう大きな画面がある。  そこに映っていたのは、ゆったりとしたローブを幾重にも重ねて着ている、長身の男であった。  遠目から見える不気味なインスマス面にも、独特な抑揚のためか芝居めいて聞こえる話し方にも、切嗣は嫌というほど心当たりがあった。  画面に近づいて確認するまでもなく、その男は自ら名乗りをあげた。 『此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します』  切嗣以外の人間は、不快感と好奇心が入り混じったような表情をしている。  キャスターが口上を述べ終えると、三人の少女が映像に映された。  少女たちは、明らかな不審人物を前にしても微動だにせず、不自然に身体の一部を隠されていた。  キャスターによる放送という時点で、切嗣はある程度予想をしていたが、少女たちの様子からある確信に至った。 「この女の子たち、大丈夫なのか……?」 (いや、あの少女たちは生きて帰れないだろう)  恐怖と困惑の混じった顔のリゼの呟きを、切嗣は声に出さず否定した。  切嗣はキャスターの主従が冬木市において、聖杯戦争とは無関係の連続殺人を行っていたことから、その危険性を理解している。  しかも、キャスターがセイバーとアイリに接触した際に名乗った名は、放送でも本人が名乗ったように“ジル・ド・レェ”だ。  百年戦争の終結に貢献しながら、その後は黒魔術に耽溺、大勢の少年を虐殺したことで知られる、フランスの英雄の一人。  異常な人物であることは疑いようもない。  更に、それが聖杯戦争において魔術師(キャスター)の英霊として呼ばれたのだ。  純粋な戦闘力だけであれば最弱のクラスであるキャスターが、勝利するために取る手段は一つ。 「罠クサいねぇ、これ」  映像を見て呟いた臨也の言葉に、切嗣は心中で頷いた。  魔術師のクラスはその特性上、強力な魔術工房と権謀術数を駆使して戦争を勝ち抜かなければならないのだ。  霊力の強い土地に自らの陣地を作り、その場に他の英霊を誘き寄せて、圧倒的に有利な場所での戦闘を行う。  キャスターの放送で映された三人の少女は、いわば食虫植物が放つ甘い匂いのようなもの。  それに釣られて寄って来た参加者を、新たな犠牲とするつもりに違いない。  切嗣はこの時点で、準備もなしに行動することは危険だと判断していた。 『不肖ジル・ド・レェ、僭越ながらこの可憐な少女達を保護させて頂いております。  ご友人の方々は是非とも放送局までお越し下さい。彼女達もきっと喜ぶことでしょう』  切嗣や雄二が地図を確認して、放送局の場所を確認する。  とはいえ、キャスターの口車に乗って放送局に向かおうと提案する者はいなかった。  たった一人を除いては。 「間違いない……あれは満艦飾だ!」  切嗣が階下に戻ろうと歩み始めたそのとき。  映像が途切れても画面を凝視していた蟇郡が、ゲームの音声をかき消すほどの大声で叫んだ。  どうやらキャスターが引き連れていた少女たちの中に、知り合いがいたらしい。  それを聞いた切嗣は、蟇郡の次の発言、及び行動が予想できた。 「……俺はラビットハウスには行かず、直接放送局へと向かせてもらう!」  薄々感づいてはいたが、切嗣は蟇郡の思考があまりに単純なことに溜息をついた。  騎士道精神を持つセイバーやランサーよろしく、誰かのために忠義を尽くすタイプの人間であるらしい蟇郡は、友人の保護を選択した。  しかも、単騎で魔術師の陣地に突入するというのだ。  サーヴァントの脅威を知る切嗣はもとより、そうでない者でも無謀だと感じるだろう。  しかし、当の蟇郡の瞳は決意に燃えており、前言を撤回する様子は微塵もない。  キャスターの連れてきた子供たちを守ろうと、強く切嗣の名を呼んだ騎士王の姿を思い出し、切嗣は舌打ちをしたい気分になった。 ■  蟇郡の頭の中は、満艦飾を救うということでいっぱいだった。  蟇郡は同じ四天王の犬牟田と違い、思慮が浅いことは自覚しているが、それでもキャスターの放送が罠であることは理解できた。  しかし、それを考慮してもなお、満艦飾を保護するべきだと考えたのだ。 「天々座、香風への言伝を頼めるか。『放送局に行き友人を保護してくる』と」 「あ、ああ。分かった」 「それと、風見。これを渡しておこう。元は香風の支給品だが、俺が持つよりはいいだろう」  雄二に、蟇郡は腕輪探知機の入ったカードを手渡した。  黎明に使って以来、だいぶ時間が経っていることを思い出し、参加者が増えている可能性が蟇郡の頭をよぎったが、実際に口には出さなかった。  それ以上に、ただただ満艦飾のことが心配だった。  雄二は受け取った探知機をポケットにしまうと、はやる蟇郡に対して尋ねた。 「移動手段はどうするんだ?」 「む……」  この雄二の質問には、それまで即決してきた蟇郡にも迷いが生まれた。  放送局があるエリアと、現在地との距離を鑑みるに、徒歩ではどう考えても時間がかかりすぎる。  一刻も早く放送局に行きたい蟇郡は、迷ったような視線を切嗣に向ける。  切嗣がコシュタ=バワーを保持していることを知ってのことだ。 「構わないよ。蟇郡君、これを」 「だが、それでは俺が一方的に好意に甘んじることに……」  視線に、切嗣は快く応じた。  一方、コシュタ=バワーの入った黒カードを渡された蟇郡は、少し負い目を感じて受け取ることを渋った。  蟇郡の支給品は本人支給の極制服のみ。お返しにと切嗣に渡せる道具はなにもないのだ。  無意識に物欲しげな視線を送ってしまった自分自身を、恥じる気持ちもあった。 「いや、君の支給品はその学生服……極制服だったかい?  それしかなかったんだ。気にすることはないよ」  しかし、蟇郡の心配をよそに、切嗣は気遣う言葉さえかけてきた。  蟇郡は思う。衛宮切嗣のような親切な人間と出会えたことは幸運であったと。 「……恩に着る。では、俺はこれで」  蟇郡はコシュタ=バワーを取り出すと、念じて愛用の車の形にした。  念じただけで変化する不思議な物質に興味を抱くこともなく、蟇郡は西を見据えている。 「待っていろ、満艦飾……すぐに行く」  満艦飾はよくわからない人物だが、こんなところで殺されていい人間ではないと断言できる。  本能字学園の風紀部委員長は、大事な生徒を保護するために、一路放送局を目指す。 【G-7/一日目・早朝】 【蟇郡苛@キルラキル】 [状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度) [服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放 [装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形) [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)    黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル [思考・行動] 基本方針:主催打倒。    0:放送局に行き、満艦飾を保護する。待っていろ。    1:平和島静雄が殺し合いに乗っている人物だと皐月様に報告せねばならない。    2:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。    3:針目縫、平和島静雄には最大限警戒。 [備考] ※参戦時期は23話終了後からです ※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。 ※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。 ■  勢いよく放送局へと走り去った蟇郡を見送ると、臨也は雄二たちに向けて言った。  その顔には、情報交換の頃からずっと、柔和な笑みが浮かんでいる。 「じゃあ、ここは俺と衛宮さんで探索しておくから、風見君たちはラビットハウスに行ってよ」 「え、いいのか!?」  リゼはこの提案に二つ返事で承諾した。  知り合いを心配していたリゼならば、当然の反応だろうと雄二は考える。  しかし、雄二は違う。ある懸念事項が雄二の心中に渦巻いていた。 「できることならもう少し探索したいんだが」 「やだなあ、風見君。リゼちゃんを一人にするつもりかい?  この島に来てからずっと一緒なんでしょ?一緒に行ってあげなよ。  俺や衛宮さんが一緒に行ってもいいけど、それはリゼちゃんにとっても負担じゃない?  さっき知り合ったばかりの大人と一緒にされるよりは、風見君が一緒の方がいいと思うけど」  ところが、ゲームセンターに残るという案は臨也によって否定された。  その反対意見の理屈も通っている以上、無碍にすることもできない。  リゼを保護するというのが最初の目的であったことも、雄二にそれ以上食い下がることをさせなかった。 「それに、もうこの上の階層には、参加者はいないはずだから、そんなに人手もいらないしね」  そう言って手をひらひらと振る臨也。  口調だけでなく動作も軽いが、しかし隙らしい隙は見せない。  情報屋というのは、そういった技術も必要なのだろうかと雄二は考える。 「……そうか。なら言葉に甘えて、俺たちは先にラビットハウスへと向かう」 「ああ。リゼちゃんは一刻も早くチノちゃんに会いたいだろうしね」  口元に笑みを絶やさずに喋る臨也の姿は、雄二に胡散臭さを感じさせた。  とはいえ、相手が胡散臭いというだけで食って掛かるのは、短絡的が過ぎる。  雄二の背後でリゼがそわそわとしていることも手伝って、最期まで雄二には効果的な反論が思いつかなかった。 「それじゃあ、俺たちもすぐ行くからさ!承太郎君たちによろしくね」 「道中は気を付けてくれ」  そう言うと、臨也と切嗣は再びゲームセンターの店内へと入って行った。  雄二はリゼを促して、共にラビットハウスへと歩き出す。  すると、ゲームセンターから少し離れたところで、リゼが雄二に話しかけた。 「風見さん、どうしてゲームセンターに残ろうとしたんだ?」  心から不思議そうな声で問うリゼに、雄二は質問で返した。 「越谷小鞠を殺害した犯人は誰だと思う?」 「え?平和島静雄って人なんだろ?」 「どうしてそう思った?」 「どうしてって……それは……ゲーム機を投げられる馬鹿力があるらしいし……。  それに、衛宮さんは壁を壊して出てくるところを見たって言っていたじゃないか」  リゼの意見はもっともだった。  平和島静雄について、折原臨也は危険性を証言し、衛宮切嗣は壁を破壊したことを証言した。  二人の発言を全て信じるならば、越谷小鞠の殺害犯は確定したのも同然だ。  しかし、雄二は蟇郡一行と情報交換をしてから、ある一つの可能性を思い浮かべていた。 「そこが引っかかるんだ。  平和島静雄が殺人犯だと判断できる情報は、現状では伝聞されたものしかない」  例えば、犯行の瞬間を捉えた映像や音声。  或いは、被害者の越谷小鞠によるダイイングメッセージ。  平和島静雄の凶行を証明する、物的証拠が存在しない。 「あくまで可能性の話だが……全部が全部、嘘ということも考えられる」 「まさか!?」  リゼは大きな声を出して、それが早朝の街に響いたことに驚いて口を噤んだ。  しかし、困惑した視線を引き続き向けてくるのは変わらない。  困惑しているのは雄二も同様だった。  ただ越谷小鞠の遺体が置いてあるだけなら、悩むことはなかった。  だが、越谷の服と、その後に駆け足で探索した上の階層で、不自然に荒らされていたプリクラの衣装が、雄二の頭を悩ませた。 (あの濡れた下着と、プリクラの試着室から越谷の着ていたものと同じ型のメイド服が漁られていたことから考えられる仮説がある。  『平和島静雄が下着を濡らした越谷小鞠のため、メイド服を上階から調達した』というものだ。  ……この仮説がもし正しいとしたら、平和島静雄はそもそも殺人を行うような人物とは思えない)  平和島静雄は本当に犯人なのか?という疑い。  それは殆どが雄二の推測であり、確実性は臨也や切嗣から伝え聞いた情報と大差がない。  “平和島静雄の犯行ではない”ことを証明するのは、悪魔の証明に近いものがある。  だからこそ、雄二は全員の前で言い出さなかった。  殺人を犯していようがいまいが、平和島静雄が危険であるという事実は、ゲームセンター周辺の惨状から見て明らかだ。  それを徒に覆して場を混乱させるのは、得策ではないと判断した。 「とはいえ、現状では平和島静雄にだけ気を付けていればいいだろう」 「そ、そうだな。なんたって壁を壊すほどの奴だからな……」  そう言いながらも、雄二は仮説を打ち立てていた。  平和島静雄が壁を破壊したときに、それを目撃していたということは、即ち近辺にいたということになる。  腕輪発見機の反応のことを考慮に加えると、越谷小鞠を殺害できるのは二人だけなのだ。  そう、平和島静雄を除けば、あと一人。 (衛宮切嗣――この男が平和島静雄に罪を着せた……?)  雄二はこの仮説を、リゼにすら話さない。  雄二は目の前の事象は信じることを決めているが、翻せばそれは不確定な情報で思考を縛ることをしないということだ。  切嗣が越谷小鞠を殺害したとして、その動機も殺害方法も、何ひとつ判明していない。  そこまで考えると、雄二はかぶりを振って思考を断ち切った。  雄二は切嗣への疑念を、あくまで一つの可能性として、留めておくだけにした。 (それにしても、あのキャスターとかいう男……)  雄二は続けて、ジル・ド・レェと名乗った男について考えを巡らせた。  テレビ放送を流すことで、参加者を誘き寄せようとしている危険人物なのは明白だった。  だが、それ以外にも雄二の心に引っ掛かるものがあった。  ある男と声が似ていたのだ。  雄二の父親と絵画を通じて関係があり、身寄りを失った幼少の雄二を引き取って人形めいた扱いをした男。  雄二の殺人マシンとしての才能を見込んで、少年兵を育成する施設に送り込んだ男。  雄二の師匠、日下部麻子らによる館の襲撃の際に姿を消した男。 (似ていた……ヒース・オスロ、あの男に……)  雄二にとっては快いものではない記憶が想起される。  このとき、雄二の中の心的外傷(トラウマ)が疼き始めていたことに、雄二自身もまだ気付いてはいなかった。 【G-7/一日目・早朝】 【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】 [状態]:健康 [服装]:美浜学園の制服 [装備]:キャリコM950@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)     黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実 [思考・行動] 基本方針:ゲームからの脱出    1:天々座理世を護衛しながら、ラビットハウスに向かう    2:入巣蒔菜、桐間紗路、香風智乃、保登心愛、宇治松千夜の保護    3:外部と連絡をとるための通信機器と白のカードの封印効果を無効化した上で腕輪を外す方法を探す    4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒    5:ステルスマーダーを警戒    6:平和島静雄、衛宮切嗣、キャスターを警戒 [備考] ※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。 ※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛と情報交換しました。 ※キャスターの声がヒース・オスロに似ていると感じました。 【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】 [状態]:健康 [服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ [装備]:ベレッタM92@現実 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)      黒カード:不明支給品0枚、越谷小鞠の服(下着込み) [思考・行動] 基本方針:ゲームからの脱出    1:チノがいるラビットハウスに向かう    2:風見さんと一緒にチノ以外の友人も探す    3:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい    4:平和島静雄、キャスターを警戒 [備考] ※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛と情報交換しました。 ■  蟇郡苛が去り、風見雄二と天々座理世が去ったゲームセンター内。  騒がしいフロア内で、二人の男が相対している。  かたや笑みを浮かべており、かたや一貫して無表情を崩さない。 「さて、と。衛宮さん、やっと二人でお話しできますね」 「ああ……こればかりはあのジル・ド・レェに感謝しないといけないな」  切嗣は軽口を叩いて臨也を見据える。  有用な人物に協力を取り付けるせっかくの好機を、逸する訳にはいかない。  幸いなことに、臨也にも切嗣と対話をするつもりがあるようだ。  切嗣は噛み煙草を口に含みながら、どう交渉したものかと思案を巡らせた。 【G-7/ゲームセンター内/一日目・早朝】 【衛宮切嗣@Fate/Zero】 [状態]:健康、緊張感 [服装]:いつもの黒いスーツ [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)      黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS           蝙蝠の使い魔@Fate/Zero           赤マルジャンプ@銀魂           越谷小鞠の不明支給品0~2      噛み煙草(現地調達品) [思考・行動] 基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う    1:折原臨也を利用する。そのために臨也と対話。    2:1の後、ラビットハウスの一団からも改めて情報収集をする    3:平和島静雄とは無理に交戦しない    4:有益な情報や技術を持つ者は確保したい    5:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない [備考] ※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。 ※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。 他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします ※空条承太郎、折原臨也、一条蛍から知り合いと危険人物について聞きました。 ※風見雄二、天々座理世と情報交換しました。 【折原臨也@デュラララ!!】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)     黒カード:不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:生存優先。人間観察。     1:とりあえず衛宮切嗣は『人間』なのかどうか観察。そのために切嗣と対話。     2:俺が何もしていないのにシズちゃんが自分から嵌められてくれた。     3:空条承太郎君、面白い『人間』だなあ。     4:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。 [備考] ※空条承太郎、一条蛍と情報交換しました。 ※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。 ※風見雄二、天々座理世と情報交換しました。 *時系列順で読む Back:[[195×(144+164)]] Next:[[その覚醒は重畳]] *投下順で読む Back:[[195×(144+164)]] Next:[[その覚醒は重畳]] |032:[[グリザイアの兎]]|風見雄二|:[[]]| |032:[[グリザイアの兎]]|天々座理世|:[[]]| |047:[[殺人事件]]|衛宮切嗣|086:[[『犯人』に罪状が追加されました]]| |047:[[殺人事件]]|折原臨也|086:[[『犯人』に罪状が追加されました]]| |047:[[殺人事件]]|蟇郡苛|095:[[あげたかったのは、未来で]]|
*寸善尺魔 ◆X8NDX.mgrA  夜道を三人の男が歩いている。  先頭は蟇郡苛、その少し後ろに衛宮切嗣と折原臨也。  各々デザインは違えども黒を基調とした服装をしており、傍目から見るとかなり怪しい。  それどころか、黒ずくめの服装と独特な風貌が合わさって、非常に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。    先頭を往く蟇郡苛。彼の眼光は鋭く、しっかりと前を見据えている。  本人にしてみれば進行方向を見ているだけなのだろうが、その視線は一般人を委縮させるのには十分なものだ。  二メートルはあろうかという大男なのも、誤解を生む原因足り得るだろう。  次に衛宮切嗣。一見すると普通の男性だが、その眼は明らかに死んでいる。  虚無を感じさせる黒々とした双眸から、感情の類を読み取ることは難しい。  これが正義の味方を目指した男だと、誰が想像するだろうか。  最後に折原臨也。彼は一見すると整った顔立ちの青年だ。  威圧感も虚無感も持ち合わせておらず、ただその内心では、人間への貪婪な好奇心が膨らみ続けている。  一見すると危険性に気付かない、という意味では一番危険な男である。  そんな三人が、行動を共にしている。  目的地はゲームセンター。殺人事件の現場に向かい、現場を調査するのが主な目的だ。  もっとも、三人のうち二人は密かに別の目的を持って動いているのだが。 「ねえ蟇郡君、腕輪探知機の反応はどう?」  ラビットハウスを出てから会話らしい会話をしていなかった三人の間に、きっかけを作ったのは臨也だった。  といっても、腕輪発見器の人数を確認するだけのこと。  形式的と言えばそれまでだが、どうやら蟇郡は忘れていたらしく、探知機を取り出して操作した。 「む?これは……」  立ち止まり、怪訝な声を出した蟇郡に、臨也と切嗣は近づいていく。  蟇郡は振り返ると、二人に人数の表示を見せた。  しかめっ面の蟇郡に対して、臨也は興味深そうな声を漏らし、切嗣は眉を僅かにひそめた。  ラビットハウスで確認した際には「7」だった数字が、「9」に増えていたのだ。 「参加者が増えたか……平和島静雄と遭遇していなければいいが」 「このエリアに来たってことは、当然目指すのはゲームセンターかラビットハウスだろうし、もしかしたら承太郎君たちの方に行ったかもね」 「なんにせよ、危険人物でないことを願いたいな」  名も知らない参加者の身を心配する蟇郡。  不安を煽るような言葉を吐く臨也。  嘆息と共に結論付ける切嗣。  三者三様の反応を示して、三人は再び歩き出した。 ■  蟇郡たちが腕輪発見機を操作する十数分前。 「あれがゲームセンターか……結構大きいんだな」 「エリアは……G-7だ。間違いないな」  ゲームセンターの外観を見上げながら、二人の参加者が小声で会話していた。  風見雄二と天々座理世。  学生服とメイド服という奇妙な組み合わせの二人だ。  二人は幸か不幸か、他の参加者とは遭遇せずに、このゲームセンターまで辿り着いていた。  支給品の確認をして以降、石橋を叩いて渡りながら来たため、時刻はすでに黎明になって、三十分以上が過ぎている。  そのことにリゼは少なからず焦りを感じているようで、雄二へと早口で話しかけた。 「風見さん、早く入ろう。誰かがいるかもしれない」 「ああ、だが少し待て。……見ろ、あれを」  雄二が指し示す方向を見たリゼは、その惨状に唖然とした。  剥がれた路面に、変な方向に曲がったガードレール。果ては倒れた自動販売機。  交通事故のニュースで流れているような映像が、そのまま雄二たちの目の前にあった。 「恐らくは戦闘があったのだろう。遠目からでは詳しくは分からないが、銃火器が使われた可能性が高いな」 「……じ、じゃあ、まだ近くに……!?」  口を開けたままだったリゼは、雄二のその言葉で現実に引き戻された。  銃火器を持って、しかも戦闘を行うような参加者がこの近くにいる。  リゼも武器は保持しているが、戦闘目的で使用した経験がない以上は素人も同然だ。  危険人物に恐怖が湧いてくるのは必然だった。 (まさか、この近くで待ち伏せをしているんじゃ?)  戦争で警戒するべきなのは、待ち伏せと急襲。その程度の知識はリゼにもあった。  それ以上の恐ろしい想像までしたようで、リゼは恐怖を振り払うように頭をぶんぶんと振る。 (弱気になるな、いざというときには、私がチノやシャロたちを守るんだからな!)  そう自分に言い聞かせるリゼをよそに、雄二は惨状に近づいていった。  地面に落ちた破片を拾ったり、ガードレールの曲がり具合を見たり、抉れた地面をなぞったりしている。  躊躇なく惨状に近づいて行った雄二の後を、リゼは恐る恐るついていった。 「ちょ、ちょっと」 「しっ。……静かに。周囲で何か聞こえるか?」  唇に人差し指を当てた雄二の言葉に、リゼは目を閉じて耳をすませた。  そして十数秒後、ゆっくりと目を開ける。 「……いや、聞こえない」 「そうだな……この近くにはいない、と見るべきか」  こればかりは二人にとって幸いなことに、平和島静雄はこの場にはいなかった。  確かに、越谷小鞠の死体を発見して激昂した静雄は、ゲームセンター周辺にその怒りをぶつけた。  だが、少なくともこの時には、破壊衝動を器物損壊という形で表現することを一旦終えて、宿敵折原臨也を探し回ることに集中していたのだ。  結果として、ニアミスした雄二たちは噴火の余波を受けることはなかった。  それでも、姿なき破壊者の存在は、雄二たちに危険だという意識を植え付けた。  とりわけリゼには、その意識が強く植え付けられた。 「その人物がここに戻ってくる可能性もある。それまでにゲームセンターの中を調べよう」 「ちょっと待ってくれ、その危険人物に知り合いが襲われているかもしれない。  私の知り合いは……襲われたらまず助からない!」  破壊の痕跡を見たためか、リゼは焦りを隠せないでいた。  チノやシャロたちを守ると誓ったリゼにしてみれば、その心配は当然のものだ。  そんなリゼと対照的に、雄二は全く焦った様子はなく、コンクリートの破片が落ちている辺りに屈んで付近の地面を探っていた。  そしてリゼの言葉に、その体勢のまま返事をした。 「落ち着け。よく考えるんだ、居場所も分からない相手をどうやって探す。  それにこんな破壊をやってのける奴に、焦って挑んだところで勝ち目はない」  その雄二の言葉には、説得力が感じられた。  圧倒的な武力の前に、何の対策も講じずに立ち向かうのは、勇気ではなく無謀である。  もしこの惨状が銃火器やそれに類するもので行われたのだとすれば、現在の手持ちの装備では対応しきれない。  このような説明を受けたリゼは、いくらか冷静になって、周囲の破壊の痕跡を確認した。  改めて見ると、破壊の爪痕はただの拳銃程度では再現できそうもないほどに大きい。 「確かに、こんな破壊をするには、バズーカ砲でもないと……」 「いや、もしかすると銃火器は使用していないのかもしれない」 「え?」  前言撤回した雄二の言葉に、リゼは疑わしげに首を傾げた。  リゼにしてみれば、この破壊跡はどう考えても激しい戦闘が行われた結果である。  そのことを反論しようと口を開きかけるリゼだったが、雄二の真剣な眼差しに口をつぐんだ。  雄二は立ち上がって辺りを見渡すと、確信を持った口調でリゼに向けて話し始める。 「この辺りには破壊された跡はあるが、弾痕も無ければ薬莢も無い。  硝煙の臭いが全くしないのも不自然だ。  それにあの倒れた自販機だ。ぶっ倒れて配線は引き千切れているのに、倒れたときにできた傷以外には凹み一つ見当たらない」  銃撃や爆発で倒されたにしては綺麗すぎるのだ、と。  雄二に促され、リゼは二人で倒れた自動販売機を見下ろした。  リゼの目から見ても、弾丸が撃ち込まれたり、刃物で傷つけられたりといった傷は無かった。  そして、その事実がリゼを更に困惑させる。   「でも、それってつまり、素手で自動販売機を倒したり、電信柱を砕いたりしたってことだよな……。  そんなのありえるのか!?」 「俺は実際に目の前にある事象は、何であれ信じることにしている。  ……詳しいことは、あの破壊された壁のあるフロアに行けば分かるかもしれないな」  「破壊された壁」と言いながら雄二が指し示した方を見て、リゼは再び驚愕した。  ゲームセンターの壁に、爆弾で破壊されたような大穴が開いていたのだ。  あの破壊も生身の人間によるものなのだろうかと考えて、リゼは背筋が凍るような感触を覚えた。  ありえない。そう考えたかったが、雄二の意見も否定することはできない。 「もしかすると、『魔術』とやらが関係しているのかもしれないが……」  リゼが混乱の極みにいる中で、雄二はぽつりと呟いた。  アゾット剣の説明にあった魔術という単語が、雄二の心に引っかかっているのだろうとリゼは察した。  とはいえ、雄二にもリゼにも魔術に関する知識が無い以上、それが現実においてどう作用するのかは想像の域を出ない。  雄二もそれ以上は考えを保留にしたようで、リゼに向けて顔を上げた。 「思わぬ時間を食ってしまったな。さっさと探索を済ませよう」 「ああ。……だが、一つ謝らせてくれ。  すまない、風見さん。私はまた動揺してしまったらしい……」  顔を伏せて落ち込む様子を見せるリゼ。  大切な友人たちを心配するあまり、焦って冷静さを欠いていたのはリゼ自身も理解していた。  そして、それを責めずに窘めた雄二に、リゼは申し訳なさを感じていた。  余計な時間を取らせてしまったことは明白だったからだ。  だが、雄二は特に気にした様子もなく、こんな言葉を返してきた。 「ネガティブなイメージが沸くのは、危機管理が出来ている証拠だ」 「え?」 「危機管理が出来ている方が、俺としても守りやすい。そのままでいてくれ」  返ってきた発言の意味を噛み砕いて、それがある種の慰めの言葉であるらしいと気付いたリゼは、雄二に対する認識を改めた。  冷静なのは確かだが、その一言で言い表せる人ではない。 「……ありがとう」 「よし、行くぞ」  照れながら発した言葉には反応せず、雄二は早足でゲームセンターの入口へと向かう。  リゼは急いで、雄二の背中を追いかけた。 ■ 「そういえば、蟇郡君とは情報交換してなかったよね?」  ラビットハウスからゲームセンターへの道中。  数分間続いた無言を破ったのは、またしても折原臨也であった。  先頭の蟇郡に対して情報交換を持ちかけるその顔は、臨也を詳しく知る人物からすれば胡散臭さを感じるものだったろう。  しかし、顔を合わせて一時間と経っていない蟇郡に臨也を警戒するという発想はない。 「む、そういえばそうだな」 「衛宮さんとはもう済ませたんだ。君も知り合いとか、もし危険人物がいたら教えてよ」 「了解した。ではまず……」  鬼龍院皐月、纏流子、そして満艦飾マコ。  蟇郡は名簿にある知り合いの三人を、簡単な特徴と共に告げていく。  皐月を紹介するときには些か誇らしげに、マコを紹介するときには些か複雑な面持ちで。  臨也はそこから、蟇郡の心情の機微を少なからず感じ取った。  もちろん、それを口に出すことはしない。 「俺も含めた四人は、本能字学園の生徒だ」 「本能字学園?確かこの島にもそんな名前の施設があったよね?」 「ああ、全く同じ名前だ。実際に見ていないからなんとも言えんがな」  それから、と蟇郡は危険人物についての話をし始めた。  前置きとして鬼龍院財閥について説明が始まり、その内のREVOCSコーポレーションについて特に詳細を語った。  ようやく針目縫の名前を出したところで、臨也が一旦蟇郡を遮った。 「ちょっといいかな?  俺、その鬼龍院財閥とか、REVOCS社?っていうの、初耳なんだよね。  君の話だと、世界に誇るレベルで相当に有名な会社みたいだけど」  その言葉に、蟇郡は振り向いて臨也に詰め寄った。  巨体が覆いかぶさるようにして、臨也にプレッシャーを与える。 「なんだと?REVOCS社は世界各国に進出している大企業だ、知らぬということはあるまい。  鬼龍院財閥とて同様、遍く世界に名の轟いている財閥だぞ」 「いや、僕もそんな会社は聞いたことがないな」 「なっ!?」  臨也のみならず切嗣にも否定され、蟇郡はひどく動揺した様子を見せた。  蟇郡からしてみれば、世界の常識を否定された気分なのだから当然だろう。  そしてこの反応は、臨也にある推測をさせるのに充分だった。 「どう思う?衛宮さん」 「……文字通り、住む世界が違うということなのかな」 「そう思うよねぇ、やっぱり」 「どういうことだ?」  臨也と切嗣が頷き合うのを見て、蟇郡は首を傾げる。  それを見た臨也は、口元に笑みを作り、得意げに推論を話し始める。 「蟇郡君にとっての常識と、俺や衛宮さんにとっての常識が違ってる。  これってつまり、“世界が違う”か“時代が違う”って考えるしかないんじゃない?」 「……?」  意味が分からないという顔をする蟇郡を尻目に、臨也は再び歩き出した。  それを見た蟇郡は、思い出したように臨也の後を追ってくる。 「君と俺の住んでいる世界は、異なる世界ってこと。  平行世界(パラレルワールド)とか、そういうのを想像すると理解しやすいかな」 「馬鹿な……?タイムマシンでも使ったというのか?」  蟇郡はにわかには信じがたいようで、臨也に不審そうな目を向けている。  そんな視線を受け流し、臨也は蟇郡に向けて単語を列挙し始めた。  ひとつひとつ、ゆっくりと、蟇郡の反応を横目に見ながら口にする。 「『平和島幽』『聖辺ルリ』『殺人鬼ハリウッド』……」 「ん?なんだ突然」 「今挙げた単語で聞いたことのあるものは?」  臨也が並べ立てた単語は、全国民が知る、とまでは言えないが、それなりにメディアに触れていれば記憶に残る程度の知名度がある。  『首無しライダー』も池袋界隈を沸かせたが、そのような都市伝説とはわけが違う。 「どれも知らないな。殺人鬼など聞いたことも――」 「あれー、おっかしいなぁ。どれも俺の世界ではテレビで話題になった、常識みたいなものなんだけど」  臨也の言葉に、蟇郡は言葉を詰まらせた。  蟇郡の世界での常識を臨也が知らないだけならば、蟇郡にとって臨也は単なる世間知らずな人間である。  だが、臨也の世界の常識を蟇郡が知らないということになれば、双方向に未知の事実が存在していることになり、臨也の平行世界説を補強する。  蟇郡の反応は、そういう意味で臨也の思惑通りであった。 「……納得はできんが理解はできた。  つまり、あの少女には異なる世界を移動する手段があるということだな」  だが、直後の蟇郡の適応の速さは、臨也にとって少し予想外だった。  もともと蟇郡は、風紀委員長を務めるだけあって堅物なのは間違いないが、だからといって柔軟な思考ができないわけではない。  極制服や生命繊維など、一般的な感性からすれば超常の存在を知識として持っている。  パラレルワールドという超常現象も、理解しようとすればできるのだ。 「ま、タイムマシンっていうのも可能性としてはありだよね。  となると俺からしてみれば、蟇郡君は未来の人ってことになるんだけど。  ……衛宮さん、時間や空間を移動する、魔法めいた方法に心当たりはない?」  臨也は軽い調子で、ほとんど喋っていない男性に問いかける。  臨也にとって、この質問自体に大した意味はない。  むしろ“切嗣がどう返答するか”を期待するところが大きい。  切嗣が臨也の性質を見極めようとしているように、臨也も切嗣を観察し分析しようと試みていた。  この島に来てから、既に空条承太郎という面白い『人間』を見つけていたが、それはそれ。  飽くなき探求心にも似た貪欲さを発揮して、臨也は切嗣が『人間』なのか否かを観察して判断する。  その手段として、映画館で承太郎にしたように、カマをかけた。  とはいえ、まだ切嗣は底が知れない相手であったから、先刻のようにナイフを向けたりはせず、言葉の上での問答を用いたのだ。 「……どうかな。ただ、僕としては折原君の意見を尊重したいと思うよ」  そんな意味を含んだ問いかけに、目を伏せて答える切嗣。  第三者からすれば肯定とも否定ともつかない曖昧な返答であったが、臨也は言外に切嗣の意志を感じ取った。  それは“尊重”という一つの単語だ。  この単語、出会って間もない相手に使うには非常に違和感があるし、かといって、いい大人が誤用をしてしまうような難単語ではない。  つまり、臨也に対してプラスの感情を抱いていることを、切嗣が婉曲的に表現した、と臨也は考えた。  好意的で楽観的な解釈ではあるが、臨也は半ば確信していた。 (シズちゃんを嵌めたのは間違いなくこの人だろうし、出来ることなら、二人だけで話したいね……)  ただ、切嗣をより深く理解するには、二人きりでの対話が必要だと臨也は判断する。  返答が曖昧であったのも、一対一の状況ではなかったことが原因であると推測できる。  臨也としては、初対面であろう平和島静雄を嵌めた理由などは、是非とも尋ねてみたかった。  ゲームセンターで対話の場が設けられれば万々歳、臨也はそう考えた。 「それより、そろそろゲームセンターが見える。ほら、あれだ――」  その声に、臨也は思考を切り替えて、切嗣の指さす方を見た。  歩く速度はラビットハウスを出た直後に比べれば落ちていたが、それでも歩みを進めていた以上、目的地には辿り着く。  三人の目には、周りの建物よりひときわ高い、ゲームセンターが見えていた。 ■  ゲームセンターの探索を始めてからしばらく経った雄二は、些か拍子抜けしていた。  三階までくまなく探索したが、期待した成果は何も得られていない。  プライズゲームが主な一階では、リゼがゲームの景品に目を奪われてしまい多少時間を喰ったが、肝心の探索は緊張感を持ちつつ淡々と進んだ。  それなのに、参加者はいない。目立った箇所もない。  時計を見ると、既に三十分以上を費やしている。  ここの探索が無駄足で終わるのではないかという不安が、雄二の頭にはよぎり始めていた。 「意外と何もないな。普通のゲームセンターって感じだ」  近くにいたリゼも、緊張感を失ったのか、だいぶ表情が柔らかくなっている。  無駄に緊張しすぎるのもよくないため、これはむしろ良い傾向だと雄二は考えた。 「そうだな。例の壁に開いた大穴は、おそらく次のフロアだろう。  なにかしら手がかりが残されていればいいんだが」  言いながら階段を上って行き、新たなフロアへと足を踏み入れる。  紹介文によれば『ビデオゲーム・対戦ゲーム』が中心のフロアで、今までと同様に騒がしかったが、それとは別のことを雄二は感じ取った。  風が入り込んでいるのは、開けられた大穴からだろうと推測できる。  その風に乗って、何かが雄二の鼻腔を鈍く刺激する。 (これは――血の臭い!?)  戦場で何度も嗅いだ臭いに、雄二は足を止め、緊張を募らせた。  しかし、リゼは今までのフロアで緊張してきた反動か、さして警戒した様子もなく、機械的に探索を進める。  その理由は、リゼが血の臭いをかぎ分けるだけの経験がなかったこともあるだろう。  また、探索することに慣れてしまったこともある。  どちらにしても、リゼ自身が気づいて抑制することはできなかった。 「リゼ、不用意に進むな!」 「でも壁を壊した犯人は外にいるんだろ?  だったら平気で…………っ、いやああああっ!!?」 「くっ!」  悲鳴と同時に、きれいに腰を抜かすリゼ。  雄二は急いで駆け寄ると、リゼが見ている方向へと視線を向けた。  そこにあったのは、頭がゲーム筐体の下敷きになっている人間の姿だった。 「しっ、死んでるっ……!」 「……」  それがもはや動き出さないことは、誰が見ても明らかであった。  全く動けない様子のリゼは落ち着くまで放置することにして、雄二は遺体の元へと歩み寄る。  顔は見えなくても、体型から遺体が少女だということは簡単に判別できた。  雄二は慎重な手つきで、メイド服の下も含めて身体を検分する。  それはたった数分で終わった。目立った外傷も、内出血も、暴行された形跡もなかった。  メイド服も汚れたり破れたりはしている箇所はない。  しかし、何故か下着を“はいてない”ことには流石の雄二も困惑した。 (いや、落ち着け。こういう趣味ということも考えられる)  雄二は冷静に状況を調べることを続けた。  まず、頭部以外の肉体には傷らしき傷がないと分かったが、肝心の頭部を潰している凶器は、百キロはあるだろうゲームの筐体だ。  これで頭部を潰すのは、そうとうな力がなければできないと予想できる。  それこそ外の破壊を行えるような馬鹿力が必要だ。 「な、なあ……ちょっといいか……?」 「ん?……あぁ、気を付けて行ってくれ」  声に振り返ると、そこでは顔色の悪いリゼが口元を押さえていた。  死体を見たことで嘔吐感に襲われたが、かろうじてその場で吐くことを留まったのだろう。  雄二はそう判断して、すぐにリゼをお手洗いのマークがある方へと促した。  リゼは矢も盾もたまらずといった様子で駆け出した。  そしてその瞬間に、雄二は電流が走ったような感覚に襲われた。 (まさか、この少女が下着を付けていない理由は――!)  雄二はフロアの中をくまなく探索した。  そして、雄二の仮説を裏付けるものが、このフロアには存在した。  サイズからして少女の物と思われる、下着を含めた脱ぎたての衣服である。  雄二は僅かに湿ったそれをまじまじと見つめながら、これがこのフロアにある意味について考えた。  そして考えをまとめると、上階への階段へと急いで向かった。 ■  ゲームセンター内のトイレにて。  リゼの脳内では、先程見た死体がフラッシュバックしていた。  力なく床に横たわった小さな身体と、周囲に飛び散った赤黒い血液。  ゲームセンターという日常に近い場所で、殺人が行われたという事実は、平凡な日常を過ごしてきたリゼに強い衝撃を与えた。 (チマメたちと同い年くらいの女の子が、頭を、潰されて――!!!) 「うぶっ……」  あまつさえ、リゼ自身や知り合いが物言わぬ死体となった瞬間を想像してしまい、リゼは堪え切れず嘔吐した。  そうして胃液まで出し切って落ち着くのには、数分間を要した。 「はぁーっ……はぁ……」  洗面台を汚した吐瀉物を水で流して、リゼは鏡を見た。  その顔は自分の目から見ても酷いもので、リゼは両手で顔をぴしゃりと張った。 「チノやココアたちを、あんな風に死なせちゃいけない……!」  自分への戒めの言葉を呟いて、リゼはトイレを出た。  一番近いトイレは二階にあったため、雄二のいる四階に戻るには階段を登らなければならない。  そのことに多少の疲れを感じながら、階段に足をかけようとしたその瞬間。 「そこの女子!貴様も参加者か!?」  質量を持ったような声が、リゼを背後から襲ってきた。 「ひっ!?」  いくら自分を戒めようが、背後から突如大声で呼びかけられたら、緊張に身体を震わせてしまうのは当然だろう。  リゼは後ろをゆっくりと振り返る。  そこにはリゼよりも、同行者の雄二よりも更に大きい男が立っていた。 (まさか、この人が……?)  蟇郡の巨体を見て、ゲームセンター前の破壊活動を行ったのはこの人物ではないか、とリゼが考えるのもまた、道理であろう。  なにせ蟇郡は、自動販売機よりも大きい身の丈をしているのだから。  しかし、リゼが抱いたその不安は、良い意味で裏切られた。 「あのさぁ……どうして怖がらせるようなことするの?」 「え……」  黒服の巨体の背後から、別の人間が現れたことで、リゼは叫んで雄二を呼ぶことを思い止まった。  未だに警戒は解かないものの、相手の話を聞くことに集中する。 「いやぁ、ごめんね怖がらせちゃって。この人いつもこんな感じなんだ。  俺は折原臨也。こっちは蟇郡苛。あともう一人いるんだけど、その人は周囲を捜索してから来るみたい。  俺たちは目的があってここに来たんだけど……。  って、いきなりすぎたかな。よかったら名前を訊かせてくれるかな?」 「……私は天々座理世だ」  両掌をリゼに向けながら、笑顔を見せて警戒を解こうとする臨也。  実際のところ、臨也の整った容姿と丁寧な対応、優しい声音によって、リゼはこの時点で半ば信頼しかけていた。  同時に、相手の状況を把握したことから冷静さが生まれて、普段の調子で返答が出来るまでに回復していた。 「そっか、リゼちゃんっていうんだね。  随分顔色が悪いけど、どうしたのかな?  ……もしかして、女の子が死んでいるのを見ちゃった、とか?」 「っ!?」  このとき、リゼは緩めていた警戒を再び引き締めようとした。  具体的には、距離を取って拳銃に手を伸ばそうとしたのだ。  だが、こと言葉の上での駆け引きにかけて、情報屋はあまりに有利であった。 「ああ、警戒させちゃったみたいだね。  実は俺たちがここに来た理由の一つが、その女の子の遺体を調べることなんだ。  あまり大声じゃ言えないんだけど、俺の知り合いが殺したかもしれなくってさ」  拳銃に伸ばしかけた手を硬直させ、リゼは臨也の語る内容に耳を傾けた。  臨也はリゼに気付かれないように薄い笑みを浮かべ、すらすらと淀みなく話し続ける。  “立て板に水”とはこのことである。 「リゼちゃんも見ただろう?ここの近くが、めちゃめちゃになっていたのを。  自販機が倒されていたり、このゲーセンの壁に大穴が開いていたり。  あれをやったのも、そいつの仕業なんだよ。  だから俺たちは、その女の子の遺体を調べて、確固たる証拠を見つけたいんだ」  確かに理屈は通っていると、リゼは思った。  女の子の頭部を潰していたのはゲームの筐体で、かなりの重さがありそうだった。  あれを持ち上げて落としたのだとしたら、それこそ巨体の蟇郡でもないと不可能な芸当だ。 「どうかな、信頼して貰えたかい?」 「えーっと……」 「なるほど。あの女の子が誰に殺されたかは、俺も興味がある。是非とも聞かせて貰えないか」  リゼの背後から、階段を下りてきた雄二が臨也に声をかけた。  片手には支給品のキャリコを油断なく構えている。  戻ってこないリゼを心配してか、それとも蟇郡の声が聞こえたからか、様子を見に来たらしい。 「それじゃ、情報交換といこうか」  そう呟いた臨也の声を、リゼはとても愉快そうだと感じた。 ■  ゲームセンターの五階。  五人の参加者の情報交換は、切嗣が予想したより遙かに早く終了した。  というのも、風見雄二と天々座理世の二人は他の参加者と遭遇していないらしく、情報らしい情報は知り合いの名前しかなかったのだ。  一方の切嗣たちが持つ情報は、主に臨也が伝えた。  空条承太郎、一条蛍、そして香風智乃。ラビットハウスで待っている三人の名前。 「本当か!?ラビットハウスにチノが!?」 「間違いない。俺は香風にコーヒーを振る舞われた」 「そうか……よかった……生きてて……」  そんなやりとりをしてから、次に臨也と蟇郡の知人の名前が伝わった。  臨也から園原杏里と平和島静雄の、蟇郡から針目縫の危険性について強く語られたリゼは、安堵した表情を一転して引きつらせていた。  その後は、遺体となっていた少女の名前が越谷小鞠であること、支給品は盗難を懸念して預かっておいたことを切嗣が説明した。  さらにそれが終わると、臨也が再び平和島静雄を貶すことに終始した。 「じゃあ、その静雄って人がゲームの筐体を投げて……」 「ああ。そうに違いないよ。  外の暴風が通ったみたいな破壊の跡は、間違いなくシズちゃんだ。  監視カメラでもあればよかったんだけどね……生憎ここのはダミーみたいだし」  臨也は静雄の危険性をオーバーに話しながら、ときおり切嗣と視線を合わせてくる。  なにもこの瞬間だけでなく、ゲームセンターについてから、臨也はまるで切嗣に協力するかのような行動を取っていた。  例を挙げると、蟇郡が筐体を持ち上げたときがそうだ。  切嗣は筐体の下から灰皿の破片が発見されないか焦ったが、臨也の過剰な反応のお陰で、全員の視線が頭部に集中して事なきを得た。  遺体に適当な毛布がかけられて、砕けた灰皿が再び筐体の下に隠れてから、臨也がこちらを見てきたのは偶然ではない、と切嗣は考える。  臨也は切嗣の所業を理解しており、自分に協力する意思があると切嗣は確信していた。 「生身の人間なのに、あれだけの破壊を行えるのか?」 「ああ、池袋でもことあるごとに大暴れしてるよ。  その強さたるや、見た人からは“最強”って呼ばれてるくらいだ。  この殺し合いの場で放っておいたら、どんな被害を出すか分からない」  ラビットハウスを出てから、折原臨也の動向を観察していた切嗣は、一つの結論を出していた。  それは臨也が「同盟関係を組むのに相応しい相手である」ということ。  至極冷静な人物で、並行世界の可能性を考え付く程度には頭の回転も速い。  リゼの信頼をそれなりに得ている辺り、コミュニケーション能力も申し分ない、そして口がよく回る。  切嗣が交渉材料を持ち出すより早く、切嗣の犯罪を擁護するという形でフォローを入れる駆け引きの上手さもある。  協力できれば心強い人間だ――裏を返せば、引き留めておかなければ利用されかねない。 (そうなると、折原臨也と対話したいところだ)  目下のところ、切嗣が欲しいのは臨也と二人きりで対話をする機会だった。  とはいえ都合よく事態は進まないもので、情報交換が終わり、臨也は雄二と行動方針について熱心に話し合っている。  無理に二人きりになろうとすれば、怪しまれる可能性がある。  そして、全員でラビットハウスへ向かうことで話が固まりつつあったとき。 「あの、なんか変な声が聞こえるような……?」  この場でただ一人の女性であり、萎縮したのか知り合いの情報を話すとき以外は黙っていたリゼが、ここで口を開いた。  切嗣が耳をすますと、確かにそれまではしなかった音がBGMに混じって聞こえる。 「声?……ああ、確かに。上のフロアかな?」 「ならば俺が見て来よう」  臨也が天井を仰ぎながら言うと、それに対して蟇郡が腰を上げた。  流石は風紀委員長といった堂々とした様子で、声のする上階への階段へと向かう。 「いや、全員で行った方がいい。……何があるか分からないからな」  結果的に雄二の提案通り、五人は蟇郡を先頭に階段を上がった。  当然のことながら、広さや奥行きはそれまでのフロアと変わらないが、それまでと違い、ゲームのBGMなどが響く中で、耳に残る声がする。  雄二たちも未踏だった『ギャンブルゲーム』のフロアの壁に、本来ならばゲームに使用されているのであろう大きな画面がある。  そこに映っていたのは、ゆったりとしたローブを幾重にも重ねて着ている、長身の男であった。  遠目から見える不気味なインスマス面にも、独特な抑揚のためか芝居めいて聞こえる話し方にも、切嗣は嫌というほど心当たりがあった。  画面に近づいて確認するまでもなく、その男は自ら名乗りをあげた。 『此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します』  切嗣以外の人間は、不快感と好奇心が入り混じったような表情をしている。  キャスターが口上を述べ終えると、三人の少女が映像に映された。  少女たちは、明らかな不審人物を前にしても微動だにせず、不自然に身体の一部を隠されていた。  キャスターによる放送という時点で、切嗣はある程度予想をしていたが、少女たちの様子からある確信に至った。 「この女の子たち、大丈夫なのか……?」 (いや、あの少女たちは生きて帰れないだろう)  恐怖と困惑の混じった顔のリゼの呟きを、切嗣は声に出さず否定した。  切嗣はキャスターの主従が冬木市において、聖杯戦争とは無関係の連続殺人を行っていたことから、その危険性を理解している。  しかも、キャスターがセイバーとアイリに接触した際に名乗った名は、放送でも本人が名乗ったように“ジル・ド・レェ”だ。  百年戦争の終結に貢献しながら、その後は黒魔術に耽溺、大勢の少年を虐殺したことで知られる、フランスの英雄の一人。  異常な人物であることは疑いようもない。  更に、それが聖杯戦争において魔術師(キャスター)の英霊として呼ばれたのだ。  純粋な戦闘力だけであれば最弱のクラスであるキャスターが、勝利するために取る手段は一つ。 「罠クサいねぇ、これ」  映像を見て呟いた臨也の言葉に、切嗣は心中で頷いた。  魔術師のクラスはその特性上、強力な魔術工房と権謀術数を駆使して戦争を勝ち抜かなければならないのだ。  霊力の強い土地に自らの陣地を作り、その場に他の英霊を誘き寄せて、圧倒的に有利な場所での戦闘を行う。  キャスターの放送で映された三人の少女は、いわば食虫植物が放つ甘い匂いのようなもの。  それに釣られて寄って来た参加者を、新たな犠牲とするつもりに違いない。  切嗣はこの時点で、準備もなしに行動することは危険だと判断していた。 『不肖ジル・ド・レェ、僭越ながらこの可憐な少女達を保護させて頂いております。  ご友人の方々は是非とも放送局までお越し下さい。彼女達もきっと喜ぶことでしょう』  切嗣や雄二が地図を確認して、放送局の場所を確認する。  とはいえ、キャスターの口車に乗って放送局に向かおうと提案する者はいなかった。  たった一人を除いては。 「間違いない……あれは満艦飾だ!」  切嗣が階下に戻ろうと歩み始めたそのとき。  映像が途切れても画面を凝視していた蟇郡が、ゲームの音声をかき消すほどの大声で叫んだ。  どうやらキャスターが引き連れていた少女たちの中に、知り合いがいたらしい。  それを聞いた切嗣は、蟇郡の次の発言、及び行動が予想できた。 「……俺はラビットハウスには行かず、直接放送局へと向かせてもらう!」  薄々感づいてはいたが、切嗣は蟇郡の思考があまりに単純なことに溜息をついた。  騎士道精神を持つセイバーやランサーよろしく、誰かのために忠義を尽くすタイプの人間であるらしい蟇郡は、友人の保護を選択した。  しかも、単騎で魔術師の陣地に突入するというのだ。  サーヴァントの脅威を知る切嗣はもとより、そうでない者でも無謀だと感じるだろう。  しかし、当の蟇郡の瞳は決意に燃えており、前言を撤回する様子は微塵もない。  キャスターの連れてきた子供たちを守ろうと、強く切嗣の名を呼んだ騎士王の姿を思い出し、切嗣は舌打ちをしたい気分になった。 ■  蟇郡の頭の中は、満艦飾を救うということでいっぱいだった。  蟇郡は同じ四天王の犬牟田と違い、思慮が浅いことは自覚しているが、それでもキャスターの放送が罠であることは理解できた。  しかし、それを考慮してもなお、満艦飾を保護するべきだと考えたのだ。 「天々座、香風への言伝を頼めるか。『放送局に行き友人を保護してくる』と」 「あ、ああ。分かった」 「それと、風見。これを渡しておこう。元は香風の支給品だが、俺が持つよりはいいだろう」  雄二に、蟇郡は腕輪探知機の入ったカードを手渡した。  黎明に使って以来、だいぶ時間が経っていることを思い出し、参加者が増えている可能性が蟇郡の頭をよぎったが、実際に口には出さなかった。  それ以上に、ただただ満艦飾のことが心配だった。  雄二は受け取った探知機をポケットにしまうと、はやる蟇郡に対して尋ねた。 「移動手段はどうするんだ?」 「む……」  この雄二の質問には、それまで即決してきた蟇郡にも迷いが生まれた。  放送局があるエリアと、現在地との距離を鑑みるに、徒歩ではどう考えても時間がかかりすぎる。  一刻も早く放送局に行きたい蟇郡は、迷ったような視線を切嗣に向ける。  切嗣がコシュタ=バワーを保持していることを知ってのことだ。 「構わないよ。蟇郡君、これを」 「だが、それでは俺が一方的に好意に甘んじることに……」  視線に、切嗣は快く応じた。  一方、コシュタ=バワーの入った黒カードを渡された蟇郡は、少し負い目を感じて受け取ることを渋った。  蟇郡の支給品は本人支給の極制服のみ。お返しにと切嗣に渡せる道具はなにもないのだ。  無意識に物欲しげな視線を送ってしまった自分自身を、恥じる気持ちもあった。 「いや、君の支給品はその学生服……極制服だったかい?  それしかなかったんだ。気にすることはないよ」  しかし、蟇郡の心配をよそに、切嗣は気遣う言葉さえかけてきた。  蟇郡は思う。衛宮切嗣のような親切な人間と出会えたことは幸運であったと。 「……恩に着る。では、俺はこれで」  蟇郡はコシュタ=バワーを取り出すと、念じて愛用の車の形にした。  念じただけで変化する不思議な物質に興味を抱くこともなく、蟇郡は西を見据えている。 「待っていろ、満艦飾……すぐに行く」  満艦飾はよくわからない人物だが、こんなところで殺されていい人間ではないと断言できる。  本能字学園の風紀部委員長は、大事な生徒を保護するために、一路放送局を目指す。 【G-7/一日目・早朝】 【蟇郡苛@キルラキル】 [状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度) [服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放 [装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形) [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)    黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル [思考・行動] 基本方針:主催打倒。    0:放送局に行き、満艦飾を保護する。待っていろ。    1:平和島静雄が殺し合いに乗っている人物だと皐月様に報告せねばならない。    2:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。    3:針目縫、平和島静雄には最大限警戒。 [備考] ※参戦時期は23話終了後からです ※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。 ※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。 ■  勢いよく放送局へと走り去った蟇郡を見送ると、臨也は雄二たちに向けて言った。  その顔には、情報交換の頃からずっと、柔和な笑みが浮かんでいる。 「じゃあ、ここは俺と衛宮さんで探索しておくから、風見君たちはラビットハウスに行ってよ」 「え、いいのか!?」  リゼはこの提案に二つ返事で承諾した。  知り合いを心配していたリゼならば、当然の反応だろうと雄二は考える。  しかし、雄二は違う。ある懸念事項が雄二の心中に渦巻いていた。 「できることならもう少し探索したいんだが」 「やだなあ、風見君。リゼちゃんを一人にするつもりかい?  この島に来てからずっと一緒なんでしょ?一緒に行ってあげなよ。  俺や衛宮さんが一緒に行ってもいいけど、それはリゼちゃんにとっても負担じゃない?  さっき知り合ったばかりの大人と一緒にされるよりは、風見君が一緒の方がいいと思うけど」  ところが、ゲームセンターに残るという案は臨也によって否定された。  その反対意見の理屈も通っている以上、無碍にすることもできない。  リゼを保護するというのが最初の目的であったことも、雄二にそれ以上食い下がることをさせなかった。 「それに、もうこの上の階層には、参加者はいないはずだから、そんなに人手もいらないしね」  そう言って手をひらひらと振る臨也。  口調だけでなく動作も軽いが、しかし隙らしい隙は見せない。  情報屋というのは、そういった技術も必要なのだろうかと雄二は考える。 「……そうか。なら言葉に甘えて、俺たちは先にラビットハウスへと向かわせて貰う」 「ああ、それがいい。リゼちゃんは一刻も早くチノちゃんに会いたいだろうしね」  口元に笑みを絶やさずに喋る臨也の姿は、雄二に胡散臭さを感じさせた。  とはいえ、相手が胡散臭いというだけで食って掛かるのは、短絡的が過ぎる。  雄二の背後でリゼがそわそわとしていることも手伝って、最期まで雄二には効果的な反論が思いつかなかった。 「それじゃあ、俺たちもすぐ行くからさ!承太郎君たちによろしくね」 「道中は気を付けてくれ」  そう言うと、臨也と切嗣は再びゲームセンターの店内へと入って行った。  雄二はリゼを促して、共にラビットハウスへと歩き出す。  すると、ゲームセンターから少し離れたところで、リゼが雄二に話しかけた。 「風見さん、どうしてゲームセンターに残ろうとしたんだ?」  心から不思議そうな声で問うリゼに、雄二は質問で返した。 「越谷小鞠を殺害した犯人は誰だと思う?」 「え?平和島静雄って人なんだろ?」 「どうしてそう思った?」 「どうしてって……それは……ゲーム機を投げられる馬鹿力があるらしいし……。  それに、衛宮さんは壁を壊して出てくるところを見たって言っていたじゃないか」  リゼの意見はもっともだった。  平和島静雄について、折原臨也は危険性を証言し、衛宮切嗣は壁を破壊したことを証言した。  二人の発言を全て信じるならば、越谷小鞠の殺害犯は確定したのも同然だ。  しかし、雄二は蟇郡一行と情報交換をしてから、ある一つの可能性を思い浮かべていた。 「そこが引っかかるんだ。  平和島静雄が殺人犯だと判断できる情報は、現状では伝聞されたものしかない」  例えば、犯行の瞬間を捉えた映像や音声。  或いは、被害者の越谷小鞠によるダイイングメッセージ。  平和島静雄の凶行を証明する、物的証拠が存在しない。 「あくまで可能性の話だが……全部が全部、嘘ということも考えられる」 「まさか!?」  リゼは大きな声を出して、それが早朝の街に響いたことに驚いて口を噤んだ。  しかし、困惑した視線を引き続き向けてくるのは変わらない。  困惑しているのは雄二も同様だった。  ただ越谷小鞠の遺体が置いてあるだけなら、悩むことはなかった。  だが、越谷の服と、その後に駆け足で探索した上の階層で、不自然に荒らされていたプリクラの衣装が、雄二の頭を悩ませた。 (あの濡れた下着と、プリクラの試着室から越谷の着ていたものと同じ型のメイド服が漁られていたことから考えられる仮説がある。  『平和島静雄が下着を濡らした越谷小鞠のため、メイド服を上階から調達した』というものだ。  ……この仮説がもし正しいとしたら、平和島静雄はそもそも殺人を行うような人物とは思えない)  平和島静雄は本当に犯人なのか?という疑い。  それは殆どが雄二の推測であり、確実性は臨也や切嗣から伝え聞いた情報と大差がない。  “平和島静雄の犯行ではない”ことを証明するのは、悪魔の証明に近いものがある。  だからこそ、雄二は全員の前で言い出さなかった。  殺人を犯していようがいまいが、平和島静雄が危険であるという事実は、ゲームセンター周辺の惨状から見て明らかだ。  それを徒に覆して場を混乱させるのは、得策ではないと判断した。 「とはいえ、現状では平和島静雄にだけ気を付けていればいいだろう」 「そ、そうだな。なんたって壁を壊すほどの奴だからな……」  そう言いながらも、雄二は仮説を打ち立てていた。  平和島静雄が壁を破壊したときに、それを目撃していたということは、即ち近辺にいたということになる。  腕輪発見機の反応のことを考慮に加えると、越谷小鞠を殺害できるのは二人だけなのだ。  そう、平和島静雄を除けば、あと一人。 (衛宮切嗣――この男が平和島静雄に罪を着せた……?)  雄二はこの仮説を、リゼにすら話さない。  雄二は目の前の事象は信じることを決めているが、翻せばそれは不確定な情報で思考を縛ることをしないということだ。  切嗣が越谷小鞠を殺害したとして、その動機も殺害方法も、何ひとつ判明していない。  そこまで考えると、雄二はかぶりを振って思考を断ち切った。  雄二は切嗣への疑念を、あくまで一つの可能性として、留めておくだけにした。 (それにしても、あのキャスターとかいう男……)  雄二は続けて、ジル・ド・レェと名乗った男について考えを巡らせた。  テレビ放送を流すことで、参加者を誘き寄せようとしている危険人物なのは明白だった。  だが、それ以外にも雄二の心に引っ掛かるものがあった。  ある男と声が似ていたのだ。  雄二の父親と絵画を通じて関係があり、身寄りを失った幼少の雄二を引き取って人形めいた扱いをした男。  雄二の殺人マシンとしての才能を見込んで、少年兵を育成する施設に送り込んだ男。  雄二の師匠、日下部麻子らによる館の襲撃の際に姿を消した男。 (似ていた……ヒース・オスロ、あの男に……)  雄二にとっては快いものではない記憶が想起される。  このとき、雄二の中の心的外傷(トラウマ)が疼き始めていたことに、雄二自身もまだ気付いてはいなかった。 【G-7/一日目・早朝】 【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】 [状態]:健康 [服装]:美浜学園の制服 [装備]:キャリコM950@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)     黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実 [思考・行動] 基本方針:ゲームからの脱出    1:天々座理世を護衛しながら、ラビットハウスに向かう    2:入巣蒔菜、桐間紗路、香風智乃、保登心愛、宇治松千夜の保護    3:外部と連絡をとるための通信機器と白のカードの封印効果を無効化した上で腕輪を外す方法を探す    4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒    5:ステルスマーダーを警戒    6:平和島静雄、衛宮切嗣、キャスターを警戒 [備考] ※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。 ※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛と情報交換しました。 ※キャスターの声がヒース・オスロに似ていると感じました。 【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】 [状態]:健康 [服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ [装備]:ベレッタM92@現実 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)      黒カード:不明支給品0枚 [思考・行動] 基本方針:ゲームからの脱出    1:チノがいるラビットハウスに向かう    2:風見さんと一緒にチノ以外の友人も探す    3:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい    4:平和島静雄、キャスターを警戒 [備考] ※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛と情報交換しました。 ■  蟇郡苛が去り、風見雄二と天々座理世が去ったゲームセンター内。  騒がしいフロア内で、二人の男が相対している。  かたや笑みを浮かべており、かたや一貫して無表情を崩さない。 「さて、と。衛宮さん、やっと二人でお話しできますね」 「ああ……こればかりはあのジル・ド・レェに感謝しないといけないな」  切嗣は軽口を叩いて臨也を見据える。  有用な人物に協力を取り付けるせっかくの好機を、逸する訳にはいかない。  幸いなことに、臨也にも切嗣と対話をするつもりがあるようだ。  切嗣は噛み煙草を口に含みながら、どう交渉したものかと思案を巡らせた。 【G-7/ゲームセンター内/一日目・早朝】 【衛宮切嗣@Fate/Zero】 [状態]:健康、緊張感 [服装]:いつもの黒いスーツ [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)      黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS           蝙蝠の使い魔@Fate/Zero           赤マルジャンプ@銀魂           越谷小鞠の不明支給品0~2      噛み煙草(現地調達品) [思考・行動] 基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う    1:折原臨也を利用する。そのために臨也と対話。    2:1の後、ラビットハウスの一団からも改めて情報収集をする    3:平和島静雄とは無理に交戦しない    4:有益な情報や技術を持つ者は確保したい    5:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない [備考] ※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。 ※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。 他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします ※空条承太郎、折原臨也、一条蛍から知り合いと危険人物について聞きました。 ※風見雄二、天々座理世と情報交換しました。 【折原臨也@デュラララ!!】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)     黒カード:不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:生存優先。人間観察。     1:とりあえず衛宮切嗣は『人間』なのかどうか観察。そのために切嗣と対話。     2:俺が何もしていないのにシズちゃんが自分から嵌められてくれた。     3:空条承太郎君、面白い『人間』だなあ。     4:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。 [備考] ※空条承太郎、一条蛍と情報交換しました。 ※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。 ※風見雄二、天々座理世と情報交換しました。 *時系列順で読む Back:[[195×(144+164)]] Next:[[その覚醒は重畳]] *投下順で読む Back:[[195×(144+164)]] Next:[[その覚醒は重畳]] |032:[[グリザイアの兎]]|風見雄二|:[[]]| |032:[[グリザイアの兎]]|天々座理世|:[[]]| |047:[[殺人事件]]|衛宮切嗣|086:[[『犯人』に罪状が追加されました]]| |047:[[殺人事件]]|折原臨也|086:[[『犯人』に罪状が追加されました]]| |047:[[殺人事件]]|蟇郡苛|095:[[あげたかったのは、未来で]]|

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