*ご注文は狙撃手ですか? ◆DbK4jNFgR6 どうしてこのようなことになったのか。 現在起きている出来事は天々座理世の理解を遥かに上回るものであった。 人が死んだ。殺された。目の前で。 学校に通いながら喫茶店のアルバイトをする女学生にとっては、目の前で人が死ぬことすらあり得ない出来事であるというのに。 それどころか死体がカードの中に封印される? ――そんなのないよ、あり得ない。 しかし、実際に目の前で繰り広げられた光景はリゼの目に焼き付いていた。 死ねばカードに封印される。そのカード付きの腕輪がリゼの腕にはあるのだ。 自分もカードになるかもしれないと思うだけで身震いがする。 周囲を見回すと万事屋銀ちゃんなる店が目に入った。 「こ、このカードで説明が見られるんだったよな」 恐る恐る腕輪と結合しているマスターカードなるものに触れてみる。 地図だのルールだのよりも先に確認したかったのは参加者名簿。 白い部屋でリゼは後輩である桐間紗路の姿を目にしていた。 頼むから見間違えであってくれと名簿を確認するが、明らかになったのは予想していたよりも更に悪い現実。 「嘘、だろ。チノ、ココア、それに千夜まで」 シャロだけではなくラビットハウスの同僚たちの名前が名簿には記されていた。 どうして自分たちが、このような目に合わなければならないのか。 目の前の理不尽を嘆いたところで状況が好転するわけでもなく、リゼは頭を切り替えて黒のカードを手に取る。 自衛のための武器が必要という思考に至れたのは、彼女が普段からモデルガンを持ち歩いていた軍人の娘であるが故だ。 説明によれば黒のカードは道具や武器になるものが出てくるらしい。 滑稽無糖な話であるが、あのような光景を見せられれば信じざるを得ないというもの。 「これは……拳銃」 率直に言えばリゼの支給品はアタリだった。 その形状は普段彼女が持ち歩いているモデルガンと同じで、けれどもずっしりとした重さがあるそれは正真正銘本物の拳銃。ベレッタM92である。 ナイフや剣よりワンランク上の、遠距離から人を一方的に攻撃できる武器だ。 持ち方は知っているし、撃つ際の姿勢も熟知しているが、本物を握ったのは初めてだった。 「……私がみんなを守らなきゃ」 名簿に記されていた知り合いたちは皆普通の女の子たち。 ならば軍人の娘で護身術の心得もある自分が彼女たちを守らねばならない。 年長者としての義務感もあって意気込むものの体は小刻みに震えていた。 「大丈夫、これもいつものと同じだ。同じ銃なんだ」 自分に言い聞かせながら普段モデルガンを扱うのと同じように銃を構えてみようとする。 しかし、モデルガンならあんなにも自然にできた動作が今はぎこちない。 「肩に力が入りすぎだな」 背後から男の声がした。 「誰だっ!」 慌てて振り返ろうとするも腕を抑えされる。そのまま銃を取り上げられてしまった。 「は、離せ!」 気付けなかった。周囲には気を配っていたはずなのに気配が全くしなかった。 「落ち着け。抵抗しなければ危害は加える気はない」 「そんなこと、信じられるわけ」 「風見雄二だ。俺はこの殺し合いには乗っていない」 そう言ってから風見雄二と名乗った男はリゼから手を離して拘束を解いた。 ◆◆◆ 「つまり、風見さんは外部と連絡をとる手段を探すつもりなんだな」 成程、と風見雄二の話を聞いたリゼは納得する。 殺し合いに乗らないとすれば、あの繭と名乗った少女を打倒してなければならないが、どう考えてもあれは個人で相手にするには手に余る。 ならばどうにかして外部と連絡手段をとって繭に対抗できる勢力を呼ぶというのが、合理的な解決方法である。 「ところで風見さんは軍の関係者なのか」 「どうしてそう思った」 「私の親は軍人でな。何というか身のこなしが似てたんだ」 気配を消して自分に近づいてきたり、この状況でも落ち着いて行動している様子は一般人には見えない。 尚且つ、どこか父を思い起こさせる雰囲気からリゼはそう推察した。 「一時期アメリカ海兵隊に所属していたとだけ言っておく」 「そうか。ならあんまり詳しいことは話せないよな」 軍人が内部の情報をべらべらと話すわけにもいくまい。 父親が軍の関係者であったからこそ、リゼはそのことをよく理解していた。 「人をカードにする腕輪。風見さんは心当たりとかないのか。米軍が秘密裏に開発していた新兵器とか」 「少なくとも、俺の知る限りそんなものはないな。カードから物を出し入れする技術も含めて化学では説明がつかない」 「確かに、これって一体どんな原理になってるんだろう?」 「何にせよ腕輪については外部と連絡をとる手段を探すとのと並行して、外す方法を見つける必要があるな」 仮に外部と連絡をとったことが繭に知れれば、ルール違反を見なされてカードに封印されてもおかしくはない。 繭がこちらを監視している可能性がある以上、外部と連絡をとる前に腕輪を外すのが理想的。 最低でも援軍が到着して繭に反逆行為が発覚する段階では、腕輪を外しておかなければならない。 「これが体温や脈拍を感知して作動する爆弾なら、何かしらの機械で誤認させてから腕を切り落とす手段もあるんだが」 「あ、あんまり想像した光景じゃないな」 隻腕になるのとカードにされるのでは前者の方がマシという理屈は分かる。 事前に麻酔をしておけば痛みを伴うこともないのだろう。 しかし、それでもリゼは自分の腕を切り落とすのには躊躇いがあった。 「外部と連絡をとったり腕輪を外したりするのが重要なのは分かるけど、私は他にもやらなきゃいけないことがあるんだ」 「名簿に知ってる名前があったか」 「ああ。ここに連れてこられてる後輩たちを助けなきゃならない。 できれば風見さんにも協力してほしいんだが、駄目だろうか」 図々しい頼みであるという自覚はあった。 だが軍にいた経験がある人間の協力があれば心強いのも事実である。 「引き受けよう。こちらも一人探さなければならん奴がいるしな」 リゼの頼みを雄二はあっさりと承諾してくれた。 「それに、こんな大規模犯罪を計画する相手だ。簡単に外部と連絡をとったり、腕輪を外す方法が見つかるとは考え辛い。 それなら仲間の保護を優先しつつ、会場を探索して何かしらの通信機器や工具を探した方が効率がいい」 「ッ! ありがとう」 それが合理的な思考に基づく決断であったとしてもリゼにとっては有難いことだった。 「それで、こちらは一人だが、リゼの知り合いは何人ここに連れてこられた?」 「私は……四人だ」 「多いな。名前を確認していいか」 腕輪に付いているカードの参加者名簿を開いて互いに情報を共有する。 「桐間紗路、香風智乃、保登心愛、宇治松千夜。そちらの知り合いで拉致されたのはこの四人で間違いないな」 「ああ。風見さんの知り合いは、この入巣蒔菜って人であってるよな」 「そうだ。一応、護身術を教えてはいたから戦えないわけじゃないが、できれば早めに保護したい」 「護身術、私もチノたちに教えておけばよかった」 今更ながら後悔する。こんな状況になると分かっていればバイトの空いた時間にCQCを覚えこませていたというのに。 「それと、これは返しておこう」 差し出されたのはリゼの支給品であるベレッタM92だった。 「その銃は、風見さんが持ってた方がいいんじゃないか」 「平常時ならそれでいいが、今は何があるか分からん状況だ」 「でも、それだとそっちの武器がなくなるんじゃ」 「問題ない。俺にはこれがある」 雄二が黒いカードから支給品を取り出す。出てきたのはキャリコM950。 「……正直、私は人を撃てるかどうか、自信がないんだ」 「……」 「風見さん?」 「自分のためには引き金を引けなくても構わない。だが、他人のためなら迷わず引き金を引ける男になれ」 「え……?」 「俺の師匠の言葉だ」 リゼはハッとする。何を自分は弱気になっているのだと。 少し前は自分の手で仲間を守ると言っておきながら、頼れる人が現れた途端にこの有様。 雄二の言う通りこの場では何があるか分からない。殺し合いに乗った人間に遭遇することもあるだろう。 仮に雄二がその場にいない状況で敵と遭遇し、そこにチノたちが居合わせたとしたら、彼女らを守れるのは自分だけである。 「ちょっと弱気になってたみたいだ」 差し出された拳銃を受け取る。 やはり金属製の銃は重量感があったが、それを握るリゼの手はもう震えてはいなかった。 【F-7/万事屋銀ちゃん付近/一日目・深夜】 【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】 [状態]:健康 [服装]:ラビットハウスの制服 [装備]:ベレッタM92@現実 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~2枚 [思考・行動] 基本方針:ゲームからの脱出 1: チノたちが心配 2: 風見さんと一緒にチノたちを探す 3:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい 【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】 [状態]:健康 [服装]:美浜学園の制服 [装備]:キャリコM950@Fate/Zero [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~2枚 [思考・行動] 基本方針:ゲームからの脱出 1:入巣蒔菜、桐間紗路、香風智乃、保登心愛、宇治松千夜の保護 2:外部と連絡をとるための通信機器と腕輪を外す方法を探す [備考] ※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。 支給品説明 【ベレッタM92@現実】 天々座理世に支給。 世界中の警察や軍隊で幅広く使われている銃。 【キャリコM950@Fate/Zero】 風見雄二に支給。 衛宮切嗣が愛用している銃。原作ではケイネス戦で使用した。 @ *時系列順で読む Back:[[アキライブ!]] Next:[[グラップラー]] *投下順で読む Back:[[アキライブ!]] Next:[[グラップラー]] |天々座理世|:[[]]| |風見雄二|:[[]]|