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変わる未来 - (2016/01/08 (金) 04:36:03) の1つ前との変更点

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*変わる未来 ◆gsq46R5/OE  「これでよし、と」   弄ばれた二つの死体。   彼女たちだったものが残した死臭は未だ健在だったが、その悪趣味極まる芸術作品は既に姿を消していた。   では、亡き巨匠が創ったアートはどこへ消えたのか。   答えは、リタの前にある二つの小山を見れば分かる。   街路樹を植えるために用意されたのであろう、駅周辺の土がある区画。   そこを利用して、リタは彼女たちの墓をこしらえたのだ。  「ごめんなさいね、おあつらえ向きの墓標がなくて」   支給品のシャベルが大型ではなかったこともあって穴掘りには苦労したが、どうにか埋め終えた。   少しの間とはいえ同行した少女と、名前も知らない綺麗な瞳をした少女。   尊厳を弄ばれ、見るもおぞましい姿にされた彼女たち。   唯一救いがあったとすれば、それは加工されたのが死後ということか。   雨生龍之介。   あの男は、きっと生きている保登心愛を作品に仕立てたがっていた。   オッドアイの少女を見たとしても、きっと同じ願望を抱いたに違いない。   リタには全く理解できない話だったが、世の中には時折、そういう異常な倫理観を持った人間が生まれてくる。   それこそ、悪魔のような人間が。      想像するに、彼に生きたまま悪趣味なアートとされた人間も、過去には少なからず居たのだろう。   長きを生きたリタをしても、悪寒を覚えずにはいられない話だった。   自分も彼の『標的』の一つだったのかと思うと、げんなりする。   だが、しかし。   最早、彼の毒牙に掛かる可能性を憂慮する必要はどこにもなくなった。  「……なんで満足そうな顔してるのよ、こいつ」   その龍之介も、死んだ。   何発も胴を撃たれて、呆気なく死んだようだった。   彼を破滅へ追い込んだのは、迂闊さだ。   もう少し物を考えて動いていれば、少なくともこうも早く命を落とすことはなかったろうに。   因果応報――そんな言葉が脳裏を過るが、死んだ殺人鬼の顔を見た瞬間、それは間違いだと気付く。   彼は本当に、満足そうな顔をしたまま死んでいた。   ずっと探していた何かを見つけたような、満ち足りた顔をしていた。   それに悪寒を覚えながら、二人の墓穴とは少し離れた場所へ掘った穴まで彼を引きずっていき、埋める。      本当のところを言えば、この男は埋葬などしなくてもいいか、とも思った。   あの有様を見るに、雨生龍之介は本物の鬼畜だ。   埋めるにあたって彼の『作品』をリタも見たが、あれはとても人間の所業とは思えない。   まともな感性を持った人間はおろか、生半可な異常者でさえ嘔吐するような、惨憺たる芸術だった。   死後の安息など、これまで彼の手にかかってきた者たちのことを思えば不要に違いない。   しかし、リタはなんやかんやで彼の分の墓穴も用意してしまっていた。   深い理由は、きっとない。   如何に外道とはいえ、捨てたままにしては寝覚めが悪い……所詮はその程度の理由、単なる感傷だ。  「さてと」   それから数分後。   リタは、龍之介の死体から回収した黒カードの中身を回収することにした。   ブレスレット、ライター、携帯ラジオ、クーラーボックス、そして医療用具。   まずリタは、クーラーボックスの中身を検め、すぐに投げ捨てた。   心愛の生首が収められていたそれは、とてもではないが臭いが酷くて使い物にならなかったためだ。   残るものについては、全て拝借した。   医療用具も、解体に使ったものは加工現場となった食事処に放置されていたため、状態は比較的よかった。   ……願わくば、もう少し武器らしいものが欲しいところだったが――流石にそこまでを望むのは贅沢というものである。  「すっかり静かになったわね」   心愛も、龍之介も、もう一人の少女も、皆死んだ。   鬱陶しいほどの賑やかさはどこへやら、今は耳障りなほどの静けさが満ちている。   とはいえ、あまりもたもたしている暇はない。   同行者が消えた以上、自分一人で人探しにあたるとしよう。   リタは振り返ることなく、三人の死者が眠る場所を後にした。      どっしりとした疲れを、背中に感じる。   肉体労働をしたからか、それともあまりに色々ありすぎたからか。   ……きっと両方ね。   溜息混じりに呟いて、リタは夜の会場へとひとり姿を消した。  ◯  ●   歩き始めて、どれくらいの時間が経ったろうか。   などといえば大袈裟だが、現実には精々半時がいいところだろう。   数時間ぶりの孤独を苦とは感じない。   ただ、やはり感じ方の違いというものはある。   賑やかに騒ぎ立てる心愛や龍之介が死んだことに、まだ頭が完全に追いつき切ってはいないらしい。   別段悲しいとは思わないが、違和感は感じる。      ――ゾンビになっても、そういうところは変わらないのね。   自嘲するように笑って、足を止めることなく、歩く。   今後どうするかの方針については、とりあえず今までと変わらない。   基本は、ファバロとカイザルの両名を捜索することだ。   そうやって動きつつ、合間を縫って繭についての調べも進めていく。     「邪魔が入らないと考えれば、一人の方が楽かもね」   人でなしの台詞だと自分でも思うが、人でないのだから仕方がない。   心愛たちが死んで一人になったことで、動きやすさは格段に増した。   今後はこの島を探索しつつ、先述した基本方針をなぞっていくことになる。   戦闘はなるべく避けて生き残りながら、上手いこと立ち回っていくとしよう。   まずは手始めに、手近なガソリンスタンドなる施設を目指してみるのがいいかもしれない。   そう考え、方向転換をせんと首を回して。   ふと、一軒の民家が目に留まった。   それに気が付いたのはただの偶然。   見逃してしまっても何らおかしくはない、本当に瑣末な足跡。   引き戸の扉が、ほんの少しだけ開いていた。    幅にして二センチほどの隙間だが、偶然開いたとしてはやや不自然だ。   ひょっとして、中に誰か居るのだろうか。   だとすれば、見逃すことはできない。   それがカイザルやファバロな可能性もあるのだから、素性を確認せずに通り過ぎては本末転倒だ。   扉へそっと近寄り、耳をそばだてる。     「……声も物音もしないか」   優れた戦士でないリタには、気配を探知するような高等技能は使えない。   だから声や音がしないというだけでは、中に本当に誰もいないという証明としては不十分だった。   不用心な話だが、中で睡眠を取っている可能性もある。   そうでなくとも――  「死体なら、音は出さないものね」   誰かに殺された人間の屍が安置されていることだって、考えられる。   支給品がそのまま残されているとは考え難いが、確認するに越したことはない。   リタはなるだけ音を立てないように中へ入り、土足のまま床を踏み締めた。   見慣れない建築様式だったものの、部屋割りの基本は同じだ。   居間の位置はすぐに分かったため、まずはそこを探ってみることにする。      そして、彼女は一発目から『当たり』を引いた。     「なんだ」   部屋の外からは分からなかった、ほんのりと漂う血の香り。   その主は、居間のど真ん中に居た。   目を瞑って仰向けに寝かされ、胸の上には剣が添えられている。   殺されたにしては、随分とまあ小綺麗な死体だった。   手向けさながらに添えられた剣を見るに、仲間と共に行動する中で殺され、弔われたと見るのが一番妥当だろうか。   死体の側にしゃがみ込んで死に顔をぼんやりと眺めながら、リタは先程までと変わらない、無感動な顔で呟く。  「死んだのね、アンタ」   死体の名前は、カイザル・リドファルド。   この幼いゾンビが、最も優先して探していた騎士だった。   彼に目立った外傷は見られない。   しかし、その口許には血を拭い取った痕が残されていた。   恐らく、毒殺だ。   騎士の高潔さを誰よりも重んじた彼が、その真っ直ぐさとは無縁の方法で殺されるとは何という皮肉か。   ただ、リタにとってはある意味予想通りの死に様だった。   彼のように馬鹿正直で真っ直ぐな男に、この悪趣味な催しは端から向いていない。   混沌化する状況に対応しきれず、荒波に揉まれた末、呆気なく死ぬ。   カイザルが死ぬとしたらそんなところだろうと、どこかで思っていた自分がいる。   そして今、彼はその通りの死に様を晒していた。   無残さとは無縁の綺麗な死体。   けれど不思議と、満足して死んでいった訳ではないのが分かった。   伝わってきた。   それでもリタは、涙は流さない。   堪えるだとかそういうのではなく、この状況を見ても、さっぱり心が動揺していないのだ。  「……まあいいわ。覚悟はしてた」   カイザル達がカードに閉じ込められたならどうするか。   それは最初から決まっていた。   どんな手段を使ってでも、その魂をカードから解放する。   無論最悪の展開になった場合の行動方針であったが、今、目の前にはまさしくその最悪の展開が転がっていた。   のうのうと過ごしていられる時間は今より終わりを告げる。   ここからは本気で、目的を果たすために動き出さなければならない。   最優先は、繭に関しての調査。   それと同時に、これまで以上に積極的に生き延びることを重視する。   出来る限り集団に属することもせず、自分が最も動きやすい単独行動を心がける。   ここまでは、今までとさして変わったところはないように見える。   されど。    「――もしも、願いが本当に叶うなら」   願いを叶える力は、実在するのか。   それを確かめるためにも、繭のことを調べる必要がある。   彼女の持つ力と、カードからの解放が可能なのか否かについてをはっきりさせておかなくてはならない。   では――もしも。もしも結論が出て、繭が本当に願いを叶えられるのだとしたら。   否、その確証が持てずとも。最早、それを迷う必要はどこにもなくなった。  「一つ、乗ってやろうかしら」      殺し合い。   悪趣味と嫌悪すらしたそれに、乗る。   人道から外れて、鬼畜と侮蔑した龍之介と同じ道を往く。   リタはそう決めた。   繭の力が本物ならば殺し合いに優勝し、願いを叶えることで魂を救い出す。   もしも願いの使い道に制限がないのなら、いっそこのゲームそのものをなかったことにしてやるのもいいかもしれない。   いずれにせよ、最悪でもカイザルだけは救い出す。   最悪、それさえ叶えば十分だ。   そしてこれからは、優勝するための下準備を重ねていく。   繭の調査を続けながら、殺せると判断した相手を確実に落としていくのだ。   彼女の言っていることが全てハッタリだったなら無駄骨だが、その時は何食わぬ顔で対主催派に混ざればいいだけのこと。   絵に描いたような外道の理屈だとは、自分でも分かっている。   しかし、今やこれ以上の最善策は存在しない。   そう判断したから、リタは迷うことなく一線を飛び越えた。   どの道、とうの昔に朽ち果てる定めであった体だ。   人間などとっくにやめているのだから、人の道を外れることに躊躇いを抱くというのもおかしな話だろう。  「じゃあね、カイザル。また会うことがあるかどうかは知らないけど、私も私で頑張るわ」   物言わぬ彼にそう告げて、騎士の眠る部屋を後にしようとし、……一瞬の逡巡の後に踵を返す。   カイザルの屍に屈み込むと、その胸に置かれた剣を拾い上げた。   武器としては、やや心許ない。   それでも、この場にたとえ上等な銃火器があったとしても、リタが最初に拾うのはこの剣だった筈だ。  「必ず返すから」   覚悟は決まった。   今度は振り返らずに、扉を開け、閉めた。   家を出ると、冷たい外気が、冷たい体を出迎えた。   世界が、自分を歓迎しているような気がして、反吐を吐いた。 【C-2/一日目・午前】 【リタ@神撃のバハムートGENESIS】 [状態]:健康 [装備]:カイザルの剣@神撃のバハムートGENESIS [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/15)、青カード(10/15)     黒カード:不明支給品0~1枚(本人確認済)、アスティオン@魔法少女リリカルなのはvivid、具@のんのんびより、シャベル@現実、ブレスレット@Fate/Zero、ライター@現実、携帯ラジオ@現実、医療用具(現地調達) [思考・行動] 基本方針:繭の力について調査を進めつつ、優勝の下準備をする 1:願いを叶える力の実在する確証が持てたなら、本格的に優勝を目指す 2:あくまでも生存優先。危ない橋は渡らない。 3:アザゼルは警戒。ラヴァレイも油断ならない。 4:ファバロは保留。 [備考] ※参戦時期は10話でアナティ城を脱出した後。 ※心愛の友人に関する情報を得ました。 *時系列順で読む Back:[[悪魔と吸血鬼! 恐るべき変身!]] Next:[[]] *投下順で読む Back:[[誰かの為の物語]] Next:[[]] |109:[[二度殺された少女たち]]|リタ|:[[]]|

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