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万事を護る者 - (2016/03/25 (金) 17:37:40) の1つ前との変更点

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*万事を護る者 ◆3LWjgcR03U 北西の島。その南に存在する基地。 1人の少女が、シャワーを浴びていた。 海水に濡れた服を乾かし、道着を羽織った少女――宇治松千夜。 道着の主――本部以蔵を待つ間、半裸を晒し続けているのも落ち着かず、基地の中を少しだけ探ってみることにした。 軍人の父を持つリゼならともかく、千夜にはあまりにも無縁な場所ではあったが、程なくしてこのシャワールームを見つけた。 ――熱い湯が体を流れていく。 シャワーのノズルを、海水に浸かった髪に当てる。 湯ともに、様々な思いもまた、千夜の頭の中から流れ出ていくような気がした。 もうすぐ半日あまりだろうか。 あまりにも色々なことがありすぎた。 濃密な生と死が、少女の周囲を交錯した。 やってしまったことへの後悔も、これからしなければならないことも、千夜にはたくさんあった。 けれど、今だけは。 ただ流れる湯の気持ちよさに、身をゆだねたかった。 ☆ 『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ。』 放送が流れたのは、千夜がシャワールームから上がり、体を拭いている最中だった。 「――っ」 怖かった。 放送は、自分の犯した罪を、殺し合いの現実を、容赦なく突きつけてくる。 覚悟を決める間もないまま、死者の名は告げられた。 ――【ランサー】 西で起きた光の正体を確かめにいったまま、戻らなかった彼。 ――【保登心愛】 「あ……」 世界が反転したような感覚が千夜を襲った。 その死は、知っていたはずだった。 彼女の■をこの目ではっきりと見たのは、他ならぬ自分だったのだから。 だけど、心のどこかで、目をそらし続けていたのかもしれない。 ――【雨生龍之介】 ――【蒼井晶】 ――【カイザル・リドファルド】 ――【範馬刃牙】 ――【高坂穂乃果】 知っている名前が、立て続けに読み上げられた。 悪い人もいた。ココアを殺したり、自分を弄ぼうとしたり。 けれど。 ――『うそ……そんな……』 ――『親父に近づくために何より必要な覚悟を」』 ――『アンタを殺して手に入れる……!』 対峙した、二人の少年少女。 彼らは、どんな人だったのだろうか。あれほど濃密な時間だったように感じられるのに、結局、何も分らない。 ――【桐間紗路】 「――っ!」 それ以上、多くの死者たちのことを考える余裕もなく。 大切な友人の名前が、読み上げられた。 「しゃろ、ちゃ……」 放送は、それ以上は聞いていられなかった。 バスタオルに身を包んだまま、その場にへたり込む。 ただ一人の、大切な幼馴染だった。 ココアたちさえ知らなかった秘密を、共有していたほどの。 彼女には、もう会えない。 ちょっといかがわしい制服を着て、フルール・ド・ラパンをぱたぱたと忙しく動き回る姿も。 あんこに追い回されてきゃあきゃあと騒ぐ姿も。 コーヒーで酔っ払ってあらぬことを口走る姿も。 自分が帰る日常には、もうあの姿がないのだと思うと、たまらなく寂しくて心細かった。 きっとこの先自分が長生きして、おばあちゃんと同じくらいの歳になっても、あんな友達は二度と現れてはくれないのだろう。 「ごめんね……」 無防備な半裸を晒すのにもかまわず、顔を覆う。 最初からもっとしっかり現実を見て、みんなを探していたら。 あの時ああしていたら、自分がちゃんとしていたら……。 とめどない後悔が、千夜を襲う。 「ごめんなさい」 けれど、千夜はやがて、ゆっくりと向き直る。 高町ヴィヴィオをはじめとする、自分に関わった人間たちの次々の死。 ココアとシャロ、二人の親友の死。 今の千夜は、悲しみ混乱しながらもその全てを受け入れていた。――受け入れてしまっていた、ともいえる。 現実から目を背けていた、殺し合いに参加した当初の千夜だったら、放送も受け入れられず泣きわめいていたかもしれない。 純粋無垢な女の子でいるには、あまりに多くのことを経験しすぎた。 「いかなきゃ」 立ち上がる。 青のカードからハーブティーを出して、口を付ける。 その味が、彼女を勇気づけてくれた。 チノとリゼは、まだ生きている。この会場のどこかにいる。 ならば、前に進まなければいけない。 宇治松千夜はもう、うさぎに囲まれたお姫様ではいられないから。 ☆ 「――上ったか」 シャワーを浴びる前に見つけた女性用の軍服と、飾り気のないスポーツ用の下着。 こういうのは自分じゃなくてリゼに似合うんだけどな、と思いながらも、多少の未練はあったが、汚れた制服よりはずっとましだと思い、身につける。 建物から出ると、一人の男が千夜を待っていた。 「俺の知り合いにも軍人はいるが――中々様になってるぜ、嬢ちゃん」 男――本部以蔵の軽い冗談に、千夜はわずかに微笑んでみせる。 本部もそれを見て少しだけ安心したような表情を見せる。 「――嬢ちゃんは、どこへ行きてえ」 本部さんも少し休んで――と言いかけた千夜を制し、彼女の希望を聞く。 本当ならばこの後は、放送局へキャスターを倒しに行かねばならなかった。 だが、盟約の相手であるランサーは、光の原因を探りに行ったまま果てた。 倒すべきキャスターも死に絶え、説得すべき相手だった高坂穂乃果もまた、何処とも知れぬ場所で命を散らした。 今の本部以蔵には、目的が何もなかった。 まやかしの目的に踊らされる道化でしかない。 ――だが道化にも、果たさなならないことはある。 目の前の少女。 ランサー。カイザル・リドファルド。2人の騎士が護ろうとして、果たせなかった存在。 その意思を、自分が継がねばならない。 道化衣装を纏ったままだとしても、騎士の役目を、自分がやらなければならない。 「わたしは……」 少し考え込んだ後、千夜は口を開いた。 「わたしは、ラビットハウスに行きたいです」 あまりに多くの命が散った。けれど、リゼとチノは生きている。 日常の象徴。2人は必ず、あの場所へ向かうはずだ。 いずれにせよ、自分たちがいる場所は、禁止エリアに指定された。目指す場所がどこであろうと、ここで待っているわけにはいかない。 駅から電車に乗って向かう中途で、高町ヴィヴィオ、雨生龍之介、そしてココア。3人のことも、きちんと弔いたい。 本部が無言で頷くと、2人はゆっくりと歩き始めた。 ☆ 少しづつ会話をしながら、2人は歩く。 千夜は、話していく。 学校でのこと、友達たちのこと、自分の実家の甘味処のこと。 今はもういないシャロとココアのことも。 親子ほど年の離れた二人に、共通の話題などはあるはずもない。 だから会話は、一方的に話し続ける千夜に、本部がわずかに相槌を打つ事で進んでいく。 そのうち、曇っていた千夜の顔に、少しずつ笑顔が見え始める。 それを見て、本部の顔にも安堵感が浮かび始める。 そして、「C-3」エリアをもうすぐ抜けようかというところで。 「やあ、お二人さん」 奇妙に重々しい印象の傘をさした、一人の青年が目の前に現れた。 ☆ 「本部以蔵さんに、そっちのお嬢さんは宇治松千夜ちゃん、だね」 「……ああ」 3人になった集団が、ぽつぽつと会話をしながら北へ向かっている。 自分について来るように言ったのは、神威だった。 一目会った瞬間から、本部はこの一見飄々とした青年の、その内に秘められた尋常ではない闘気を感じていた。 彼の言葉に逆らうような真似をすれば、間違いなく自分は千夜もろとも粉微塵にされるだろう。 それゆえに、千夜も本部に促され、2人は黙って付いていくしかなかった。 どれほど歩いただろうか。 とある施設の前で、神威の足は止る。 「何でぇ、ここは……」 本部は思わずごちる。 「知ってるんだ」 神威の言葉に、本部が頷く。 知っているも何もない。 地下闘技場。本部の、いわばホームグラウンドであった。 「さてと。そっちの千夜ちゃんは、ここまでにしたほうがいいかな」 「――え」 ウォーミングアップのような動作をしながら、神威が何気なく千夜に呼びかける。 「いっ――嫌です!」 思わず、そう返していた。 だって、戦いなんてしたことのない千夜でも分る。ここで2人が戦えば、確実に死人が出てしまう。 もう目の前で、誰かが死んでいくのを見るのは――嫌だ。 「俺は、君のためを思って言ってあげたんだけどなあ」 神威は頭を掻く。 「言いつけを守れない悪い子は――殺しちゃうぞ」 その瞬間、神威から放たれる殺気の質と量が、明らかに変化した。 「――っ!?」 千夜は思わず気圧される。 ここに来てから様々な経験を重ねた千夜であったが、その敵意は、高坂穂乃果のものとも、雨生龍之介のものとも、蒼井晶のものとも、範馬刃牙のものとも違っていた。 「行きな、嬢ちゃん」 本部が、千夜の肩に手を掛ける。 「ここは、俺に任せて嬢ちゃんは逃げろ。俺よりも頼りになる奴見つけて、仲間ァ探してやれ」 これ以上ないほど真剣な目で、千夜を見据える。 「――頼む」 その視線に、肩を強張らせながら―― 「っ」 何かを振り切るように、千夜はその場から駈けだした。 ☆ 「かつて水戸黄門――徳川光圀が各地を廻って武芸者を一所に集め、競わせたといわれる」 ライトに照らされた、観客のいない闘技場。 本部の声が響き渡る。 「それから300年――存在は秘密にされているが、今なお闘士(グラップラー)共が集まってきやがる。それがこの地下闘技場だ」 橋が直るなり一直線にここに向ったが、地下通路を見つけたものの結局望んでいた相手は現れず、腰を上げて南へ向った神威。 望む相手は地下(アンダーグラウンド)ではなく、光差す地上にいたようだ。 「へえ。幕府(おかみ)の持ち物だったんだ、これ」 意外な話にも、神威はあくまで飄々としている。 どうも自分の知る幕府とはずれているような気もするが、纏流子と話して気付いた世界のズレの一つなのだろうと考え、大して気にも留めない。 「何だか本部さんの話を聞いてると、その徳川光成さん? っていうおじいちゃん」 笑顔を崩さず、話しかける。 「最大トーナメント? だっけ。なんかこの殺し合いに似てる気がするんだけど。  ――ひょっとして、繭ちゃんの味方についてたりして」 「――さあ、どうだかな」 光成の顔を思い浮かべながら、本部は言う。 「大して交流があるわけじゃねえが……まあ、あの爺さんは俺に言わせりゃ、本質的には甘ちゃんだ。  こんな大それた催しを開くタマじゃあねえさ」 「ふーん」 世界が違っても、ふぬけた幕府の末裔ならそんなものか、と思い。 神威は、それ以上の興味を捨てた。 「さて、そろそろ始めようか」 傘を構えながらのその言葉に、本部も身構える。 「一つだけ、聞いてもいいかな。俺は純粋にやり合いたいだけだけど――  本部さんは、何のために戦うんだい」 「守護るためだ」 本部は、即答した。 「嬢ちゃんたち、生きてこの場にいる連中の命も」 「無念のうちに、死んでいった連中の誇りも」 「俺自身でさえも」 「全てを守護るために、俺ぁ戦う」 「ひゅう、大きく出たねえ」 言い切った本部に、神威はからかうように言葉を浴びせる。 「あんただってそうだろう、神威さんよ」 本部は、そんな神威に臆さない。 「あんたにだって、守護りたいもんの一つや二つ――あるんじゃねえのか」 その言葉に、神威がわずかに――揺らいだ。 ――『強くなれ』 「ないよ」 一瞬の動揺を再び笑みで覆い隠し、言い放つ。 「そんなもの、とっくの昔に捨てたさ」 「嘘だな」 ずいと一歩踏み出し、本部は神威に迫る。 「兄ちゃん。俺ぁお前さんがどんな奴かは知っちゃいねえけどな」 「しょせん俺たちゃ、一度守護りてえと思ったもんを簡単に捨てられるようには、出来ちゃいねえのさ」 本部が、言い終わるか言い終わらないかのうちに。 ドン、という音が闘技場に鳴り響いた。 「……少々、おしゃべりが過ぎたかな」 音は、神威が鉄傘で地面を叩いた音だった。 砂に、小規模なクレーターができあがる。 「本部さんも、ペラペラしゃべってる暇はないんじゃないかな。  そんな代物を使ってちゃ――死ぬよ」 「死なねえ」 神威の目は、本部が持つ剣に注がれていた。 剣の柄から、触手のようなものがのび、持つ手に這いあがっている。 「言い忘れてたが、闘技場(ここ)は本当なら武器は御法度でなぁ。  ――だがうるせえ爺さんもいねえ以上、心ゆくまで使わせてもらうぜぇ」 意識を誰かに乗っ取られるような感覚には、この剣を手に取った時に既に気付いていた。 ラヴァレイが何を思ってこれを渡したのかは、分からない。そこに悪意があったのかさえも。 大事なのは、刃牙との戦いで大きなダメージを負った体で目の前のこの化け物に勝利するには、宝具を2つ抱えていてすら、全く足りないということだった。 ならば、この妖刀に可能性を託すしか、道は残されてはいなかった。 「武芸百般――。こいつも使いこないしてみせるぜぇ」 「やってみなよ、武道家さん」 その時、闘技場を照らすライトが、僅かに揺らめいた。 それが合図だった。 神威が傘を振りかざし、本部に跳びかかった。 本部は紅桜を振りかざし、迎え撃った。 ☆ ――かつてあった温かい家族を捨て、全てを破壊せんとする狂戦士。 ――全ての脅威から、参加者たちを守護らんとする武道家。 狂兎と守護者。 舞台は地下闘技場。 見守る者は一人としてないまま、2つの意思が衝突した。 【B-3/地下闘技場/一日目・午後に近い日中】 【神威@銀魂】 [状態]:健康、高揚感 [服装]:普段通り [装備]:日傘(弾倉切れ)@銀魂 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(26/30)、青カード(26/30)、電子辞書@現実     黒カード:必滅の黄薔薇@Fate/Zero、不明支給品0~2枚(初期支給)、不明支給品1枚(回収品) [思考・行動] 基本方針:殺し合いを楽しむ。 0:本部以蔵との戦いを楽しむ。 1:本物の纏流子と戦いたい。 2:勇者の子(結城友奈)は面白い。 3:纏流子が警戒する少女(鬼龍院皐月)とも戦いたい。 4:DIO、セイバーとも次に出会ったら決着を着けたい。 [備考] ※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。 ※「DIOとセイバーは日が暮れてからDIOの館で待ち合わせている」ことを知りました。 ※参戦時期が高杉と出会った後かどうか、彼から紅桜のことを聞いているかどうかは、次以降の書き手に任せます。 【本部以蔵@グラップラー刃牙】 [状態]:全てを守護る強い決意、背中に刀傷(処置済み)、ダメージ(大)、「紅桜」侵食中 [服装]:道着 [装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、乖離剣エア@Fate/Zero、紅桜@銀魂 [道具]:腕輪と白カード、範馬刃牙の白カード、赤カード(19/20)、青カード(17/20)     黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲Saki 全国編     カイザル・リドファルドの不明支給品1~2枚(カイザルが確認済、武器となりそうな物はなし) [思考・行動] 基本方針:全ての参加者を守護(まも)る。 0:――守護る。 1:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る。 2:騎士王を警戒。 [備考] ※参戦時期は最大トーナメント終了後。 「はぁ、はぁ……!」 同じ時刻。 宇治松千夜は、走っていた。 「本部、さん……!」 本部以蔵とは、出会ってから一日も経っていない。 助ける義理なんてものは、本来ならばないのかもしれない。 けれど、あまりにも多くの人が自分の周りで死んでいった。 だから、もう嫌だった。 誰かが傷付くのを見るのは。 誰かが死んでいくのは。 そうしなければ、死んでいった人たちも、穂乃果と向き合った時の自分の決意も、何もかもが無駄になってしまう。 「――っ!」 誰でもいい。誰か、助けになってくれる人がいれば。 その思いを抱え、千夜は走る。 「――」 小さなうさぎが一羽、その傍をついていった。 うさぎが何か言葉を発することはない。 だがその姿はどこか、彼女を守護っているように見えた。 【北西の島のどこか/一日目・午後に近い日中】 【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】 [状態]:健康、精神的疲労(中)、決意 [服装]:軍服(女性用) [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)     黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid、不明支給品0~1枚     黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実、盗聴器@現実、不明支給品1~2枚(うち最低1枚は武器) [思考・行動] 基本方針:人間の心を……。 0:助けを呼ぶ。 [備考] ※現在は黒子の呪いは解けています。 ※セイクリッド・ハートは所有者であるヴィヴィオが死んだことで、ヴィヴィオの近くから離れられないという制限が解除されました。千夜が現在の所有者だと主催に認識されているかどうかは、次以降の書き手に任せます。 *時系列順で読む Back:[[EXiSTENCE]] Next:[[インタビュー・ウィズ・纏流子]] *投下順で読む Back:[[EXiSTENCE]] Next:[[インタビュー・ウィズ・纏流子]] |142:[[殺し合いに春の雨]]|神威|:[[]]| |129:[[誰かの為の物語]]|本部以蔵|:[[]]| |129:[[誰かの為の物語]]|宇治松千夜|:[[]]|

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