*憧憬ライアニズム Daydream ◆gsq46R5/OE 坂田銀時。 絢瀬絵里。 二人は、会場を南下し、放送局へ向かおうとしていた。 放送局に着いたなら、やるべきこと、やってみたいことは沢山ある。 何しろ会場で恐らく唯一の、広域に放送を行うことが出来る施設なのだ。 これを有効活用しない手はない――尤も、聞く相手を選べないという欠点も存在するのだが。 放送を聞き付けた良からぬ者が、放送局の地を舌舐めずりしながらやって来ない保証はない。 その辺りは気を付けなければな、と、銀時は歩きながらそう思っていた。 一方の絵里は、地図を表示して放送局までの道のりをもう一度確認する。 そう複雑なマップではないが、こういう時こそ念には念を入れなければならない。 何せ、時間は無限ではないのだ。 ほんの些細なミスが致命的な出遅れに繋がることもままあるのが、このデスゲームである。 ……とはいったものの、流石にそれは警戒しすぎというもの。 目指す放送局はこのままずっと道を進んで行き、橋を通り過ぎてすぐの場所。 どんな方向音痴な人物でも、この道を間違えはしないだろう。……多分。 会話がある内はいいが、会話が途切れてくると、途端に要らない感情が湧き上がってくる。 意図しないとはいえ、睡眠を取ったことで精神状態がある程度回復した絵里。 仲間の死を受け入れられていない、というようなことは、少なくとももうない。 彼女が心配に思うのは、別れて久しい、あの少女のことだった。 結城友奈。 夏凛の放送を聞くに、恐らく、犬吠埼風は『クロ』だ。 勇者の力を持った者同士がぶつかり合えば、まず間違いなく、剣呑な事態は避けられない。 友奈を信じると決めてはいても、やはり、心配をするなというのは無理な話。 彼女の安否を知る手段が現状次の放送を待つ以外にないのが、絵里には皮肉に感じられた。 「……銀さん?」 思考が悪循環に陥りかけた時、それを止めたのは銀時だ。 二人はこれまでずっと並んで歩いていたのだが、ふと気が付くと、銀時が後ろの方で足を止めてしまっているのだ。 絵里が訝しげに振り向くと、銀時は自分の顔の前で人差し指を一本立てる。 静かにしろの合図だと、子供でも分かる。 「どうしたの?」 「何か、聞こえねえか。足音……にしちゃあかなり速え。誰かが走ってるような音だ」 言われた通りに耳を澄ませてみると――確かに聞こえる。 ような、ではなく、実際にこれは誰かが走っているのだろう。 それもかなり急いで。全力疾走と呼んでいいペースで、爆走しているらしい。 音は次第に遠ざかって行く。銀時と絵里は、そこでお互いに顔を見合わせた。 「……どうする?」 「誰かおっかねえ奴に追い回されてんのか、それとも急ぎの用事でもあるのか……けどま、追い付くのはちと厳しそうだねえ」 後者ならばともかく、前者なら事態は一刻を争う。 とはいえ今の銀時達には、放送局へ向かうという目的があるのだ。 『かもしれない』という可能性だけを頼りに行動し、時間を悪戯に浪費するのは、あまり賢い立ち回り方とは言えまい。 追うか、それとも追うまいか。 悩みどころではあったが、二人は結局追わないことを選択した。 足音の主の無事を祈りながら、再び目的地へと歩を進め始めようとした、まさにその時だ。 目立つ明るい色をした、アフロ頭の青年が息を切らして走ってきたのは。 「ちっくしょう、あの女、どっち行きやがった……!」 どうやら彼は、誰かを探しているらしかった。 誰かを、と言っても、この場合候補は一人に絞られる。 銀時と絵里が聞いた足音。 大層急いでいる様子であった、あの足音の主を、このアフロ頭は追っているようであった。 「……なんだか愉快な頭した奴がやって来たな」 「しっ、失礼よ銀さん。それに銀さんの天パ頭だって、見ようによっては相当」 「いやいや、あれと一緒にされるのは流石に銀さん心外だよ~絵里さん。いや絵里ザベスさん」 「だから誰が絵里ザベスよ! 変な呼び方しないで!!」 漫才じみたやり取りを交わす二人を、この状況で見つけるなという方が無理な話だ。 駆け寄ってくるファバロを指差、「ほら来ちゃったじゃん。アフロくんお怒りだよ~絵里ちゃん。銀さん知らないからね」とヒソヒソする銀時。 「アフロアフロうるせえぇ! そっちの嬢ちゃんの言う通りな、アンタの天パも相当……って、こんな話してる場合じゃないんだよ!!」 「こんな話って言った? 今人の髪型をバカにしかけてこんな話って言ったよね君?」 「話が進まないわ、黙ってて銀さん」 「あぁぁッ、もうッ!!」 何だこいつら! と言わんばかりに頭をワシャワシャ掻いて、ファバロは口を開く。 銀時と絵里が呑気なやり取りを交わしていられたのは、この時までだ。 彼の口から飛び出した台詞を耳に入れた瞬間、普段通りのムードは一瞬で凍り付く。 「神楽っていう、片言喋りの変な女! 今だけに限りゃあ目がイッちゃってる奴! アンタら見てねえか!?」 「……えっ」 絵里は思わず、銀時の顔を見る。 彼は普段通りの表情のままだったが、目の色は、明らかに先程までと違っていた。 このどこか気の抜けたような侍が時折見せる、真剣な目。今の彼は、その目をしていた。 ボリボリと天然パーマの頭を掻きながら、銀時は欠伸を一つ、する。 「……ウチの神楽ちゃんがどうかしたのかい」 「おたくの知り合いか、なら話は早え。さっき、殺し合いに乗った奴と一悶着あってな……揉めてる内に急に人が変わったようになって、北の方向に一人で突っ走って行きやがったんだよ! リ……その乗った奴も、暴走した神楽に殺されちまった。今のあいつを放っといたら、どうなるか分かったもんじゃねえぞ!!」 銀時はそれを聞くと、はあ、と溜息を一つついた。 それから彼の目は、海の向こうに広がる空へと向かう。 ファバロは何してんだ、と急かしていたが、その言葉も彼の耳には入っていなかった。 神楽の暴走。 殺し合いに乗っている相手とはいえ、青年の言によれば、彼女は此処で人を殺したらしい。 おまけに、今はその暴走状態で会場内を駆け回っているという。 これを聞いて溜息の一つもつくなという方が、無理な話であった。 「なぁにやってんだか、あの子は……」 アフロ頭の青年――ファバロ・レオーネよりも、銀時の方が当然神楽のことをよく知っている。 制御の効かなくなった彼女(夜兎)が、どれほど恐ろしい存在であるかも当然、知っている。 今度ばかりは、あいつを信じている、で済む問題ではない。 銀時は振り返って、絵里に視線を合わせた。 「悪いな絵里、俺ぁちと野暮用が――」 「私も行く」 最後まで言い終わるのを待たずに、絵里は食い気味にそう言った。 以心伝心というほどの間柄でなくたって、彼が言おうとしたことは分かる。 俺は野暮用が出来たから、先に放送局へ行って待っていてくれ。 彼はきっとそう言おうとしたのだろうと絵里は思ったし、事実、その通りだった。 銀時は参ったね、と目を閉じ苦笑い。頭をもう一度掻いて、口を開く。 「……そうかい。なら、好きにしな」 こういう相手は、言い出したら聞かないと銀時は知っている。 だから彼は敢えて、好きにしろと言った。 人間は時々、理屈を外れた行動や言動をする生き物だ。 この時の絵里が、まさにそれだ。 彼女は最適解よりも、明らかに無茶をしようとしているこの同行者をどうにか手助けしたいと、そう思い、行動することにした。 「神楽が行ったのは、多分あっちの方だ。あいつは体力馬鹿だから、急がないと間に合わねえ」 そうしてファバロ、絵里、万事屋銀ちゃんが店主、坂田銀時は、神楽を追って北上する。 ファバロがジャンヌの知り合いの一人だということは、自己紹介をした時に銀時たちを結構驚かせた。 一人は、助けられた恩に(一応)報いるために。 一人は、ずっと行動を共にしてきた彼を見守るために。 そして最後の一人は――家族も同然の馬鹿娘に、ゲンコツを入れるために。 ◆ チャイナ服に可愛らしいお団子頭の少女が、全身傷だらけで爆走していた。 その目は完全に正気を失っており、今の彼女は、まさしく夜兎の本能のみで行動している。 本能に基づいて、などという高尚なものではない。 彼女は今、自らの本能に呑まれているのだ。 戦闘民族、宇宙最強の兎達の持つ野生とも呼ぶべき、原初の本能に。 声にならない叫びをあげながら、彼女は疾走する。 ファバロから逃げるように。 目的もなく、獣のように闇雲に。 自分の大事な仲間である、銀髪の侍がすぐ側に居たことになど気付く筈もなく、ただ走る。 夜兎の本能が何を求めているのか。 言うまでもない。 戦いだ。 血の抑制が効かなくなった兎は、獰猛に戦いを欲して歩き回る。 その様は、まさに狂気としか言い表しようのないものであった。 神楽を見たファバロは怯えた目をしたが、そう、その反応こそが最も正しい。 夜兎はそのあまりの強さ故に、常に怯えられ、恐れられてきた種族だ。 強すぎるがために多くの夜兎が命を落とし、今では種族そのものが絶滅の危機に瀕している。 神楽は声にならない叫びをあげて、ただ会場を北上していく。 途中、一人の無力な少女とすれ違ったことすら気付かずに、ただ北へ。北へ。 そうして進んでいて、ある建物の真横を通り過ぎようとした時だ。 彼女は見た。建物の屋根が、建物内からの攻撃によって轟音とともに割れる瞬間を。 途端、北へ北へと進んでいた足が止まり。 その爪先が、件の建物へと向かう。 扉など使わない。 壁ごと蹴破って中へ踏み入ると、内部では常に激しい戦闘音が響き続けていた。 音のする方へと足を進めていくと、程なくして、地下へと降りる道を発見する。 にぃぃ、と、彼女の唇が引き裂くように吊り上がった。 再びの爆走。戦闘の下へと、我を失った夜兎が駆ける。 ――そうして駆け付けた先では、見覚えのある刀を振るう爺と、見覚えのある髪色とアホ毛、そして笑顔の青年が戦っていた。 重ねて言うが、今の神楽は暴走状態にある。 理性など無いに等しく、自分の本能だけを寄る辺に戦っている状態だ。 にも関わらず。 神楽はその青年を見た瞬間、時が止まったように動かなくなった。 何秒、そうしていただろうか。 やがて足は動き出す――刀の爺には目もくれず、覚えのある、忘れることなど絶対に出来ない男の方へと。 目と目が合った。 それが、合図だった。 神楽はその本能を全開に発露させ――――兄・神威へと突撃する。 「な、何だッ」 本部にしてみれば、本当に唐突で、意味の分からない出来事だった。 地下闘技場の壁を突き破るようにして現れた、神威と同じ色の髪を持ったチャイナ服の少女。 見た目こそ可愛らしいものだが、本部には分かる。この少女は、正気を失っていると。 幸いなのは、どういうわけかその矛先が、神威のみに向けられていることだ。 「これだけ派手にやってれば、血気盛んな奴の一人や二人は来ると思ってたけど……まさかお前とはね、神楽」 その言葉を聞いた時、本部は二人の関係を理解したが、それに感想を抱く暇はなかった。 何の装備も持たない徒手空拳で神威へと飛び掛かるや否や、破城槌もかくやといった勢いで鉄拳を振り落としたからだ。 神威はそれを己の掌で受け止めるが、それがどうしたとばかりに神楽は拳撃を連打していく。 地球に住んでいる限りまず見られないだろう、自然災害がせめぎ合っているような光景だった。 仮にただの人間をあの応酬の間に放り込んだなら、二秒と待たずに悲惨な挽肉が出来上がろう。 神楽の一際力の籠もった拳が、兄の鼻先を掠める。 その返礼に、神威の重い拳が、妹の頬を思い切り横殴りにした。 折れた歯が口から飛び出、錐揉み回転しながら崩れた床に神楽の体が墜落する。 しかしそれで死ぬなら夜兎ではない。ぐぐ、と起き上がり、神楽は神威を睥睨した。 「出来の悪い妹だとは常々思ってたけど、まさかこんな所で会うことになるとはね。 ――ま、これも腐れ縁……血の鎖ってやつだろう」 意味を成さない叫びをあげ、神楽は再度跳躍、神威へと突貫した。 再び同じ流れが繰り返される。妹の拳を兄は防ぎ、目にも留まらぬ拳と拳の肉体会話。 人型をした生物の肉体同士が火花を散らすというのは、何とも異様な光景だ。 神威の日傘が神楽を横薙ぎに吹き飛ばし、そこで彼は僅かな驚きを見せる。 「卑怯とは言うんじゃねェぞ」 蚊帳の外に置かれていた本部以蔵。 紅桜を宿した守護者が、神楽の姿が神威の眼前から消えるのとほぼ同時に姿を現したからだ。 何とも彼らしい、戦場にあるあらゆる要素を用いた戦い方だった。当然神威も、それを卑怯と謗るような真似はしない。 バック宙を決めて後退しつつ紅桜の斬撃を回避、それから日傘を槍代わりにしての接近。 フェンシングの達人が泣いて逃げ出すような速度の連打で、本部を一転防御へ徹させる。 彼を救ったのは、狂える妹の夜兎だった。 鋭く重い蹴りの一撃でもって、本部に日傘の石突が到達する直前に、神威を大きく蹌踉めかせたのだ。 「うるさい奴だ」 二対一の状況で、明らかな不利を被っている筈の神威。 だというのに、彼の堂々たる戦いぶりはまるでそんな不利を感じさせない。 体勢を立て直すついでに神楽と本部の双方にいっぺんに足払いを掛け、立ち上がるのと同時に二人を地面へ頭から叩き付ける。 本部の脇腹を日傘が貫き、神威の腹を爪先が打ち据えた。 二人がそれぞれ真逆の方向に転がっていく姿は、どこか喜劇じみてすらいる。 痛みなどないと言わんばかりに、神楽は口許から血を流しながらも再度神威へ肉薄する。 その頭を神威は軽々と鷲掴みにし、日傘を空へ放り投げ、空いた拳で腹を打ち抜く。 神楽の悶絶を確認してからひょいと飛び上がり、傘を回収して本部の攻撃へと対処。 鮮やか過ぎる手際に息を呑む本部を軽くあしらい、再び彼を防戦一方にまで追い込んだ。 だが本部もやられてばかりの雑魚ではない。 敢えて紅桜を地面に向けて振るうことで足元を破壊し、神威の姿勢を崩させることで、強引にその状況を打破してみせた。 そしてこうなれば、不利に立たされるのは神威だ。 至近距離からの紅桜の一閃を已む無く日傘で防御するが、あまりの威力に彼は遠く離れた壁にまで、一直線に宙を舞うこととなった。 得物は幸い壊れてはいなかったものの、やはり軋む音はした。 何度も今のようなことを繰り返すのは、間違いなく危険だ。 「少しはマシになったかと思ったら、何だよ、そのザマはさ」 愚直に向かってくる神楽の表情は、歪な笑顔を浮かべている。 どんな豪傑でも尻尾を巻いて逃げ出すようなその狂気に、しかし神威は呆れたように笑うだけ。 夜兎の本能を解放し、余計な感情の縛りから解き放たれている神楽。 なのに、神威はそんな彼女を完全に圧倒していた。 兄妹の事情を知る由もない本部ですら、分かる。この勝負、どちらが勝つかは明白だ。 「どけよ、馬鹿」 路傍に転がる空き缶でも蹴り飛ばすような気軽さで、神楽の顔面を蹴り飛ばす。 倒れずに持ち堪えて神楽は兄の顔面へ一撃入れるが、口の中を少し切る程度の痛手しか与えることが出来なかった。 その首が、掴まれる。ひょいと空中へ擲てば、彼女の腹を、日傘の一撃が穿っていた。 貫通にこそ至らなかったものの、神楽は盛大に喀血して天井まで飛ばされ、鈍い音を立てて激突する。 「悪いね、俺の身内が煩くて。 でも見ての通り、別に支障はないからさ。遠慮なく来てくれていいよ」 「……成程な」 制御を失った列車のように暴れ狂う神楽を一蹴し、苦もなく言ってのける神威は流石というべきだったが、本部はまた別の事に気付いていた。 本部と戦っている時に神威が見せる戦い方は、正真正銘、戦いに狂ったジャンキーのものだ。 次元違いの戦闘センスを遺憾なく発揮して敵を叩き潰す、世にも恐ろしき、過激なものだ。 だが一方で、あの神楽という少女に対して繰り出す拳や足には、私情が混じっている。 形容しがたい感情の渦が貼り付けた笑顔の裏にあるのを、本部は見逃さなかった。 神威にとっての神楽とは、何なのか。 兄にとっての妹は、どんな意味を持つのか。 「あの子が、あんたの守護るべき家族かい。神威さんよ」 「…………」 空気が凍るような、しんとした静寂が満ちる。 直に神楽も、戦線へ復帰するだろう。 こうして言葉を交わしていられる時間も、恐らく長くはない筈だ。 「興醒めだな。そんな風に年季を重ねると、戯言ばかり上手くなるのかい?」 「あの子と戦う時だけは、あんたの拳には感情が宿る。喜び以外の感情が、だ。この本部の目は誤魔化せねェ」 本部の言葉に対して神威が見せたのは、激怒や苛立ちではない。 彼は、失笑した。 本部以蔵の吐いた言葉を戯言と侮蔑し、滑稽なものだと嘲笑っていた。 本部はそうされてもなお表情を動かすことなく、かと言って、何かを語ろうともしない。 神威の言葉を待っているかのようであった。 紅桜に体も心も蝕まれ、今も理性を喪失する瀬戸際を歩いている者とは思えない、堂々たる立ち姿で。 それに呆れたように、神威はようやく口を開く。 「違うよ」 そう言うと同時に、本部の頭上を飛び越えるようにして、復帰した神楽が現れる。 両の掌を組み合わせ振り下ろす打撃は、単純だがそれだけに高い威力を秘めたものだ。 それすらも神威は、己の肉体で軽々と受け止めてしまう。 神楽は文字通り全霊の力でそれを押し破ろうとするが、その試みは無駄に終わっていた。 握り締めた彼女の腕から、軋むような音がする。 神威の手は、彼らしくもなく、血管が浮き出るほど強く力を込めていた。 「仮にこの俺が、家族なんてものに情緒を感じるような腑抜けだったとしようか」 やめろと叫んで斬りかかる本部の一刀は、咄嗟のものだったために容易に避けられた。 掴まれたままの神楽の両腕が、血液が集中したために赤くなっていく。 漏れ出す嫌な音は次第に大きくなり始めていた。 それでも、神威は止めない。 止める理由がないのだ、彼には。 「だとしたら、これはその家族とやらの枠組みには入らないな。自分の血に呑まれて我を失い、ただ暴れるだけの夜兎(ケモノ)なんかはさ」 次の瞬間神威は、掴んだ神楽の両腕を、握り潰した。 肉ごと骨を断たれた神楽はそれでも、その狂気に満ちた顔をやめない。 肘先の半分ほどから先を失って、壊れたスプリンクラーのように血液を撒き散らしているにも関わらず、気にも留めていないかのよう。 神威に同調する訳ではないが、本部も、獣というワードが脳裏を過ぎった。 この少女は、本能のみで戦っている。 もとい、本能に支配されてしまっている。 それでも兄以外は眼中にも入れていない辺り、大元となる意思自体は残っているのだろうが。 「それと、本部さん。アンタも余所見してる暇なんてないんじゃないかな?」 神楽の様子にばかり注目していた本部は、その言葉にハッとなる。 彼が行動を起こすよりも先に、その太腿を投擲された日傘が貫いていた。 大腿骨を貫いて向こう側まで突き抜けている――恐らく一生後遺症が残るだろう、大怪我だ。 傘が抜かれると猛烈な激痛が襲うが、紅桜は彼の意思に反して動く。 神威の首を刎ねんとした一撃は皮一枚を切り裂くに留まり、離脱がてらの蹴撃で、本部は肋骨を数本粉砕された。 「せっかく二人がかりなんだ。もっと本気でかかって来てくれなくちゃ、張り合いがない」 神威の挑発じみた台詞に反応するように、紅桜が強く、本部以蔵の体を突き動かす。 もはや紅桜の支配は、彼の意志力を持ってしても抗いがたい程のものとなっていた。 その分発揮できる力も増していくが、それを喜ばしいこととは言えないだろう。 「うおおぉぉぉぉぉッッッッ!?」 体が勝手に動く。 目を飛び出さんばかりに見開いて、本部は神威に斬りかかった。 一度刀を振るうごとに、見慣れた闘技場の景色が変貌していく。 神威の髪の毛が数本、千切れて宙に舞った。 左の耳たぶが切り裂かれて地面に落ちる。 お返しとばかりに見舞う打撃は、一発一発が慣れるということのできない衝撃を帯びていた。 (こりゃ、いよいよ永くはないかな……) そんな本部の様子を観察しながら、神威は彼の有様をそう評した。 さぞかし意思の強い優秀なファイターだったのだろうが、禁断の力に手を出したのが運の尽き。 紅桜を握ったからにはもう、その末路は決まっている。 「しょうがない。せめて、その前に殺してあげよう」 ザッと一歩を踏み出した神威だったが、彼は本部以蔵へ追撃することは出来なかった。 背後から、両腕を失ってもなお、果敢に突撃してくる存在があったからだ。 笑顔のまま振り返り、体当たりをいなして、背中の真ん中を踏み付け地面に縫い止める。 そのまま足を振り上げては下ろす。下ろす。下ろす。下ろす。踏み潰す。 神楽の骨が砕け、大量の血を吐いた。 本部の横槍によって止められはしたが、如何に夜兎とはいえ、動くこともままならない傷を負ったことには違いない。 「ああぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」 それでも神楽は、血だらけになりながら立ち上がって、また神威へ喰らい付こうとする。 今度は相手にもされず躱され、その体は盛大に転倒、破壊されて凸凹になった床を転がった。 「――――――――!!!!」 声にならない咆哮と共に斬りかかるは、七割ほどは剣鬼と化した本部以蔵だ。 紅桜を装備した今、全参加者の中でも有数の戦闘能力を有している筈の彼はしかし、力の増幅に比例してその狂気をも増幅させていた。 今でこそ彼は神威のみを狙っているが、その見境が消えるまでは、そう遠くないだろう。 驚くべきはこれだけのことをしてもまだ、神威に届かないということである。 理性というものを殆どかなぐり捨てた二人を、笑顔のままで相手取る美青年。 さながらこれは、人間を牛に見立てた闘牛場のようだった。 赤い布の代わりに日傘を携えた闘牛士が、二匹の獣を翻弄し、疲弊させていく。 神威に全く疲弊の色が見えない理由は、やはり夜兎族の生まれが原因だ。 夜兎は戦闘民族。最強の戦鬼達を相手に、粘り勝ちするなど逆立ちしても不可能である。 刀が振るわれる。 突進からの蹴撃が、神威を見舞う。 それらを軽々避けながら、負傷は僅かに留め、それでいてきっちりお返しはしていく。 「頑張るねえ」 神楽の表情から、笑顔が消えたのは何時からだったろう。 神威も本部も、当の彼女自身も、きっと意識していなかったに違いない。 地下闘技場建設以来、間違いなく最高峰の乱戦。 もうそろそろ誰かが脱落してもおかしくない戦いぶりだったが、未だ戦士たちは健在だ。 しかし、この中で誰が最も早く落ちるかといえば、その答えは明らかであった。 いつしか地下闘技場には、真夏のような熱気が立ち込め始めていた。 「やっぱり馬鹿な妹だよ、お前は」 「……馬鹿なのは、お前の方アル……!!」 神威の顔から、笑顔が消えた。 それは、驚きのためだった。 夜兎の血に呑まれ、完全に暴走していた筈の神楽。 その彼女が、突如として、意味の通る言葉を口にした。 血の支配を自力で破り、全身を苛む激痛も全て無視して、彼女は神威へ迫る。 らしくもない一瞬の遅れが、いけなかった。 拳骨に似た痛烈な一打を振り下ろし、それは神楽の髪飾りを破壊しながら頭蓋を打ち据えたが、それで彼女は止まらない。 鬼のような形相をしながら、神威の懐へ到達する。 「お前は、本当に……ッ」 殴る腕はない。 足では、足りない。 この思いの丈をぶつけるのに、明らかに役者不足だ。 だから神楽は思い切り上半身を後ろに反らし、そのまま、勢いよく跳ね起こした。 「――どうしようもねえ、バカ兄貴ネ!!」 神楽の額が、神威の額に吸い込まれるように激突し、彼の体を地面へ転がらせる。 初めて入った、痛手らしい痛手だった。 神楽の思いの丈を全て込めた一撃なのだ。 如何に神威といえども、痛くないはずがない。 いや――或いは。彼だからこそ、痛いのか。 「ぐっ、この……」 落ちてくる靴底を手で掴み取り、そのまま力任せに彼女をスイング。 天井のライト目掛け思い切り投げ付け、再び硝子のシャワーを場内に降り注がせた。 神楽の背中は当然、硝子片の洗礼によってズタズタになるが、彼女は気にも留めない。 落下しながら繰り出すのは、奇しくも兄の彼も先程使用した、突き穿つようなドロップキック。 「神威ィィィィィィ!!!」 それを迎撃するのは、対空砲の如き鋭さと勢いで放たれる、神威の拳だ。 ビリビリとした衝撃波が靴底と拳の衝突点を起点に生じ、その勢いだけで粉塵が巻き上がる。 決着は痛み分けだ。神威も神楽も後ろに吹き飛び、神威には紅桜が襲い掛かる。 しかし、本部以蔵は強烈な突進を横っ腹に浴びたことで、何度目かの転倒をする羽目になった。 攻撃の主は、神楽。本来彼と味方である筈の、夜兎の少女だ。 「邪魔すんなァァァァァ!!!」 咆哮しながら、神楽は兄の顔面目掛けて足を振るう。 回避されても諦めずに、当たるまで、何度も何度も同じことをする。 神楽の足技が命中するよりも早く、日傘がその靴ごと、彼女の足を貫いた。 纏流子に貫かれた傷を丁度広げるように刺されたものだから、その激痛は非常に大きい。 それでも、まだ神楽は止まらない。突進で神威の体を揺るがし、腹に膝を入れる。 ――が。 「甘いよ」 それは読んでいたとばかりに、神威は引き裂くように笑った。 膝先に感触がない。彼は衝突の瞬間に体を引き、接触そのものを避けたのだ。 攻撃した側の神楽ですら、当たったと勘違いしてしまうほどの正確な動作で、彼女を騙した! 神威の振るう拳が、神楽の顔を真正面から打つ。 鼻血と口からの出血が更に激しくなる。脳震盪も、当然生じる。 「こんな、もんかヨ」 それでも、神楽は倒れない。 血だるまのような有様になっても、倒れない。 ――何故なら決めていたからだ。 殺し合いに乗っているであろうこのバカ兄貴を、自分が何としても止めてやると。 「こんな、モンで――」 その形相は鬼を通り越し、修羅の域にさえ足を踏み入れていた。 大気を震わす怒声が、彼女の思いの大きさを物語る。 「こんなモンで、倒れるかァァァァァァァ!!!!」 血と唾液の混じった糸を口端から垂らしながら、神楽は吠える。 魂を燃やして原動力に変えていると説明しても誰も笑わないほど、その姿は鮮烈であった。 鮮血に塗れて、烈(はげ)しく吠える。 夜兎といえど無視できないような傷を幾つも負いながら、その全てに毛ほども頓着していない。 兄妹の戦いを、理性の侵食に耐えながら観測する本部には分かる。 彼女を突き動かしているのは理屈でも、ましてや血塗れの本能でもない。 ――全て、沸騰するように熱い、彼女自身の意思だ。 意思の力だけで、彼女は行動している。 たとえ味方であろうが邪魔だと断じ、自分の手で、神威を止めようと燃え上がっている。 実際に、神楽の出血は危険域に達しつつあった。 腹に穴を穿たれ、両腕を潰され、纏流子との戦闘で流した分の血もある。 いつ倒れてもおかしくない瀬戸際で、奇跡のような力を発揮して、彼女は戦っていた。 全ては、そう。あの日分かたれた家族の絆を、もう一度取り戻すために。 あの雨の日に落としたものを、大きくなったこの手で、拾い上げるために! 「神威ィィィィィ!!!!」 目視することが困難なほどの攻防の繰り返しは、まさしく人外同士の決戦と言う他ない。 夜兎の兄妹。 宇宙最強の掃除屋と恐れられる男と、その彼にさえ、本能的な恐怖を覚えさせたという女傑の血を引く二人が、拳を足を肉体を次々交錯させる。 それでも実力の差は歴然だった。 戦えば戦うほど、神楽の傷ばかりが増えていく。 神威の方は、明らかに神楽に比べて傷の量が少ない。 どちらが優勢かなど、疑うべくもないほどにだ。 そしてとうとう、神楽の奮戦を終わらせるような、重い一撃が飛んだ。 「ごは……ッ」 喉笛を潰す勢いで着弾した、首への打撃。 神楽は激しく吐血し、猫背になった所を、神威の蹴り上げで追い打たれた。 仰向けに倒れ伏した体は、もうぴくりとも動かない。 視界すら霞み始めている。 もし目を閉じれば意識がすぐにでも落ちるのだろうが、それが気絶なのか永遠の眠りなのか、神楽にはちょっと判別が付かない。 そのことが、彼女を動かした。消えた筈の灯火を、再点火した。 熱を通り越して寒さすら感じながら、神楽はまた立ち上がる。 肩どころか全身で息をするような有様は、見ている側が気の毒になってくる程だった。 ――それでも、それでも。神楽は死なない。神楽は倒れない。負けない、諦めない!! 「そんな顔、してんじゃねーヨ。似合わねーぞ、バカ兄貴……」 そう言われた時――初めて、神威は自分の顔からも笑顔が消えていることに気付いた。 湧き上がる感情はいつしかなくなっている。喜びも怒りも悲しみも、何もない。 ただ、目を逸らせなかった。血袋同然の姿になりながら、立つことを止めない妹の姿から。 「……鬱陶しいな、お前は」 神威が口にした言葉は、それだけだった。 神楽も、それでよかった。 多く語らって、説教じみた真似をするのは、自分には似合わないと分かっている。 「お前は、私が止める」 「やってみなよ」 「言われなくても……」 カッ、と、神楽が目を見開いた。 充血して真っ赤になった双眼を見開いた。 それが、最後の合図だ。 「――やってやる、アル!!」 神楽が、地面を蹴った。 彼女は、思い出す。 あの日から今日の日に至るまでにあった色んなこと。 嬉しかったこと、腹が立ったこと、悲しかったこと、楽しかったこと、全て。 これからバカ兄貴に叩き込む一発に込めてやるために、あらゆる感情を、思いを呼び起こす。 神威は一歩も動かずに、それを見ていた。 余裕のつもりかと、神楽は心中で唾を吐き捨てる。 けれどそのくらいでいいとも思った。 こいつには、そういうのが似合う。 どうしようもないバカなら、最後までバカらしくしてればいいと、神楽はそう自分を納得させることにした。 神威を連れ戻したら、やることは山積みだ。 リベンジしたい相手もいる。 繭の奴は、絶対に倒す。 では帰ったら、どうしようか。 戻ってこないものが無数にある。 それでも、守れたものを大事にしよう。 大事に抱いて、生きていこう。 込めた思いは幾星霜。 夢に見るのは憧憬。 そして憧れは、真実から最も遠い羽化登仙。 「……なんだよ」 神楽の足取りは、ふらふらとしたものだった。 走ってすらいない。 転びそうになりながら、神威へ近付いて。 全身で繰り出す、タックルのつもりだったのだろうか。 ぽふんと、そんな擬音とともに、兄の体へ体重を委ねた。 それだけ、だった。 「……」 「これで、私の、勝ちアル。バカ、兄貴」 「………」 熱を失う、その体を。 「これで私達、また、ただの家族に――」 「いや」 ――『バカ兄貴』は。 「それは無理だよ。本当にお前は、出来の悪い妹だ」 ――その手で貫いた。 &color(red){ 【神楽@銀魂 死亡】} ◆ 宇治松千夜は茫然と、少女らしき人影の走っていった方向を見つめていた。 あの子は、誰なんだろう。 あの子は、どうしてあんなに急いでいたんだろう。 そんな諸々が気にならなくなるくらいに――いや。 気にすることもできないくらいに、千夜は、その少女の顔に恐怖していた。 カタカタと、硬いものがぶつかり合う音が聞こえる。 それが自分の歯が奏でる音だと、気付くには時間がかかった。 少女は、笑っていた。 焦点の定まらない瞳で、口を歪めて笑っていた。 ほんの一瞬すれ違っただけで、相手は千夜の存在にすら気付いていたか怪しいほどだったが、千夜の心には強い印象が残った。 それだけではない。 問題は、彼女が向かった方向にもあった。 「あっちは……」 千夜が見据える方角には、地下闘技場がある筈だ。 彼女は彼処から出てきて、少し迷走してから、今は駅を目指している。 何故か。それは、助けを呼ぶためだ。 あの闘技場で今も戦っているだろう本部以蔵を助けてくれる、誰かを探すためだ。 千夜には当然、格闘技の経験などはない。 経験はおろか、それを見たことすら殆どない。 そんな彼女でも、本部と戦っている、あの青年が強いということは分かった。 完全に自分とは生きる世界の違う、『超人』なのだと、月並みだがそんな感想を抱いた。 だから千夜は急いでいる。 あの青年と戦えば、如何に本部でも、きっと無事では済まない。 そういう確信があるから、こうして駅を目指しているのだったが。 「だとしたら、大変……!」 きっと激しい戦いになっているだろうあの場所に、更に脅威が増えてしまったなら、どうなってしまうかはもう想像もつかない。 ただ一つ分かるのは、決して生易しい結果にはならないだろう、ということ。 どちらが勝つにしろ、被害は出る。 体に負った傷ならば、まだいい。 取り返しの付かない、命が失われてしまうことさえ、あるかもしれないのだ。 この時ほど自分の貧弱さを恨めしいと思ったことはない。 此処から駅まで、もうあと僅か。 それでも千夜は、人の倍ほどの時間がかかってしまう。 それが情けなくて仕方ない彼女だったが、不運続きの少女にも、ようやく幸運の女神が微笑んだのか。 「! 銀さん、あそこに女の子が……!」 欲していた『助け』は、向こうからやって来てくれた。 「あ、あのっ、そのっ」 人数は三人。 天パ頭の銀髪。 明るいオレンジ色の、アフロ頭。 金髪の、この中では最もまともそうな見た目の少女。 一見すると愉快なナリをした面子だったが、彼らも目的があって動いているらしく、その表情は真剣そのものだった。 けれど、千夜も怖気付いてはいられない。 事態は一刻を争うのだ。 早くしなければ、本部以蔵まで命を落としてしまうかもしれない。 「――た。助けてください!」 「えっ……ちょっと、落ち着いて? 助けてって、私たちに、どうしてほしいの?」 「あの、えぇと、あっちに闘技場があるんですけど、そこで私と一緒に行動してくれてた人が戦ってるんです! それに、さっき危なそうな女の子も闘技場の方に走って行っちゃって……!!」 危なそうな女の子。 その言葉を出した途端、三人の顔色が変わった。 千夜は知らないが、まさにこの彼らは、その『危なそうな女の子』を追っていたのだ。 「あなた、名前は?」 「宇治松千夜です!」 「そう……なら千夜ちゃん、いきなりで悪いんだけど、その闘技場に案内してくれるかしら?」 闘技場の戦い。 そして、千夜が見たという神楽の行き先。 湧き上がった嫌な予感を払拭するのは、もはや困難だった。 四人は急ぐ。 行き先は、地下闘技場。 かつて数多のファイター達がその肉体を、技をぶつけ合った小さな戦場。 だが今、そこではルールの存在しない、本当の戦場が繰り広げられているに違いない。 実際に、その通りだった。 そして彼らは、彼女らは、遅すぎた。 「――神楽ァァァァ!!」 扉が、蹴り開けられる。 そこに居たのは、三人。 銀時には見覚えのある悍ましい触手と体を一体化させた、千夜の同行者であった老武闘家。 宇宙最強の戦闘民族、夜兎の生まれにして、宇宙海賊の第七師団を率いる男。 そして、彼らがまさに追っていた少女。夜兎の妹。 だが銀時達がそこに踏み込んだまさにその時、三人は、二人になった。 「やあ、遅かったね」 妹の体から腕を引き抜いて、笑顔を消した夜兎が、銀時を見た。 べちゃりと水っぽい音を立てて床に沈む、その妹。 全身が傷だらけで、胸には大穴が空いていた。 心臓を確実に潰しているだろうその穴は、彼女が死んでいることを如実に物語っていて―― 「……殺したのか」 「ああ。殺したよ」 「そうかい」 次の瞬間。 「――――神威ィィィィィィィィィ!!!!」 白夜叉の怒りが――爆発した。 *時系列順で読む 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