判例随想#17

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判例随想#17 - (2007/07/09 (月) 05:22:26) の編集履歴(バックアップ)


判例随想#17


ポケモンフェイシャルステッカー事件


裁判所:
東京地方裁判所民事第46部 設樂隆一

概要:
訴外任天堂のキャラクター「ポケモン」の絵柄などが書かれたフェイシャルステッカー(水性のりを使用したシール製品であり,当該シールを貼りたい場所(手や顔などの肌)の上などに直接置き,手のひらでシールを温めるように押さえ,シールを被っていたフィルムをはがすと,シールが当該場所に付着するというもの)に原告商標「TOMY」、「株式会社トミー」をつけて販売したなどとして、原告が被告らを訴えた事件です。

本製品の企画製造を行ったのは被告プロテックスで、被告元従業員を仲介して原告トミーと交渉していたのですが、この仲介者がしっかりしていなかったのかよくわかりませんが、原告トミーと契約を締結することなく製造して被告大創産業(100円ショップのダイソー)に卸し、被告大創産業がこれを売りさばいた、ということです。

被告大創産業らは任天堂からもやられていたようですが、こちらは、100万円の支払いと全国紙への謝罪広告で和解に至ったようです。

本事件で気になったのは損害額の算定についてで、原告トミーは主位的に侵害者の利益を損害額として推定する商標法38条2項に基づく請求を行っており、被告らは本件製品には「ポケモン」などの絵柄が描かれているため原告商標の寄与率は低いと反論していました。これにつき裁判所は

ウ 被告各標章の寄与率について
 商標権は,特許権・実用新案権等の他の工業所有権と異なり,何らかの創作的価値を製品自体に付与するものではなく,商標に化体された営業上の信用を意味するものである。一般に,商標権侵害においては,侵害者の利益が当該登録商標の顧客吸引力のみによって達成されていることは稀であり,侵害者の商品の内容や侵害者の営業努力等の事情が相まって,当該商品について利益を上げることができる場合が少なくない。また,一つの商品について,複数の商標権が付されている場合には,当該商品との関連で,商標権の内容により,当該商品の売上げに対する影響力が異なることも多々ある。
 本件商品のようなキャラクターが掲載された商品の売上げは,一般的には,当該キャラクターの内容や当該キャラクターに関する商標権の影響力が,商品の販売実績に大きな影響を与えるものといえる。一方,商品自体の安全性も商品の購入に際しては重要であり,当該商品の製造元や販売元として記される商標の影響力も少なくない。
 本件商品は,世界的に有名なキャラクターであるポケットモンスターが使用されたフェイスシールであり,その表面には,ポケットモンスターの図柄(著作権)と「ポケットモンスター アドバンスジェネレーション」の商標(商標権)が付されており,その裏面には,その発売元を表示するものとして,本件各登録商標(被告各標章)が使用されている(甲3,4,検甲1)。本件商品については,その表面のポケットモンスターの図柄(著作権)と「ポケットモンスターアドバンスジェネレーション」の商標(商標権)の著名性からいって,これらが本件商品の顧客購買動機あるいは顧客吸引力に与える影響力が大きいことは明らかであり,発売元である原告の本件各登録商標が有する顧客吸引力も高いことを考慮しても,両者を比べると,前者が本件商品の顧客吸引力の約5分の4を占めているものといえ,その余の5分の1が,本件各登録商標の顧客吸引力によるものと認めるのが相当である。よって,被告大創が本件商品の販売により得た利益についての本件各登録商標の寄与率は,20%と認めるのが相当である。

と判断しました。前記の別訴訟で任天堂はトミーの商標の寄与利率は1/3だと主張していたようで、トミーに配慮したものかなと思いますが、本事件におけるトミーは著作権との間で寄与割合を考慮する必要はないとして、任天堂に遠慮することなく100%請求していました。

ところで、本件製品について購入者が原告トミーに苦情の電話をした際、購入先の被告大創に相談してもらうように案内したとか、トミーの商標がついていたからといってトミーに面倒を見てもらえるわけではないというわけで。ブランド管理ってどこもそんな感じなんでしょうか。安心して買えないような。。。

Addetto事件


裁判所:
東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 市川正巳

概要:
原告は、被告のマンション向けインターホン端末「Addetto」向けの共通ライブラリを開発し、被告に使用許諾ならびに保守契約を結んでいたのですが、その後被告が第三者に共通ライブラリを開発させて原告との契約を解消したところ、原告が、共通ライブラリの開発費は使用許諾に基づくライセンス料および保守費用により回収するというビジネススキームであり、それを一方的に破棄した被告の行為は債務不履行または不法行為に該当すると訴えた事件です。

要は、被告松下電器がその製品用のソフトウェアの開発を原告ネツトブレーンにやらせて、組み込み製品1台ごとに3000円のライセンス料を支払い保守費用として月に500万円を支払っていたのですが、金額が高いので原告ライブラリを解析し同等品を別会社に開発させて原告ネツトブレーンを切った、ということのようです。

そりゃ、原告が怒るのもうなずけます。

本事件のように、機器メーカが組込み用ソフトウェアを外部のソフトメーカに頼ることは一般的ですが、順調に進めばいいのですが、開発が頓挫したり、後日金額でこじれたりと、いろいろな事態が発生しうるんだと思います。特にソフトメーカ側で発生した開発費をどうするのか、下請法のこともありますし、難しいんだろうなと思います。あまり詳しくはありませんが。

本事件では、裁判所は、原告主張のようなビジネススキームの合意の成立は認められないとして、原告の訴えを退けています。

ところで、原告は、被告が第三者を使っての代替ライブラリの開発は、原告ライブラリのリバースエンジニアリングに当たり違法だと主張しました。これにつき裁判所は

これに対し,原告は,原告ライブラリによる処理結果としての出力情報を調査解析して被告ライブラリが作成されたことをもって,違法なリバースエンジニアリングである旨主張する。しかしながら,原告ライブラリへの入力と出力との関係を調査解析して得られるものは,当該関数が実現している機能であり,それは,飽くまでアイデアにすぎないものとして著作権法上保護されないものといわざるを得ない。よって,この点に関する原告の主張は採用することができない。

と判断しています。リバースエンジニアリングの著作権上の問題点としては、リバースエンジニアリングのために複製することが許諾されているのかという点もありましたが、本事件では使用許諾契約において「被告の社内における開発・テスト・修理・交換・バックアップ用の目的以外のコピー作成は出来ません」とあるのでOKなんでしょうか。

石製灯籠事件


裁判所:
神戸地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 佐藤明

概要:
原告が輸入しようとした石製灯籠用扉及び石製灯籠について、被告神戸税関六甲アイランド出張所長が被告参加人の特許を侵害するものだ認定しその輸入の差止を行ったことについて、本件特許には無効理由が存在するので認定処分の取消を求めた事件です。

無効理由が存在した場合に税関での認定処分が違法となるかが争われましたが、裁判所は

 (3) しかし,証拠(甲28の1)によれば,本件各物品についての認定手続(関税定率法21条4項)は,前権利者の申立て(同法21条の2第1項)に基づき開始されたことが窺えるが,このように特許権の権利者の申立てに基づき開始された認定手続を経て,当該貨物を同法21条1項5号に定める特許権侵害物品と認定する認定処分(同法21条6項)がなされて輸入が差し止められた場合,当該特許権に無効理由が存在していても,無効審決が確定していない限り,当該貨物を輸入しようとする者が,当該認定処分取消訴訟を提起しても,同特許権に無効理由が存在することを理由に同認定処分の適法性を争えないとすることは,特許権者に過度の保護を与える反面,貨物輸入申告者に不当な不利益を与えるもので,衡平の理念に反するというべきである。税関長のする認定手続申立人に対する供託命令(関税定率法21条の3)によっても,この衡平は回復し難い。また,認定処分取消訴訟の受訴裁判所が,無効審判の帰趨をみた上で判決する運用をすることも考えられるが,そうすると,当該貨物の輸入申告者は,認定処分を争うためには無効審判の申立てをすることを事実上強制されることになるし,認定処分取消訴訟が遅延することも必至である。
 加えて,認定処分制度の趣旨は,特許権者その他の知的財産権者の権利を保護する点にあるが,改正特許法104条の3第1項によれば,いわゆる侵害訴訟において,当該特許が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。そうすると,特許権に無効理由が存在し,侵害訴訟において,特許権者の権利行使が制限されるような場合にまで,税関長が,認定処分を行う必要性も合理性も存しないというべきである。このことは,当該認定手続が特許権者からの申立てにより開始されたか否かにより変わりはない。
 以上の諸点からすると,関税定率法21条1項5号の「特許権」とは,すべての特許権を指すのではなく,無効理由の存在しない特許権を指すものと解するのが相当であり,輸入しようとした貨物が同号にいう特許権侵害物品に当たるとの理由で認定処分を受けた者は,同認定処分取消訴訟において,同認定処分の根拠となった特許権に無効理由が存在することを理由に同認定処分の違法を主張することができると解すべきである。もとより,これは認定処分をした税関長又は国と認定処分の相手方との間において,無効理由の存在が当該認定処分の違法理由となるというにとどまる。

と、キルビー特許事件最判とほぼ同様の理由にて、認定処分を取消しました。

本ケースでは特許権者が被告税関の補助参加人として参加していましたが、侵害被疑者v.国の機関という特許権者が不在なところで特許権の有効性が争われるという、ちょっといびつな訴訟形態になりますので、注意が必要かと思います。

プリンタ用インクタンク事件控訴審

(キャノンインクタンク事件控訴審、インクタンク〈液体収納容器〉事件控訴審)
事件名:
H18. 1.31 知財高裁 平成17(ネ)10021 特許権 民事訴訟事件

裁判所:
知的財産高等裁判所特別部 裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 塚原朋一 中野哲弘 三村量一 長谷川浩二

概要:
判例随想#16で一審を紹介した、プリンタのインクタンクのリサイクルに関する特許侵害事件で、一審では消尽されているとして特許権侵害はないとされましたが、控訴審では一転して特許権侵害だとされました。
知財高裁の合議体で審理された本事件、プリンタカートリッジなどのリサイクル問題として特許界では重要なテーマの一つですので、特許実務に与えるインパクトも大きく、また数多くの論説が発表されるでしょうからそれらを楽しみとしつつ、ここでは気になった点を簡単にまとめていきます。

消尽論について

裁判所は、BBS事件最高裁判決(BBSはベーベーエスと読みます)を引用しつつ、消尽が認められない場合として次の2つの類型を挙げ、いずれかに該当する場合は権利行使をすることが許されるとしています。使い捨てカメラのリサイクルに関する事件や、特許権者が販売した薬剤から有効成分を抽出して製剤化したアシクロビル事件などにおける考え方をまとめたものだと思います。
  • 第1類型:当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合
  • 第2類型:当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合
この考え方は、物についての特許権はもちろんのこと、方法に関する特許権も当てはまるとしており、国外消尽も同様としていますが、詳細は判決文に当たってください。

侵害について

今回、結論が逆転した理由は、上記の消尽論に関する考え方によるものではなく(地裁は、製造方法に関する特許は消尽がないとしましたが、結論的に非侵害となっていますので)、リサイクル業者がインクタンクを洗浄したのかどうかというイ号の構成がポイントになったようです。
本件特許の特許請求の範囲について、その分節A~Lのうちの次のHとKが、洗浄及びインクの再充填にかかわる構成要件です。
  • H 前記圧接部の界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材の毛管力より高く,かつ,
  • K 液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の液体が負圧発生部材収納室内に充填されている
地裁では「特定の態様にインクを再充填して被告製品としたことが新たな生産に当たるものと認めることができない」として特許侵害ではないとされましたが、使用者によりインクタンクが使い切られ、ついでリサイクル業者によって洗浄されることによりこの構成要件H、Kが一旦満たされなくなり、さらにインクを再充填される過程において構成要件H、Kが充足されるようになる、ということのようです。

で、その構成要件H、Kが第2類型のいう「本質的部分」に該当するかどうかなのですが、明細書を読んでいないため技術的な詳細はわかりませんが、裁判所の次の説示を読む限り、怪しいかなと感じます。

 このように,本件発明1は,インクタンクの単位体積当たりのインク収容量を増加させ,安定したインク供給を実現するという従来のインクタンクと同様の作用効果を奏しつつ,併せて,従来の技術にみられた開封時のインク漏れという問題を解決するために,① 負圧発生部材収納室に2個の負圧発生部材を収納し,その界面の毛管力が各負圧発生部材の毛管力よりも高くなるように,これらを相互に圧接させるという構成(この構成は,構成要件A,E~Hによって達成されるが,そのうちで最も技術的に重要なのは,圧接部の界面の毛管力が最も高いものであることという構成要件Hであると認められる。)と,② 一定量のインク,すなわち,液体収納容器がどのような姿勢をとっても,圧接部の界面全体が液体を保持することが可能な量の液体が充填されているという構成(構成要件K)を採用することによって,負圧発生部材の界面に空気の移動を妨げる障壁を形成することとした点に,従来のインクタンクにはみられない技術的思想の中核を成す特徴的部分があると認められる。
 この点は,前記(2)イ(オ)のとおり,本件明細書(甲2)に,「他の姿勢の時にはインク-大気界面Lの水頭と,負圧発生部材界面132Cに含まれるインクの水頭との差は,P2とPSの毛管力差よりさらに小さくなるので,界面132Cは,その姿勢に関わらず,その全域にインクを有した状態を保つことができるようになっている。そのため,いかなる姿勢においても,界面132Cが,仕切り壁と負圧発生部材収納室に収納されるインクと協同して(判決注,「協同」は「協働」の意に解される。),連通部140及び大気導入路150からの液体収納室への気体の導入を阻止する気体導入阻止手段として機能し,負圧発生部材からインクが溢れ出ることはない。」(段落【0048】)と記載されているとおりである。
 また,上記①の構成は充足するが,②の構成を充足しないインクタンク(充填されているインクの量が構成要件Kに規定された量より少ないインクタンク)であっても,インクジェットプリンタにおける印刷に供することは可能であり,インクタンクとしては十分機能するということができる。しかし,そのようなインクタンクは,常に負圧発生部材の界面に空気の移動を妨げる障壁が形成されるものではなく,しかも,充填されたインクの量が少なく,大量の文書等の印刷に供する上で非効率なものとなることが明らかであって,従来のインクタンクよりも作用効果において劣るといわざるを得ない。したがって,本件発明1の目的は,上記①及び②の両者の構成が備わって初めて達成することができるのであるから,構成要件H及びKのいずれもが本件発明1の本質的部分であると解すべきである。

なお、消尽論でいう本質的部分と均等論でいう本質的部分との相違については、よくわかりません。

実務上の指針(気になった点)

以上からわかるのように本事件をさほど検討しているわけではない、とお断りした上で、実務上の指針になるかなと気になった点をまとめていきます。非常に高名なキャノンの特許部隊ですから、リサイクル業者を叩きプリンタのビジネスモデルを守ることについて非常に研究されたのだと思いますが、私も何かつかむことができれば幸甚です。

まず1点目、製造法クレームを入れておくことについて。使い捨てカメラ事件などでは確か製造方法クレームはなく、またあったとしてもリサイクル業者が実施しそうなクレームではなかったのではないかと思います。今回のケースでは、製造方法クレームが侵害有無の分岐点となったわけではありませんしクレーム自体も物のクレームにほぼ相当する製造方法クレームでしたが(だから、物のクレームでの結論と大差がなかった)、製造方法クレームを設けておくことはやはりとても重要なことだと思います。リサイクル業者がやりそうな、穴を開けて中を洗浄しインクを再充填する、というリサイクルに関するクレームもあっていいかもしれません。その場合、リサイクルクレームを設けないほうがよかった、という事態をできるだけ避けるために、インクタンクに関する特許出願とは別に、しかも後願として、できればインクタンクについての前願が公開される直前に出願するのがいいかもしれません。インクタンク自身に特許性があれば、穴を開けて詰め替えるという周知技術をプラスしたクレームも特許されるかと思います。

つぎに発明の本質的部分について。インクを充填することにより効果が生じるように、インクタンクの構成に特徴があったのだと思いますが、さも、インクを充填することがとても重要だと明細書に書いておくことが肝要です。つまり、リサイクル業者は単に詰め替えるだけですが、これがあたかも発明を成り立たせるために重要な役割を担っていると位置づけるのです。このためには、インクの充填により実現される機能をクレームに入れておくことのがよいと思います。機能的な表現で、しかもインクの充填量に左右されるなど、そういう風に普通は充填するけど、充填の仕方によっては充足しないようなクレームにするのがよいと思います。単に再充填したのではなく、技術的範囲に含まれるように再充填しただろ、といった反論が可能になるからです。

図形表示装置事件


裁判所:
東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高部眞規子

概要:
任天堂(以下Y)が平成13年からゲームボーイアドバンス(以下GBA)を製造販売していたところ、訴外データイーストが有する特許第2877779号をGBAが実施するものだとして、損害賠償検討をデータイーストから債権譲渡されたタクトロン(以下X)がYを訴えた事件です。事件番号からして結構時間がかかったようです。
本件特許の請求項は
1.複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと、垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され、指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と、図形発生手段と、を備え、前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得、該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得、該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって、前記図形発生手段は、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置。
というもの(相当する方法クレームが請求項2)で、詳しく読んでいませんが、ぱっと見た限りでは、所定のイメージを回転させて画面に出す、というもののようです。
データイーストがXに債権譲渡した点につき争いがありますが、裁判所は判断していませんので割愛します。Yもよく調べたなと思いますが。
さて、本事件が気になった理由ですが、GBAが対象となった特許侵害事件、ということもありますし、空手道などなつかしのアーケードゲームのあのデータイースト、ということもありますが、裁判所のクレーム解釈の考え方がちょっと気になりました。その部分を次に引用します。
 (2) 本件特許発明の技術的範囲の解釈
ア 特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められ(特許法70条1項),特許請求の範囲の記載の解釈は,発明の詳細な説明の記載及び図面の記載を考慮してこれを行う(同条2項)。また,特許制度は,発明を公開した者に対し,一定の期間その利用についての独占的な権利を付与することによって発明を奨励するとともに,第三者に対しても,この公開された発明を利用する機会を与え,もって産業の発達に寄与しようとするものであるから(最高裁平成10年(受)第153号同11年4月16日第二小法廷判決・民集53巻4号627頁参照),特許権者は,与えられる独占的な権利と引換えに,当業者に当該特許発明を十分に理解させる開示を行う必要がある。それゆえに,特許請求の範囲において記載されている発明は,発明の詳細な説明に記載されて基礎付けられていなければならず(同法36条6項1号),発明の詳細な説明には,当業者が「実施をすることができる程度に明確かつ十分に」記載されていなければならない(同条4項1号)。
 もとより,同法70条2項の規定の趣旨は,限定的意味ではなく,明細書及び図面全体の理解から,特許請求の範囲に記載された発明の内容を把握すべきことをいうものと解される。したがって,特許請求の範囲の記載を正当に解釈するためには,「発明の詳細な説明」に示された具体的技術思想に基づいて解釈すべきである。そして,特許請求の範囲の記載が一義的に明確でない場合に,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に開示されていない技術思想までも含ませることはできない。よって,発明の詳細な説明の記載が不十分な発明に係る特許は,無効理由が存在するか(同法123条1項4号),そうでないとしても,その開示の限度で独占的な権利を与えられるにすぎないと解すべきである。
まず前段ですが、なぜだか後発医薬品の事件が引用されていますが(この引用部分の後は「特許権の存続期間が終了した後は、何人でも自由にその発明を利用することができ、それによって社会一般が広く益されるようにすることが、特許制度の根幹の一つであるということができる」)、気になったのは後半です。このあと次のように続き、
イ 前記(1)アのとおり,本件特許発明は,マップと図形発生部とを用いて図形を回転表示することができる図形表示装置に関するものである。そして,前記(1)イのとおり,従来の技術においては,マップとキャラクタジェネレータを用いて図形を表示することはできたが,図形の回転表示ができなかったことは,本件明細書の【発明を解決しようとする課題】の欄に,「マップとキャラクタジェネレータとを用いる方式は,……図形の回転表示など,当該技術分野の技術者の全く思い及ばないところであり,その手法は未知のものであった」と記載されているとおりである(4欄26行ないし38行【0007】)。 本件明細書には,「この発明は,マップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提供することを目的とする」(4欄39行ないし41行【0008】)と記載されてはいるものの,【課題を解決するための手段】の欄には,前記(1)エのとおり,本件特許発明1及び2の特許請求の範囲そのものが記載されているにすぎず,それ以上に,本件特許請求の範囲を説明する具体的な記述は全くない。本件明細書の大部分は,本件特許発明の実施例の説明が占めており,唯一の実施例が詳細に記載されている。
 そして,本件特許発明の特許請求の範囲の記載には,「第1の読出信号」「第2の読出信号」「読出順序データ」など,それ自体語句として一義的に明確でない用語が含まれ,その図形の回転表示方法が一義的に明確であるとはいえないにもかかわらず,その点について唯一の実施例以外に十分な開示がされているとはいえない。すなわち,本件特許発明について,本件実施例以外の説明では,当業者がマップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を行うこと,すなわち本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に特許請求の範囲が説明されているとはいえない。
 したがって,本件特許発明の特許請求の範囲の記載を解釈するには,本件明細書に記載された唯一の実施例に記載されている回転表示方法を考慮して解釈せざるを得ないというべきである。
そして、実施例に即した解釈を行って、GBAは充足せずに非侵害と判断しています。
「第1の読出信号」などがそれほどよくわからない用語とは思えないのですが、明細書に「当該技術分野の技術者の全く思い及ばないところであり,その手法は未知のものであった」と記載していたことがまずかったのでしょうか。
このような限定解釈は昔のコインロッカー事件だったか、本事件が最初というわけではありませんが、ともあれ本件特許の原出願日は1984年10月2日と非常に古く、すでに満了しているのですが、このような古い出願日を有する特許出願を、その後10年とか経った現在の製品をカバーすべくクレーム補正や分割を行って権利行使しようとするパテントとロールのような方々には納得のいかない事件かもしれませんが、いわゆるフロンティア発明などもこのように解釈されると権利範囲が非常に狭くなってしまいますので、ちょっとどうかなと思いました。


NOVAうさぎ事件


裁判所:
大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次

概要:
英会話学校NOVAのキャラクタ、NOVAうさぎの商品化に関する事件です。XはNOVAうさぎのキャラクタを付したTシャツなどの商品化のためにY(NOVA)と交渉し、契約締結を目指していたのですが、締結に至らなかったため、締結されていたら受けることができたはずの利益の賠償を求めてYを訴えたという事件です。夏のシーズンを前に、締結前に商品が製造・販売されYはそのロイヤリティの受領も行っていたという事情の下、契約書のドラフトでは効力発生が締結時からになっていた、など状況もあって、Yが勝訴しています。
契約締結前に商品が出たことについては、その折々で商品化の個別契約が結ばれていたと判断し、本契約の成立には関係がないと判断されています。キャラクタの商品化はタイムリーに行う必要があり、しっかり契約を結んでからでないとね、とばかりいってはいられない事情もあるでしょうから、難しいですね。

クルマの110番事件


裁判所:
大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山田知司

概要:
Yのサイトのhtmlファイルに、メタタグとして「<meta name="description"content="クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。">」を入れていたためにmsnサーチにてYサイトが「クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。」と表示がされたのは、Xの商標権「中古車(編注;「中古車」の上に「くるま」というふりがなあり)の110番(編注;「110番」の上に「ヒャクトーバン」というふりがなあり)」を侵害するとしてXが損害賠償を求めた事件です。
メタタグに関して、結構昔から問題になりうる類型として有名で、アメリカではプレイボーイだかペントハウスだかいろいろ事件がありましたが、日本では本事件が最初のケースではないかと思います(あまり自信はありませんが)。なお、クルマの119番についても争いになりましたが、これはYサイト中での使用で、この類型はすでに先例が多いですので、割愛します。
さて、メタタグと商標との関係では、商標的使用に当たるのか、が重要な争点ですが、これについて裁判所は
(3)ア なお、被告らは、前記「争点に関する当事者の主張」(1)〔被告らの主張〕ウ(ア)のとおり主張して、本件行為1は本件標章1の商標としての使用ではなく、商標権の侵害にあたらないと主張する。
イ しかしながら、前記「前提となる事実」(2)アのとおり、インターネットの検索サイトの1つであるmsnサーチにおける、被告サイトのトップページの説明は、「クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。」というものとなっており、本件標章1がその冒頭に位置していることに照らせば、本件標章1は、被告会社の役務について、これを表すものとして使用されているものと認めることができる。
ウ また、甲第23号証の6・7によれば、インターネット上に開設するウェブサイトにおいてページを表示するためのhtmlファイルに、「<meta name="description"content="~">」と記載するのは、インターネットの検索サイトにおいて、当該ページの説明として、上記「~」の部分を表示させるようにするためであると認められる。
 そして、一般に、事業者が、その役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は、その役務に関する広告であるということができるから、インターネットの検索サイトにおいて表示される当該ページの説明についても、同様に、その役務に関する広告であるというべきであり、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為にあたるというべきである。
 本件においても、前記「前提となる事実」(2)アのとおり、被告会社は、被告サイトを開設し、そのトップページを表示するためのhtmlファイルに、メタタグとして、「<meta name="description"content="クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。">」と記載し、その結果、インターネットの検索サイトの1つであるmsnサーチにおいて、被告サイトのトップページの説明として、「クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。」との表示がされたのであるから、被告会社は、その役務に関する広告を内容とする情報に、本件標章1を付して、電磁的方法により提供したものと認めることができる。
と判断しました。
  1. 検索サイトにおける紹介文中の標章は商標的に使用されているといえる。
  2. メタタグ「<meta name="description"content="~">」は検索サイトでそのように表示させるものである。
  3. 検索サイトで使用されるようにメタタグを構成することは、電磁的方法により提供する行為に当たる。
ということかなと思います。
本事件は、メタタグに入れておいたこと自体が商標権侵害と認定されたわけではなく、msnがYの知らぬところで(Yが申し込んだのではないのに)これを掲載したためにメタタグが侵害とされたわけですので、間接侵害的(こう言っていいのか心配ですが)な色合いが強い気がします。なお、控訴しているのかどうか知りませんが、YはXから警告を受けてすぐさま削除したこと、容認額が119番とあわせて80万円ほどであることを考えると、控訴していないかもしれませんね。119番はあまり勝算がないような気がしますし。

なお、X商標はこちらを参照。

ヘルプボタン事件II控訴審


裁判所:
知的財産高等裁判所特別部篠原裁判長

概要:
判例随想#16で紹介した事件の控訴審です。
世間的にとっても注目された事件ですので特に論評する点もないのですが、松下特許の出願日1989年前の文献調査は大変だったろうなと、ジャストシステム知財の苦労を忍ばさせていただきました。

エネマグラ意匠事件


裁判所:
東京地方裁判所民事第40部市川裁判長

概要:
エネマグラの意匠しての事件。意匠出願前のXの販売に無効と判断されています。
特にどうという事件ではないのですが。

ファイザー職務発明事件


裁判所:
東京地方裁判所民事第47部髙部裁判長

概要:
ファイザーの元従業員による、職務発明の譲渡の対価請求事件です。
結論として、真の発明者ではないとして請求が退けられています。
別の発明に関するH14. 8.27 東京地裁 平成13(ワ)7196 特許権 民事訴訟事件H15. 8.26 東京高裁 平成14(ネ)5077 特許権 民事訴訟事件でも同様の結論になっており、代理人を変えて望んだ本事件だったようです。

ヨミウリ・オンライン事件控訴審


裁判所:
知的財産高等裁判所第4部塚原裁判長

概要:
判例随想#14で紹介した事件の控訴審です。
地裁同様、著作権侵害は認められませんでしたが、
被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。
そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。
として一般不法行為による損害賠償が認めれました。
差止されたわけではないのですが、Yサイト(http://linetopics.d-a.co.jp/)によると一時休止するとのことです。

選撮見録事件


裁判所:
大阪地方裁判所第26民事部山田裁判長

概要:
集合住宅向けに「選撮見録」という商品名でテレビ放送を対象としたハードディスクビデオレコーダーシステムの販売の申し出を行っているYに対して、X(在阪のテレビ局、毎日放送、朝日放送、讀賣テレビ、テレビ大阪)が、「選撮見録」はXら放送事業者として有する著作隣接権(複製権及び送信可能化権)の侵害にもっぱら用いられるものであると主張して、上記各権利に基づいて、Yに対し、その商品の使用等及び販売の差止め並びに廃棄を請求した事件です。
 「選撮見録」はマンションなどに設置されるハードディスクビデオレコーダで、各部屋から視聴や番組録画予約(この場合、予約した人だけが視聴可能)やできることはもちろんのこと、全番組を自動で録画して後から自由に視聴できるという機能も搭載されているようです。
裁判所は、まず複製権侵害についてはXが立証を十分に行っていない(どの番組が複製された、など)として退け、次に送信可能化権侵害については、「選撮見録」は使用することにより録画された番組を自動公衆送信しうるよう送信可能化していると判断しましたが、その主体はマンション管理者などでありYではないと判断しています。
この判断の下、Yが複製ないし送信可能化の主体ではない場合における販売差止め等の可否についてですが、裁判所は著作権法112条1項の類推適用について説示した後、

(3)著作権法112条1項の類推による差止めについて
 本件においては、①被告商品の販売は、これが行われることによって、その後、ほぼ必然的に原告らの著作隣接権の侵害が生じ、これを回避することが、裁判等によりその侵害行為を直接差し止めることを除けば、社会通念上不可能であり、②裁判等によりその侵害行為を直接差し止めようとしても、侵害が行われようとしている場所や相手方を知ることが非常に困難なため、完全な侵害の排除及び予防は事実上難しく、③他方、被告において被告商品の販売を止めることは、実現が容易であり、④差止めによる不利益は、被告が被告商品の販売利益を失うことに止まるが、被告商品の使用は原告らの放送事業者の複製権及び送信可能化権の侵害を伴うものであるから、その販売は保護すべき利益に乏しい。
 このような場合には、侵害行為の差止め請求との関係では、被告商品の販売行為を直接の侵害行為と同視し、その行為者を「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」と同視することができるから、著作権法112条1項を類推して、その者に対し、その行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。
 イ すなわち、著作隣接権は、創作活動に準じる活動をする者や、著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしている者に、法律が規定する範囲で独占的・排他的な支配権を与えるものであり、その享受のために、権利者に、妨害の排除や予防を直接請求する権利を与えたものである。ここで、その行為が行われることによって、その後、ほぼ必然的に権利侵害の結果が生じ、その回避が非常に困難である行為は、権利を直接侵害する行為ではないものの、結果としてほぼ確実に権利侵害の結果を惹起するものであるから、その結果発生まで一定の時間や他者の関与が必要になる場合があるとしても、権利侵害の発生という結果から見れば、直接の権利侵害行為と同視することができるものである。
 ところで、物権的請求権においては、その行使の具体的方法が物権侵害の種類・態様に応じて多様であって、例えば、妨害排除請求権及び妨害予防請求権の行使として具体的行為の差止めを求め得る相手方は、必ずしも妨害行為を主体的に行った者に限定されるものではない。このこととの対比において、上記著作隣接権の性質を考慮すれば、上記のような行為については、その侵害態様に鑑み、差止めの請求を認めることが合理的である。
 また、著作権法は、他の法益との衝突の可能性を考慮して、著作隣接権侵害を発生させる行為について、差止めの対象を一定の範囲に限定し、それ以外のものは、行為者の故意過失等を要件として不法行為として損害賠償の対象とするに止めているものと解される。しかし、本件においては、前示のとおり、差し止められるべき行為は、保護すべき利益に乏しく、かつ、その行為を被告が止めることも容易であるから、差止めによって損なわれる法益があるものとは認めがたい。したがって、本件においては、著作権法において差止めの対象が限定されている趣旨にも反せず、著作権法112条1項の規定を類推するに適合したものということができる。
 ウ なお、特許法等と異なり、著作権法においては、上記のような行為は、権利侵害行為とみなす旨の、いわゆる間接侵害の規定は存在しない。
 しかしながら、間接侵害の規定は、そのような行為を、単に差止めの対象行為とするだけではなく、権利侵害行為として法律上擬制し、直接の権利侵害行為と同一の規律に服せしめるものである。
 したがって、間接侵害の規定がないことは、このような行為が差止めの対象行為となると解することの妨げとはならない。
 エ 以上の次第で、原告らは、原告らの放送事業者としての著作隣接権である複製権及び送信可能化権に基づいて、被告に対し、上記権利の侵害の予防のために、被告商品の販売行為の差止めを請求することができるものというべきである。
として、差止を容認しています。
ところで、主文では、「被告は、原告株式会社毎日放送・・・に対し、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の各府県内の集合住宅向けに、原告テレビ大阪株式会社に対し、大阪府内の集合住宅向けに、それぞれ、別紙物件目録記載の商品を販売してはならない。」と原告ごとに差止の地域が異なっているのですが、実質的に意味があるのでしょうか。

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