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このチート野郎!(大半の魔理沙使いの叫び)-前 - (2010/03/18 (木) 12:14:08) のソース

*このチート野郎!(大半の魔理沙使いの叫び)-前 ◆KJJLTUDBrA


(非登録タグ) [[パロロワ]] [[ニコニコ動画バトルロワイアル]] [[第211話]] [[若本無双]]
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「ぶるああぁあああぁぁああああ!!」
アイスデビモンが振るった爪が、霊夢のシールドに防がれ、火花を散らす。
霊夢は衝撃を逃がすために後ろに飛んだ。着地したのは海馬とレナのちょうどまん前である。
霊夢が離れたのを見て、レナがリアルメガバスターを、海馬がロールバスターを構える。
しかし、アイスデビモンの疾駆はそれより速かった。
「ふんっ!」
弾が発射されるより速く接近するアイスデビモン。それが振るった爪を再び霊夢がシールドで受ける。
ミシリと軋みをあげるシールド。ギリギリと押し込まれ、アイスデビモンの姿はすぐそこである。
レナと海馬は躊躇した。少しでも手元が狂えば、弾が霊夢に当たってしまう。
一瞬の停滞。その中で最初に動いたのは霊夢だった。
彼女が放った二枚のお札。それはまるで意思を持つかのように飛んだ。
一発は右へ、もう一発は左へ。それらが弧を描きながらアイスデビモンに迫る。
アイスデビモンは後ろに跳び、二枚のお札はアイスデビモンが先ほどまでいた場所で爆発した。
距離が開いたのを見て、レナと海馬が援護射撃を開始する。
アイスデビモンは弾丸を羽で弾きながら大きく後退。のけぞったところに霊夢の追撃が入る。
炸裂する霊夢の蹴り。
それを避けるために、アイスデビモンは廊下の端まで飛びのいた。
「貴様ら、なかなかやるなぁ?」
「お褒めに預かり光栄ってところね!」
アイスデビモンの呟きに、霊夢だけが答えるが、その言葉と裏腹に彼女の顔は険しい。
相手にまともにダメージが入っていないことがわかっているからだ。
海馬とレナは黙ってアイスデビモンにその銃口を向けている。
腕を組み、考え込むアイスデビモン。あからさまな隙だが、先ほどの動きを見ている霊夢たちは攻撃に移れない。
「なるほど。貴様らうぉ、みくびっていたのは俺の方かぁ。なら……」
言うやいなや、アイスデビモンの放つ殺気が一変する。
少しでも動けば身が裂かれそうなほどのピリピリとした空気。
だが──。

「あ、アイスデビモンさま~、……ただいま参上しました~」
そんな空気はすぐに霧散した。
アイスデビモンの後ろから、下っ端のデジモンが一匹、なにかを担いでやってきたのだ。
おそらく先ほどアイスデビモンが呼んだ援軍だろう。
駆けて来たのか、息も絶え絶えである。
「ぅおそぉぉぉおい! もっとはやくこんかあぁぁぁあああっ!」
「は、はひぃ、すみません! ですが、デーモンの攻撃の余波で多数の仲間が死亡、ないし負傷しまして……」
「御託はいい! 速くこいつらをぶち殺せぇぇ!」
あきらかにおびえている下っ端デジモン。がくがく震えながら、アイスデビモンに背中に背負っていたものを手渡した。
「あ、あの、これは本部からアイスデビモン様にと言付かれまして……」
ん、とアイスデビモンは下っ端デジモンの差し出したデイパックの中を覗き込む。
そして次の瞬間に背を反り返らせるようにして大爆笑し始めた。
「あ、あの、アイスデビモン様?」
「すばらしい、すばらしいぞぉ! わが部下よ!」
霊夢たちに背を向けた完全な隙。そこに霊夢がアクセルシューターを放った。
その数は十。それを追う様に、アミュレットや海馬やレナの射撃が始まる。
迫る弾幕に対し、アイスデビモンは一瞬で笑いを引っ込めると、あろう事か正面から向き直った。
「ゼロフリーズ!」
霊夢たちがそろって驚いた声を上げる。
アイスデビモンが氷のような息を放つと、霊夢たちの放った弾幕が尽く凍りついたのだ。
当然、弾はアイスデビモンに届きすらしない。
アイスデビモンはデイパックから取り出した二本のソレを目の前で交差させ、宣言する。
「──我らはピエモン様の代理人。神罰の地上代行者。
 我らが指名はぁ、ピエモン様に逆らう愚者をぉ、その肉の一辺までも絶滅すること──」
一瞬の間。
「──エェェェエエエエイメンッ!」
アイスデビモンがその腕を振りかぶった。そこから放たれる何か。
銃弾かと見間違うほどの速度で飛来するそれは、霊夢の展開したシールドを容易く貫いた。
「なっ……!」
霊夢の顔のわずかに五センチ横を通り過ぎた何かは、壁に勢い良く突き刺さる。
突き刺さったのは銃剣。どこぞの絶滅主義者の神父の得物と同じである。
その銃剣の周囲を氷が侵していくのを見て、海馬は叫んだ。
「気をつけろ霊夢! 奴の一撃は周囲を凍りつかせる! 当たればただでは済まんぞ!」
「わかったわよ!」
霊夢が床を蹴った。先ほどの一撃に危機を覚えたのだろう。早めに片付けようという算段に違いない。
放たれたアクセルシューターがアイスデビモンを囲うように飛ぶ。
だが、アイスデビモンは決して雑魚ではない。新たに取り出した二本の銃剣を一閃し、迫る弾幕を叩き落すと、
突っ込んできた霊夢に向けて、カウンターの一撃を放った。
「ふぅうぅぅぅぅううううううううんッ!」
振り下ろされた銃剣を霊夢はかろうじて避けた。シールドをぶち抜くほどの一撃である。まともに受けては体が持たない。
だが、アイスデビモンの持つ銃剣は二本ある。一本を避けてももう一本が彼女を狙う。
それを避けるには大きく後退する必要があり、結果として再び距離が開いてしまう。
数発のアクセルシューターと共に突っ込むが、それらもまったく意味を成さない。
どちらか一方で光弾を叩き落し、もう片方で霊夢の迎撃にあたる。
そんな膠着状態に陥ったことに対する焦りが霊夢の思考を蝕む。
早く倒さなければ、早く倒さなければ、という焦燥が、彼女の動きから精彩を奪っていく。
(せめて、せめて一発ディバインバスターを打ち込めれば!)
そんなときに放送が流れた。



甲高い時報の音。不意に流れると不快極まりない音。
しかし、戦闘に集中している彼らにそれをじっくり聞く余裕はない。
だが、そんな状況でも彼らが聞かざるを得ない名前があった。
『今回の死亡者は──』
霊夢は少しだけ離れた距離からレイジングハートを構えた。
収束する光。狙うはディバインバスターである。
だがアイスデビモンの速さにそれを断念する羽目になった。
アイスデビモンが振るった銃剣を、霊夢は上体を後ろに逸らせて交わす。
そのまま三発ほどアクセルシューターを放つが、一発は避けられ、二発は叩き落された。
『──キョンの妹』
アイスデビモンの姿勢が崩れたわずか一瞬の隙に、霊夢は何度目かの接近を試みる。
風を切る音と共に、レイジングハートを振るう。狙うは相手の頭部である。
(一撃だけでいい! 重い一撃が入りさえすればこの状況はひっくり返る!)
当然それはガードされた。だが、この瞬間霊夢の右手は丁度アイスデビモンの死角となる。
その右手に握られたのは一枚の御札。ありったけの霊力をこめ、相手に向けて放とうと──。
『──伊吹萃香』
霊夢の思考が止まった。
『──阿部高和』
放たれようとしていたお札は、そのまま握り締められたままである。
生じた隙はまさに致命的なものであり、アイスデビモンがその隙を見逃すはずがない。
叫びとともに放たれる横薙ぎの一撃。それは霊夢の腹部を的確に狙っていた。
我に返って霊夢はシールドを展開する。それは回避までの時間を稼ぐただの壁でしかない。
しかし。
『──天海春香』
畳み掛けるようなもう一つの名前。それらがもたらした動揺は致命的なものだった。
シールドがはじける音に霊夢は我に返るが、時既に遅し。
腹部に衝撃を受けて吹き飛ばされる霊夢。
薄れていく意識の中で考えていたことは、萃香と春香がかつて霊夢に言ったことについてであり。
そして、ゴンという音と共に霊夢の意識は途切れた。

○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
「霊夢!」
攻撃のタイミングを見定めていた海馬は、霊夢が吹き飛ばされたのを見て叫んだ。
吹き飛ばされた霊夢は一度床で跳ね、海馬の足元にまで転がってくる。
「海馬さん! 霊夢ちゃんはだいじょうぶなの?」
レナがアイスデビモンを撃ちながら聞く。だがそれらは、アイスデビモンに届くやいなや叩き落されてしまう。
海馬は霊夢の首に手を当て、口元に耳を近づける。
そして霊夢の体を満遍なく見回し、腹の部分の服がはじけているのを見つけ、表情を険しくした。
「命に別状はないようだが、おい、レイジングハート! 状況を説明しろ!」
『かろうじてリアクターパージに成功し、最悪の事態は避けられました。腹部のバリアジャケットの損傷はそれによるものです。
 しかし、その際の衝撃およびさきほど床に衝突した際に頭部を強打したため、意識を失っています』
「くそッ!」
海馬が下唇をかみながら悪態を吐き、アイスデビモンを睨みつけ……顔色を変えた。
「お、おいレナ! 引け! ブリッジに飛び込め!」
アイスデビモンを攻撃していたレナは驚いたような顔をしたが、
すぐに射撃を取りやめ、すぐそばにあったブリッジの入り口へと駆け出した。
アイスデビモンが片手で弾丸を叩き落す一方で、もう片方の手に四本の銃剣が握られているのが見えたのだ。
明らかに投擲の構え。少なくとも今の彼らにその一撃を防ぐ手立てはない。
海馬も霊夢を抱え上げるとレナのあとを追う。
「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁああぁああああ!」
投擲された四本の銃剣。それが海馬に向けて迫り来る。
(間に……あえ……!)
間一髪ブリッジに滑り込むことに成功する。だが無傷というわけには行かなかった。
ブリッジに飛び込む瞬間、銃剣が海馬の足に当たったのっだ。
思わず声を上げ、倒れる海馬。
「海馬さん!?」
「俺はいい! それより早く鍵を掛けてバリケードを作れ!」
レナは慌ててドアを閉め鍵を掛ける。それと同時にドアに衝撃が走る。びりびりと震える部屋。
レナは部屋にある机や椅子を片っ端からドアの前に積み上げ、簡易なバリケードを構築し始めた。
倒れたまま、海馬は左足首に刺さった銃剣を引き抜く。
痛みは少ない。というのも、左ひざから下が凍りついてしまっていたからだ。
海馬はそれに対し、眉をひそめる。
「……痛覚がない、だと。くそ、神経までやられたか」
「あの……海馬さん? 大丈夫ですか?」
「ああ、少なくとも今は大丈夫だ。危険なのはこの氷が解けたときだが、この様子では、もうしばらくは大丈夫だろう」
しかし、と海馬は言った。
「問題はあの化物だ。何か思いつかないか、レナ」
「いいえ。私達の攻撃はほとんど効かなかったし……」
ガスン、という音が響く。
二人が音のした方向を見ると、ドアの横の壁から銃剣が生えている。
そして、歌が聞こえた。

♪Ten little Indians standing in a line! (10人のインディアンが並んでたぁ!)
♪One toddeled home and then there were nine! (ひぃとりおうちに帰って9人になったぁ!)

それを聞き、海馬は声を荒げる。
「マザーグースだと……! 悪趣味な奴め! カウントダウンでもしてるつもりか!」
立ち上がろうとして激痛に顔をしかめる。末端部はともかく氷結部と生身との接合部には痛覚は残っている。
それをみてレナが声を掛けた。
「あの、無理はしないほうがいいんじゃないかな。指示をくれれば私が代わりに……」
「だめだ!」
だが、その言葉を海馬は遮った。
「この状況、各々が最善を尽くさねば突破できん。俺が休んでいては生き残れないのだ!」
霊夢をそっと横たえると、海馬は痛みに耐えながらコンソールに手をつき、立ち上がる。
「お前にはお前にしかできないことがあるだろう? 同じように俺には俺にしかできないことがある!」
バリケードに組み込まれなかった椅子をとり、海馬はコンピュータの前に腰を下ろした。
「あの化物に対抗する可能性を持つのは霊夢か……この船の武装だけだ。
 たとえ刺し違えてでも奴をしとめねば、城にいる奴らが危険だ。
 おまえは俺たちの支給品から、時間稼ぎのできるものを探せ。俺はコンピュータを調べる」
言うや否や、彼の指先がキーボードの上を走りだす。
そして二本目の銃剣が刺さる音がした。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽

 気がつくと、彼女はいつもの通り神社にいた。
 「あれ?」
 思わず呟く。
 いつもの畳、いつもの障子、いつものちゃぶ台。
 だが彼女は今まで別のところにいたような気がしていた。
 「確か私は殺し合いをしろ、とか言われて……」
 だが、そんな記憶はない。
 「気のせいかなぁ。うーん」
 そのとき、彼女は周囲を覆う赤い霧のことを思い出した。
 すっ、と腰を上げる。
 「忘れてたわ、異変を解決しに行かなくっちゃ」
 縁側に出て空を見上げる。
 無数の星。霧の所為でくっきりとは見えないが、外の世界では失われ続けている美しい星空がそこにはあった。
 それを見上げながらふと、彼女は呟いた。
 「──私はどうして異変解決をするんだっけ?」

▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲

♪Eight little Indians gayest under heaven! (8人のイぃンディアンがぁ、たぁのしそうにしぃてたぁ!)
♪One went to sleep and then ther were seven! (ひとぉり眠って七人にぃなったぁ!)

アイスデビモンの声が響く。
「巡航ミサイルに、Nice beam.……今使える武装がないな」
海馬が悪態をつく横で、レナが支給品を調べている。
「しかし本当になんなのだこの船は。ここまでおかしな戦艦など俺は聞いたことがないぞ……」
「あの海馬さん、ロケット弾がありますけど……」
「やめておけ。そんなもの部屋の中で発射したらひとたまりもないぞ」
「……はい」
レナはRPG-7を横に除けた。
ガスンと四本目の銃剣が壁を突き破る。

♪Seven little Indians cutting up their tricks! (しぃちにんのインディアンが、いたづらしてたぁ!)
♪One broke his neck and then there were six! (一人首の骨をおってろぉくにんになった!)

▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽

 吸血鬼を倒した彼女は、吸血鬼に訊いた。
 「ねえ、何で私は異変を解決しなきゃいけないんだっけ?」
 吸血鬼は答えた。
 「そんなのなわたしは知らんよ。巫女だからしなきゃいけないんじゃない?」
 それは確かに正しい。けれど違う、と彼女は思った。

▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲

「やっぱり、今使える武器はこれぐらいじゃないかな」
レナが差し出したのは、各種遊戯王カード、モンスターボール、AK74、クレイモア地雷、そしてクラモンだった。
それを見て海馬は険しい顔をさらに険しくする。
「やはりこの状況を打破するには、手札が足りん……」
悔しげな声を上げる。
そこにガスンという音。

♪Five little Injuns on a cellar door! (ごぉにんのインディアンが穴蔵の戸のとぉころにいた!)
♪One tumbled in and then there were four! (ひとぉり落っこちて4人になったぁ!)

徐々に大きくなるアイスデビモンの声。
二匹のクラモンは驚いてぶるぶる震えだした。
「か、海馬さんのほうは何か……」
「いや、船内に対して使える武装はない。少し気になるものは見つけたが……いや、どちらにしろ今は無用の長物だ」
首を横に振り、否定の意を示すと、レナは肩をおとした。
海馬の顔は険しいままである。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽
 
 彼女は寒いのは苦手だった。
 「あー、寒いわねー」
 今は五月。だというのに吹雪は一向にやむ気配がない。
 ふぅ、と吐いた息は白い。
 「もう、いつもなら桜も咲こうという時期よねぇ。今年は何でこんなにも大雪なの?」
 彼女は、どうせ口に出さなくてもわかるような理由だと思ったのだ。
 だから喋ると寒いのでだまって原因を潰しに行くことにした。
 もともと神社は昔の建物なので吹きっさらしだったので家にいてもいなくても同じだったのだ。
 彼女はいつもどおり勘を頼りに出発した。
 何かを忘れているような不安と共に。

▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲

「仕方あるまい。まずは地雷を仕掛けろ。それぐらいなくては話にならん」
できればそいつでしとめられればいいんだがな、と言うと海馬はコンピュータに向かった。
クレイモアを仕掛けながら、レナは海馬に尋ねる。
「何やってるのかな? さっきは使えるものはないって言ってたけど……」
「なに、いざというときの保険だ。本当ならこんなものは使われないに越したことはないが……万一ということがある」
ふぅん。いつものように海馬は鼻を鳴らした。
キーボードの上を走る海馬の手。そこに迷いはない。
一体なにを打ち込んでいるのか。レナからはまったくわからなかった。
そして何度目かの音。聞こえる歌。

♪Four little Indians up on a spree! (4人のインディアンがのぉんで浮かれてたぁ!)
♪One he got fuddled and then there were three! (1人よいつぶれてさぁんにんになぁった!)

▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽

 華胥の亡霊を倒し、彼女は亡霊に訊いた。
 「ねえ、なんで私は異変を解決しなきゃならないの?」
 亡霊は少し首を傾げて、逆に彼女に聞き返した。
 「あなたは、里の人々のために異変解決をしているのではないの?」
 それもだけど、それは違う、と彼女は答えた

▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲

「ことのは。霊夢が起きるまで時間を稼いで欲しい」
レナがクレイモアをセットし終わるころになって、海馬はコンピュータに背を向け、モンスターボールからことのはを出した。
海馬の頼みに、ことのはは何も反応しない。ただその場に立っているだけである。
「……そうか。俺がやよいを殺したからか……よりによって見殺しにしたからか!」
搾り出すような海馬の声。
それに対し、ことのはは何も言わない。何も言わず、うつろな目でどこかを見つめている。
クレイモアをセットし終わったレナが何か言いたげに口を開きかけたが、すぐに口を噤んだ。
自分の言うべきことではない、と判断したのだろう。
たとえ海馬が過去に何か過ちを犯していたとしても、そのときその場にいなかったレナにその内容を知る術はないからだ。
海馬は悔しそうに唸ると、ことのはをボールに戻し、オクタンの入ったボールを手に取った。

♪Three little Indians out in a canoe! (3にんのインディアンがカヌーにのったぁ!)
♪One tumbled overboad and then there were two! (ひとりみずぅに落ちてふたりにぃなったぁ!)

▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽

 「次の宴会まで後三日か……」
 長かった冬、短くも盛大な春も過ぎ、山は既に深い緑に包まれていたが……
 人間や妖怪が集まるお花見だけは延々と繰り返されていた。
 確かに彼らは宴会好きであったが、だからといって最近の頻度は以上だった。
 それに彼女は何となく異変を感じていた。
 宴会を行うたびに、妖気が高まっていたのだ。
 しかし誰も、繰り返される宴会をとめようとしない。
 だから彼女は、異変を解決するために動くことにした。
 また、それとは別に彼女には予感があった。
 もう会えない誰かに会える──そんな思いが彼女の心の奥底にあった。

▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲

♪Two little Indians fooling with a gun! (2人のインディアンが銃をいたづぅらしてぇた!)
♪One shot the other and then there was one! (1人撃たれてひとぉりになったぁ!)

いよいよカウントが零に近付く。
「海馬さんはそこにいてください。私が時間を稼ぎます」
「だが……」
レナの提案に渋る海馬。
それもそうだろう。自分だけが安全というのは、なかなかどうしてつらいものである。
だがそれもレナは押し通した。海馬が怪我を負っている、ということを盾に。
「それに、私だけが囮じゃない。霊夢ちゃんにあいつを倒してもらうのが目的なんですから、海馬さんも私と同じです」
「……ふぅん。仕方がないがそうするしかないか」
だったら、と海馬はモンスターボールをレナに投げた。
「それはお前が持っておけ。攻撃のタイミングはここからではわかりづらい」
「わかりました。では海馬さんは?」
海馬は数枚のカードを掲げた。
「俺はこれで援護する。相手がアレでは使えるカードも限られるがな」
レナはわかりました、と言い棺おけを自分の前に置く。
「レイジングハート。霊夢の様子は?」
『バイタル面での問題はほぼありません。ですが未だ昏睡状態は依然続いています』
「原因は」
『不明です』
海馬の顔が歪む。

♪One little Indians living all alone! (ひとりのインディアンがさぁびしくしてぇた!)

▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽

 「あんたは死んだんじゃなかったっけ?」
 鬼を倒した彼女は、鬼に言った。
 「死んだ……? 一体何をいってるのさ。わたしはこの通りピンピンしてるよ」
 何を馬鹿なことを、と鬼はあきれたような声を上げた。
 「気のせいかなぁ。確かにそんな気がしたんだけど」
 うーん。と彼女は考え込んだ。
 そこでふと、彼女はこの鬼にも訊いてみたいことがあったことを思い出した。
 「そうだ。あんた、私がどうして異変解決をしてるのか知らない?」
 鬼はぶっきらぼうに答えた。
 「そんなの知るわけがないじゃない。それとも理由が欲しいのかい?
  なめたことを言ってるんじゃないよ。自分の理由ぐらい自分で決めな」

▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲

♪──and then there were none! (そぉしてだぁれも、いなくなったぁ!)

最後の一本が壁に刺さるや否や、ドアが吹き飛んだ。
「──ぬふぁ」
ガラガラと崩れるバリケードの向こうでアイスデビモンは笑う。心底楽しそうに。
「さあ、準備はいいか、人間どもぉおおおぉぉぉおおお!」
両の手にそれぞれ銃剣を一本ずつ持ち、彼は言った。禍々しく、ぬらりと光るそれは、見るものに恐怖を与える。
しかし彼の武器はそれだけではない。
体の随所に装着されたベルトには無数の、その手に持ったものと同じ銃剣が装着されている。
その数は数え切れない。一体どれほどの数の銃剣がそこにあるのか。一見しただけではまったく見当が付かない。
また、銃剣の数だけが問題ではない。
この世界に質量のないものなど存在しない。少なくとも人が直接触れることのできるものではそんなものは皆無だ。
ましてや銃剣は金属で出来ている。強度の問題があるため、戦闘時に使用される金属の質量は他と比べて決して小さくない。
そんなものを体にぶら下げているのだ。十や二十の小さな数ではない。
三桁の半ばにも届こうという数の銃剣を装備し、かつその動きが鈍った様子は見えない。
人間とデジモンを比べるのは愚かなことであるが、ここにいるのは間違いなく化け物だった。
「……ん?」
バリケードが崩れるときに生じた煙。徐々に煙が晴れてゆき、アイスデビモンの前に現れたのは巨大な棺おけだった。
「ふん。絶滅神父の相手をするから棺おけってぇことかぁ? そんな余裕など貴様らには……」
煙が完全に晴れ、棺おけの足元が見える。
そこにあるのは、クレイモアことY11対空インパルスが三つ。
「ぬぅっ!」
瞬時にアイスデビモンは銃剣を放った。狙うは中心のクレイモアである。
中心のクレイモアが沈黙するのとカチリという音が鳴るのは同時。
炸裂する散弾の雨に対してアイスデビモンが取ったのは前進だった。
アイスデビモンを逃がさないために展開された地雷である以上、真ん中が潰されればそこに死角が出来るのは必然。

事実彼は、ほぼ無傷でクレイモアを突破した。
「無駄なことをぉ!」
駆けるアイスデビモンの前にモンスターボールが落ちる。
それに銃剣を振り下ろそうとしたアイスデビモンだったが、棺おけの横から突き出された銃口を見て急停止する。
連続する銃声。それをアイスデビモンは横に移動しながら避ける。
棺おけを回り込むようにしたアイスデビモンとレナの視線が交錯する。
レナは弾切れしたAK47を投げ捨てると叫んだ。
「オクタン、はかいこうせん!」
アイスデビモンの横合いから、光が放たれる。
彼が横に視線をずらすと、呼び出すことに成功したオクタンがそこに居、光線を放っていた。
アイスデビモンが上体を大きくかしげると、光線は天井に向けて直進し爆発する。
放った銃剣が、はかいこうせんの反動で動けないオクタンを貫く。
「お願いクラちゃんいって!」
棺おけの陰から二匹のクラモンが震えながらアイスデビモンの前に飛び出す。だが二匹いるといっても実力差が違いすぎる。
一瞬で真っ二つにされる二匹のクラモン。だがその時間でレナのリアルメガバスターの装備が完了した。
そのままアイスデビモンに向けて連射する。
「だぁから──」
飛来する弾丸をはじきながらアイスデビモンは直進する。
「──無駄だってぇ──」
振るった銃剣でリアルメガバスター本体を弾く。
「ヴァアアアアアアアアアアアア!」
振るわれる銃剣に対するため、レナは自らリアルメガバスターを手から離すと、棺おけに立てかけてあった鉈を手に取った。
金属と金属のぶつかる甲高い音が響く。
「くっ!」
辛うじて拮抗する刃と刃。だが、余裕な様子を見せるアイスデビモンと違い、レナの腕はプルプルと震えている。
「俺を本気にさせたのはぁ、ミステイクだったなぁ」
ニヤニヤと笑いながら呟くアイスデビモン。じわじわと鉈がレナのほうに押し込まれていく。
一センチ、二センチとレナの元へと死が近付く。
(私は死ぬの? 死ぬのかな? 塔でみんなと誓ったことも出来ずに……?)
レナがいよいよ最後を見つめ始めたとき、アイスデビモンの目の色が変わった。
「え、海馬さん──きゃ!」
腹部を横様に蹴り飛ばされてレナが転がる。それを見もせずにアイスデビモンが走った。
行き先はカードを掲げた海馬の元である。
「六芒星の……」
「ぅおそぉいッ!」
アイスデビモンの突進。片方の銃剣が、海馬の手ごとカードを貫く。
そしてもう片方が海馬の腹を突き破り、壁に縫い付けた。
血を吐く海馬をの耳元でアイスデビモンは囁く。
「貴様らどいつもこいつも弱すぎる。その程度でピエモン様やマルク様に歯向かおうというのか?
 あまいなぁ。俺ごときにやられるようじゃ、夢のまた夢だ、ぜぇ?」
体を震わせて海馬は笑う。それをアイスデビモンは怪訝そうに見つめた。
「夢のまた夢だと? 馬鹿が、勝機もないのに挑むほど俺は愚かではないぞ。
 勝機があるからこそ、……俺たちはお前に挑んだのだからな」
「だが、お前はこうして死にかけている。作戦は失敗したというわけだぁ」
「だが、お前は……」
「……なに?」
かすれ声が聞き取れず、アイスデビモンは耳を海馬の口元へと近づけた。
海馬の口の端が上がる。
「光の──」
「……ッ! まさか!」
壁に縫い付けられた手とは逆の手に、カードが握られている。
丁度、身をかがめたアイスデビモンからは死角になる位置だ。
そして、唱えられたのは──。
「──護封剣」
「き、貴様ッ!」
光の剣がいずこからか降り注ぎ、アイスデビモンの体を貫く。
ダメージこそないが、それはアイスデビモンの攻撃力を的確に奪っていた。
「フ、フハハ、マジックシリンダーでも良かったんだが、アレで貴様が止まるか不確かだったからな。
 いずれにせよ、これで貴様は動けない。あとは霊夢の目覚めを待つだけだ……」
笑いながらアイスデビモンを見る海馬。
唸りながらアイスデビモンが返す。
「ぐぅ。確かにぃこれは不覚をとったわけだがぁ、この程度でぇ俺を倒したつもりかぁ?
 これが解除されれヴぁすぐにでも貴様らを、皆殺しにしてぇくれる」
それを聞いて海馬はアイスデビモンの目を覗き込むように言った。
「まだだ。……まだ俺たちのバトルフェイズは終了していない」
「……なに?」
訝しげにアイスデビモンが呟いた。
「竜宮レナかぁ? 確かに奴は強かったがぁ、丁度今そこでぇ伸びているぞ?」
ああ、確かに。と海馬はいった。
ふ、っと光の剣の一本が消える。
「だが違うぞ、化け物。レナは確かに強い女だが、それでは貴様を倒すには足りない。
 俺が待っているのは霊夢だ。あいつこそが貴様、そして……貴様らを倒す最後の切り札だ」
「あの巫女か。確かにあの巫女は相当な強敵だとぉ聞いている。だが先ほどの戦闘はぁなんだ。
 いくら制限下とはぁいえ、あの程度に負けるほど俺は弱くないぞぉ?」
それに、とアイスデビモンは言う。
あの巫女はまだ目を覚まさないじゃないか、と。
彼の声にはわずかな嘲りがあった。
それは霊夢に対してだけなのか、それとも他の相手に対してもそうなのか。
少なくともアイスデビモンが彼女を見下しているのは確実のようだった。
それを見て、海馬は笑った。

「何がおかしい」
「霊夢がその程度なものか。あいつはあんな程度じゃない。……俺にはわかる」
アイスデビモンは眉をひそめた。
「なぜわかる。お前達はぁ、ここにつれてこられてから知り合ったのだろう? わかるはずがない」
「いや、わかる」
自信満々に海馬が答える。
「わかるとも。一見違うが、……基本的な部分において霊夢はあいつに似ているからな。
 ありえないほどの強運に、その才能。俺の前に立ちはだかるそいつに、俺は何度も勝負を挑み挑まれ、尽く敗北してきた」
同じ気配がするからな、と海馬は言う。
「そんなあいつが、あの程度でくたばるものか」
「なるほど、そういうわけか。だが……」
アイスデビモンに刺さった光の剣がもう一本消える。
「……もう後一本だ。でもまだあの巫女はおきないぞぉ?」
「いや」
海馬は否定した。
「奴は必ず目を覚ます」

▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽

 ああ、と彼女は呟いた。
 『自分の理由は自分で決める』
 考えてみれば当たり前のことだ。
 彼女は誰かのルールの上に乗って行動したことはなかった。
 全ては彼女自身が決めたこと。
 彼女が異変を解決するのは、解決しないと困るから、他の人間にサボっているように思われるから。
 異変を憎んでいるわけでも、他の人間を守ろうとして異変解決をするわけでもない。
 ただ、自分がそうしたいからという理由で、彼女は異変解決へと赴くのである。
 彼女は何者にも何物にも縛られることはない。
 悲しくても、おかしくても、それは誰かに与えられて縛られたものではない。
 全ては彼女自身の感情。
 縛られていては、縛られているように思っていては、彼女の本来の力は発揮できない。

 ああ、と彼女はため息を付いた。
 あの時の萃香の言葉。そして閣下の言葉を思い出す。
 彼女らの言いたかったことを、彼女はここで初めて理解した。
 「ん? どうしたんだ、ため息なんかついて」
 鬼が彼女に尋ねてきた。彼女はそれに笑いながら答える。
 「やっと、答えを見つけたのよ」
 いいえ、違うわね。と彼女は呟く。
 「思い出した、というのが正しいわ」
 「うーん。良くわからないけど、よかったな」
 だからこれも、夢だとわかった。
 「じゃあね、萃香。私は行かなくちゃ」
 「行くってどこにさ。ここを出ればすぐに神社だろ?」
 いいえ、と彼女は言う。
 「その前にやらなくちゃいけないことがあるの」
 鬼は首を傾げる。
 「ああ、違うわね。私がやりたいことがあるの」
 そう言い換えると、彼女は鬼に背を向けた。
 誰ともなしに呟く。
 「私の名前は、博麗霊夢」
 彼女にはやりたいことがあった。
 「私は私。それ以上でも、それ以下でもない」
 だから彼女は行くことにした。

▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲

馬鹿な、とアイスデビモンは吐き捨てた。
「この状況でなぁお、奇跡を信じるとぉいうのかぁ?」
「……デュエリストというのは実のところそんなものだ。相手を倒すために様々なカードを使うが、
 山札のカードが二枚になっただけで、次にどのカードがでるかわからなくなる。
 それでも気が狂いそうになるほど思考し、自分のデッキを信じ、……最後まで戦い抜けば必ず奇跡は起こる」
ならば不可能ではない、と海馬は言う。
「俺たちはそれこそ命を賭けて霊夢を待った。努力に努力を重ね、思考に思考を重ね、貴様を食い止める時間を稼いだ」
ニィと、彼は今まで見せた中でもっとも邪悪な笑みを浮かべた。
「ならば奇跡は起こる。そうだろう、霊夢」


「そうね。私は努力なんて信じないけど、奇跡は起こるかもね」



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