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Spread your wings(後編) - (2016/01/22 (金) 18:55:03) の1つ前との変更点

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*Spread your wings(後編) ◆gsq46R5/OE   拘泥たる思いでその戦いを見つめるセルティとホル・ホース。   止めに入ろうとするセルティを止めたのは、このホル・ホースだった。   何故止めるのか。   そう問うセルティへ、ホル・ホースは冷や汗を流しながら説明する。  『落ち着け、落ち着けってのセルティの旦那!   悪魔の旦那だって馬鹿じゃねえ、殺すつもりなんてねえハズだッ!』   ホル・ホースの言い分はこうだった。   夏凜は今、間違いなく冷静ではない。   もとい、冷静さの中に激しさを同居させた奇妙な状態にある。   きっと今彼女を無理に抑圧したとして、遅かれ早かれ二人は対立することになるに違いない。   夏凜は殺すつもりはないと語っていたし、アザゼルも阿呆ではない。   どちらかが痛い目を見ることにはなるだろうが、それで頭が冷えるなら好都合ではないか。   だから今はやりたいようにやらせて、本当に危なくなりそうだったら助太刀をしよう――と。   確かに、彼の言い分は理に適っていた。   だが、それで納得できるかといえば話は別である。   夏凜の攻撃が何度も空を切って、悪魔が彼女の腹を蹴飛ばした。   衣装をどろどろにして戦う姿は少女らしからぬ泥臭さで、痛ましい。   今すぐにでも止めてやりたい。止めなくてはならないのではないだろうか。   ホル・ホースの言葉と、自分の意志。   その板挟みにセルティが悩んでいる時、夏凜が顔を殴り飛ばされた。   竹蜻蛉のように回転して地面をバウンドし、止まる。   ――終わった。セルティもそう思った。   幸いにしてアザゼルが追撃を行う様子はないが、自分は結局、勇敢な少女がただ良いように痛めつけられる様子を指を咥えて見つめていただけだった。   ぐっ、と拳を握り締める。    終わったか……そんなホル・ホースの安堵したような呟きが聞こえてきた、その時だった。   三好夏凜が、ぐぐぐ、という擬音が聞こえてきそうな動きで、ゆっくりと立ち上がっていたのだ。  「おい……マジかよ」   零したのはホル・ホースだ。   ホル・ホースは、女に優しい男を自負している。   縫い目のような怪物は別として、彼は女を撃つことをしない。   そんな彼もまた、彼なりに夏凜の戦いには痛ましい物を感じていた。   しかし止めに入らない理由はセルティにも話した通り。   若い娘とは、よくも悪くも青い。   それを溜め込ませてしまえば、いつか必ず爆発の時が来る。   そうなった日には、こんな小競り合いでは済まない大惨事になる可能性だってある。   ホル・ホースはそう考えたから、敢えて彼女達を止めない選択肢を選び取ったのだった。      普通ならば、そんな心配は過剰なのかもしれない。   だが、アザゼルという男は悪魔である。   何が起こるか――何をするか、分からない。   程々に済めばいいが。   そんなことを思いながら、彼なりに憂鬱な心境で戦いを見ていた。      一方的なワンサイドゲームだった。予想通りの有様だった。   しかし、夏凜はゆっくりと、確かに立ち上がっている。   踵を返した悪魔が、僅かな驚きを含めた瞳で振り返った。   夏凜が突進する。   速度の乗った突撃と共に、放たれる刺突。   それは悪魔のハサミによって受け止められたが――そこで刀身が滑り、ガードを抜けることに偶然成功した。      夏凜の刃が、アザゼルの肩を皮一枚裂いていた。  ◯  ●  「――貴様」   アザゼルの声には、いつしか怒気が含まれていた。   これまで夏凜を圧倒し、遊んですらいた彼。   その彼をしても、彼女が立ち上がってくるのは想定外だったのだ。   ましてや、偶然に等しい展開の運びで、とはいえ――血を流す羽目になるなどとは。   全く予想だにしていなかった。   そして、一度確信した勝利を覆された者は皆決まって感情を大きく揺さぶられる。   それは悪魔も人間も、同じだ。  「貴様……そうか」   アザゼルが一歩を踏み出す。   夏凜は切れた息を必死に整えながら、注がれる眼光を睨み返した。      恐れはない。   恐れはない。   あるのは勇気。   ――神樹の勇者を象徴する、輝けるもの!  「どうやら――死にたいらしいな」   凶手が伸びる。   夏凜は紙一重で回避し、刀を振るった。   当たらない。   片太刀バサミの反撃を受け止める。   が、その矢先に足払いを懸けられた。   浮遊感が襲ってくる。   上からはハサミとは思えない、槍の如き刺突が放たれようとしているのが見えた。   何も出来なければ、此処で死ぬ。かと言って、この状況を打開する手段は思いつかない。      その気になれば夏凜を数度は容易く殺せる。   そう宣ったのは伊達ではない。   ましてや口だけの虚勢などでは、断じて。   実際に、三好夏凜は今殺されようとしていた。   片太刀バサミの切っ先は、真っ直ぐに夏凜の心地点をめがけて落ちてくる。   疾い。   外すことには期待できない。相手は悪魔。人間の弱点など、知り尽くしていて然るべきだ。      では、此処で勇者の物語は終わってしまうのか?   為す術もなく悪魔に蹂躙され、か細い抵抗も虚しく藪蚊の如く潰されてしまうのか?  「勇者部ッ――五箇条ぉぉ!!」   違う。   最後の一瞬まで、勇者は生きることをやめない。   確かに袋小路だ。   黄泉路の扉が、すぐそばに口を開けて待っているのを感じる。   普通は、どうしようもない。   けれど、それはあくまで普通に考えれば、の話でしかない。  「なせば大抵……なんとか、なる――!!」   思い切り足を頭の方へと宙返りの要領で振り上げ――振り落とされる鋏の刀身を、蹴り飛ばす!  「何だとッ!?」      アザゼルの顔が、今度こそ確かな驚愕に支配された。   それを見て、夏凜は会心の笑みを浮かべる。   どんなもんよ、と。   これが勇者の底力だ、見たか――と。   普通に考えればどうしようもない袋小路だろうと、打破できる可能性があるなら、きっとそれを掴み取る。   それが讃州中学勇者部の謳う五箇条が一つ。   その訓が、追い込まれた夏凜を救った。  「あんたは確かに強い……!」   もしもアザゼルが殺し合いに乗っていたならば、さぞかし巨大な脅威として立ちはだかったに違いない。   そうならなかったことは、紛れもなく幸運とすべきなのだろう。   冷静に考えると、我慢できずに喧嘩を売った数分前の自分が手のつけようもない馬鹿に思えてきて仕方がないが。   それでもきっと間違いではないと信じて、刀を握る力を更に強めた。     「でもね! あんたの強さは、独りよがりな強さでしかないッ!!」   それは当然の話。   悪魔に協調性などを要求する方が間違いだ。   だが自らの主張がお門違いだとする論すらも否と断じ、夏凜は叫ぶ。  「そんなあんたに、一体何が出来るっていうのよ――ッ!!」   放つのは、またしても突きだ。   殺すつもりはない。   けれど、殺害せずとも勝敗を決めることは出来る。   力のない者なら理解できずとも、化け物じみた力の持ち主であるアザゼルにはそれが分かるはずだ。   自分が敗北する瞬間。   それを言葉でいくら否定しようとも、頭の中では目を背けきれない。  「――るな」   そう思っていた。   先程のアザゼル同様に、夏凜も今、勝ちを確信していた。   それがいけない。   悪魔とは、人が幸せの絶頂にあるその時にこそ真の姿を見せるものだ。  「舐めるなよ、人間風情が……!」   ゾッとするほど低い声が響き。   乾坤一擲の一撃を、あろうことか彼は『下から』弾き飛ばした。   片太刀バサミの柄に腕を通し、ぐるぐると回転させる。   それはさながら即席で作り上げられた旋盤のよう。   夏凜の剣を弾き飛ばし、勝利まであと一歩の所から、再び敗北の淵へと引きずり下ろす。   彼女の頭を砕くべく、最早加減など捨てた悪魔の拳が放たれる。   夏凜はそれをどこかスローモーションと化していく視界で見つめながら、悔しい、と思った。   あと少しだった。   でも、届かないのか。   胸を焦がす悔しさに抱かれながら、夏凜の顔を鉄拳が叩き潰す――ことはない。  「覇王――断空拳」   アインハルト・ストラトス――戦いの渦中にはいなかったはずの少女が、悪魔の脇腹を打ち抜いていた。  ◯  ●   アインハルトは夏凜の戦いをどこか茫然と見つめていた。   茫然と、どころか。   他人事のように――と言っても誤りではない。   現実感がなかった。   アザゼルに果敢に挑みかかる仲間の姿を見ても、何も感慨が浮かんでこなかった。   我ながら薄情なものだと思う。   でも、その理由は考えなくとも分かった。   ヴィヴィオの死。   斜路を殴ってしまったこと。   そして……    ――でも言ったでしょう、あんたがどんなに悔やんだって、人に八つ当たりしたって、死んだ人は戻りはしないの!   他ならぬ夏凜に言われた言葉が、いつまでも胸に刺さっている。   返しの付いた針のように、それはなかなかアインハルトの体を抜け出てはくれなかった。   ヴィヴィオは死んだ。どうやったって、もう取り戻すことは出来ない。   優勝を目指して、仮にその末に彼女を蘇生させることが出来たとしても。   きっと彼女は泣くだろう。だからアインハルトは、ヴィヴィオの死を受け入れるしかない。   そう分かっているのに割り切れない辺り、まだ彼女は子どもだった。   じくじくと胸が痛む。   針の返しでずたずたに、ぐずぐずにされていく。   熱に浮かされた子どものように、ただ、夏凜がぼろきれのようにされていくのを見つめていた。   アインハルトは、戦闘の経験だけならば夏凜を上回っている。   人の形をした生物を相手取ることにおいては、更に差を付けられる。   だからこそ分かった。あのアザゼルという男は、とんでもなく強い。   夏凜が勝てる見込みがあるかといえば、極めて怪しいだろう。   そしてその見立て通りに、彼女は殴り飛ばされ、地面に落ちた。   勝負あり。   そう思って目を伏せたアインハルトが、再度目を開いた時、そこでは。   彼女が、立っていた。   その姿が――重なる。   今はもう記憶の中にしかいない好敵手。   かつて守れず、今生でも離れ離れになった、彼女と。   会ったばかりの頃、ヴィヴィオが自分へ使ってきた技は全て力不足もいいところだった。   期待外れ。   そんな言葉が脳裏へ浮かび、失礼な話だが、がっかりしてしまったのを覚えている。   けれど彼女は諦めず、立ち上がり、やがて高町ヴィヴィオは自分の唯一無二の好敵手になった。   勇者の、ボロボロになり、それでも立ち上がって戦おうとする姿。   それを見た時――アインハルトの大きな目から、一滴の塩辛い雫が流れ落ちた。   自分は、何をしているんだろう。   此処に来てから、ずっと落ち込んでばかりな気がする。   守れず、負けて、失って、八つ当たりをして。   迷走に迷走を重ねて、未だに確たる答えを見つけられずにいる。  『あんたは確かに強い……!』   自分は、何をしているんだろう。     『でもね! あんたの強さは、独りよがりな強さでしかないッ!!』   独りよがり。   その言葉に、ハッとなる。   此処に来てからの自分は、まさにそれだった。   独りよがりな強さでしかないから、脆く容易く崩れてしまう。   仲間である筈の少女を殴るような真似をしてしまう。  『そんなあんたに、一体何が出来るっていうのよ――!!』   自分は、何をしているんだろう。   もう一度、問う。   自分は、何が出来るんだろう。   自分は、何をすべきなのだろう。    ――だったら……次にすべきことくらい、あんた自身でも分かるでしょう!?   ああ。   そうだ。   そうだった。   その答えは、私の中に、もうある。   きっと最初からあって――けれど見つけられなかった、答え。   頭の中で、聞こえない筈の「がんばれ」を確かに聞きながら。   アインハルト・ストラトスは――立った。もう、迷いはない。   光の軌跡の先、描いた未来へ、歩み出す。  ◯  ●  「が――ああああッ!」   アザゼルが吹き飛ばされる。   今度こそ、完全な直撃だった。   脇腹に直撃したアインハルトの拳を伝い、衝撃が駆け抜け彼を跳ね飛ばした。   無様に地面を転がる真似こそしなかったが、しかし痛手を負ったのは明らかだった。   驚いた様子でアインハルトを見つめる夏凜。   彼女の方に目を向けて、アインハルトは少しだけ恥ずかしそうに笑った。  「……ありがとうございます、夏凜さん」     ぎゅっと拳を握って、前を向く。   そこに迷いや鬱屈としたものはなかった。   ――勇者とは、その眩しい背中をもって人々へ勇気を与える存在でもある。   だとすれば、これもまた、勇者と人の正しい関わりの一つと言えよう。   三好夏凜の青い勇気が、一人の迷える少女を奮い立たせた。   そして、勇者が勇気を与えた少女の奮起こそが、こうして勇者を救ったのだ。   彼女の救援がなければ今頃、夏凜の頭は粉々に吹き飛んでいたことだろう。   ひとりでは勝ち取れなかった勝ちだった。どちらが欠けていても、辿り着けない光だった。  「おかげさまで、やっとわかりました。私がやるべきこと――私が進むべき道が」  「……そ。なら、感謝しなさいよね……」   アインハルトが頷いた。   夏凜は土埃にまみれた顔で、ふっと笑って同じく頷いてみせた。   未だ青い少女たちの小さな成長が、そこにはあった。    「ッ……、やってくれたな……」   しかし、悪魔は死んでなどいない。   殺す為の戦いでないのだから当然だが、その顔は未だに怒りに満たされている。   当然だろう。   軽視していた小娘に不覚を取らされた挙句、思い切り殴り飛ばされたのだ。   殺す。この小娘二人をこの場で殺し、悪魔へ仇成したことへの報いを受けさせてやる。   拳を構えるアインハルト。刀を拾い、構え直す夏凜。   その双方を見据え、片太刀バサミを握るアザゼル。      だが、再び戦いの幕が開くことはなかった。   地面から吹き上がった影が、アザゼルを拘束するように彼へ巻き付いたのだ。   アインハルトと夏凜にも同じように影が巻き付いていく。   悪魔の視線が、射殺すような鋭さでセルティに向いた。   それに動じた様子もなく、セルティ・ストゥルルソンが影の鎌を構え、そこまでだ、とばかりに間へ割って入る。      舐めるなよ。    小さくアザゼルが呟けば、みしみしと影が軋んでいく。   彼の力をすれば、この程度の拘束を跳ね除けるのは難しくない。   邪魔をするなら貴様も殺す――そう言わんばかりに力を込めた、矢先。  「おおっと、そこまでだぜ。悪魔の旦那」   ホル・ホースの銃口が、アザゼルへ向いていた。  「ま、腑に落ちないモンはあるだろうけどよ。   此処は一つ、あの嬢ちゃん達の頑張りに免じて許してやっちゃあくれねえかい?」   アザゼルは答えない。   ただ、殺意を込めた瞳でホル・ホースを睥睨している。   おっかねえ。背筋に冷や汗を滝のように掻きながら、それでもガンマンは精一杯虚勢を張っていた。   此処でこの二人を殺されては、繭へ繋がるという小湊るう子へ辿り着く目的がパーになってしまう。   夏凜達は間違いなく冷静ではなかったが、アザゼルもまた同じだ。   彼ほどの実力者が、セルティの本気でもない影に捕らえられた――そのことからも、彼の頭の中がどうなっているかは窺える。相当血が昇っていると見て間違いない。   此処は一つ、クールダウンしてもらう必要がある。   それもまた、二番手としての大事な仕事の一つだ。   また、ホル・ホースは女に優しい男でもある。   流石にあんな子どもに食指を伸ばすほど落ちぶれちゃいないが、それでも女は女。   あと十年もすれば相当な上物になるだろう彼女達が、こんな所でみすみす殺されてしまうのはあんまり忍びない。   ――それに、彼女達が悪魔に対し発揮してみせた輝き。   そこへ彼なりの『敬意』を表した結果が、恐れていた悪魔へ銃口を向けるという行動だったのかもしれない。   本人に自覚があるかないかは、ちょっと定かではないが。  「それに、旦那も言ってたろ?   繭が一枚岩じゃなかった時には、戦う戦力が必要になるってよォ~。   だったら旦那から一本取るようなデキる連中、殺しちまうってのはあんまり早計だと思うぜ」  「……チッ」  「おっ、矛を収めてくれるかァ~流石は旦那だぜッ!   いやあ、あとちょっと戦ってたら旦那の勝ちだったな! 間違いなく!」  「貴様……それ以上喋ると、その口を縫い合わすぞ」   影の拘束が外れても、アザゼルは別段攻撃行動を再開する様子はなかった。   夏凜も、アインハルトもだ。もっとも、彼女達に追い討ちをかける理由は存在しなかったが。      セルティが夏凜の体に重篤な傷がないかを確認している間、アザゼルは険しい顔で己の右手へ視線を落としていた。      ――俺の勝ちだと? あれを見てそう思う人間がいるとすれば、それはきっと白痴か何かに違いない。   アザゼルには自覚があった。   夏凜の狙った通りに、彼は理解させられた。   自分の敗北を。   不意討ちだったなどという言い訳はあまりにも見苦しい。   普段通りのコンディションを維持できていれば、あの程度の奇襲を見抜くことは容易かった筈。   だが自分にはそれが出来ず、結果的に不覚を取り、このザマだ。   人間の小娘二人を前に、悪魔アザゼルはまたしても敗北した。   殺意が引き始めているのは、やはりセルティとホル・ホースの介入があったゆえのことだろう。   主催打倒。   それを掲げるからには、『乗っておらず』『力のある』参加者を無為に消費する訳にはいかない。   そう考えれば彼女達を生かす理由は数あれど、殺す理由は全くない。   ……完膚なきまでの敗北だ。にも関わらず冷静さを比較的維持できているのは、流石に初めてではないからか。   ともかくだ。   気を切り替えて、今は小湊るう子のことに集中しなければなるまい。   無抵抗な彼女が、何も知らぬ愚かな参加者に殺されることがあれば、参加者全ての命運に関わってくる。      少女は成長し。   悪魔は敗北し。   首なしライダーとスタンド使いは調停する。   誰にも聞こえず、また意味のない小競り合いが、朝のある時間に起きて、ひっそりと終わりを告げた。 【F-2/午前】 【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】 [状態]:疲労(小) [服装]:普段通り [装備]:V-MAX@Fate/Zero ヘルメット@現地調達 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、     黒カード:PDA@デュラララ!! 、宮内ひかげの携帯電話@のんのんびより [思考・行動] 基本方針:殺し合いからの脱出を狙う 1:やれやれ…… 2:ホルホースの相棒として行動する。 3:知り合いとの合流。臨也には一応注意しておく。 4:縫い目(針目縫)はいずれどうにかする 5:旦那、か……まあそうだよな……。 [備考] ※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。  少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。 ※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。 【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康、冷や汗 [服装]:普段通り [装備]:デリンジャー(1/2)@現実 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:生存優先。女は殺さない……つもり。 1:セルティの相棒として行動する。 2:ジョースター一行やDIOには絶対に会いたくない。出来れば会う前に野垂れ死んでいてほしい。 3:刃牙を相棒の候補として引き入れたい……が、無理はしない。 4:アインハルトと夏凜にちょっぴりの『敬意』。 [備考] ※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です ※犬吠崎樹の首は山の斜面にある民家の庭に埋められました。 ※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。 【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】 [状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、脇腹にダメージ(中) [服装]:包帯ぐるぐる巻 [装備]:ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS、市販のカードデッキ@selector infected WIXOSS [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)     黒カード:不明支給品0~1枚(確認済)、片太刀バサミ@キルラキル、イングラムM10(32/32)@現実、タブレットPC@現実、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid [思考・行動] 基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す 0:小湊るう子と合流する。場合によっては護衛することも視野 1:…………チッ。 2:借りを返すための準備をする。手段は選ばない 3:ファバロ、カイザル、リタと今すぐ事を構える気はない。 4:繭らへ借りを返すために、邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。 5:繭の脅威を認識。 6:先の死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。 7:デュラハン(セルティ)への興味。 [備考] ※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。 ※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。 ※繭とセレクターについて、タマから話を聞きました。  何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。 ※繭を倒す上で、ウィクロスによるバトルが重要なのではないか、との仮説を立てました。 【三好夏凜@結城友奈は勇者である】 [状態]:疲労(大)、顔にダメージ(中)、左顔面が腫れている、胴体にダメージ(小)、満開ゲージ:最大 [服装]:普段通り [装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)      黒カード:なし [思考・行動] 基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。    0:紗路たちと合流する    1:アザゼルには勝った。るう子に乱暴はさせない。    2:研究所、放送局どこに向かう……?    3:東郷、風を止める。    4:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。 [備考] ※参戦時期は9話終了時からです。 ※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。 ※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。  ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。 ※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。 ※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。 【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】 [状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折 (処置済み) [服装]:制服 [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)     黒カード:0~3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)     高速移動できる支給品(詳細不明) [思考・行動] 基本方針:殺し合いを止める。    0:もう、大丈夫。    1:紗路たちと合流し、謝る。    2:私が、するべきこと――わかりました。    3:コロナを探し出す。    4:余裕があれば池田華菜のカードを回収したい。 [備考] ※参戦時期はアニメ終了後からです。 ※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。 *時系列順で読む Back:[[Spread your wings(前編)]] Next:[[黄金の風]] *投下順で読む Back:[[Spread your wings(前編)]] Next:[[黄金の風]] |123:[[Spread your wings(前編)]]|セルティ・ストゥルルソン|:[[]]| |123:[[Spread your wings(前編)]]|ホル・ホース|:[[]]| |123:[[Spread your wings(前編)]]|アザゼル|:[[]]| |123:[[Spread your wings(前編)]]|三好夏凜|:[[]]| |123:[[Spread your wings(前編)]]|アインハルト・ストラトス|:[[]]|
*Spread your wings(後編) ◆gsq46R5/OE   拘泥たる思いでその戦いを見つめるセルティとホル・ホース。   止めに入ろうとするセルティを止めたのは、このホル・ホースだった。   何故止めるのか。   そう問うセルティへ、ホル・ホースは冷や汗を流しながら説明する。  『落ち着け、落ち着けってのセルティの旦那!   悪魔の旦那だって馬鹿じゃねえ、殺すつもりなんてねえハズだッ!』   ホル・ホースの言い分はこうだった。   夏凜は今、間違いなく冷静ではない。   もとい、冷静さの中に激しさを同居させた奇妙な状態にある。   きっと今彼女を無理に抑圧したとして、遅かれ早かれ二人は対立することになるに違いない。   夏凜は殺すつもりはないと語っていたし、アザゼルも阿呆ではない。   どちらかが痛い目を見ることにはなるだろうが、それで頭が冷えるなら好都合ではないか。   だから今はやりたいようにやらせて、本当に危なくなりそうだったら助太刀をしよう――と。   確かに、彼の言い分は理に適っていた。   だが、それで納得できるかといえば話は別である。   夏凜の攻撃が何度も空を切って、悪魔が彼女の腹を蹴飛ばした。   衣装をどろどろにして戦う姿は少女らしからぬ泥臭さで、痛ましい。   今すぐにでも止めてやりたい。止めなくてはならないのではないだろうか。   ホル・ホースの言葉と、自分の意志。   その板挟みにセルティが悩んでいる時、夏凜が顔を殴り飛ばされた。   竹蜻蛉のように回転して地面をバウンドし、止まる。   ――終わった。セルティもそう思った。   幸いにしてアザゼルが追撃を行う様子はないが、自分は結局、勇敢な少女がただ良いように痛めつけられる様子を指を咥えて見つめていただけだった。   ぐっ、と拳を握り締める。    終わったか……そんなホル・ホースの安堵したような呟きが聞こえてきた、その時だった。   三好夏凜が、ぐぐぐ、という擬音が聞こえてきそうな動きで、ゆっくりと立ち上がっていたのだ。  「おい……マジかよ」   零したのはホル・ホースだ。   ホル・ホースは、女に優しい男を自負している。   縫い目のような怪物は別として、彼は女を撃つことをしない。   そんな彼もまた、彼なりに夏凜の戦いには痛ましい物を感じていた。   しかし止めに入らない理由はセルティにも話した通り。   若い娘とは、よくも悪くも青い。   それを溜め込ませてしまえば、いつか必ず爆発の時が来る。   そうなった日には、こんな小競り合いでは済まない大惨事になる可能性だってある。   ホル・ホースはそう考えたから、敢えて彼女達を止めない選択肢を選び取ったのだった。      普通ならば、そんな心配は過剰なのかもしれない。   だが、アザゼルという男は悪魔である。   何が起こるか――何をするか、分からない。   程々に済めばいいが。   そんなことを思いながら、彼なりに憂鬱な心境で戦いを見ていた。      一方的なワンサイドゲームだった。予想通りの有様だった。   しかし、夏凜はゆっくりと、確かに立ち上がっている。   踵を返した悪魔が、僅かな驚きを含めた瞳で振り返った。   夏凜が突進する。   速度の乗った突撃と共に、放たれる刺突。   それは悪魔のハサミによって受け止められたが――そこで刀身が滑り、ガードを抜けることに偶然成功した。      夏凜の刃が、アザゼルの肩を皮一枚裂いていた。  ◯  ●  「――貴様」   アザゼルの声には、いつしか怒気が含まれていた。   これまで夏凜を圧倒し、遊んですらいた彼。   その彼をしても、彼女が立ち上がってくるのは想定外だったのだ。   ましてや、偶然に等しい展開の運びで、とはいえ――血を流す羽目になるなどとは。   全く予想だにしていなかった。   そして、一度確信した勝利を覆された者は皆決まって感情を大きく揺さぶられる。   それは悪魔も人間も、同じだ。  「貴様……そうか」   アザゼルが一歩を踏み出す。   夏凜は切れた息を必死に整えながら、注がれる眼光を睨み返した。      恐れはない。   恐れはない。   あるのは勇気。   ――神樹の勇者を象徴する、輝けるもの!  「どうやら――死にたいらしいな」   凶手が伸びる。   夏凜は紙一重で回避し、刀を振るった。   当たらない。   片太刀バサミの反撃を受け止める。   が、その矢先に足払いを懸けられた。   浮遊感が襲ってくる。   上からはハサミとは思えない、槍の如き刺突が放たれようとしているのが見えた。   何も出来なければ、此処で死ぬ。かと言って、この状況を打開する手段は思いつかない。      その気になれば夏凜を数度は容易く殺せる。   そう宣ったのは伊達ではない。   ましてや口だけの虚勢などでは、断じて。   実際に、三好夏凜は今殺されようとしていた。   片太刀バサミの切っ先は、真っ直ぐに夏凜の心地点をめがけて落ちてくる。   疾い。   外すことには期待できない。相手は悪魔。人間の弱点など、知り尽くしていて然るべきだ。      では、此処で勇者の物語は終わってしまうのか?   為す術もなく悪魔に蹂躙され、か細い抵抗も虚しく藪蚊の如く潰されてしまうのか?  「勇者部ッ――五箇条ぉぉ!!」   違う。   最後の一瞬まで、勇者は生きることをやめない。   確かに袋小路だ。   黄泉路の扉が、すぐそばに口を開けて待っているのを感じる。   普通は、どうしようもない。   けれど、それはあくまで普通に考えれば、の話でしかない。  「なせば大抵……なんとか、なる――!!」   思い切り足を頭の方へと宙返りの要領で振り上げ――振り落とされる鋏の刀身を、蹴り飛ばす!  「何だとッ!?」      アザゼルの顔が、今度こそ確かな驚愕に支配された。   それを見て、夏凜は会心の笑みを浮かべる。   どんなもんよ、と。   これが勇者の底力だ、見たか――と。   普通に考えればどうしようもない袋小路だろうと、打破できる可能性があるなら、きっとそれを掴み取る。   それが讃州中学勇者部の謳う五箇条が一つ。   その訓が、追い込まれた夏凜を救った。  「あんたは確かに強い……!」   もしもアザゼルが殺し合いに乗っていたならば、さぞかし巨大な脅威として立ちはだかったに違いない。   そうならなかったことは、紛れもなく幸運とすべきなのだろう。   冷静に考えると、我慢できずに喧嘩を売った数分前の自分が手のつけようもない馬鹿に思えてきて仕方がないが。   それでもきっと間違いではないと信じて、刀を握る力を更に強めた。     「でもね! あんたの強さは、独りよがりな強さでしかないッ!!」   それは当然の話。   悪魔に協調性などを要求する方が間違いだ。   だが自らの主張がお門違いだとする論すらも否と断じ、夏凜は叫ぶ。  「そんなあんたに、一体何が出来るっていうのよ――ッ!!」   放つのは、またしても突きだ。   殺すつもりはない。   けれど、殺害せずとも勝敗を決めることは出来る。   力のない者なら理解できずとも、化け物じみた力の持ち主であるアザゼルにはそれが分かるはずだ。   自分が敗北する瞬間。   それを言葉でいくら否定しようとも、頭の中では目を背けきれない。  「――るな」   そう思っていた。   先程のアザゼル同様に、夏凜も今、勝ちを確信していた。   それがいけない。   悪魔とは、人が幸せの絶頂にあるその時にこそ真の姿を見せるものだ。  「舐めるなよ、人間風情が……!」   ゾッとするほど低い声が響き。   乾坤一擲の一撃を、あろうことか彼は『下から』弾き飛ばした。   片太刀バサミの柄に腕を通し、ぐるぐると回転させる。   それはさながら即席で作り上げられた旋盤のよう。   夏凜の剣を弾き飛ばし、勝利まであと一歩の所から、再び敗北の淵へと引きずり下ろす。   彼女の頭を砕くべく、最早加減など捨てた悪魔の拳が放たれる。   夏凜はそれをどこかスローモーションと化していく視界で見つめながら、悔しい、と思った。   あと少しだった。   でも、届かないのか。   胸を焦がす悔しさに抱かれながら、夏凜の顔を鉄拳が叩き潰す――ことはない。  「覇王――断空拳」   アインハルト・ストラトス――戦いの渦中にはいなかったはずの少女が、悪魔の脇腹を打ち抜いていた。  ◯  ●   アインハルトは夏凜の戦いをどこか茫然と見つめていた。   茫然と、どころか。   他人事のように――と言っても誤りではない。   現実感がなかった。   アザゼルに果敢に挑みかかる仲間の姿を見ても、何も感慨が浮かんでこなかった。   我ながら薄情なものだと思う。   でも、その理由は考えなくとも分かった。   ヴィヴィオの死。   斜路を殴ってしまったこと。   そして……    ――でも言ったでしょう、あんたがどんなに悔やんだって、人に八つ当たりしたって、死んだ人は戻りはしないの!   他ならぬ夏凜に言われた言葉が、いつまでも胸に刺さっている。   返しの付いた針のように、それはなかなかアインハルトの体を抜け出てはくれなかった。   ヴィヴィオは死んだ。どうやったって、もう取り戻すことは出来ない。   優勝を目指して、仮にその末に彼女を蘇生させることが出来たとしても。   きっと彼女は泣くだろう。だからアインハルトは、ヴィヴィオの死を受け入れるしかない。   そう分かっているのに割り切れない辺り、まだ彼女は子どもだった。   じくじくと胸が痛む。   針の返しでずたずたに、ぐずぐずにされていく。   熱に浮かされた子どものように、ただ、夏凜がぼろきれのようにされていくのを見つめていた。   アインハルトは、戦闘の経験だけならば夏凜を上回っている。   人の形をした生物を相手取ることにおいては、更に差を付けられる。   だからこそ分かった。あのアザゼルという男は、とんでもなく強い。   夏凜が勝てる見込みがあるかといえば、極めて怪しいだろう。   そしてその見立て通りに、彼女は殴り飛ばされ、地面に落ちた。   勝負あり。   そう思って目を伏せたアインハルトが、再度目を開いた時、そこでは。   彼女が、立っていた。   その姿が――重なる。   今はもう記憶の中にしかいない好敵手。   かつて守れず、今生でも離れ離れになった、彼女と。   会ったばかりの頃、ヴィヴィオが自分へ使ってきた技は全て力不足もいいところだった。   期待外れ。   そんな言葉が脳裏へ浮かび、失礼な話だが、がっかりしてしまったのを覚えている。   けれど彼女は諦めず、立ち上がり、やがて高町ヴィヴィオは自分の唯一無二の好敵手になった。   勇者の、ボロボロになり、それでも立ち上がって戦おうとする姿。   それを見た時――アインハルトの大きな目から、一滴の塩辛い雫が流れ落ちた。   自分は、何をしているんだろう。   此処に来てから、ずっと落ち込んでばかりな気がする。   守れず、負けて、失って、八つ当たりをして。   迷走に迷走を重ねて、未だに確たる答えを見つけられずにいる。  『あんたは確かに強い……!』   自分は、何をしているんだろう。     『でもね! あんたの強さは、独りよがりな強さでしかないッ!!』   独りよがり。   その言葉に、ハッとなる。   此処に来てからの自分は、まさにそれだった。   独りよがりな強さでしかないから、脆く容易く崩れてしまう。   仲間である筈の少女を殴るような真似をしてしまう。  『そんなあんたに、一体何が出来るっていうのよ――!!』   自分は、何をしているんだろう。   もう一度、問う。   自分は、何が出来るんだろう。   自分は、何をすべきなのだろう。    ――だったら……次にすべきことくらい、あんた自身でも分かるでしょう!?   ああ。   そうだ。   そうだった。   その答えは、私の中に、もうある。   きっと最初からあって――けれど見つけられなかった、答え。   頭の中で、聞こえない筈の「がんばれ」を確かに聞きながら。   アインハルト・ストラトスは――立った。もう、迷いはない。   光の軌跡の先、描いた未来へ、歩み出す。  ◯  ●  「が――ああああッ!」   アザゼルが吹き飛ばされる。   今度こそ、完全な直撃だった。   脇腹に直撃したアインハルトの拳を伝い、衝撃が駆け抜け彼を跳ね飛ばした。   無様に地面を転がる真似こそしなかったが、しかし痛手を負ったのは明らかだった。   驚いた様子でアインハルトを見つめる夏凜。   彼女の方に目を向けて、アインハルトは少しだけ恥ずかしそうに笑った。  「……ありがとうございます、夏凜さん」     ぎゅっと拳を握って、前を向く。   そこに迷いや鬱屈としたものはなかった。   ――勇者とは、その眩しい背中をもって人々へ勇気を与える存在でもある。   だとすれば、これもまた、勇者と人の正しい関わりの一つと言えよう。   三好夏凜の青い勇気が、一人の迷える少女を奮い立たせた。   そして、勇者が勇気を与えた少女の奮起こそが、こうして勇者を救ったのだ。   彼女の救援がなければ今頃、夏凜の頭は粉々に吹き飛んでいたことだろう。   ひとりでは勝ち取れなかった勝ちだった。どちらが欠けていても、辿り着けない光だった。  「おかげさまで、やっとわかりました。私がやるべきこと――私が進むべき道が」  「……そ。なら、感謝しなさいよね……」   アインハルトが頷いた。   夏凜は土埃にまみれた顔で、ふっと笑って同じく頷いてみせた。   未だ青い少女たちの小さな成長が、そこにはあった。    「ッ……、やってくれたな……」   しかし、悪魔は死んでなどいない。   殺す為の戦いでないのだから当然だが、その顔は未だに怒りに満たされている。   当然だろう。   軽視していた小娘に不覚を取らされた挙句、思い切り殴り飛ばされたのだ。   殺す。この小娘二人をこの場で殺し、悪魔へ仇成したことへの報いを受けさせてやる。   拳を構えるアインハルト。刀を拾い、構え直す夏凜。   その双方を見据え、片太刀バサミを握るアザゼル。      だが、再び戦いの幕が開くことはなかった。   地面から吹き上がった影が、アザゼルを拘束するように彼へ巻き付いたのだ。   アインハルトと夏凜にも同じように影が巻き付いていく。   悪魔の視線が、射殺すような鋭さでセルティに向いた。   それに動じた様子もなく、セルティ・ストゥルルソンが影の鎌を構え、そこまでだ、とばかりに間へ割って入る。      舐めるなよ。    小さくアザゼルが呟けば、みしみしと影が軋んでいく。   彼の力をすれば、この程度の拘束を跳ね除けるのは難しくない。   邪魔をするなら貴様も殺す――そう言わんばかりに力を込めた、矢先。  「おおっと、そこまでだぜ。悪魔の旦那」   ホル・ホースの銃口が、アザゼルへ向いていた。  「ま、腑に落ちないモンはあるだろうけどよ。   此処は一つ、あの嬢ちゃん達の頑張りに免じて許してやっちゃあくれねえかい?」   アザゼルは答えない。   ただ、殺意を込めた瞳でホル・ホースを睥睨している。   おっかねえ。背筋に冷や汗を滝のように掻きながら、それでもガンマンは精一杯虚勢を張っていた。   此処でこの二人を殺されては、繭へ繋がるという小湊るう子へ辿り着く目的がパーになってしまう。   夏凜達は間違いなく冷静ではなかったが、アザゼルもまた同じだ。   彼ほどの実力者が、セルティの本気でもない影に捕らえられた――そのことからも、彼の頭の中がどうなっているかは窺える。相当血が昇っていると見て間違いない。   此処は一つ、クールダウンしてもらう必要がある。   それもまた、二番手としての大事な仕事の一つだ。   また、ホル・ホースは女に優しい男でもある。   流石にあんな子どもに食指を伸ばすほど落ちぶれちゃいないが、それでも女は女。   あと十年もすれば相当な上物になるだろう彼女達が、こんな所でみすみす殺されてしまうのはあんまり忍びない。   ――それに、彼女達が悪魔に対し発揮してみせた輝き。   そこへ彼なりの『敬意』を表した結果が、恐れていた悪魔へ銃口を向けるという行動だったのかもしれない。   本人に自覚があるかないかは、ちょっと定かではないが。  「それに、旦那も言ってたろ?   繭が一枚岩じゃなかった時には、戦う戦力が必要になるってよォ~。   だったら旦那から一本取るようなデキる連中、殺しちまうってのはあんまり早計だと思うぜ」  「……チッ」  「おっ、矛を収めてくれるかァ~流石は旦那だぜッ!   いやあ、あとちょっと戦ってたら旦那の勝ちだったな! 間違いなく!」  「貴様……それ以上喋ると、その口を縫い合わすぞ」   影の拘束が外れても、アザゼルは別段攻撃行動を再開する様子はなかった。   夏凜も、アインハルトもだ。もっとも、彼女達に追い討ちをかける理由は存在しなかったが。      セルティが夏凜の体に重篤な傷がないかを確認している間、アザゼルは険しい顔で己の右手へ視線を落としていた。      ――俺の勝ちだと? あれを見てそう思う人間がいるとすれば、それはきっと白痴か何かに違いない。   アザゼルには自覚があった。   夏凜の狙った通りに、彼は理解させられた。   自分の敗北を。   不意討ちだったなどという言い訳はあまりにも見苦しい。   普段通りのコンディションを維持できていれば、あの程度の奇襲を見抜くことは容易かった筈。   だが自分にはそれが出来ず、結果的に不覚を取り、このザマだ。   人間の小娘二人を前に、悪魔アザゼルはまたしても敗北した。   殺意が引き始めているのは、やはりセルティとホル・ホースの介入があったゆえのことだろう。   主催打倒。   それを掲げるからには、『乗っておらず』『力のある』参加者を無為に消費する訳にはいかない。   そう考えれば彼女達を生かす理由は数あれど、殺す理由は全くない。   ……完膚なきまでの敗北だ。にも関わらず冷静さを比較的維持できているのは、流石に初めてではないからか。   ともかくだ。   気を切り替えて、今は小湊るう子のことに集中しなければなるまい。   無抵抗な彼女が、何も知らぬ愚かな参加者に殺されることがあれば、参加者全ての命運に関わってくる。      少女は成長し。   悪魔は敗北し。   首なしライダーとスタンド使いは調停する。   誰にも聞こえず、また意味のない小競り合いが、朝のある時間に起きて、ひっそりと終わりを告げた。 【F-2/午前】 【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】 [状態]:疲労(小) [服装]:普段通り [装備]:V-MAX@Fate/Zero ヘルメット@現地調達 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、     黒カード:PDA@デュラララ!! 、宮内ひかげの携帯電話@のんのんびより [思考・行動] 基本方針:殺し合いからの脱出を狙う 1:やれやれ…… 2:ホルホースの相棒として行動する。 3:知り合いとの合流。臨也には一応注意しておく。 4:縫い目(針目縫)はいずれどうにかする 5:旦那、か……まあそうだよな……。 [備考] ※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。  少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。 ※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。 【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康、冷や汗 [服装]:普段通り [装備]:デリンジャー(1/2)@現実 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:生存優先。女は殺さない……つもり。 1:セルティの相棒として行動する。 2:ジョースター一行やDIOには絶対に会いたくない。出来れば会う前に野垂れ死んでいてほしい。 3:刃牙を相棒の候補として引き入れたい……が、無理はしない。 4:アインハルトと夏凜にちょっぴりの『敬意』。 [備考] ※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です ※犬吠崎樹の首は山の斜面にある民家の庭に埋められました。 ※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。 【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】 [状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、脇腹にダメージ(中) [服装]:包帯ぐるぐる巻 [装備]:ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS、市販のカードデッキ@selector infected WIXOSS [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)     黒カード:不明支給品0~1枚(確認済)、片太刀バサミ@キルラキル、イングラムM10(32/32)@現実、タブレットPC@現実、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid [思考・行動] 基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す 0:小湊るう子と合流する。場合によっては護衛することも視野 1:…………チッ。 2:借りを返すための準備をする。手段は選ばない 3:ファバロ、カイザル、リタと今すぐ事を構える気はない。 4:繭らへ借りを返すために、邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。 5:繭の脅威を認識。 6:先の死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。 7:デュラハン(セルティ)への興味。 [備考] ※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。 ※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。 ※繭とセレクターについて、タマから話を聞きました。  何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。 ※繭を倒す上で、ウィクロスによるバトルが重要なのではないか、との仮説を立てました。 【三好夏凜@結城友奈は勇者である】 [状態]:疲労(大)、顔にダメージ(中)、左顔面が腫れている、胴体にダメージ(小)、満開ゲージ:最大 [服装]:普段通り [装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)      黒カード:なし [思考・行動] 基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。    0:紗路たちと合流する    1:アザゼルには勝った。るう子に乱暴はさせない。    2:研究所、放送局どこに向かう……?    3:東郷、風を止める。    4:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。 [備考] ※参戦時期は9話終了時からです。 ※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。 ※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。  ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。 ※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。 ※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。 【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】 [状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折 (処置済み) [服装]:制服 [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)     黒カード:0~3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)     高速移動できる支給品(詳細不明) [思考・行動] 基本方針:殺し合いを止める。    0:もう、大丈夫。    1:紗路たちと合流し、謝る。    2:私が、するべきこと――わかりました。    3:コロナを探し出す。    4:余裕があれば池田華菜のカードを回収したい。 [備考] ※参戦時期はアニメ終了後からです。 ※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。 *時系列順で読む Back:[[Spread your wings(前編)]] Next:[[黄金の風]] *投下順で読む Back:[[Spread your wings(前編)]] Next:[[黄金の風]] |123:[[Spread your wings(前編)]]|セルティ・ストゥルルソン|138:[[心の痛みを判らない人]]| |123:[[Spread your wings(前編)]]|ホル・ホース|138:[[心の痛みを判らない人]]| |123:[[Spread your wings(前編)]]|アザゼル|138:[[心の痛みを判らない人]]| |123:[[Spread your wings(前編)]]|三好夏凜|138:[[心の痛みを判らない人]]| |123:[[Spread your wings(前編)]]|アインハルト・ストラトス|138:[[心の痛みを判らない人]]|

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