「ギンガ その12」(2008/02/12 (火) 16:37:47) の最新版変更点
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「大丈夫か、のび太ぁ!?」
ジャイアンとスネオが暗い制御室に入ってくる。
「ナナシ! 今度こそは負けないぞ、ハクタイでの怨み……」
「待てスネオ……様子がおかしい、まさかとは思うが……のび太、お前?」
「……うん、勝ったよ。一応はね」
――――
あの瞬間、ラグラージが攻撃していればカイリューだけではなくのび太にまで攻撃が加わる。
それが分かった時、背筋を冷たいの風が撫でた。
叫んだら負ける。それが分かっていたのになぜか叫んだ。
無意識にこう叫んだ。
『やめろ、ラグラージ!!』
俺の指示を聞き、やがて減速し、その場に留まるラグラージ。
まるでその指示が出るのが分かっていたように―――
そして、体勢を立て直したカイリューの攻撃がラグラージを襲い
ラグラージは静かにその場に横たわった。
----
オレガマケタ――?
これでは指令を……ギンガ団の野望を果たすことができないじゃないか。
嘘だ……嘘だ……嘘だっ!
脱力し、その場に座り込む。仮面が乾いた音をたてて顔から剥がれ落ちる。
もう終わりだ……俺の人生も……なにもかも……
「ナナシ君……」
のび太が俺の元にやってくる。
「…………」
「ラグラージを……ボールに戻してあげたら?いつまでも放置されてたら可哀想だよ」
そう言われラグラージをボールに戻す。
「今の勝負……確かに形式上は僕の勝ちだったけど、実際は僕が負けていた
ナナシ君があの時攻撃をやめてくれたから、僕は勝てたんだ
もし攻撃が続行されてたら……きっと僕は大怪我を負ってただろうね」
『……それでも駄目なんだよ、こんなところで負けたらもう終わりなんだよ!
もう後戻りはできないんだよ! だから―――』
『そんなことないよ!!』
----
俺の声をのび太の叫びが掻き消す。
『君はまだポケモンや人に対する優しさが残ってるじゃないか!
実はキッサキジムで君の戦いを見てたんだ……
あの時君はまだ戦えるルカリオを戻したよね?
波動弾でマンムーを攻撃すれば、かなりのダメージを与えられたのに……
ナナシ君は勝利よりも、ポケモンの安全を優先した
それに、さっきだって攻撃をやめたのは僕を思ってでしょ?
他の団員や幹部達とは違う! だからまだやり直せるんだ!』
「でも俺はギンガ団総裁アカギの息子なんだよ……次期総裁になるかもしれないんだよ……」
「まだ……『次期』総裁になる『かも』しれないでしょ? それに僕はそんなの気にしないから」
のび太が僅かに屈み、俺の顔をみつめる。
「だからさ……僕らと一緒に来ない?」
俺の方に手が伸びてくる。それは力弱く小さな手。
その手を見た途端、目からは温かい物が零れ落ちる。
―――そして、俺はその手を握り立ち上がった。
ナナシ
ルカリオLv51、クロバットLv47、ロトムLv45、
ラグラージLv48、グレイシアLv45
のび太
カイリューLv55、ライチュウ、Lv47、アゲハントLv41、
ムウマージLv42、エテボースLv44
----
「のび太、このカードを使ってアグノム達を解放してやってくれ」
そう言って自分のカードキーを渡す。受け取ったのび太は『分かった』と言いカプセルの方へ駆けていった。
さて……俺も一仕事やるか。
制御室のPCを起動させる。これでワープパネルのロックを解除するつもりだ。
「おい、ナナシ!」
名前を呼ばれ後ろを振り向く。そこにはジャイアンとスネオが居た。
「俺たちは何すりゃいいんだよ、ずっと待ってるなんてごめんだぜ!」
「えーと……そうだ、この部屋の隣にアイテム貯蔵庫があるから
使えそうなアイテムをたくさん持ってきてくれ」
「おぉ、任せろ! さぁ行くぞ、スネオ」
スネオは返事をせず、俯いたままだ。
「なにやってんだよスネオ、早くしろよ!」
「……今だけは強力してやる、だがこれが終わったら―――」
「なに昔のことをグダグダ言ってんだよ! これだからお前は……」
「分かってるさ、俺は責任を取らなければならない。それは理解している」
「そ、そうか……じゃあ行ってくるぜ!」
「あ…ちょっと待ってくれ」
俺が呼び止めるとジャイアンは振り向く。
「静香はどうしたんだ? ダークライの時は居たのに」
「あぁ……それがなな、ここに来る直前に突然倒れちまったんだ。」
突然倒れる? 確かキッサキシティに居たときもそんなこと言ってたよな……
なんか嫌な感じがする。だがギンガ団内ではそんなこと聞いたこと無い。
その後ジャイアンは走り去っていった。まだ謎が多いな……
----
「アグノム達を解放してきたよ! 三匹とも出してあげたらどこかに行っちゃったけど……」
「そうか、ありがとう。こっちももうすぐ……できた!」
ワープパネルのロックを解除できた。これでワープパネルを永続的に使用できる。
「こっちも持てる限りの荷物は持ったぜ!」
ジャイアンとスネオが、両手にたくさんの道具を抱えて部屋の中に入る。
「準備は整ったな……そこのワープパネルを経由していけばテンガン山へ行ける
ポケモンを回復させたら向かおう、回復装置ならそこにある」
のび太達は回復装置のところに並んでいる。順番で揉めている様だ。
俺は皆が終わったら―――
「きゃううん」
「うわぁ!?」
突然目の前に現れた生物に腰を抜かして、椅子から転げ落ちる。
こいつは……捕らえられていた伝説のポケモンの一体のエムリットだ。
やばい、俺に対して怒ってるのかもしれない。
「ごめん、俺達が君らにやってはいけないことをやってしまったのは分かってる
でも俺はそれを償いたい、だから許してくれ、頼む」
頭を下げる。しかしエムリットは聞いていなかったみたいだ。
……しょうがないか。謝罪する気持ちがあるなら態度で示すしかない。
俺は立ち上がり、回復装置の方へと歩いていった。
……がエムリットは俺から離れようとしない。ずっと顔の周りを浮遊している。
まさかとは思うが……俺に付いて行きたいのか?
よく分からんが危害を加えているわけでも無いし、そのままにしておこう。
----
手持ちの五体のポケモンを全て回復させる。これで全ての準備が整った。
「そろそろ行こう、早くしないと伝説のポケモン達が捕らえられて―――」
「まさかあなただったとはね、のび太君の言っていた新しい仲間って」
背後から発せられる声に反応し、振り向く。
そこに居たのは、かつて俺を二度も敗北に陥れた人間、シロナだ。
「………」
「深くは問わないわ。心を入れ替えて仲間になってくれたんですもの。喜んで歓迎するわ」
シロナはニコッと微笑む。それを見て俺は視線をワープパネルに向けた。
「よし! それじゃぁ行くぞ!」
ジャイアンの大声と共にワープパネルへと突撃した。
――隠し部屋
陽光が全く射さない薄暗い部屋。壊れかけの電灯一つだけが部屋を照らしている。
「汚ねぇ部屋だな……あのドアがテンガン山に続いているのか?」
ジャイアンの指差す先には、壁にはめ込まれたような扉がある。
「そうみたいだな、おそらく進んだ先はもうテンガン山だ」
「ギンガ団の技術がここまで進んでいたなんて……想定外だわ」
「それじゃあ開けるぞ! 皆突撃だぁ!」
ジャイアンが扉を開けると共に入っていく。それにスネオ、シロナと続いた。
よし俺も……ん?
「なにやってるんだよ。のび太? さっさと行くぞ」
「あ…うん、分かってる」
のび太は扉を凝視しながら潜っていった。最後に俺が入る。
あの扉になにかあったんだろうか……?
----
―――テンガン山麓
周囲には数十人の団員が居る。ここの警備を任されていたのか。
「なんやお前ら!? ワイらに逆らうって言うのなら容赦せぇへんぞ!!」
「ここは私に任せてちょうだい、あなたたちは先に行って」
「分かりました、シロナさん」
のび太達はそう言うと入り口に入っていった。
「そうはさせへんで! 行け、ズガイドス!」
「ヒョヒョヒョ、行けぇドクケイル!」
ズガイドスとドクケイル、他にも数十体のポケモンが姿を表す
「行きなさい……マニューラ、ミロカロス!」
―――テンガン山中腹
「シロナさん大丈夫かな、ジャイアン?」
「安心しろ、シロナの姉ちゃんは強い。あんな雑魚共には負けたりはしないさ」
「そうだよ、それよりこっちの心配をした方がいい。ホラ、また来たよ!」
俺たちの行く末を塞ぐのは、やはり数人の団員。
「死ねェ~」「餓鬼ごときにやられる俺様じゃないぜぇ!」
それぞれ叫びながらポケモンを繰り出す。
「雑魚に用は無ぇんだよ! 地震だ、ドダイトス!」
ジャイアンの出したドダイトスの一撃で、団員達のポケモンは全滅する。
「ま、待て! 俺の出世……」
「うるさい、寝てろ」
クロバットに催眠術を命じる。それが命中した団員達は次々と倒れていった。
----
「ハァ……ハァ……もうそろそろ頂上かな?」
息が切れているのび太。合計で五十人以上は団員を倒してきたな。
だがある一定を登りきってから、急に団員の姿が見えなくなった。
そして、この空間だけはやけに他よりも広い。これは……
「やはりお前らだったか、我々に逆らう愚かな奴らは」
チッ……やはりか。
岩場の影から出てきたのは、マーズ、ジュピター、サターンの三人。
「エイチ湖では色々お世話になったわね、ゴリラ君」
「あたしもあの狐のぼうやとは何度か会ったわね、不愉快なことに」
マーズ、ジュピターが二人を挑発する。二人の顔には苛立ちの表情が見える。
「……まさかお前がギンガ団を裏切って向こうについているとはな。ナナシ」
サターンがこちらを睨んでくる。俺は目を逸らさず睨み返した。
するとサターンは自ら目を逸らし、優越感に浸ったような表情を見せる。
「餓鬼にはアカギ様の理想など理解できるはずもないってことか……」
言いたい放題言ってくれる。ここでケリをつけてやる。
俺がボールを構えると、のび太が手を伸ばし静止した。
「ここは僕らが食い止めるよ、だからナナシ君は先に進むんだ」
そう言い、のび太は宙にボールを放り投げた。
それに合わせ、他の人間も次々とモンスターボールを投げる。
「僕らは負けない、だから進むんだ!」
一瞬戸惑ったが、のび太の言葉を信じ、俺は前へと進んだ。
----
段々と登る感覚が短くなっていく。そろそろ頂上につくか?
周囲には誰も居ない。肌を襲う寒さと、土臭さ
そして、下の階層から発せられる爆音が周囲を包んでいる。
のび太達が心配になるが、あの言葉を思い出し目線を前へと戻す。
段々と山内に明かりを感じるようになる。もうすぐ頂上だ。
……ついに着いた。心臓の鼓動がこれ以上に無いというほど早い感覚で刻まれている。
足が震える。頭が痛い。
もう頂上は目と鼻の先だ、落ち着け。
怖いのか?いや怖くなんかは―――怖い。
もしかしたら殺されてしまうかもしれない。駄目だ、前へ進めない。
しゃがみ込む。俺は……ここまでなのか?
動け、震えるな、立ち上がれ俺の足。
体中の汗がどんどんと冷えていく。誰か……俺はどうすればいいんだ?
恐怖で目の前が真っ暗になったその時、エムリットが俺の目前に現れる。
……俺を助けてくれるのか?……そんなわけ無いか。
分かっている。俺自信で前に進まなければいけないことを。
自分自身の行動にけじめをつけ、皆へ謝罪の気持ちを示す。
だけど勇気が足りない……だから俺の傍に居てくれ。
そう心の中で念じていると、エムリットは笑顔を浮かべ、縦に首を振った。
「ありがとう、それじゃあ着いてきてくれ……行くぞ!」
俺は立ち上がり、光の射す出口へ歩み始めた。
ナナシ
ルカリオLv52、クロバットLv49、ロトムLv47、
ラグラージLv50、グレイシアLv48
----
―――槍の柱
驚くほどに静かな空間、神秘的という言葉が最も似合っている。
そして、その空間の中心に立ちはだかっている男が一人―――俺の父親、アカギだ。
「いいところに来たな……今これから二体のポケモンの封印を解く
ついに『私の』野望が叶うのだよ、その瞬間を一緒に見物しようではないか」
「…………」
「エムリットたちを開放したのか? まぁいい、既に赤い鎖は完成している」
「…………」
「……フン、今から封印を解くからそこで見てろ」
父さんは金剛玉と白玉を取り出し、天に掲げる。
「これで私の世界は―――」
「ルカリオ、神速だ!」
ボールを投げルカリオを出す、そして父さんに体当たりを食らわした。
それが命中した父さんは、短い悲鳴を上げ倒れこんだ。
「グッ……ナナシ…貴様、まさか…」
ゆっくりと立ち上がり、落とした二つの宝玉を拾う。そしてこちらを睨みつける。
「分かっているのか!? ギンガ団を裏切ったらお前と言えど生かしてはおかんぞぉ!」
大声で怒鳴る、その姿を見て足が竦む。だが立ち止まるわけにはいかない。
『どいつだ! 誰に唆されたッ!? シロナか!? それとも餓鬼共か!? 答えろぉ!!』
その姿からは狂気すら感じられる。今までは見たことの無いような形相だ。
『……誰でもない、俺自身で決めたんだ!』
----
「なん……だと? どういうことだ? 説明しろっ!」
不意を突かれた。そういう表情をしている。
「確かにきっかけを作ったのはのび太たちだ……だけどな……
人のポケモンを殺したり、目的のために環境や生態系を破壊したり……
俺はそんなこと望んでいない! 昔言ってたよな? 『私は誰もが安心して暮らせる世界を作る』って!
だがな…そんなことをしている時点で、誰もが安心して暮らせる世界なんてできやしないんだ!」
今までシンオウを旅して心の隅に追いやっていた気持ちを吐き出す。
今の俺なら、シロナに言われたあの言葉『今のあなたじゃ私に勝つことなんてできない』の意味が分かるかもしれない。
「それが旅をして出たお前の結論か……どこで道を踏み違えた?
ここまで完璧だった、なぜだ……なぜだぁああぁあぁぁああぁああ!!?」
頭を抱え発狂したように叫ぶ。もう迷わない。
『今ここに宣言する……俺はギンガ団を退団する!!』
----
『今ここに宣言する……俺はギンガ団を退団する!!』
言ってしまった。だが後悔はしていない。
これは俺が選択した道だ。その道を最後まで突き進む。
「くくく……封印を解くまえに一つやらねばならないことがあるようだな
裏切り者の粛清……この場で貴様を抹殺してやるっ!」
ついに来る。俺はモンスターボールを構えた。
「なにか勘違いしてるようだな…私はポケモンを使って貴様を抹殺などしない
これで貴様の仲間諸共消し飛ばしてくれるわ!」
いつの間にか、その右手にはスイッチの様な物が握られていた。
思わず背筋が凍る。まさか―――!?
『死ねェェェェェェーーーーー』
スイッチを押す。すると巨大な爆音と同時に地面が振動する。
反射的に下を向く。
「な…なんてことを……」
「万が一のために爆弾をセットしておいたが、こんなに上手く使用できるとはな……
このまま山諸共崩れ去るがいいわ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ」
父さんはドンカラスを出し、この場から飛び去っていった。
----
「くそっ……」
元来た道を戻り全力疾走する。辺りには瓦礫や岩が散乱している。
走る、走る。体が悲鳴を上げているがそれどころではない。
このままでは死んでしまう……皆が!
前にはまた障害物、それは炎に包まれている。
それをグレイシアが氷結させ、破壊する。
もう何度同じ行動を繰り返しただろうか―?
一向に辿り着かない。自分がどれだけ長い道のりを走ったか改めて感じさせられる。
ついに体力が限界となり、地面に片足立てて座り込んでしまった。
『くそぉ! 俺たちをここから出しやがれ!』
これはジャイアンの声? 割と近くから聞こえた。
痛む足を立て、三度全力疾走をする。
すると、すぐにのび太たちと別れた場所が視界に入ってきた。
----
「ハァ…ハァ…大丈夫か!?」
のび太達の前に姿を見せる。そこにはもうギンガ団三幹部は居なかった。
「とりあえずはな……だがかなりヤバい事態だ」
そう言われ、入り口にある大量の岩に目をやる。
そう、この空間は大量の岩に塞がれ、脱出することができなくなっているのだ。
「下手に崩すとその空間自体が崩壊するかもしれない、だから……」
思わず目を逸らす、こんな時にも俺は役に立てないのか……?
「おい…『あの作戦』は成功したか?」
スネオが俺の前に現れる。
「あぁ…お前のカクレオンのおかげだよ、二つの宝玉を奪えた」
リュックの中から二つの宝玉を取り出し、皆に見せる。
先ほど対峙しているときに、景色に溶け込んだカクレオンを父さんに近づかせ
『泥棒』を使い宝玉を奪わせていたのだ。
「これで奴らの野望はなんとか阻止できたな、だがここから脱出できなきゃ僕達も……」
ここは時期に崩壊するだろう。長居することはできない。
「そういえばギンガ団の幹部たちは?」
「爆発があった直後、フーディンのテレポートで脱出してったぜ…」
テレポートか……最初からそれが使えたら苦労しないんだが
テレポートが使えるポケモンは、誰も持ってないんだよな。
頭を抱えようとすると、ジャイアンがぼそっと呟く。
「なぁ……そこの岩を破壊してくれないか?」
----
「なぁジャイアン、破壊したら……分かってるのか?」
静かに…ゆっくりと発言する。
「分かってるさ、だがここを突破しなけりゃ何も出来ない
どっちみち時間がくればここは崩壊しちまうんだ」
……確かにそうだ。今も微弱な揺れと音が俺たちを襲っている。
「誰かの助けを待つなんて甘いことは言ってられねぇ……俺たち自身でここを脱出しよう
だが俺たちのポケモンは幹部との戦いで敗れたり、火を消したりして
皆もう動けねぇんだ……死ぬのを待つくらいなら先に進んだ方がマシだ
それに誰もお前を恨んだりなんかしねぇ……だから頼む!」
ジャイアンが頭を下げる。それもさっきまで敵だった人間に。
「……分かった、行け、ルカリオ、ラグラージ!」
俺のポケモンの中でも、とくに攻撃力の高い二体を選択する。
「あの岩を破壊するんだ、ルカリオは波動弾、ラグラージは冷凍パンチ!」
俺の指示を受けた二体は岩に攻撃を仕掛ける。
揺れがどんどんと激しくなっていき、恐怖心を煽られるが、もうやるしかない。
「二体を援護しろ! クロバット、ロトム、グレイシア!」
俺は全てのポケモンを出し、岩を攻撃させる。
岩は段々と崩れていくが、最後の一撃が足りない。
「くそっ……もう駄目なのか……?」
下を向こうとすると、俺の肩に触れる者が一人……いや一匹。
「エムリット……? 俺たちを助けてくれるのか?」
返事は出さないものの、既に攻撃態勢は整えたという表情をしていた。
「じゃあ頼むぞ……エムリット、岩を破壊してくれ!」
俺の指示を聞いたエムリットが念力波を繰り出す。それで岩は完全に崩壊した。
----
「やった……ついに崩れた」
目の前にポッカリ開いた穴を見る。
「皆ありがとう……ボールに戻ってくれ」
五体のポケモンはそれぞれボールに戻っていく。後はひたすら降りるだけだ。
「やったね、ナナシ君! 君なら出来ると思ったよ」
「あ…ありがとう」
顔がにやける。皆の役に立てたのが嬉しい。
「よし、さっさと降りるぞ! もう時間が無ぇ!」
ジャイアンの一喝で現実に戻る。
「ああ分かった、早く―――」
エムリットが青い顔をしている。なんでだ? 岩は破壊したのに……
『うわぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁあぁぁあああ!!』
のび太の悲鳴で天上を見上げる。
そこには、轟音と共に俺たちを襲おうとする大量の岩があった―――
ナナシ
ルカリオLv52、クロバットLv49、ロトムLv47、
ラグラージLv50、グレイシアLv48
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[[前へ>ギンガ その11]]
「大丈夫か、のび太ぁ!?」
ジャイアンとスネオが暗い制御室に入ってくる。
「ナナシ! 今度こそは負けないぞ、ハクタイでの怨み……」
「待てスネオ……様子がおかしい、まさかとは思うが……のび太、お前?」
「……うん、勝ったよ。一応はね」
――――
あの瞬間、ラグラージが攻撃していればカイリューだけではなくのび太にまで攻撃が加わる。
それが分かった時、背筋を冷たいの風が撫でた。
叫んだら負ける。それが分かっていたのになぜか叫んだ。
無意識にこう叫んだ。
『やめろ、ラグラージ!!』
俺の指示を聞き、やがて減速し、その場に留まるラグラージ。
まるでその指示が出るのが分かっていたように―――
そして、体勢を立て直したカイリューの攻撃がラグラージを襲い
ラグラージは静かにその場に横たわった。
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オレガマケタ――?
これでは指令を……ギンガ団の野望を果たすことができないじゃないか。
嘘だ……嘘だ……嘘だっ!
脱力し、その場に座り込む。仮面が乾いた音をたてて顔から剥がれ落ちる。
もう終わりだ……俺の人生も……なにもかも……
「ナナシ君……」
のび太が俺の元にやってくる。
「…………」
「ラグラージを……ボールに戻してあげたら?いつまでも放置されてたら可哀想だよ」
そう言われラグラージをボールに戻す。
「今の勝負……確かに形式上は僕の勝ちだったけど、実際は僕が負けていた
ナナシ君があの時攻撃をやめてくれたから、僕は勝てたんだ
もし攻撃が続行されてたら……きっと僕は大怪我を負ってただろうね」
『……それでも駄目なんだよ、こんなところで負けたらもう終わりなんだよ!
もう後戻りはできないんだよ! だから―――』
『そんなことないよ!!』
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俺の声をのび太の叫びが掻き消す。
『君はまだポケモンや人に対する優しさが残ってるじゃないか!
実はキッサキジムで君の戦いを見てたんだ……
あの時君はまだ戦えるルカリオを戻したよね?
波動弾でマンムーを攻撃すれば、かなりのダメージを与えられたのに……
ナナシ君は勝利よりも、ポケモンの安全を優先した
それに、さっきだって攻撃をやめたのは僕を思ってでしょ?
他の団員や幹部達とは違う! だからまだやり直せるんだ!』
「でも俺はギンガ団総裁アカギの息子なんだよ……次期総裁になるかもしれないんだよ……」
「まだ……『次期』総裁になる『かも』しれないでしょ? それに僕はそんなの気にしないから」
のび太が僅かに屈み、俺の顔をみつめる。
「だからさ……僕らと一緒に来ない?」
俺の方に手が伸びてくる。それは力弱く小さな手。
その手を見た途端、目からは温かい物が零れ落ちる。
―――そして、俺はその手を握り立ち上がった。
ナナシ
ルカリオLv51、クロバットLv47、ロトムLv45、
ラグラージLv48、グレイシアLv45
のび太
カイリューLv55、ライチュウ、Lv47、アゲハントLv41、
ムウマージLv42、エテボースLv44
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「のび太、このカードを使ってアグノム達を解放してやってくれ」
そう言って自分のカードキーを渡す。受け取ったのび太は『分かった』と言いカプセルの方へ駆けていった。
さて……俺も一仕事やるか。
制御室のPCを起動させる。これでワープパネルのロックを解除するつもりだ。
「おい、ナナシ!」
名前を呼ばれ後ろを振り向く。そこにはジャイアンとスネオが居た。
「俺たちは何すりゃいいんだよ、ずっと待ってるなんてごめんだぜ!」
「えーと……そうだ、この部屋の隣にアイテム貯蔵庫があるから
使えそうなアイテムをたくさん持ってきてくれ」
「おぉ、任せろ! さぁ行くぞ、スネオ」
スネオは返事をせず、俯いたままだ。
「なにやってんだよスネオ、早くしろよ!」
「……今だけは強力してやる、だがこれが終わったら―――」
「なに昔のことをグダグダ言ってんだよ! これだからお前は……」
「分かってるさ、俺は責任を取らなければならない。それは理解している」
「そ、そうか……じゃあ行ってくるぜ!」
「あ…ちょっと待ってくれ」
俺が呼び止めるとジャイアンは振り向く。
「静香はどうしたんだ? ダークライの時は居たのに」
「あぁ……それがなな、ここに来る直前に突然倒れちまったんだ。」
突然倒れる? 確かキッサキシティに居たときもそんなこと言ってたよな……
なんか嫌な感じがする。だがギンガ団内ではそんなこと聞いたこと無い。
その後ジャイアンは走り去っていった。まだ謎が多いな……
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「アグノム達を解放してきたよ! 三匹とも出してあげたらどこかに行っちゃったけど……」
「そうか、ありがとう。こっちももうすぐ……できた!」
ワープパネルのロックを解除できた。これでワープパネルを永続的に使用できる。
「こっちも持てる限りの荷物は持ったぜ!」
ジャイアンとスネオが、両手にたくさんの道具を抱えて部屋の中に入る。
「準備は整ったな……そこのワープパネルを経由していけばテンガン山へ行ける
ポケモンを回復させたら向かおう、回復装置ならそこにある」
のび太達は回復装置のところに並んでいる。順番で揉めている様だ。
俺は皆が終わったら―――
「きゃううん」
「うわぁ!?」
突然目の前に現れた生物に腰を抜かして、椅子から転げ落ちる。
こいつは……捕らえられていた伝説のポケモンの一体のエムリットだ。
やばい、俺に対して怒ってるのかもしれない。
「ごめん、俺達が君らにやってはいけないことをやってしまったのは分かってる
でも俺はそれを償いたい、だから許してくれ、頼む」
頭を下げる。しかしエムリットは聞いていなかったみたいだ。
……しょうがないか。謝罪する気持ちがあるなら態度で示すしかない。
俺は立ち上がり、回復装置の方へと歩いていった。
……がエムリットは俺から離れようとしない。ずっと顔の周りを浮遊している。
まさかとは思うが……俺に付いて行きたいのか?
よく分からんが危害を加えているわけでも無いし、そのままにしておこう。
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手持ちの五体のポケモンを全て回復させる。これで全ての準備が整った。
「そろそろ行こう、早くしないと伝説のポケモン達が捕らえられて―――」
「まさかあなただったとはね、のび太君の言っていた新しい仲間って」
背後から発せられる声に反応し、振り向く。
そこに居たのは、かつて俺を二度も敗北に陥れた人間、シロナだ。
「………」
「深くは問わないわ。心を入れ替えて仲間になってくれたんですもの。喜んで歓迎するわ」
シロナはニコッと微笑む。それを見て俺は視線をワープパネルに向けた。
「よし! それじゃぁ行くぞ!」
ジャイアンの大声と共にワープパネルへと突撃した。
――隠し部屋
陽光が全く射さない薄暗い部屋。壊れかけの電灯一つだけが部屋を照らしている。
「汚ねぇ部屋だな……あのドアがテンガン山に続いているのか?」
ジャイアンの指差す先には、壁にはめ込まれたような扉がある。
「そうみたいだな、おそらく進んだ先はもうテンガン山だ」
「ギンガ団の技術がここまで進んでいたなんて……想定外だわ」
「それじゃあ開けるぞ! 皆突撃だぁ!」
ジャイアンが扉を開けると共に入っていく。それにスネオ、シロナと続いた。
よし俺も……ん?
「なにやってるんだよ。のび太? さっさと行くぞ」
「あ…うん、分かってる」
のび太は扉を凝視しながら潜っていった。最後に俺が入る。
あの扉になにかあったんだろうか……?
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―――テンガン山麓
周囲には数十人の団員が居る。ここの警備を任されていたのか。
「なんやお前ら!? ワイらに逆らうって言うのなら容赦せぇへんぞ!!」
「ここは私に任せてちょうだい、あなたたちは先に行って」
「分かりました、シロナさん」
のび太達はそう言うと入り口に入っていった。
「そうはさせへんで! 行け、ズガイドス!」
「ヒョヒョヒョ、行けぇドクケイル!」
ズガイドスとドクケイル、他にも数十体のポケモンが姿を表す
「行きなさい……マニューラ、ミロカロス!」
―――テンガン山中腹
「シロナさん大丈夫かな、ジャイアン?」
「安心しろ、シロナの姉ちゃんは強い。あんな雑魚共には負けたりはしないさ」
「そうだよ、それよりこっちの心配をした方がいい。ホラ、また来たよ!」
俺たちの行く末を塞ぐのは、やはり数人の団員。
「死ねェ~」「餓鬼ごときにやられる俺様じゃないぜぇ!」
それぞれ叫びながらポケモンを繰り出す。
「雑魚に用は無ぇんだよ! 地震だ、ドダイトス!」
ジャイアンの出したドダイトスの一撃で、団員達のポケモンは全滅する。
「ま、待て! 俺の出世……」
「うるさい、寝てろ」
クロバットに催眠術を命じる。それが命中した団員達は次々と倒れていった。
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「ハァ……ハァ……もうそろそろ頂上かな?」
息が切れているのび太。合計で五十人以上は団員を倒してきたな。
だがある一定を登りきってから、急に団員の姿が見えなくなった。
そして、この空間だけはやけに他よりも広い。これは……
「やはりお前らだったか、我々に逆らう愚かな奴らは」
チッ……やはりか。
岩場の影から出てきたのは、マーズ、ジュピター、サターンの三人。
「エイチ湖では色々お世話になったわね」
「あたしもあのせこそうな子とは何度か会ったわね、不愉快なことに」
マーズ、ジュピターが二人を挑発する。二人の顔には苛立ちの表情が見える。
「……まさかお前がギンガ団を裏切って向こうについているとはな。ナナシ」
サターンがこちらを睨んでくる。俺は目を逸らさず睨み返した。
するとサターンは自ら目を逸らし、優越感に浸ったような表情を見せる。
「餓鬼にはアカギ様の理想など理解できるはずもないってことか……」
言いたい放題言ってくれる。ここでケリをつけてやる。
俺がボールを構えると、のび太が手を伸ばし静止した。
「ここは僕らが食い止めるよ、だからナナシ君は先に進むんだ」
そう言い、のび太は宙にボールを放り投げた。
それに合わせ、他の人間も次々とモンスターボールを投げる。
「僕らは負けない、だから進むんだ!」
一瞬戸惑ったが、のび太の言葉を信じ、俺は前へと進んだ。
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段々と登る感覚が短くなっていく。そろそろ頂上につくか?
周囲には誰も居ない。肌を襲う寒さと、土臭さ
そして、下の階層から発せられる爆音が周囲を包んでいる。
のび太達が心配になるが、あの言葉を思い出し目線を前へと戻す。
段々と山内に明かりを感じるようになる。もうすぐ頂上だ。
……ついに着いた。心臓の鼓動がこれ以上に無いというほど早い感覚で刻まれている。
足が震える。頭が痛い。
もう頂上は目と鼻の先だ、落ち着け。
怖いのか?いや怖くなんかは―――怖い。
もしかしたら殺されてしまうかもしれない。駄目だ、前へ進めない。
しゃがみ込む。俺は……ここまでなのか?
動け、震えるな、立ち上がれ俺の足。
体中の汗がどんどんと冷えていく。誰か……俺はどうすればいいんだ?
恐怖で目の前が真っ暗になったその時、エムリットが俺の目前に現れる。
……俺を助けてくれるのか?……そんなわけ無いか。
分かっている。俺自信で前に進まなければいけないことを。
自分自身の行動にけじめをつけ、皆へ謝罪の気持ちを示す。
だけど勇気が足りない……だから俺の傍に居てくれ。
そう心の中で念じていると、エムリットは笑顔を浮かべ、縦に首を振った。
「ありがとう、それじゃあ着いてきてくれ……行くぞ!」
俺は立ち上がり、光の射す出口へ歩み始めた。
ナナシ
ルカリオLv52、クロバットLv49、ロトムLv47、
ラグラージLv50、グレイシアLv48
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―――槍の柱
驚くほどに静かな空間、神秘的という言葉が最も似合っている。
そして、その空間の中心に立ちはだかっている男が一人―――俺の父親、アカギだ。
「いいところに来たな……今これから二体のポケモンの封印を解く
ついに『私の』野望が叶うのだよ、その瞬間を一緒に見物しようではないか」
「…………」
「エムリットたちを開放したのか? まぁいい、既に赤い鎖は完成している」
「…………」
「……フン、今から封印を解くからそこで見てろ」
父さんは金剛玉と白玉を取り出し、天に掲げる。
「これで私の世界は―――」
「ルカリオ、神速だ!」
ボールを投げルカリオを出す、そして父さんに体当たりを食らわした。
それが命中した父さんは、短い悲鳴を上げ倒れこんだ。
「グッ……ナナシ…貴様、まさか…」
ゆっくりと立ち上がり、落とした二つの宝玉を拾う。そしてこちらを睨みつける。
「分かっているのか!? ギンガ団を裏切ったらお前と言えど生かしてはおかんぞぉ!」
大声で怒鳴る、その姿を見て足が竦む。だが立ち止まるわけにはいかない。
『どいつだ! 誰に唆されたッ!? シロナか!? それとも餓鬼共か!? 答えろぉ!!』
その姿からは狂気すら感じられる。今までは見たことの無いような形相だ。
『……誰でもない、俺自身で決めたんだ!』
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「なん……だと? どういうことだ? 説明しろっ!」
不意を突かれた。そういう表情をしている。
「確かにきっかけを作ったのはのび太たちだ……だけどな……
人のポケモンを殺したり、目的のために環境や生態系を破壊したり……
俺はそんなこと望んでいない! 昔言ってたよな? 『私は誰もが安心して暮らせる世界を作る』って!
だがな…そんなことをしている時点で、誰もが安心して暮らせる世界なんてできやしないんだ!」
今までシンオウを旅して心の隅に追いやっていた気持ちを吐き出す。
今の俺なら、シロナに言われたあの言葉『今のあなたじゃ私に勝つことなんてできない』の意味が分かるかもしれない。
「それが旅をして出たお前の結論か……どこで道を踏み違えた?
ここまで完璧だった、なぜだ……なぜだぁああぁあぁぁああぁああ!!?」
頭を抱え発狂したように叫ぶ。もう迷わない。
『今ここに宣言する……俺はギンガ団を退団する!!』
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『今ここに宣言する……俺はギンガ団を退団する!!』
言ってしまった。だが後悔はしていない。
これは俺が選択した道だ。その道を最後まで突き進む。
「くくく……封印を解くまえに一つやらねばならないことがあるようだな
裏切り者の粛清……この場で貴様を抹殺してやるっ!」
ついに来る。俺はモンスターボールを構えた。
「なにか勘違いしてるようだな…私はポケモンを使って貴様を抹殺などしない
これで貴様の仲間諸共消し飛ばしてくれるわ!」
いつの間にか、その右手にはスイッチの様な物が握られていた。
思わず背筋が凍る。まさか―――!?
『死ねェェェェェェーーーーー』
スイッチを押す。すると巨大な爆音と同時に地面が振動する。
反射的に下を向く。
「な…なんてことを……」
「万が一のために爆弾をセットしておいたが、こんなに上手く使用できるとはな……
このまま山諸共崩れ去るがいいわ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ」
父さんはドンカラスを出し、この場から飛び去っていった。
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「くそっ……」
元来た道を戻り全力疾走する。辺りには瓦礫や岩が散乱している。
走る、走る。体が悲鳴を上げているがそれどころではない。
このままでは死んでしまう……皆が!
前にはまた障害物、それは炎に包まれている。
それをグレイシアが氷結させ、破壊する。
もう何度同じ行動を繰り返しただろうか―?
一向に辿り着かない。自分がどれだけ長い道のりを走ったか改めて感じさせられる。
ついに体力が限界となり、地面に片足立てて座り込んでしまった。
『くそぉ! 俺たちをここから出しやがれ!』
これはジャイアンの声? 割と近くから聞こえた。
痛む足を立て、三度全力疾走をする。
すると、すぐにのび太たちと別れた場所が視界に入ってきた。
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「ハァ…ハァ…大丈夫か!?」
のび太達の前に姿を見せる。そこにはもうギンガ団三幹部は居なかった。
「とりあえずはな……だがかなりヤバい事態だ」
そう言われ、入り口にある大量の岩に目をやる。
そう、この空間は大量の岩に塞がれ、脱出することができなくなっているのだ。
「下手に崩すとその空間自体が崩壊するかもしれない、だから……」
思わず目を逸らす、こんな時にも俺は役に立てないのか……?
「おい…『あの作戦』は成功したか?」
スネオが俺の前に現れる。
「あぁ…お前のカクレオンのおかげだよ、二つの宝玉を奪えた」
リュックの中から二つの宝玉を取り出し、皆に見せる。
先ほど対峙しているときに、景色に溶け込んだカクレオンを父さんに近づかせ
『泥棒』を使い宝玉を奪わせていたのだ。
「これで奴らの野望はなんとか阻止できたな、だがここから脱出できなきゃ僕達も……」
ここは時期に崩壊するだろう。長居することはできない。
「そういえばギンガ団の幹部たちは?」
「爆発があった直後、フーディンのテレポートで脱出してったぜ…」
テレポートか……最初からそれが使えたら苦労しないんだが
テレポートが使えるポケモンは、誰も持ってないんだよな。
頭を抱えようとすると、ジャイアンがぼそっと呟く。
「なぁ……そこの岩を破壊してくれないか?」
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「なぁジャイアン、破壊したら……分かってるのか?」
静かに…ゆっくりと発言する。
「分かってるさ、だがここを突破しなけりゃ何も出来ない
どっちみち時間がくればここは崩壊しちまうんだ」
……確かにそうだ。今も微弱な揺れと音が俺たちを襲っている。
「誰かの助けを待つなんて甘いことは言ってられねぇ……俺たち自身でここを脱出しよう
だが俺たちのポケモンは幹部との戦いで敗れたり、火を消したりして
皆もう動けねぇんだ……死ぬのを待つくらいなら先に進んだ方がマシだ
それに誰もお前を恨んだりなんかしねぇ……だから頼む!」
ジャイアンが頭を下げる。それもさっきまで敵だった人間に。
「……分かった、行け、ルカリオ、ラグラージ!」
俺のポケモンの中でも、とくに攻撃力の高い二体を選択する。
「あの岩を破壊するんだ、ルカリオは波動弾、ラグラージは冷凍パンチ!」
俺の指示を受けた二体は岩に攻撃を仕掛ける。
揺れがどんどんと激しくなっていき、恐怖心を煽られるが、もうやるしかない。
「二体を援護しろ! クロバット、ロトム、グレイシア!」
俺は全てのポケモンを出し、岩を攻撃させる。
岩は段々と崩れていくが、最後の一撃が足りない。
「くそっ……もう駄目なのか……?」
下を向こうとすると、俺の肩に触れる者が一人……いや一匹。
「エムリット……? 俺たちを助けてくれるのか?」
返事は出さないものの、既に攻撃態勢は整えたという表情をしていた。
「じゃあ頼むぞ……エムリット、岩を破壊してくれ!」
俺の指示を聞いたエムリットが念力波を繰り出す。それで岩は完全に崩壊した。
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「やった……ついに崩れた」
目の前にポッカリ開いた穴を見る。
「皆ありがとう……ボールに戻ってくれ」
五体のポケモンはそれぞれボールに戻っていく。後はひたすら降りるだけだ。
「やったね、ナナシ君! 君なら出来ると思ったよ」
「あ…ありがとう」
顔がにやける。皆の役に立てたのが嬉しい。
「よし、さっさと降りるぞ! もう時間が無ぇ!」
ジャイアンの一喝で現実に戻る。
「ああ分かった、早く―――」
エムリットが青い顔をしている。なんでだ? 岩は破壊したのに……
『うわぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁあぁぁあああ!!』
のび太の悲鳴で天上を見上げる。
そこには、轟音と共に俺たちを襲おうとする大量の岩があった―――
ナナシ
ルカリオLv52、クロバットLv49、ロトムLv47、
ラグラージLv50、グレイシアLv48
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