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震えている胸で - (2015/12/09 (水) 20:25:55) の最新版との変更点

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*震えている胸で ◆DGGi/wycYo ――放送が終わり、少しの間をおいてシャロさんが「よかった」と呟く。 きっと、この殺し合いに巻き込まれている友達の名前が誰も呼ばれなかった。 だからほっと一息をつくこと自体は、何も悪いことではありませんでした。 それは私だって同じ。 もし、少しでもタイミングがズレていたら。 もし、今自分たちのいる場所が禁止エリアになるということに気付いて神経が尖っていなければ。 理由はどうあれ、遊月の名前が呼ばれなかった、それだけで私も同じ言葉を口にしたと思います。 私は何も言わず黙っていて、シャロさんは違った。 ただ、それだけの違いでした。 でも、私やシャロさんは良くても。 良しとしない、いや、出来ないだけの理由が“彼女”にはありました。 その事実に、もっと早く気付くべきでした。 ✻  ✻  ✻ 3時間後にはここ、F-3が禁止エリアになる。 ここから北のE-3まではさほど距離がないから早く移動した方がいい。 皆にそう伝えようとして顔をあげた小湊るう子が感じたのは、不穏な空気。 シャロはともかく、夏凜とアインハルト、特に後者の様子が何だかおかしい。 蹲っているその身体が僅かに震えている。 「あんた……」 夏凜が何か言おうとするが、もう遅い。 急にアインハルトが立ち上がったかと思うと、目にも止まらない速さで紗路の元へ踏み込む。 「っ!?」 そして、横顔にその拳を叩き込んだ。 魔法に慣れていない人間がパニッシャーを展開するには猶予が足りず、紗路の身体は宙を舞う。 「シャロさん!?」 慌てて数メートル程吹き飛ばされた紗路の元へ急ぐ。 動かないが、軽く気を失っているだけでまだ息はある。 直撃を受けた左頬はしばらく腫れるだろうが、幸い命に別状は無さそうだ。 振り返ると、アインハルトがすぐ後ろまで来ていた。 彼女の姿は先刻までの少女のそれではなく、成人女性のようになっている。 あまりの事態に足が竦み、腰が抜ける。 それでも、このままでは危険だと感じたるう子は、何とかして紗路を庇おうとする。 アインハルトの拳が再度放たれる。 思わず目を閉じる前に見えたのは、嘆くような表情と、飛び散る赤いもの。 ああ、人間の血というものは、こんなにも綺麗なのか――。 いや、違う。今のは血ではない。 るう子は、それに見覚えがあった。 色こそ違うが、神社で見たものと同じ……? 恐る恐る目を開けると、アインハルトを遮るようにして立つ、1人の少女の姿。 「夏凜さん!」 2本の刀を手に、三好夏凜がアインハルトを食い止めている。 その背中は震え、何も語らないが、ただ“逃げなさい”と告げられているような気がして。 「…分かりました」 るう子もただそれに従い、カードから出したスクーターでシャロと共に北へと走る。 その後を追おうと動きを見せるアインハルトだが、 「させないわよ」 彼女の意図を読み取った夏凜が阻止する。 邪魔をされたと判断したアインハルトは、黙って夏凜と向き合った。 「どういうつもり、アインハルト。 何で桐間紗路を殴ったの?」 答えることもなく彼女は次から次へと拳、蹴りを繰り出し、夏凜はそれら全てに対処しつつ、違和感に覚える。 今の彼女の攻撃は犬吠埼風に殺されかけていた時と違い、八つ当たりという表現が丁度いい。 どうにも、感情任せの攻撃としか思えないのだ。 拳と刀がぶつかるたび、火花が散らされる。 やがて、左肩に紅いサツキの花弁が一枚灯る。 これが何を意味するかは、夏凜には容易に想像出来た。 以前だったら気にも留めなかったことだが、今はそうもいかない。 あの日、風はこう言った。 “満開の後遺症は治らない、過去に犠牲になった勇者がいた”と。 流石にこれ以上こんなことで戦闘を続けるのは良くないと判断し、夏凜は呟いた。 「…………高町ヴィヴィオ」 その名を聞いた途端、ぴたりと拳が、アインハルトの動きが停止する。 ビンゴ、やはり原因はそれだ。 「アンタは友達の名前が呼ばれて、シャロは呼ばれなかった。 それを知ってか知らずか、彼女は良かったと言い放った。 だから殴ったってところでしょう、でもね――」 「違うんです」 いつの間にか元の華奢な少女に戻ったアインハルトが、口を開く。 「何が違うっていうのよ」 「友達だとか親友だとか……ヴィヴィオさんは、そんな簡単な言葉で表せる人じゃ、ないんです」 答えるアインハルトの両目からは、大粒の涙が零れていて。 ほとんど表情を変えない彼女だが、その声は苦笑いをする時のような喋り方で。 実際はポーカーフェイスを崩していないのに、一瞬だけそんな顔を見せた――夏凜の目には、そう映った。 ✻  ✻  ✻ ひとまずE-3、かつてアインハルトたちと出会った道路の脇まで出たるう子はスクーターを停止させた。 「ん……」 「シャロさん、気が付きましたか」 気を失っている少女を連れて運転するのは少々苦労したが、今のところ大事には至っていない。 「夏凜さんがアインハルトさんを説得してくれている筈です、きっと大丈夫ですよ」 「ねえ、るう子ちゃん。私、悪いこと、しちゃったのかしら」 左頬に手をあて、反省するように尋ねる。 紗路自身、何故殴られたのかくらいはうっすら理解していた。 まさかこんなことになるだなんて、夢にも思わなかったが。 「シャロさんは、悪くありませんよ」 「……だって」 「るうだって、遊月が死んでないって分かってほっとしました。 こんな、殺し合いなんてものに巻き込まれたら、誰だって同じだと思うんです」 「でも、私が余計なことを言ったせいで、あの2人は」 「シャロさんのせいじゃないですよ、気にしないでください。 でも……2人が戻ってきたら、ちゃんと謝りましょう。 大丈夫、きっと戻って来て……許してくれますよ。るうも一緒に、謝ります」 どんなにカードゲームの腕が上達したって、どんなにセレクターバトルで心が成長したからといって。 小湊るう子は、結局は非力な一般人の少女であるという事実は変わらない。 だから、彼女が桐間紗路にしてやれることは、それくらいしか無かった。 「…………ありがと」 もう1人の非力な少女は、申し訳なさそうに感謝の意を述べた。 【E-3/エリア南部、道路脇/朝】 【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】  [状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、左頬が軽く腫れている  [服装]:普段着  [装備]:パニッシャー  [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)      黒カード:不明支給品0~1(確認済み)  [思考・行動] 基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る    0:アインハルトたちが来るのを待って、謝る    1:研究所か放送局に向かう    2:パニッシャーをもっと上手く扱えるように練習する?  [備考]   ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。 【小湊るう子@selector infected WIXOSS】 [状態]:微熱(服薬済み) 、魔力消費(微?)体力消費(微) [服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻 [装備]:黒のヘルメット着用 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)     黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?          ノートパソコン(セットアップ中、バッテリー残量残りわずか)、宮永咲の不明支給品0~2枚 (すべて確認済)      宮永咲の魂カード  [思考・行動] 基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。    0:アインハルトさんたちを待つ。    1:遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。    2:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。    3:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。    4:研究所に向かうか、東の市街地に向かうか。 ✿  ✿  ✿ 「そういうのじゃないって、じゃあ何なのよ。 友達、血縁、或いは想い人……結局はそういった関係のどれかなんじゃないの?」 夏凜には、アインハルトの言葉の意味は分からない。 アインハルトもまた、理解してもらおうとは思っていない。 「いいんです、別に。私はまた彼女を守ることが出来なかった。 この殺し合いの中で、大切な人が死んでしまった。 夏凜さんもそうなんでしょう?」 「っ――」 急にその話に触れられ、返す言葉が見当たらない。 犬吠埼樹、今では大切な勇者部の一員が死んだという事実は、少なからず夏凜の心に衝撃を与えた。 正直、夏凜自身も無責任な発言をした(と思っている)紗路に小言くらいは言うつもりでいた。 それでもしなかったのは、突如アインハルトが暴れ出したから。 今ここで止めなければ、きっと戻れなくなる。 かつて暴走した風を止めようとした時の経験から、それは痛いほど分かっているつもりだった。 「今の私には、ヴィヴィオさんが全てでした。 あの人のお陰で、色んな人と出会えて、私の狭かった世界は変わりました。 ただ強さだけを求めて彷徨っていた私に、あの人たちが、ヴィヴィオさんが手を差し伸べてくれた」 一度言葉を区切り、アインハルトは叫んだ。 「でも! 死んでしまったら、何も意味はありません。 私はコロナさんやリオさん、ノーヴェさん、それになのはさんやフェイトさんたちに、何て言えばいいんですか!? 私はもう、あの人たちに顔向けなんて出来ない! もう、私には――」 「ふざけんじゃ………ないわよ!」 業を煮やした夏凜が、言葉と共に渾身の平手打ちを飛ばす。 あなたに何が分かるんだ、と視線を飛ばすアインハルトに、叫んだ。 「あんたに何があったかは知らない。 そりゃ、大切な人が死んだからヤケクソになりたくなる気持ちは分かるわよ。 でも言ったでしょう、あんたがどんなに悔やんだって、人に八つ当たりしたって、死んだ人は戻りはしないの!」 それに、と夏凜は続ける。 「コロナって言ったかしら、その子はまだ生きているんでしょう? その子だってあんたと死んだ高町ヴィヴィオの友達なのよね? だったら……次にすべきことくらい、あんた自身でも分かるでしょう!?」 話が終わり、アインハルトは「……ごめんなさい」と小さく声を放つ。 それが何に対しての“ごめんなさい”なのか、夏凜には分からない。 ただ、一応この場は収束したのだと理解し、変身を解いて額の汗を拭った。 ✿  ✿  ✿ とりあえず紗路たちに合流して謝ろうという話になり、2人は北へと歩いて行く。 飛ぶなり何なりすれば早いのだろうが、ここがやがて禁止エリアになるという事実を思い出したお陰でそれどころでは無かった。 道中横に並んでいた2人だったが、突如夏凜が足を止めた。 「夏凜さん?」 アインハルトが様子を伺うが、夏凜はスマホの画面を凝視しながら驚愕の表情を見せているだけ。 「夏凜さん、あの、大丈夫ですか……?」 「嘘でしょ……ん、あ、大丈夫よ、何でもない」 さっとスマホを後ろに隠し、夏凜は取り繕ったように笑ってみせる。 そう、ですか……と呆気に取られたアインハルトの少し後ろを歩きながら、再びスマホの画面を見返す。 本当に通信機能が失われているのかと色々と弄っていた時に、偶然見つけたものだった。 使えないと思っていたチャット機能がいつの間にか使えるようになっている。 (もっとも勇者部のみが使えるアプリであるNARUKOではなく、至って普通のチャット機能だったのだが) 問題は画面に映し出されていた一つの文章。 ……出来るなら、見間違いであって欲しかった。 『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』 るう子たちと合流する前の彼女なら、これは誰かが悪意を持って流した嘘だと一蹴しただろう。 だが、今はるう子から得た1つの確かな情報がある。 “東郷美森は既に宮永咲という少女を殺害している” 「(まさか、東郷が……)」 考えたくない。 あの東郷が、同じ勇者部の仲間を殺しているだなんて。 それでも、考えざるを得ない。 樹の姉である風がこの文章を見て、何を思うか。 東郷の親友である友奈がこの文章を見て、何を思うか。 考えれば考えるほど、最悪の構図が目に浮かんで来る。 アインハルトにあんな説教をした手前、相談することも適わない。 それでも何とかして、気持ちの整理を付けないといけない。 だって、自分がきちんとしなければ、誰が彼女たちを一丸にまとめ上げられる。 他に適任なのはるう子だろうが、彼女に戦闘能力は一切ない以上危険だ。 「どこにいるのよ、友奈……」 アインハルトにも聞こえないように、弱弱しい助けを求める。 双刀の勇者は、まだ挫けるわけにはいかない。 *  *  * 拝啓、ヴィヴィオさん。 あなたを喪ったことは辛いですが、私は何とか大丈夫です。 コロナさんのことは、どうか心配しないでください。 もし、いつか、どこかで会えたなら。 その時は、また―――― 【F-3/エリア北部/朝】 【三好夏凜@結城友奈は勇者である】 [状態]:健康、精神的疲労(小)、満開ゲージ:1 [服装]:普段通り [装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)      黒カード:なし [思考・行動] 基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。    0:助けて、友奈……    1:研究所、放送局どこに向かう……?    2:東郷、風を止める。    3:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。    4:紗路たちと合流する [備考] ※参戦時期は9話終了時からです。 ※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。 ※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。  ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。 ※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。 【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】 [状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折 (処置済み)、精神的疲労(大) [服装]:制服 [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)     黒カード:0~3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)     高速移動できる支給品(詳細不明) [思考・行動] 基本方針:殺し合いを止める。    0:ヴィヴィオさん……。    1:紗路たちと合流し、謝る。    2:私が、するべきこと――。    3:コロナを探し出す。    4:余裕があれば池田華菜のカードを回収したい。 [備考] ※参戦時期はアニメ終了後からです。 [備考2] 4人が共有している情報 ※夏凛、アインハルト、シャロ、るう子の4人は互いに情報交換をしました。 ※現所持品の大半をチェックしました。 ※るう子、シャロ、アインハルトはパニッシャーを使用しました。  効果の強弱は確認できる範囲では強い順にアインハルト、るう子、シャロです。  バリアジャケットを装着可能ですが、余分に魔力及び体力を消耗します。 4人の推測 1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。 2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。 3:参加者の肉体は繭達が用意した可能性があり、その場合腕輪は身体の一部であり解除は不可で 本当の肉体は繭がいる場所で隔離されている?   もし現在の参加者達の身体が本来のものなら、幽体離脱など精神をコントロールできる力を用いることである程度対応可能ではと考えています。 *時系列順で読む Back:[[La vie est drôle(前編)]] Next:[[進化する狂信]] *投下順で読む Back:[[哭いた赤鬼]] Next:[[進化する狂信]] |113:[[わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで]]|三好夏凜|:[[]]| |113:[[わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで]]|アインハルト・ストラトス|:[[]]| |113:[[わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで]]|桐間紗路|:[[]]| |113:[[わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで]]|小湊るう子|:[[]]|
*震えている胸で ◆DGGi/wycYo ――放送が終わり、少しの間をおいてシャロさんが「よかった」と呟く。 きっと、この殺し合いに巻き込まれている友達の名前が誰も呼ばれなかった。 だからほっと一息をつくこと自体は、何も悪いことではありませんでした。 それは私だって同じ。 もし、少しでもタイミングがズレていたら。 もし、今自分たちのいる場所が禁止エリアになるということに気付いて神経が尖っていなければ。 理由はどうあれ、遊月の名前が呼ばれなかった、それだけで私も同じ言葉を口にしたと思います。 私は何も言わず黙っていて、シャロさんは違った。 ただ、それだけの違いでした。 でも、私やシャロさんは良くても。 良しとしない、いや、出来ないだけの理由が“彼女”にはありました。 その事実に、もっと早く気付くべきでした。 ✻  ✻  ✻ 3時間後にはここ、F3が禁止エリアになる。 ここから北のE3まではさほど距離がないから早く移動した方がいい。 皆にそう伝えようとして顔をあげた小湊るう子が感じたのは、不穏な空気。 シャロはともかく、夏凜とアインハルト、特に後者の様子が何だかおかしい。 蹲っているその身体が僅かに震えている。 「あんた……」 夏凜が何か言おうとするが、もう遅い。 急にアインハルトが立ち上がったかと思うと、目にも止まらない速さで紗路の元へ踏み込む。 「っ!?」 そして、横顔にその拳を叩き込んだ。 魔法に慣れていない人間がパニッシャーを展開するには猶予が足りず、紗路の身体は宙を舞う。 「シャロさん!?」 慌てて数メートル程吹き飛ばされた紗路の元へ急ぐ。 動かないが、軽く気を失っているだけでまだ息はある。 直撃を受けた左頬はしばらく腫れるだろうが、幸い命に別状は無さそうだ。 振り返ると、アインハルトがすぐ後ろまで来ていた。 彼女の姿は先刻までの少女のそれではなく、成人女性のようになっている。 あまりの事態に足が竦み、腰が抜ける。 それでも、このままでは危険だと感じたるう子は、何とかして紗路を庇おうとする。 アインハルトの拳が再度放たれる。 思わず目を閉じる前に見えたのは、嘆くような表情と、飛び散る赤いもの。 ああ、人間の血というものは、こんなにも綺麗なのか――。 いや、違う。今のは血ではない。 るう子は、それに見覚えがあった。 色こそ違うが、神社で見たものと同じ……? 恐る恐る目を開けると、アインハルトを遮るようにして立つ、1人の少女の姿。 「夏凜さん!」 2本の刀を手に、三好夏凜がアインハルトを食い止めている。 その背中は震え、何も語らないが、ただ“逃げなさい”と告げられているような気がして。 「…分かりました」 るう子もただそれに従い、カードから出したスクーターでシャロと共に北へと走る。 その後を追おうと動きを見せるアインハルトだが、 「させないわよ」 彼女の意図を読み取った夏凜が阻止する。 邪魔をされたと判断したアインハルトは、黙って夏凜と向き合った。 「どういうつもり、アインハルト。 何で桐間紗路を殴ったの?」 答えることもなく彼女は次から次へと拳、蹴りを繰り出し、夏凜はそれら全てに対処しつつ、違和感に覚える。 今の彼女の攻撃は犬吠埼風に殺されかけていた時と違い、八つ当たりという表現が丁度いい。 どうにも、感情任せの攻撃としか思えないのだ。 拳と刀がぶつかるたび、火花が散らされる。 やがて、左肩に紅いサツキの花弁が一枚灯る。 これが何を意味するかは、夏凜には容易に想像出来た。 以前だったら気にも留めなかったことだが、今はそうもいかない。 あの日、風はこう言った。 “満開の後遺症は治らない、過去に犠牲になった勇者がいた”と。 流石にこれ以上こんなことで戦闘を続けるのは良くないと判断し、夏凜は呟いた。 「…………高町ヴィヴィオ」 その名を聞いた途端、ぴたりと拳が、アインハルトの動きが停止する。 ビンゴ、やはり原因はそれだ。 「アンタは友達の名前が呼ばれて、シャロは呼ばれなかった。 それを知ってか知らずか、彼女は良かったと言い放った。 だから殴ったってところでしょう、でもね――」 「違うんです」 いつの間にか元の華奢な少女に戻ったアインハルトが、口を開く。 「何が違うっていうのよ」 「友達だとか親友だとか……ヴィヴィオさんは、そんな簡単な言葉で表せる人じゃ、ないんです」 答えるアインハルトの両目からは、大粒の涙が零れていて。 ほとんど表情を変えない彼女だが、その声は苦笑いをする時のような喋り方で。 実際はポーカーフェイスを崩していないのに、一瞬だけそんな顔を見せた――夏凜の目には、そう映った。 ✻  ✻  ✻ ひとまずE3、かつてアインハルトたちと出会った道路の脇まで出たるう子はスクーターを停止させた。 「ん……」 「シャロさん、気が付きましたか」 気を失っている少女を連れて運転するのは少々苦労したが、今のところ大事には至っていない。 「夏凜さんがアインハルトさんを説得してくれている筈です、きっと大丈夫ですよ」 「ねえ、るう子ちゃん。私、悪いこと、しちゃったのかしら」 左頬に手をあて、反省するように尋ねる。 紗路自身、何故殴られたのかくらいはうっすら理解していた。 まさかこんなことになるだなんて、夢にも思わなかったが。 「シャロさんは、悪くありませんよ」 「……だって」 「るうだって、遊月が死んでないって分かってほっとしました。 こんな、殺し合いなんてものに巻き込まれたら、誰だって同じだと思うんです」 「でも、私が余計なことを言ったせいで、あの2人は」 「シャロさんのせいじゃないですよ、気にしないでください。 でも……2人が戻ってきたら、ちゃんと謝りましょう。 大丈夫、きっと戻って来て……許してくれますよ。るうも一緒に、謝ります」 どんなにカードゲームの腕が上達したって、どんなにセレクターバトルで心が成長したからといって。 小湊るう子は、結局は非力な一般人の少女であるという事実は変わらない。 だから、彼女が桐間紗路にしてやれることは、それくらいしか無かった。 「…………ありがと」 もう1人の非力な少女は、申し訳なさそうに感謝の意を述べた。 【E-3/エリア南部、道路脇/朝】 【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】  [状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、左頬が軽く腫れている  [服装]:普段着  [装備]:パニッシャー  [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)      黒カード:不明支給品0~1(確認済み)  [思考・行動] 基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る    0:アインハルトたちが来るのを待って、謝る    1:研究所か放送局に向かう    2:パニッシャーをもっと上手く扱えるように練習する?  [備考]   ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。 【小湊るう子@selector infected WIXOSS】 [状態]:微熱(服薬済み) 、魔力消費(微?)体力消費(微) [服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻 [装備]:黒のヘルメット着用 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)     黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?          ノートパソコン(セットアップ中、バッテリー残量残りわずか)、宮永咲の不明支給品0~2枚 (すべて確認済)      宮永咲の魂カード  [思考・行動] 基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。    0:アインハルトさんたちを待つ。    1:遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。    2:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。    3:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。    4:研究所に向かうか、東の市街地に向かうか。 ✿  ✿  ✿ 「そういうのじゃないって、じゃあ何なのよ。 友達、血縁、或いは想い人……結局はそういった関係のどれかなんじゃないの?」 夏凜には、アインハルトの言葉の意味は分からない。 アインハルトもまた、理解してもらおうとは思っていない。 「いいんです、別に。私はまた彼女を守ることが出来なかった。 この殺し合いの中で、大切な人が死んでしまった。 夏凜さんもそうなんでしょう?」 「っ――」 急にその話に触れられ、返す言葉が見当たらない。 犬吠埼樹、今では大切な勇者部の一員が死んだという事実は、少なからず夏凜の心に衝撃を与えた。 正直、夏凜自身も無責任な発言をした(と思っている)紗路に小言くらいは言うつもりでいた。 それでもしなかったのは、突如アインハルトが暴れ出したから。 今ここで止めなければ、きっと戻れなくなる。 かつて暴走した風を止めようとした時の経験から、それは痛いほど分かっているつもりだった。 「今の私には、ヴィヴィオさんが全てでした。 あの人のお陰で、色んな人と出会えて、私の狭かった世界は変わりました。 ただ強さだけを求めて彷徨っていた私に、あの人たちが、ヴィヴィオさんが手を差し伸べてくれた」 一度言葉を区切り、アインハルトは叫んだ。 「でも! 死んでしまったら、何も意味はありません。 私はコロナさんやリオさん、ノーヴェさん、それになのはさんやフェイトさんたちに、何て言えばいいんですか!? 私はもう、あの人たちに顔向けなんて出来ない! もう、私には――」 「ふざけんじゃ………ないわよ!」 業を煮やした夏凜が、言葉と共に渾身の平手打ちを飛ばす。 あなたに何が分かるんだ、と視線を飛ばすアインハルトに、叫んだ。 「あんたに何があったかは知らない。 そりゃ、大切な人が死んだからヤケクソになりたくなる気持ちは分かるわよ。 でも言ったでしょう、あんたがどんなに悔やんだって、人に八つ当たりしたって、死んだ人は戻りはしないの!」 それに、と夏凜は続ける。 「コロナって言ったかしら、その子はまだ生きているんでしょう? その子だってあんたと死んだ高町ヴィヴィオの友達なのよね? だったら……次にすべきことくらい、あんた自身でも分かるでしょう!?」 話が終わり、アインハルトは「……ごめんなさい」と小さく声を放つ。 それが何に対しての“ごめんなさい”なのか、夏凜には分からない。 ただ、一応この場は収束したのだと理解し、変身を解いて額の汗を拭った。 ✿  ✿  ✿ とりあえず紗路たちに合流して謝ろうという話になり、2人は北へと歩いて行く。 飛ぶなり何なりすれば早いのだろうが、ここがやがて禁止エリアになるという事実を思い出したお陰でそれどころでは無かった。 道中横に並んでいた2人だったが、突如夏凜が足を止めた。 「夏凜さん?」 アインハルトが様子を伺うが、夏凜はスマホの画面を凝視しながら驚愕の表情を見せているだけ。 「夏凜さん、あの、大丈夫ですか……?」 「嘘でしょ……ん、あ、大丈夫よ、何でもない」 さっとスマホを後ろに隠し、夏凜は取り繕ったように笑ってみせる。 そう、ですか……と呆気に取られたアインハルトの少し後ろを歩きながら、再びスマホの画面を見返す。 本当に通信機能が失われているのかと色々と弄っていた時に、偶然見つけたものだった。 使えないと思っていたチャット機能がいつの間にか使えるようになっている。 (もっとも勇者部のみが使えるアプリであるNARUKOではなく、至って普通のチャット機能だったのだが) 問題は画面に映し出されていた一つの文章。 ……出来るなら、見間違いであって欲しかった。 『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』 るう子たちと合流する前の彼女なら、これは誰かが悪意を持って流した嘘だと一蹴しただろう。 だが、今はるう子から得た1つの確かな情報がある。 “東郷美森は既に宮永咲という少女を殺害している” 「(まさか、東郷が……)」 考えたくない。 あの東郷が、同じ勇者部の仲間を殺しているだなんて。 それでも、考えざるを得ない。 樹の姉である風がこの文章を見て、何を思うか。 東郷の親友である友奈がこの文章を見て、何を思うか。 考えれば考えるほど、最悪の構図が目に浮かんで来る。 アインハルトにあんな説教をした手前、相談することも適わない。 それでも何とかして、気持ちの整理を付けないといけない。 だって、自分がきちんとしなければ、誰が彼女たちを一丸にまとめ上げられる。 他に適任なのはるう子だろうが、彼女に戦闘能力は一切ない以上危険だ。 「どこにいるのよ、友奈……」 アインハルトにも聞こえないように、弱弱しい助けを求める。 双刀の勇者は、まだ挫けるわけにはいかない。 ✻  ✻  ✻ 拝啓、ヴィヴィオさん。 あなたを喪ったことは辛いですが、私は何とか大丈夫です。 コロナさんのことは、どうか心配しないでください。 もし、いつか、どこかで会えたなら。 その時は、また―――― 【F-3/エリア北部/朝】 【三好夏凜@結城友奈は勇者である】 [状態]:健康、精神的疲労(小)、満開ゲージ:1 [服装]:普段通り [装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)      黒カード:なし [思考・行動] 基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。    0:助けて、友奈……    1:研究所、放送局どこに向かう……?    2:東郷、風を止める。    3:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。    4:紗路たちと合流する [備考] ※参戦時期は9話終了時からです。 ※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。 ※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。  ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。 ※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。 【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】 [状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折 (処置済み)、精神的疲労(大) [服装]:制服 [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)     黒カード:0~3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)     高速移動できる支給品(詳細不明) [思考・行動] 基本方針:殺し合いを止める。    0:ヴィヴィオさん……。    1:紗路たちと合流し、謝る。    2:私が、するべきこと――。    3:コロナを探し出す。    4:余裕があれば池田華菜のカードを回収したい。 [備考] ※参戦時期はアニメ終了後からです。 [備考2] 4人が共有している情報 ※夏凛、アインハルト、シャロ、るう子の4人は互いに情報交換をしました。 ※現所持品の大半をチェックしました。 ※るう子、シャロ、アインハルトはパニッシャーを使用しました。  効果の強弱は確認できる範囲では強い順にアインハルト、るう子、シャロです。  バリアジャケットを装着可能ですが、余分に魔力及び体力を消耗します。 4人の推測 1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。 2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。 3:参加者の肉体は繭達が用意した可能性があり、その場合腕輪は身体の一部であり解除は不可で 本当の肉体は繭がいる場所で隔離されている?   もし現在の参加者達の身体が本来のものなら、幽体離脱など精神をコントロールできる力を用いることである程度対応可能ではと考えています。 *時系列順で読む Back:[[La vie est drôle(前編)]] Next:[[進化する狂信]] *投下順で読む Back:[[哭いた赤鬼]] Next:[[進化する狂信]] |113:[[わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで]]|三好夏凜|123:[[Spread your wings(前編)]]| |113:[[わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで]]|アインハルト・ストラトス|123:[[Spread your wings(前編)]]| |113:[[わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで]]|桐間紗路|132:[[One after another endlessly]]| |113:[[わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで]]|小湊るう子|132:[[One after another endlessly]]|

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