騎士道 ◆aDiZ/dYeYI
穂乃果の元をランサーが経ってから、早数分の事だった。
武人特有の闘気を纏った一人の中年男性の姿をランサーが発見したのは。
この事から、ランサーはセイバー(仮)の向かった方角と、自分は別の方へ向かってしまった可能性が高いと推測する。
もし、この男性がセイバー(仮)と戦いでもすれば間違いなく生きてはいない。
セイバー(仮)は、男性の居た場所とは異なる方向に向かった考えるのが自然だ。
「いきなりで、すまない。金髪に鎧を着込んだ女性を見なかっただろうか」
もっとも、セイバー(仮)に戦力差を痛感し逃げ出したという可能性もある。
情報を仕入れる為、ランサーは男性へと話しかけた。
「―――ディルムッド・オディナ殿とお見受けする」
「何ッ!?」
「名乗り遅れましたな。それがし……本部以蔵と申す者です」
ランサーの真名を一目で看破した本部と名乗る男。
一見、魔術師の類には見えない。どうあっても人間の武道家程度。
それが、人智を超えた神秘の存在であるサーヴァントの正体を見破るなど、前代未聞である。
「そう驚かれることもないでしょう。その身のこなしと輝く貌を見れば、誰しもがあのフィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナと嫌でも気付かされる。
よもや、現代に過去の英雄を現界させる術が実在したとは驚いたが」
後に本部は現代に蘇った宮本武蔵から、仲間達(とも)を守護(まも)る為に奔走するのだが、今は知る由もない。
「博識……なのだな」
「ディルムつっあん、アンタが探している人物なら知っている」
「それは本当か!?」
「ああ、向こうに死体があった。あの切り口、剣技の腕は間違いねえ。
―――ブリテンの伝説的君主、アーサー王によるものだ」
本部は土方十四郎の斬殺死体を発見した時、そこで起きたであろう戦闘をイメージした。
落ちていた日本刀の歪み、傷付き具合、死体の損傷。
これらと本部の豊富な知識により導き出された一つの答えは、騎士王の剛剣とそれに絶えうる聖剣の存在。
この瞬間、本部はこの殺し合いの場には、常識を超えた神秘が存在するのだと確信したのだ。
「有り得ない。セイバーが殺し合いに乗るなど……」
否、本当にそうであったか?
ランサーは聖杯そのものに興味は無く、当然叶えたい願いも本人自体には無い。
だがセイバーはどうだ? 騎士として高潔な人物ではある。しかし、高潔すぎるが故に聖杯に託す願いがあるのではないか?
自らの王として不甲斐なさを呪い、選定のやり直しを願う事は決して否定しきれることではない。
「……止めなくては。これ以上、彼女の剣を罪無き者の血で汚すことは……」
「ディルムつっあん、アンタそんな剣技で本気で騎士王の剣を封じられるつもりか」
「……? 貴方が何処まで聖杯戦争に関与しているかは知らない。だが、もし俺のクラスがランサーであることを懸念して言っているのであればそれは杞憂だ。
俺にはセイバーの適性もある。この剣も扱ってみせよう」
「なっちゃいねえ……アンタの剣は実戦には使えないッ」
本部の言葉にランサーは首を傾げるしかない。
ランサーが現代に生きる剣道家でもあれば話は別だろう。剣道と実戦は違うという理屈も分かる。
しかしだ。癒やしの水を司る大英雄フィン・マックールが、首領を務めた時代において最強とも言われる筆頭騎士として戦場で振るったランサーの剣が実戦向きではないとは如何なものか。
「アンタは五度、俺を斬れていた。否、斬らせるよう隙を作った。
だが、一度もそれに気付きもしない。―――名誉ある戦いを重んずる。その自己満足な精神が剣を鈍らせ、周囲に毒を散らす。
勝てんぜ、アンタは」
「では、どうしろと?」
「悪いことは言わない。機関銃(マシンガン)、いやバズーカ砲の用意を」
「……心遣いは有難い。だが、セイバーとは剣を交えて雌雄を決するつもりだ」
「だから、その下らぬ騎士道を捨てろと言っている」
「何だと?」
「奴さん、既に自らを縛る騎士道を捨ててるぜ。
殺し合いへの順応においてはアンタの遥か上を行っている。
この場はアンタの知る、誉ある戦場じゃあない。忠義も名誉も何も無い。ただ、殺し合うそれだけの場だ。
正々堂々? 決闘? 実戦にそんなものはない。
ましてや、誇りをもった相対などある筈もなし。それを捨て去れないアンタが騎士王に向かったところで殺されるのがオチだ」
「俺が潜った戦場の数は一つや二つではない。
現代の、それもただの人間の武道家よりは実戦を経験してきているつもりだ」
「降りな。
仮にあそこの死体が騎士王に手傷を負わせていて尚且つ、騎士道も捨てずに正々堂々と勝負したとしても勝敗は怪しい。
輝く貌(ディルムッド・オディナ)は騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)には勝てねぇ」
「……聞き捨てならないな。モトベよ、そこまで断言したのならその証を立てられるのか?
このディルムッド・オディナの剣がこの殺し合いに通じぬという証を」
「ああ―――この本部を超越(こえ)てゆきねェな」
相手はただの人間だ。
ランサーは人間とサーヴァントとの力量差を理解している。はっきり言って人間がサーヴァントに勝つことはできない。
異能を持ち、人知を超えた存在ならばまだしも、本部はただの人間である。達人といえど鍛えた人間のレベルを大きく逸脱しない。
「挑まれた戦いは受けよう。だが、もう一度だけ聞いておくそれは―――」
「本部を倒し先へ行け」そう言いたいのか、問おうとするランサーが口を閉じ会話を打ち切らぬほどの速度で右拳による打撃が放たれた。
あえて剣は抜かず右手で本部の拳をいなし、胴へ向かい蹴りを撃つ。
いなされた拳と同じように本部も流れに逆らわず、身体を反らし蹴りを避ける。
そのまま、本部は伸びきったランサーの右足を左手で掴み、技を決めようと体重を掛けた。
(折られるッ!?)
身体を支えるもう一方の左足を地から離し、ランサーは倒れながら左腕で肘打ちを地面へと打ち付けた。
筋力Bの膂力は地面を大きく揺らし、その振動は技を掛けようとした本部にまで響く。
揺れにより、拘束の緩んだ足を回収したランサーは剣を抜いた。
先のやり取りで痛感したのだ。この男は、本部以蔵という障壁は片手間でやりあえる人間ではないということが。
「無駄の無い見事な構え、俺以上……なのだろうな。
しかし、騎士王……以上じゃねえ」
本部が不敵に笑う。そして、その両手が一つの構えを形作った。
両手に人差し指を立て、片方の人差し指を四本の手で握り、残った人差し指を立てた正眼の構え。
剣を模したその構えは、まさに侍の誇る必殺の構えであった。
(素手である筈だ。だが、見える……あの両手には刀が握られている)
下手に動けば斬られる。何も無い筈の手に握られる刀。
あれから発せられる圧力がランサーを気落とし、動きを許さない。
どう攻め入るべきか。百戦錬磨のランサーでさえ瞬時に判断できぬ本部の構え。
本部の腕の筋肉が微弱ながら動き出す。それは刀を振り上げる前兆である。
仕掛けてきたのだ。足もまた微弱ながら、ランサーへ詰め寄ろうと動きの予兆を見せた。
(来るか、モトベッ!!)
「~~~~~~~~ッ!?」
ゴツンと鈍い音がランサーと本部の耳を刺激した。
数秒の後、本部が崩れ落ちた。うつ伏せになり気を失っている。
崩れた本部の背後から見えるのは、ヘルメットを思い切り振りかぶり息を切らした穂乃果の姿であった。
「穂乃果、どうして……」
「ごめんなさいランサーさん。でも、さっき凄いの感じちゃって、心配になってそれで……」
凄いの。恐らくは先程の本部の構えだろう。
あれが放つ圧力(プレッシャー)が、駅に居た穂乃果達にも届いたのだ。それで、黒子の効果が落ちぬままランサーを心配した穂乃果が、対峙していた本部を不意打ちで黙らせたのも納得がいく。
見れば、慌てた様子で千夜とヴィヴィオが穂乃果の後を追って走ってきている。
「ら、ランサーさんは大丈夫なんですか?」
「今の何? 凄いプレッシャーだったよ?」
「ああ、大丈夫だ。千夜、ヴィヴィオ」
先程の戦い。続けていたとしても、勝っていたのはランサーであることに間違いはないはずだ。
素手と剣。人間とサーヴァント。比べるべくも無く、ランサーは優位な側に立っていた。
しかし、だとしても勝利への確信が持てない。あの正眼の構え、あれを振り払うことが出来ず、脳裏に焼きついて離れない。
もしも穂乃果が来なければ、倒れていたのは―――
「死んではいない……。腐っても武道家か」
本部の安否を確認する。
問題はなさそうだ。受身もきちんと取れており、頭にもたんこぶが一つ出来た程度だ。
「ヴィヴィオ、この男モトベと言うが頼めるか?」
「それは良いですけど……ランサーさんは」
「さっき言ったとおり、音ノ木坂学院に行く。君達は駅に引き返してくれ」
ランサーの指示に従い、少し重そうな顔をしながらヴィヴィオは本部を背負い、千夜も不安そうな顔をしながら引き返す。
だが、穂乃果だけはランサーの腕を掴み頑なに離れようとしない。
「穂乃果、離してくれ。この先は危険だ、君を連れて行くわけには」
「嫌です、私、あの小汚いおじさんにランサーさんが殺されかけた時、凄く怖くなって……。
もうランサーさんに危ない目に合って欲しくない。お願い、私も連れて行って!」
吊り橋効果というものがある。
ランサーの黒子の効果に加え、本部のプレッシャーによる不安と恐怖が更にランサーへの恋心を刺激してしまったのだ。
穂乃果はもう止まれないだろう。
(どうする……確かに音ノ木坂学院は危険だ。だが一人なら……。
ヴィヴィオも戦闘の心得はあるが、流石に気絶した中年男性に無力な少女二人を任せるのは酷か。
なら、穂乃果は連れて行った方が……)
「ランサーさん、お願い……私も一緒に……!」
ランサーは結局、それを承諾してしまった。
仮に突き放したところで彼女はランサーを追うだろう。一人で独断先行させるよりも、彼女のそばに付き護衛した方が安全だろうとランサーは考えたのだ。
ふと、千夜の方へ視線を向ける。そこには嫉妬の混じった表情で、穂乃果とランサーを見つめている雌の姿があった。
「急ごう、穂乃果」
これ以上痴情の縺れになるのは避けたほうが良い。
穂乃果を連れ、音ノ木坂学院へと急いだ。
【B-2/一日目・深夜】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:健康
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0~2枚
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、戦う力のない者を守る。
0:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
1:穂乃果と共に音ノ木坂学院に向かい、千夜を襲ったという危険人物の存在を確かめる。(ほぼセイバーと確信)
2:セイバーは信用できない。そのマスターは……?
3:キャスターはいずれ討伐する。
4:俺がセイバーに勝てない……?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:健康、ランサーへの好意(大)、千夜に対する疎み
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルメット@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0~1枚
[思考・行動]
基本方針:誰も殺したくない。生きて帰りたい。
1:μ'sのメンバーを探す。
2:ランサーさんを見てるとドキドキする……。
3:ランサーさんを危ない目に合わせたくない。離れたくない。
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
※釣り橋効果で更にランサーへの好意が高まりました。
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ランサーへの好意(軽)
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0~2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:ランサーが心配
2:十四郎さん…
3:ランサーと一緒に居る穂乃果に嫉妬。
[備考]
※現状の精神はランサーに対する好意によって自責の念を抑えられ一旦の落ち着きを取り戻しています。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:皆で帰るために行動する
0:もう一回駅に戻る
1:駅でランサーさんを待つ。それまでの間は私が二人を守る。
2:もし2時間経ってランサーさんが戻ってこなかったら移動する。
3:アインハルトとコロナを探す
4:本部が目覚めるまで守護る。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※ランサーの黒子の呪いについて大雑把に把握しましたが特に重要なことだとは思っていません
※黒子の呪いの影響は受けていません
※各々の知り合いについての情報交換は済ませています。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が薄れるかどうかは不明です。
【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信、気絶
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0~2枚(本人確認済み、武器等ではない)、村麻紗@銀魂及び土方の支給品
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
0:……。
1:騎士王の魔手から参加者を守護(まも)る。
2:騎士王を警戒。
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
※村麻紗@銀魂及び土方の支給品回収済みです。
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