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高坂穂乃果の罪と罰 - (2015/11/29 (日) 12:20:33) の最新版との変更点

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*高坂穂乃果の罪と罰 ◆3LWjgcR03U 北西の島の、さらに北西部。 市街地を走る胴着の男の姿があった。 男――本部以蔵の顔は硬い。 数刻前まで浮かべていたような、自信に満ち溢れた表情は消えている。 (……) その原因は、自分がついていながら命を失った少女――高町ヴィヴィオの死。 そして、放送で読み上げられた参加者の死。 その中の、ある名前。 (勇次郎……) 範馬勇次郎。 闘争に身を置く者なら、誰もが知る名前。 かつて闘い敗れ、目標としてきた存在。 彼が死んだ。 殺し合いが始まって6時間あまり。地上最強の生物は、あまりにもあっけなくこの世から姿を消した。 彼を易々と上回る者が、この場にはいるのだ。 (嬢ちゃん……ディルムッつぁん……無事でいろよ) こうなれば、駅から銃声が響いた直後に姿を消した宇治松千夜。 キャスターを名乗る男のテレビ放送を見たあと、走り去っていった高坂穂乃果。 そして、光の奔流の正体を探りに行き、駅には戻ってきていないディルムッド。 彼らの安否が、俄然気にかかってくる。 『アンタに守護らせた結果がこれだから!!』 原付で走り去った少女の罵声が、再び脳内に響き始める。 ラヴァレイに諭され、一度は甦ったかにみえた覚悟。 その覚悟を、17人もの死を容赦なく知らせた定時放送が再びぐらつかせていた。 ――ホノカ嬢オオオオオオオオオオォォ!!!!! 「!?」 どこからか、突然大声が聞こえてきた。 本部は思わず足を止める。 (リドッつぁん……?) 遠いが、聞き覚えのある声だった。 わずかな時間だが、駅で共に少女の遺体を検分した男性。カイザル・リドファルドと名乗っていた男のものだ。 そして、ホノカ嬢とは高坂穂乃果のことに違いない。 (何がありやがった……!) この場で大声を出すというのは、危険極まりない行為だ。 走り去った穂乃果と、それを追っていった2人。 彼らの間に、カイザルに大声を出さざるを得なくするような何かが起きたのか。 とにかく、事態は捨て置けない。 本部は南へ向かうのをやめ、市街地を探索しはじめる。 ほどなくして、目当てのうち1人――高坂穂乃果が震えながら立ちすくんでいるのを見つけた。 ※ 「嬢ちゃん」 呆然としている穂乃果に、本部は声をかける。 「!?――っ!? ひっ――」 傍に人が来ていることにすら、声をかけられるまで穂乃果は気づかなかった。 咄嗟にヘルメットを投げつけるが、本部は容易く回避する。 慌てて逃げようとするも、すぐに追いつかれてしまう。 一度は本部を気絶させた穂乃果だが、ランサーに集中していたあの時と今は違う。 スクールアイドルとして鍛えているとはいえ、地下闘技場で闘う本部との身体能力の差は歴然としている。 「嬢ちゃん、何があった」 「ひいっ――! い、いやあっ! 離してぇっ!」 毒薬のカプセルを取り出し本部に向けるが、その手はすぐに掴まれてしまう。 穂乃果にとって、本部以蔵は恐ろしい人物であり、殺意をも向けた相手だ。 盲愛の対象であったディルムッドに敵意を向け、強烈なプレッシャーで威圧され、さらには変な武器で気絶させられてもいる。 愛の黒子の魅了が解けた今でも、その恐怖心だけは全く消えていない。 「いや、嫌ぁ……殺さないで……」 「落ち着け」 なおも抵抗する穂乃果に本部は出来る限り優しく声をかけ、僅かに手を握る力を緩める。 「俺ぁ、嬢ちゃんの味方だ」 「ぇ……」 「俺ぁ嬢ちゃんを守護りてえ……。  だから、話してくれねえか。俺がいねえ間、何があったのか」 穂乃果ほどの年代の少女と接するのには慣れていない本部だったが、慎重に言葉を紡ぐ。 その言葉に、穂乃果の恐怖もほんの少しだけ緩む。 ――ホノカ嬢オオオオオオオオオオオオオオオ!!! 何処におられるかアアアアアア!! その間にも遠くから聞こえてくる、カイザルの声。 それに穂乃果の体がびくんと跳ねる。 (そうだ、私……殺されちゃうんだ……あの子を殺した罪で……) だったら。 どうせ殺されるなら。 その前に全てぶちまけてしまっても、何も失うものはないのではないか。 穴の開いた堤防が崩れ去るのは早かった。 断片的ながらも、穂乃果はランサーと出会ってからの一部始終を話していった。 ※ 「――なるほどな」 語り終えた穂乃果の前で、本部が何か得心がいったような顔で頷く。 「嬢ちゃん」 その目が、まっすぐに穂乃果を見据える。 「俺ぁ、嬢ちゃんを――」 (ああ……私……死ぬんだ) 失うものが、何も無くなったからだろうか。 不思議と恐怖は薄らいでいた。 「許す」 「――えっ?」 今、目の前の男は何と言ったのだろうか。 「嬢ちゃん、俺ぁあんたを許すぜ」 人殺しとなった自分を、許す? 「それでな……この騒ぎが全部終わったら、俺の道場に来い」 本部は考える。 穂乃果の話は短く、また錯綜していたが、おおよそ理解はできた。 ヴィヴィオ殺害に関する自分の推理は外れていた。 だが、それ以上に気になったのは、穂乃果が『ランサーのために』殺人を行ったということ。 思い起こされるのは、ディルムッド・オディナに関する一つの伝承。 その相貌にある黒子からは、異性を惑わす魔力が常に発散されているという。 あのディルムッドが伝承の通りならば、長く行動を共にしていた穂乃果はその影響を強く受けるはず。 加えて殺し合いという異常な状況とあいまり、凶行に走ることがあっても、不自然ではない。 それならば――高坂穂乃果には、情状酌量の余地はある。 まだ、やり直せる。 普通の少女に、戻ることができる。 「嬢ちゃん、あんたはまだやり直せるんだ。なら、俺が助けになってやるぜぇ。  あんたはヘルメットの一撃で俺から一本取った実力の持ち主だ……素質がある。  五十余年鍛え上げた本部流……余すところなく伝授してやるぜ」 武術というのは、何も他者との闘争のためだけにあるものではない。 弱き者がその弱さを克服し、強くなるための助けになるものでもある。 無軌道な犯罪行為、反社会的行為に手を染めていた者が、武術と出会ったことで立ち直り、立派な人物へと成長した例は数多く存在する。 本部以蔵は、神心会の愚地独歩のような教育者ではないが。 罪に怯える目の前の少女を相手に、その真似事をしてみたくなったのだ。 「そんな……私、私……」 本部の言葉に、穂乃果の心中は激しく揺れた。 穂乃果にとって本部以蔵は、最初から「小汚いおじさん」であり、信用できない人物であった。 そもそもこの年代の少女とって、父親や教師以外の壮年の男性と関わる機会など皆無に等しいのだ。 加えて殺し合いという非日常の中。信頼をおけという方が無茶な話だ。 「許されて、いいの……?」 だが、その「小汚いおじさん」――本部以蔵は、今こうして自分と真正面から向き合い、許すと言っている。 そのことは、魅了された相手であるランサーに対するものとは違う感情を、疲弊した穂乃果の心の中に呼び起こした。 僅かに目を上げた穂乃果の肩を、本部はがっちりと掴む。 「……ああ。やり直して――元に戻ろうぜぇ」 この時、穂乃果は言うに及ばず、本部も説得するのに精一杯で、気付いていなかった。 断続的に聞こえる、穂乃果を呼ぶカイザルの声。それが、だんだん近づいていたことに。 ※ 「ホノカ嬢オオオオオ!」 カイザル・リドファルドは未だ叫んでいた。 その危険性にはさすがに気付き、声を出す頻度は下げたものの、叫ぶことそのものをやめてはいない。 「どこへ行ってしまったのだ……」 その心中の焦りは消えない。 穂乃果だけでなく、つい先ほど別れ、30分後に戻る約束をした晶への心配。 さらには、いまだにファバロやリタたちに出会えていないことも、焦りを加速される。 加えてここがカイザルのいた世界にはない近代的な市街地であることも、スムーズな探索を妨げている。 「ホノカ嬢オオオオオオ!」 なお叫び、守るべき少女を必死に探す。 ――い――はな――ぇっ! 「な!?」 その時、かすかに聞こえた。 うまく聞き取れなかったが、少女の声。 それも、間違いない。悲鳴だった。 「いかん……!」 カイザルの胸には最悪の想像がよぎる。 「ホノカ嬢オオオオオオオオオオオオオオオ!!! 何処におられるかアアアアアア!!」 焦る。 「ホノカ嬢オオオオオ!! アキラ嬢オオオオオ!!」 必死に探し回ること、さらに数分ほど。 「――むっ?」 その努力の甲斐あったのか、一人の人間の背中が遠くに見えた。 「あれは――モトベ殿?」 駅で少女の死体を一緒に調べた、博識な男。 彼もここに来ていたのか。 「モ――」 次の瞬間。 共に穂乃果を探そうと呼びかけようとしたカイザルの体が、凍った。 男の影に隠れていた、もう一人の人間が、ちらりと見えた。 カイザル・リドファルドと本部以蔵が行動を共にした時間は、ほんのわずかだった。 本来ならば情報交換をし親交を結んでいたはずだが、出会った直後にヴィヴィオが殺害され、さらに穂乃果が走り去るという事態が起きてしまい、そんな時間はなかった。 だから、カイザルは本部の人物像を図りかねていた。 その本部が今、目の前で、守るべきか弱い少女である穂乃果の肩を押さえつけている。 かすかに聞こえた、助けを求める声とあいまり。 そんな光景はカイザルの目にはこう映った。 『本部以蔵が、あろうことかホノカ嬢に襲いかかっている』と。 カイザルの思考回路はそこで決壊した。 「モトベエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッッッッッッッッ」 ※ 胴着の男は背中から血を流して倒れ、少女は呆然とへたりこむ。 「ホノカ嬢!!! お怪我はありませんかな」 ――いみがわからない 「まったく、モトベ殿……いやモトベ。信頼できると思ったが、婦女子にこのような真似をするようなとんでもない悪漢であったとは……」 ――このひとはなにをいっているの 「ですがこの私が来たからには! ホノカ嬢のおそばからは二度と離れませんゆえ、どうぞご安心下さい!!」 ――なんでもとべさんがころされてるの 「ホノカ嬢、立てますかな? 私の背中でよければお貸ししましょう」 ――そうだこのひとはこんなことをいってみんなころすきなんだ ――わたしもころされるんだ ――ことりちゃんやにこちゃんやヴぃヴぃおちゃんやもとべさんみたいに ――ころさなきゃ 穂乃果の体が跳ね起き、カイザルに飛びついた。 ※ 「――なっ!? ホ、ホノカ嬢!!」 カイザルの失策は、レディーファーストの精神を保ち続けていることだった。 今の穂乃果は酷い目に遭ったせいで錯乱し、助けに来た自分を敵と誤認している――そう考えた。 「ホノカ嬢! 私は味方です! どうか、どうか落ち着いてください!!」 だから剣は使わないのはもちろん、振りほどこうとする力もごく弱い。 言葉だけでどうにか説得を試みようとする。 (ころさなきゃころさなきゃころさなきゃ――っ) 一方の穂乃果の心中はただひたすらに恐怖と、組み付いている男への殺意が占められていた。 無理もないだろう。 本部の説得によって僅かに心が安らいだところを、突然現れた、元々これも恐怖の対象だったカイザルにその本部を殺害されたのだから。 「ホノカ嬢! 離してください! ホノカじょ――」 なおも喚くその口に、穂乃果の腕が突っ込まれた。 ※ 「――うがっ――ガ――がはっ!」 騎士は少女から離れ、胸を押さえて苦しみだす。 「なんだ……これは……ど……く……か……?」 何が起きた。 毒を飲まされたのか。 「ぐあっ……ごはぁ……ッ」 吐いた血が地面を汚し、その上に倒れ込む。 「ホ……ノカ……じょ……」 助からない。 誰も救えないまま、誤解も解けないまま、自分は死んでいく。 全身をさいなむ苦痛が、霞んでいく視界の中で遠ざかっていく少女の姿が、そのことを冷徹に教えていた。 それでも、言葉を紡ぐ。 名誉を失い、今またその命さえも失おうとしている騎士にできることは、かつての親友に全てを託すことだけ。 「ファ……バ……あとは、たの……」 ※ 「――ッ、く……」 それから数刻後の市街地。 胴着の男がむくりと体を起こした。 「……ってぇ……何がどうなってやがる……」 本部以蔵は死んでいなかった。 説得に全ての意識を集中していたため、襲撃者の存在には気づけなかったものの、それでも本部は一流の武術家である。 襲撃を受けた際、穂乃果をかばうために僅かに身をよじった。 背中には浅くはない刀傷が残り、ショックで意識も刈り取られたものの、致命傷には遠い。 「……おい、あんた! ……リドっつぁん?」 説得していた少女、高坂穂乃果の姿はない。 代わりになぜか、駅で行動を共にし、先ほどどこかで叫んでいた男――カイザル・リドファルドが、傍らで口から血を流して倒れている。 襲ってきたのはこの男だったのか。 話しかけるも、すでに手の施しようがない状態。 「これは毒……青酸カリ……?」 遺体を調べるうちに、ヴィヴィオと同じ毒が死因であることにすぐ気付く。 そして思いいたるのは、最悪の可能性。 『自分が穂乃果を襲っていると勘違いしたカイザルが自分に斬りかかり、さらにカイザルを敵と勘違いした穂乃果が毒を飲ませて彼を殺した』ということ。 「――ッ!!!!!!!!!」 本部以蔵に冷静な思考ができたのはそこまでだった。 「うおおおおおおおおお!!!!!!!」 本部以蔵は泣いた。 齢五十を越す男が咽び泣く光景は異様なものに映るかもしれない。 だが。 全ての参加者を守護るという決意。 それをあざ笑うかのように、あまりに非常な現実が突きつけられていく。 目の前でまた一つ失われていった命に、そして自分の無力さに。 涙を流す彼を、誰が責められるだろうか。 「おおお……」 『無様だな』 「――?」 背中の痛みも構わず慟哭する本部に、何者かが突然話しかける。 「――な」 間違えるはずもない。 かつての宿敵であり、今はもういないはずの、その声は――。 「勇次郎ッッッッッ」 『実に無様だな、本部以蔵よ』 これは幻なのだろうか。 だが狼狽する本部に構わず、勇次郎は次々に言葉を投げかけていく。 『大層な御託を抜かしておきながら、誰一人として守護れていねえ』 『ガキのお守りもロクにできず、青二才ごときの剣にかかって倒れ伏す始末』 『挙句の果てには赤ン坊のごとくピーピー泣き喚き醜態を晒す』 『今の貴様は闘士(グラップラー)でもなければ武術家でもねえ』 『街を徘徊する浮浪者にも劣る、この世のゴミカスよ』 投げかけられた、本部を罵倒する言葉の数々。 だが、今の本部にはそれに反抗する気力は残っていなかった。 「……あァ……その通りだぜ。  ……そもそも、全てを守護ろうなんて考えたのが間違いだったのかもしれねえ。  粋がってはみたが、所詮俺ぁあの大会でもしょっぱなで消える程度の男よ。  勇次郎、あんたの息子のようにはなれ――」 『莫迦者がッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ』 「えーー?」 罵声に思わず顔を上げる。 『貴様この期に及んでなけなしの信念さえ捨て去るつもりかッッッッッッッッッ たかが数度しくじった程度で放り出す信念なら最初から持つなッッッッッッッッッ』 『1人守護れなくば10人守護れッッッッッ 10人守護れなくば100人守護れッッッッッッッッッ 100人守護れなくば1万人守護れッッッッッッッッッ  守護る者がこの世にいなくなろうとも――』 『守護るという意志を守護り通せッッッッッッッッッッッッッッッッッッ』 「――――ッッッッッッッッッ!!!」 勇次郎の言葉は、本部に強い衝撃を与えた。 守護れなかった数多くの命。 「俺ぁ……俺ぁ」 だが、この場にはまだ多くの人々がいる。 彼らのために、本部以蔵が守護る意思を捨てる理由は――ない! 「へっ――」 前を見据える。 「ありがとよ、勇次郎よ。俺ぁまだ――立てるぜ」 『ならばよしッッッッ』 不肖のガキどもを頼むぜ、と言い残し――。 範馬勇次郎は、ついに消え去った。 ※ 「今のは――」 何だったのか。 あるいは、都合のいい幻にすぎなかったのか。 だが、例えそうであっても。 「俺ぁ、行くぜ」 本部以蔵にはまだ、やらねばならないことがある。 打ちのめされ、それを果たさず消えて行こうとしていた自分が叱咤されるには、今の問答は十分すぎた。 「リドッつぁん」 近くにあったコンビニエンスストアにあった包帯で、簡易ながら背中の傷をふさぎ、水分を補給し。 手近な建物の中に、騎士――カイザルの死体を安置する。 「あんたが死んだのは――俺のせいだ」 恐らく元から彼のものであったのだろう剣を、その胸の上に置いてやる。 「すまねえ」 もっと早く、高坂穂乃果を説得することができていれば――この男が死ぬことはなかった。 「俺ぁ……守護る」 この男のためにも。駅で眠るあの少女のためにも。死んでいった多くの命のためにも。 ※ 時刻は午前に差し掛かるころ。 本部以蔵の小走りで道を行く姿が、墓地の辺りにあった。 その表情には、先ほどまでの狼狽はない。 (ディルムッつぁん……あんたとの約束、きっちり果たすぜ) 放送局にいるキャスター。 まずは何としてもあの怪物を倒す。 (嬢ちゃん……) そして、高坂穂乃果の説得も未だ諦めてはいなかった。 放送局ならば放送ができる。 だから、他の人間にはわからないように――呼び掛ける。 「初めて会った場所でもう一度待つ」と。 (ラヴァレイさんよ、これは大いに使わせてもらうぜ) 走りながら、ラヴァレイに託された黒のカードを見る。 そこに「江戸を騒がせた妖刀」という説明とともに描かれているのは、一本の刀。 ――紅桜。 刀匠・村田鉄矢が制作し、高杉晋助率いる鬼兵隊がその力をもってクーデターを画策した、対戦艦用機械機動兵器。 そして、宿主の精神と肉体を侵す妖刀。 その支配に、国中を騙しきった賞金首の悪意に、本部以蔵が抗いうるかどうかは――神のみぞ知る。 【D-2/墓地付近の道路/午前】 【本部以蔵@グラップラー刃牙】 [状態]:全てを守護る強い決意、背中に刀傷(処置済み)、ダメージ(中) [服装]:胴着 [装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、紅桜@銀魂 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)     黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編 [思考・行動] 基本方針:全ての参加者を守護(まも)る。 1:放送局に行き、キャスターを討伐する。 2:放送を行い、高坂穂乃果の説得を試みる。 3:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る。 4:騎士王、キャスターを警戒。 [備考] ※参戦時期は最大トーナメント終了後。 ※ 「はぁ、はぁ――」 高坂穂乃果は走る。 市街地を抜け出し、建物もまばらになってきた中を行く。 行くあてなどない。 何度も足をもつれさせながら、一心不乱に走る。 犯した罪からも、縋れるかもしれない人々からも。 全てから逃げるように、ただひたすら走る。 「あっ――!」 だがついに、地面の石に足を取られて転んでしまう。 「痛いよ……」 蹲る穂乃果の脳裏には、様々な人物の顔が次々に浮かぶ。 μ'sの8人。妹の雪穂。両親。親友のヒデコ、フミコ、ミカ。理事長。ランサー。ウサギ。宇治松千夜。本部以蔵。そして自らの手で殺した、ヴィヴィオとカイザル。 何十人もの顔が混じりあい、巨大な渦を巻いていく。 「もう、いやだ……」 本部が突如斬り倒され、襲撃犯のカイザルを自分の手で殺害したという事件。 このことは、ここまでの出来事で疲弊しきっていた穂乃果の精神に最後の一撃を与えた。 なまじ本部の説得によって救われかけていただけに、そのダメージはさらに倍化されていた。 「もう、誰も……」 誰も信じることができない。 思慕していたランサーも、μ'sの仲間たちも、皆。 少女は途方に暮れ、一人空を見上げた。 時刻はまもなく午前8時半。 穂乃果のいる場所が禁止エリアになるまで、あと30分あまり。 【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS 死亡】 【C-4/北西の端/一日目・午前】 【高坂穂乃果@ラブライブ!】 [状態]:膝にすり傷、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、放心状態 [服装]:音ノ木坂学院の制服 [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(6/10)、青カード(10/10) [思考・行動] 0:もう誰も信じられない。 [備考] ※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。 ※ランサーの黒子の効果は切れています。 ※自分のいる場所がもうすぐ禁止エリアになることに気付いていません。 ※現在の居場所はC-4の北西の端です。北か西方面に歩いて5分ほど行けば禁止エリアを抜けます。 ※禁止エリア進入時の警告がどうなっているかは、後の書き手にお任せします。ただし30分以上前の時点では警告はないようです。 【紅桜@銀魂】 刀匠・村田鉄矢が制作した対戦艦用機械機動兵器(たいせんかんようからくりきどうへいき)。 作中で使用した岡田似蔵は戦艦を破壊するなど、持ち主は強大な力を得るが、その身体と精神を侵していく。 *時系列順で読む Back:[[覚醒アンチヒロイズム]] Next:[[]] *投下順で読む Back:[[La vie est drôle(前編)]] Next:[[]] |107:[[まわり道をあと何回過ぎたら]]|高坂穂乃果|:[[]]| |107:[[まわり道をあと何回過ぎたら]]|カイザル・リドファルド|&color(red){GAME OVER}| |105:[[溢れ出る瑕穢]]|本部以蔵|:[[]]|
*高坂穂乃果の罪と罰 ◆3LWjgcR03U 北西の島の、さらに北西部。 市街地を走る胴着の男の姿があった。 男――本部以蔵の顔は硬い。 数刻前まで浮かべていたような、自信に満ち溢れた表情は消えている。 (……) その原因は、自分がついていながら命を失った少女――高町ヴィヴィオの死。 そして、放送で読み上げられた参加者の死。 その中の、ある名前。 (勇次郎……) 範馬勇次郎。 闘争に身を置く者なら、誰もが知る名前。 かつて闘い敗れ、目標としてきた存在。 彼が死んだ。 殺し合いが始まって6時間あまり。地上最強の生物は、あまりにもあっけなくこの世から姿を消した。 彼を易々と上回る者が、この場にはいるのだ。 (嬢ちゃん……ディルムッつぁん……無事でいろよ) こうなれば、駅から銃声が響いた直後に姿を消した宇治松千夜。 キャスターを名乗る男のテレビ放送を見たあと、走り去っていった高坂穂乃果。 そして、光の奔流の正体を探りに行き、駅には戻ってきていないディルムッド。 彼らの安否が、俄然気にかかってくる。 『アンタに守護らせた結果がこれだから!!』 原付で走り去った少女の罵声が、再び脳内に響き始める。 ラヴァレイに諭され、一度は甦ったかにみえた覚悟。 その覚悟を、17人もの死を容赦なく知らせた定時放送が再びぐらつかせていた。 ――ホノカ嬢オオオオオオオオオオォォ!!!!! 「!?」 どこからか、突然大声が聞こえてきた。 本部は思わず足を止める。 (リドッつぁん……?) 遠いが、聞き覚えのある声だった。 わずかな時間だが、駅で共に少女の遺体を検分した男性。カイザル・リドファルドと名乗っていた男のものだ。 そして、ホノカ嬢とは高坂穂乃果のことに違いない。 (何がありやがった……!) この場で大声を出すというのは、危険極まりない行為だ。 走り去った穂乃果と、それを追っていった2人。 彼らの間に、カイザルに大声を出さざるを得なくするような何かが起きたのか。 とにかく、事態は捨て置けない。 本部は南へ向かうのをやめ、市街地を探索しはじめる。 ほどなくして、目当てのうち1人――高坂穂乃果が震えながら立ちすくんでいるのを見つけた。 ※ 「嬢ちゃん」 呆然としている穂乃果に、本部は声をかける。 「!?――っ!? ひっ――」 傍に人が来ていることにすら、声をかけられるまで穂乃果は気づかなかった。 咄嗟にヘルメットを投げつけるが、本部は容易く回避する。 慌てて逃げようとするも、すぐに追いつかれてしまう。 一度は本部を気絶させた穂乃果だが、ランサーに集中していたあの時と今は違う。 スクールアイドルとして鍛えているとはいえ、地下闘技場で闘う本部との身体能力の差は歴然としている。 「嬢ちゃん、何があった」 「ひいっ――! い、いやあっ! 離してぇっ!」 毒薬のカプセルを取り出し本部に向けるが、その手はすぐに掴まれてしまう。 穂乃果にとって、本部以蔵は恐ろしい人物であり、殺意をも向けた相手だ。 盲愛の対象であったディルムッドに敵意を向け、強烈なプレッシャーで威圧され、さらには変な武器で気絶させられてもいる。 愛の黒子の魅了が解けた今でも、その恐怖心だけは全く消えていない。 「いや、嫌ぁ……殺さないで……」 「落ち着け」 なおも抵抗する穂乃果に本部は出来る限り優しく声をかけ、僅かに手を握る力を緩める。 「俺ぁ、嬢ちゃんの味方だ」 「ぇ……」 「俺ぁ嬢ちゃんを守護りてえ……。  だから、話してくれねえか。俺がいねえ間、何があったのか」 穂乃果ほどの年代の少女と接するのには慣れていない本部だったが、慎重に言葉を紡ぐ。 その言葉に、穂乃果の恐怖もほんの少しだけ緩む。 ――ホノカ嬢オオオオオオオオオオオオオオオ!!! 何処におられるかアアアアアア!! その間にも遠くから聞こえてくる、カイザルの声。 それに穂乃果の体がびくんと跳ねる。 (そうだ、私……殺されちゃうんだ……あの子を殺した罪で……) だったら。 どうせ殺されるなら。 その前に全てぶちまけてしまっても、何も失うものはないのではないか。 穴の開いた堤防が崩れ去るのは早かった。 断片的ながらも、穂乃果はランサーと出会ってからの一部始終を話していった。 ※ 「――なるほどな」 語り終えた穂乃果の前で、本部が何か得心がいったような顔で頷く。 「嬢ちゃん」 その目が、まっすぐに穂乃果を見据える。 「俺ぁ、嬢ちゃんを――」 (ああ……私……死ぬんだ) 失うものが、何も無くなったからだろうか。 不思議と恐怖は薄らいでいた。 「許す」 「――えっ?」 今、目の前の男は何と言ったのだろうか。 「嬢ちゃん、俺ぁあんたを許すぜ」 人殺しとなった自分を、許す? 「それでな……この騒ぎが全部終わったら、俺の道場に来い」 本部は考える。 穂乃果の話は短く、また錯綜していたが、おおよそ理解はできた。 ヴィヴィオ殺害に関する自分の推理は外れていた。 だが、それ以上に気になったのは、穂乃果が『ランサーのために』殺人を行ったということ。 思い起こされるのは、ディルムッド・オディナに関する一つの伝承。 その相貌にある黒子からは、異性を惑わす魔力が常に発散されているという。 あのディルムッドが伝承の通りならば、長く行動を共にしていた穂乃果はその影響を強く受けるはず。 加えて殺し合いという異常な状況とあいまり、凶行に走ることがあっても、不自然ではない。 それならば――高坂穂乃果には、情状酌量の余地はある。 まだ、やり直せる。 普通の少女に、戻ることができる。 「嬢ちゃん、あんたはまだやり直せるんだ。なら、俺が助けになってやるぜぇ。  あんたはヘルメットの一撃で俺から一本取った実力の持ち主だ……素質がある。  五十余年鍛え上げた本部流……余すところなく伝授してやるぜ」 武術というのは、何も他者との闘争のためだけにあるものではない。 弱き者がその弱さを克服し、強くなるための助けになるものでもある。 無軌道な犯罪行為、反社会的行為に手を染めていた者が、武術と出会ったことで立ち直り、立派な人物へと成長した例は数多く存在する。 本部以蔵は、神心会の愚地独歩のような教育者ではないが。 罪に怯える目の前の少女を相手に、その真似事をしてみたくなったのだ。 「そんな……私、私……」 本部の言葉に、穂乃果の心中は激しく揺れた。 穂乃果にとって本部以蔵は、最初から「小汚いおじさん」であり、信用できない人物であった。 そもそもこの年代の少女とって、父親や教師以外の壮年の男性と関わる機会など皆無に等しいのだ。 加えて殺し合いという非日常の中。信頼をおけという方が無茶な話だ。 「許されて、いいの……?」 だが、その「小汚いおじさん」――本部以蔵は、今こうして自分と真正面から向き合い、許すと言っている。 そのことは、魅了された相手であるランサーに対するものとは違う感情を、疲弊した穂乃果の心の中に呼び起こした。 僅かに目を上げた穂乃果の肩を、本部はがっちりと掴む。 「……ああ。やり直して――元に戻ろうぜぇ」 この時、穂乃果は言うに及ばず、本部も説得するのに精一杯で、気付いていなかった。 断続的に聞こえる、穂乃果を呼ぶカイザルの声。それが、だんだん近づいていたことに。 ※ 「ホノカ嬢オオオオオ!」 カイザル・リドファルドは未だ叫んでいた。 その危険性にはさすがに気付き、声を出す頻度は下げたものの、叫ぶことそのものをやめてはいない。 「どこへ行ってしまったのだ……」 その心中の焦りは消えない。 穂乃果だけでなく、つい先ほど別れ、30分後に戻る約束をした晶への心配。 さらには、いまだにファバロやリタたちに出会えていないことも、焦りを加速される。 加えてここがカイザルのいた世界にはない近代的な市街地であることも、スムーズな探索を妨げている。 「ホノカ嬢オオオオオオ!」 なお叫び、守るべき少女を必死に探す。 ――い――はな――ぇっ! 「な!?」 その時、かすかに聞こえた。 うまく聞き取れなかったが、少女の声。 それも、間違いない。悲鳴だった。 「いかん……!」 カイザルの胸には最悪の想像がよぎる。 「ホノカ嬢オオオオオオオオオオオオオオオ!!! 何処におられるかアアアアアア!!」 焦る。 「ホノカ嬢オオオオオ!! アキラ嬢オオオオオ!!」 必死に探し回ること、さらに数分ほど。 「――むっ?」 その努力の甲斐あったのか、一人の人間の背中が遠くに見えた。 「あれは――モトベ殿?」 駅で少女の死体を一緒に調べた、博識な男。 彼もここに来ていたのか。 「モ――」 次の瞬間。 共に穂乃果を探そうと呼びかけようとしたカイザルの体が、凍った。 男の影に隠れていた、もう一人の人間が、ちらりと見えた。 カイザル・リドファルドと本部以蔵が行動を共にした時間は、ほんのわずかだった。 本来ならば情報交換をし親交を結んでいたはずだが、出会った直後にヴィヴィオが殺害され、さらに穂乃果が走り去るという事態が起きてしまい、そんな時間はなかった。 だから、カイザルは本部の人物像を図りかねていた。 その本部が今、目の前で、守るべきか弱い少女である穂乃果の肩を押さえつけている。 かすかに聞こえた、助けを求める声とあいまり。 そんな光景はカイザルの目にはこう映った。 『本部以蔵が、あろうことかホノカ嬢に襲いかかっている』と。 カイザルの思考回路はそこで決壊した。 「モトベエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッッッッッッッッ」 ※ 胴着の男は背中から血を流して倒れ、少女は呆然とへたりこむ。 「ホノカ嬢!!! お怪我はありませんかな」 ――いみがわからない 「まったく、モトベ殿……いやモトベ。信頼できると思ったが、婦女子にこのような真似をするようなとんでもない悪漢であったとは……」 ――このひとはなにをいっているの 「ですがこの私が来たからには! ホノカ嬢のおそばからは二度と離れませんゆえ、どうぞご安心下さい!!」 ――なんでもとべさんがころされてるの 「ホノカ嬢、立てますかな? 私の背中でよければお貸ししましょう」 ――そうだこのひとはこんなことをいってみんなころすきなんだ ――わたしもころされるんだ ――ことりちゃんやにこちゃんやヴぃヴぃおちゃんやもとべさんみたいに ――ころさなきゃ 穂乃果の体が跳ね起き、カイザルに飛びついた。 ※ 「――なっ!? ホ、ホノカ嬢!!」 カイザルの失策は、レディーファーストの精神を保ち続けていることだった。 今の穂乃果は酷い目に遭ったせいで錯乱し、助けに来た自分を敵と誤認している――そう考えた。 「ホノカ嬢! 私は味方です! どうか、どうか落ち着いてください!!」 だから剣は使わないのはもちろん、振りほどこうとする力もごく弱い。 言葉だけでどうにか説得を試みようとする。 (ころさなきゃころさなきゃころさなきゃ――っ) 一方の穂乃果の心中はただひたすらに恐怖と、組み付いている男への殺意が占められていた。 無理もないだろう。 本部の説得によって僅かに心が安らいだところを、突然現れた、元々これも恐怖の対象だったカイザルにその本部を殺害されたのだから。 「ホノカ嬢! 離してください! ホノカじょ――」 なおも喚くその口に、穂乃果の腕が突っ込まれた。 ※ 「――うがっ――ガ――がはっ!」 騎士は少女から離れ、胸を押さえて苦しみだす。 「なんだ……これは……ど……く……か……?」 何が起きた。 毒を飲まされたのか。 「ぐあっ……ごはぁ……ッ」 吐いた血が地面を汚し、その上に倒れ込む。 「ホ……ノカ……じょ……」 助からない。 誰も救えないまま、誤解も解けないまま、自分は死んでいく。 全身をさいなむ苦痛が、霞んでいく視界の中で遠ざかっていく少女の姿が、そのことを冷徹に教えていた。 それでも、言葉を紡ぐ。 名誉を失い、今またその命さえも失おうとしている騎士にできることは、かつての親友に全てを託すことだけ。 「ファ……バ……あとは、たの……」 ※ 「――ッ、く……」 それから数刻後の市街地。 胴着の男がむくりと体を起こした。 「……ってぇ……何がどうなってやがる……」 本部以蔵は死んでいなかった。 説得に全ての意識を集中していたため、襲撃者の存在には気づけなかったものの、それでも本部は一流の武術家である。 襲撃を受けた際、穂乃果をかばうために僅かに身をよじった。 背中には浅くはない刀傷が残り、ショックで意識も刈り取られたものの、致命傷には遠い。 「……おい、あんた! ……リドっつぁん?」 説得していた少女、高坂穂乃果の姿はない。 代わりになぜか、駅で行動を共にし、先ほどどこかで叫んでいた男――カイザル・リドファルドが、傍らで口から血を流して倒れている。 襲ってきたのはこの男だったのか。 話しかけるも、すでに手の施しようがない状態。 「これは毒……青酸カリ……?」 遺体を調べるうちに、ヴィヴィオと同じ毒が死因であることにすぐ気付く。 そして思いいたるのは、最悪の可能性。 『自分が穂乃果を襲っていると勘違いしたカイザルが自分に斬りかかり、さらにカイザルを敵と勘違いした穂乃果が毒を飲ませて彼を殺した』ということ。 「――ッ!!!!!!!!!」 本部以蔵に冷静な思考ができたのはそこまでだった。 「うおおおおおおおおお!!!!!!!」 本部以蔵は泣いた。 齢五十を越す男が咽び泣く光景は異様なものに映るかもしれない。 だが。 全ての参加者を守護るという決意。 それをあざ笑うかのように、あまりに非常な現実が突きつけられていく。 目の前でまた一つ失われていった命に、そして自分の無力さに。 涙を流す彼を、誰が責められるだろうか。 「おおお……」 『無様だな』 「――?」 背中の痛みも構わず慟哭する本部に、何者かが突然話しかける。 「――な」 間違えるはずもない。 かつての宿敵であり、今はもういないはずの、その声は――。 「勇次郎ッッッッッ」 『実に無様だな、本部以蔵よ』 これは幻なのだろうか。 だが狼狽する本部に構わず、勇次郎は次々に言葉を投げかけていく。 『大層な御託を抜かしておきながら、誰一人として守護れていねえ』 『ガキのお守りもロクにできず、青二才ごときの剣にかかって倒れ伏す始末』 『挙句の果てには赤ン坊のごとくピーピー泣き喚き醜態を晒す』 『今の貴様は闘士(グラップラー)でもなければ武術家でもねえ』 『街を徘徊する浮浪者にも劣る、この世のゴミカスよ』 投げかけられた、本部を罵倒する言葉の数々。 だが、今の本部にはそれに反抗する気力は残っていなかった。 「……あァ……その通りだぜ。  ……そもそも、全てを守護ろうなんて考えたのが間違いだったのかもしれねえ。  粋がってはみたが、所詮俺ぁあの大会でもしょっぱなで消える程度の男よ。  勇次郎、あんたの息子のようにはなれ――」 『莫迦者がッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ』 「えーー?」 罵声に思わず顔を上げる。 『貴様この期に及んでなけなしの信念さえ捨て去るつもりかッッッッッッッッッ たかが数度しくじった程度で放り出す信念なら最初から持つなッッッッッッッッッ』 『1人守護れなくば10人守護れッッッッッ 10人守護れなくば100人守護れッッッッッッッッッ 100人守護れなくば1万人守護れッッッッッッッッッ  守護る者がこの世にいなくなろうとも――』 『守護るという意志を守護り通せッッッッッッッッッッッッッッッッッッ』 「――――ッッッッッッッッッ!!!」 勇次郎の言葉は、本部に強い衝撃を与えた。 守護れなかった数多くの命。 「俺ぁ……俺ぁ」 だが、この場にはまだ多くの人々がいる。 彼らのために、本部以蔵が守護る意思を捨てる理由は――ない! 「へっ――」 前を見据える。 「ありがとよ、勇次郎よ。俺ぁまだ――立てるぜ」 『ならばよしッッッッ』 不肖のガキどもを頼むぜ、と言い残し――。 範馬勇次郎は、ついに消え去った。 ※ 「今のは――」 何だったのか。 あるいは、都合のいい幻にすぎなかったのか。 だが、例えそうであっても。 「俺ぁ、行くぜ」 本部以蔵にはまだ、やらねばならないことがある。 打ちのめされ、それを果たさず消えて行こうとしていた自分が叱咤されるには、今の問答は十分すぎた。 「リドッつぁん」 近くにあったコンビニエンスストアにあった包帯で、簡易ながら背中の傷をふさぎ、水分を補給し。 手近な建物の中に、騎士――カイザルの死体を安置する。 「あんたが死んだのは――俺のせいだ」 恐らく元から彼のものであったのだろう剣を、その胸の上に置いてやる。 「すまねえ」 もっと早く、高坂穂乃果を説得することができていれば――この男が死ぬことはなかった。 「俺ぁ……守護る」 この男のためにも。駅で眠るあの少女のためにも。死んでいった多くの命のためにも。 ※ 時刻は午前に差し掛かるころ。 本部以蔵の小走りで道を行く姿が、墓地の辺りにあった。 その表情には、先ほどまでの狼狽はない。 (ディルムッつぁん……あんたとの約束、きっちり果たすぜ) 放送局にいるキャスター。 まずは何としてもあの怪物を倒す。 (嬢ちゃん……) そして、高坂穂乃果の説得も未だ諦めてはいなかった。 放送局ならば放送ができる。 だから、他の人間にはわからないように――呼び掛ける。 「初めて会った場所でもう一度待つ」と。 (ラヴァレイさんよ、これは大いに使わせてもらうぜ) 走りながら、ラヴァレイに託された黒のカードを見る。 そこに「江戸を騒がせた妖刀」という説明とともに描かれているのは、一本の刀。 ――紅桜。 刀匠・村田鉄矢が制作し、高杉晋助率いる鬼兵隊がその力をもってクーデターを画策した、対戦艦用機械機動兵器。 そして、宿主の精神と肉体を侵す妖刀。 その支配に、国中を騙しきった賞金首の悪意に、本部以蔵が抗いうるかどうかは――神のみぞ知る。 【D-2/墓地付近の道路/午前】 【本部以蔵@グラップラー刃牙】 [状態]:全てを守護る強い決意、背中に刀傷(処置済み)、ダメージ(中) [服装]:胴着 [装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、紅桜@銀魂 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)     黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲Saki 全国編     カイザル・リドファルドの不明支給品1~2枚(カイザルが確認済、武器となりそうな物はなし) [思考・行動] 基本方針:全ての参加者を守護(まも)る。 1:放送局に行き、キャスターを討伐する。 2:放送を行い、高坂穂乃果の説得を試みる。 3:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る。 4:騎士王、キャスターを警戒。 [備考] ※参戦時期は最大トーナメント終了後。 ※ 「はぁ、はぁ――」 高坂穂乃果は走る。 市街地を抜け出し、建物もまばらになってきた中を行く。 行くあてなどない。 何度も足をもつれさせながら、一心不乱に走る。 犯した罪からも、縋れるかもしれない人々からも。 全てから逃げるように、ただひたすら走る。 「あっ――!」 だがついに、地面の石に足を取られて転んでしまう。 「痛いよ……」 蹲る穂乃果の脳裏には、様々な人物の顔が次々に浮かぶ。 μ'sの8人。妹の雪穂。両親。親友のヒデコ、フミコ、ミカ。理事長。ランサー。ウサギ。宇治松千夜。本部以蔵。そして自らの手で殺した、ヴィヴィオとカイザル。 何十人もの顔が混じりあい、巨大な渦を巻いていく。 「もう、いやだ……」 本部が突如斬り倒され、襲撃犯のカイザルを自分の手で殺害したという事件。 このことは、ここまでの出来事で疲弊しきっていた穂乃果の精神に最後の一撃を与えた。 なまじ本部の説得によって救われかけていただけに、そのダメージはさらに倍化されていた。 「もう、誰も……」 誰も信じることができない。 思慕していたランサーも、μ'sの仲間たちも、皆。 少女は途方に暮れ、一人空を見上げた。 時刻はまもなく午前8時半。 穂乃果のいる場所が禁止エリアになるまで、あと30分あまり。 &color(red){【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS 死亡】} 【C-4/北西の端/一日目・午前】 【高坂穂乃果@ラブライブ!】 [状態]:膝にすり傷、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、放心状態 [服装]:音ノ木坂学院の制服 [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(6/10)、青カード(10/10) [思考・行動] 0:もう誰も信じられない。 [備考] ※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。 ※ランサーの黒子の効果は切れています。 ※自分のいる場所がもうすぐ禁止エリアになることに気付いていません。 ※現在の居場所はC4の北西の端です。北か西方面に歩いて5分ほど行けば禁止エリアを抜けます。 ※禁止エリア進入時の警告がどうなっているかは、後の書き手にお任せします。ただし30分以上前の時点では警告はないようです。 【紅桜@銀魂】 刀匠・村田鉄矢が制作した対戦艦用機械機動兵器(たいせんかんようからくりきどうへいき)。 作中で使用した岡田似蔵は戦艦を破壊するなど、持ち主は強大な力を得るが、その身体と精神を侵していく。 *時系列順で読む Back:[[覚醒アンチヒロイズム]] Next:[[Mission: Impossible]] *投下順で読む Back:[[La vie est drôle(前編)]] Next:[[Mission: Impossible]] |107:[[まわり道をあと何回過ぎたら]]|高坂穂乃果|122:[[勝てるわけねえタイマン上等]]| |107:[[まわり道をあと何回過ぎたら]]|カイザル・リドファルド|&color(red){GAME OVER}| |105:[[溢れ出る瑕穢]]|本部以蔵|117:[[哭いた赤鬼]]|

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