**それぞれの誓い~英雄の条件~ ◆KJJLTUDBrA sm[[70>Cry for me, cry for you]]←時列順に見たい人はコチラ→ sm[[70>Cry for me, cry for you]]←投下順に見たい人はコチラ→ キャラ順に見たい人はコチラ↓ sm[[66>十一色の誓い]]←スパイダーマン→ sm[[66>十一色の誓い]]←福山芳樹→ (非登録タグ) [[パロロワ]] [[ニコニコ動画バトルロワイアル]] [[第七十話⇔第七十一話]] [[第七十一話⇔第七十二話]] ---- 英雄とは何なのか。その言葉だけが俺の頭の中を飛び回る。 英雄とは何なのか。 少なくとも俺は英雄ではない。それを名乗る資格すらない。 俺はただ、復讐に燃える男。決して正義の味方でも弱者の守護者でもない。 目の前で今にも死にゆこうとする男を救うこともできず、あまつさえ、それに安堵しかけている俺など……! 「スパイダーマ、くん」 「……ん? あ、ああ」 男の声で我に返った。どうやら考え込んでしまっていたようだ。 俺が男に目を向けると、男はゆっくりと口を開いた。 「……実はね、俺はあそこで歌い始めてからずっと、いつかはこうなるだろうと思っていたんだ」 「死が、恐ろしくなかったとでも言うつもりか」 俺の問いに、男は力なく笑う。 「そんなことはないさ。今でも俺は、死ぬのが怖くて、仕方がない」 「ならば、なぜ……」 「簡単な、話さ」 男は語る。最初は夢か何かかと思ったことを。 しかし、何度思い返しても、最初に死んだ彼らは現実にしか思えなかったことを。 そして、殺し合いなんてくだらない、と。 「だから、俺は、この殺し合いを、止めようと思った」 だが彼には、首輪を外す知恵もなければ、主催者たちを倒せるだけの力もなかった。だから── 「──だから、人を集めようと?」 「ああ。歌を歌えば、誰かには届くだろうと思って」 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 俺はそこで、あることに気づき戦慄した。 「まさか……」 思わず声が漏れる。 男はそれを聞きつけたのか、ニヤリと笑った。 「正直、分の悪い賭け、だったが、……どうやら俺は、賭けに、勝ったらしい」 君たちが来てくれたからな、と男は言う。しかし俺は愕然とし、何も言えないでいた。 大音量の音を立てれば、それは当然近くの誰かに届くだろう。確かに、この状況を打破できる可能性は高まる。 だがそれは、殺し合いに乗った者にも同じこと。運が悪ければ、己の目的を達成できずに死んでいたかもしれないのだ。 しかし彼は、それすらも予期していた。その上で歌っていたのだ。己が命も顧みずに。 そして、今にも自分の命が消えゆこうとしているときになってさえ、この男は笑みを浮かべている。 「俺も、みんなも、無事なのが、ベストだったが、……さすがにそれは、高望みが、過ぎたか」 男はため息をつく。徐々にその顔から、血の気が失せていく。 しかし、何故だ? 何故そんなに満足そうな顔ができる? 「君も、わかっている、んだろう? これは、もう、……助からない、って」 「……ああ」 あのときの俺たちの中に、これほどの出血に対する応急措置を知っているものはいなかった。 また、傷をどうにかできるようなアイテムも持ち合わせていなかった。 だがそれは、言い訳に過ぎない。 あと少し早く到着していれば。 姿の見えぬ狙撃手をあらかじめ俺が倒していれば……。 「やめて、くれよ。自分、を、責めちゃ、いけない」 「だが……」 「人は、いつか死ぬ。俺の、場合が、今というだけ、さ」 彼の言葉は、もう途切れ途切れだ。だがそれでも、この男は口を閉じない。 まるで、語り足りない何かを語りつくそうとでも言うかのように。 「いいか、殺し合い、をしちゃ、駄目だ。人が、死ぬのは、いつも悲しい、ことだからだ」 「…………」 「俺は、誰も、死んでほしく、ない。できれば、俺を、撃った、誰かも……」 「…………」 「いい、な、倒すべき、敵を、間違える、な……」 もはや男の顔は蒼白だった。しかし、男の目は、まだ死んでいない。 その目が、俺を捕らえて離さない。 「……頼め、る、か?」 「……ああ」 その答えに安心したのか、男は、ふ、と息を吐く。 それと同時に、男の体から力が抜けていく。 「じゃあ、な。スパイダー、マ、……みん、な、……を、ひとり、でも、……多く、の、人、……を…………」 …………。 「…………」 そのときの彼の様子は、まるで眠っているかのように見えた……。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 俺は、英雄ではない。これまでも、そしてこれからもそうだろう。 英雄というのは、決して強い力を持つものではない。 尋常ならざる頭脳を持つものでも、死を恐れぬものでもない。 英雄というのは、すばらしい魂を持つものの事だ。 己がなすべきことを見極め、絶望的な状況すら、思い信じて突き進む。 死を恐れ、その上でそれをも乗り越える。 ああ。 ああ、そうだとも! この男は、確かに英雄だった。それも、歴史の闇へと消えて行ったような、真の意味での英雄だ! 彼は、自分の無力さを知り、知識のないことを嘆き、しかし己のなすべきことをなした。 その魂の輝きは……俺にはまぶしすぎる。 俺にはとても……英雄にはなれない。 「だが」 俺は呟く。自分自身に言い聞かせるように。 俺は、この男に思いを託された。真の英雄から思いを、だ。 ならば俺は、その思いに応えなければならない。 純粋な力では、俺はあのYOKODUNAという男に勝てないだろう。なおかつ、今俺の手元に武器といえるようなものはない。 この男を撃った狙撃手も、どれほどの力を持つものか、わからない。 だから、俺がこれから行うのは、英雄とはとても呼べないような美しくない戦いだ。 正々堂々ではなく、横から、後ろから。 不意を撃ち、罠にはめ、時には逃げ。 そして、誰も死なせない。 難しいことであることは、重々承知だ。だがそれでも、この英雄の意思を絶えさせてはならない。 俺は、彼の手にテニスボールを握らせると、腰を上げた。 そして、男の持ち物から、ギターを手に取る。 「これは、借りさせてもらう」 心の中で詫びる。俺はこれから、この楽器を本来の使い方以外で使おうとしているからだ。 だが、英雄ならざる俺には……こんなものでもないと、戦えない。 先ほどYOKODUNAが飛んでいった方向に目を向ける。 俺の場所からはよく見えないが、向こうで頻繁に土煙が立ち上ったり、槍のようなものが降り注いでいたりするのが見えた。 おそらく、あの男と何者かが戦っているのだろう。 あの男の持つ気配は尋常ではなかった。下手をすれば、あの男は簡単に人を殺せるに違いない。 だが見たところ戦いは互角。しばらくは、戦況に大きな変化はないだろう。 だから俺は、もう一方に足を向ける。 まずは力を持たないものの安全を確保。その後あの戦闘に介入する。 「あなたの思いを……私は無駄にはしない」 彼に別れを告げ、俺は走り出した。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 走りつつ、彼の名前を聞いていなかったことに気づいた。 少しの後悔を覚えつつ、俺は考える。 俺は英雄にはなれない。彼を見ていて、もはやそれはあきらめた。 だが今ひと時。今ひと時だけは──俺は、英雄の代理人でいよう。 全ての人を救うことはできずとも、せめて一人でも多く……。 【C-3 北部・山の麓/一日目・朝】 【スパイダーマン@東映版スパイダーマン】 [状態]:健康。鉄十字団を倒し終えていない状態。英雄の代理人。 [装備]:DIGIZO HYPER PSR(残り三十分程度)@現実 [道具]:支給品一式、上海人形、花粉防止用マスク、テニスボール4 [思考・状況] 1.英雄の遺志を継ぎ、可能な限り誰も死なせない。 2.非戦闘員(いさじとつかさ)の安全を確保する。 3.その後、YOKODUNA達の戦闘に介入。誰も死なない形で、尚且つあらゆる方法で、戦闘を終了させる。 4.一段落したら英雄の弔いに戻る。 5.氷雪地帯全域を探索に向かう。夕方に塔で待ち合わせ。 &color(red){【福山芳樹@現実(真赤な誓い) 死亡】} &color(red){【残り 56人】} ※福山芳樹@現実(真赤な誓い)の死体(腹部に銃創)は道の脇に寝かされています。 また、彼はテニスボールを握っており、すぐそばのデイパックの中には 『予備電池(残り2セット)@現実』と支給品一式が入っています。