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3.回想 - (2007/08/14 (火) 10:39:10) の1つ前との変更点

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> Dear ミズキさま  中一の時が一番楽しかったのは、本当に信頼できる仲間ができたから。  その人たちと一緒にいるときだけ、私は自分をさらけ出すことができた。  私はいつも引っ付き虫のようにその人の後を着いていっていた。  でも決して不安はぬぐいきれなかった。    あの人たちは私が必要じゃないんじゃないかって。    だってそうでしょ?  「可哀想だから仲間に入れてあげる」っていうのが一番嫌だった。  対等になりたかった。一人の人間、個人として。  中二になってもまだ追っかけてたんだ。懲りもせずに。    私は欲深いから、その人を他人に取られたくなかった。  いつも笑っていて欲しかった。    本当の『私』を認めてくれた人だったから。  でも結果、苦しめることになっちゃった。    ただそれだけ。    それだけの理由で私は中学卒業したらひょいっと他の学校へ転校した。    私は逃げたんだ。  でも私はこれでいいと思っている。    人は忘れることができるから。  あの人は私の事なんか忘れて、きっとあの笑顔を取り戻すだろう。    え?その子がどうなったって?  その子、その後自殺しようとしたんだ。    かろうじて命だけは助かったけど。  そんなに私の事が嫌いだったんだね。  そうだよね。得体の知れないこんな醜いものと一緒にいたくないよね。  それは当たり前のことだよ。    だって私は『捨てられて当たり前のモノ』なんだから。  ようするに使い捨て。  使えるまで使って、後はポイッてお手軽に。  ね?当たり前のことでしょ。  ああ、高校生ライフはもうそんなことなくなったけど。  人と付き合わないようにしたんだ。  だって絶対不幸にしちゃうから。  ね?当たり前のことでしょ?  友達はいるけど、その友達は表面の『私』とお友達なの。  すぐに離れられるようにしてるんだ。  醜い『私』を知ったらどうせその子は自然と離れていくだろうけど。  ねぇミズキ、ミズキは私の友達?  そうなら私の事はとっとと忘れた方がいいよ。  だってミズキまで不幸にしちゃうもん。  どうせ私は醜いから。  ----  自分の心にある醜く穢れたモノを、蝋燭がひとつだけ灯っている薄暗い部屋でただとつとつと吐き出す。  文章の構成なんて何も考えない。ただ書き出す。知らぬ間に万年筆は動き、知らぬ間に可愛らしい朝霧色の便箋が汚いミミズみたいな字でいっぱいになる。私はそれを目をそむけるようにしながら、こちらも可愛らしい 封筒にそっといれる。そしてそれをいつものように引き出しにしまいこむ。  しばらく椅子の上でぼーっとしていると、小さなささやきが聞こえる。もちろん部屋には私一人しかいない。いるはずもない。この音は風に吹かれてこの古びれた洋館がギシギシと音を立てる音だ。長年ここに居座っているならず者にでも、そのくらいのことは分かる。私はそろそろだと思って時計の部屋へ向かう。  チク  タク  チクタク  チクタクチクタク  チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタ  ク     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  大勢の時計たちがいっせいに出迎えてくれる。規則正しくそろった複数の時計の秒針の針の音は、とても不気味で、でも美しくて、私を『現実』へ引き戻す。こうでもしないと『過去』に生きている私にとっては『現実』の世界に身体が耐えられない。  ぺたぺたとはだしの足でそのまま時計の部屋のすぐ隣の螺旋階段を下りていく。一段一段踏みしめるごとに『現実』の今、という時間が身体に巻きつく。『仮の私』の仮面を被せていく。『過去』に生きている私の青白い顔に紅をさし、頬の筋肉を緩め、愛想笑いの顔を形作る。  ずっと長い螺旋階段をくるくると回りながら下りていくと、『現在と過去の狭間』にでる。要はただの洞窟なのだが。そこで私は『過去』の死者の身体を脱ぎ捨て、『殻』を被って『現在』へいくための準備をする。現在』の扉は、古い倉庫の地下トンネルだ。  
> Dear ミズキさま  中一の時が一番楽しかったのは、本当に信頼できる仲間ができたから。  その人たちと一緒にいるときだけ、私は自分をさらけ出すことができた。  私はいつも引っ付き虫のようにその人の後を着いていっていた。  でも決して不安はぬぐいきれなかった。    あの人たちは私が必要じゃないんじゃないかって。    だってそうでしょ?  「可哀想だから仲間に入れてあげる」っていうのが一番嫌だった。  対等になりたかった。一人の人間、個人として。  中二になってもまだ追っかけてたんだ。懲りもせずに。    私は欲深いから、その人を他人に取られたくなかった。  いつも笑っていて欲しかった。    本当の『私』を認めてくれた人だったから。  でも結果、苦しめることになっちゃった。    ただそれだけ。    それだけの理由で私は中学卒業したらひょいっと他の学校へ転校した。    私は逃げたんだ。  でも私はこれでいいと思っている。    人は忘れることができるから。  あの人は私の事なんか忘れて、きっとあの笑顔を取り戻すだろう。    え?その子がどうなったって?  その子、その後自殺しようとしたんだ。    かろうじて命だけは助かったけど。  そんなに私の事が嫌いだったんだね。  そうだよね。得体の知れないこんな醜いものと一緒にいたくないよね。  それは当たり前のことだよ。    だって私は『捨てられて当たり前のモノ』なんだから。  ようするに使い捨て。  使えるまで使って、後はポイッてお手軽に。  ね?当たり前のことでしょ。  ああ、高校生ライフはもうそんなことなくなったけど。  人と付き合わないようにしたんだ。  だって絶対不幸にしちゃうから。  ね?当たり前のことでしょ?  友達はいるけど、その友達は表面の『私』とお友達なの。  すぐに離れられるようにしてるんだ。  醜い『私』を知ったらどうせその子は自然と離れていくだろうけど。  ねぇミズキ、ミズキは私の友達?  そうなら私の事はとっとと忘れた方がいいよ。  だってミズキまで不幸にしちゃうもん。  どうせ私は醜いから。  ----  自分の心にある醜く穢れたモノを、蝋燭がひとつだけ灯っている薄暗い部屋でただとつとつと吐き出す。  文章の構成なんて何も考えない。ただ書き出す。知らぬ間に万年筆は動き、知らぬ間に可愛らしい朝霧色の便箋が汚いミミズみたいな字でいっぱいになる。私はそれを目をそむけるようにしながら、こちらも可愛らしい 封筒にそっといれる。そしてそれをいつものように引き出しにしまいこむ。  しばらく椅子の上でぼーっとしていると、小さなささやきが聞こえる。もちろん部屋には私一人しかいない。いるはずもない。この音は風に吹かれてこの古びれた洋館がギシギシと音を立てる音だ。長年ここに居座っているならず者にでも、そのくらいのことは分かる。私はそろそろだと思って時計の部屋へ向かう。  チク  タク  チクタク  チクタクチクタク  チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・  大勢の時計たちがいっせいに出迎えてくれる。規則正しくそろった複数の時計の秒針の針の音は、とても不気味で、でも美しくて、私を『現実』へ引き戻す。こうでもしないと『過去』に生きている私にとっては『現実』の世界に身体が耐えられない。  ぺたぺたとはだしの足でそのまま時計の部屋のすぐ隣の螺旋階段を下りていく。一段一段踏みしめるごとに『現実』の今、という時間が身体に巻きつく。『仮の私』の仮面を被せていく。『過去』に生きている私の青白い顔に紅をさし、頬の筋肉を緩め、愛想笑いの顔を形作る。  ずっと長い螺旋階段をくるくると回りながら下りていくと、『現在と過去の狭間』にでる。要はただの洞窟なのだが。そこで私は『過去』の死者の身体を脱ぎ捨て、『殻』を被って『現在』へいくための準備をする。現在』の扉は、古い倉庫の地下トンネルだ。こうして私は完璧な人間の姿に擬態して地上へと登りあがるのだ。  比喩にして語るととても分かりづらいが、実際こんなもんだ。簡単に言うと、小さい頃見つけた倉庫の地下トンネルをくぐって洞窟に入り、奥へと進んでいくと古い洋館のワイン貯蔵庫にたどり着くということ。そしてそこに私は依存しているということ。そこで私がミズキが来るのを待っているということ。  私が祖母の家の『完璧さ』に耐えられなくなっていた頃、ついにとどめの一撃が下された。  私が夏の夜寝付けず、外にでも涼みに行こうと長い長い廊下を歩いていると祖母の声が聞こえてきた。 「・・・あんなどこの馬の骨か分からない男の血が混じった出来損ないの子なんて山の肥やしにしてしまいたいわ。」  どうやら祖母は酔っているらしかった。 「肝心の男はどっかへ行っちまうし。何ですみれも堕ろさなかったのかねぇ。とっとと成人して追い出してやりたいよ。」  もうこれ以上聞きたくなかった。  長い廊下を出来るだけ足音を立てずに走り抜けると、縁側から裸足で外に飛び出す。  走って 走って  小さな建物に駆け込んだ。  たどり着いたそこは倉庫のようだった。  古い巻物や掛け軸などが淡々と積まれ、なんだか古臭い匂いがした。  でもあの空気がぴんと張り詰めた家に戻るのは嫌だった。  と、いきなり足元が崩れ落ちた。  そして、床板が一回転したかと思うと、小さなはしごが現れた。  もうどうでも良かった。  ここが地獄の入り口だろうと何だろうと、私は入っただろう。  はしごは意外と長かった。  やっと最下階へつくと、裸足の足にひんやりとした感触を憶えた。  ぺたぺたと進んで、ぐるぐると螺旋階段をのぼって、  いつの間にか無意識のうちに洋館に辿りついていた。  

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