ドット絵


ドット絵とは、主としてコンピュータ上における画像の表現方法・作成方法の一形態であり、
表層的には通常の目視でピクセルが判別できる程度に解像度が低いビットマップ画像と捉える事ができる。
しかし実際には、限られたピクセル数の中で表現し切るという制約や、
ピクセルを手作業で1つずつ配置するという作成プロセス等も含めてドット絵であると認識されている事が多く、
それ故に単に写真などのビットマップ画像を拡大したものは、一般にドット絵とは認識されない。
当時は、ハードウェアにおける画面の解像度やメモリ容量、CPU速度などの制約、
およびそれを受けたソフトウェア的な制約から、やむなく限られた解像度・色数などでグラフィックを表現する必要性があった。
その中で、いかに美しさや視認性の良さを追求するかが、当時のグラフィック作成における肝であった。

ハードウェア・ソフトウェア共に格段の進歩を遂げ、ドット絵によって表現せざるを得ない状況は少なくなってきている。
しかし、携帯ゲーム機などの低価格なハードウェアや、携帯電話アプリゲームなどでは、
少ないピクセル数・色数での表現が依然として求められる他、ポリゴンモデルの表面に施されるテクスチャマッピングなどでも、
処理能力の都合から低解像度のビットマップ画像を用いる必要があるなど、ドット絵の需要は現在でも存在する。
一方、そうした必然性とは別に、レトロゲームを見直す動きに付随して、限られた表現力から生まれるデフォルメ感や緻密さ、
俳句にも似たミニマリズムといったドット絵ならではの「味わい」に再び注目が集まり、
積極的な表現形態として、意図的な部分も含めて用いられる例も徐々に増えてきている。
ちなみに英語圏では「pixel art」と呼ばれている。
「dot art」では絵画などの「点描画」を指すのが一般的なので注意。

(wikipediaより一部抜粋)


格闘ゲームにおけるドット絵

ドット絵は「ドット」の名が示す通り、色の「点」の集合体を一枚の絵として見せる技法で、
言うなれば、キャラクターを「視覚的」に表現する一番基本にして、重要な要素である。
昔のハードは制限が多く、限られたスペースに、最大で16色(透明色含)でキャラクターを構成しなくてはならなかった。
またハード次第では256色中から必要な色を選択しないといけない場合もある。

こと2D格闘ゲームにおいては限られたマシンスペックの中でアニメーションを多用するという性質上、
ポリゴンやCGの普及以降もドット絵の質の向上がそのままグラフィックの向上に直結するという時代が長らく続き、
各社は競ってドット絵技術の向上に力を注いだ。
この傾向は2000年頃になるまで続いたが、2D対戦格闘自体の衰退やハードの進化と共に終焉を見せ、
手打ちによって作られた純粋なドット絵はほぼ失われた旧時代の技術となってしまった。
そのため現在でも1998~2000年前後に発売された『ウォーザード』や『ストIII』『餓狼MOW』『月華の剣士』『CAPCOM VS. SNK』など
格ゲーブーム終盤のドットが対戦格闘、ひいてはゲーム業界全体でも最高峰の進化を遂げたドット絵であると言われている。
現在は他のジャンル同様CGやアニメ絵などからの落とし込みによるグラフィックが主流になっている。

+ ドット絵の左右反転について
2Dゲームにおいてキャラクターを振り向かせる時、単純に画像の左右を反転するのが基本的な方法である。
しかし機械か何かならともかく人物では動作まで含めて完全に左右対称なキャラなどというのはちょっと有り得ないので、
この方法では利き腕や構え方、襟の合わせなど左右非対称の部分が全て逆になってしまう。

キャラの向きに応じて異なる画像を呼び出させるのは不可能ではないが*1、全ての矛盾を無くそうなどとすれば、
必要なデータ量・作業量は膨大になり、労力と見返りが到底釣り合わない。
故に「仕方ない」という事で、現在でも2Dにおける左右反転は常套手段とされている。これは今後も恐らく変わらないだろう。

やるならばなるべく反転が目立たないようなデザインにした方が手っ取り早く、
一例として『ストリートファイター』シリーズのディージェイのズボンには「MAXIMUM」と縦に文字が書いてあるが、
MAXIMUMは大文字のゴシック体なら全ての文字が左右対称なので、「縦書きにすれば反転しても見た目上鏡文字だと分からない」という仕組みになっていた。

なお2D格闘ゲームにおいてはキャラの顔がややこちら向きになる都合か、奥側の手を突き出し手前の手を引く構えが多い(例外もあるが)。
普通の格闘技の構えは左右対称でないなら利き腕側を引くので、右利きの人間の構えは右向き時(1P側)に正しくなるのだが、
服装などもそれに合わせて右向き準拠で描く事も有れば、合わせず左向き準拠で描く事もある。
左が前者、右が後者の例である。

後者は着方が左前になっているため、普通なら懐には右手が入る所に左手を入れている。
ページ最上部にあるリュウのドット絵も後者の部類で、構え方は右向き時に正常になるが、
その時には胴着の着方は左前になってしまう。

2D格ゲー的な内容ながら3Dグラフィックである『ストEX』では、
普通の3D格ゲー同様のキャラのモデルを180度回転させる手法を使い、左右反転の矛盾を解消できたが、
それにより常に片方のキャラはカメラに背を向けてしまい、せっかくの格好良いモーションが見えなかったり、
敵である場合に技の動作に入った事が分りにくくなったりというデメリットがあった。
後に出された『ストIV』は『バトルファンタジア』の影響を受けて、
カメラに背を向けさせるのはやめて、モーションだけを左右反転する方式が選択された。
ちなみに、爪を逆の手に移動させる必要のあるバルログのみカメラに背を向け、手元を見せずに振り向く事で、
爪の移動を意識させないようになっている。

スプライトの高解像度化

マシンスペックの向上に伴い、『GUILTY GEAR』や『アルカナハート』、『北斗の拳』などの2000年代以降の2D格闘ゲーム作品では、
解像度を従来の2倍(ピクセル数で言えば縦2×横2で4倍)以上にしたスプライト*2が使用されている。
しかし現代ではCPUの処理だけで充分に間に合うくらいにマシンが高速化している上、
そもそもスプライト機能自体、透明なポリゴンの一枚板にドット絵のテクスチャを貼り付けた物で代用可能なため、
既に「名前だけが残っている」状態となっている。
ちなみにMUGENにおいては、解像度を2倍にしたものをD4と呼んでいる*3

画面の高解像度化により、キャラクターの衣装などをさらに細かく、滑らかに描写できるようになり、
また従来のドット絵のように、一度作ったキャラクターのグラフィックを再びドットで“打つ”必要性が無くなり、
絵をそのままアニメーションとして使用できるようになった事から、職人的なドット絵技術を必要とされる事なく、
美麗なグラフィックを演出できるといった利点も生まれた。

ただし、本来ドット絵とは、著しく解像度の低い描画を指すものであるため、
解像度の高いスプライトをドット絵と呼ぶのは少し語弊があると言えるかもしれない。
今現在のアニメーション会社の制作作業と似ている事から、それを習って「セル画方式」とも呼ばれる事もある。

各ゲームドット絵比較画像(クリックで拡大)
クリックで拡大


MUGENにおけるドット絵

ここを見ている諸兄がニコニコ動画をストレス無く見ているように、
昨今の市販PCの平均スペックが日進月歩で進化しているため、
MUGENにおいてはハード上の制約が実質「無し」に等しく、絵の造りにそこまで気を配る必要は無いのだが、
2D格闘黎明期の当時はゲーム全体で使える色の数やスプライトのサイズ、同時に表示できるスプライトの枚数などが、
筐体のスペック上制限されていたため、その範囲内でいかにしてクオリティを追求するかが課題であった。
その為、ドット職人・ドッターなどと呼ばれる人達は、16色のパレット選出からそのセンスが問われており、
それをどのような、どういった間隔で配置すると色に陰影が付くか、汚れを表現できるかという、高度な感覚を持っていた。
また、対戦格闘ゲームの場合、大量のアニメーションを要するため、一枚一枚根気よく打っては次の絵、
という風に忍耐力と持久力が求められる重労働なポジションでもある。
昨今の対戦格闘ゲームの、1キャラ辺りのドット絵の枚数は平均800~1000枚前後と言われている。
滑らかなモーションを実現するには、やはり大量のドット絵が必要であり、それにかかる労力は生半可なものではない。
そのためドット絵の進歩に伴う人件費や開発期間の膨張が徐々に売り上げと採算が合わないようになり、
これも2D対戦格闘の衰退の一因となった。

オリジナルキャラ製作・公開を行っている人の多くは、この大量のドット絵を自ら描き起こして製作しているので、
その製作者の努力を尊重し、コメなりメールなりで応援してあげよう。
また「オリキャラのドット絵に初挑戦」という人は格ゲー用ドット絵のページもあるのでそちらを参考に。
「ドット絵講座」でググってみたり、ニコニコで検索をすればドット製作の解説動画等もあったりするので、
それらも参考にしてみると良いだろう。
MUGENドット絵板 に自分のドット絵を投稿し、相談してみるのも良いかもしれない。

ちなみに特殊な例ではあるが「3Dで作ったグラを2Dに落とす」という手順で作られたものもある(スカロマニアDragonClawオトナシなど)。
市販のゲームでは『AOF 龍虎の拳外伝』、『神凰拳』、『闘姫伝承』の一部のキャラがそれに近い。
凝ったものだと パラパラ漫画状にした3Dモデリング画像をトレースしてドット絵で清書する という手法も登場した。
手間が掛かる分「手の向きがおかしい」「中割りの軌道が変」といった微妙なミスや違和感を無くす事ができたり、
これまで描き手の想像力を頼りに付けていた光の当たり方や衣類の皺や波打ち方といった表現を、
3Dの描画演算により現実味のある見本とする事でリアルな表現となったりと、メリットも大きい。
その一方で、デフォルメや誇張によってスピード感や迫力を表現しているキャラクターと並べると、
現実的な動きをさせている事が逆に作用し、”もっさり”しているように見えてしまう事がままあるのも事実である。

さらに市販ゲームの『ジョイメカファイト』では、低スペックなハード(=少ないドット絵しか用意できない)のファミコンで滑らかな動きを得るために、
「キャラクターをバラバラなパーツとして表現し、それぞれを平行移動や回転させて動くように見せる」
という荒技で、割と大きな(身長が画面1/3程度、初代のSFや餓狼がこの程度のサイズ)キャラを滑らかに動くように見せている。
実際、このソフトの箱の裏に「ファミコン上で巨大キャラがなめらかに動く」とあるので、相当自信のあるシステムのようである。
この技術自体は「多関節キャラ」と呼ばれるもので、割と古くから存在しており、今でも利用されている技術でもある。
主に昔のアーケードゲームで良く多用されていたもので、『源平討魔伝』を始め、昨今では『スーパーロボット大戦』シリーズでの戦闘アニメーションや、
対戦格闘ゲームではマイナーながら支持のある『ランブルフィッシュ』シリーズも、この技術の応用・発展系である。
MUGENでは『Alfar』や『SpriteStudio』などのパーツアニメーションを生成可能なソフトを使い、
SAE作者のクーやネオネオ氏のマーチ・ザ・トリビー、カーベィ氏の多くの怪獣キャラ等がこの技法を使って作られている。

余談となるが、『ストリートファイターII』シリーズ・『ヴァンパイア』シリーズ・『MVC』シリーズなどCPS基板出身のキャラクターや、
アルカナハート2』のキャラクターのMUGEN移植に関して、
前者は「グラフィックが横長」、後者は「ドットが荒い」「ジャギジャギ」という話題がしばしば取り上げられる事がある。
前者はCPS基板特有のドット比率が採用されているためにそのまま移植しようとすると発生する問題で、
これは該当キャラのCNSファイル内にある「xscale」の値を修正する事で解決できる(おすすめは「0.8333333」)。*4
後者は主にPS2版からキャラクターを引っ張ってきているために起こる問題で、
その元のデータからしてドットが荒い状態のため、移植素材としては厳しい物があるという事である。
原因としてはPS2のメインメモリと『アルカナ2』で使われているメモリ容量の違いがある。
『アルカナ2』で使用されている「eX-BOARD」はメインメモリが1GB(VRAM含む)、PS2はメインメモリが32MB(VRAM兼用)と、
余りにも容量に開きがあるため、ドットのクオリティを落とさない事には容量が全く足りないのである。
ドットのクオリティが素直にRAMやROMの容量と直結している例の一つであり、
MUGENにおいてもクオリティの高いキャラクターは15~20MBのデータ量になっているが、それはこういった容量の使い方故と言える。

また、キャラを製作し始める時にエミュ等を使用してキャラ画像を吸出しする際、
スプライトの表示非表示機能が実装されていない物では、面倒だがスクショを沢山撮って、
それをペイントなどで加工(背景の絵を消していく等)していくしか方法はない。
特にエフェクトステージの効果がキャラ画像と重なるなどの要因で、上手く色を直す必要なども出て来るため、
その労力は並大抵のものではない。
これは「根性キャプ(キャプチャー)」とも呼ばれ、吸い出し方が確立されてない場合はこの手法が用いられる。
一部のツールでは、本体のスプライトに使われている色以外を塗り潰して背景色にするなどの機能があるが、これも完全ではない。
まあ、手描きするよりは楽さ! 頑張れ作者達!
ただしあくまで各社が苦労をして基礎から作り上げ、商品価値を持つように昇華したものである事を忘れない様に。


*1
対戦格闘ゲームではないが、右向き時と左向き時で別のグラフィック使って矛盾を解消した実例としては、
パニッシャー』の2Pキャラ、ニック・フューリーの眼帯部分というのがある。
格闘ゲームで同様の事をやっている例というのはあまり知られていない。
ストⅢギルが一見すると同様の事をしているかに見えるが、あれはカラーパレットの変更機能によるもので、
ドット作業はしておらず、褌部分をよく見ると向きが反転している。

*2
ここでいう「スプライト」とは、2D画面に物やキャラクターを合成表示させる技術の名称である。
専用処理チップを載せる事で、CPUの命令一つでキャラクターを画面上で表示できるため、
CPU処理能力の低い時代におけるコンピュータで、激しい動きのあるゲームを作る際必須とされた
(スプライト機能が無い場合は、キャラと背景の重ね合わせ処理等をCPUが細かく計算する必要があった)。
今で言う背景画面とポリゴンキャラクターの関係に近い。

なお「スプライト」の本来の意味は炭酸飲料(ペプシマ~ン!はライバル会社だ)小妖精の一種の事であり、
「画面内を飛び回る小妖精」的な意味で名付けられたもの
(実はスプライトはフェアリーと違って目に見えない妖精らしいが)。

*3
mugen.cfgというファイルにあるDoubleResという項目の値を4にする所から。

*4
にも拘らず現在もその処理をせずにデフォルトの「1.0」のままにされているCPS出身キャラが多いのは、
D4が発見される前はキャラの表示スケールを変更するとグラフィックがガタガタになってしまい見栄えが悪くなるために、
敢えてそのままにしていた時代だった頃の名残だからだと思われる。
ちなみにCPSのドットは384×224の非正方形ドットで、あきまん氏がドッター時代にその件を上司に訴えた際にハード側に連絡した所、
問答の末に「計算間違いだった」と返ってきたエピソードがある。


最終更新:2023年09月29日 01:31